僕は先週応募した求人の返答を待っていた。
とうぅるる。
電話がきた。
「はい。もしもし」
……
内容は無事に採用が決まったとのこと。
1週間だけの仕事。
それも嘘かと思うぐらいの報酬。
1週間その仕事をするだけで400万円。
でも、条件があった。
独身。未婚で、
自身の子供や配偶者はないこと。
両親はすでに他界していること。
犯罪歴なし。
借金やローンなし。
作業中に事故で死ぬことも考えられるとのことだ。
それと、痩せすぎず適度に脂肪がついていることだ。
とりあえず応募した。
条件に当てはまるし、お金がほしかった。
次の日。
とある場所で面談を受けることになった。
その場所へ向かった。
部屋に入り、説明を受けた。
「これから内容を説明するから。
聞いてほしい。
やってもらうことはモニターだ。
違法なことではないから安心してくれたまえ」
「で。でも、それだけ?
本当に?
それであの報酬なの?」
「そうだ。
その理由は。それだけ支払っても、今後、採算がとれること。
それに、きみに危険が伴うこと。
危険の手当だと思ってくれ」
「たしかに、危険だというのは事前に説明を受けました。
けれども、みんな死んでしまうぐらい危険であれば、
辞退したほうがいいのではと思うのですが…」
と聞いてみた。
「いや。今まで死亡例はない。
今まで10人ほど、雇っているがみんな五体満足で無事に仕事を終えている。
けれども100%安全ではないことは確かだ。
どうするかね。
辞退することも可能なんだが代わりの人はいっぱいいるからね。
でも、この仕事は一度かぎりだ。
辞退する、しないに関係なくだ」
うーん。
考えた。
1週間で400万円か。
無駄に使わなければ1年は遊んで暮らせるだろう。
「じゃ引き受けるよ」
「そうか。ありがとう。
君のモニターも役に立つだろう。
じゃここにサインを」
サインした。
「これから1週間はここの施設で寝泊まりしながら、
モニターをしてもらう。
内容は2つ。
君の体に圧力をかけて部分マッサージするもの。
もうひとつはある薬品を使って、踏まれても大丈夫かどうかをテストしてもらう。
君が気絶するまで圧力を加えることもあるだろうし、
薬品に副作用がないかも確認してもらう。
金額だがマッサージは50万円、薬品のほうは350万円。
薬品の影響で副作用があった場合は一年につき1000万円ずつ、君が死ぬまで支払われる。
今のところ副作用はないことを確認している」
「そ。そうですか」
気絶するまで圧力をかけられたりするのはいいとして、薬品のほうはすごく気になる。
「ところで、圧力をかけてマッサージというのはどういうことをするのでしょう。
それと、薬品のほうがすごく気になるのですが…」
「君は巨大な女の子が地球人を足踏みマッサージするお店のこと知っているかね」
「ああ。知っています。以前体験しました」
「そうか。なら話が早い。われわれも同じような商売を考えているんだ。
でもマッサージではなくて、ダイエット目的の加圧マッサージだ。
空気でできたバルーンのようなものに人が入って、その上に巨大な女の子が座り重さをかける。
空気により均等に圧力をかけるというものだが、50トンから400トンぐらいの女の子が上に座るからかなりの圧力になるはずだ。
もう1つは、成人向けなのだが、巨大な女の子に踏まれたいとか押しつぶされたいという欲望から、
安全にそういう体験ができる方法がないかという掲示板の書き込みから考えたものだ。
リサーチの結果、年商数十億の期待ができることがわかったから開発することにした。
君は手でぎゅっとされたり、足で踏まれたり、お尻や胸の下敷きになりたいと思ったことはないかね」
「まあ、そりゃ胸の下敷きになったりとかは考えたことありますけど…」
「そうだろう。人はそういった体験をすると、リピーターになるらしい。
しかもある程度の金額を支払ってくれる。
でも実際は地球人相手でないと危険だ。
巨大な女の子にしてもらうのを頼んだら、最低でも数トンの力で潰されてしまうだろう。
われわれはある異星のテクノロジーを使って、体の構造をやわらかく、ゴムみたいに変化させる方法を開発した。
効き目は1日だが、戦車に踏まれてもなんともない体になる。東京タワーから飛び降りてもなんともない。
これを使って、巨大な女の子に押しつぶされる体験をしてもらう」
「そうなんだ。でも本当に問題ない?
元に戻らなくなったり、薬品を使った瞬間に死んだり」
「安全だ。成分分析をした。危険性はない」
人体実験か。
違法じゃないか?
そう思った。
「今ならやめることも可能だが、どうするかね?」
「本当に安全ならやります。けれども安全でないならやめます」
「なら問題ない。それじゃ心の準備ができたら2番の部屋へ来るように」
と男の人は言って出て行ってしまった。
ふう。
覚悟をきめるか。
サインもしてしまったし。
もしなんかあったら訴えればいいし。
僕は着替えた。
病院の患者が着るような服。
「これからやってもらうことを説明するわね。
今日は検査のみ。
あなたの体のデータをとるの。
本格的なモニターは明日からね。
食事は午後1:00と16:30の2回のみ。
以後、食事はいっさい禁止ね。
夜8時までは軽く飲み物をとってもいいわ」
「えーそうなの?」
僕は文句を言った。
「ごめんなさいね。
モニターは基本的に午前中にするの。
午後からは検査。
食事制限しているのは、あなたの体に圧力をかけるからなの。
ものすごい圧力をかけると、出ちゃうのよね。
その。
なんていうの。
あなたのお尻から、腸の中のものが…」
「げっ。それ本当?」
でるって。
そんな圧力をかけられたら死ぬんじゃないか?
僕はじっとにらんでみた。
「大丈夫よ。そんな圧力をかけられても、
体全体からかかる圧力には以外に強いのよ。
体が潰れることはめったにないし」
「めったに?」
「あはは。全然」
笑ってごまかしたみたいだ。
信用ならない。
その後は検査だった。
「身長、体重や、体の各部位の太さと脂肪の量。そのほか血圧やいろいろなデータを取るわね」
「はい」
かなり細かいデータを計測される。
二の腕や太もも、おなかまわりの太さもだ。
「意外ね。その身長で体重が64kgもあるの?
それに太ももの贅肉が多いわね。太さも54cmあるし。太いわね」
「なんだよ。生まれは北国だからそれなりに脂肪はつくよ」
「まあ。でも体重や、腕や太もも、おなかの脂肪は、モニターが終われば減るけどね」
「えっそうなの?」
「いちおう。ダイエット目的の加圧なんだから効果はあるわよ」
「そうなんだ」
以後も検査は続く。ほぼ一日かかった。
「健康状態は問題ないわね。じゃ明日からよろしくね」
はあ。つかれた。
その後は食事。
量は少ない。
けれども満腹になった。
ちゃんと考えられている。
これなら明日までもつか。
僕は眠りについた。
夜の23:00に消灯。
もっと早いかと思ったが、あまり早いと眠れないのでそうなっているとのこと。
……
朝7:00に起床した。というか放送で起こされた。
食事はなし。
栄養のあるドリンクコップ一杯だけだ。
それと、腸の中の物を出すために薬を渡される。
これですっきりしてこいと。
まあ、加圧されて、お尻から中身が出てしまうよりはいい。
加圧するのは女の子だし。
みられたくもない。
9:00。
モニターが始まった。
体にぴったりする服を着るように言われる。
いろいろなセンサーが内蔵されているようだ。
頭にもいろいろつけられる。
けれども、線は出ていない。
「ねえ。これは何をするの?」
「脳波を観測するの。それと、あなたが着ている服には、
体温、汗の量、体にかかる圧力を計測する機能があるの。
そのデータを元に、加圧マッサージに最適なデータが何かを割り出すのよ」
「そうなんだ。気になるんだけど、体にかける圧力ってどのぐらいになるの?」
「うーんそうねえ。
じゃ、待っていてね、女の子を呼んでくるから」
と、無線で呼び出す。
「あ。言ってなかったけど、今日は初日だから、一番きついデータをとるわね。
身長が20倍大きい子に乗ってもらって最大の圧力をかけてもらうから。
だから今日は気絶するまでの加圧になるからよろしくね」
「げっ」
初日からかよ。
と思っていると。
「ハロー。こんにちわ」
と入り口から女の子が入ってくる。
あれ出入り口だったんだ。
大きすぎてわからなかった。
てっきり壁の模様かと思った。
扉の幅はやっぱり20倍はありそうだ。
上は見えない。何十メートルも上だ。
で、部屋に入ってきた女の子はすごく大きい。
20倍といっても圧倒される。
身長は30メートル超えているはず。
「あたしはリカ、よろしく」
「こ。こんにちわ」
やっと返事をする。
「これから説明するね。
あなたの後ろにあるのはバルーン。
この中に入って、上からあたしが乗るの。
そうすると、バルーンはあたしの重さによって、
圧迫されて、中の空気がぎゅっと押しつぶされる。
中に入っているあなたは、圧縮された空気によって、
自身の体が圧迫されて、加圧マッサージ効果が期待できるわけ。
でも、体全体が圧迫されるだけならマッサージ効果はないから、体の一部に加圧がかからないように機械で調整するの。
ここまではわかる?」
「え、う。うん」
「でね。今日は初日だよね。
初日は最大の力で加圧するわね。
内出血するかもしれないし、
間違いなく気絶するわね。
でも怪我はしないように調整してもらえるから安心して。
でも、スタッフのミスがあると、お陀仏になる可能性もあるから心構えしておいてね」
「げっ」
「あははっ。大丈夫よ。スタッフ2名がかりでチェックするからね。
じゃ、始める前に注意事項。
だまってあたしの足下に近づかないこと。
あたしが踏んじゃう危険性があるから、
この体格差だと、あなたの体の上に足を乗せても気がつかないから、そのまま踏んじゃうと思うの。
実感してもらうために、これを見てほしいんだけど」
と言って女の子はスタッフに鉄球みたいなものを用意してもらう。
「これは直径1メートルぐらいの鉄でできた玉。
鉄の厚さは3センチぐらいあるかな。
で、これをあたしが踏んでみるわけ。
どうなると思う?」
直径1メートルの鉄の玉。
彼女の足と比べたら小さく見える。
けれども鉄。
鉄の厚さは3センチ。とっても硬いはず。
「うーん。鉄でしょう?
君でっかいけど、鉄球は潰れないんじゃない?」
「ぶぶー。はずれ。
こんなの簡単につぶせちゃうよ。
ほら」
と言ってから鉄の玉を踏む巨大な女の子。
ぎゅう。
鉄の玉に足を乗せると簡単に床に足の裏全体がついてしまう。
そして足をどけると、鉄は裂けて、ぐにゃっと変形して、
ほぼ平らになるまで潰れている。
「げっ。こ。こうなっちゃうの?」
きれいにぺったんこだ。
「こんなの潰すぐらい簡単。
あたしは、地球人の女の子換算で8000人ぐらいの重さあるから」
「8000人!」
すごそう。
想像はできないけど。
彼女を見上げた。
じっと見た。
「なによ。じっと見て、
あたしの体見て、デブとか考えている?」
「いや。ぜんぜん。太ってないよ。
痩せているわけじゃないけど。普通体型かな」
「そうね。おなかも出ていないし、足も太くない。
これでも1週間前と比べると8トン減ったし」
「そんなに減るの?」
「油断して食べ過ぎると、すぐに15トンは増えちゃうけど」
全然違う。
ちょっと食べ飲みするだけでトン単位で増えるのかな。
僕なんか、簡単に丸飲みできるだろうと思った。
でも全然、はらのたしにならないか。
「じゃ始めるわね。
記録は自動でサーバーへ送られるから、
あなたはなにもしなくていいわ。
じゃ、あそこのバルーンの中に入って、
首だけ外に出してくれる」
「どこから入るの?」
「ああ。言っていなかったわね」
とスタッフの人が案内してくれる。
入り口は横の壁にあった。
そして下へ階段が続いている。
どうやらバルーンの中へは下から出入りするようだ。
僕は階段を降りてから急な坂を上る。
そしてハッチを上げてバルーンの中に入る。
「入ったら、ハッチを締めてね」
丸いハッチは頑丈。
厚さ10センチはある。
そのハッチの上には、1メートルぐらいの大きさの
別のハッチがある。
これも頑丈そうだ。
「すごいなあ。このハッチ」
「2重になってるの」
「ねえ。この中に人が入って大丈夫なの?
僕をだましてない?
圧力をかけ始めたら、トマトのようにぺちゃっと潰れたりしない?」
「しない。しない。大丈夫よ。
ちゃんと人形で実験済み。
バルーンの床面積を最小まで小さくすると、あたしが全体重をかけた時点でぎゅうと潰れちゃうけど、この環境なら大丈夫」
「ねえ。バルーン。破裂しない?」
「まあ失礼ね。あたし3人乗っても破裂しない強度あるから」
「ねえ。えーと」
「もうだめ。時間がないから。
スタッフの人もチェックをみんな終えて、待っているし」
「う。うん」
バルーンから上を見上げる。
バルーンの高さは10メートル以上あるだろう。
彼女の太ももぐらいの高さまである。
「最初は、あたしが両手でぎゅっと押すから。
そのままでいてね」
それならたいしたことないか。
彼女がバルーンを両手でぎゅうぎゅう押す。
とっても巨大な手のひらでバルーンを押す。
このアングルだと彼女の胸を真下から見ることになる。
たゆんたゆんゆれる彼女の胸。
ぐあ。
胸結構、ゆれるなあと思った。
胸に気がとられたけど体が押されるのを感じた。
足と腕、おなかがぎゅっと押される。
胸はなんともない。
息もできる。
無線で次の作業が伝えられる。
「今は胸に圧力がかからないようにしているけど、
今度は逆ね。胸にだけ圧力がかかるようにするから、
苦しくなるわよ」
かちっ。
手元の機械のランプの色が変化する。
ぐっ。
苦しくなった。
息をするのに力がいる。
足や腕やおなかにかかる圧力はなくなったようだ。
彼女はバルーンを押したり、はなしたりする。
ぎゅうぎゅう。
彼女が押すと苦しい。
「ね。ねえ。バルーンを押すとき力入れてる?」
「いや。あまり。
軽く押しているだけ。
でもバルーンには結構力がかかっているはず。
トン単位で」
ふ。ふーん。
そうなんだ。
「今度はもうちょっと力をかけるわね。今の10倍ぐらいかな」
また、足、腕、おなかだけに圧力がかかるように調整される。
「じゃ押すね」
ぎゅう。
えっ。
ちょっと。
なんで。
結構来る。
足、腕、おなかがぎゅっと圧迫されて痛い。
彼女が勢いをつけて押すと、胸もゆれる。
胸が下に揺れたときに、胸の分の重さもバルーンにかかっているんだろうなと思った。
ぎゅうぎゅう。
バルーンをさらに押す。
「いたたた。苦しい」
「こんなもんかな。あたしは軽く押しているだけなんだけど。結構苦しいでしょう」
「う。うん」
以外に苦しい。
胸に切り替わる。
ぐはっ。
息を吐き出したあとは吸えない。
「もうちょっとがんばってね。
データを取っている最中だから」
がんばって呼吸する。
はあはあ。
はあはあ。
苦しい。
結構大変。
「はい。終わり。3分後また始めるから。
そのままでいてね」
はあはあ。
苦しい。
これできちんとモニターになっているのかと思う。
「ねえ。苦しかった?
でも、こんなもので苦しがっていちゃだめよ。
これから本番なんだから。もっと圧力をかけるからね」
「もっと?」
「限界値を知るための試験でもあるんだから」
「そうか」
しょうがない。
報酬も高いし。
がんばるか。
……
「じゃ再開するわね。
今度は彼女にバルーンの上に座ってもらうから。
あと、バルーンはリカの重さで空気が縮むから、
びっくりしないでね」
とスタッフの人に言われる。
「一番圧力がかからない設定で始めるから」
とスタッフの人が機械を調整する。
リカが目の前に立つ。
真上には彼女の足とその上にある巨大なお尻が見える。
ごくり。
「じゃ開始」
彼女がゆっくりバルーンの上に座る。
ぎゅう。
ぎゅう。
バルーンがぎゅうぎゅう言う。
げっ。
なんだこれ。
「苦しい。
あっ。ちょっとタンマ。
バルーンが潰れすぎ」
「大丈夫。大丈夫。
あたしが座ったから、中の空気が縮んだだけ。
もっと重さをかけるからね。
いちいち騒がないでよ」
「ち。ち。ちょっと」
思わず声を出してしまう。
だって。
彼女が重さをかけるに従って、
バルーンは縮み、彼女のお尻が近くなってくる。
ぎゅうぎゅう。
もう、最初の1/3ぐらい。
ぎゅう。
バルーンが彼女の重さでさらに縮む。
「あっあっあ」
彼女のお尻は、もう目の前にあるように感じる。
「つ。潰れる」
「大丈夫だって。今バルーンは3.8メートルぐらいの高さ。
あたしのお尻が大きいから近くに見えるだけだって。
ほら。もうちょっと圧力をかけるから」
げっ。まだ。
かなり限界。
体のいろいろな部分へ順番に圧力がかかる。
食事制限がかかるのも今ならわかる。
おなかが押されると、中が出そうだ。
ぎゅう。
さらにお尻が近づく。
もう限界。
「だめ?」
彼女が体を動かす。
ぎゅうぎゅう。
バルーンごしに彼女のとっても大きなお尻が見える。
ものすごく大きなお尻。
地求人の女の子の20倍はある大きなお尻。
それに苦しい。
圧迫された部分が痛い。
「はい。もういいわ」
スタッフの人が言う。
「わかったわ。あたしはゆっくり立ち上がるからね」
と徐々に遠ざかる彼女のお尻。
だんだん圧力が下がる。
やっと終わった。
「じゃまた、10分後に再開」
「げっ。まだ?」
「まだよ。さらにあと2回今のを繰り返すの。
今度は圧力が倍。
最後は限界までやるのよ」
うへ。
バルーンの中でぐたっとなる。
……
「はい。始めるわよ。
今回からこれをつけてね」
と言われる。
なにこれ?
僕はスタッフの人をじっとにらむ。
「これは、あなたの呼吸をサポートするもの。
ちょっと我慢して飲み込んでね」
「げ、んんん」
強制的に飲み込ませられる。
「息が自力ではできなくなるぐらいの圧力をかけるから、
これで息ができるようになるの。
無理に呼吸をしなくても大丈夫だから、空気が適切に送られるから。
あと、この後しゃべることができないからね」
「むーむ」
「無理だって、何かあったら、
そのパッドでボタンを押してね。
"まだ大丈夫"、"苦しい"、"もう限界"、"絶対だめ、どこか折れたかも"
があるから」
なんだよその選択。
「じゃ始めるよ」
僕は足側の壁を見る。
なんか壁の距離がさっきより近い。
床を見ると何か書いてある。
×2
×4
×6
W
D
ドクロマーク
なんだろう。
壁の距離が圧力に影響するのか。
今は×2。
また。さっきと同じようにバルーンの上に彼女が座る。
ぎゅうぎゅう。
ぐっ。もう苦しい。
彼女のお尻は結構遠いところにあるのに。
さらにぎゅうぎゅうとバルーンがいう。
だんだんお尻が落ちてきた。
そしてさっき、苦しかったぐらいの圧力になる。
……
ぎゅうぎゅう。
さらに苦しくなる。
ぎゅうぎゅう。
ぐは。
苦しい。
もう自力で呼吸はできない。
それに足や腕がしびれてきた。
苦しいのボタンを押す。
スタッフの人が見る。
「まだ大丈夫ね。もうちょっと重さをかけて」
お、おい。
ぎゅうぎゅう。
く。苦しい。
さらに圧迫され、彼女のお尻はさらに近くなる。
ぎゅうぎゅう。
お尻まで3メートルぐらい。
ものすごくでっかいお尻。
押しつぶされるんじゃないかという恐怖と圧力による苦しさ。
もう限界。
限界ボタンをぽちぽちと押す。
苦しい。
ぜったい苦しい。
これ以上はだめ。
リカは体の姿勢をかえるために動いた。
彼女のお尻が左右に動く。
ぎゅうぎゅう。
バルーンは限界まで押しつぶされているようだ。
これ以上動くと破裂するんじゃないかというぐらい潰れている。
動くなよ。
苦しいのに。
限界ボタンをさらに、ぽちぽちと押す。
「まだ大丈夫ね」
大丈夫じゃないって。
ボタンを押しまくる。
けれど。
ぎゅうぎゅう。
さらにお尻が近づく。
ぐあ。
く。苦しい。
痛い。
だめ。
もうだめ。
ボタンを押す。
「はい。終了。ゆっくりお尻を上げてね」
「わかったわ」
彼女がゆっくり立ち上がる。
はあはあ。
体がしびれている。
痛い。
これで終わり?
「今度は30分休憩ね。
バルーンから出ていいわ」
「はい」
と言おうとしたが声が出ない。
さっきのくわえたままだった。
「ああ。ごめんね。とってあげるから」
「げほっ。げほっ。
あ。あーあ」
やっと声が出せる。
「こ。こんなにつらいと思わなかった。
け。けどひどい。
ボタンを押したのに…」
「ああ。あのボタン。
あたしがあなたの体のデータを見ているから、精神的な限界と、物理的な限界を知るのにあるだけ。
ボタンでは中止しないわよ」
「ぐっ。そうなんだ」
僕は立ち上がったがよろけてしまう。
「つらそうね。スタッフをバルーンの中に入れるから、つれていってあげるわね」
「うん」
ハッチが空き、スタッフの人につれられて外にでる。
あそこで横になっていよう。
「ねえ。
そういえば、床に書いてある印はなに。
ドクロマークとか気になるんだけど」
「ああ。あれ?
あれは圧力調整用の壁の移動位置の印。
今は×2。つまり2倍ね。
Wが注意。Dが危険。どくろマークが物理的な限界点」
「つ、つまり、壁があそこの位置にまで近づいたときに、バルーンの上に女の子が乗ると死ぬってこと?」
「そう。人形で実験した結果。
ドクロマークの位置で人形は潰れちゃった」
ごくり。
「次は何倍?」
聞いた。
「次は6倍。×6のところ。
だいたい、このへんでみんな気絶するから」
「そこまでする必要あるの?」
「うん。あるの。
商売を初めてから、気絶するぐらいの力をかけるとどうなる?
お客さんからクレームがくるわよね。
限界を知る必要があるの。
そして安全値をきめるの」
「僕の安全は気にしなくてもいいの?」
「そりゃ。モニターだもん。
高い報酬をもらうんでしょう?」
「まあ。そりゃそうだけど」
……
30分後。
「じゃ始めるわね。リカも今度は体をささえるためのゴムをつけなくていいから」
ゴム?
「じゃ。今回は全体重をかけていいのね」
「そう」
「ゴムってなに?」
「ああ。さっきは見えなかったのね。
重さが全部バルーンにかからないようにゴムで支えていたの。
今回は6倍にするためにゴムをはずすの」
あれで加減していたのか。
ものすごかったのに。
ぶるぶる。
「さあ。ハッチをくぐって。中に入るのね」
わかった。
僕は覚悟をきめた。
そしてバルーンの中に入る。
床の印を見た。
6倍のところにある。
さっきより、バルーンの中は狭くなっている。
圧力はさっきより強くなるんだろう。
「準備はできた?」
「う。うん」
「今回は最後まで圧力をかけるから。
きっと気がついたらベッドの上ね。
じゃ始めるわね」
「ごめんね。苦しいと思うけど。仕事だから」
とリカは言う。
そして女の子はバルーンに座って、少しずつ体重をかけ始めた。
ぎゅうぎゅう。
みしみし。
ばきばき。
さっきより怖い。
そして急に圧力が高くなる。
ぎゅうぎゅう。
どんどん巨大なお尻が落ちてくる。
ずんずん。
ぎゅうぎゅう。
みしみし。
ぐお。
苦しい。
とっくに息は自力でできなくなっている。
それに手足がしびれてきた。
腕を見た。
色も赤くなってきている。
痛い。
すごく痛い。
圧迫される。
ぎゅうぎゅう。
バルーンはみしみし言う。
バルーンの高さはもう3メートルしかない。
さらにお尻は大きくなってくる。
きっとものすごい重さがかかっているんだろう。
もう限界。
ボタンを連打する。
だめ。
ぽちぽち。
「さらに重さをかけていいわよ。
もう50トンぐらい」
げっ。だめ。もうだめ。
ぎゅうぎゅう。
さらに潰れる。
お尻もさらに大きくなる。
だめ。
もうお尻まで2メートル。
ぎゅうぎゅう。
女の子がお尻を動かす。
ぐえ。
苦しい。
直に乗っていなくても、空気ごしにものすごい重量を感じる。
重さで圧迫された空気が僕の体を押す。
ぐええええ。
もうだめ。
ボタンを押そうとするが腕に力が入らない。
「もうちょっとね。もう少し重さをかけて40トンぐらい」
げっ。まだそんな重さをかけるのかよ。
だめ。
限界。
絶対だめ。
潰れる。
ぎゅううううう。
バルーンがさらに押しつぶされる。
巨大なお尻がさらに近づく。
どんどん圧力は増えていく。
ああ。
もうだめ。
気が持たない。
……
「ああ。気絶しちゃったみたいね。
じゃ。もうちょっとだけ重さをくわえてくれる?」
「まだやるの?」
「かわいそうなんだけど、まだ物理的には大丈夫だし、今のうちに肉体的な限界点のデータをとらないといけないの」
「しょうがないわね」
さらにぎゅうぎゅうと体重をかける女の子。
バルーンにかかっている重量は400トン近い。
バルーンはぎりぎりまで潰れ1.5メートルぐらいまでの高さになる。
「もうちょっとで限界みたい。ちょっとどすんとしてみて」
「えっ。まだやるの?」
しかたなく、ちょっと体を持ち上げて体を落とす女の子。
どすん。
ぎゅうとバルーンが一瞬、1メートルぐらいの高さまで潰れる。
ぴー。
アラームがなった。
「はい。終わり。データがとれた。
まあまあね。
これ以上重さをかけると危険だから終わりね」
「あなたもひどいわね。気絶しているからって、さらに圧力をかけるんだもん」
「これは内緒ね。あと運んでベッドへ寝かせてあげて」
別のスタッフの人に言う。
体は赤くなっている。
ちょっと圧力をかけすぎたかなと彼女は思った。
……
「うーん」
僕は目がさめた。
痛たたた。
全身が痛い。
しびれているような感じ。
ここはどこ?
わからなかったが、バルーンの中ではない。
そうだ。
気絶したのか。
思い出せるのは目の前にせまった巨大なお尻と、ものすごい圧力。
「ごめんね。痛いでしょう?」
「う。うん」
「このおばさん。あなたが気絶している間もデータをとっていたのよ。
気絶した後に、限界のデータをとるのにどすんとしてとか言うんだもん」
「おばさんとは何よ、まだ28よ」
リカの声とスタッフの人の声。
この部屋の隣は広い空間になっているらしく。
僕がいる部屋の床より、さらに下まで空間がある。
そこから、僕のことを心配して巨大な女の子は見ていたようだ。
「ひどいなぁ。
ほら、見てよ。まだ腕が赤いよ」
圧迫されたことで赤くなっている。
明日までには直るのか?
「もうそろそろで4時ね。ごはん食べにいこうよ」
と巨大な女の子は言う。
「そこからベランダに出てくれる?」
と言われる。
いたたた。
まだあちこち痛い。
僕はベランダと思われるところに出る。
けれども外ではなくて建物の中。
「ちょっとごめんねぇ」
と言われ、大きな手によってわしずかみにさせられる。
そして、おなかのところにあるポケットに入れられる。
ずんずんと歩き出す。
ごうごうという風を体に受ける。
走っている車から身を乗り出したみたい。
「まだ、あちこち体が痛いでしょう?」
「うん。まだ痛いよ。ひどいなあ。圧力かけすぎ、
死んだらどうするんだよという感じ」
「まあ。そうね。ちょっとやりすぎ。
でもあたしは実行犯だし、バルーンの上に座っただけなんだけど」
「あんなに苦しいのは初めてだよ。
それに、君のお尻があんな高さまで落ちてくると思わなかった」
「どうだった。あたしのお尻。大きかった?」
「うん。とっても」
「あれが普通だからね。
太っているとか、特別にお尻が大きいとかじゃないんだから」
「わかったよ。大きいとか、太いとか言わない」
「あと、あなたが気絶しているときにどすんとやったら、
バルーンの高さは1メートルぐらいになったんだけど、見たかった?」
「げっ。い、1メートル?
危ないなぁ。ちょっと間違えたらお尻の下敷きになっているところだよ」
あんなでっかいお尻が頭上1メートル。
ものすごかったに違いない。
「ひどい。抗議してやる。
そうだ、あのおばさんも同じ目にあわせてやりたい」
「まあ、そうね。ちょっとやりすぎ。
あたしも間違って潰したくないもん」
あんな巨大なお尻が僕の体の上に乗ったらひとたまりもない。
ぶるぶる。
大きなお尻を思い出した。
「あたし。おなかぺこぺこ。
食事制限されていたから。
今日であなたの担当は終わり。
明日は別の子だから。
食べまくるぞぉ」
「君も食事制限されていたの?」
「あまり増えすぎると、モニターの人を潰しちゃうから」
「そ。そりゃ大事だ。重要だよ」
「あたしにとってちょっと増えただけでも、モニターの人にとっては致命的。だからうるさくて。
でも、この後はしばらく仕事ないし。
やっとデザートも食べることができるし」
「そうか。でも僕はまだモニター期間だから無理」
「がんばってね」
食堂で自分の分の食事を受け取り、女の子と一緒のテーブルにつく。
女の子側の席は、深いところまで床が掘り下げられている。
目線は遙か上だけど、僕は彼女の胸あたりの高さにいる。
そして、食べ物を見た。
山のようだ。
トラックの荷台に山済みされたぐらいの量がある。
それがとっても巨大な皿の上に盛られている。
それだけじゃなくてさらに、いくつかの山。
あっけにとられる。
「もしかして、大食いとか思っている?
これが普通の量よ。でも、昨日までよりちょっと多いけど」
「そ。そうなんだ」
「いただきます」
と言って食べ始める。
一度にすごい量の食物がスプーンによって、すくわれて口の中へ運ばれる。
どんどん皿の上の料理が少なくなっていく。
ショベルカーがすくった量より多い食べ物がいっきになくなっていく。
僕は自分の食べ物を平らげる。
ぺこぺこだったから、以外に早く食べ終わる。
僕が目の前を見ると。
もう皿の上の料理を空にした女の子がこっちを見ている。
「げっもう食べたの?」
「うん。そうだ。デザート頼もう。
ねえちょっと」
と人を呼ぶ。
「これと、これと、これをお願い」
なんか3つぐらい頼んでいる。
……
たぶん体積が8000倍サイズのプリンと、パフェとアイスをぱくぱく食べている女の子。
すごい。
あんなでかさでも崩れないプリンってどうやって作るんだろうと思った。
こっちまで、プリンの冷気が伝わってくるようだ。
でも。あんなに食べたら、絶対トン単位で体重が増えるだろう。
「ねえ。そんなに食べて大丈夫?おなか壊さない?」
「大丈夫よ。これくらい。
もしかして太るとか言う?」
「うん。そんなに食べたら太るよ」
「むー。
太らないもん。あたしはデザートの分のカロリーは胸にいくの」
「そんなことないって、油断しないほうがいいよ」
「たしかにそうだけど、今食べてもすぐに脂肪にはならないわよ。
明日走ればいいのよ」
とぱくぱく食べるリカ。
僕はリカをじっと見ていると
「あなたも食べたい?
スプーン一口ぐらいなら、あげてもいいわよ」
とスプーンを目の前に持ってくる。
でっかい。
巨大な大鍋の蓋よりも大きい。
「うわ。でっか。口に入らないよ」
「あははっ。やっぱり。
大きすぎるわね。
でも、あなたは検査があるからだめね。
終わったら食べてみるといいよ。
地求人サイズのも注文できるし。
でかいのがよければこのぐらいのも注文できるけど」
「普通のでいいよ。いったい何人分あるんだ」
「たぶん地求人換算で10000人分ぐらい?
ちょっと大きめのにしたから」
言葉も出なかった。
という風に食事が終わる。
明日もモニターか、今日が一番きついというし。
それでも、いやだなと思う。