週がかわった。
月曜日。
今日は新薬でのモニター開始。
昨日新薬をもらい、夜に飲んだ。
そして、さっき巨大ペンチで腕をつねられた。
大丈夫だった。
けれども痛かった。
ぐにーんと潰れるまでのタイムラグが長くなったみたいだ。
「ねえ。前回より痛いんだけど」
「ああ。これ?
えーとね。ぐにゅっと潰れる前に感じる痛みもモニターしてほしいの。
今回は強めにしてあるから、場面によっては痛いかも。
でも死ぬほど痛くはないし。きつすぎたら言ってね。
いちおう商売が始まったら、痛みの強さも選んでもらうようにするみたいだし。
これは重要よ。
この新薬のモニターはあなたが初だから」
「危険性はないよね。
大丈夫だよね」
「まあ。大丈夫よ」
「本当?
でも、相手はミミだから心配いらないか」
僕は言った。
ミミだったらやさしいし。
「そうだ。言っていなかったわね。今日はミミじゃないの。
新しく入った子。
ミミの妹さんだって」
「えー。そうなの?
楽しみにしていたのにぃ。
何で断ってくれなかったのさ」
「そんなこと言われてもあたし、困るなぁ。
でも。あのミミの妹さんよ。
ミミよりしっかりしているわ。礼儀正しいし」
「ふーん。そうなんだ」
ミミの妹。
ばいんばいん?
……
僕は部屋に行く。
後姿のでっかい子。
ミミと同じぐらいの背。
「君ね。
あたしの姉をつけねらっている悪いやつってのは」
くるっと後ろを振り向き、じっと見たあとに言う。
「ぐっ。なんだ。君がミミの妹さん?」
むっとしながら言うが言葉には出さない。
「そうよ。あたしはサラ、サラ・レアリ。サラ様と呼ぶことね」
「様はつけないよ。どうみても年下みたいだし」
なんか感じのわるい子。
「ねえ。サラは本当にミミの妹?
信じられないんだけど…」
「うそついてどうするの?
まあ。いいわ。
ところで、内容なんだけど。
先週こんなことをお姉ちゃんと一緒にしたの?」
僕に紙を見せ付けるサラ。
「うん。そうだけど…」
「やっぱりエロエロ星人ね。お姉ちゃんとこんなことするの、今後いっさい禁止ね。
あたしがやってあげる。お姉ちゃんとこんな下僕を一緒にさせておけないわね」
「げ、下僕ってなんだよ。
口悪いなあ。初対面なのに礼儀がなってないぞ。
スタッフの人は礼儀が正しいとか、しっかりしているとか言っていたのに…」
「ああ。あれ?
こんな口調はあんただけ。
他の人には礼儀正しく振舞うの」
「なんで僕にこんな口調なの?」
「そりゃ。あたしのお姉ちゃんにあんなことや、こんなことをしたからよ。
あたしは認めないんだからね。
今週はあたしがあんたの相手をしていじめるから、
来週のミミの番になるころには、ここを追い出してやるつもり」
「ふっ。そうかい。わかった。
こっちは耐えてやる。
来週までミミは来ないのか。
今週我慢すれば、来週はミミと一緒か」
「ふっ。どうかな。
絶対追い出してやるんだから。
こんなやつのどこがいいんだか。お姉ちゃん」
「今。なんか言った?」
「べ、べつに、関係ないわよ。
今のうちに言っておくけど、与えられた仕事はこなすからね。
でも。仕方なくあなたの相手をするんだから気は一切使わないし、
遠慮なく踏み潰すから」
「そうかい」
僕はサラを観察する。
なんとなくミミの面影はある。
けれどもミミのようなやさしさは感じられない。
こっちはつんつんしている。とげとげしい。
つんつんな妹系?
「何じろじろ見ているのよ。
あたしの胸とか見ていたんじゃない?
エロエロ地球人め。
悪かったわね。お姉ちゃんより胸無くて」
「べつに、お前の胸なんか見ないよ」
「なんかその答えむかつく。
まだあたしは成長中なんだから。
あんたに見せる胸はないけど」
べーとするサラ。
「じゃ時間がもったいないから、さっさと終わらせるわね。
なるべく早く終わらせたいし…」
サラは足元を指をさす。
そこへ来いということか。
僕はそこへ歩いていく。
最初はなんだっけ。
サラは急に僕を手でつかむ。
「うわ。急につかむなよ。びっくりするじゃないか」
「いいのよ。びっくりして死んじゃってもあたしは責任とらないからね。
そういえば、今日は新薬と聞いたんだけど。
そ.れ.も。
痛みは前より強くなっているというじゃん。
ふっふっふ」
「なんだよ。その目は」
「あたしとしては、おもいっきり、ぎゅうと握りつぶしたいんだけど。
潰れた後は痛くないみたいね。
だから、ぎりぎり。
潰れるぎりぎりの力でにぎってやるんだ。
苦しませてやる」
「変なこと考えるな。こら」
「ふっふっふ。もう遅い。今あんたはあたしの手の中にあるんだよ。
逃げられないし、あんたの体。今あたしが握っているんだからね」
確かに握られている。
僕は腕を指に当ててもがく。
脱出しようと思った。
ぎゅう。
ぐっ。
だめ。
逃げようともがくと、力が増す。
「じゃ段々力を入れていくからね。容赦しないから。
いくら苦しがっても。涙目になってもだめ」
「おい。こら」
ぎゅう。
「ぐっ。やめろ。普通にやれ。馬鹿サラ。あほサラ。悪魔サラ。
胸なしサラ」
思いつくかぎりの悪口を言う。
「む。胸無し?
むっきー。怒った。
加減なしね。
そらそら」
ぎゅう。
ぎゅうぎゅう。
ぐるじ。
そして痛い。
「痛い。痛い。やめろって。怪力サラ。馬家力で握るなぁ」
「口答えできるということは、まだ力が足りない?
もうちょっと強めるか」
ぎゅう。
いてててて。
痛い。
痛い。
「痛い。痛い。本気で痛いから。
ごめん。許して。悪かった。悪口言わないから。
ねえ」
かなり痛い。
死ぬほど痛くないとスタッフの人は言っていたけど、これは痛い。
もうちょっと強く握られたら、全身がぼきぼきと折れそう。
「だめ。もうちょっと。ぎゅうぎゅうしてやる」
ぎゅう。
ぎゅう。
ぎゅう。
「いてて」
ぎゅうぎゅうぎゅう。
ぐああああ。
痛いって、だめ。
握ったらだめ。
もうだめ。
ぎゅう。
むちゅう。
「あっ。急に潰れちゃった。
このぐらいの力で潰れちゃうんだ。
まあ。謝ったからこのぐらいにしておくか。
潰れちゃった後は痛くないんだよね。
じゃいろいろやっちゃおうかな」
おい。まだやるのかよ。
ぎゅう。
ぎゅう。
むちゅう。
「おもいっきり、力をこめて握ってみるかなぁ」
やめろよ。
僕の心の声。
声は出せない。
「それ」
ぎゅうううううううううう。
むちゅうううううう。
「うわぁ。すごい伸びるよ。
むちゅうって。ゴムみたい。
でも面白い。
こんなに伸びるんだ。
ぐにーん。
ぐにーん」
ぎゅうぎゅう。
人の体で遊ぶなよ。
ぐにぐにするな。
「ぐにーん。
ぐにーん。
もうちょっとぎゅうぎゅう」
むちゅう。
むちゅう。
ぎゅうぎゅう。
もうかなり潰れて、伸びてしまっている僕の体。
ぎゅうぎゅう。
ぎゅうぎゅう。
……
しばらく、にぎにぎされていたが。
「ああ。あたし手が疲れた。
もうやめるか」
ぽいっ。
いきなり手が離れる。
うわぁ。
声は出ないけど、落下。
10メートルぐらい落下して床にたたきつけられる。
べちょ。
薬のおかげで死なない。
衝突の衝撃でちょっと潰れる。
むー。
ひどい。
ものすごくひどい。
落とすなんて。
ものすごく怖かったぞ。
体が元に戻ったら文句を言ってやる。
いや。
ここをやめさせてやる。
上から落としたし。
……
体が元に戻るまで待つ。
あれ?
いない。
どこかへ行った?
あたりを見回しても、意地悪妹怪人はいない。
がちゃ。
サラが入ってきた。
僕と目が合う。
「おい。サラ。ちょっと話が…」
「ふう。すっきりした。トイレまで以外に遠いわね。
さてと…」
こっちの話を聞いていない。
「おい」
言いかけたときだった。
どんどんこっちへ近づいてくるサラの足。
まさか。
このまま踏み潰されるんじゃ?
僕はとっさに床へうつぶせになる。
ぎゅう。
ぐちゅううううううう。
歩いてきて、普通におもいっきり踏まれた。
せっかく元に戻ったのに…
胸は薄っぺらくなっている。
こら。
声は出ない。
「あら。何か変なもの踏んだわね。
良くみたら下僕じゃん。
ごめんね。
あたし。
気がつかなかったわ。
小さいし」
ちっとも謝っている感じじゃない。
僕はにらむ。
「そうだったわね。
ごめんね。
歩いてきて踏むのは次だった」
謝るのはそこじゃない。
まだ潰れているので声は出ない。
「じゃ踏む前に恐怖を感じさせてあげる。
前はミミお姉ちゃんに踏まれたのよね。
お姉ちゃん。胸が大きいし、ちょっとむっちりしているから結構重たいのよね。
あたしのほうが全然軽い。
でも、あんたを踏み潰すには十分。
あんたを踏む前にあたしの踏む力がどれだけ強いか見せてあげる。
そのほうが恐怖が増すでしょ」
むーむー。
もうこっちはすでに踏まれているぞと文句を言いたいけど言えない。
何をするんだろう。
僕の体はまだ戻っていないので動けないし、文句も言えない。
サラは何かを探しているようだ。
どたどた。
どたどた。
手に持ってくる。
どん。
どん。
僕の目の前に置くそれらの品物。
なんだこれ。
首を持ち上げてみる。
「なんだと思う?
土管と、公園に設置してあるシーソー。
アルミ缶をプレス機で押し潰してブロックにしたもの。
それと安物の青竹踏み」
土管は、ドラえもんに出てくる空き地に積み重ねてある土管と同じようなものだ。
アルミ缶のブロックもわかる。
青竹踏みだけ巨大。
それだけ彼女サイズのものだ。
「公園に設置してあるシーソー」
サラはしゃがんで、こんこんと鉄の部分をたたく。
「鉄製で固いみたいね。
でもあたしにとっては飴みたいなものよ。
手でひん曲げることもできるけど、今回は踏むわよ。
シーソーの片方をあたしのかかとで踏んづけて、
もう片方にあたしの足を乗せる。
どうなるかな」
僕は目の前のサラを見る。
体の大きさから見て簡単に曲がりそうだけど。
鉄製のシーソーがひんまがるのなんて見たことない。
けれども。
サラがシーソーの片方に足を乗せる。
そして、もう片方にも足を乗せる。
シーソーに足が乗った瞬間。
ぐにゃ。
飴のようにシーソーが曲がってしまう。
「あたしが軽く踏んだだけでこのとおり。
もろいもんね。簡単に曲がっちゃう。
あたしは軽く足をちょんと乗せただけ。
たったそれだけでぐにゃっとなる」
ごくり。
あんな鉄の棒。
曲がるなんて思っていない。
ぶるぶる。
「次は土管。
コンクリート製で、中には鉄の骨組みも入っている。
これも、あんたが自力が砕くことは不可能ね。
でも、あたしが足を乗せるだけで簡単に踏み砕くことができる」
サラは土管の上に軽く足を乗せる。
ぎゅうう。
それだけで何トンもの重さがかかりそうだ。
でもまだ大丈夫。
「お。以外に頑丈。
足を乗せただけじゃ潰れないね。
ほんのちょっと体重かけてみるか」
ぎゅう。
みしっ。
土管から音がした。
ぎゅう。
ばきっ。
ぎゅうぎゅう。
ばきっ。ばきっ。
ぎゅうう。
ぼきべきばき。
ずん。
ぐしゃ。
「ほら。潰れちゃった。
まだ軽く重さをかけただけなんだけど。
こんなの踏み砕くのも簡単ね」
とっても丈夫そうなものを踏み潰すサラ。
やっぱり目の前でコンクリートが砕けるのを見るとこわい。
「次は。アルミ缶をプレス機で押し潰したブロックの塊。
もう潰れているから、これ以上潰れないと思うでしょ。
でも、あたしから見たら潰し足りないのよね。
ずっと前プレス機で押し潰すのと、あたしが押し潰すので、
どっちが小さくなるかを体験する授業があったの。
結果はどうなったと思う?」
むーむ。
まだ体が戻っていないので言えない。
「もちろんあたしの勝ち。
でも友達2、3人で乗ったらもっと潰れたから、あたし1人だけでも不十分かも。
さて見てなさいよ」
どん。
アルミ缶のブロックにサラのかかとが乗る。
ぎゅう。
ぎゅう。
ぎゅうぎゅう。
べきっ。
みしっ。
サラが体重をかけるとブロックから音がする。
ぎゅうう。
ぎゅううううう。
サラが完全にブロックの上に乗る。
ぎゅうううううう。
おわわ。
潰れているよ。
すでにプレス機で押し潰してブロックになっているのに…
ぎゅうぎゅう。
かかとが乗っているあたりがへこんでいる。
ぎゅうぎゅう。
どん。
どすん。
どん。
サラはかかとで踏む。
どん。
どん。
うわ。
どんどんへこむアルミ缶ブロック。
「こんなもんね。
ほら」
げっ。
ブロックの中央が1/3ほどへこんでいる。
うわぁ。
ものすごい。
ありえねー。
と思った。
「一応言っておくけど、ミミお姉ちゃんが踏んでもこのぐらい簡単よ。
ミミお姉ちゃんのほうが重いから、お姉ちゃんが思いっきり踏んだら、もっとへこむかもね」
そうなのか。
ごくり。
すごさにびっくりする。
「じゃ最後は青竹踏み。
安物よ。
耐荷重は30トンぐらいまで。
子供用ね。
こんなのあたしにとって強度が全然足りない。
今回は体験学習ね。
これをあなたの体の上にかぶせて、あたしが上から踏むの。
どうなるかしらね。
一応30トンまでの重さをかけても潰れないみたいだけど、
もちろん。それ以上の重さがかかるから、
ばきばきっといくわね」
おい。
やめろ。
むーむー。
人をおもちゃにするな。
と言おうとするがしゃべることはまだできない。
ごと。
僕の体の真上に青竹踏み用の巨大な竹っぽい素材の物が置かれる。
僕の体はちょうどその空間に入ってしまう。
とっても巨大な竹みたいなもの。
この上にサラの足が乗るのか。
今は薬品の力があるから死なないが、生身だったら間違いなくお陀仏。
むーむー。
もがこうとする。
「おとなしくしなさい。
怖い?」
むーむー。
「大丈夫。大丈夫。
あんたは薬品の力があるから死なないわよ。
あたしにとっては残念だけど」
やだ。
こんな場面。
青竹の上にサラの足が乗る。
みしっ。
重さがかかったようだ。
ひえー。
怖い。
普通に踏まれるより怖い。
いつ、ばきばきって真上の竹が割れるかわからないからだ。
「だんだん重さをかけていくから」
みしっ。
ぎゅうぎゅう。
みし、みしっ。
サラが重さをかけるにしたがってみしみし、音が鳴る竹。
ばきっ。
一部割れたようだ。
ひっ。
怖い。
顔は引きつっているだろう。
あうあう。
だめ。
だめ。
だめ。
ぶるぶる。
がくがく。
「だいぶ怖いみたいね。
じゃやめておいてあげる。
感謝しなさい」
竹からサラの足がどく。
ふー。
もーのすごく怖かった。
がくがく。
「さてと片付けるか。
なんであんたのためにこんなことをしないといけないのか」
「あんた片付けてくれない?」
むーむーと言ったときだった。
やっと僕の体は元に戻った。
「おおお。おい。
いいかげんにしろ。
いいつけてやるぞ」
「何よ。元に戻ってしゃべることができるようになったら、うるさくなったわね」
「また踏めば、おとなしくなるかしら…」
サラは足をあげる。
「やめ。やめろ。
人を簡単に踏むなよ」
どん。
僕の隣に足を踏み下ろすサラ。
「あぶねえよ」
「静かにしなさい。うるさかったら踏んで黙らせるから」
「ぐっ」
踏まれるより口をつぐむほうを選ぶ僕。
「あっ。面白いもの見っけ。
ふっふっふ」
横を見た後に細目で僕を見るサラ。
「な。なんだよ」
「逃げ出さないようにやっぱり踏む」
えー。
ぎゅ。
ぐちゅ。
僕の下半身がサラの足の下敷きになり潰れる。
「おおお。おい、何するんだよ」
踏まれて動けない。
それを聞かずに、サラは壁のほうへと歩いていく。
げっ。
一輪車。
とってもいやな予感がする。
10倍サイズの一輪車。
うえ。
まさか、あれで轢くんじゃないだろうな。
サラは一輪車を手で持ってくる。
「これ得意だったんだよ。
せっかくだから、これに乗って、あなたのお腹の上に車輪で乗ってあげる」
やだ。
そんなのやだ。
僕は首をぶんぶんふる。
「あたしは、あんたのお腹の上に乗って、ぐちゅっと潰れるのが見たいし」
そんなの見なくていい。
でも身動きできない。
うう。
ひど。
ひどい一日だ。
これもみんなサラのせいだ。
今日はミミと一緒に過ごす予定だったのに。
ぐっすん。
「じゃいくよ。よいしょっと」
一輪車でバランスをとるサラ。
「よっよ」
一輪車の車輪がだんだんこっちへ近づいてくる。
うわ。
やだ。
やだ。
「ふっふっふ」
僕は精一杯の涙を目にためて、じっとサラを見る。
「ふっ。だめよ。覚悟しなさい。
死なないから、大丈夫よ。
ちょっとお腹が潰れるだけよ」
「だめだぁ。乗るなぁ。
虐待反対だぁ」
一輪車のタイヤの幅は30センチ以上はあるだろう。
しかも、空気が少なめのようだ。
サラが上に乗っているので、タイヤがちょっと潰れている。
幅は40センチに広がっている。
やだ。
あんなのでお腹に乗られたくない。
「ほらほら」
一輪車の車輪が前後する。
前へ進むと僕に近づく。
もう1メートルしかない。
「やめろぉ」
「やめないよ」
きゅっきゅ。
だんだん車輪が近づいてくる。
うわ。
うわぁ。
もうだめ。
僕のお腹の上に車輪が乗っかると思ったとき。
きゅ。
車輪が直角に向きを変える。
「ふふっ。寸止めってやつ。
もう一回」
怖い。
やめてくれぇ。
きゅっきゅ。
いったん下がって、再びこっちのほうへ近づいてくるサラ。
「うわぁ」
今回はだめだぁ。
僕はお腹に力を入れた。
きゅっ。
どすん。
直前で、サラは一輪車ごとジャンプし、僕の体ぎりぎりのところに着地する。
ずん。
床が衝撃でへこむ。
「ふっ。
潰れると思ったでしょ。
いくらあたしでも、車輪で人は轢かないわよ。
本当に踏むと思った?」
は。
はううううう。
本当に轢かれると思った。
こりゃ遊ばれているな。
「お前なあ。ひどいぞ」
「お前とは何よ」
「ミミが天使だとしたら、君は悪魔だ。それもとっても意地悪な」
「ふっ。あんた専用の悪魔ね。
他の人には天使だけど。
べー」
「くっそー。
遊ばれているな。
馬鹿。
あほ。
悪魔。
意地悪サラ。
性格ひねくれサラ。
胸無しサラ」
いろいろ言ってみた。
ぷちっ。
という音が聞こえた気がした。
サラがこっち見ている。
くるっ。
一輪車の向きを変える。
そして。
ずんずん。
いきなりこっちへ漕ぎ出す。
ぎゅううううううううう。
むちゅううううううううう。
ぐええええええ。
踏まれた。
車輪で。
「人が気にしていることを…
まだ成長途中だっての」
ぎゅううううううううううう。
僕のお腹の上で、サラの乗った一輪車が静止している。
ぎゅうううううううううううう。
むちゅううううううううう。
潰れる。
潰れる。
むーむー。
ひどいぞ。
という感じでにらむ僕。
やめろサラ。
と言ったつもりだった(声はでないけど)
「また言ったわね。気にしていることを」
サラはいったん一輪車ごとジャンプし、お腹の上に着地する。
どすん。
ぎゅう。
!!
むちゅ。
さらに潰れるお腹。
「ふんだ。今度言ったら。生身のときに踏むから」
とサラは怒る。
そして。
「ちょっと休憩。だれかに言いつけたらひどいから」
ばたんと扉を閉めて出て行った。
うう。
ひどい。
ちょっと言っただけなのに。
あんなに怒るなんて思っていなかった。
お腹はサラの乗った一輪車に押し潰されてぺちゃんこ。
戻るまで時間がかかる。
言わなけりゃ良かった。