「おはようございます。今日からここにお世話になる広瀬です」

「こちらこそよろそく」

「よろしくね」

僕とミミちゃんは、新しく入ってきた新人の子と挨拶をする。

年齢は20歳ぐらいか。
とてもやさしそうであるが気の弱そうな男性。

「あなた。こういうのは初めて?」

「は。はいそうです」

「じゃ。今日はバルーンの加圧ね。バルーンの上に座ってもらうのは、このミミちゃんよ」

「がんばってね。危険はないから」

ミミちゃんはいつもの笑顔で言う。

僕はスタッフへ言う。
「今日は本当に大丈夫なんだよな。
この前みたいなことないよね」

念を押す。

「大丈夫よ。今日はずんずんさせないから。
基本にのっとって、圧力をかけ続けるだけ」

「本当?」

「うそじゃないってば」

「もし違っていたら。そうだな。
あんたもミミちゃんのお尻の下敷きだな。
あのバルーンが破裂した場合を想定したテスト。
あれ、やってもらうぞ」

「いいわよ。
絶対大丈夫だし…」

「絶対だぞ」

僕は言う。

そして、手順を新人に説明する。

「えーと。今から床の下を通ってあのバルーンの中に入るから。
今日は2人一緒にやるから、後についてくること。
バルーンの上にミミちゃんが座って、バルーンに圧力を加える。
その圧力により、バルーンの中の空気が圧迫されて僕達の体の四方から圧力が加わるんだ。
きっと最初は、ものすごい圧力にびっくりするかもしれないけどつぶれちゃうことはないから…」

「うん。わかりました」
と新人君。
大丈夫かな。
きっとびっくりするだろう。

僕はついてきてと言う。

床の下を通ってバルーンの中に入る。

「結構でっかいね」

バルーンの上まで数メートルある。

でもミミちゃんが座るとかなり下がってくるんだよな。

びっくりした顔を見てみたいな。
僕は黙っておくことにする。

「じゃ今日は1時間。圧力をかけ続けるからね」
とスタッフの人が言う。

「こっちはOK」
僕は合図を出す。

「じゃ、ミミちゃん。バルーンの上に座ってくれる?」
とスタッフの人の声。

さあて始まるぞ。

僕は横目で新人の彼を見る。

今は、バルーンの上に目が釘付けだ。

ミミちゃんのお尻を見ているんだな。

ぎゅう。

バルーンの上にミミちゃんのお尻が乗っかる。

ぎゅう。
ぎゅうううううう。

だんだん潰れてくるバルーン。

ぎゅう。
ぎゅう。

バルーンがぎゅうぎゅう言うたびに、お尻が下がってくる。

「あわわ」
ここまでお尻が下がってくるとは思っていなかったんだろう。

結構内心はあせっているようだ。

ふふ。
こっちのほうが知っているだけに、あわてる姿を見ていると面白い。

ぎゅう。

ぎゅう。

巨大なミミちゃんのお尻は頭上3メートルだ。

「ねえ。ここまで下がってくるの?
それとちょっと苦しい」

ミミちゃんがバルーンの上に乗っかり、バルーンが潰れてその分、内部の空気が圧迫されてくる。

「加圧だもん。このぐらいだよ」

僕は答える。

「そ。そうなんだ」

まだまだ、圧力は高まるぞ。
それにお尻ももっと下がってくるし…

ぎゅう。
ぎゅうぎゅう。

さらに下がってくる、幅が何メートルもあるお尻。

ぎゅうぎゅう。

「ね。ねえちょっと。ここまで下がってくるの?」

頭上のお尻との距離は2メートルより近いぐらいか。

「このぐらいだな」

こっちも、圧力で苦しいけどまだなんとかなる。

お隣は。
うう。
苦しい。
という顔をしている。
必死に我慢しているようだ。

それに予想していないほどお尻が下がってきてびっくりしているようだし。

ぎゅうぎゅう。

お尻まで1.5メートル。
今日はこれ以上は下がってこない。

ぎゅうぎゅう。
体が空気によって押し付けられる。
力を抜くと、お腹がぺったんこになりそうだ。

「あと45分。そのままね。
ミミちゃんもそのまま座っていてね。
あたし、ちょっと書類を取ってくるから」

とスタッフの人。

「これがあと45分も続くの?」
「そうみたいだね」
「くそ。ここまで苦しいと思ってなかった。でもがんばらないと」
「がんばれ」

僕も結構苦しい。
長時間になると体力も消耗してくる。

でもその間もバルーンの上にミミちゃんが座り続けているのでバルーンは押しつぶされたままだ。

ぎゅう。

ミミちゃんがちょっと動くと、圧力も変化する。

ぎゅう。

ぎ。
ぎゅう。

ミミちゃんがちょっとお尻を持ち上げて、バルーンの上におろす。

そのときに圧力が増し、苦しくなる。

そういえばスタッフの人戻ってこないな。

……

30分が経過した。

「ねえ。大丈夫?」

「うん。なんとか…」

圧力で体が押され続けている。
結構苦しい。

あと30分。

ぎゅ。

ぎゅう。

バルーンの上に座っているミミちゃんが動く。
僕は目を閉じていることにした。

……

何分たったんだろう。

ゆさゆさ。
「ねえ。
ねえってば」

声が聞こえる。

「ねえ。変な音聞こえない?」

僕は目を開ける。
いつのまにか寝てしまっていたようだ。

しゅー。
何か聞こえる。

「なんだろう」

上を見る。

「ちょっと前から聞こえるんだけど。それにお尻。さっきより下がってきているんじゃない?」

うげ。

お尻まで1メートルちょっとか。

おかしいな。

「ねえ。ミミちゃん」
いつもならスタッフの人が聞いてくれるが、いない。
何やっているんだろ。

ミミちゃんとは音声はつながらない。

しゅー。

この音も気になるし。

僕はバルーンごしに見えるモニターを見る。

こくり。
こくり。
ミミちゃんの首が上下している。

んー。
目をこらしてみる。

どうやらバルーンの上に座りながら居眠りをしているらしい。
ミミちゃんの腰と胸はゴムみたいなもので天井から支えられているので、バルーンから落っこちることはない。
バルーンの上に座ったまま寝ているようだ。

「おーい。おーい。誰かいないか?」

僕は声を出すが外にスタッフの人はいない。

しゅー。
その音はまだ聞こえる。

も。
もしかして。
最悪の結果を考えた。

バルーンの空気が抜けているんじゃないか。

このままバルーンの空気が抜けたら、ミミちゃんのお尻が極限まで下がってくることになる。

「ちょっとこれ。やばいんじゃない?
いつもこうなの?」

「い。いや。違うぞ…」

しゅー。

出入り口は床にある。

今、出入り口を開けたら中の空気が押し出されて、バルーンはいっきに潰れてしまう。
だからバルーンの中から脱出はできない。

ミミちゃんにバルーンの上からどいてもらうしかない。
でもミミちゃんは居眠りをしているし、外にスタッフの人はいないし。

ミミちゃんはバルーンから空気が抜けていることに気がついてないだろう。

「おーい。お」

だめか。
それに圧力が高いので長く声を出し続けることはできない。

「もうだめ。後お願い」

と隣の新人君はぐったりだ。

くっそ。
スタッフめ何しているんだ。

しゅー。

……

げっ。
気がつくとお尻はかなり下がってきている。

手を伸ばしてみる。
手がお尻に触れる。

ぎゅう。
お尻を押してみるが、全くびくともしない。

ぎゅう。
しゅー。
手で突っ張ってみる。
げっ。
さっきよりお尻が落ちてくるのが速くなってないか?

手でつっぱってみるとわかる。
ものすごい重さにより手が押される。
だんだん下がってくるお尻。

ぎゅうぎゅう。
みし、みし。

しゅー。

これどうなるんだ。
きっと安全装置があるから潰れちゃうことないと思うんだけど。

安全装置。

……

ぎゅううううううう。
みし。みし。

まだミミちゃんは起きない。

もう頭上のお尻まで20センチだ。

「んあ」
隣の新人君が目をあける。

「……」
目が飛び出るんじゃないかと思うぐらいびっくりして上を見ている。
頭上まで20センチにせまったお尻を見てしまったようだ。

「きっと安全装置が働くから」

僕は声をかける。
ばたりと腕が床に落ちる音。
新人の彼は気絶してしまったようだ。

しゅー。

まだ、この音は聞こえる。

……

ぐ。
苦しい。

しゅー。

もうミミちゃんのお尻は、僕の胸にくっつきそうだ。

手でつっぱろうとしても無駄。
その隙間もない。

うぐ。
ぎゅうううううう。
ミミちゃんのお尻が僕の胸に乗っかり始めた。

ぎゅう。
ぎゅう。

ぎゅうぎゅう。

安全装置。
安全装置。

ぎゅうう。
ぎゅううううう。

ものすごく苦しくなってくる。

ミミちゃんのお尻の体温が伝わってくる。
けれども、ものすごい重量。

ぎゅう。
ぎゅう。

ぎゅうううううううううううう。

ものすごい重さ。
息もできない。
みし。

僕の胸から音がする。
胸の骨がきしんでいる音。

うわぁ、だめかも…

……

がくっ。
どん。

あたしミミはその衝撃で目が覚めた。

あれ。
寝ちゃってた?

何か違う。
お尻の下にあたる感触が固い。

あたしはお尻の下を見る。
あたしのお尻の下にはすっかりしぼんでしまったバルーン。



「ああああー」

あたしはあわてて立ち上がる。

な。な。なんでバルーンが潰れちゃってるの?

あたしはすっかりしぼんでしまったバルーンをどけてみる。

あわわ。
彼らのところの床だけへこんでいる。

「ねえ」
あたしは彼を触ってみる。

ゆさゆさ。
ゆさゆさ。

彼らはすっかり気絶してしまっている。
なぜかバルーンはしぼんで潰れてしまっているけど、床にある安全装置が働いたらしい。

「医務室へ連れて行かなくちゃ」
あたしは2人まとめて、手で抱き上げると立ち上がった。

ぴー。

そういえば音が鳴っているのに気がついた。

……

ばたん。
ドアが開いてスタッフの人が入ってきた。
「ごめんね。ちょっと用事で離れていたときに事故?」

「あ。あの。あたし、
いつのまにかバルーンに座ったまま居眠りをしていて。
そしたら、いつのまにかバルーンがしぼんでいて…
これから医務室に連れて行くから…
ねえ。大丈夫よね。
あたしのお尻の下で潰れちゃっていないよね?
床の安全装置が働いていたみたいだから大丈夫よね?」

あたしは涙目になりながらスタッフの人に聞く。

「この警報はこれだったのね。
大丈夫よ。安全装置が働いたみたいだから。
もし、安全装置が働かなかったら、今頃はぺっちゃんこよ。
そんなことより医務室へ連れて行ってあげて…」

「うん」

あたしは急いで医務室へ連れて行く。

……

「さーてと。どうしてくれようか。ミミちゃんスタッフの人を捕まえてくれる?」

「え。うん」

スタッフの人は後ろを振り返る。

ぎゅう。
じたばた。

「こら。離しなさい」

「だーめ。これからミミちゃんが、あんたを手でぎゅっと握って気絶させるから。
その隙に僕はバルーンの中に運ぶ。
ミミちゃんやっちゃって」
僕はミミちゃんに言う。

「うん。わかったよ。ごめんね。あたしは彼の言うことに従うしかないの」
とミミちゃん。
じたばたしているスタッフは、ミミちゃんの手の中だ。
ぎゅう。
ミミちゃんが、ほんのちょっと手で握る力をこめる。

ぐったり。
すぐに気絶してしまうスタッフの人。

「よし。あとは下ろしてくれる?
僕達2人でバルーンの中に運ぶから…」

「うん」

ミミちゃんはぐったりしたスタッフの人を床の上に下ろす。

「完全に気絶しちゃっているね」
新人君。

ぐったりしているスタッフの人を見て、
「ひょっとして、屈強な男性でもこういうふうに握られたら気絶しちゃうのかな?」
僕はミミちゃんに聞いてみる。

「うーん。たぶんそう。
今もほんのちょっと握る力を強めただけ。
本気で握ったら死んじゃうよ」
とミミちゃんが言う。

すこし動揺しながら僕は
「ふーん。僕もミミちゃんを怒らせないようにしよっと。握られたらたまらないもんな。
大丈夫だよね。こういう風に握ったりしないよね?」

「そうだね。大丈夫だよ。
た.ぶ.ん

でもね。
あたし以外の女の子ととっても仲良くしているところとか
浮気しているんじゃないかとかの疑いがあったとしたら
ぎゅっと握っちゃうかも…
そのときは今よりもうちょっと強くかな…」

とぽわぽわの彼女がにこにこしながら言う。
こわっ。
ミミちゃん怒らせたら怖いかもと思った。

僕はそんなことを思いながらスタッフの人をバルーンの中へ入れる。

……

はっ。
あたしは目を開ける。

そこはバルーンの中。

「やっと目が覚めたか。じゃミミちゃん。バルーンの上に座ってずんずんして」

「ねえ本気なの?
あたしはここのスタッフだから、こんな実験する必要ないの。
だから出しなさい」

あたしは言う。

ぎゅうう。
バルーンの上にはミミちゃんが座る。

もう遅い。
今入り口を開けたらバルーンはぺちゃんこ。

あたしは言う。
「ほら。やめなさい。もうわかった。
あたしが悪かったってば。
もうちょっとまじめに仕事するわね。
今までより念入りにチェックするから。
確認していないのに、確認済みのチェックを入れたりもしないから…」

あ。しまったとあたしは思った。

「ふーん。じゃぁ今までのはきちんとやってなかったというわけだな。
自業自得だな。
ミミちゃん。バルーンが潰れるまでずんずんして。
ところでこんなことしても大丈夫だよな。
あんたが自分で機器を調整したんだから…」

うう。
失敗した。
今日は手抜きしてきちんと見ていなかったし。
でも。
安全装置はきちんと見た。

ずん。
ずん。

ぎゅう。
ぎゅう。

ぐ。
苦しい。

こんなに苦しいなんて。

「ちょ。ちょっとやめなさい。苦しいわよ」

「だーめ。ミミちゃん。もっとバルーンをお尻で潰すように座ってよ」

「うん。これもモニターだよね」

「あたしはモニター員じゃないわよ」

ずん。
ずん。

ぎゅうううううううううう。
ぎゅううううううううううう。

ひえ。
怖いい。

お尻がぁ。
お尻がこんなに近くに…

ぎゅう。
ぎゅう。

……

ずん。
ずん。

ぎゅうううううううう。

ずん。

ぐえ。
すごく苦しい。

ミミちゃんもずんずんしないでよ。
そういえば、ミミちゃん。最近少し顔が丸くなったような気がする。
ミミちゃんの身体測定もしたのはあたし。
最近は調べていない。
きっと増えている。
重くなっているわね絶対。

というところまで考えて心配になった。
バルーン大丈夫かしら。

増えるとしたらトン単位で増えるわよね。
うう。
バルーンもつかしら。

ずん。
ずん。

ぎゅう。
ぎゅううううう。

早く終わって。

……

ぼん。
すごい音がした。

僕達も横で見ていたが、ものすごい迫力。
バルーンは破裂。

そのとき、ミミちゃんのお尻が床の上にずんと落ちる。
絶対その衝撃で床も揺れたぞ。

「わぁ。バ。バルーンが破裂しちゃったよぉ」
ミミちゃん本人もびっくり。

大丈夫だよな。
ミミちゃんのお尻の下でぺちゃんこになっていないだろうな。

僕はちょっと心配になった。

「お尻をどけるね」
ミミちゃんのお尻が床の上からどけられる。

僕は破裂してしまったバルーンをどける。
とってもバルーンはでかいので、どけるのも一苦労だ。

「手伝うよ」
ミミちゃんは簡単に破裂してしまったバルーンをどける。

潰れていないよな。
僕は見る。
見た目なんともない。

僕は触ってみる。
どこも異常はない。
でも白目をむいて気絶しているスタッフの人。

「これはやりすぎだよぉ」

たしかに。
バルーンが破裂するとは思っていなかった。

「じゃ医務室へ運ぼうか」

「うん。あたしが連れて行くよ」

とミミちゃんはスタッフの人を手で抱きかかえる。
ぐったりしている。

これでわかっただろう。
僕も何度かこんな目にあったし。
今後、念入りに確認してくれるだろう。

でも。

ものすごい迫力だったな。
バルーンが破裂するなんて。
ミミちゃんのお尻が床の上にどすんと乗ったとき。
床も揺れたしな。

僕がテストするときは、バルーンが破裂しませんように。

そう願った。