「なんか体の体温がちょっと高いわね」
「やっぱりそう?」
次の日。
薬品の効き目が切れた後、副作用がないかを検査してもらっているところだ。
なんか体がほてっているような感じ。
「まあ、副作用はそれだけだし、今日はこれで終わり。休んでいることね」
「うん。そうする。
そうだ。
あのお願いがあるんだけど。
昨日使っていた部屋。今日だれか使う?」
「いいえ。使わないわよ。新薬のモニターあなただけだから」
「あのさ。あの部屋に敷いてある毛足の長いカーペット。
あれ、ものすごく気持ちがよさそうだから、あそこで休みたいなっと思って」
「いいわよ。じゃあそこの部屋の使用者にあなたの名前を書いておいてあげる。
部屋のドアにあなたが床に寝そべっているから注意すること、と書いておくわね。
安心して休むといいわ」
「やった」
僕は昨日使っていた部屋の隅に、毛足の長いカーペットが敷いてあるのに気がついていた。
昨日、仕事が終わった後に、カーペットのところまで歩いていくと、カーペットの毛足が30〜40センチあり、
寝てみると、体のほとんどが隠れてしまうほどだが、ふかふかで、
とっても気持ちが良かった。
だから、そこで昼寝をしてみたいと思っていたのだった。
僕はその部屋まで歩いていった。
僕はスタッフの人からもらったリモコンで自然音(草原の風や、小川の流れの音)をスピーカーから流すようにして、
そのカーペットの上に寝てころがった。
「うわあ。気持ちがいい。
昨日のストレスも解消できそう。
でも今日来るのか。あいつ。
まあ、ここで寝ているのは気がつかないだろう。
きっと来ないな」
わざわざいじめに来るとも思えない。
今日も行くと行ったら、ミミになんか言われるだろう。
カーペットはふかふか。
すぐに眠れそうだ。
うとうと。
うつらうつら。
眠くなってきた。
自然音のぐあいもいい。
ここが部屋の中だということを忘れてしまいそうだ。
……
ぐう。
いびきをかいて寝てしまう。
……
1時間。
……
1時間半。
ぐらいたったときだった。
「こらー。居眠りするなぁー」
びくっ。
大音量の声にびっくりして目が覚める。
な。なんだ。
「ご。ごめんなさい」
寝ぼけて謝ってしまう。
あれ?
今日は休みで昼寝していたんだよな。
横を見る。
「うわぁ。な。なんでお前がここにいるんだ」
サラだ。
「ふっふっふ。今日はいじめに来たの。
昨日来るって言ったでしょ」
「来なくていい。すぐ帰れ。ほら。しっし」
「ふっ。いいのかな。そんな受け答えして。
あんたは今日薬の効き目はないんだよね。
あたしが踏んづけたら、いっかんの終わりなんだよね?」
「お。おまえ。そんなこと言うのか。
そうだよ。今日は薬の効き目はないからな。
これは本当だからな。
サラが変なまねをしたら、僕はすぐに死ぬんだからな。
だから帰れよ」
「せっかく来たんだから、帰るわけないじゃん。
それに、昨日面白いものいっぱい買ってきたし」
サラはその場に座ると(どすんという感じでお尻を落として)ポケットから何かを取り出してきた。
それを自身の足の近くに置いて、足で踏んでごろごろする。
「な。なんだよそれ」
僕は何をしようとしているんだろうと、警戒して聞いた。
「これはね。足の裏マッサージ用の物。
ふっふっふ。
このローラーであんたを引き伸ばしてやろうと思って。
あんたを寝かせて、このローラーであんたを踏みならすの。
どう?
今日やってみる?」
「だ。だめだ。
そんなの。
今日は薬の効き目がないから、そんなので引き伸ばされたら死ぬぞ。
野蛮人め。帰れよ。
僕はここで昼寝するからな」
「しょうがないなぁ。明日にするか」
「そうだ。そうだ。すぐ帰れ。こんにゃろめ」
僕は横になる。
「じゃこれ。いちおうスタッフの人に聞いて許可とってきたからね」
とサラは言う。
すでにカーペットの上で目をつぶって横になっているから、しらんぷりだ。
まあ。いくらサラと言っても、普通に踏んだりしたら、こっちは死ぬし。
いじめたらすぐに怪我をしてしまう。
危害は加えないだろう。
と思って油断していた。
けれど、それが間違いだった。
どん。
どん。
何か床に置かれる。
なんだよ。
何をしているんだ。
まだ帰っていないのかよ。
と思って目を開ける。
あ。
なんだこれ。
真上には透明な壁。
横はふさがれている。
「お。おい。何するんだよ」
僕は立ち上がり。
ゴンと頭をぶつける。
透明な板?
プラスティック製?
持ち上げようとするが無理だ。
かなり重い。
そして横にも壁。
巨大なレンガみたい。
「こんなところに閉じ込めてどうするんだよ。
ほら。出せよ」
「ふっふっふ。
油断したわね。
これからあんたは恐怖を味わうの。
今日は生身だから、怖いと思うんだ。
これから、あたしの足の裏を見ることになるんだから…」
「足の裏?」
わからなかった。
でも真上の透明な板。
まさか、この上に乗るんじゃないだろうな。
サラが上に乗ったら、あの巨体だから、この板もばきっと折れるかもしれない。
ぶるぶる。
そう考えると怖くなってきた。
だって、今日はサラの重さがちょっとでもかかったら、本当に潰れてしまう。
と思っているうちに、サラが真上の透明な板に足を乗せる。
ぎゅう。
板がたわむ。
間違いなく潰れる。
「おおお。おい、やめろよ」
「ふっふっふ。やめない」
さらに足に重さをかけるサラ。
ぎゅう。
みしみし。
板から音がする。
「おおお。おい」
今は、サラの足は真上ではなく横のほうだ。
けれども。
「やっぱり、あんたの真上に足を乗せないとね」
おい。乗せるのかよ。
僕の真上にサラの足の裏が移動し。
ぎゅうう。
と板の上に乗せる。
うわぁ。
サラの足の裏がまるみえだ。
板の上にぎゅううと乗ったサラの足。
足の裏が板に密着するのがよくわかる。
と、分析している場合ではない。
今日は踏まれたら終わりなのだ。
ちょっとでもサラの体重がかかったら終わり。
やばっ。
だめ。
「の。乗せるな。板が割れるぞ」
「まだ。大丈夫。大丈夫。
これ。結構丈夫だよ。
でもあたしが完全に乗ったらどうなるかな」
ぎゅうう。
みしっ。
板から音が鳴る。
板もなんかたわんできている。
「おい。やめろ。というかやめて。
お願い。
今日は本当に、薬の効き目がないんだから。
ねえ」
「どうしようかな」
ぎゅうう。
さらに重さがかかる。
やばいよ。
これ。
僕は板に手を添える。
みしっ。
ぐっ。
本気か?
ものすごい重み。
びくともしない板。
みしっ。
ちょっと板が低くなる。
やばい。
「ねえ。お願いだからやめて」
気を悪くしないように丁寧に言う。
「今日はおとなしいのね」
「だ。だから、今日はほんとに」
「ほれっ」
みしっ。
さらに重さをかけるサラ。
うわあ。
だめだめだめ。
首をぶんぶんふる。
「よーし。せっかくだから完全に上へ乗っちゃお」
だめだめだめ。
ぶんぶんぶん。
思いっきり首を振って否定する。
「だめ。絶対だめ。
いいか、この板が割れたり、へこんで押しつぶされたら、
本当に死んでしまうんだから。
ねえ。お願いだから乗らないで…」
「だーめ。乗るの」
だめ。
だめ。
だめ。
いったんサラは足をあげて、振り下ろしてくる。
僕は床の上にしりもちをつく。
みしっ。
ぎゅうううううううううう。
足を乗せた後、サラは
「じゃ乗ろっと。全体重をかけちゃお」
という言葉と同時に、サラが板の上に完全に乗るのが見えた。
ぎゅうううううううううう。
みしっ。みしっ。
うわぁ。
板が半分ぐらいたわむ。
ぶるぶる。
がくがく。
こわい。
今日はこのまま板が下がってきたら死ぬ。
確実に押しつぶされて死ぬ。
「まだ。大丈夫だね。ちょっとずんずんしてやろう」
「だ。だ。だ。だめだってば」
サラが体を上下させる。
みしみし。
ばきばき。
板がなる。
サラの足が乗っているあたりがトン単位の重さがかかったせいで、ひん曲がって透明だったのがちょっとくもる。
「ひっ。ひぃ」
悲鳴が出てしまう。
うわぁ。
もうだめだぁ。
さらに体を上下させるサラ。
みしっ。
みしっ。
音がする。
ずんずんすると、板がたわんで下がってくる。
ずんずん。
ずんずん。
……
ずりっ。
ずりっ。
左右から音がする?
あうあう。
見た。
板を支えているレンガのようなブロックが2段重ねしてあるが、上のほうのブロックがずれている。
あわわ。
あうあう。
がくがく。
「おおお。お、い。やめ。ブロックが…」
ずりずり。
「何か言ったかな?
聞こえないぞ」
「だ。だ。だ」
さらにずんずんするサラ。
ずりっ。
ずりっ。
……
あうあう。
だめだめ。
ブロックがずれる。
も。も。もうだめだ。
ブロックも限界。
ばんっ。
ものすごい音がして、真上の板が急に落ちてくる。
ごわぁ。
もうだめだ。
!!!どん。
ものすごい音がした。
というか、それっきり意識が途切れた。
……
「はっ」
僕は飛び起きた。
周りを見ると、絨毯の上。
「ゆ。夢かよ」
と言った後。気がついた。
体の上にかかっている、ばかでかいハンカチ。
それと巨大な紙。
僕は立ち上がる。
毛並みの長い絨毯がブロックの形に押しつぶされた後がある。
うう。もしかして。
そして、紙には。
「ごめんね。ちょっとやりすぎちゃった。
見つからないうちに帰る。
サラ」
と書いてあった。
うううう。
ということはさっきの夢じゃない?
板がずれて、ばん!と落ちてきたのも本当?
よく助かったな。
板がそのまま床まで落ちていたらと思うとめまいがする。
がくがく。
ううう。
ほ。ほんとにひどい。
ひどいことするな。
さ。サラめ。
うう。
やりすぎだぞ。
次に同じ体験をしたら、途中で恐怖のあまり、気絶するぞと思った。
ばん!と板が落ちていたら、その後は40トンを超える重さに押しつぶされていたことだろう。
うう。
まだめまいがする。
サラめ。
明日怒ってやる。
そしてやめさせてやる。
そう思った。