「えーだめなの?」

「いちおう無事だったんでしょ?」

「危険だよ。いつか生身のときに押しつぶされて死ぬよ」

「まあ。あたしから言っておくからね」

「ちっ。だめだ。直接やめるように言ってやる」

僕は部屋を出て、いつもの部屋で待つことにした。
全くもう。スタッフの人に言っても役に立たない。

僕は待つ。

……

9:00を過ぎた。
遅い。
9:30。
まだ来ない。
遅刻か?
それとも辞めたのか?

……

がちゃ。

お。サラが入ってきた。

「こらー。サラ。昨日はよくやってくれたな?
それに今日は遅刻か。こらー」

「ごほ。ごほ。ごめん。今日風邪で調子悪くてさ。
遅れた」

「だめだぞ。仮病使っても。
こっちは、昨日ひどい目にあったんだからな。
どうしてくれる?
おい。こらっ」

「ほんと謝るよ。ごめんね」
う。素直に謝られても困る。
でもこっちは怒っているんだぞ。
くちごたえでもしてくると思っていたのに。

なんか。サラの顔が赤い。
どなってやろうと思ったけど、怒鳴る気がなくなってくる。
本当に風邪?

ちょっとふらふらしている。

「おい。大丈夫か?」

「うーん。まあ。なんとか。
だから、今日は。あんたの馬鹿発言に付き合っているような余裕はないから…」
おほん。ごほん。
とせきをするサラ。

それを見て僕は、
「もう。昨日みたいなことするなよ。
いっぽ間違ったら、ぐちゅうと本当に潰れて死んでいたんだからな!」

「うん。わかった。ごめん。
じゃ着替えてくる」

元気がないサラ。
本当に調子が悪そうだ。
だったら来なければ良かったのに。
でもサラは出ていった後。

……

がちゃ。
サラが入ってきた。

「おい。調子悪いなら来るなよ」

「大丈夫。あんたを潰すぐらいできるから」

「潰さんでもいいぞ。
家に帰って寝てろや。
いいや、医者のところへ行って、
すごくぶっとい針の注射でも打ってもらえ」

「注射はいい。風邪薬を飲んできたから。
この風邪をあんたにうつすために来たの」

「その風邪うつるのかよ。やばい風邪じゃないんだろうな。
新型のインフルエンザじゃないだろうな」

「ああ。それ大丈夫違う。
ただの風邪」

「そうか。でも帰れよ」

「大丈夫。あんたを踏むぐらいはできるし。
あ。でも今日はあたしの胸で押しつぶすのと、服の中に入ってというやつか。
めんどくさいなぁ。
でも服の中は、あんたにまかせてればいいんだし。
今日はその2つをこなしたら帰る」

「そうか。
今帰ってもいいぞ」

「せっかく来たんだからやるの。
あんたに風邪をうつせば早く治るかもしれないんだし」

そこかい。
「じゃどうすればいいんだ。
僕は遠慮しないぞ」

サラは普通の服と同じようなものを着ている。
胸は相変わらず無い。
無いというのは違うか。ミミに比べたら無いということだ。

「じゃ上脱ぐ」
お。おい。
言う前に、サラは上半身の服を脱ぎ始めた。

「ここは病院じゃない。僕はお医者さんではないぞ」
「わかってる。胸で押しつぶすんでしょ。じゃまくさいし、
あたし今日はあまり頭がまわらないから。ちゃっちゃと終わらせるわよ。
ご。ごほん」
その後もこんこんと咳をする。

「帰れよ」

「すぐ終わらせるから」
まあ。サラは僕の上に乗っかるだけ。
サラから見たら簡単に潰せるだろう。

まあ。つきあってやるか。

「横になりなさい」

わかった。

僕は横になる。
本当に上を脱いだようだ。
何もつけていない。

僕は何か言おうとしたが、なんか、しおらしいサラを見ていると
今日はおとなしくさっさと終わらせようと思った。

「ほら。横になったぞ」

「うん。今日は何も考えずに胸で乗るわね」

「わか…」
答えようとしたときには、もうサラの胸が目の前だ。

ぎゅうう。
サラの胸が僕の体の上に乗っかる。
ふに。
という感じをちょっと体感した後、
ぎゅううううううううううという問答無用の重さ。

ぎゅううううううううううううう。
ものすごく重いんですけど。

ぎゅうううううううううううううう。
何も考えずに上半身の体重をかけてきている。

ぎゅううううううううううううううううう。
そのうち。
むちゅううという風に潰れてしまう僕の体。
潰れるまでのタイムラグがあったけど、サラの上半身の重さにより途方も無い重さがかかり、
潰れてしまう。

ぎゅうううう。
という感じに今も重さがかかり続けている。
力加減とか、力を入れたりしていない生の重さ。

生身だったら死んでるなと思った。
でも今日は薬の力が効いているので死なないし、押しつぶされて死ぬこともない。

でも思った。
やっぱりミミより胸がない。
重さのかかり方が違う。
こっちのほうが固い感じ。
それに、すごくあたたかい。
普段より、サラの体がほてっているからだ。

おい。もういいぞ。
と言おうとするが声はもちろんでない。

おい。
おい。

……

しばらくそのまま動かないサラ。
ち。
ちょっと待てよ。
今は僕の体の上にサラが乗っかっているので、ちょっと息苦しい。
10分とかなら耐えることができる。
けれども長くなったり、もう少し重さがかかったら息ができなくなる。

と考えていたら。

ぎゅうううううううううう。
いきなり重さがすごくなった。

ぐえ。
くるし。

おい。サラ。
もういいって。

身動きはできない。
それにサラは動かない。

ぐ。
さっき急に重くなってから息苦しい。
おい。
まさか、そのままダウン?
このまま寝られでもしたら窒息死するぞ。

おい。
おおおいサラ。

サラ。

「ご。ごめん。ちょっとぼうっとなった。
うつらうつらしそう。
起きる」

急に重さが無くなった。

はあはあ。
はあはあ。
息をする。

良かった。
本当に良かった。
窒息死するところだった。

「じゃあたしは仰向けになって寝ているから、好きにあたしの服の中に入ってきていいから。
でもあたしはあんたに付き合う気力がないから、動かないけど。
あんたがどうしてもと言うのなら、ごろんと3回だけころがってあげる」
だるそうなサラ。

「わかった。服の中に入るからな。
お前は寝ているだけでいいぞ」

なんかはりあいが無い。
反応もなさそうだ。

これでモニターになるのかと思ったけど、
女の子のほうが動かないという場合のモニターになるんだろう。
風邪や具合が悪いときもあるだろうし。

僕は前と同じようにサラの足元から、服の中に入ることにした。

サラはゆったりした感じのスカートを履いている。
でもそのスカートのすそはとっても長い。

僕はそのスカート(カーテンよりもでかい)をまくって中に入る。
スカートめくりだ。

こんなでっかいスカートをめくる日が来るとは思ってもいなかった。
ごわごわしている。
途方も無い大きさのシーツをめくって、中に入ったかのようだ。

しばらくは布ばかり。
めくって。めくって進む。
そのままだと面白くないので、右に曲がってみる。
お。
きっとサラの足だ。
触ってみる。

ぺたぺた。
やっぱり熱いなと思った。体温は高め。

「あっ。もっと触って。あんたの手がひんやりしていて気持ちがいい」
とサラの声。

熱があるんだろうか。
僕はぴとぴと触ってみる。
感触からは、サラの足のひざより上のあたりか。
ぴとぴと。

僕はもっとさわる。
すると、サラが足を少し持ち上げ、下ろした。
ぐえ。
落下地点が左にずれたので、僕の体はサラの足の下敷きになる。

重い。
重いって。
ぐえ。

ぎゅうううううううう。

「あっ。今下敷きにしたかな。
ごほっ。足を上げるから今のうちに脱出しなさい。
3秒数えたら足を下ろすから。
その後はもう足を上げる気力がないから」
というサラの声。
3秒しかない。

僕は足が上がった後にはいずりだす。

どん。
背後で足が下ろされた音がした。

危ない。
今日は別の意味で危険だ。
サラの体力がなくなれば、下敷きになったままになるという可能性がある。

僕は急いで続けることにした。
ごろんと横になるなよ。

僕は前と思われる方へと進む。

あれ?

左のほうにサラの足がある。
僕はそれに触ってみる。

すごく太い。
結構付け根のほうか。

「ひゃん。どこ触っているのよ。
ごほっ」
とサラの声。

あれ?
なんか、ものすごく柔らかい感触。
足の外側とは違うような。

僕はもしかしてと思って、反対側へ移動する。

あっ。
すぐにサラの足に触れてしまう。
また触ってみる。

「ひゃん。また。あたしの太ももの内側触ったな」

という声。
このまままっすぐ進むと…
もしかして終点?

「いつものあたしなら、あんたをお尻でずどん、ずどんとしてぺちゃんこにするところだけど。
今からあたしが片方の足を持ち上げるから、下をくぐっていきなさいよ。
3秒だけ持ち上げているから」

とスカートの布地が大きく動く。

右側のサラの足が上に持ち上がったようだ。
僕はよつんばいになって進む。

「3」
という声がした。

ずん。
ぎゅううううううううううううううううううう。
ぐえええええええええええええ。
まだ下にいるのに…
僕の背中の上に、ものすごく太くて重たいものが乗る。

「脱出した?
でも、あたしの太ももの下になんかいるのがわかるような。
でも気のせいかも。
あたし疲れたからちょっと寝る」

だ。だ。だめ。
下敷きになっているんだって。
息も苦しいし。

おい。サラ。
僕はなんとか自由になっている腕でぽかぽかとサラの足(太もも)をなぐる。

ぱしぱし。
ぱしぱし。

「あ。やっぱり下敷きになったんだ。
しょうがない。足上げるから、早く抜け出してよね。
すぐに足下ろすから」

ふう。
すうすう。
はあはあ。
息をする。

急いで脱出しないと、また足が落ちてくる。

僕は、はいずりだす。

ずん。
背後で低い地響きみたいな音。
サラの太ももが床に落ちた音。

ふう。
なんとかなった。
今日は今日で危険だ。

さらに進むと、布地がきつくなっている箇所についた。
反対側はサラの体。
腰?

そういえばスカートか。
ということはこれ以上は進むの無理か。

隣のサラの体をさわってみる。
固い。
すごく固い。

これは腰骨?
なんかいやな予感。

僕はそっとそこから立ち去ろうとした。

「どのへんまで進んだんだろ。ちょっと姿勢をかえよう」
げっ。

サラの体がこっちのほうへとのしかかってくるような感じ。

あう。

ぎゅうううううううう。
ぐちゅううううううううう。
ちょうど腰骨に押しつぶされる僕。

ごろん。
ころがるとき、ものすごい重さによりぎゅちゅううううううと潰されてしまう。
サラの腰骨が乗っかった。

ちょうど僕のお腹がやられた。
顔はなんとかよけた。

しばらくは動けない。
でもサラが転がった影響で、僕はサラの体の上に乗ってしまっている。
どこだ。
お尻あたりか。

下がものすごくふにふにする。
ジャンプしたらぼよんぼよんするだろう。

……

しばらく待つ。
サラもそのまま動かなかった。
でも先には進めないから後戻りだ。

僕の体がやっと戻った。
ふう。
僕は後ろへ戻ることにした。

ものすごく歩きにくい地面。
やわらかい。

ふにふに。
以外にもお肉がついている。
僕はそろりそろりと戻る。

真っ暗で見えないが手探り。

ずりっ。
手をついたが、何もない感触。
そのまま姿勢がずれたので何かないかと手でつかもうとするがない。

ずりっ。

どす。ぼよん。
と1メートル以上落ちてしまうが、何かとってもやわらかいお肉がクッションになり、
その後床の上に落ちる。

「な。なんだったんだ」

「なんか、へんなところにいるんじゃない。さっさとあたしの服の中から出て行ってよね」
ごほん。ごほん。
声をだすのがつらくなってきた。
というサラの声。

出よう。

僕はよつんばいで進む。

きっとこのあたりはサラの太ももの付け根のあたり。
2本の足のちょうど間。
さっさと出よう。
後ろが気になるが、サラもつらそうだし。

僕は進む。
ごわごわした布をめくってすすむ。

明るくなってきた。

「お。やっと出た」
僕は後ろをふりかえる。

サラはうつぶせになっていて、足をおおきく広げた格好のようだ。
左右にサラの足がある。

素足。
その素足を見て、足の裏でもこちょこちょしてやりたくなったが、今日はやめておこう。

僕は歩いて、サラの顔の近くまで行く。

「サラ。大丈夫か?」

「ん?
出てきたんだ。
じゃ。今日は帰る。
あたしを負ぶっていって」

「無理だ。家の人とか、タクシーとか(あるのか?)呼ぶか?」

「んんーん」
とのびをしてから。
「お姉ちゃんに電話する」
とサラ。

……

ぐったりと寝そべるサラ。

……

がちゃ。
ミミだ。
会いたかったミミ。

「こんにちは。ミミ。
サラがこのとおりぐったりだから、連れて帰ってくれる?」

「こんにちは。
ああ。もう。無理するから。
熱もあるんじゃない?
ほら。あたしがおんぶしていってあげるからね」

「うん。ありがと」

サラはミミの背中の上に乗る。

僕は入り口のほうへと移動する。

ミミがサラをおんぶする。

僕はさよならを言おうとしたときだ。
ミミは一歩踏み出そうとしている。
けれど、下のほうをあまり見ていないようだ。

うっ。やば。
その歩幅だとちょうど踏まれる位置?

ミミの足が頭上へと移動する。
やば。
とっさに、床へと伏せる。

ぎゅうううううううううううううううううううう。
ぐちゅうううううううううううううううううううう。
ちょうどミミに踏まれてしまう僕。

「ああ。ごめん」
ミミが踏んじゃったときの感触で、ぺちゃんこにしてしまったのに気がついたようだ。
いつもの倍(つまり、ミミの体重+サラの体重)のものすごい重さ。
ぐちゅうううとなってしまう。

「あたしったら。おっちょこちょいだから。
ごめんね。本当にごめんね」

僕は踏まれなかった片腕を振って大丈夫だと合図する。
僕は気にしないで帰っても大丈夫とミミに合図する。

「ほんとうにごめんね」
とミミは言って、サラをおんぶして出て行った。

ふう。

さっき踏まれたとき100トンはあったか?
ものすごく、むちゅううううと潰れた。

生身でなくて良かった。

さて。今日は終わった。
戻ったらモニター結果を記入するかと思った。

明後日には、サラの体調が治っているんだろうかと思った。