「宝くじ、宝くじ」
僕は給料で購入した宝くじの当選番号を調べていた。
どうかな。
今度は絶対なにか当たっているだろう。
なにせ300万円分のお金をはたいて購入したのだ。
その元金は加圧マッサージのと薬品の分。
100万円を残して、後は全部つぎこんだ。

えーと。
まずは1等だ。
77組の713901か。
ぜんぜん違うか。
これもこれも。
連番なので、すぐわかってしまう。
300円のしかない。


くっそ。
なんだこれ。
ない。

でもそんななか。
「なんだよ。これ1等と3000番違いじゃないか」
と思ったとき、待てよ。
これ連番だよな。
どきどき。
残りは半分以上ある。
つぎつぎ開封して調べていく。
2000番違い。
1000番違い。
ある。絶対ある。
僕はさらに開封していく。
ぐおお。
組と番号の上位の桁は一緒だ。
77組の713890の束を見る。
ぐおお。
近い。
めくる。
77組713899まで見た。
絶対次。
次の束に入っている。
次の束を見た。
70組231110
ぐお。
なんじゃこりゃ。
番号が飛んでいる。
全部調べてみた。
ない。
1等はない。
前後賞もだめ。2番違い。
くそっ。
がっくし。

がっかりしながら。残りの束を調べる。
枚数が多いので一苦労だ。

……

「あ。あった3等」
どう見ても同じだよな。

やった。
500万。
元はとれた。

さらに。
「またあった3等」
なんじゃこりゃ。
これも。
これも。
結局3等が3枚。4等が7枚だ。

すげえ。
さすが、当たると評判の売り場だ。
お金持ち。
お金持ち。

早速明日、サラに自慢しよっと。

……
次の日。

「ねえ。あのちょっと」
あたしは、燃えるゴミの回収にきている人に声をかけた。

「ああ。これもかい」

「えっ。ち、ちがうの」
あたしが言った言葉が聞こえなかったのか、
回収の人はあたしが持っていた紙袋をうばいとり、それを他の燃えるゴミが入っているかごの上に乗せた。
そしてその人は、忙しいらしくカートに乗って行ってしまった。

あ。あ。あ。
言葉が出なかった。
どうしよう。

本当は病院に行くか、警察に届けなければいけないのに。
でも先に病院か。
で。でも遅いよ。
あたしは、思考がうまくまとまらない頭で、その場を後にする。

その出来事は少し前にさかのぼる。

……

「なんか楽しそうね」
あたし、サラは言った。

「ふっふっふ。聞いて驚けこの前の給料で宝くじ300万円分購入したら、そのうちの10枚当たっていたんだぜ。
もちろん300円じゃないぞ。お前には何もおごってやらないからな」

「ふん。どうせ3000円が3枚じゃないの?」

「なんと500万円のが3つ。10万円のが7つだ。
まだ換金していないけどな。証拠の品はここにある。それと当選番号の切れはしだ」

「何?
そんなのちっこすぎて見えないわよ」

そうだろうな。
という顔をする彼。
「そう言うだろうと思ってデジカメで撮影しておいた。部屋のプロジェクタででっかく表示してやる」
と言い。メモリーカードをプロジェクターにセットして部屋を暗くする。

そして。
「これが宝くじ。そして当選番号が書いてある新聞の切れはしだ」

「どうやら番号は合っているようね。
これ合成じゃないの?
あたしを騙すための」

「そんなことして何になるんだ。もっと違う騙し方するぞ」
「じゃ本当なの?これ?」
「そうだと言っておろうが!
うたぐりぶかいやつだな」
あたしは顔の表情を見る。

どうやら本物らしい。

「ねえ。それあたしに頂戴」

あたしは手を出してみる。

「だめ。飲み物1つもおごってやらないもんねー。
どーだ悔しいだろう。
ふっふっふ。
お前も宝くじ買ってみたらどうだ。
どうせ、日ごろの行いが悪いから当たらないと思うがな」

「ふっ。あんたのほうが悪いんじゃないの?
あんた。もうすぐ死ぬのかもね。
死ぬ前に運を全部使った。みたいな?」

「負け惜しみだな。
というわけで今日はちゃっちゃと終わらせようぜ。
後でこのお金の使い道をじっくり考えたいからな」

「ふーん。じゃあたしに日ごろの感謝の気持ちとして、何か宝石とか、くれないわけ?」
あたしは彼に言った。
でも彼は
「やらん。
いつもひどい目にあわされているからな。
おまえもなぁ。僕に親切にしていたら何か買ってあげても良かったんだけど。
いまさら無理だし…」

「あっそ。わかった」
あたしは考えた。
何か買ってもらおう。

「ところで、今日はバルーンで加圧よね」
「うん。そうだけど」
こっちを振り向いて言う彼。
その問いにいやな予感がするぞという風な顔をする。

「じゃ、いつもの薬は飲んでいないのよね。
ふっふっふ。
今あんたを踏んだらどうなるかしらね」

「おい。それ本気か?
わかってるよな。人を踏んだらどうなるか?」

「ふっふっふ。
その当選した宝くじが入っているかばんを置いて行ってくれたら踏まないわよ。
なあに、あたしがそれを換金してきてあげるから。
ちゃんとお金は渡すわよ」

「どうせほとんどをお前が取って、1万円ぐらいしかよこさないんだろ」

「そこまでひどくはないわよ。100万円ぐらいは残してあげるわよ」

「やだ」

「それをよこしなさい。あたしが換金してきてお金は全部渡すから」

「やーだ。べー。そんな口約束信用できるか」
と彼は言ってきた。
あたし、サラは手を伸ばす。

「げっ。奪われてたまるかよ。逃げるが勝ち」
と言って彼は逃げ出した。

「あっ。逃げるな。卑怯よ。
待てー」

あたしは追いかける。
彼のすぐ後ろに足を踏み降ろしながら…
本気ならすぐに追いついてしまう。
じゃれているような感じ。
もちろん本気ではない。

あたしは逃げる彼を追う。
彼は結構本気で逃げているようだ。

「げっ。こっち来るな」
ずん。
ずん。

ジグザグに逃げる彼。

あたしは彼のちょっとうしろに足を踏み下ろしながら歩く。
踏まないように。
でもぎりぎり。

あたしは彼のすぐ後に、とん。という感じで踏み下ろす。

……
どすんどすん。
すぐ後ろにサラの足が踏み下ろされる。
2メートルを超える足がどすんという音をたてて、床を踏む。

今日は生身。
今踏まれると間違いなく死ぬ。

だから逃げる。
逃げるのをやめると踏まれそうな気がする。

こうして追いかけられているとものすごく怖い。
今逃げるのをやめたら、きっと止まってくれるだろうか。

どん。
1秒前にいた場所に足が踏み下ろされる。
その足の下には何十トンもの重さがかかっているはず。

ドアまで遠い。
どすん。どすん。
すぐ後ろにサラの足が着地し、地響きを感じる。

どすん。どすん。

怖い。
「こら。追いかけてくるな」

「あんたが逃げるからよ」

上から聞こえてくる声。
僕は後ろを見る。
どすん。

ちょうど見たとき、すぐ後ろにサラの足が踏み下ろされる。

げっ。
そんな近くに足を下ろすなよ。
踏んだらどうするんだよ。
僕はそう考えながら、前に向き直ってさらに速く走ろうと思ったとき。

ずる。
足が絨毯にひっかかりバランスを崩す。

どたっ。
急にころんでしまう。
くっそ。なんで転ぶんだよ。
僕は悪態をついた。
でもそのときサラの声が聞こえた。

「ちょっ。何。急に転んでいるのよ。急に止まれないじゃな。あ"」

あ"。ってなんだよ。まさか。

……

もう遅かった。
彼が急に転ぶとは思っていなかった。
彼のすぐ後に踏み下ろそうとしていた足は止まらず…

ぎゅ。
あたしサラは彼の下半身を踏んでしまった。

ぼきぼき。
ぐにゅ。

潰れてしまったのを感じた。
前ためした薬品のときみたいに、彼の体がぼきぼきと鳴って潰れてしまうようなときの音が聞こえた。

「あ"。
ねえちょっと」

あたしは見てしまった。
あたしの足の下から赤いものが流れているのを。

これはきっと血。
本当に踏んでしまった。
あたしとしては、ちょっとじゃれていただけなのに…

「ね。ねえ」
あたしは声をかけた。

彼は動かない。
急いで足をどけないと。
と思ってあたしは足をどけようとした。
けれどもあたしの思考はパニックになっていて。
間違って、横に下ろそうとしている足を、彼の上半身の上に下ろしてしまう。

ぎゅ。
「な。なんで」
彼の横に足を下ろそうとしたのに、
なんで彼の上半身の上におろしているのよ。
あたしの足の裏の感触がぐにゅという感じになった。

そして。
ぽきぽき。
あたしの足の下で何かが折れる感じがした。
あ。あ。あ。
絶対だめだ。
もうだめだ。
彼は潰れてしまっただろう。

あたしは足をどけずにそのままでいた。

これは現実?
夢じゃない?

あたしは3つ数える。
もし現実なら、彼はとっくにあたしの足の下で潰れてしまっているだろう。
この足の裏に伝わる生あたたかい感触。

あたしはそっと足をどけてみる。
彼の体は赤いもので染まっている。

あたしは震える手で、バックからティッシュを取り出す。
そして彼の体を包む。

べっとりと赤いものが手につく。
そしてハンカチを取り出して彼の体を包む。
彼の体を触った感じだと、ぴくりとも動かない。
それに少し潰れてしまっているような。
いやいや。
ど。どうしよう。

あたりを見回す。
このままだと目立っちゃう。

あたしは買い物袋に目がとまる。
紙製の買い物袋。

その中身を床にぶちまける。

そして、その中に彼をつつんだハンカチを入れて部屋からでた。

どうしよう。
どうしよう。
彼を間違って踏んじゃった。

生きている?
それとも死んでいる?

生きていないだろう。
きっと上半身を踏んだときに潰れてしまっただろう。

うう。
あたしはなんてことしたんだろう。
ちょっとふざけていただけなのに…
ああ。
時間を戻せたら、戻したい。

あたしはこの後どうなるんだろ。
捕まる?
そして死刑?
いや。
その思考によりさらにパニックになるあたし。
あたしは部屋から出て廊下に出たがどうすることもできず…。

ふと目にとまった燃えるゴミ回収の人に声をかけた。

「ねえ。あのちょっと」
あたしは、燃えるゴミの回収にきている人に声をかけた。

「ああ。これもかい」

「えっ。ち、ちがうの」
あたしが言った言葉が聞こえなかったのか、
回収の人はあたしが持っていた紙袋をうばいとり、それを他の燃えるゴミが入っているかごの上に乗せた。
そしてその人は、忙しいらしくカートに乗って行ってしまった。

あ。あ。あ。
言葉が出なかった。
どうしよう。

本当は病院に行くか、警察に届けなければいけないのに。
でも先に病院か。
で。
でも遅いよね。
あたしは、思考がうまくまとまらない頭で、その場を後にする。

部屋に戻る。
だれもいない部屋。

ちょっと前まで彼の後をふざけて追い掛け回していたあたし。

ちょっと前の出来事が懐かしく思う。
そして、彼を踏んでしまった場所に歩いていく。

その場所には赤いもの。
あたしはその赤いものをきれいにしようとティッシュを取り出して拭く。
なかなか落ちない。

……
あたしは絨毯をきれいにした。
そしてあたりを見回す。
よし。
わからない。

その後、彼の持っていたバックに目がとまった。
あたしは何も考えずにそれを持って、その部屋を後にした。

……

家につく。

どうやって帰ったかも、思い出せない。

あたしはお姉ちゃんに何か聞かれたが、無気力で自分の部屋に入る。

そして。ポケットから彼のかばんを取り出す。

それを見た後、机の奥にそれをしまう。

どうしよう。
そういえば、彼はどうなったんだろう。
燃えるゴミのカートの上に置いてきてしまった。

ばれる?
ばれない?

あたしは後悔した。
彼を追い掛け回したことを。

……

あたしはベッドの上に横になる。
そして布団をかぶる。

……

次の日。
あたしは高熱を出した。
頭がはっきりしない。

昨日のことは夢か。
どうなんだろ。

あたしは優しいお姉ちゃんに看病されながら、眠りについた。

……

そして3日後。

頭がすっきりした。
頭がすっきりして、風邪も治った。
数日前のことは夢だったんじゃないかと思った。

あたしはお姉ちゃんを見た。
なんか悲しい顔をしている。
「彼。消えちゃったんだって。だまっていなくなることはないと思うんだけど。
サラは知らない?」

「えっ」
お姉ちゃんは彼が行方不明になっていることを聞いたらしい。
「あっ。あたしは知らないけどな…」
言ってしまった。
やっぱりあれは現実?

その後あたしは、横になると言って部屋に戻る。

そして机の引き出しの中を見る。

あった。
彼のかばん。
そしてその中には宝くじが入っている。

……

あたしは数日後。
旅に出ることにした。

手にはその宝くじを換金したときに得たお金を持っている。
彼のかばんはこっそり家のゴミに混ぜて出した。
これからどうしよう。
あたしは海を見ている。
自首しようか。
でも怖い。
このまま黙っていればわからない。
彼には身寄りもいないし。
あたしは、心の中で罪をつぐないながら生きていくことにしよう。
そう思った。

…………



「って。なんだよこれ」
サラから渡されたカードを床にたたきつける。

「何で床にたたきつけるのよ。
良く書けているでしょ。あたしの小説」

「よくねえよ。この宝くじ当たったのはいいとして、
僕はサラに踏まれて、その後燃えるゴミに回収されるのかよ。
絶対ありえないって。
お前はこの後死刑だ。絶対死刑だ」

僕は言う。

……

そうあたしは暇だったので小説を書いてみたのだった。
その結末は彼が死んで、あたしは旅に出るというものだ。
「何よ。あたしはちゃんと、あんたを踏み殺してしまったことを後悔して旅に出るんじゃない。
あたしの気持ちもわかってよね」

「僕の気持ちはどうなんだよ。サラに下半身を踏まれて、その後上半身も踏まれるんだぜ。
そして宝くじの当選金も奪われて、しまいにはゴミで回収かよ。
お前は裁判にかけられて、死刑になればいいんだ。
それでめでたしだ」

「事故で誤って踏んだくらいじゃ死刑にはならないわよ」
とあたしは言う。

「死体遺棄だぞ。問答無用で死刑だろうが。こんな話は没だ」
彼は床にたたきつけたカードをひろい。データを消去するボタンを押す。

「消したわね。苦労して書いたのに…
でも、元のデータはあたしが持っているもんね」
あたしは自分のカードを取り出してひらひらさせる。

「書き直せよ。そうだ。これを元にサラが凶悪殺人犯で、長い逃亡の末にやっと死刑になる話を付け足してやる」

「何よそれ。絶対いやよ。
そんなのを書いたら、あんたの携帯電話踏み潰してやるもんね」

「なにおー。この怪獣女。
怪獣はすぐ踏み潰すんだから」

「怪獣じゃないわよ。きー」
と怒るサラ。

また。このパターンか。
口げんかばっかり。
でもこういう時間もいい。
本気で言い合いをできるような相手。
僕は本気でサラのことが嫌いじゃない。
相手も同じはず。

「じゃ、携帯電話をサラに踏み潰されちゃいやだから、僕も別の話を書いてきてやる」

「変な話だったら、問答無用であんたをおもいっきり踏み潰すからね。
もちろん薬を飲んでいるときだけど」

「いい話だったら、何してくれるんだ」

「良かったわね。で終わるわよ。何?
あたしに何かしてほしいわけ?」

「そうだな。ミミちゃんのほしいものを教えてくれるか?」

「まあ。それぐらいだったらいいけど。
何かお姉ちゃんにあげるの?
あたしにはくれないわけ?」

「おまえが、しおらしくなったら買ってやってもいいぞ」

「それは無理ね」

サラはしゃがみこんで言った。
「じゃ逃げるあんたを追い掛け回したら、何か買う気になるんじゃない?
小説と同じように、あんたの後ろぎりぎりに足を踏み下ろすわよ」

「それ。ぜったいやだ。サラは絶対踏み潰す。
冗談でもそれだけはするなよ。
人生の最後がサラに踏み潰されて死ぬのはごめんだ。
でもミミちゃんなら許すかもな」

「なんであたしはだめなのよ」

……

がちゃ。
スタッフの人が入ってきた。

「ほら。またじゃれている。
仕事しなさい」

「どこがじゃれているんだ」
「どこがじゃれているのよ」

2人同時に言う。

「目を離すとすぐ、口げんかするんだから。
ミミちゃんのときはそんなことないのに。
じゃ終わったら報告してね」

とスタッフの人は出て行く。

「ふう。じゃ続きをやるか」
「そうね」

今日も新薬のモニターをしている。
今回も踏まれたらぼきぼき鳴るタイプの薬なんだよな。

と思いながら仕事を再開した。