まじかるリアちゃん

あたしは、椅子に座りながら係りの人から呼ばれるのを待っていた。
まだかなぁ。30分ぐらい待っている……
「リアさん。1番目のカウンターへお越しください」
と放送がかかる。
はあ。やっと呼ばれた。
「リアさん。調査の結果過去への渡航が許可されました。
カードに時空航行許可のファイルを入れてあります。
期間は10年前の2012年6月9日の一日のみです。くれぐれも過去での行動は注意するように。
では行ってらっしゃい」

ふう。なんであたしはこんなことをしているんだろうと思う。
でもこれから出かけなければならない……。
せっかくの土曜日なのに……

「ねえ。ルビー準備はできた?」
「あいあいさー。いつでもOKよ」
と船の立体映像が元気良く答える。
立体映像だけど、現実に干渉する機能がある。また体のサイズはリアちゃんと比べて妖精サイズ。
ただし、リアちゃんはエレーネ星人。
地球人の10倍の身体サイズだ。
リアちゃんは地球の年齢に換算して12歳。地球生まれの地球育ち。

「日時は2012年6月9日。時間は、えーと13時ごろにしましょう」
「了解。カウントダウン開始」
と2人は過去への渡航を開始する。

「ほいっ到着。これからどうするの?」
と立体映像のルビーが聞く。

「ええと10年前の2012年6月9日の新聞を読むわ。
『横浜の超高層ビルで火災が発生、
屋上には逃げ遅れた人が多数。煙の景況でヘリコプターも救援に迎えられない状況。
さらにエレーネ星人も超高層ビルの屋上までは背が届かないので、救援は難航している。
宇宙船で救援する予定だったが、到着するまでの間に
屋上の人々が煙りにより危険な状態になる可能性があった。
だが、われらのヒーロー。謎の少女リンちゃん登場により、
屋上の人々は彼女の手のひらに乗り移り、無事に地上まで下ろされ、救助された。
その後、リンちゃんはいつものように笑顔で姿を消す』
とあるわ」

「いいんじゃない。数多くの人助けが出来るんだから…」
とルビーがリアちゃんに言う。
リアちゃんは、ここでは正体を隠すためにリンと名乗っている。
救援のたびに、謎の少女リンちゃんと報道される。

「でもぉ。この超高層ビルの高さは192メートルはあるのよ。元の10倍の大きさにならないといけないじゃない!」
元の10倍の大きさといったら14.4メートルの10倍なので、そのときのリアちゃんの身長は144メートルだ。
それでも足りないから、反重力制御のついた羽を背中につけて飛ばなければならない。
その大きさで羽をつけると、とても目立つのでリアちゃんはなるべくなら、
その大きさにはなりたくなかった。
でも、過去の新聞にはそのように書いてあるのでリアちゃんはそのとおりにしなければ
歴史が変わってしまう…。
でも人々の命がかかっているんだし…。
リアちゃんは、火災が発生する時刻まで待つ。
その間、他の人に見つかっては困るので、迷彩スクリーンを宇宙船のまわりに展開し近くで待機する。
あたしは火災が発生することを事前に知っているんだから、それを防ぐのがいいのだけど…
そうすると、過去の歴史と食い違いが出てしまう。
では、なぜ未来から来たリアちゃんが救援をするのかというと、
未来の時間軸において、過去に実際にあったことであるからだ。

「どうやら火災が発生したみたいよ。
救出の時間は14時53分ごろみたい」
とルビーが言う。
今は14時13分。あと30分ぐらいしたら向かわなければならない。
14時43分。ビルの下に消防車があつまっている。
リアちゃんから見ると、おもちゃみたいだ。
さてと、準備をしなくちゃね。幸い超高層ビルの隣は緑地の公園になっている。
「ねえ。あたしは道具を使って、体のサイズを10倍にしないといけないけど、
この地盤あたしの体重に耐えられるかなぁ。陥没しないよね?」
とルビーに言う。
いつの日だったか、山岳での救助のとき、リアちゃんが10倍の大きさになったら
山の地盤がゆるんでいて土砂崩れが起きたのだ。
それに、地球人用の普通のアスファルトや舗装は、エレーネ星人用に強化していないかぎり、
リアちゃんの通常サイズのままでも、アスファルトの上を歩いただけで、
ひびが入り陥没してしまう。

「反重力制御のついた羽を付けてから大きくなることね。
大きくなってから、人々やあたし(宇宙船)を潰さないように気を付けるのよ」

「はぁーい。わかっているわよ。スイッチオン」

スイッチを押すとだんだんリアちゃんの体が大きくなる。
はじめは14.4メートルだが、28.8メートル、43.2メートル、最終的に144メートルの大きさになる。

「じゃ救援に向かうわ」
とリアちゃんは、ビルの屋上を目指してあがる。

「うわぁ。なんだあれ? 巨大な戦艦? ちがうとてつもなく巨大な女の子だ。
リンちゃんじゃない?」

うわぁ。とリンちゃんを見た人が歓声を上げる。
地球人から見ると100倍の大きさだ。
その大きさは普通のビルを軽く越え、とてつもない大きさだ。
足首までの高さだって、8.5メートルだ。
リアちゃんから見て、地球人のサイズは手の指先の上に、何人でも乗るほどだ。

「ちょっと。この柵はじゃまね」
とリアちゃんは言って、超高層ビルの屋上にある柵を指でつまんではずす。
「はい、あたしが来たからもう大丈夫よ。あたしがみなさんを、一気に下まで下ろします。
みなさんは、押さないで速やかに、あたしの手の平に乗ること。
なお規律を乱す者は、あたしが指でつまんじゃうから、そのつもりで…」
とリアちゃんは、手のひらを屋上に置くと、人々が手のひらへ移るまで待つ。

「ごほっごほっ、助かった。リンちゃんありがとう」
「本物はでっけーな。テレビでしか見たことがなかったから、この大きさは信じられない。
でも、リンちゃん。このご恩は一生忘れないと思う。ありがとう」

と人々の反応はさまざまだ。でも人々は感謝の気持ちでいっぱいのようだ。

「じゃ、みなさんをビルの下の緑地(公園)に下ろしますよ。下に降りるまでじっとしていてください」
とリアちゃんは声をかけて、ビルの下までゆっくり、ゆっくりと下降する。

「はい、到着。あそこに救援隊のみなさんがいますから、指示にしたがってください。
あたしは、残りの人たちを救出します」

とリアちゃんは言って、再び上に上る。
上に上がるリアちゃんを見つめる人々。
この日リアちゃんは、ズボンではなくスカートを履いていた。
下にいる人々からは、リアちゃんが履いているピンク色のパンツが見える。
そんなことに気がつかないリアちゃんは、ビルの上へと上がっていく。

こうして今日も活躍するリアちゃんであった。