僕は正人とゲームをしていた。
「ふっふっふ。今度は負けないからな」
昔、流行った落ちものゲームだ。
正人は連敗だ。
お店で見つけて、買ってきたのだった。
120円だし。

「やっぱり、暑いなぁ。
ねえエリィお姉ちゃん」
とメイちゃんが言う。

「うん。暑いね。もう9月なのに」

「あー。間違った」
くそっ。消し損ねた。
「ふっ今度は俺の勝ちだな」
今度は負けるかなと思ったとき、
正人の背後を見た。
背中にでっかい指がそっと近づく。
僕は上を見上げるとメイちゃんと目があった。
そして。

「ていっ」
とメイちゃんが正人の背中を指で、ちょんとはじく。
「ぶわっ」
どてっ。
正人は2メートルぐらい吹っ飛ぶ。
正人は後ろを見る。
「何するんだ。いってーな。
やっぱり怪獣か。
20メートルぐらい吹っ飛んだぞ。こら」
「そんなに吹っ飛んでないじゃん。
せいぜい2メートルってとこ?」
「俺を殺す気かぁ。今ゲーム中で忙しいの」
と正人が画面を見ると、いつのまにかゲームオーバーになっている。
「ぐわー。
どうしてくれる。
責任とれ。
そうだ。アイス買ってこい。
全部おまえのおごりな」

「えー。やだよ。正人の命令なんて誰が聞くもんか。べー」

「じゃあ。あたしが行くよ。
何がいい?」

「エリィはいいよ。正人が行けばいいんだって」
「そーだ。そーだ。
お得用サイズのアイスクリーム1つ買ってきてよ。
その他に、メイ専用にガリガリのかき氷。
もちろんイチゴ味。でもお金は、正人のお.ご.り」

「お得用ってあの1リットルサイズのか?」
「何言っているの。あたしたち用のお得サイズ。
1000リットルだよ。
あたしが1リットルサイズのアイスクリームを要求してどうするの?
そんなの。ちょっとなめたら終わりじゃん」

「持って帰れねえよ」
「ふっ。まあ正人には無理よね」
とバカにしたような顔でメイは正人を見る。
「何だその目は。ようし。俺が買ってきてやる。
待ってろ。こんにゃろ」

と正人は部屋をでていった。
「あっ。出て行っちゃったよ。
無理だよ」
とエリィは心配する。

「しょうがないなぁ。本気にして。
おもしろそうだから、あたし見てくる。
エリィお姉ちゃんとトオルお兄ちゃんは待ってて」
とメイも出ていってしまった。

きっと、最初はこっそり見ていて、
後で、正人が困った時に出ていくんだろう。

……

「あっ。いたいた」
店員の人にアイスが入った入れ物を運んでもらっている。
フォークリフトでだ。
そして駐車場に置かれる。
フォークリフトを運転していた人は忙しそうだった。
きっとその人は連れのエレーネの子でもいるんだろうと思っているのか、心配せずにその場を去っていく。
まあ、地球人だけでこんなサイズのものを買っていく人はいないからだ。

「くそっ。やっぱり大きいな。
これじゃ担いでいくのは無理だな」
正人は困っているようだ。

「どうするんだろう」
あたしは影から見ていた。
正人は、何かを見つけてどこかへ歩いていく。
そして、巨大な台車を引っ張ってきた。
地球人でも扱える大きさの台車だが、乗せるものはエレーネ星人サイズの物もOKだ。
さすがにアイスを台車へ乗せるのは無理なので、
近くを通りかかったエレーネ星人の人にアイスを乗せてもらうのを頼んでいるようだ。
そしてアイスを台車へ乗せ終わると正人は台車を押し始めた。
うーんしょ。
うーんしょ。
特別製の台車なんだけど、普通は地球人3人がかりで押すようなものを正人は一人で押している。
暑いのに頑張るなぁとあたしは思った。

そしてなんとか頑張って押したので、台車が動き出した。
ごろごろ。
ごろごろ。
そしてある程度勢いがついたとき。
「よし、台車へ飛び乗ってっと」
楽をしているようだ。
ちょっと駐車場は傾斜になっていて、押しやすいというのもあったんだろう。

あたしは見た。
台車の進む方向に一台の車が止まったのを。
その車は黒塗りのピカピカだ。
そしてちょっと怖そうな人が降りて店のほうへと歩いていった。

そして台車はその車の方向へと進んでいく。

「あっ。やばいんじゃないのかなぁ」
あたしは台車の進む方向と、車を見た。
きっとぶつかる。
地球人サイズの車とアイスクリームが乗った台車がぶつかれば、車は大破だ。
それに、あの車のオーナーは怖そうな人だったし。

とあたしが考えていると正人の声がした。

……

「ごわー。なんであんなところにぽつんと車があるんだぁ。おい。どけろって。
ぐぁー。ぶ。ぶつかるぞ」
俺は台車から飛び降り、台車を止めようとする。
けれどもある程度勢いがついた台車+1トンほどの荷物(アイス)を乗せた台車は止まらない。
「止まんねえ」
正人は精一杯台車の向きをかえようとするが無理だ。
20メートル。
15メートル。
10メートル。
5メートル。
「ごわー。もうだめだ」
と思ったとき。

どん。
何かに当たった音。
それと、俺の体自信が何か柔らかにものに当たる。

終わりだと思った。
きっと車は大破して弁償させられる。
怖い人だったどうしよう。

「何やっているのよ。もう」
と聞きなれた声。

「め。メイ」
僕自身の体もメイちゃんの手で支えられている。
そして台車はメイちゃんの足により、車の手前で止められていた。

車はなんともない。
ああ。
俺は気がぬけた。

メイが女神様に見えた。

「さあ。帰ろ」
とメイは
1000リットルサイズのアイスクリームを片手で持って、
台車も指にひっかけ。
俺を胸ポケットに入れて歩きだした。
台車を元のところに戻す。

それを見て、メイのポケットの中ですごく安心した。

「ありがとな」

「何。いいって。
あたしはおもしろうだから、影から見ていただけだし。
車が壊れたら車のオーナーが困るからと思っただけ。
べ、別に、あの車の持ち主が怖そうな人だったとか、
見つかったら正人が簀巻きにされて、海へ放り込まれそうとか、正人を心配したんじゃないからね」

「なんだよそれ」

「あのときの正人の顔見たかった。
きっと真っ青だったんじゃない?」

「う。うるせぇ」

俺はポケットの中からメイちゃんの顔を見上げる。

「な。なあ。
あの車の持ち主。見たのか?」

「うん。本当に怖そうな人。あっち関係じゃないかなぁ」
ぞわわ。

「怖かった?」
「こ、怖くなんかないぞ」

「本当?
あたしの身体にあたっている正人の体が少し震えているのわかるんだけどな」

「ぐっ。これは内緒だぞ。トオルに言ったらだめだぞ。
面白がって友達に言いふらすからな。
もし言ったら、おしりぺんぺんだ」

「正人にはできないくせに。
もし、しようとしたら。
あたしのお尻で、正人をお尻の下に敷くから」

「くっそ。
竹ほうきでばしばしとたたいてやる」

「それはさすがに痛そう。
もし本当にやったら、正人が油断しているすきに、
正人の上にお尻で乗るから。
もちろん手加減なしで」

「何?やるか」

とメイと正人の一日はすぎていくのでした。