噂の館【第3話】(サンプル)
「3びきのこびと」

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このお話は「噂の館【第1話】」の主人公と共に館を訪れた3人の仲間の末路を描いた物語です。

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【第1話】:
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噂の館【第3話】(サンプル)
「3びきのこびと」

~~前略~~

ソフィアの愉しそうな声と、バキバキと街が破壊されていく音がそこら中に響く。
紙が破られ、くしゃくしゃに潰れる音。
木が折れ、ひしゃげ、吹き飛ばされる音。
それらの音は衝撃波のようにユウタの鼓膜を刺激する。
しかし、ここで恐怖に煽られてこの家から出るわけにはいかない。
外に出たところで、あの巨大メイドから逃げ切れるはずがないのだ。
とにかく今は頑丈と思われるこの場所に留まり、身を潜めるしかない。
いずれこの木製の家が破壊されるとしても、これが『かくれんぼ』である以上、とにかくメイドの前に姿を見せないことが重要なのだ。
ユウタは他に隠れられる物が無いか探すため、改めて周囲を見渡した。
完全なる闇だと思っていた室内だが、目が慣れて少しだけ周りが見えるようになっていた。
この木の家には屋根のあたりに少し隙間があり、そこから光が僅かに差し込んでいたのだ。
それにより、今はこの暗い室内でもある程度目が見える。
この部屋には家具も何もないと思われたが、ユウタは端っこに動物のぬいぐるみが置いてあるのを見つけた。
それは元の人間サイズであれば手のひらに収まるくらいのぬいぐるみだが、小人のユウタにとっては自分の身体よりも大きかった。

「ブタのぬいぐるみか…でも、この大きさならもしかしたら…」

ユウタはそのぬいぐるみに近付くと、手探りで縫い目を探す。
そして腹の辺りに見つけた布の繋ぎ目に腕を差し込むと、力強く引っ張った。

「んぐぐぐぐっ!!」

何とか縫い付けられた布に穴を空けようとするが、なかなか糸が千切れてくれなかった。
糸といっても、小人のユウタにしてみればちょっとした縄のような頑丈さなのだ。
こんなことをしている間にも、家の外ではメイドが街を壊し回る音が絶え間なく響いている。
命が掛かったこの状況。
こんな糸ごときで音を上げる訳にはいかなかった。

「んぎいいぃ〜!!」

これでもかと全力で縫い目を左右に引っ張ると、ついにブチブチと音を立ててぬいぐるみの腹部に穴が空いた。

「よしっ!開いた!」

ユウタは急いでぬいぐるみの内部から綿を引き抜くと、人が入れるだけの空間を確保した。
そしてその穴に自分の身体を潜り込ませていく。

「何とか入れた…思い付きでやってみたけど、意外とアリかもな」

ぬいぐるみの内部に隠れた後は、外に出した綿を内側から拾う。
そしてそれを両腕に抱え込むと、開いた『腹部の布』を内側から閉じた。
こうしてしまえば、外からユウタの姿が見えることはない。
何の変哲もないブタのぬいぐるみだ。

ユウタが隠れている木の家は、それなりに頑丈にできているはずだ。
しかしそれは小人目線で見た場合の話である。
外で暴れる巨大メイドにしてみれば、所詮オモチャの家なのだ。
彼女たちがその気になれば、こんな家など簡単に破壊できるだろう。
もしそうなったとき、普通に内部に隠れているだけではきっとすぐに見つかってしまう。
だからユウタはぬいぐるみの中に入り込むことで、家を破壊されてもすぐには見つからないような工夫を凝らしたのだ。

「これなら…これなら見つからないはずだ…」

ユウタはぬいぐるみの内部で息を潜める。
闇の中、全身を綿に包まれながら、孤独に命がけの『かくれんぼ』が終わるのを待つ。
終わりがあるのかすらわからないが、とにかく今は出来うる最善の行動を取る。
このふざけた遊びを呪いながら、ユウタは静かに目を閉じた。
心臓がバクバクと高鳴るのが聞こえる。
自分の呼吸音さえも煩くて仕方がない。
恐怖に苛まれ気が狂いそうになるが、それでも今は、ただ時が経つのを待つしかない。
外では相変わらずソフィアのはしゃぎ声と街の破壊音が続いている。

絶え間ない地鳴りが一際大きくなったと感じたその時、遂にユウタがいる木の家にも異変が生じた。

「ガオガオー!小人さんどこに行ったのかな〜?あははは」

ソフィアの声の直後、家全体がグラリと揺れた。
そして同時に、バキバキと木が折れる音がして、ユウタがいる家は真上から何かに踏み潰された。

「んぎいぃぃっ!!」

耳をつんざく破壊音。
ユウタは自分が隠れているぬいぐるみごと上から何かに押し潰され、呻いた。
体験したことのない衝撃に気が動転する。
ぬいぐるみの内部で大量の綿に包まれていたため即死は免れたが、とてつもない重圧で身体を動かせなかった。

「うぎぎぎ…重…いぃ……」

突然訪れた生命の危機。
ユウタはこのふざけた遊びを甘く見ていたのかもしれない。
『かくれんぼ』などと可愛らしく言ってはいるが、あのメイドにしてみればユウタたちと対等に遊ぶつもりなど初めから無いのだ。
こちらは小人にされ、命がけで逃げなければならないにも関わらず、ユウタは呑気に隠れてやり過ごそうとした。
その作戦ともいえない愚かな選択は呆気なく潰されてしまった。
文字通り、ユウタが隠れていた木の家は踏み潰されたのだ。
頑丈だと思っていた家が呆気なく。
それも、幼女の何気ないひと踏みで、一瞬で。
ユウタがしばらく悶えていると、全身にのしかかっていた重圧が開放された。
ぬいぐるみに覆いかぶさっていた闇が取り払われ、眩い光が差し込んでくる。
ユウタは恐る恐る、綿の間からゆっくりと外の様子を伺った。
隠れていた木の家は完全に破壊され、ただの瓦礫と化していた。
その原因を作ったと思われる巨大メイド、ソフィアが歩き去るのが見えた。

不幸中の幸いか、ソフィアはまだこちらには気付いていないようだった。
彼女は歩いていたらたまたまユウタが隠れていた家を踏み潰したのだろうか。
もしくは気まぐれで木の家を潰したのか。
いずれにせよ、潰された家の内部に潜んでいた小人にとっては災難でしかない。
しかしそれでも、ユウタは自分が見つかっていない事に関して少しだけ安心した。
そして同時に、見つからなくても命を落とす可能性がある事実に恐怖する。
巨大メイドが歩くだけで、地面を這いずる小さな生き物にとっては簡単に絶命の危機となり得るのだ。

そして一難去ったその矢先。
次なる一難はすぐさま訪れた。
ソフィアの後を追うように歩いていたもう一人のメイド。
レイナと呼ばれたブロンズ髪のメイドが近付いて来たのだ。
彼女が履く白のロングブーツの靴底が、ユウタが入ったぬいぐるみに迫ってきていた。

「あっ!?…え⁉……ぐえぇっ!!」

彼女の巨大な靴底は瓦礫とぬいぐるみごとユウタを踏み潰すと、そのまま何事も無かったかのように歩き去っていった。

「あうぅ……うぅ……」

それは大地を震わせるような轟音と衝撃を撒き散らす災害だった。
家を構成していた木材や屋根だったものなどが彼女の全体重を受けて一瞬で歪み、軋み、破砕された。
オモチャの家なんか悠々と見下ろすサイズの白いブーツ。
自由に歩き回る大質量のその脚は、そこらに散らばる瓦礫をものともせずに踏み荒らしていく。
その靴底が踏み降ろされる度に、ゴミと化したオモチャの残骸が容赦なく潰されていく。
ユウタが隠れていたぬいぐるみは周りの折れた木材や瓦礫にまみれていた。
その表面は二人のメイドに踏み潰されたことで少し黒ずんでいる。
身体はあちこちの筋肉が、メイドに踏まれた圧力で痛みを訴えていた。
もしこのぬいぐるみの綿や周りの瓦礫が緩衝してくれていなければ、ユウタは確実に潰れていただろう。
もしくは、彼女たちに見つかって直接踏まれていたか。
これまでの判断が何か少しでも違っていたならば、ユウタは今頃生きてはいない。
たまたま、本当にたまたま助かったのだ。九死に一生を得たことを今更実感して、再び身体が震えていた。
このくだらなくも恐ろしい死のゲームに早く終わって欲しい。
願わくば、あのメイドたちが自分たちのことを諦めてどこかへ行ってくれないか。
ユウタは祈るような眼差しで、痛みに耐えながら恐る恐る綿の間から外を覗いた。

「小人さんどこかなー?見つけたら踏み潰しちゃうからね♪」

しかし、歩き去ったはずのソフィアが、こちらに向かって歩いてきていた。
彼女はそれなりの広さがあったオモチャの街を満遍なく探すのではなく、なぜかまた戻ってきたのだ。
彼女はズシズシと大げさに地面を踏み鳴らしながら、悠然と歩いてくる。

「や…ヤバイ!!こっちに来る!…また…また踏まれる!!」

ユウタは慌ててぬいぐるみの綿に身体を隠した。
ズキズキと痛みの消えない身体を丸め、可能な限りの防御姿勢を取る。
ソフィアが履いている子供用のパンプスが、瓦礫を蹴り上げ、踏みつけ、蹂躙しながら近付いてくる。

「く、来るな…こっちに来るな!!」

ユウタは恨みを込めたような声で呟く。

恐ろしい。
踏まれたくない。
逃げ出したい。でもどこにも逃げられない!
踏まれたらもう、次は耐えられる気がしない。
死にたくない!
死にたくない!!

ユウタは固く目を閉じ、必死に祈る。小さな心臓は、はち切れそうな勢いで伸縮を繰り返している。

「小人さん、絶対逃がさないよ♪」

そんな想いとは裏腹に、ソフィアはズシズシと重低音を響かせながらこちらへ近付いてくる。
一歩一歩、瓦礫やオモチャの残骸を踏み散らかしながら。
そして、悪夢は身体が潰される激痛となって訪れてしまう。





サンプルはここまでとなります。
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