闇妹外伝2 ~恵那の愛情物語 その1~

夜の闇に仲の良い2つの人魂が浮かぶように、2個の光が近づいてきます。
ガタタン、ゴトトン・・・
線路の継ぎ目をまたぐ音が段々と大きくなってきました。
ホームの明かりに照らされて、わたくし達の乗る電車が姿を表します。
でも、この電車に乗っていったとしても、その先でも、わたくし達の居場所はないのです。
わたくしとお兄様。
愛し合っている二人が、兄弟というだけで、仲を引き裂かれるこんな世界。
もう、なにかから逃げ続けるだけの生活はいりません。
わたくしはお兄様に抱きついて、そのまま前に身を投げ出しました。
仲良しのライトがわたくし達を白く照らし出し、パァァァン!!と祝福のラッパが鳴り響きました。
「お兄様、生まれ変わって、もう一度会いましょう。」
驚いた顔をするお兄様に、その声は伝わっていたでしょうか?

私は気がつくと真っ白な空間に漂っていました。
「ここは、死後の世界?」
ふと漏らした言葉に
「いいえ、ここは世界の狭間、神々の世界です。」
凛とした女性の声が答えた。
すると、目の前に神々しさを感じる女性が現れました。
同時に、天地の概念が生まれ、私は真っ白な地面に降り立ちました。
「あなたは、女神様?」
わたくしが見たままを尋ねると、女神様は肯定しました。
「私は創造と破壊の女神です。ゆえあってあなた方をここにお呼びしました。」
あなた方?ということは・・・
「お兄様もここに?」
「はい。いずれ貞夫さんも意識を取り戻してここに現れるでしょう。」
よかった。お兄様も一緒なら心強いです。
「先にあなたにお伝えしましょう。あなた方は元の世界で死亡しました。」
やっぱり。流石にあの状況からは助からないでしょうね。
「ですが、あなた方の悲恋を哀れに思い、私の世界に転生する機会を与えたいと思います。」
「あなたの世界?」
「はい。私の世界では魔族と人間が互いに争っているのですが、デッドロックという現象が生じており、滅びと再生を繰り返しています。」
「ふむふむ・・・よくあるファンタジーゲームのような世界なのでしょうか。ところでデッドロックというのは?」
聞き慣れない言葉に女神に尋ねてみます。
「デッドロックというのは、その後の運命が決まってしまう現象のことです。この場合、世界の滅びが運命づけられてしまい、何度リセットしても滅びに向かってしまうのです。そこで、あなた方に新しい運命の流れを作り出してもらい、世界の滅びを回避してほしいのです。」
なるほど。女神様のひとりの力ではどうにもできなくなってきたので、第三者の意見がほしいということでしょうか。
「その滅びの原因に心当たりは?」
「何から伝えればいいでしょうか・・・。私はすべてを知っていますが、私は情報の優劣がつけられませんので 、すべてをお伝えするには永遠に等しい時間が必要になるでしょう。あなた自身の目で確認された方が良いかと。」
なるほど。偉い女神様でも、価値観がわたくし達とは違うということですね。
「そうすると、世界の滅亡に関わる事件を初見で解決するというのは・・・かなり難しいですね。」
「心配には及びません。たとえ何度失敗しても、あなた方を再度同じ世界に転生させてあげます。」
それはすごいことですが・・・なんだか都合が良すぎてなにか罠にはめられそうな気がします。
「え~っと、それって一度転生を受け入れたらあなたの問題を解決するまで何度も強制的に転生させられてしまうってことでしょうか?」
「あなた方の悲恋を成就させてあげるのですから、私の世界の問題も解決していただかなくては不公平ではないですか?」
にこりと微笑んだその顔は有無を言わせない迫力を感じさせました。
・・・もとよりわたくし達に選択肢はあってないようなものでしょう。
お兄様と今度こそ結ばれるためなのですから。
わたくしは女神の条件を受け入れることを伝えました。
・・・
・・・
「お兄様は?」
しばらく待ってみましたがお兄様はこの空間に現れてはくれませんでした。
「なかなか目覚めませんね。死亡時に散り散りになった意識がまとまるのに時間がかかっているようです。死亡時の状況を理解できていなかったのが原因でしょう。」
電車に飛び込んで生まれ変わるというのは、お兄様にとってはサプライズとなったようです。
あの驚いた顔はとてもおかしかったですから。
もっとお兄様を驚かせてあげたい。
「そうだ。わたくしを先に転生させていただけますか?お兄様には世界の運命のような面倒なことは伝えずに、ただ転生させてあげると伝えていただければ大丈夫です。わたくしからお兄様に説明しますので。」
「?・・・わかりました。それでは、あなたを転生させます。あなたの第二の人生に幸多きことを。」
目の前が暗くなっていって・・・

そうしてマリエルはマリエルに転生したの。
あ、マリエルじゃなくて、エナだったね。
女神様に転生させてもらった世界は、いわゆる中世ファンタジー?っていう感じで、お兄様の大好きな「なれる」系小説風のテンプレート世界だったよ。
ひとつの大きな大陸で、人類と魔族が西と東に分かれて争っているみたい。
マリエルは、人類側のちょっと田舎の町に生まれたの。
元の世界に比べたら不便な暮らしだけど、ちょっとお金持ちの家に生まれたからそんなに困ったことはなかったよ。
マリエルには神聖魔法の才能があるみたいで、治癒や祝福っていう人を手助けする魔法が得意だよ。パパは、マリエルが大きくなったら首都の大聖堂に行って聖女になれるかもしれないって。親バカだね。
でも、マリエルは早くお兄様に会いたいから、大聖堂には行かないよ。
かわりに、噂話を流すの。
マリエルは別の世界から来た異世界人なの。
生き別れのお兄様を探しているの。
お兄様はすごい方なんだから。
マリエルが、エナが泣いていたらすぐに駆けつけてきて、何でも解決してくれるスーパーヒーロー!!
使用人のみんなは、はじめのうちは子供の作り話だと面白そうに聞いていたけれど、そのうち「またか」といった感じで聞き流すようになっていっちゃった。
でも、それでいいの。
人の噂にかすかにのぼるくらいがちょうどいいの。
お兄様はきっと見つけてくれる。
マリエルを見つけてくれる。
あとは待つだけ。
お父様は「いつまで夢を見ているんだ。」とお怒りになるようになったけど、私は夢物語じゃないことを知っているから、いつまでも待ち続けている。
そして、ついにお兄様が迎えに来てくれた。
お兄様の証として、女神様に頂いた奇跡を見せると言ってしょうもない手品を見せてくださった。
ご自分の本当の力を隠すだなんて、なんて賢いのお兄様!!
お父様はお兄様のことを嫌ってらっしゃるようなので、仕方なく私はいくらかの路銀を手にお兄様と駆け落ちしましたの。
追手を巻くため不慣れな森の中を抜けて・・・って、あれ?お兄様、その手に持った剣は?
どうしてお兄様が?
えっ?
嘘?
騙した?
お兄様じゃない?
痛い!
痛い!痛い!
痛い!痛い!痛い!
痛い!痛い!痛い!痛い!

そしてわたくしは真っ白な空間に戻ってきました。
「えっ?あれ・・・?わたくし・・・?」
わたくしはなんて馬鹿なことを!
思い返すだけで恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になりました。
わたくし、なんであんな脳天気な性格に!?
もっと許せないのは、ニセモノのお兄様を見抜けなかったことでした。
前世のことをみんなバラしてしまっては、お兄様と私だけが知っている知識で本人確認することができなくなってしまうのは明らかなのに。
なにが、「お兄様に会えばわかる」よ、わたくしのバカバカバカ・・・
この世界は現代日本とは倫理観が違う。
周りは、お兄様以外は、全員敵だと思わなくては。
わたくしがひとしきり後悔を終えると、女神が現れました。
「どうやらあなた方の意識は、転生先の元々の人格にだいぶ影響を受けるようですね。」
そのようですね。実感してきましたところです。
あたりをもう一度見回しましたが、わたしと女神の二人だけでした。
「お兄様は?」
「貞夫さんは次の世界から転生されますので今は世界の創造待ちの状態です。」
えっ?先程の世界にはお兄様はまだいらっしゃらなかった?
つまり、わたくしが噂を広めてもお兄様に伝わることはありえなくて・・・
無駄死に・・・?
「あなたは『先に転生する』とおっしゃっていたので、お一人で偵察に行かれるのかと。」
このとき、わたくしの心にマリエルに対するトラウマ・・・苦手意識が芽生えたのでした。
ですが、いつまでも落ちこんではいられません。お兄様が待っているのですから。
「それでは、もう一度マリエルに転生させていただけますか?今度は意識を引っ張られないように注意しますから。」
そう女神に告げると、女神は首を横に振った。
「今はマリエルに転生することはできません。彼女の運命はでデッドロックに陥ってしまいましたから。」
「運命?デッドロック?」
「はい、彼女の運命は固定されました。異世界人の生まれ変わりの妄想を抱き、いもしない兄に憧れたあげく、詐欺師に騙されて命を落とすという悲劇に。」
悲劇というよりは喜劇ですけれど・・・
「それでは、わたくしはどうなるのです?」
「あなたは、この世界でこれまでに出会ってきた女性の中からであれば誰にでも転生することができます。」
わたくしが知っている方であれば誰にでも?
急に言われても困りますわね・・・
マリエルはお兄様との再開を夢想して引きこもるインドア派でしたから、あまり知り合いは多くありません。
「顔を思い出せる程度でも大丈夫ですよ。」
女神がアドバイスをくれました。
顔を見たことがある程度ならば・・・
マリエルのお父様はお金持ちでしたので、色々な人が会いに来ていました。
その中に・・・今思えば不審な女性がいました。
中央から来た査察官を名乗る男性と一緒にいた銀髪の少女。
男の若い妻か娘かといった関係に見えましたが、主導権は少女のほうが握っていたようでした。
しかも、あろうことかその少女はお父様を誘惑して一夜をともに・・・って、それはその場を見たわけではないので憶測ですが・・・
でも、あの女性の怪しいオーラをわたくしは確かに見たのです。
それまでに見たどの人間とも異なる闇色のオーラ。
あれは、多分・・・魔族。
人類の様子を探りに来たスパイ。
「質問なのですが、人間以外にも転生できるのでしょうか?」
わたくしがダメ元で女神に尋ねてみますと、
「はい。おおよそ女性に分類されるものであれば、人だけでなく、魔族や魔獣なんかにも転生させてあげられます。・・・ですが、魔獣に転生した際に今の思考力をそのまま保てるかはわかりません。ケモノは本能だけで生きていますから。」
意外な答えが返ってきました。人間以外も選択できるなんて。
本能に支配されてしまうのはちょっと・・・ですが、同じ人型であれば、大きな問題はないでしょう。
わたくしは彼女のことをより深く思い出そうとしました。
名前は、確か・・・

[リーシャのペルソナ]
それが私、リーシャってわけ。
男を誘惑する能力に長けたサキュバス族の女王の娘。
まだ13歳に満たないのに、立派に育った胸と自分も見惚れるほどの美貌を持っている。
しかも、1000年に一人と噂されるほどの魔力の持ち主!
すでに魔族の男どもを骨抜きにして100人斬りを達成していた。
もちろん、同じ魔族なので命までは取らないように気をつけてきたけどね。
そんなカンジで魔族として暮らしてきたけれど・・・
[恵那]
わたくしは、リーシャのことを内心軽蔑しつつもなんとか正気を保っていました。
転生先の人格に飲まれないよう、わたくしは仮初めの人格『ペルソナ』を表に出し、一歩離れたところからその様子を見つめることにしました。いわば人工的な二重人格です。
普段はペルソナの自由にさせ、必要に応じてわたしがその思考を修正してきました。
お兄様でない男と交わるなんてお断りでしたが、サキュバスにとっては『食事』ですので仕方ありません。
本当のわたくしの身体ではない、と思ってやり過ごしてきました。
それに、男たちがわたくしの・・・リーシャの身体に簡単に溺れていくのは少し小気味よいものでもありました。
そんなとき、次期魔王選別の儀式があるとの噂を聞きつけました。
これはチャンスです!
魔族は力の強いものが一番偉いという社会ですので、次期魔王として認められれば魔族領において自分の好き勝手にする権利を得ることができます。きっとお兄様と出会うのにも役に立つでしょう。
リーシャ(ペルソナ)の方も乗り気なようですので、魔王を目指してみましょう。

[リーシャのペルソナ]
で、色々な試験を乗り越えて今、私は他の二人の候補と一緒に魔王様の前に並んでるってわけ。
魔王様は黒髪ロングの私達とそれほど年の変わらない少女だけど、捻じくれた角とガン決まった眼が異彩を放ってた。
そのガン決まった眼が私達をゆっくり舐め回すように向けられたあとで、魔王様は手を掲げて声を上げた。
「我らが神、テネブラエの選択をここに!」
すると、頭上の空間がぐにゃりと歪み、それが現れた。
ヤバイ。
空間の裂け目から、人の腕くらいの太さの触手が這い出してきている。
アレハヤバイ。
魔族や魔族領に住む魔獣たちには触手を持つものもいるから、触手自体は見慣れている。
ヤバイヤバイヤバイ・・・・
でも、ただの触手一本があんな魔力・・・目の前の魔王さえ凌駕するような魔力を放っているなんて!
全身にギュッと力がこもる。
魔王になれば好き放題できるなんて、どうして考えてしまったんだろう?
こんな大きな力、どうして私がどうにかできるって考えてしまったんだろう?
こないで!
私を選ばないで!!
心のなかで祈る私。
そして、ポンッと私の頭に何かが触r・・・
[恵那]
リーシャの中に何かが入ってきました。
体中が過剰な魔力で満たされていきます。
その衝撃でわたくしはペルソナどころではなくなりました。
心の奥底から別の感情が湧いてくるのです。
コロセコロセコロセコロセ・・・
わたくしの中をわたくしのものではない激情が走り回っています。
この感情に身を任せてしまったら・・・わたくしはわたくしでなくなってしまうでしょう。
わたくしは必死でその感情を抑え込みました。
コロセコロセコロセコロセ・・・
ですが、抑えつけるだけではこの感情は消せません。
どこかで解消してしまわなくては。
わたくしは指先に魔力を集中させました。
その指先にナイフの刃ほどの長さの真っ赤な爪が現れました。
サキュバスの持つ物理攻撃のひとつ、魔力でできた爪です。
普段は半透明のホログラムのような爪が、今や魔力が結晶化して完全な物質になっています。
わたくしは意を決して、人差し指を立てると、それを目の前の魔王、前魔王に向けて横に振り払いました。
スパァァァン!
空を切った爪から生じた衝撃波が小気味よい音を立てて前魔王を通り過ぎ、
その首がゆっくりと地に落ちていきました。
前魔王は笑っていました。
「次は、あなたの番だ。」
そう言っているようでした。

[リーシャのペルソナ]
私は魔王の座を手に入れると、早速行動を開始することにした。
「そこの竜人族、適当に兵を見繕って人間領へ攻めてきて。」
魔王権限で、継承の儀のときに端の方で見ていただけの背の高い竜人族に無茶振りする。
「えっ?我が?」
彼は驚いた顔を浮かべたが、魔王の命令なので拒否権はない。まあ、魔王の命令を盾にすれば手勢も集めやすいでしょ。
彼の軍勢が人間領で騒ぎを起こしている間に、私は私で玉座を空っぽにして人間領へ潜入するのだ。
お兄様を探すため。
お兄様というのは、わたしの前世のお兄様。
わたしが異世界人だってこと、「最近思い出した」の。
そうじゃなきゃ、「わざわざ魔王が人間領へ行くわけがない。」
きっとお兄様は前世の知識や知力で勇者と呼ばれる位の人になっているはず。
有名な勇者に一人ずつ会っていけば、そのうちお兄様にであえるでしょ。
今の私にはソウルドレインというサキュバス族の秘技がある。魔力や生命力など、様々なエネルギーを吸い取るドレイン技の中でも、相手の魂を奪ってしまう恐ろしい技だ。
魂・・・つまり、人の意志やそれを形作る部品である記憶、それらをのぞき見たり奪ったりすることができるのだ。
ただし、そのためには相手に密着し、相手の魂を無防備な状態・・・つまり絶頂状態にしないといけない。お兄様以外の人間と交わるのは気が引けるけど、お兄様を見つけるためだし、サキュバスの本能に身を任せていればすぐに終わるので気にしないことにする。
早速数人の勇者と接触したけど、魔王の力なのか私自身の力なのか、皆面白いように簡単に誘惑に引っかかってくれた。
でもハズレ、お兄様じゃない。
口封じも兼ねて全て吸い尽くしておこっと。
そうこうしているうちに魔族の侵攻を人間が防ぎきったとの噂が聞こえてきた。
若い勇者パーティーが激戦の末、魔族の将軍を打ち破ったと。
きっとその勇者がお兄様ね。
早速会いに行きましょ。

[恵那]
なんてこと!
お兄様が・・・息をしていない・・・
あぁ・・・失敗です。
久しぶりにお兄様とお会いして、愛し合えたうれしさに、ついついやり過ぎてしまいました。
サキュバスの本能まる出して絞りきってしまったのです。
仕方ありません、この世界はあきらめてやり直しましょう。
わたくしは赤く伸ばした爪を自分のみぞおちに当て・・・ふと疑問に思いました。
もし、お兄様がここで亡くなることが、もしくは、リーシャがここで亡くなることが、世界滅亡を防ぐ鍵でしたら?
女神との約束が果たされてしまってやり直しができなくなってしまいます。
それは困ります。
きちんと世界には滅びてもらわなくてはいけません。
そして、わたくしは世界滅亡の鍵を探して・・・闇の神に目を付けたのです。
狂える混沌と呼ばれるその神に。
その邪神、テネブラエが大聖堂に封印されていることを突き止めたわたくしは、大神官をたぶらかしその封印を解き放ったのです。
闇色のオーラが大神殿からあふれ出し、首都の上空に集まっていきました。
それは巨大なアメーバ状の不定型な存在でした。直径100メートルはありそうな巨大な黒い塊。真っ黒な粘液をベースとし、大小様々な触手がうねっている。さらに身体の表面に手、足、胴、頭、顔といった人体を構成するパーツが何百と無数に乱雑に浮かび上がっているのでした。しかも人だけでなく多種多様な魔族の構成部品もまぜこぜになってその巨体にびっしりと浮かび上がっていました。中には乳房や女陰など、女性を想起させる部位もありました。まさしく混沌の邪神と呼べる存在でした。
邪神はズズンと何十軒もの建物を押しつぶして着地しました。
邪神は周囲を取り囲む人々を、その触手を伸ばして捕まえ、引き寄せていきます。
その相手が男だった場合、邪神の体表に浮かぶパーツが寄り集まって一人の女性の姿を形成し、その男に抱きついてはおちんちんを口に咥えたり、胸に挟んだり、腰を打ち付けるなど、エッチなことをしてエネルギーを吸い取っていきました。
その相手が女だった場合、その女性は邪神の本体に取り込まれ、バラバラのパーツとなって邪神の本体に浮かび上がってくるのでした。
いかにも混沌の邪神らしい、冒涜的な振る舞いです。
邪神は人々を飲み込みながらどんどんと広がっていきました。
人々はその姿を見つめたまま、動くことができませんでした。
多くの人は、それを見た瞬間に発狂してしまっていたのでしょう。
わたくしのなかの魔王の力が、「今すぐいこう!あそこに加わろう!」と呼びかけてきます。
ですがあれに飲み込まれて、いくつもあるパーツのひとつに成り果てるのはゴメンです。
わたくしはわたくしの手で、自分の心臓を握りつぶしたのでした。

わたくしは真っ白な空間で女神と向き合っていました。
「あれが、世界の滅亡の原因なのですね。」
「すくなくとも、滅亡の鍵となるものです。」
女神は含みのある言い方をしました。
邪神の復活以外にもなにかあるのでしょうか・・・
はっ!それよりもお兄様は!?
あたりを見回すと、少し離れたところにお兄様ともう一人の女神とが見えました。
「お兄様!よかった。わたくしはここですわ!」
しかし、こちらから呼びかけてもお兄様は反応しませんでした。
「貞夫さんは恵那さんを知覚できないようですね。本人が会いたいと思わないとここではその存在を認識することができません。」
なるほど。お兄様はわたくしと情報交換して、わたくしが誰に転生するのかをネタバレで知りたくないのですね。
それなら、わたくしもお兄様をびっくりさせてあげられるような人物に・・・そういえば・・・
「あの邪神・・・テネブラエといいましたか?あの神は見たところ女性神のようですが。」
「そうですね。」
「では、テネブラエに転生することは?」
「できます。」