『今回アグネスタキオンのラボから学園内に流出したガスは「ヒトを物理的に縮小させる薬」が揮発したものとなります。命の危険はないとのことですが、万が一に備え各トレーナーは効果が切れるまでその場で待機を──』

 またか。トレセン学園に勤めて三年になるミホノブルボンのトレーナーは、だぼだぼを通り越し衣服としての意味を成さなくなった自分の制服から這い出した。

 こういった奇妙な出来事は、このトレセン学園では珍しくない。個性豊かなウマ娘たちが多数在籍するこの学び舎では毎日がトラブルのオリンピック状態なのだ。アグネスタキオンが事故や故意で不可思議な効果をもたらす薬品やガスを散布することも、これで何度目のことか、トレーナーの記憶が正しければ、もう両手の指よりも多い。

(しかし身体が小さくなるなんて、某名探偵みたいに若返る方がまだ現実味があるな)

 直前まで使っていた汗拭き用のスポーツタオルを拾い上げ、腰に巻く。これができてしまう時点で子供になるよりも厄介な状況に陥っていると推察できた。

(目算で大体四十センチに届かないくらいか……だいたい百六十センチのブルボンの膝下より低いくらいだな)

 大体一歳児や二歳児と同じくらいの背丈、これでは椅子やソファーに上がることも難しい。薬の効果が切れるまでどれくらいかかるかは不明だが、部屋から出ることすらできないので、今はトレーナー室で待つしかない。
 とりあえず床に座り込むのもなんなので、脱ぎ捨てる形になった衣服でも下に敷いて休もうかと思ったその矢先、

「マスター、こちらにいらっしゃいましたか」

 がちゃりと扉が開いて、担当ウマ娘こと愛バのミホノブルボンが部屋に入ってきた。そしてすぐに小人になってしまったトレーナーを見つけると、早歩きで近づいてくる。どうも放送を聞いて探しに来てくれたらしい。床に近い位置にいるからか、こちらへ近づいてくる足音が妙に大きく感じた。

(これは助かったな)

 情緒は少し幼いが、年相応に冷静沈着な一面を持つ彼女に保護してもらえば一安心だ。そして目の前にきたブルボンを見上げて、おーいと手を振って、うっと固まった。

「……マスター?」

 眼下の自分を見下ろすブルボンの顔は目元から上しか見えなかった。たぷんと揺れて制服を膨らませ主張する大きめの胸部が、下から見るとこんなに迫力満点に感じるとは、トレーナーも知らなかった。

 それにスカートの中も丸見えである。トレセン学園ではその性質上スパッツの着用を義務付けられているので、下着がもろ見えという事故は起きなかったが、それにしても不用心が過ぎた。彼女自身がそういったことに無頓着なことはこの三年間で良く知っていたつもりだったが、鍛えられむっちりとした太ももの付け根とくっきり形を浮き上がらせる三角地帯を見せつけられるのは、健全な男性であるトレーナーには目の毒だ。

「どうしましたか?」

 けれどもスカートの中を見られている彼女は何も気にした様子がない。悲鳴をあげて蹴られでもしたら即死するので助かったとも言えるが、どうも彼女は情緒の幼さ以前に羞恥心が薄すぎる気がした。親心から、現状の保護責任者である彼は彼女の今後が少し心配になってしまった。

「いや、その……なんでもない」

「そうですか、それではオペレーション『マスターの保護』を開始します」

 言うが早いか、屈んだブルボンの両腕が伸びてきて、何を返す間もなく身体が宙へ浮く。縮小する前ではまず感じることはない浮遊感に「うおおっ」とトレーナーが慄いてると、彼の脇に手をやって持ち上げたブルボンが困ったように眉を曲げた。

「……マスター、私にはこのサイズのヒトを抱きかかえた経験がありません。どのように保持するべきでしょうか」

「あー……そうだな……」

 聞かれ、トレーナーはとりあえず「下から支えるようにして、横向きで腕に抱きかかえてくれれば助かる」と答える。小型犬や赤ん坊を抱っこする際の基本姿勢だ。指示を受けて頭の中でシミュレートしたのか、数秒待ってから「了解しました」ブルボンが慎重にかつ手早くトレーナーを持ち替えて、

 むにゅりと、自身の胸へ横向きにトレーナーの顔をうずめた。

「ぶっ、ブルボン!?」

「はい、なんでしょうかマスター」

 軽い接触はするだろうとは思っていたが、まさか思い切り押しつけるような形で教え子の胸に触れさせられるとは想定していなかった。せめて胸から身体を離そうと慌てて身じろぎするが、

「お気をつけください。この高さから落下した場合、ヒトであるマスターは重大な怪我をする恐れがあります」

「ぐむっ……!?」

 それを抑えるように、ブルボンの抱擁がきつくなるった。自分の四分の一にも満たない大きさしかない小人トレーナーを己の発育が良いメリハリボディに押しつけて「暴れないでください」口調は静かだが、巨人と化したウマ娘の腕力は暴力的なまでに力を発揮し、トレーナーを布越しに柔らかい膨らみへ押し込んでしまう。

 腰にタオルしか身につけていない小人の全身を十代後半の女子が持つ体温が包み、制服越しの女子特有の柔らか感触をダイレクトに受けて、これはよくないと離れようとする。が、やはりブルボンが少し力を入れるだけでひ弱なトレーナーは身じろぎしかできなくなる。

「? なぜマスターは抵抗するのですか?」

 彼がどうして自身から離れようとするのか、情緒がまだ未発達である故にその意味をよくわからないブルボンは、とにかく彼の安全を優先した。「お静かに」と彼の後頭部に手をやると、自分の身体部位で一番柔らかく衝撃を吸収できて、かつ密着させても怪我をさせない二つの膨らみの間へと、上半身ごとむにゅうと埋め込む。

「!? っ! ~!」

 顔面からブルボンの双峰の間にのめり込み、口も柔らかく塞がれたトレーナーが身振りで制止を促そうにも、精々脚をぱたぱたと揺らすことしかできない。トレーニングで体幹を鍛えられている彼女からすれば、そんな抵抗はまったくと言って良いほど意味がない。

「……マスターの沈静化を確認、このままミッション『マスターの保護』を継続します」

 膝下以外の身動きを取れなくしたことでトレーナーが落下する危険はなくなったと判断し、ブルボンは腕を揺らしてしっかりとその小さな身体を保持し直す。そうしてしまえばもう、赤子と化した彼にはどうにもできない。
いや、体積で言えば同じ身長の幼児よりも小さく軽く非力なのだ。もし相手がウマ娘でなくヒトの桐生院トレーナーだったとしても、逃げることはできなかっただろう。

「未知のステータス、高揚と安心感を感知。小さくなったマスターをこうしていると……心が温かくなります。とても不思議な感覚ですが、悪くありません」

 どこかうっとりとした様子のブルボンが、胸元で動けなくなったトレーナーの頭を優しく撫でて微笑む。まるで我が子をあやすように、庇護下となった小人をよしよしとなだめようとする。彼女の持つ母性本能が発揮されているとでも言うのだろうか、もしここにスーパークリークがいれば、間違いなく肯定していただろう。

 対し、こうなってしまうとただでさえ身体能力が劣っていた上で幼児サイズにされてしまったトレーナーに為す術はない。ブルボンの持つ豊かな谷間から漂う甘く若い体臭を制服の布越しに吸わされ、恥ずかしさで顔を真っ赤にするしかなかった。

「マスター、現在学園所属のウマ娘によって各自のトレーナーを保護するようにと理事長からの指示が出ています。安全を確保後は薬の効果が切れるまで守るようにとのことです」

 ブルボンが窓の外を見る。広いグラウンドではトレーニング中だったウマ娘たちが約四十センチまで縮んでしまった己のトレーナーたちをそれぞれの手段で『保護』しているのが見えた。

 衣服の山から出てきた全裸のトレーナーに急いでタオルをかける者。すぐさま抱き上げてかわいいと頬ずりをする者。裸を隠すためにと慌てたのか、自身の衣服の中へ突っ込んでしまう者もいた。

 中にはブルボンの見知った顔もいて、ライスシャワーの足下にいた彼のトレーナーが、次の瞬間には興奮を隠せない担当のジャージの中へ押し込められて視界から消えた。もごもごと抵抗していたその動きごと細い両腕に抱きかかえられて、どこかへと運ばれていってしまう。

 また別の場所を見れば、同じ逃げウマ娘であるキタサンブラックが全裸のトレーナーを自慢の尾でぐるぐると巻き上げ、そのままウマ娘寮へ向かっていくのが見えた。ブルボンも尻尾の力には自信があるが、なるほどああやってトレーナーの保護をするのも合理的かもしれない。あのようになれば四十センチ程度で小型犬より華奢なヒトは抵抗できない。艶やかな尾は大蛇のようなものだ。

 気付けばその隣にはサトノダイヤモンドもいて、こちらはブルボンよりも豊かな胸の谷間へトレーナーを完全に挟み込み、その頭を優しく撫でながら幼馴染みと談笑し、同じ方向へ歩いているのも見えた。胸元に抱くのもやはり安全な保護方法なのだろう。実際、脚も動かさなくなった自身の担当トレーナーは自分の腕の中でおとなしくなっている。

 しかし、態々トレーナー立ち入り禁止のウマ娘寮へ運ぶのは何故なのか、セキュリティは万全で安全は確保できるかもしれないので、緊急事態ということで黙認されているのかもしれない。ブルボンはそう推測して納得した。
 実際にそこでこれから何が起きるか、身体は大人でも心がまだお子様なブルボンにはわからなかった。

 ただ少なくとも、ここまで聞こえる「バクシンバクシーン!!」の声と共にトレーナーを担いで猛ダッシュするよりは安全だろう。うんとブルボンは一人納得して、最後にニシノフラワーが抱っこしたトレーナーを体育用具室へ持っていくのを見送り、窓から離れた。

「ともかく、マスターの身体が元に戻るまではこうして私自らがお守りしますので、どうかご安心ください」

 より胸元の庇護対象を安定させるためにソファーへ腰掛け、今度は向かい合うように保持し直して、両腕を背中と後頭部に回して抱っこする。先ほどよりもみっちりとくっつき再度顔を塞がれるはめになったとレーナーは当然逃げようとするのだが、ほとんどブルボンの胸に抱きつく形になってしまえば、動けば動くほどその柔らかな母性の象徴にめり込んでしまう。

 だがトレーナーの抵抗はしつこく、密着した身体を離そうともがくのをやめない。こんな小さい動きを無視するなどウマ娘からすれば赤子の手をひねるより簡単だ。しかし、ブルボンはふと友人であるライスシャワーの対処法を頭に浮かべて、迷わず実行に移した。

「マスター、何がそんなに嫌なのかはわかりませんが、そこまで抵抗なさるなら仕方ありません」

 拘束が緩み、やっと女学生の抱擁から解放されたトレーナーが「ぶ、ブルボン」と呼びかけたのも束の間。

「追加ミッション『マスターの鎮圧』を開始します」

 お許しを。そんな言葉が聞こえた彼の視界に写ったのは捲りあげられた制服の裏地と、シンプルな淡い青のスポーツブラ、それに白い肌。えっと困惑したトレーナーの全身は、あっという間にブルボンの制服に捕食されてしまった。
 ほとんど全裸の身体とブルボンの素肌が触れ合い、きめ細やかでつるやかな腹部の感触に我を忘れかけて、直後にはぎゅううと先ほどより力強い抱擁に襲われて苦悶の呻き声をあげた。

 薄手のスポーツブラは大重量の張り出した乳を支える効果しか持たず、故に深い谷間を形成して小人を飲み込んだ。制服越しよりもぴっちりとトレーナーの顔面を、目も鼻も口も塞ぐ。視界いっぱいの肌色と微かな汗の臭いに呼吸すら許さず口を塞ぐ柔らかなバスト八十六の若々しい巨乳は、トレーナーに恐怖すら与える威圧感と圧力を持っていた。

 小人にされた今の自分の頭部は、この乳房片方よりも小さいのだ。それに埋められてしまったら、横を向いて呼吸を確保しようにもしつこく吸い付く餅肌がまとわりついて、助からない。
 トレーナーは恐怖した。大人と赤ん坊ほどの体格差になった担当ウマ娘に窒息させられる。しかも少女の持つ大きなおっぱいによってだ。なりふり構わず暴れようとしたが、ミホノブルボンの制服の一部にされてしまってからでは遅い。

 手足をばたつかせようにも、小さいと言っても流石に幼児一人を詰め込んだ制服の生地に余裕など生じない。ぴっちりとブルボンの胴体へ抱きつかされる形にされて、ばたつく脚も捕まって制服の中にしまわれて片手で元通りにされてしまえば、担当ウマ娘に同一化されたのと変わりなかった。バストサイズぴったりで作られた胸部部分もぱっつんぱっつんで、彼の顔の形に合わせてふにゅりと変形する膨らみで窒息するのを手助けしている。

 その上から、ブルボンはもう何も言わず弁明も許しも聞かず、ただひたすらぎゅうぎゅうと担当トレーナーを抱きしめて圧迫し続けるのだ。いくら口で言っても抵抗しようとするいけない小人はそうやって躾けるのが一番だと、上位存在であるウマ娘の本能が囁くのかもしれない。
 マスターは担当トレーナーであるが今はただの庇護対象でしかなく、言わば利かん坊の幼児と同じ扱いなのだ。言うことを聞かないならば、怪我を負わせないように死ぬほど苦しい目に遭わせて大人しくさせる。彼女はそう決めた。
 だから、小人がどれだけ助けを求めても、潰し続けた。

 数秒。うむうむと何か言おうとしているのを敏感な谷間の肌で感じて、くすぐったさを止めるようにより強く挟み込んで封じた。ぷすぅと小人から絞り出された空気が乳の内側を鳴らす音だけが聞こえる。息を吸おうとしたのか小さな口に乳房の極一部が吸われて「んっ……」思わず声が漏れた。

 十秒。横腹にある小さな手のひらが懇願するようにぺちぺちと素肌を叩く。しかしここで拘束を緩めては意味がない。ブルボンはレース中のような冷酷さで、むしろ力強く自分のお腹へ相手をくっつける。やがて命乞いの動きは爪を立てようとする抵抗に変わるが、ヒトのしかも小人の爪などウマ娘の強靱な肌に爪痕すら残せない。

 三十秒。胸元が濡れているのは自分の汗か、それともトレーナーの涙や鼻水や涎が付着したのか、その区別はつかない。密着した部分から聞こえる彼の鼓動が早まるのを感じる。確かに小人の抵抗が弱まっているのがわかり、もう少しだと膝を丸め、心を鬼にして最後の一押しと愛しのマスターをさらに強烈に押し潰す。

 それからすぐ。保護すべき鎮圧対象がぐったりと動かなくなったのを確認したブルボンは抱き潰す動きを止めた。背中と後頭部にまわしていた腕を緩めると、小人の体液で胸と顔の間で糸を引いた。自身の胸の中でどれだけ苦しんで気絶したのだろうか、その時のトレーナーの感情を思い浮かべて、少女は自身が軽く興奮していることを自覚した。ぶるりと、背筋が震えた。

 どうしてレースで勝利したときのような、否、近いようで少し違う高揚感が心を高ぶらせるのだろう。その答えを問うべき相手は、少女の衣服の内側でぴくぴくと痙攣して、辛うじて生存していることを証明することしかしない。

「ミッション達成を確認。続いて『マスターの警護』に移ります」

 こうして意識を奪ってしまえば、小人に抵抗されて怪我をさせることもない。なので制服から取り出しても問題ないのだが、ブルボンはそれをしない。まだしばらく、このまま衣服に大好きなマスターを閉じ込めて密着させていたい欲が産まれていて、それを咎める者はこのトレーナー室にいない。

 ただでさえ弱っちかったのに、小さくなってさらに可愛くなってしまった大好きなマスター。こうやって大事にしまっておけば、もう離れることもない。彼の実績に食いついた泥棒に狙われることもなくなる。可能ならば部屋に持ち込んでうさぎ人形と一緒に留守を任せてしましたい。夜眠るときも抱きしめて体温を感じていたい。きっと不自由するだろうからご飯やお風呂のお世話をしてあげたい。自分なしでは生きられないようになってほしい。

 できるならばずっと、小さいままで──

「……未知の感情ステータスを取得……ああ、これが」

 愛なのかもしれない。制服の中の小さなトレーナーを愛おしく撫でる彼女の笑みは、家族ですら見たことがないような妖艶さと歪みを浮かべていたのだった。