「皆さんがこの投稿にいいね!を押してくれた回数×1メートル!大きくなって見せちゃいますよ〜!」
「もし、実行出来なかったら…押してくれた皆さんの欲しいものを全員にプレゼントしてあげま〜す!」

なんだ、これ……
ふと見つけた投稿に思わず声が出る。
恐らく、この投稿を見た殆どの人はこの内容を信じないだろう。
彼女がテレビで大衆へと見せつける姿はそういう超常的な力を持っていない風を装う偽りの姿で、誰もアイツが途方もない力を持った怪物だという事実を知らないでいるからだ。

時々街が忽然と消え去るような怪現象が世界中で起きているのもアイツのデザートのトッピングにされてしまったせいだし、原因不明の地震はアイツが転送した街の側を指で何度も小突いていたせいだ。

指先で楽しそうに地震を起こし、その後、その地域の住民が漏れなく死亡したというニュースが流れている最中、「あーあ…プロデューサーさんが止めなかったから、みーんな死んじゃいましたね…♪」などと耳元に囁いてきたアイツのニヤニヤした表情が記憶にこびりついて離れない。

いつか、アイツの化け物のような力を公に知らせようと超能力の研究所に連れて行き、検査させたことがある。

アイツを見た時の研究者達の表情の変わりようは今でもハッキリと思い出せる。
メディアで見せている偽りの顔しか見たことも信じたこともない彼らが浮かべた嘲笑は、今でも思い出すだけで腹が立つ。
アイツは能力を使うことも隠すことも上手いようで、結果、どの機械どの実験でも尻尾を出すことは微塵もなかった。


一度だけ、人の命を弄ぶ行為を怒ったことがある。
だが当然聞く耳を持たれることはなく、逆に縮小されて脅されてしまい、それ以来アイツの行為に対して何も言えなくなってしまった。

「だって、こんなにちっちゃいのが私と同じなわけ無いじゃないですか…♪」
これは俺を縮めたアイツがその時言い放ってきた言葉だ。
その言葉を聞いて以来、自分ではもう彼女をどうすることも出来ないと思い、プロデューサー業から身を引くことに決めたのだ。

それから数ヶ月。
アイツが消費したであろう街が忽然と消えたというニュースを聞くたび、どうか俺がいる街には力を向けないでくれという思いが強くなると同時に、平和な世界を密かに弄ぶアイツに対する憎悪も強くなっていった。

そして、こんな日常がなんだかんだと続いていくのかと思ったその日に、件の投稿がされてしまったのだ。


もう既にその投稿には何百万といいねが押されており、後は世界が終わる日、集計の締め切りまでのカウントダウンとなっていた。

深い絶望を味わいスマホの画面から目を逸らした時、突然の着信が入る。


着信者は、今にも世界を終わらせようとしているアイツだった。

「あははっ、元気ですか?世界を滅ぼす超巨大化を控えた最強サイキッカー、堀裕子です!」

今から地球上の全ての生命を葬り去る張本人だとは思えないほど軽い口調で話しかけられる。

返答する気はなかったが、はなからこちらの返答には興味がないようで、次々と話しかけてくる。

どうやら集計が終わるまでの間は暇なようで、一方的な話し相手として選ばれたらしい。

しばらくの間話続けると、「またすぐに会えますよ…♪」といい通話を切断された。

実際はすぐさま通話を切りたくても身体が言うことを聞かずに切れなかっただけなのだが、電話越しに身体の自由を奪うアイツの底知れなさに恐怖を通り越して感服してしまう。

電話が終わり、自由になった身体で時計を見ると既に集計は締め切っており、後は世界の終わりを体験するだけとなっていた。

急いでSNSを見てみると、巨大化し始めるアイツに驚きつつもゲラゲラ楽しんでいる人々の投稿が見られた。
が、その流れも一瞬で終わり、「どこまで巨大化するのか」「早く逃げないと」などと言った投稿が次々とされていく。

「ムムムムーン!」と力を入れながら巨大化を繰り返すアイツの映像が投下され、それを見た人々も慌てふためく。

ふと、窓の外から走る人々の足音、叫び声が聞こえることに気づく。
それと同時に、スマホのスピーカーでない場所から「ムムムムーン!」と微かな声がするのが聞こえ、破壊の巨体が近づいてきていることを悟った。

「ムムムムーン!」

さっきより近い場所から声が聞こえてくる。
地面が軽く揺れ、遠くで爆発するような音も聞こえた気がした。

「ムムムムーン!」

更に近い場所から、激しくなった揺れが襲いかかってくる。

「ムムムムーン!」

声が部屋中に反響して、耳を塞がないと耐えられそうもなくなってくる。

「ムムムムーン!」

窓から見える遥か遠くのアイツの顔が見切れ、窓ガラスにヒビが入り、鼓膜がビリビリとなる感覚がする。

「ムムムムーン!」

もう誰もアイツの声に耐えられないだろう。
目の前の家屋が爆ぜ飛び、意識が消え失せる。

「ムムムムーン!」

…………。



「ムムムムーン!」



「ム ム ム ムーン!」




「ム  ム  ム  ムーン!!」



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「人が軽く巨大化するだけで滅亡するなんてほんっと、どうしようもなく弱いですねぇ…」

12,742kmの地球に玉乗りしているように見えるほど巨大な少女、堀裕子が毒づく。
地球の2倍を越える程の巨大化に地上の人類が耐えられるはずもなく、滅亡してしまったのだ。

「ジャンプして惑星と一緒に滅ぼしてあげようと思ったのに…」

「あっでも!ふふっ…いいこと思いつきました…♪」

そういうと、持ち前の底知れない能力を発揮し、一瞬で人類全てを丸ごと蘇生させてしまった。

「地球に住む微生物の皆さーん!私、堀裕子の巨大化は完了いたしましたー♪」

しかし、その一言が伴う音波は再び地上を破壊し尽くせる程の力を持っており、またもや一瞬で人類は滅亡してしまった。

「…せっかく生き返らせてあげたのに…でも、何度でも遊んであげますからね…♪」

そういうと、彼女は三度人類を復活させるのだった。