はじめに
 有害なお話が続きます。お願いですから未成年者は以下の物語を読まないでください。あからさまな著作権侵害行為もご遠慮願います。でも、切れの鋭いパロディだったら大歓迎です。オリジナルなんかよりずっと笑えるやつを期待してます。以上を遵守していただくことを前提として、物語にお進みください。

薔薇色の夜明け・4
by JUNKMAN

*****

「うわああああああああああ」
キツネ目は肌色の坂道をもんどりうって転がり落ちた。滑降ゲレンデのような急斜面だ。このまま転げ落ち続けては命がない。止まれ。何としても止まれ。そうだ、その前に体勢を立て直そう。キツネ目は転げながら体位を修正して何とか腹這いの姿勢を保てるようになった。両手をいっぱいに伸ばして暖かな肌色の急斜面に張り付こうと試みる。ダメだ。何とか体勢は安定したが、足を下にしてずるずると滑り落ち続けている。止まらない。何か、何か、何か手掛かりはないのか?
ぴた。
「あ・・・」
滑落が止まった・・・急に足がかりができたのだ。
「・・・た、た、た、助かったんだな・・・」
おそるおそる体勢を入れ替える。せりあがって張り出した足場は思ったよりも広かった。この足場はどうやら荒縄ほどもある太い糸で織られた布地であるようだった。こんなに太い縄で織ってあるのだからきわめて強固な構造である。力いっぱい押してみたところで皺一つできない。ただし、織り目は粗い。キツネ目ならこの織目の隙間を自由に往来できそうだ。この布地は足場より下の斜面全体を覆っているらしい。ただ、下を覗き込むのは怖いので詳細はわからない。
足場に立ってみる。広いのでそんなに怖くなかった。臆病なキツネ目ですら、両手を放しても平気だ。もっとも、決して水平ではないので移動するためには這い蹲って進む方が良さそうだ。
さて、この足場の上に立つと、なんとか広い視野が取れるようになった、が、肌色の斜面を背にすると前方は一面が白いスクリーンで遮られていて、やっぱり全体像は掴めなかい。しかたなく横を向くと、その20メートルほど先でやはり足場にアゴが腰を下ろしていた。
「危ないところだったなあ。」
「な、な、何が起こったんだ?」
キツネ目は足場に沿ってアゴのもとに這い寄った。アゴのほうがやや高い位置にいたため、這って進むのもそんなに怖くはなかった。
「さっき、F15が一機、あの小娘、っていうかでか娘の顔に突っ込んだんだ。」
たどりついたキツネ目に、アゴは平然として状況を説明し始めた。
「そのはずみで、俺たちは掌から取り落とされたってわけさ。」
「じゃ、ここはどこなんだ?」
アゴは上方を指差した。指差す方向の100メートルほど先で、白いスクリーンが途切れている。スクリーンに面していた肌色の壁は、その境界を超えてまだまだ上まで続いていた。
「あそこから、落ちてきたんだ。あそこは胸元だよ。」
「え?・・・じゃあ」
「そうだ。俺たちはこのばかでかいセーラー服の内側に落っこちたんだ。」
「!」
キツネ目は思わず自分の足元を見た。
「じゃ、じゃ、これはなんなんだよ?俺たちのこの足場は何なんだよ?」
「ブラジャーさ。」
アゴはこともなげに答えた。
「正確に言えば、ブラの上縁だ。」
「え?!」
キツネ目は吊り上った目を丸くした。
「ブ、ブラの上縁って、俺たちはこの上に立てるんだぜ。ほら、平気で両手を放して立てるんだぜ。そんなのがブラの上縁だなんて、そ、それじゃ俺たちは布切れの厚みの上に立てるってことかよ?ありえないよ。」
「だってそうなんだからしようがないだろ。」
アゴは首をすくめてみせた。
「お前だってわかるだろ?この心臓の鼓動くらいさ。」
「え?」
確かに気になっていた。肌色の急斜面が、どっくんどっくんと重低音を発し、足場もそれに合わせて突き上げるように震えていたことを。これが、鼓動か・・・確かに、言われてみればそんな感じのリズムにも思える。
「この鼓動は俺たちが胸のまん前にいるっていう証拠さ。わかったか?俺たちのサイズなんてアリンコにも及ばないんだぜ。あの娘にとってはゴマ粒みたいなもんさ。自分がゴマ粒になったつもりで考えてみろよ。この娘はまだまだ子供だから、乳なんてまだ膨らみきってもいないんだろうけどさ、それでもほら、」
アゴは下方を指差した。
「見ろよ。このブラジャーが覆ってるのがみんな乳だぜ。真横になった東京ドームってかんじだな。ともかく、でかい。」
キツネ目も怖々と斜め下を見る。眼下には、確かにたおやかな2つの峰が突出していた。それぞれが直径75メートルくらい、前方へはこの足場から緩やかに50メートルほどもせり出しているだろうか。
「カップにしたらAか・・・いや、見栄を張ってBかな。でもそんな小娘の乳が、俺たちにとってはこんなに巨大なんだからなあ。」
「あ、あの先端でつんと尖っているのは・・・」
「下に乳首があるんだろ。それだって、ちょっとした家ぐらいの大きさはありそうだが。」
キツネ目はわなわなと震えだした。
「でかい・・・でかすぎるよ。こんなに巨大な少女なんて・・・ありえないよ・・・」
「ふ、俺たちの小ささが良くわかっただろ。ブラジャーの上縁に立つのがへっちゃらだってこと
も、身に沁みてわかっただろ。」
「・・・・・・」
キツネ目の胸は屈辱感でいっぱいになった。自分はこの超巨大な女子中学生のブラジャーの縁に立っているのだ。手をつくこともなく悠々と立っているのだ。キツネ目は、この超巨大女子中学生が、ブラジャー一枚になって姿見の前に立った姿を想像した。鏡に向かってにっこりと微笑みかける。とびきり上等な美少女の魅惑的なセミヌードだ。ちょっと見ただけではそれだけのことでしかない。おそらく、姿見を見る彼女自身も気づくことはないだろう。だが、胸に注目してみろ。蕾みのような乳房を覆うブラジャーの、その上縁を特に注目してみろ。ほら、そこにゴマ粒のような影が2つ見えるだろう。更にズームアップしてみれば、そのゴマ粒は人間の形をしていることがわかる。それが俺たちだ。ブラの上縁に立たされた俺たちだ。俺たちはこの少女に気づいてもらおうとして、姿見に向かって必死で両手を振る。死に物狂いで手を振る。だが、その姿が少女の目に留まることはない。小さいのだ。小さすぎて、気づいてすらもらえないのだ。こんな至近距離で手を振っているのに・・・そのかわりに、少女はもう一度鏡に向かって微笑む。大輪の薔薇の花のように微笑む。そして胸をつんと突き出してポーズを取るのだ。彼女はついに堪えきれず笑い出す。声を上げて笑い出す。身体をよじって笑い出す。俺たちの小ささをあざ笑って、満面に喜色を浮かべながら・・・
「・・・俺たちのことなんか、気づきもしないはずさ。好都合だ。このまま上手く地表まで降りられたら、俺たちは無事に帰還できると思うぜ。」
キツネ目が夢想する間にも、アゴは現実的な対応策を練っていた。
「お、お前・・・前向きだな・・・」
キツネ目は半ば呆れながらアゴを見た。アゴは真剣そのものである。
「でもさ・・・それなら、ここって、地上1000メートル以上あることになるよね。」
「ああ」
「無理だよ。そんな高いところから、どうやって降りろっていうんだよ!」
「わからないな。」
アゴは、両手を肩の高さくらいに挙げてお手上げのポーズをした。
「だが、とりあえずあそこには行ってみる価値があると思わないか?」
アゴはキツネ目の肩越しに斜め下を指差した。キツネ目はおそるおそる振り返る。
「あそこって・・・どこのことだよ?」
「ほら、懐かしいものが見えるだろ。」
アゴの指差す方は、2つの東京ドームの調度真ん中くらい、アスカのあまり深くもない胸の谷間に相当する部分だ。ブラの上縁である2人の足場はこの地点に向かって緩やかな下り坂になっており、そしてそこからまたもう一つのドームへの登り坂が始まる。キツネ目は、ちょっと見にくいこの中間点を、見を乗り出すようにして確認した。
「・・・あ!」
「わかっただろ。」
戦車だ。74式戦車だ。さっきまで彼ら2人が搭乗していた戦車だ。あんなところに・・・
「俺たち生身の人間とは違って、流石に戦車は重いからあそこまで落ちてやっと引っ掛かったんだな。」
「ああ・・・でも、」
キツネ目は眉をひそめてアゴを問い詰めた。
「あんなところにいってどうするんだよ?安全に地表に戻れる作戦でもあるのかい?」
「ないよ。」
アゴは涼しい顔で答えた。
「どうなるかなんてわかったものじゃない。ただ、俺はここでじっとしていて生殺しにされるのが嫌なんだ。そのくらいなら動いているほうがいい。たまたま、目の前に俺たちの戦車が見えた。だからそういうことだ。行くぞ。」

*****

キツネ目とアゴの2人は、慎重に、慎重に、アスカのブラジャーの縁に沿って下っていた。足場や手がかりは悪くない。彼らにとっては布地の糸の一本一本が両手で握り締めるほどの荒縄に等しいのだ。しかも布目の隙間も十分にある。足場は良好だ。もっとも、あまりにも目が粗いので、キツネ目は足を踏み外してその隙間に落ち込んでしまった。
落ち込んだ先、すなわちアスカのブラジャーの内側は、少女特有の花びらのような体臭で満たされていた。そこでは乳房に直接触れてみることができた。
暖かく、しっとりとはしていたが、硬かった。
キツネ目が全身の力を込めて押してもびくともしない。
そのかわり、満ちているのだ。
ぱんぱんに張り詰めているのだ。
そのエネルギーは、むせかえる臭いとなって溢れ出している。
このぱんぱんの皮膚から、甘ったるい暴力的な体臭となって溢れ出している。
今はただつんと尖っているだけのこの乳房だが、近い将来にこの少女がもっと「成長」すれば、充満した若いエネルギーが花開き、もっと膨らんで、もっともっと膨らんで、もっともっともっと膨らんで、盛り上がり、そして柔らかな女性らしいバストへと変貌していくのだろう。そうだ、そのころには俺たちが素手で登ることなどできないほど急峻に聳え立つ「乳房山」になるのだ。キツネ目は、本格的な登山の扮装をしてザイルを使いながら巨大な「乳房山」を登山する自分の姿を想像し、余計に眩暈がしてきた。
ダメだダメだ。こんな臭いを嗅がせられて頭がいかれてしまったに違いない。キツネ目はもう一度布目の隙間を潜り抜けて外へ出た。そこですらまだ巨大少女の体臭が満ちてはいたが、ブラの内側よりはよっぽどましだ。それに移動はたやすい。ただし、外では落下の危険がある。だから慎重に進んでいく。慎重に、慎重に。
どのくらい下ったことだろう。もう一つの乳房が目前に迫ってきた。ここまで下ると、たかが見栄を張ってBカップ程度のバストとはいえ、それらが作り成す渓谷は徐々に深まって、逆に見上げる乳房の偉容はますます迫力を増してきた。
「着いたぞ。」
先を行くアゴが声を出した。目標の74式戦車が、その渓谷の最も深まった地点で、胸板とブラの間に斜めになって差し込まれている。なんとも情けない姿だ。
「おお、大きな破損もないみたいだぞ。」
アゴはためらいもなくその戦車の上に飛び乗った。キツネ目は不安そうに声をかける。
「の、乗ってみるのか?」
「せっかくここまできたんだから、中に入らない手はないだろう。携行しておいた方がいい備品だってある。」
そう答えると、アゴはさっさとハッチを開けて斜めになった車輌内に姿を消した。ためらっていたキツネ目も、意を決してその後に続いた。
上方から声が轟いたのは、そのまさに直後であった。

「あ!やだあ!」

ぎょっとしてキツネ目が顔を出すと、真上から覗き込むアスカと視線がぴったり合った。

「何か胸のあたりがゴロゴロすると思ったのよね。こんなところにあったわ!」

「う、うわあああああああ!」
指だ、指が降りて来る。キツネ目は急いで戦車の中に隠れ、頭を抱えた。戦車はぐらりと大きく揺れると、高速エレベーターのように急上昇した。

「くくく、摘み出しちゃった。」

再び戦車はアスカに摘み上げられた。振り出しに戻ってしまったのだ。2人は戦車の中で膝を落として落胆した。

「さっき落っことしたミニミニ戦車ね。」

アスカの独り言が轟くと、戦車はぐらんぐらんと左右上下に揺れ始めた。摘み上げた戦車を指先でこねくり回しているのだ。その様子を目の前で観察しているに違いない。揺れる車内で右往左往しながら2人は相談した。
「ど、どうする?外に出るか?」
「馬鹿いえ。この状態で出られるわけないだろ。」
「でも、このままじゃ潰されちまうぜ。」
「・・・・・・」

「さあて、どうしちゃおうかな?」

危惧するとおり、アスカはもうこの玩具に飽きてしまったらしい。いけない。このままでは潰される。命乞いをしなくては!2人は慌ててハッチから上半身を突き出した。

「あーん」

潰される気配はなかった。
そのかわり、ハッチの外に2人が見たものは、ぬめぬめした洞窟だった。
いや、洞窟と呼べるようなものではない。
縦横50メートルくらいの広さだ。広すぎる。ぽっかりと開いた洞窟は、既にもう洞窟の概念を逸脱している。
なんと巨大なのだろう。
戦車はおろか、デパートくらいの建物でも平気で呑み込んでしまえるに違いない・・・
呑み込まれる?
そうだ。
何故ならば、これは口だからだ。
ピンク色に輝く唇で縁どられた、巨大な、巨大な、少女の口だからなのだ。
その向こうには、漆黒の闇、無限の闇が広がっている。
更に奥からは、もわあああああと、湿った生暖かい風が吹き上がってきた。
眩暈がした。
この巨大な口を目の当たりにした衝撃で、2人はいま差し迫っていた危機を忘れてしまった。
致命的であった。
足元が、ゆらり、と揺れる。
「おや?」といぶかしく思う間もなく、2人を乗せた74式戦車は、漆黒の闇に向かって、そのもわあああああと吹き寄せる風上に向かって、ぽいっ、と、放り込まれてしまったのだ。
「うわああああああ」
ぱく
たちまち真っ暗闇になった。
暗闇の中、弾力のある湿った大地で何回も何回もひっくり返った。
これは舌の上だ。
じゅぶじゅぶと唾液が湧き上がる。
きわめて危険な状態だ。
このまま呑み込まれてしまうのか・・・・・・
いや・・・意外にも、呑み込まれなかった。
その代わり・・・
ぺっ!!
突然吐き出された。
74式戦車はクルクルと独楽のように回りながら遥か地上に堕ちていく。

「あーあ、あんまり可愛いからついつい口の中に放り込んでみたけど、油臭くてまずかったわ。いくら小さくたって、呑めたものではないわね。」

アスカは顔をしかめて自分の吐き出した戦車が足元で爆発炎上する様子を確かめた。

*****

自衛隊が全滅したら、もう誰も攻撃してくる相手がいなくなった。アスカは両足を軽く開き、両手を腰に当て、大きく胸を張った。アスカ自身が考えていた、いちばん巨人らしく見えるポーズだ。

「ほおら、みんな見てごらん。アスカちゃんはちょー大きな巨人の女の子よ。」

みんな逃げていく。アスカの足元を、ゴマ粒のようなこびとたちが必死で逃げていく。アスカはゆっくりとその人波を追いながら、中華街を踏み均し、関内に踏み込んでいた。

「くくくくく、みんな、急いで逃げないと、大巨人のアスカちゃんが踏み潰しちゃうわよ。」

急げといわれても、地球人たちには限界がある。彼らの多くは100メートルを10秒で走り抜けることすらできないのだ。アスカは軽く一歩踏み出しただけで500メートルも進んでしまう。その歩行速度たるや時速4000キロメートルだ。まして小走りにでもなれば、ジェット機よりも速い進行速度に達する。パワーばかりではなく、スピードでも地球人は全く太刀打ちできないのだ。もっとも、そんな事情を勘案してくれるアスカではない。

「のろいわね。もしかして、アスカちゃんをなめてるのかな?」

アスカは薄笑いを浮かべながら右足を大きくふりあげて、JR関内駅の真上に振りかざして見せた。

「じゃ、踏み潰そうかなあ?どうしようかなあ?」

関内駅構内の群集はパニックである。絶叫を上げて逃げようとするが、いかんせん、振り下ろされたローファーはあまりにも巨大すぎた。
ずずずずずずずずずううううん

「ふん、逃げ切れないのろまが悪いのよ!」

アスカは有頂天になっていた。白鳥座ε星では何の変哲もない女子中学生である自分が、この地球では無敵の超大巨人なのだ。誰も逆らうことができない。逃げ切ることすらもできない。思うがままだ。気分が良かった。もっともっと、自分の巨大さを見せつけてやりたい。自分の力を思い知らせてやりたい。そして、もっともっと地球人たちに無力感を味わわせてやりたい。屈辱を味わわせてやりたい。こんなこびと、虐めて、虐めて、虐め抜いてやるのだ。さあて、次はどんな悪ふざけをしてやろうか・・・
「もしもし・・・」

「!」

あれ?
・・・かすかに声が聞こえる。
「もしもし、アスカさん、聞こえますか?」
か細い、しかし確実にアスカの名を呼ぶ声だ。
「もしもし、アスカさん、聞こえますか?」
周囲を見回す。どこにも声をかけてきそうな人物は見当たらない。
「もしもし、アスカさん、聞こえますか?聞こえたら、応答を願います。」
声の元がわかった。この足元の青い擂鉢型の建物だ。アスカはしゃがみ込んで真上からその擂鉢型の建物に返答した。

「かろうじて、聞こえるわよ。」

「・・・そ、そうですか。大きな声を出さなくても、こちらは十分に聴取可能です。」
誰かが横浜スタジアムの場内放送のヴォリュームを目いっぱい上げて、アスカに声をかけてきたのだった。
「アスカさん、と、おっしゃいましたね。横浜市へようこそ。わたしはこの街の責任者です。」
声の主は、パフォーマンス好きな横浜市長であった。
「この街の人々は、たいへんに迷惑を被っています。どうぞ、これ以上暴れまわるのは自重してください。」

「ふん、大きなお世話よ。こんなこびとの街でわたしが何をしても勝手でしょ。」

アスカは両手を横に広げて首を傾げた。もちろんそんな説得に耳を貸すつもりはない。市長は懸命に説得を続けた。
「いや、それでは困ります。何の罪もない市民が生命や生活を脅かされているのです。あなたにはそんな権利はない。」

「何をとぼけたこといってるの?どうしてあなたたちみたいなおちびの都合を考えなくてはいけないの?あなたたちにはそんなことを主張する権利があるの?その根拠は?ん?」

「い、いや、しかし、私たちは何も悪いことをしたわけでは・・・」
アスカと会話を続けているうちに、市長は自分の気持ちが妙に変わってきていることに気がついた。そう、当初はこの超巨大ないたずら娘を説得し、破壊行為を止めさせて、あわよくば反省の言葉の一つでも言わせてやろうという魂胆だったのだ。なにしろ非は一方的にこの娘にある。
理詰めで話していけば、相手が必ず折れるはずだった。
そんな目論見の馬鹿馬鹿しさが、徐々に、徐々に、実感されてきたのだ。会話内容からではない。見上げる、このあまりにも巨大な体躯からだ。市長は、横浜スタジアムの放送席から、もう一度アスカの姿を仰ぎ見た。外野スタンド両翼の場外に、それぞれ白いソックスで包まれたくるぶしが見える。放送席から身を乗り出して更に視線を上空にたどると、ソックスは途中で折り返されて、そして素足の膝小僧が大きく前方にせり出して現れる。高さにして300メートルくらい上空だ。そして、更にその上空、感覚としてはほぼ真上から端正な顔が見下ろしている。スタジアム全体を睥睨している。
なんという大きさだ。
横浜スタジアムが3方からすっぽりと包み込まれたかのようだ。
これでもしゃがんでいるのである。
ふいに、市長は自分の姿がスタジアムごと奈落の底に沈んでいくような妙な気分になった。
本当はそうではない。
三方から取り囲むアスカの姿が上空に舞い昇ったのだ。すなわち、立ち上がったのである。立ち上がって、胸の前で腕を組み、遥か真下を見下ろしている。
よく晴れた日ではあったが、腰の辺りと顔の辺りにうっすらと雲が漂っていた。
市長は改めて衝撃を受けた。
巨大だ。
神々しいほどに巨大だ。
そうだ、これはもはや巨大女子中学生などではない。女子中学生の姿を借りた巨大な女神なのだ。人間がその小賢しい知恵で立ち回れるような相手ではない。

「これでもわたしに何か要求するつもり?」

アスカは片足立ちをしながら右足のローファーを振り払って脱ぎ捨てると、白いソックスに包まれた足を横浜スタジアムの真上にかざして見せた。
「ひゃあ!」
たじろぐ市長などお構いなしに、足はゆっくりと降りてくる。ぎりぎりまで降りてくる。どうやら踵はバックスクリーンの向こう側に接地したようだ。その姿勢から更にゆっくりとつま先側が降りてくる。というか、覆いかぶさってくる。なんと土踏まずから前だけで、すっぽりとスタジアムに蓋をかぶせることができた。ちょっとした屋根付き球場になった。スタジアムはもはや雨の心配はいらない。その代わり、屋根から鼻の曲がるような足臭がさんさんと降り注いでいた。

「踏み潰してやるわ。くくく」

「・・・・・・」
市長は恐怖を飛び越えて、一種の感動を味わっていた。スタンドを覆いつくして、視界いっぱいに広がる足の裏。巨大な美少女の少し汚れた足の裏。生暖かく、澱んだ空気。スタジアム一杯に充満する、汗臭くて、酸っぱい、強烈な悪臭。この最大の屈辱の中で、俺の栄光に満ちた人生は終わっていくのだ。少女のほんの気まぐれで、一匹の虫のように踏み潰されて終わっていくのだ。なんという僥倖だ。俺の人生のクライマックスに、これ以上ドラマティックな舞台が想定できたというのか?さあ踏め。踏み潰せ。スタジアムごと踏み潰せ。俺はお前のその白いソックスの、見えるかどうかわからないくらいに小さな赤い染みになってやるぜ。ははははははははははは

「でもね、考えてあげないこともないわ。条件によってわね。」

ふいに上空の視野がぱっと開けた。アスカが足をどけたのだ。新鮮な空気がスタジアム内にさあっと吹き込み、妄想に耽っていた市長も我に返った。
「か、考えるって、市民の安全のことですか?」

「まあね。」

アスカはこっくりと頷いた。
「それで、ど、ど、どんな条件ですか?」

「そうねえ、くくく・・・」

上空でアスカが意味ありげににやっと笑ったことなど、足元の横浜市長は気づくはずもなかった。

******

「気乗りしないなあ。」
「文句言うなよ。横浜市民を守るためさ。我々の使命なんだから。」
横浜スタジアムには市長の要請を受けた警察官・消防・救急隊員たちが集結していた。アスカが突きつけた条件だった。横浜市民の生命と生活がかかっている。
「とはいってもなあ・・・」
意気が上がらないのも無理はない。彼らの集合したダイアモンドから見てバックスクリーン側の上空から、巨大な少女が薄笑いを浮かべながら覗き込んでいるのだ。その顔立ちだけ見ていれば、文句のつけようもない美少女である。清楚で、可憐で、しかも華やかだ。男なら誰でも抱きしめたくなるような美貌である。もちろん、そんなことができるはずはない。その身体の巨大さは圧倒的であった。背を丸めてしゃがんでいるのに、まるで空いっぱいに広がっているような印象だ。履いている黒いローファーだけでも明らかにこの横浜スタジアムより大きい。ということは、この美少女がその気になれば、こんなスタジアムはたった一足でぺちゃんこに踏み潰されてしまうということだ。実際に、さっき市長はそうやって恫喝されたのだ。男たちが萎縮するのは当然だった。
 その巨大少女が、不意にスタジアムの中に指を突き出してきた。右手の中指と人差し指だ。浅めに守ったセンターの守備位置くらいに指の先端が触れた。
ずううん
指が接地しただけで重い衝撃が突き上げた。何しろ70〜80メートルもある巨大な指である。
恐ろしさのあまりに腰を抜かす者も大勢現れた。

「さ、登ってきなさい。」

巨大少女はスタジアムを覗き込んで、はるか上空から命令してきた。止むをえない。市長からの命令でもある。
スタジアム内には横浜市消防局所属の梯子車も5台集結していた。キツネ目やアゴの場合とは違って、これがあれば10メートル近くの厚みがあるアスカの指にも登ることができるのだ。男たちは、高く伸ばされた梯子を使って、2本揃えて差し出されたアスカの右手の中指と人差し指にしぶしぶと登っていった。警察官、消防隊員、救急隊員。みんな、社会を支える屈強な大人の男たちである。それが、わたしの指にぞろぞろと登ってくるのだ。しかも梯子車を使ってやっとこ登ってくるのだ。まるで蟻の行列だ。なんて小さなこびとなんだろう。そしてわたしはなんて大きいのだろう。アスカにとってはこの上なく愉快な光景だった。

「くくく、ちび人間ったら、可愛いわね。」

男たちはアスカの視線を避けるようにうつむきながら、一様に唇を噛みしめて、指腹の稜線を黙々と踏破していった。最後列の一人も無事に掌の中央に到着したことを確認してから、アスカはゆっくりと立ち上がって、掌を自分の目の高さまで持ち上げた。至近距離で覗き込むと、数え切れないほど大勢のこびとが、掌の上でひしめき合っていた。

「くくく、ゴマ粒サイズのこびとさん、女の子の手のひらに載せられた気分はどう?」

「ゴマ粒サイズ?」
「ひ、酷い事を言うなあ、大人に向かって。」
「し!静かに!私語しているところがばれちゃったら怒られるぜ。」
「聞こえっこないよ。」
「はじめに言っておくわ。」
アスカはお構いなしに男たちを載せた掌を思い切り前方に突き出した。彼らをできるだけ遠ざけて、自分の姿の全体像が見えるようにするためである。もっとも、彼らにはアスカの胸から上くらいを眺めるのが精一杯だった。それでもアスカはにっこり笑って、得意そうに大きく胸を張った。

「見て!アスカちゃんは山よりも大きな巨人よ。」

「・・・・・・」
そのとおりに思った。ヒト、いや生物というより、超自然現象とも呼ぶべき巨大さだ。目の前で大きく誇示しているこの胸、決して豊満とはいえないまだ幼いその胸ですらが、2つの山のように思われる。ましてや、その身体全体ならば、まさに山よりも大きな巨人だ。

「こんなに巨大なアスカちゃんに比べたら、あなたたちはゴミクズみたいなこびと。惨めで小っぽけなこびと。」

「・・・・・・」
これもまた彼らの実感どおりであった。あまりにも広い掌、太く長い指、そして見つめる巨大な瞳。自分たちは、この少女の前では無に等しいほどの情けないこびとだ。言い放たれても仕方がない。そのとおりだからだ。

「実際にね、ここには大の男が2000人以上載ってるんでしょ?え?2500人?信じられなあい!小さすぎて、軽すぎて、まるで誰も載っていないみたいよ、くくく。」

「・・・・・・
「く、悔しいなあ・・・」
「・・・悔しいけど、ホントだろうな。」
「え?」
「俺たちの身長が彼女の1/1000として、体重は1/1000000000。俺たちは大柄な成人男性だから平均体重が80kgあるとしても、それでも彼女には2500x80kg/1000000000=1/5000kg=200mgぐらいにしか感じられないはずだ。」
「そ、それじゃ、誰も載ってないみたいに感じるわけだな。」
「ちぇっ、俺たちはこんなに大勢集まっているのに・・・」
「仕方がない。あの娘が巨大すぎるんだよ。」
男たちは嬉しそうなアスカの笑顔を恨めしそうに眺めた。アスカの狙い通り、彼らは大きさのギャップに打ちのめされていた。

「だからね、あなたたちはアスカちゃんには逆らえないの。何でも言うことはきかなきゃならないの。わかる?」

アスカは男たちを載せた掌を再び顔のすぐ前まで近づけた。このくらいの位置なら、目をこらせば一人一人の大まかな形くらいは把握できる。アスカはちょっと視力に自信があったのだ。

「くくく。じゃ、まず着ている服を全部脱いで、素っ裸になって。」

「え?」
「ふ、服を脱げって?」
「ど、どうして・・・?」
「早く!言われたとおり、裸になるのよ!」
「そんなこといわれてもなあ・・・」
「俺は嫌だよ。こんな屈辱的な状況で、しかもこんな女の子の言いなりになって裸になるなんて、そんなこと、男のプライドが許さないよ。」
「そうだ!俺たちには人間の尊厳がある!」
男たちは口々に不平の声をあげた。それらの声がアスカの耳に届くことはなかったものの、彼らがなかなかいうとおりに服を脱ぎださない様子は見て取ることができた。

「ふうん、そんなちびのくせにアスカちゃんのいうことがきけないの。」

男たちを見下ろすアスカの表情から笑みが消えた。

「言うとおりにしないと・・・」

アスカは男たちの載っている右手の掌の上に、左手をかざしてみせた。
「うわあああああああああ」
逃げられない。この広い掌の上からは逃げられない。だが、その広い掌と全く同じ広さの手が上空に現れた。逃げようがない。このままでは全員が潰される。

「まとめてぱちんと潰しちゃおうか。」

かざした手が外された。一息つく暇もなく、今度は掌が唇の前に移動する。薔薇色に輝く巨大な唇が、男たちの目の前にぬっと姿を現した。

「ふう!って、吹き飛ばしちゃってもいいのよ。それとも・・・」

男たちの載った掌が、アスカの唇に向けてゆっくりと傾き始めた。

「みんなまとめて、呑み込んであげようか?くくく、あんたたちなんか、小さすぎて喉にひっかかりもしないと思うわ。くくく。生きたまんまアスカちゃんの胃の中に堕ちて、あったかい胃液で溶かされて欲しい?」

掌の傾きはいよいよ急峻になる。もはや立ってはいられない。悲鳴があがる。
そして、つんと突き出していたアスカの唇が、ぽっかり、と、開いた。

「あーん」

「うわあああああああああああ」
「気をつけろ!滑ってあの口の中に堕ちたら命はないぞ!」
「そ、そんなこと、わかってるよ!」
「あんなに大きな口なんだ、俺たちなんかまとめて一呑みだよ。」
「あの娘のいうとおり、そのままひっかかりもせずに食道を素通りしてしまうだろう。」
「そうしたら、生きたまま真っ暗な胃の中に堕ちてしまうじゃないか!」
「嫌だ!生きたまま胃液で溶かされてしまうのは嫌だ!」
「いや、すぐに溶かされてしまうことはないさ。」
「そうだ、まずぬらぬらした噴門部あたりに落ちて・・・」
「それで、蠕動運動で、奥へ、奥へと運ばれていくんだ。」
「え?そこで運ばれないように踏ん張ってみてもダメかい?」
「無理さ。すっごい蠕動だぜ。きっと津波のようだよ。それがにゅるるん、にゅるるんと奥へ向かって絶え間なくうねり続けるんだ。」
「ひゃあ、じゃ、俺たち、立っていることもできないな。」
「そうだな。そもそも胃壁は粘膜でぬるぬるしているから、踏ん張りは利かないはずだし。」
「それに胃酸が沁み出してくるから、素手でしがみつくのも考えものだ。」
「じゃ、なすすべもなく運ばれるんだな。」
「噴門部に逃げようと試みてもいいさ。実際はみんなそうするだろう。でも、こんなに大きな胃の蠕動運動にはかないっこない。」
「吹っ飛ばされ、ひっくり返されながら、幽門に運ばれてしまうんだ。」
「幽門か・・・幽門なら、胃液が出るだろうな。」
「おそらく俺たちが幽門に運ばれたころには、ぴゅうぴゅう噴き出していることだろうね。」
「というか、そのころにはもう胃液溜りができているだろうから、どっちかというとぶくぶく湧き出してくる、って感じかな。」
「その胃液溜りの中に、俺たちは放り込まれるのか。」
「そうだ。」
「胃液の池だから、苦しいかな?痛いかな?」
「そりゃあ苦しいに決まってるよ。そこで生きたままとろおりとろおりと溶かされてしまうんだから。」
「もがいてもダメなのか?這い出そうとしてもダメなのか?」
「ダメさ。否応なしに溶かされるんだ。」
「まずは足かな。」
「足の皮膚がぬらっと剥げて、そして筋肉が、そして骨が、それぞれ剥き出しになっていくんだ。」
「次は手か、いや、腹かな?」
「腹は筋層が薄いから、すぐに内臓が飛び出すぞ。」
「大腸や小腸が溶けた腹壁からはみ出して、かわりに腹腔に流れ込んだ胃液で肝臓が表面からどろっと溶け始め、で十二指腸がちぎれると今度は自分の膵液が溢れ出し、それでまた腎臓が溶けて・・・」
「うわあ、そのころにはもう死んでるだろ?」
「とも限らないぞ。痛くて、苦しくて、のたうちまわりながらまだ生きてる可能性だってある。」
「そうこうしているうちに顔が溶けてくるだろう。」
「まず髪の毛がばさりと落ちて、皮膚が剥け、頬に穴が開き、それで眼窩から眼球がぽろりと落ちるんだ。」
「ぎゃあああ」
「悪いことばかりでもないぜ。鼻の皮膚や軟骨が溶けてくれば、もう匂いが嗅げないだろ。それ
までは胃液の強烈な酸性臭で鼻も捻じ曲がるくらいだっただろうが、その悪臭地獄からは開放されるはずだ。」
「だって、さすがにそのころには死んでるだろ?」
「いいや、最後の望みをかけて、まだ、もがき、這い回っているかもしれない。」
「それでも逃げられっこないんだけどね。」
「地獄だな。」
「ぎゃああああ!!」
「嫌だ!」
「そんなのは嫌だ!誰か、誰か助けてくれ!!」
「助けてくれええええ!!!」
 ふいに掌の傾きが水平に戻った。あの恐ろしい口から少し離れていく。助かった・・・
そのかわり、勝ち誇った2つの目が間近から男たちを見つめた。意味することは明白だった。もはや誰一人として躊躇する者はいない。全員すぐに着衣を脱ぎ捨て全裸になった。2つの目は満足そうにきらりと光った。

「そうそう、はじめからそうやって素直に言うことをきけばいいのよ。あなたたちなんて、アリンコ以下のこびとなんだから。」

返す言葉はない。そのとおりだ。いままで心に思い浮かべていた恐怖に比べたら、どんな屈辱だって問題にならない。これからは、どんな内容でも、彼女の命令には忠実に従おう。男たちの全てが心の中で固く誓った。

「さて、いまみなさんに裸になってもらったのは、これから濡れるかもしれないお仕事をしてもらうためです。」

なんだろう?どんな仕事だろう?どんな仕事でも構わない。命令には従うまでだ。さっきのような恐ろしい思いをするのは金輪際まっぴらごめんだ。

「くくく、できるかな?アスカちゃんのオナニーのお手伝い。」

「え?」
アスカは男たちを掌に載せたままその場に腰を下ろすと、左手一本でするりとパンティーを脱ぎ捨てた。

「くくくくく」

そして男たちを載せた掌をスカートの奥に突っ込むと、そこで掌を返して彼らを臍の下あたりにはらはらと落とした。

「あなたたち一人ずつじゃ、小さすぎて何の役にも立たないでしょうけどね。でも2500人もいれば、ちょっとくらい感じさせるかも。くくく。この街の住民のためよ。市長さんの命令よ。頑張ってね!」

どさどさどさどさどさどさ
「いたたたたた」
「大丈夫か?」
「ああ、かろうじてな。」
「さて・・・どうする?」
「どうするって・・・行くしかないだろ。」
「そうだな。」
男たちは、黙って薄茶色のジャングルに向けて歩き始めた。

「ふうう・・・」

「すっごい茂みだなあ。」
「鬱蒼として、全然先が見えないよ。」
「これ・・・陰毛なんだろ?」
「ああ、まだ産毛に毛が生えた程度のはずだが。」
「それを踏み分け、かき分け、くぐり抜け・・・」
「それにしても太いし、長いし、まさにジャングルだ。」
「進むのも大変だね。」
「おい、だんだん湿気が増してきたような気がするんだが・・・」
「それに下り坂の角度が急になってきたぜ。」
「いよいよかな?」

「・・・ふううん・・・」

アスカがオナニーをするようになったのは最近のことだ。
お姉さまがいつも自分の部屋でやっていることは知っていた。実は、ドアの陰からこっそり覗き見したこともある。お姉さまはうっとりした表情でやっていた。その後、アスカも見よう見まねに始めてみたけれど、あんな表情になるほどの気持ちになったことはない。正直、お姉さまが羨ましかった。
だったら、同じことをしてもつまらない。今日はこのこびとたちを道具にしてオナニーしてやる。いい大人が大勢集まって女の子のオナニーの道具にされちゃうなんて、きっと悔しくて恥ずかしいに違いない。ああ愉快だわ。くくくく、ほらほら、しっかりやりなさいよ。
 ところが、なんかそれ以上の展開になりつつあったのだ。

「・・・ふううん・・・」

「茂みから抜けたぜ。」
「俺たちが先陣だったようだね。」
「視野がちょっと開けたな。」
「じゃ、この目の前で盛り上がっているのはなんだい?」
「乗り越えてみればわかるさ。」
「よし、行ってみるか。」
「おう!」

「・・・あふ・・・」

「なるほど、やっとわかったよ。要するに、俺たちはあの恥骨結合の作るもっこりした峰のあたりを越えてきたってわけだな。」
「そうだ。」
「じゃ、これからがいよいよ本番か。」
「ああ、斜面がきつくなってきたし、足場もぬるぬるしてきたし、滑り落ちないように注意しなくちゃ。」
「それにしても・・・臭うな。」
「まったくだ、臭いったらありゃあしない。」
「しようがないさ。だって、こんなにでっかいま○こにかぶりつきなんだぜ。」
「巨大な女子中学生のでっかいま○こか・・・ファンタスティックでもなんでもないな・・・」
「お、あれはなんだ?」
「?」
「あの向こうのひだの中に半ば埋まってるピンク色の丸いドームのことか?」
「ああ。」
「あれ?あのドーム、さっきよりちょっとせり出してきてないか?」
「・・・と、いうことは?」
「・・・ク、クリトリス・・・かな?」
「え!」
「こんなドームがか?」
「い、家一軒分くらいあるじゃないか。」
「でかいなあ・・・」
「行ってみるか?」
「・・・や、止むを得んな。」
「その前に、このひだを乗り越えなくっちゃ。」
「ああ」
「気をつけろ。いよいよぬるぬるしてるぞ。」
「ふう、臭い臭い。」
「あっ、滑った!」
「大丈夫か?」
「な、なんとかな。し、しかし、近づいたら、また大きくなってないか?」
「子供のくせに、クリトリスなんか勃起させやがって!」
「でもおかげで結構大勢で取り囲めたよ。こうやって上に載ってる奴らも合わせれば100人近くになるぜ。」
「どうだ、まいったか。こんなもの、蹴っ飛ばしてやる。」

「あっ・・・」

「か、感じたらしいな。」
「ああ、いま、俺が蹴ったのがわかったんだ。」
「敏感だね。」
「いくら身体がでかくたって、まだ年端もいかない小娘だってことさ。」
「じゃ、いっちょう刺激してやるか?」
「ああ、とりあえず、みんなで押してみよう。」
「この100人くらいで、みんなの力を合わせれば、結構いい刺激になるかもしれないぞ。」
「・・・大の男が100人も集まって、一斉に女子中学生のクリトリスを押すのか?惨めだなあ・・・」
「俺たちはそのクリトリスの上に載っているんだよ。今さら泣き言いうな!」
「じゃ、行くぞ!用意はいいか?」
「おう!」
「いーち、にー、のー、さん!!!」

「きゃあ!」

「ひゃあ、凄い揺れだ。」
「びっくりしたなあ。」
「さすがに感じたみたいだね。」
「クリトリスって、いじられると気分いいっていうからね。」
「そこをこれだけ大勢が一度に攻めてるんだ。感じないわけないさ。」
「でも、いまの凄い衝撃で、何十人もの仲間が下に堕ちていっちゃったぜ。」
「この高さだ。助からんだろうな・・・」
「・・・・・・」
「・・・落ち込んでいてもしようがない。犠牲になった仲間の分も俺たちが頑張ろう。」
「おう!!」
「いーち、にー、のー、さん!!!」

「あああああああ!」

「ひゃあ、大声出してやがる。」
「感じてる感じてる。」
「俺たち、意表ついていい仕事してるみたいだね。」
「でも、ほんとにこんな仕事が横浜市民のためになるのか?」
「こらこら、いまはそんな余計な心配事をしている場合じゃないよ。」
「そうだ。この与えられた任務を精一杯にこなすことだけが俺たちの役割だ。」
「そ、そうだったな。」
「もういっちょう行くぞ。」
「おう!!」
「いーち、にー、のー、さん!!!」

「あああああああ!」

「だんだん人手が多くなってきたね。」
「みんな陰毛のジャングルをくぐり抜けてきたんだな。」
「じゃ、今度はもっと下の方へも行ってみよう。」
「二手に分かれるか。」
「そうだな、じゃ、俺たちは右下を目指す。」
「俺たちは左に行こう。元気でな!」
「気をつけろよ!」
「ああ」
「あ!」
「どうした?」
「う、動けない!」
「どうしたんだ?」
「動けないんだよ。この粘膜に貼り付いちまったんだよ。粘液がトリモチみたいに絡み付いて胸や腹や足が取れないんだよ。」
「なに?」
「そら、手を貸してみろ。」
「あ!ダメだ。俺の脚まで抜けなくなった。」
「・・・危険だな。残念ながら、君たちはここに残ってくれ。」
「ええ!そんな薄情なこというなよ。」
「でも、救助しようとすると、助けにいったものまで粘膜に貼り付いてしまう。二次災害が起きてしまうんだよ。」
「大丈夫だ。後から陰毛を越えてきた連中も、みんなここを通るはずだ。君たちだけを取り残すような真似はしない。」
「そ、そうか?」
「それにその姿勢のままでも十分に仕事はできるぞ。」
「そうかなあ?」
「なんならやってみるか?じゃ、みんな、用意はいいか?」
「おう!」
「いーち、にー、のー、さん!!!」

「ああああああああ!」

地球人を見くびっていた。
毛じらみだって、むずむずすればエッチな気分になるという。
地球人の一人一人は確かに毛じらみなんかとかわりがない。でも2500人が共同して行動するなんて、毛じらみにはありえないパターンだ。インパクトは比べものにならなかった。彼らは、ちょっと知恵のある毛じらみだったのだ。
そして、アスカを困らせていた理由は、単にそれだけでもなかった。

「ああああああああ!」

「ほらほら、脇見をしてると危ないぞ。」
「それでなくても、この大陰唇と小陰唇の間の谷間はぬるぬるして足場が悪いんだから。」
「でもさ、ほら、じゅぶじゅぶ出てきたぜ。」
「ん?おお、愛液だね。」
「危険だな。流されないように気をつけなきゃ。」
「下流には立たないようにしよう。」
「それにしても近くからみるとすっごい眺めだな。50メートルくらいのピンク色の裂け目から、どくんどくんとあふれ出しているよ。大迫力だ。」
「まさに火山の噴火口だね。」
「あれじゃ、ジャンボジェット機を差し込んだってゆるゆるだろうな。」
「当然だ。5〜6本は入るよ。」
「人間ならどうかな?」
「俺たちと比べてみたらわかるだろ。2500人集まって、入り口あたりの粘膜をやっとこ覆おうかってところなんだぜ。中まで満足させるなんて、何万人集まったって無理な相談さ。」
「それにしても臭い。」
「ああ臭い。いよいよ臭い。」
「たまらないよ。チーズが腐ったような臭いだ。」
「この娘、ちゃんと風呂に入っているのかな?」
「俺たちが小さい分、嗅覚が過敏なだけさ。」
「だいたい、俺たち普段は陰部に顔を近づけることなんかないだろ?いま、そこにいるんだぜ。」
「シチュエーションが違うだけだな。女の子のパンティーンの内側は、誰でもだいたいこんな臭いなんだよ。」
「そんな解説はいいけどさ、臭いのはかわりないよ。」
「脳天ねじ切れるよ!」
「ほらほら、仕事をさぼってるからそんな邪念が浮かんでくるんだ。任務に没頭しようぜ。」
「それもそうだな。」
「じゃ、こんどはクリトリスだけじゃなくて、いまの持ち場全体で行くぞ。」
「効きそうだね。」
「どんな反応がくるか楽しみだな。」
「行くぞ!」
「おう!」
「いーち、にー、のー、さん!!!」

「きゃああああああ!」

「効いた効いた。」
「やったなあ。」
「でもこのくらいが限度かな?」
「そうだな、これより下になると斜面が切り立っちゃって無理っぽいよ。」
「残念だ。ほんとだったら、もっと別の穴も目指して行きたかったのに。」
「この娘が逆立ちでもしてくれてたらね。」
「四つん這いになって尻を突き上げるだけでも可能だったかも。」
「俺たちなら、アリの門渡りを歩いて通れただろうになあ。」
「それって凄いな。」
「ああ、大人の男たちがローティーンの小娘のアリの門渡りを文字通りぞろぞろと渡っていくんだ。」
「普通できないね。」
「俺たちって凄いなあ!」
「そして、ここまでくさい臭いを嗅がせられたんだから、どうせなら肛門の臭いもかいでやりたかったなあ。」
「そうそう、みんなで仲良く菊門を取り囲んでね。」
「返す返すも残念だ。」
「愚痴をいってもしようがないよ。俺たちは自分のベストを尽くすまでだ。」
「そのとおりだ。」
「行くぞ。」
「おう!」
「いーち、にー、のー、さん!!!」

「きゃああああああ!・・・はあ、はあ、はあ、だ、だ、ダメ・・・もうダメだわ!」

アスカはがばっと起き上がった。股間の2500人のことなど、もはや眼中になかった。

******

 彼らは立派に任務をこなした。期待以上だった。というか、期待なんか全然していなかった。ちょっとからかってやろうと思っただけだったのだ。あんなゴマ粒みたいな連中が、こんなにアスカを感じさせるとは思ってもみなかった。
 でも、限界でもあった。彼らは確かに上出来だった。良くやったと思う。でも、あれはあくまでも前戯だ。前菜だけいただいて、いつまでもメインコースがやってこないのは堪らない。かえって欲求不満になった。オナニー初心者のアスカは、こういう場合の対処策を練っていなかったのである。
何かないかな?
アスカはふらふらとMM21に歩み寄った。もはや横浜市長との約束などアスカの知ったことではない。途中で新たに何千人の人々を踏み潰したことだろうか。こうしてたどり着いたMM21には、細長く天に向かう建物が孤独に聳え立っている。全長296メートル。横浜ランドマークタワーである。
アスカは自分の膝下までにも達する高層建築をじっと見つめた。中からはあわてて大勢の人々が逃げ出してくる。ゴマ粒のような取るに足らないこびとが、押し合いへし合いのパニックに陥っている。その姿はまことに滑稽な有様ではあった。が、いまのアスカの興味を引くことはなかった。
股間だ。
股間がうずく。
この股間を、このうずきを・・・何かで満たさなくては。
これよ。
これしかないじゃない。
アスカのランドマークタワーを見つめる目つきは真剣そのものだった。両膝をつき、そして四つん這いになって、ランドマークタワーにもっともっと顔を近づける。しげしげと眺める。
期待で胸がドキドキしてきた。太い。そして角張っている。
期せずして、姉クリッチと同様の悪ふざけをしてしまうのだろうか?
いや、でもアスカはまだ中学生だ。オナニーの経験だってそんなに積んだわけではない。こんな太さのものを、こんな形のものを、そのまま入れたら痛いに決まっている。

「そんなときは、こうすればいいんでしょ・・・」

アスカは四つん這いのまま口をぽっかりとあけて、ランドマークタワーを屋上からちゅぱちゅぱとしゃぶり始めた。

*****

「今だ!」
掛け声もろとも、キツネ目とアゴの2人はアスカの下顎門歯と犬歯の隙間をすり抜けた。ジャンプ一番、ランドマークタワーの屋上に飛び降りる。途中、アスカの舌が微妙にクッションの役割を果たしたため、ほとんど無傷で屋上に降り立った。
 なんと、2人は生きていたのだ。74式戦車が吐き出される直前、ハッチから飛び出してアスカの口腔内に飛び出したのだ。暗い口腔の中で、唾液まみれになり、襲い掛かる歯、舌、咬筋群などの危険な動きをかいくぐりながら、多くの喰らい系読者の期待を裏切りつつ、彼らは口腔の中で生き延びたのだ。これぞ生への執念だった。2人は最終的に臼歯の裏側に身を潜め、機を伺っていた。彼らの目前に聳える歯列の壁は高く、そのまま乗り越えることは困難だった。そもそも乗り越えて口唇に達したところで、そこは地上1400メートル以上である。それ以上の脱出は不可能だ。だから、待っていたのだ。アスカが地上の何ものかに口づける瞬間を、じっと臼歯の裏で待っていたのだ。その間、強烈な口臭には苦しめられたが、アスカが口を開くたびに口腔内は換気されたので、十分に呼吸することはできた。なおアスカの名誉のために言っておけば、彼女は同年代の少女として決して口臭が強いわけではない。いたって清潔な少女である。ただ、キツネ目とアゴの2人が小さすぎるために嗅覚の感度が鋭敏であり、アスカの唾液臭すらにも耐えられなかったというだけのことである。
 そして、その機はやってきた。アスカは地べたに座り込み、顎を下に突き出して、MM21に聳え立つランドマークタワーを口いっぱいに頬ばったのである。この機を逃す手はなかった。
 屋上に降り立った後も、危険が去ったわけではなかった。巨大な舌が何度となくとランドマー
クタワーを舐めまわす。あれに巻き取られてしまては元の木阿弥だ。2人は屋上の給水室の陰に身を寄せ、なんとかこの恐ろしい攻撃から身を守っていた。
 この身も凍るような時間がどれほど続いたことだろう。ついに、アスカの舌がランドマークタワーから離れた。キツネ目は歓喜の声をあげた。
「や、やったよ!あいつ、もう舐めるのをやめたよ!」
「ああ」
「助かったんだな、とうとう俺たちは助かったんだな・・・」
「・・・そうと決まったわけじゃないね・・・」
「え?」
「上を見ろよ。」
アゴに促されてキツネ目は視線を真上に上げた。
「あ、あ、うわあああああああああああ!!」
上空から、アスカのもう一つの口が、まさに2人に襲い掛かってきた。

*****

もう十分すべりは良くなっただろうか?
アスカは舌の動きを止め、口を離し、べろべろに濡れたランドマークタワーを凝視した。その屋上にキツネ目とアゴが潜んでいることには気づきもしなかった。
夢中で、ランドマークタワーを側面から両手でしごきあげる。武骨な感触が掌から全身に伝わってくる。荒い息が漏れる。口角から垂れてしまった涎を右手の甲で拭い取る。どうかしてしまった。欲しい。もう、待てない。
座りなおした。
両手でスカートの裾を持ち、膝立ちのままにじり寄って、ランドマークタワーを跨ぎ越した。
目標は、もう目の前、いや、股の下だ。
ゆっくりと、深く、腰を落とす。
・・・・・・
痛!
冷たく角張ったモノが、取り込まれまいと抗った。
これは手強い。
気を引き締めよう。
アスカは深呼吸して、もう一度ランドマークタワーの上に腰を沈めた。
ず・・・ぶり

「あ!」

・・・先っぽが・・・入った・・・
・・・・・・
ふうう、やっぱり太いわ。
裂けちゃいそう。
でも・・・変な気分。
・・・いや・・・そうじゃなくて・・・いい気分。
だって、ほら、、もっと、もっと、濡れてきちゃったし・・・
自然に腰を動かしたくなってきちゃったし・・・
オナニーの気持ちのよさだけじゃなくて・・・征服感かしら?
・・・・・・
よおし、もっと奥まで入れちゃえ!

「えい!」

ぐしゃ
・・・・・・
・・・・・・
あれ?
・・・潰れちゃった・・・
・・・・・・
ちぇっ
せっかく盛り上がってきたのに、もう・・・弱っちいんだから!!
・・・・・・
この続き、どうしよう?

*****

ぐわっしゃあああああああああん
上からの強力な圧力に負けて、ランドマークタワーは崩壊した。木っ端微塵だ。巨大な洞窟は、既に挿入されていたランドマークタワーの上層部の瓦礫と、じゅるじゅる湧き出してくる愛液とで満たされていた。この愛液の海はまとわりつくような粘液質で、泳ぐ者の体力を容赦なく奪い取る。おまけにわずかに残った空気で息をつぐと、つーんとする酸性臭が脳天を直撃するのだ。
真っ暗な、暖かい、臭気に充ちた地獄である。
 なおも周囲の膣壁がびくんびくんと収縮するたびに、瓦礫ともども膣内に閉じ込められたキツネ目とアゴは愛液の波間を右往左往した。
「がぼがぼがぼ、はあはあ、これじゃ、がぼがぼ、溺れて死んでしまうよ、がぼがぼがぼ」
キツネ目は必死になって泳ぎながら、アゴに声をかけた。
「がぼがぼがぼ、さすがに、はあはあ、もうダメだね、がぼがぼがぼ」
「がぼがぼがぼ、いや、はあはあ、まだ、がぼがぼ、諦めることはないぞ、はあはあ」
「がぼがぼ、え?」
アゴの予想外の答えに、キツネ目は驚いて思わず泳ぎの手を休めてしまった。
「うわ!がぼがぼがぼがぼがぼ」
「こら!はあはあ、休むな!がぼがぼ」
「がぼがぼ、ああ、がぼがぼ、はあはあ」
「いいか、はあはあ、今ランドマークタワーが壊れただろ、がぼがぼ」
「がぼがぼ、ああ、がぼがぼ」
「あれはディルドだ、はあはあ」
「え?」
「はあはあ、だから、がぼがぼ、オナニーの道具にしようとしたんだよ、がぼがぼがぼ」
「がぼがぼ、ひええ!」
なんてことだ。横浜が世界に誇る高層ビルであるランドマークタワーを、この少女はほんの遊びの目的で膣に挿入しようとして、そしてぶち壊してしまったのだ。キツネ目もMM21に遊びに行ったことがある。ランドマークタワーを真下から見上げて、その大きさに感心したものだ。何しろ高さは296メートルだ。上階は展望台になっているくらいなのだ。それが中学生の女の子のオナニーの道具か?スカートをたくし上げて、大股開いて、腰を落とし、ずぶっと入れて、それで木っ端微塵か?なんて奴だ!悪ふざけにも限度ってものがある!
「でも、はあはあ、壊れちまったのは彼女にとっても誤算だろう、ごぼごぼ」
アゴは苦しい姿勢の中、まだ次の策を練っていた。
「遊びはおしまいだ。がぼがぼ、きっと愛液を放出する。はあはあ、そのときがチャンスだ、がぼがぼ、外に出られるぞ、がぼがぼがぼ」
キツネ目は心底感心していた。この男は本当に諦めるということを知らない。さっきも口の中で九死に一生を得た。この男が希望を失っていなかったからだ。今回もきっとこいつの言うとおりになるだろう。よおし、それならば俺も生きてやる。この苦境を乗り越えて、なんとしても生き延びてやる。
 そのとき、周囲の圧力が弱まった。膣の内腔が弛緩したのだ。
「来るぞ!」
アゴが叫ぶと同時に、圧力が急に強まった。再収縮だ。
来る。
来る。
来る。
来たあああ!
ぽっかりと前方が開いて、眩しい光と新鮮な空気が飛び込んできた。括約筋が弛緩したのだ。
「行け!」
ランドマークタワーの瓦礫を乗せて、開口部から愛液が放出される。やはりアゴの読み通りだ。このぬらりとした流れに乗れば外に出られる。キツネ目とアゴは死に物狂いで開口部へともがき進んだ。
「はあはあ、ダメだよ、がぼがぼ、苦しいよ。」
「弱音を吐くんじゃない!はあはあ、頑張るんだ!」
「ダメだよ、がぼがぼ、もう限界だよ、がぼがぼがぼ」
「諦めるな!はあはあ、ほら、目標はあそこだ、はあはあ、もうちょっとだ」
愛液の急な流れに乗って、2人はすぐに膣口付近にたどり着いた。
「よおし、着いたぞ、じゃ、飛び降りるぞ。」
「あ、ああ・・・あ?・・・あああああああ」
そのとき、いきなり開口部がぴたりと閉じて、2人は再び暗闇の中に取り残された。
「?」
「と、閉じちまったよ・・・」
「まさか・・・」
閉じてしまった開口部を両手で叩く。体当たりしてみる。内側からこじ開けようと試みる。どれもまったく効果がなかった。屈強の男2人が力をあわせても、びくともしなかったのである。
「ど、どうするよ?結局閉じ込められたままじゃないか。」
「・・・ううん、仕方がない。ここで待機しよう。さっきみたいに、またチャンスがあるかもしれないじゃないか。」
言うや否や、またしてもアゴの読みどおりに目の前の膣口が開いた。と、いうか、こじ開けられた。しかし、2人が外に飛び出すことはできなかった。その開口部をこじあけた何か巨大な突起物は、外界から内部へと猛スピードで侵入してきたからだ。
「うわあああああああああ」
突然、真っ暗なトンネルの中に暴走電車が突っ込んできたようなものだ。キツネ目とアゴはその勢いに弾き飛ばされ、そのまま奥深くに押し返されてしまった。もはや、膣口などは遥かに遠く、脱出の見込みは絶望的である。
 真っ暗闇の中で、キツネ目はアゴに確認を求めた。
「がぼがぼがぼ、これは、はあはあ、あの娘の指だね、がぼがぼがぼ」
「・・・・・・」
「がぼがぼ、きっと人差し指だね、がぼがぼ、人差し指で、はあはあ、オナニーの続きを始めたんだね、がぼがぼがぼ」
「・・・・・・」
膣内に挿入された人差し指は前後左右に激しく揺れ動いていた。直径15メートル、長さ70メートルの巨大な指である。これが狭い空間の中で大暴れするのだからたまらない。膣内の2人は、傍若無人な人差し指によって好き放題に翻弄された。
「はあはあ、まだまだ、はあはあ、しばらく続くね、がぼがぼ」
「・・・・・・」
「はあはあ、すごい揺れだ、がぼがぼがぼ、指のせいだけじゃない、はあはあ、彼女の身体中が大きく動いてるようだよ、がぼがぼ、何だか熱くなってきたし、はあはあ、愛液の量も増えてきたよ、がぼがぼがぼ」
「・・・・・・」
「がぼがぼ、どうやら、はあはあ、オナニーの真っ盛りだね、がぼがぼがぼ」
「・・・・・・」
「がぼがぼがぼ、今度こそ、はあはあ、もう、がぼがぼ、ダメじゃないかな?、がぼがぼがぼ」
「・・・・・・」
さすがのアゴも、もはや返答しなかった。次の作戦を考案することはできなかったのだろう。
「がぼがぼがぼ、はあはあ、俺たちってさあ、がぼがぼがぼ」
「・・・・・・」
「はあはあ、俺たちってさあ、がぼがぼがぼ、オモチャにされて、はあはあ、なぶりものにされて、がぼがぼ、それで殺されるのが嫌だったから、がぼがぼがぼ、逃げたんだよね?」
「・・・・・・」
「がぼがぼ、結果的に、はあはあ、もっともっと、がぼがぼがぼ、なぶりものになっちまって、はあはあ、で結局殺されちまうような、がぼがぼ、気がするんだけど、がぼがぼがぼ」
「・・・・・・」
いつまでも返答はない。アゴがもはや永遠に返答してくれない気配を察知すると、キツネ目もそれ以上話しかけることはやめ、その代わり、ゆっくりと脱力した。

*****

「ふーむ」
年の頃は20代も半ば過ぎ、ラックススーパーリッチばりのさらさらロングヘアを片手でかき上げて、きつめの黒縁メガネに灰色のミニスカートの裾から覗くおみ足も眩しいこのレディこそ誰あろう、クリッチの科学教師であるモニカ先生だ。もっともっときれいなお姉さんになった片瀬奈々さんという印象である。JUNKMANのお馬鹿話にこんなスーパーモデル系バツグンボディの美女が登場することは珍しい。その手のひらにある小さなシャーレには、クリッチが提出した課題の試料が入っている。それは未コンタクト惑星から持ち帰った鉱物、のはずだったが、そうはいかなくなってしまった。代わりにクリッチが提出したのは持ち帰った地球の建物の一部である。
モニカ先生は黒縁メガネの上から更にルーペを使ってこの建物をしげしげと観察した。
「・・・精巧ね・・・原始的なデザインだけど・・・これを造った知的生命体は、ここにはいないの?」
「は・・・はい・・・」
「?」
モニカ先生が黒縁メガネをかけ直しながらクリッチに向き直る。クリッチはあわてて視線を足下に落としながら、おずおずと答えた。
「じ・・・実は・・・ここにいるんです。」
クリッチは視線を落としたままドームを差し出した。モニカ先生が覗き込むと、中には大勢の地球人が見える。
「きゃ!・・・と、いうことは・・・」
「・・・はい・・・ファ、ファーストコンタクトをしてしまいました!」
「!」
モニカ先生は眼を見開いた。クリッチはその前に土下座した。
「ごめんなさい。ごめんなさい。しようと思ってコンタクトしたわけではないのです。間違えて、失敗して、その・・・ごめんなさい。ほんとにほんとに、ごめんなさい!!」
「・・・そ、そうねえ・・・」
クリッチはおそるおそる視線を上げた。思いの外、モニカ先生は怒っていない。
「・・・わざとじゃないのなら」
「勿論です!!わざとなんかじゃありません!!」
クリッチは立ち上がって大きな声を出した。そんなクリッチを、モニカ先生は軽く片手で制する。
「はいはい、わかったわ。で、クリッチさん・・・」
「はい」
「あなた、地球人をオモチャにして遊んだの?」
クリッチは慌てて首を横に振った。
「いえ、決してそんなことはありません。」
「そう?・・・ふうん・・・そうか・・・」
「は?」
意図がつかめず、クリッチはモニカ先生の表情を伺った。厳しさはないが、全く真剣そのものである。
「じゃ、質問を変えるわ。あなたは、地球人と交流した?」
「は、はい。」
「パーソナルコンタクトってことね?」
「・・・はい」
「なるほど。で、それは楽しかったの?」
「は?」
「正直に答えなさい。」
「は・・・はい・・・あ、で、でも、可能な限り礼節は尽くしたつもりです。白鳥座ε星がこの星と外交関係を結ぶときに、問題にならないよう気を使ったつもりです。だから・・・」
「わかったわ。」
モニカ先生はクリッチの弁解を遮った。
「実習の評価については、こういう状況だから止むを得ないわ。合格よ。無事、進級できることにするわね。」
「あ、ありがとうございます・・・で、私の処分は?」
「それは任せておいて。」
モニカ先生はきりっとした表情で答えた。
「私がなんとかするわ。あなたには責任が及ばないように処理してみるわよ。」
「ありがとうございます。」
クリッチは深々とお辞儀した。一安心だ。
「ただし、それには条件があるわよ。」
「?」
「地球人たちは全員私に提出して頂戴。」
「!」
クリッチは驚いて顔を上げた。上からモニカ先生が冷たい眼差しで見下ろしている。
「もう一度いうわ。地球人たちを全員私に提出すること。」
「・・・」
「ファーストコンタクトしてしまったんでしょ。もう子供が処理できる問題ではないわ。」
「・・・」
それは全くモニカ先生の言うとおり。クリッチ自身も予想していたことではあった。だって、これからは惑星間の外交が始まるのだ。クリッチのような子供の出番ではない。
でも、今日くらいはまだ手元においておきたかった。だって、それではツトムと・・・
「もう・・・もう会えないんですか?」
「ん?」
「わたしが連れてきた地球人とは、もう会えないんですか?」
「・・・そうねえ・・・」
「外交のお話が一段落したら、また会えますよね?」
「そ、そうねえ・・・」
なんだか返事が煮え切らない。そうか、モニカ先生だって外務局の役人じゃないんだから、今後の予定なんかよくわからないんだわ。
「ともかく、地球人たちは全員私に提出すること。わかったわね。」
「はい。」
そういうことなら仕方がないわ。じゃ、私もツトムに預けてある通信機のことは黙っていよう。だって、下手に話すと取り上げられてしまうかもしれないじゃない。そうしたら本当にもうコンタクトがとれなくなってしまうわ。で、家に帰ったら、すぐにツトムに連絡しよう。これからどんなスケジュールになっているのか聞いてみよう。そうそう、私が突然ドームを手放してしまったことも、そのときに謝まらなくっちゃ・・・
「た、大切に、扱ってくださいね・・・」
クリッチは地球人が満載のドームを、おずおずと差し出した。モニカ先生はそれを受け取るとにっこり笑った。
「ありがとう。じゃ、クリッチさん、今日はもう帰っていいわ。」
「はい。さようなら、モニカ先生。」
一礼して立ち去るクリッチに、背後からモニカ先生が声をかけた。
「そうそう、そういえばクリッチさん、フランツ君が探していたわよ。」
「え?」
振り返ったクリッチの表情に浮かんだ動揺を、モニカ先生は見逃さなかった。
「実習から戻ったら連絡するようにいっておいたわ。ふふふ、デートのお誘いじゃないかしら?」
「え!・・・そ、そんな、まさかフランツ君が・・・」
クリッチは気が動転してしまった。フランツ君といえば、クリッチがハイスクールに入学して以来、密かにずっと心を寄せてきたハンサムで心優しく学業優秀スポーツ万能なクラスメートだ。なんてったってクリッチは宇宙船内にもその画像情報を持ち込んでいっちゃったくらいである。またまた第1話の伏線が効いてきて、クリッチの両目はハート型になってしまった。
「すぐに連絡した方がいいわ。」
「・・・は、はい!じゃ、失礼します!」
クリッチは血相変えて科学準備室から飛び出して行った。
ふふふ、もう落ちちゃった。簡単ね。これでこの娘が地球産のアリンコ人間から興味を失うのは時間の問題だわ。モニカ先生は、クリッチが開けっ放していったドアを見つめてにやりと笑うと、また髪をかき上げながら、地球人の入ったドームを手にして化学実験室に向かった。

*****

忍耐強いツトムも、さすがに船酔いのような症状になっていた。何しろ揺れすぎだ。こんなに手荒に扱ってもらってはこまるな、ドームの中には地球人が大勢いるんだから・・・
そのとき、ドームの頂上が開いて、上から見知らぬ巨人が中を覗き込んだ。また女性だ。綺麗な女性だ。片瀬奈々さんをぐっと理知的にした感じの大人の女性だ。

「さて、と・・・」

対になった細長い銀色の金属板が現れた。その先端は鋭く尖っている。何だろう?降りてきた。尖った先端を下にして、ドームの頂上から降りてきた。まるで獲物を狙う鷹の爪のように、2本の先端をぎらりと輝かせながら降りてきた。あれは・・・
「!」
ピンセットだ。
先尖ピンセットだ。本当に獲物を狙っているのだ。僕たちの誰かを、あの先尖ピンセットで摘み上げようとしているのだ。ドームの中で悲鳴が上がった。初めて具体的な危機が迫ってきたのだ。ピンセットの先端から逃げ惑う人々に突き飛ばされて、ツトムはばったりとその場に倒れこんでしまった。
「しまった!!!」
無情なピンセットはこのような失態を見逃したりしない。その尖った先端で素早く左の大腿部を挟み込むと、万力のように締め上げながらツトムの体を持ち上げた。
「ツトム!!危ない!!」
慌てて駆け寄った堀田の手をかすめて、ツトムの姿はピンセットに挟みこまれたままドームの上空へと消えていった。
 外に出されると、片瀬奈々さんに似た巨大美女は、ピンセットの先端を黒ぶちメガネをかけた自分の右眼の前に寄せてきた。そこに摘まれているツトムを近くでじっくりと観察しようとしているらしい。ツトムは先端で逆さに吊るされたまま、じたばたと無駄な抵抗をした。
いったい、どうして彼女はこんな酷いことをするのだろう?
ツトムにはもはやこの巨大美女の表情などは窺い知ることができない。あまりにも広大なメガネのレンズと、その向こうから興味深そうに覗き込む瞳が、ツトムの全視野を占有していたのだ。この状態では、もはや恐怖すらない。その代わりに、怒りがこみ上がってきた。
「こらああああ!!何をするんだああああ!!」
ツトムの抗議の叫びが聞こえたのかどうか、片瀬奈々さん似の巨大美女は、ぽつり、と、呟いた。

「・・・ごめんね。」

不意に左脚を挟み付けていたピンセットの力が緩んだ。ツトムは眼下の筒状物体の中へ、まっさかさまに落ち込んだ。
「うわああああああ」
ひゅうううううう、どさり。
痛たたた。
ツトムは筒の底に叩きつけられ、仰向けになって寝ころびながら、挟み込まれていた左の大腿を両手で抱え込んだ。強烈な痛みだ。きっと大腿骨が折れているに違いない。出血もしている。どくんどくんと拍動性に流れ出している。叫び出したいほどの痛みに耐えながら、ツトムは出血している大腿部を強く圧迫した。これを止血しなければ、間違いなく失血死だ。ここは痛いなんていっている場合ではない。上着を脱いで大腿近位をぎゅうぎゅうに絞りこみ、更にその上から両手で直接圧迫する。脂汗が滲み出る。痛い。足先の感覚がなくなってきた。どうしてこんな酷い仕打ちを受けなければいけないんだ?
「!!!」
そのとき、上空に巨大なピペットチップが現れた。今度はいったい何が・・・
「うわああああああ」
液体が滝のように注ぎ込まれてきた。ただの液体ではない。ぬめぬめと身体にまとわりついてくる。全身が焼け付くように熱くなった。
「あ、あ、あ・・・」
溶けている。信じられない。自分の身体が確かに溶けている。この液体によって、身体が表面から溶かされているのだ。
「く、く、苦しい・・・」
激しい苦悶の後、ツトムの意識が次第に遠のいていく・・・
・・・・・・
ぽとり
ツトムの胸ポケットから、通信機がこぼれ落ちた。

*****

 クリッチは、天にも昇る心地で帰宅した。
ほんとうにフランツ君からのデートのお誘いだった。約束した今度の日曜日までに、やることがいっぱいあるわ。まず可愛い服を買ってこなきゃいけないし、靴や小物もそれにコーディネイトして全部揃えなくっちゃ。そうそう、お化粧も上手にしたいわね。ううう、悔しいけど、こういうことはアスカの方が上手いから、頭を下げて弟子入りね。エステに行くには日数がたりないけど、もちろん美容室には行く必要があるし・・・あー忙しい、忙しい、と・・・と・・・
「・・・そうだ」
 ツトムは今、何をしているんだろう?
モニカ先生を仲介して、今頃はきっと外務局かなんかのお役人に引き渡されているんじゃないかしら。外交関係の樹立に向けて、難しい話し合いでもしているのかな?そんな難しい話し合いに、ツトムみたいな学生が参加させてもらえるかしら?きっと無理ね。「若造は引っ込んでろ!」とかいわれて、退屈しているに違いないわ、ふふ。
 連絡してみよう。ツトムが、今なにをしているか聞いてみよう。私からも、ツトムに今日のお話をしてあげよう。憧れの彼からデートのお誘いが来たのだ。ツトムも喜んでくれるかなあ?それとも、ヤキモチなんか焼いたりして。ふふふ・・・でも、ツトムだって、地球に帰れば彼女くらいいるかもしれないし・・・
・・・・・・
あれ?
・・・・・・
返答がない。
おかしいなあ・・・?
再度かけてみる。
・・・・・・
・・・・・・
やっぱり、音声も画像も現れない。
思念波の応答がないのだ。
どうして・・・どうして・・・???
・・・・・・
ツトムの身の上に何か大変なことでも起こったのだろうか?
・・・・・・
通信機を握りしめるクリッチの胸を、不吉な思いがよぎった。

*****

「さて、インキュベーションしている間に、ここまでのことを報告しておいた方がいいわね。」
実験室でテストチューブに手早く蛋白分解酵素を入れると、モニカ先生は手袋を外して準備室のデスクに戻り、どこかへ電話をかけた。
「もしもし」
すぐに返答があった。若い男の声である。
「もしもし、あ、私です。」
電話の相手にクリッチの地球での行動や白鳥座ε星に帰ってからの顛末について短く報告する。電話口の男は素早く内容を了解した。
「なるほど、わかりました。興味深いです。それではサンプルを送って下さい。データをゆっくり解析してみます。」
「データを解析して、それからどうするんですか?」
「そうですね、今の報告とも照らし合わせてゆっくり考えてみます・・・うーん、彼らの夜明けが・・・薔薇色だったらいいですが。」
それだけ言い残すと、電話はぷつりと切れた。

薔薇色の夜明け・つづく