姿なき侵略者
by JUNKMAN

のどかな日曜日の午後
杏奈と志都美の毎度おなじみ女子高生二人組は、今日も仲良く連れ立って街にお買いものに行ってきた。
その帰り道
・・・
・・・

「・・・お断わりします」

急に道端で立ち止まると、杏奈が冷徹な声で言い放った。

「ど、どうしたの杏奈ちゃん?」

杏奈は黙って傍らの電信柱の陰を指し示す
志都美が目を凝らして見ると、そこには花束を抱えた一人の男子ががっくりと膝をついてその場に崩れ落ちていた。

「・・・気配がしたので、先手を打ってお断わりしたの」

何事もなかったように杏奈はすたすたと歩き出す。
打ちひしがれた男子の様子が気になってちらちらと振り返りながらも、志都美はその後を小走りに追いかけた。
哀れ男子は声をかけるチャンスすらも与えられず、一瞬で全てを失った。
そのお断わりの威力ははかり知れない。
・・・
小泉杏奈16歳
誰もが認めるキレッキレの正統派美少女
それ故に言い寄る男は数知れないが、その全てが瞬殺で撃退されてしまう
人呼んで「お断わりの小泉」
難攻不落の現役女子高生であった。

*****

杏奈の家に着くと、志都美はもうすっかり自分の家のようにリラックスして居間のソファーに腰かけTVのスイッチを入れた。

「・・・臨時ニュースをお伝えします。今日午後2時25分頃、札幌市中央区の繁華街で、主要な建物が次々と崩壊する謎の事件が発生しました。現場には多数の負傷者が出現した模様で、現在北海道警が被害状況を調査中です。この影響でJR函館本線は手稲-白石間で運転を取りやめ、また国道12号線も・・・」

「またなの?」

キッチンから額に縦皺を寄せた杏奈がやってくる。
志都美は杏奈が持ってきた菓子皿に山盛りのポテトチップスを鷲掴みにして頬張りながら答えた。

「うん。最近こんな事件が多いわよね。この前は名古屋だったっけ?」

「そう。福岡とか仙台とかでもあったわ。」

「いつも何の前触れもなく日本の主要都市の中心部が崩壊していくのよね。」

「気味が悪いなあ」

杏奈も志都美の隣に腰かけて一緒にTVを見る。

「・・・でも、日本の主要都市といっても、実はみんなどーでいいような地方都市だから問題ないか。」

「そうだけど・・・」

志都美は不安そうに眉を顰める。

「それにしてもこの変な事件、これだけ続いたんだからこれで終わりってことはないわよね。」

「次はどこが危ないのかしら・・・」

「・・・」

「!」

二人は顔を見合わせて凍りついた。

「日本の主要都市がどんどん崩壊してくってことは・・・」

「・・・次は浦和って可能性も・・・」

ひえええええええええ
そんなことになったら大変だ。
浦和といえば日本の政治経済文化スポーツの中心。
その浦和が崩壊なんかしてしまったら日本はお終いである。

「ど、どうしよう杏奈ちゃん、このままじゃ日本は終了しちゃうわ!」

「でも対策を立てようにもそもそも何が起こっているのかすら全然わからないし・・・」

「そうね。何が起こっているのかだけでも誰か教えてくれる人はいないのかしら。」

「無理よ。こんな謎が解けるのは、わたしたち地球人より遥かに科学の進んだ異星人くらいよ・・・」

ピコーン
・・・
・・・
急に志都美がフリーズした。

「・・・し、志都美ちゃん・・・どうしたの?」

「そ、それね・・・わたし・・・思い当たる人がいないわけでもないの・・・」

志都美はスマホを取り出すと連絡先のメモを見ながら電話をかけ始めた
ぴぽぱぴぽぴぷぱぷぺぴぽぱぽぴ
・・・
とぅるるるるるるるるる
とぅるるるるるるるるる
ぷち

「・・・あ、もしもし、わたし、志都美ですう・・・ああ、はいはい・・・ええ、お久しぶり・・・いや、そんなことないですよ・・・はい・・・そうなんですかあ・・・あらあら・・・ええ、それでなんですけど・・・はい・・・はい、ええ、そうですねえ、ええ・・・来れます?・・・そうですか、嬉しいわ・・・じゃあ待ってますから・・・はい」

ぷち
随分親しそうだけど誰?と電話を切った志都美に訊ねようとして杏奈はぎょっとした。
いきなり目の前にキラキラの王子様風コスチュームに身を包んだ髭もじゃ眼鏡の長身だけど貧相な中年男が現れたからだ。

「きゃあ!」

「おっとっと、驚かないでください。志都美さんに呼ばれたので参っただけで、私は決して怪しい者ではありませんから。」

「いや、確かにわたしが呼んだのは事実だけれど、でもあなたは十分に怪しい者だとは思うわ。」

志都美の説明は身も蓋もないが、でもこの変な中年男が知り合いであることは確からしい。じゃあ、さっき電話で親しそうに話をしていた相手はこの人?

「お元気そうで何よりね。一応電話番号を控えておいて良かったわ。しかもちゃんとかかるし。」

「電話くらい通じますよ。シベール星をバカにしないでください。電波状況はメチャメチャいいんですから」

「いや、そういう問題じゃなくて・・・」

「でも折角お知り合いになったんですから、こうやって時々かけてきてくださるとわたしも正直嬉しいです。だっていまのところ私の電話帳に登録されてる独身女性は志都美さんだけですし。」

「あ、あ、あ、そうなの・・・」

最後はやや狼狽気味にこそなったものの、何だかうち解けてる。得体のしれない中年男だけど、危険な人物ではないようだ。

「というわけで杏奈ちゃん、紹介するわ。この人がシベール星の王子様のナボコフさん47歳独身彼女いない歴47年よ。」

「ああ、どうもはじめまして杏奈さん、わたしはプリンス・ナボコフ、いま将来王妃様になってくださるお姫様を絶賛募集中です。」

「ああそうですか。でもわたしはお断りいたします。」

初対面開口一番で一切の妥協を許さない瞬殺お断わりを浴びせかけるという杏奈もさるものながら、そんな直撃を喰らってもまるっきりノーダメージというナボコフ王子もさすがはゴメンナサイ受容歴47年の強者である。玄人筋を唸らせる達人同士の攻防であった。

「で、志都美ちゃん、その47歳独身彼女いない歴47年の王子様をここにお呼びした理由は?」

「この人ね、こうは見えても科学の進んだ星の住人なのよ。」

「へえ。じゃああの謎の事件の真相も」

「うん、この人に訊いてみればわかるかなって・・・」

二人は早速この一連の事件についてナボコフ王子に説明した。
ナボコフ王子はうんうんと頷きながら状況を確認する。

「・・・で、このままでは次は浦和がやられてしまう恐れもあるかな?って心配になっちゃって・・・」

「いや、それはないでしょ?」

ナボコフ王子は即座に否定する。

「事件が起こるのはそれぞれの都市の中心部ですから、さいたま市の場合、危ないのは大宮駅の周辺では・・・」

ぷちん
杏奈と志都美が同時に切れた。

「大宮?」

「異星人のくせに何すっとぼけたこと言ってるの?」

「で、でも、一応資料で調べてきたんですよ」

「それは資料が間違っているわ!さいたま市の中心は誰が何と言っても浦和よ!」

「そうそう、浦和はイトーヨーカドーはおろか伊勢丹まである憧れの大都会なんだから!」

「伊勢丹だったら松戸や相模原にだってあるじゃないですか」

「屁理屈いわないの!そもそも大宮は北関東でしょ?栃木とか群馬とか、ああいう野生の王国の仲間でしょ?首都圏の浦和と一緒にしないでちょうだい!」

「一緒にしないで、って、同じさいたま市なのに・・・」

「あれは大宮がどうしても『併合してください』ってお願いするから仕方なしにそうしてあげただけ。」

「そうよ、自分から『併合してください』って頭下げてきたくせに、後になってから文句をいうのは民度が低すぎるわ!!!」

なんだか危ない方向に話が脱線し、収拾がつかなくなってナボコフ王子が困惑し始めたころ、いきなりTVの画面が切り替わってアナウンサーが絶叫し始めた。

「・・・臨時ニュースをお伝えします!新宿西口の高層ビル街で、建物が崩壊し始めています!」

*****

次のターゲットとなったのは浦和ではなく西新宿だった。
この時点で既に杏奈と志都美の興味は半減だったが、でもせっかく呼び出したのだから一応TV画面を見ながらナボコフ王子に解説してもらうことにした。

「・・・ま、こんな感じなのよね。」

「なるほど。」

「どうしてこんなことが起こるのか、わかる?」

「わかりましたよ。」

ナボコフ王子は即答した。
これには呼び出した志都美もびっくりである。

「ど、どういうこと?」

「簡単です。皆さんもこれを使えばすぐわかりますよ。」

ナボコフ王子はポケットから牛乳瓶の底みたいにレンズの厚いメガネを二つ取り出した。
ナボコフ王子自身がかけているメガネと同様である。

「何これ?・・・ださ」

汚らわしいものを見る目つきの2人に対して、ナボコフ王子はしたり顔で話を進めた。

「まあまあ、かけてみればその価値はわかりますよ。」

そこまで言われれば仕方ない。
志都美と杏奈はしぶしぶその牛乳瓶の底メガネをかけ、それでTVの画像を見て腰を抜かした。

「あ!!!」

勝手に崩れていると思ったビルの傍らに、なんとそのビルくらいに巨大な全裸の男が立っているのが見える!
筋肉ムキムキでスキンヘッド、こめかみに血管が浮き上がっていてキモいことこの上ない。

「だ・・・誰よこれ?」

ナボコフ王子はすました表情で答えた。

「インビジブル星人です。連中は姿を見えなくすることができるんですよ。それで見えないことをいいことに巨大化してこの星を侵略しているわけです。でもこのスコープを付ければそんな姿も丸見え。シベール星の科学の敵ではありません。」

「へええ」

「でも音も聞こえないわよ。」

「これを装着すれば聞こえますよ」

ナボコフ王子は例の志都美のあのエッチなアーマーを取り出した。志都美はさっそく耳宛の付いたヘッドギアを被ってみる。

「・・・あ、聞こえる聞こえる!」

はあはあと荒い息づかいが聞こえる。
やっと納得した。
この巨大な透明人間がこの日本を荒し回っていたわけね。
許せない!!!

「あ、あいつを止める方法はないの?」

「うーん、この星の劣った科学技術力ではインビジブル星人の姿を捕捉することはできないので、まあ攻撃することは無理でしょうね。」

「じゃあ好き放題に暴れてるのを見てるしかない、ってこと?」

「というかそもそも見ることができないわけですが。」

「!」

そこでまた志都美が閃いた。

「ねえねえ、わたしにはあのインビジブル星人が見えるわ。」

「それはそうですよね。シベール製のスコープは優秀ですから。」

「ってことはあれよ、わたしがヒロインになってあのインビジブル星人をやっつけちゃえばいいんじゃない?」

杏奈が慌てて首を横に振る。

「ちょっと何言ってるのよ!生身の女の子があんな凶暴な巨人と戦うつもり?危なすぎるでしょ?」

「危ないことなんてないわ。」

志都美は自信たっぷりに答えた。

「アーマーの防御力は最強だから大丈夫。わたしは女の子だからおちんちんが膨らむこともないし・・・」

「え?」

「いやいや、なんでもないわ」

話すと長くなりそうなのでアーマーの致命的弱点について説明するのはやめた。

「・・・じゃ100歩譲って身は安全だとしても、あんな巨人を相手にどうするつもり?さすがに巨大化できるわけじゃないんでしょ?」

「そこでナボコフさんよ。」

志都美はナボコフ王子の方に向き直った。

「ねえねえナボコフさん」

「はい」

「巨大化アイテムとか持ってない?」

「ありますよ。」

ナボコフ王子はこともなげにポケットから小さな光線銃を取り出した。

「拡大縮小銃です。」

「!!!」

「このまま対象物に向かって発射すれば物体は巨大化。で、このレバーをこっちに切り替えてから撃てば縮小します、はい。レバーを元に戻して、で、自分に向かって撃てば100倍まで巨大化も可能です。優れものでしょ?」

「すっごーい!」

「ナボコフさんって、何気にリアルど○えもんね♡」

「いや、リアルといわれてもちょっと・・・」

謙遜しながらもなんだかちょっと嬉しそうではある。
ここが攻め頃だ。

「じゃ、ナボコフさん、ちょっとそれを貸してもら・・・」

「ダメです。」

「?」

「このアイテムは文明が未発達の惑星で使用するには刺激が強すぎます。未開な種族の健全な進化に悪影響を及ぼす可能性があるので、銀河連邦法で使用が止められているのです。」

「でも違法に侵略してきたのはインビジブル星人の方でしょ?」

「それはそうですが、しかし法に反した相手に対処するために自分も法に反する、というのは本末転倒でしょ?」

「そこをなんとか」

「ダメです」

思いのほか頑固なナボコフ王子に志都美が苦戦していると、杏奈がすっと横から割り込んだ。

「・・・ナボコフさん、そんな堅苦しいこといわないで・・・オ・ネ・ガ・イ♡」

長身のナボコフ王子に背を向けたまま近づくと、両手を胸の前で組み、その胸にしなだれかかるように身体を預けながら斜め後ろを振り返って唇を軽く半開きにしながら小首を傾げ肩越しに訴えかけるような眼差しでナボコフ王子の両目を見つめる。
杏奈が日頃から鏡を見て研究に研究を重ね磨きあげてきた気合一発キラキラ美少女ポーズである。
これをホンモノの正統派キレッキレ美少女の杏奈がやっちゃうんだから堪らない。
これで陥落しない中年男なんかいるわけが
・・・
・・・
と思ったが
・・・
あれ?
意表をついてナボコフ王子は平然としたままである
これにはむしろ杏奈の方が動揺を隠せなかった

「ね、ねえ、ナボコフさん♡、お願い、お願いよ♡」

「・・・」

「お願いだったらあ・・・」

「・・・杏奈ちゃん、無駄よ。この人には色仕掛けというものが一切通用しないの。」

志都美が俯いて首を振りながら杏奈の肩に手をかける
呆然とする杏奈
なんと思ってもみなかった完全敗北か
・・・
・・・
・・・
考える
杏奈は目を瞑って考える
考える
・・・
・・・
・・・
眼を開けた
そして二階に向かって大きな声を張り上げた

「優奈っ!ちょっと来なさいっ!」

「はああああい」

とことことこ
二階から杏奈の妹の優奈ちゃん(=現役小学生)が降りてきた
杏奈は優奈ちゃんの足元をチラリと見ると、いきなり命令した

「優奈、その靴下を脱いでわたしによこしなさい。」

「靴下を?」

優奈ちゃんは首を捻りながらもすぐ言われた通りに靴下を脱いで杏奈に渡した。
受け取った杏奈はくんくんとその匂いを嗅いだ。

「・・・ん・・・くっさあい・・・なんか甘ったるいけど汗臭くて酸っぱくて柑橘系腐敗臭というか何とも言えない独自の臭気だわ。白のソックスなのに足底はうっすら黒ずんでるし」

杏奈はちらりと横目でナボコフ王子の動向を伺う。ナボコフ王子はあからさまに動揺していた。

「・・・この臭い靴下を履いていたのはわたしの妹の優奈=現役小学生。初潮はまだ来ていないはず。で、いま脱いだばかりだから、うん、まだほんわり温かくて、その分臭いもフレッシュだわ・・・ふうう、この靴下、ナボコフさんにあげようかなあ?やっぱあげるのやめようかなあ?って、いま悩んでるんだけどどうすればいい?」

「はい、この拡大縮小銃をお渡しいたします」

ナボコフ王子は速攻で拡大縮小銃を差し出した。交渉はあっさり成立である。
志都美は丸い目を更に丸くした。

「あ、杏奈ちゃん・・・どうしてナボコフさんの特異な性癖がわかったの?」

「簡単なことよ」

杏奈は涼しい顔である。

「47歳独身彼女いない歴47年の男が色仕掛けに応じないとなればホモかインポかロリコンかの三択。それであのむさ苦しさなら迷いなくロリコンに一点読みということ。」

「・・・」

もしかしたら、わたしはまだ男の人を見る目が全然養われていないのかしら?
またちょっと自信を失う志都美であった。

*****

そんなわけで拡大縮小銃をゲットした志都美は、ウルトラヒロインになるべく喜び勇んで例のエッチなアーマーに着替え、そのままの格好で埼京線に乗って新宿へ向かった。
後に残った杏奈の胸には、しかしちょっとした不安がよぎっていた。

「・・・ねえねえナボコフさん」

「はい、なんでしょう?」

「志都美ちゃんはあのアーマーを装着している限りは絶対安全、って、言ったわよね。」

「そうですよ。間違いありません。」

「でもそれって・・・アーマーを脱がせられちゃったらもう防御はできない、ってことでしょ?」

「うーん、そうなりますかねえ」

「やっぱそうか」

杏奈は小さく頷いた。

「・・・わたし、この後の展開が読めてきちゃったわ・・・」

*****

新宿西口は阿鼻叫喚の大混乱に陥っていた
何の前触れもなく次々と高層ビルが崩壊していくのだ
損保ジャパンの本社、新宿アイランド、野村ビルなんかはすでに崩壊し、東京都庁も風前の灯である
新宿駅に降り立った志都美は、「2番ホームって西口まで遠いのよね」などと愚痴りつつ、奇異の眼差しを向ける人込みをかき分けかき分け都庁方面へ向かった。
ころあいを見て例のスコープをかけてみる。

「いた!」

新宿センタービルの前でマッチョなポーズをとり、一面の窓ガラスに映るその姿をうっとり
眺めるスキンヘッドの巨人だ。
インビジブル星人である。
きっとナルシストなんだな。
周りから見ればもちろんビルの窓には何も映っていないのに、本人にはよく見えているらしい。

「・・・ふん、見てらっしゃい」

志都美は大きく深呼吸すると自分に向けて拡大縮小銃の引鉄をひいた。
拡大率はMAXの100倍である。
ぴかっ
・・・
・・・
ずももももももももももももももももももも

*****

「・・・今、新しい情報が入りました。謎の高層建築崩壊事件が起こっていた西新宿に、巨大な人間のような形をしたものが出現した、ということです。いま詳細な情報を確認中です。繰り返します。西新宿に、巨大な人間の形の・・・」

*****

警戒のために練馬あたりから急遽新宿に派遣されていた自衛隊第一連隊は、思いもかけない巨人の出現に色めきたった。

「れ、連隊長!ど、どういたしましょう?」

防災と秩序維持の目的で展開されていたはずなのに、いきなり巨人が出現するとは思わなかった。
だが、首都防衛のために、ここで自衛隊が指を銜えて見ているという選択肢はない。
現場の指揮にあたる第一普通科連隊長に迷いはなかった。

「撃て!撃て!撃てえええ!」

*****

そのころ、100倍に巨大化した志都美は気持ちを昂ぶらせつつ背後からインビジブル星人に声をかけた。

「・・・ちょっと、何してるのよ!」

ぎょっとしてインビジブル星人が振り返る。

「お前、俺の姿が見えるのか?」

黙って頷く志都美。それだけでインビジブル星人の顔色はさっと蒼ざめた(といっても透明なのだが)。

「誰だお前は?」

しまった!
想定外の質問だ。
せっかくスーパーヒロインになるのならカッコイイ名前を考えておくのだった。

「・・・」

「どうなんだ?名乗れないのか?この乳女(ちちおんな)め!」

「乳女?」

カチンときた志都美を後目に、インビジブル星人の挑発は続く。

「それだけ無駄にでかい乳してるんだから乳女だろ?ああ?バスト100メートル以上あるんじゃないか?」

酷い!
この人は地球を侵略しに来てるだけじゃなく、わたしのことを「乳がでかい=下品=バカ」と嘲っているのだわ。
許せない!
わたしバストは100もないわよ!

「わ、わたしのバストは(えーと、いま100倍に巨大化しているんだから・・・)、きゅ、きゅ、94.2メートルよっ!」

は!
わたしってばなんでわざわざこんなやつに正確に小数点以下第一位のサイズまで教えてるんだろ?
いけないけない
相手の挑発ペースに乗っちゃってはいけないわ
ここはわたしの方からイニシアチブを握らなくては!
志都美はこほんと一つ咳払いすると、インビジブル星人をびしりと指さして言い切った。

「この地球はわたしたちのものよ。もうあんたなんかの思い通りにはさせないわ!」

「ちっ」

舌打ちをすると、インビジブル星人は両腕を回しながら志都美ににじり寄ってきた。
いよいよこの地球を守るための志都美の戦いが始まったのだ。

*****

ばばばばばばばばばばばば
自衛隊第一連帯はあるったけの火力を巨人に向けて撃ち込んだ。
しかし、「ちょっと、何してるのよ!」といううざそうな発言があっただけで、目に見える形でのダメージを与えることはできなかった。

「ぐぬぬぬぬぬぬ」

怒り心頭の連隊長は、巨人に向かって精一杯の大声を張り上げた。

「貴様はいったい何者だああああああああ?」

・・・
思いもかけず巨人の方から名乗りがあった。

「・・・乳女(ちちおんな)」

「へ?」

乳女=ちちおんな
・・・
・・・
あんまりな名前のようにも思われたが、何しろ自分から名乗ったんだからそこは尊重されなければなるまい。連隊長は決断した。

「・・・よし、ターゲットをこれから『怪獣乳女(かいじゅうちちおんな)』と呼ぶことにしよう。」

「了解しました、が、それにしてもわかりませんね」

「何がだ?」

「あの怪獣・・・えーと・・・乳女、でしたっけ」

「ああ」

「どうしてわざわざ自分からそんな恥ずかしい名前を名乗ったのでしょうか?」

連隊長は自信満々に自分の推理を披露する。

「きっと自分のバストが自慢なんだろう。乳のでかいバカにありがちな思考パターンだ。」

「そんなバカな!」

そのとき、遠くで怪獣乳女が高らかに言い放った。

「わ、わたしのバストは、きゅ、きゅ、94.2メートルよっ!」

・・・
・・・
・・・
ざわざわざわ
まさかと思っていたが、連隊長の推理は正しかったらしい。

「・・・ふん、バカにしおって」

正直言えば推理が当たったのでちょっとだけ気分が良くなってはいたのだが、でも状況が変わったわけではない。

「おのれ怪獣乳女め・・・覚えてろ!目にものみせてやるからなっ!!!」

第一連隊長は烈火の如く憤り、大音声で啖呵を切る。
・・・
・・・
でも志都美は足元の虫みたいな戦車部隊なんかまるっきり眼中になかった。
だって、インビジブル星人との戦いに全神経を集中させていたから。

*****

「・・またまた新しい情報です。西新宿に現れた巨大な人型怪獣は、防衛のために砲撃を開始した自衛隊に向かって『あんた、ちょっと待ちなさいよ!』といらついた声をあげました。その後『お前は何者だ?』という自衛隊からの問いかけに対し、自分は『乳女=ちちおんな』である、と明確に回答し、それを裏付けるために『わたしのバストは94.2メートルよっ!』と具体的なサイズまで誇示したとのことです。そして挙句の果てには『この地球はわたしたちのものよ。もうあんたなんかの思い通りにはさせないわ!』と高らかに言い放ったとのことですが、解説の江村さん、これはどういうことなんでしょう?」

「そうですね、この地球をもうわたしたち地球人の思い通りにはさせない、ということですから、これは明らかに侵略宣言ですね。」

「といいますと、あの巨大怪獣乳女はどこか別の星から・・・」

「この地球を狙ってやって来たのでしょう。今まで各地で建物が崩壊する事件が起こったのも、間違いなくこの怪獣の仕業ですね。」

「でもこの怪獣乳女が手を触れる前に建物が崩れ始めていたような・・・」

「いやいや古立さん、おそらく乳女は気功のような技を駆使するのですよ。」

「そうですか。やはり異星からやってきたエイリアンだけに我々には理解しがたい攻撃力を持っているようですね。自衛隊はこの恐ろしい敵に対してどう立ち向かっていくのでしょうか?ここでコマーシャルです。」

*****

志都美とインビジブル星人の戦いが始まった。
インビジブル星人はムキムキマッチョの大男である。
体重の乗ったスピード豊かなパンチやキックを雨あられと志都美に叩きこむ。
でもそんなの全然へっちゃら。
シベール製のアーマーは物理攻撃に関しては無敵なのだ。
全力で撃ち込み続けるインビジブル星人のパンチやキックは志都美になんのダメージを与えることもできず、逆にインビジブル星人の方がスタミナ切れで顎が上がってしまった。

「はあ、はあ、はあ・・・お前、なかなかやるな」

「ふん、口ほどもないわね。」

余裕の笑みを浮かべる志都美。
もちろん全くの無傷である。
いや、しかし無傷なのは志都美本人だけだった。
この戦いの間に新宿センタービル、三井ビル、住友ビル、京王プラザホテルなどは次々と木端微塵に粉砕されてしまったからである。

*****

「連隊長殿!あの巨大怪獣乳女は我々の声が聞こえたのでしょうかっ?」

「・・・」

自衛隊第一連隊長は苦虫を噛み潰していた。
「覚えてろ!目にもの見せてやるからなっ!」と啖呵を切って全力で攻撃にあたってはみたものの、乳女には全くダメージを与えることができない。
乳女は攻撃する自衛隊を一瞥だにせずガン無視で、周囲の高層ビルを例の気功みたいな技で粉砕し続ける。
挙句の果てにはへらへらと笑いながら「ふん、口ほどもないわね。」と言い放つ始末だ。
自衛隊は思いっきりコケにされたのである。

「ぐぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ」

自衛隊第一連隊長は悔しさの余り血が滲みだすほど強く拳を握りしめた。

*****

インビジブル星人もおかしいと感づいてきた。

「はあ、はあ、はあ・・・お、お前、どうして俺の攻撃が通じないんだ」

「んふふふふふふ」

志都美は余裕で笑いながらウインクして見せる。

「!」

ここでインビジブル星人は流石に気が付いた。

「も、もしかして、それはシベール製のアーマー・・・」

「そういうこと」

志都美はにっこり笑いながら頷いた。

「くっそお、じゃあ俺がいくら攻撃しても敵うわけないじゃないかっ」

「残念だったわね」

インビジブル星人はがっくりとその場に膝をついた。

「・・・参った」

降参、ということらしい。
なーんだ、意外と簡単に退治できちゃったわ♡

「お前にはかなわん。諦めた。許してくれ。俺はインビジブル星に帰る」

「そう。それでいいのよ。」

志都美は有頂天である。
その表情をインビジブル星人は冷静に窺っていた。

「・・・そういうわけでインビジブル星に帰るから、その前に、全宇宙的に有名なシベール製のアーマーのホンモノを、一度近くで見せてくれないか?」

「ふん、いいけど」

といっても普通のビキニの水着とどこも変わらないんだけどね。
パンツなんかただこうやって穿くだけだし
ブラの方はこうやって前からあてがって背中のホックを止めるだけで・・・

「ほう・・・この、ホックをね・・・」

インビジブル星人の眼がキラリと光った(透明だけど)。
自然に、すっと志都美の背後に手を回し、そして電光石火の早業でホックを外す
ぷつ
ぽーん!
たちまちアーマーのブラが弾け飛んだ。
これには志都美ももちろん、ホックを外した張本人のインビジブル星人も驚いた。
ぷりりん
志都美の通常時サイズ94.2センチ、100倍に巨大化した現在は94.2メートルの巨大バストが白日の下に曝された。

「ど、どうなってるんだ?」

「だ、だってこのブラきついんだもん!せっかくぎゅうぎゅうに押し込んでたのに、ホックが外れたらそれは弾け飛ぶわよ!恥ずかしいわ!」

「・・・それだけじゃない、な」

インビジブル星人は弾け飛んだ志都美のブラを片手で握りしめながらニヤリと笑った。

「アーマーの装着が外れた、ということは・・・もうシールドも機能していないわけだ。」

*****

ぱたぱたぱたぱたぱた
その頃、お取込み中の志都美やインビジブル星人には気づかれていないまま、某TV局の取材クルーは謎の巨大怪獣乳女への独占インタビューを試みるためヘリコプターで至近距離にまで迫っていた。

「・・・お茶の間の皆さんこんにちは。我々取材クルーは、突然この新宿に現れた怪獣乳女さんに独占インタビューを試みています。乳女さん、乳女さああああん!」

「・・・んふふふふふふ」

巨大怪獣乳女はクルーの呼び掛けには返答せず、「んふふふふふふ」と不敵な笑いを見せた。

「笑っています!怪獣乳女が笑っています!我々の呼びかけが通じたことは間違いありません!」

「・・・現場の富山さん、富山さん」

「・・・はい古立さん」

「・・・怪獣乳女とのコミュニケーションはとれたのですね?」

「・・・あ、はい、しっかりとれています。」

「・・・そうですか。それでは怪獣乳女に、地球に現れた理由を直接訊ねていただけませんか?」

「・・・あ、はい、わかりました。危険な任務ですがやってみましょう。乳女さん!乳女さん!乳女さんはやはりこの地球を侵略に来られたのですかあっ?」

「・・・そういうこと」

おおおおおおお
乳女からの明快な回答を受けてスタジオがどよめいた。
ヘリコプターに搭乗している現場の富山アナも興奮の色を隠せない。

「返事がありました!はっきりと返事がありました!やはりこの怪獣乳女さんは地球を侵略するためにやってきた、とはっきり認めました!」

「どーですか解説の江村さん?」

「いや、事態は深刻です。力の差がありますので、地球人が抵抗しても・・・」

「そのあたりの状況を現場の富山アナから訊いてもらいましょう。富山さん・・・」

「・・・あ、はい、インタビューを続けます。乳女さん、乳女さんが侵略にいらした、ということは、我々地球人と戦う、ということですよね?」

「・・・」

「その戦いに敗れたら、我々地球人はもう滅びるかしかない、と?」

「・・・残念だったわね」

「!・・・い、いや、我々にとっては残念で済む問題ではありません。我々地球人が生き残るためにはどうすれば良いのでしょうか?ただちに降伏して乳女さんの奴隷になれば良いのでしょうか?」

「そう。それでいいのよ。」

「な、なんと・・・ではその後は乳女さんが巨大な女王様としてこの地球に君臨し、アリのように小さな我々地球人を支配なさるのですね?」

「ふん、いいけど」

・・・
・・・
・・・
スタジオは凍りついていた。
この巨大な異星からの侵略者・怪獣乳女は、地球人を力で屈服させ、卑小な奴隷の身分に落とし、その上に君臨する巨大な絶対的統治者となることを宣言したのだ。
地球人の運命は風前の灯だった。

*****

「クッキーが焼けましたよ」

杏奈がキッチンから焼き立てのクッキーを菓子皿に盛ってやってきた。
居間で待っていたナボコフ王子は早速一枚いただいてみる。

「・・・お、これは美味しいですねえ。さくさくとした香ばしさの中にほんのりとシナモンの香りが漂って控えめな甘さもまたお上品。そこらのベーカリーで売ってるクッキーなんか顔負けのクオリティですね。これが手作りだなんて、杏奈さん、いやあ正直驚きましたよ。」

「ありがとうございます」

「こんなクッキーを毎日焼いてもらえる男の人になれたら幸せだろうなあ」

「それはお断わりします」

ほとんどテンプレ通りにお断わりが完了したところで、二人は改めてTVで志都美の状況を見始めた。

「・・・もう、何やってるのかしら」

杏奈が唇を尖らせる。
ナボコフ王子も肩をすくめる。

「私たち以外にはインビジブル星人は見えませんし、言っていることも聞こえないわけですから、皆さんが勘違いなさるのも仕方ありません。」

「それにしてもこれじゃ志都美ちゃんが一方的に極悪非道の侵略者みたいだわ。」

「ほんとですよね。まるっきりアンジャッシュのネタそのものです。」

「ナ、ナボコフさん、アンジャッシュなんてよくご存じね」

「ええ、一応資料で調べてきましたから。」

「ふうん」

「でもね、よく聞いていると実は会話として不自然な点もありますよね。」

「そうね」

「おかしいと思うんですよ。なんか志都美さんの発言の都合の良いところだけ勝手に抜き出して切り貼りしてるみたいで・・・」

「それ、この件に限らないから」

「へ?」

「この星のマスコミはよくやるのよ。発言の文脈を見ずに言葉尻だけ捉えて文意を捻じ曲げ鬼の首を取ったように垂れ流すの。」

「そりゃ酷いですね」

「・・・」

「・・・」

ここで盛り上がっていた会話が急に途切れてしまった。
もちろん理由がある。
一人の女子高生であり、しかも志都美のお友達である杏奈には、もはや言及不能なレベルの事態が勃発してしまったのだ。

*****

どさっ
インビジブル星人は志都美のアーマーのブラを遠くへ放り捨てた
志都美は前屈みになりながら両手で胸を隠そうとするが、いかんせん乳がでかすぎてこぼれ出してしまう。
インビジブル星人はにやにや笑いながら志都美との間合いを詰めた。

「・・・アーマーが外れてシールドが守ってくれないお前など、ただの一匹の小娘だ」

機を見て逃げ出そうとする志都美の腕をぐいと握ったインビジブル星人は、背後から志都美を羽交い絞めにする。

「きゃあ、や、やめて!」

「・・・くっくっく、前言撤回。お前はただの一匹の小娘ではない。妙に乳がでかくてウエストもいまいち絞り切れていないブタだ。こうやって抱き寄せるとぷにぷにと柔らかくいい感じに指に肉が張りついて、この弾ける感じが堪えられないブタだ。そしてこんなだらしなくえげつない身体なのに、顔だけ見れば子供みたいに愛嬌たっぷりの童顔だとは、何から何まで実にけしからんブタだ!」

ぎゅっ
インビジブル星人が両手で志都美のサイズ94.2メートルのバストを揉みしだく。

「きゃっ!」

志都美は前屈姿勢で必死に身体を捻り逃げようとするが、筋肉ムキムキの大男であるインビジブル星人のホールドから抜け出せるはずがない。

「・・・くくくくく、よしよし、思う存分抗ってみろ。抵抗される方がこっちも楽しいからな。お前が泣いても喚いても、俺はこのでかい乳を十分に楽しませてもらうぜ。」

事態は今までのお笑い路線から一転し、いきなりハードなレイプものの様相を呈してきた。
マッチョな巨大男と巨乳巨大女の壮烈かつ規模雄大なセックス
これはもしかして掲示板とかでは熱烈なファンも多いジャイアントカップルものになるのか?
・・・
・・・
・・・
そうはならない雰囲気を漂わせながら、状況は一層混迷を深めていた。

*****

2人の巨人の足元では、自衛隊第一連隊が意外なことの成り行きに騒然としていた。
いや、インビジブル星人を認識できない彼らにとって、巨大な乳女が勝手に奇矯な行為を開始したようにしか見えなかった。
乳女は勝手にブラのホックを外し、そのでっかい乳を曝け出すと、申し訳程度に両手でそれを隠しながら、でもわざわざ前屈みになって足元の自衛隊員たちにその手からこぼれ出る巨乳を間近の距離で見せつけた。
おおおおおおおおおおお
ちょっとしたガスタンクサイズのまーるい乳が2つ、上空から急降下して自衛隊員たちの真上にぶら下がった。
しかもこれだけの質量を持つ肉塊だというのに、自重による変形が全くない。
平たく言えば、でかいのに垂れない乳なのだ。
さっそくその道に明るいベテラン自衛隊員が若手隊員たちを前に自論を展開し始めた。

「この乳女は・・・実は、若いな」

「若いって、何歳くらいですか?」

「うーん・・・ずばり、16歳だろう。」

「16歳?まさか、ありえないでしょ?この乳のでかさで!」

「いや、確かにでかさだけなら16歳のレベルを超えている。だがこの張り加減はティーンエイジャーだ。」

「百歩譲ってティーンエイジャーだったとしても、16歳ってのは・・・」

「乳が垂れないだけじゃない。見ろ!肌に瑞々しく張りがあって肌理が細かい。あの肌だけ見ればローティーンレベルだ。」

「そ、そういえば」

「あと、この匂いだ。ほらお前たちもよーく嗅いでみろ。」

言われて若手隊員たちも目を閉じてくんかくんかと匂いを嗅ぎ始める。
何しろ手を伸ばせば届くかと思われる近さにどかーんとガスタンクがぶら下がっているのだから、匂いは嗅ぎ放題だ。

「・・・どうだ、お前たち、わかるか?」

「?」

「汗の臭いや、ちょっと乳臭い匂いに交じって、嗅神経をよーく研ぎ澄まして嗅ぐと・・・すこーし青りんごのような匂い成分が混じっているのが、わかるか?」

「あ、そういえば・・・」

「わかるか?そうだ。それがティーンエイジャーの匂いだ。しかも15歳から17歳くらいまでのごく短い期間にしか現れない貴重な匂いだ。これらを総合的に判断して、俺が割り出したのが16歳という年齢なのだ。」

「な、なんだって・・・」

「こ、この乳で16歳!」

「俺たちはそんなとんでもない化け物を相手にしていたのか・・・」

「それにしても器用ですね」

「ん?」

「ほら、あの乳ですよ。手も触れずに勝手にもにゅもにゅと動き出しましたよ。」

「ほんとだ」

「まるで誰か他の人にもみもみと揉まれているかのようですね。」

「はっはっは、そんなわけないじゃないか。そんな奴、どこにも見えないぞ。」

「まあそうですね。そんなはずありませんね。」

「まあそのあたりが異星からやってきたエイリアンの特殊性だ。自分の意志で乳をもにゅもにゅと動かせるなんて、地球の人間とはやっぱ構造が違うんだな。」

「そうかあ、凄いなあ・・・」

「くだらないことに感動しているな!!!」

連隊長がこめかみに青筋立てて激怒した。

「いくら巨大だからといって16歳の小娘にこれ見よがしに乳を見せつけられて悔しいとは思わんのか?」

「いや、むしろ嬉しいと思・・・」

「つべこべ言わず攻撃を継続しろおおおおおおおおお!!!」

と、連隊長は怒鳴り散らすのだが、実際のところ自衛隊にとってはいよいよ攻撃しにくい情勢となってきた。

*****

「やめてよ!やめてったらあ!」

「ふん、なかなかにぷにぷにと抱き寄せ心地の良いブタだ。」

抗う志都美を背後から抱きしめて両手ででっかい乳を揉みながらインビジブル星人はご満悦である。

「んふふふふ、前菜はこのくらいにしておいて、そろそろメインコースをいただくことにするかな」

インビジブル星人は志都美のアーマーのパンツをぐっと握りしめた。

「きゃ!・・・あ、あ、あ、やめて!」

「・・・と、いわれてレイパーがホントにやめると思うか?」

うん、確かにそうは思わない、と志都美が答えるまでもなく、インビジブル星人は握っていたパンツをぐいっと手前に引っ張り上げる。
足をすくわれた志都美はもんどりうって仰向けに倒れ込み、まんまとインビジブル星人にパンツを剥ぎ取られてしまった。

「きゃあああああああああ」

これで上も下もすっぽんぽん
でもブーツ・グローブ・ヘッドギア・肩パット・それにスコープは装着中だからまさに顔を隠して身体隠さずの巨大けっこう仮面状態になってしまった。

「きゃあ、やめて!やめて!」

鼻の下をべろーんと伸ばしたインビジブル星人は、四つん這いになって逃げだそうとした志都美を後ろからがっしりと抱きとめると、その臀部に顔を近づける。

「おおお、乳も良いが、尻もまた格別だな。」

両手でばっくりと尻肉をかき分け、頬ずりしながらくんかくんかと臭いを嗅ぎはじめた。

「うんうん、臭い臭い。やっぱ16歳の女の子といってもさすがに尻の穴は臭いな」

「何するのよこのど変態っ!」

志都美はインビジブル星人から肛門を離そうとして思いっきり反っくり返った。
チャンス!
百戦錬磨のインビジブル星人はこの勢いを逆に利用して志都美の身体をひっくり返す。
どしいいいいいいいいいん

「いたたたたた」

尻餅をついた志都美が気づいた時は、大股広げた格好でインビジブル星人に正対するポジションになっていた。

「・・・ま、まず」

と、思ったときはもう遅い
インビジブル星人は素早くにじり寄ると志都美の両膝を肩に抱え込む。
これで大股開きのまま志都美の動きは完全に封じられた。

「ちょ、ちょ、やめて!やめて!やめてったら!きゃああああああ!」

叫びも虚しくインビジブル星人はゆっくりと中腰の姿勢になる。
口元には邪悪の笑み。
抱え込んだ志都美の両膝を更に力づくで引き寄せる。
その股間には青筋たてていきり立つ20メートル超級の巨大ペニスが
・・・
・・・
絶体絶命
東九条志都美16歳現役女子高生、ついにやって来た乙女のピンチである!

*****

とまあそんな具合に志都美はピンチに陥っていたわけだが、足元から見上げる自衛隊員たちにはいまいち状況が掴めていなかった。

「?」

怪獣乳女はいきなり「きゃあああああああああ」と絶叫を上げながら自らパンツをかなぐり捨ててすっぽんぽんになると、「きゃあ、やめて!やめて!」とかいいながらも四つん這いになって積極的に尻穴を広げ周囲に見せつける始末。それでいて「何するのよこのど変態っ!」と怒鳴っているんだからもう何をかいわんやである。
自衛隊員たちの謎は深まる一方だ。

「?」

「・・・これって、『自分が変態だ!』って宣言してるってこと?」

「うーん、そうなのかなあ?」

いまいち納得できずに首を捻っていると、今度は派手に体位を変換し、尻もちつきながら自衛隊員たちの眼の前で両脚をアクロバティックにおっ広げてぐっぱあああああだ。口先では「ちょ、ちょ、やめて!やめて!やめてったら!きゃああああああ!」とか言ってるくせに自分一人でさくさくと大開脚しちゃうんだから、これはもう間違いなく見せつけ行為としか考えようがない。

「やっぱ変態だったんですね」

「うん、そうとしかいいようがないな」

「で、連隊長、どういたしましょう?」

「ん?」

さすがの連隊長も対応策に困った。
ここまで愚弄されて黙っているのは癪に障る。
が、さりとて事の成り行きがいまだに掴めないなので迂闊に動けない。
どうすれば
どうすればいい?
・・・
・・・

「・・・連隊長」

「・・・」

「連隊長!」

「・・・」

「連隊長!命令を!」

「よし」

大きく深呼吸する
自衛隊第一連隊の全責任をその肩に担う彼は、ついに決断した。

「・・・動画を撮っておけ。アングルを変えて多方向からな。もちろん、至近距離からだぞ。」

*****

「お茶のお替りをどうぞ」

杏奈がキッチンからティーカップに紅茶を入れてやってきた。
ナボコフ王子は一口すすって目じりを下げる。

「おうおう、これはまた素敵な香りのダージリンですね。こんな紅茶を毎日淹れてもらえる男の・・・」

「それはお断わりするとして」

杏奈は饒舌なナボコフ王子の無駄話をぴしゃりとお断わりで封じると、単刀直入に用件に入った。

「志都美ちゃん、ピンチですよね?」

「ええ」

さすがにナボコフ王子も申し訳なさそうにTV画面を覗き込む。

「・・・わたし、助けに行った方がいいと思うんですけど」

「そうなさいますか?」

「でも、そのためにはもっと強力な武器が必要ですよね。ナボコフさん、何か持ってない?」

「もちろんありますよ」

ナボコフ王子はポケットから万年筆サイズのアイテムを取り出した。

「志都美さんには拡大縮小銃をお貸しいたしましたが、でも自分に向かって撃ったわけですから、まあ巨大変身用のアイテムとして使用しちゃったわけです。でも巨大変身するならこっちの方が専門的に特化したアイテムですからグレードはかなりいいですよ。キャパは広いし、防御力も攻撃力も格段にアップするし、あんなスコープやヘッドギアを使わなくても視覚や聴覚が鋭くなるし、テレパシー使えるし、そうそう、空を飛ぶことだってできちゃうんですから。あ、ついでに言えば使えるアーマーの選択肢もぐっと広がるので、カワイイものからカッコイイものまでコスチュームが選び放題です。どうですか?優れものでしょ?」

「そんな凄いアイテムがあるのに、どうして初めから貸してくれなかったの?」

声を荒げる杏奈に向かってナボコフ王子は斜に構えながらちっちっちと指を振る。

「ダメですよ。これはシベール星でも最先端の科学製品です。銀河連邦法以前の問題で、わたしが自分の護身用に肌身離さず携えていなければなりません。貴重品なんですから。」

「じゃ、優奈の靴下程度では貸してくれない、と?」

「とてもとても、無理な相談です。」

「・・・そう」

杏奈は目を瞑った。
考える
考える
考える
・・・
・・・
一つの結論に達すると、目をかっと開き、二階に向かって大声を上げた。

「優奈っ!」

「なあに?杏奈お姉ちゃん・・・」

とたとたとた
二階の自室からまた優奈ちゃんが降りてきた
杏奈は厳しい目つきでその優奈ちゃんに命令する。

「・・・パンツを脱ぎなさい」

「え?」

「いいから今すぐここでパンツを脱いで、そのパンツをわたしによこしなさいっ!!!」

*****

「ぐえっへっへ、それじゃあブタねーちゃん、そろそろいくぜ」

「きゃあきゃあきゃあ、やめてええええええ!」

相変わらず志都美は無駄な抵抗を続けている。
やっぱレイプってばこの必死の抵抗が最高だよなあ、などとインビジブル星人はシチュエーションを心行くまで堪能していた。

「きゃあきゃあきゃあ、やめて、やまて、やめてええええええ!」

「やめねえよ、でへへへへ」

(・・・おやめなさい!)

「!」

おや?
誰かの声が心の中に飛び込んできた。
不審に思ったインビジブル星人が振り向くと、そこには別の巨大な美少女が立っていた。
身長はこの乳女と変わらないが、体型は一回りスリムである。
白を基調にゴールドと紅色をあしらった夏物セーラー服風のコスチュームを装い、ロングブーツとグローブはゴールドだ。頭には紅色のベレー帽のようなものを被り、SMの女王様風のアイマスクをかけている。
いったい何者であろうか?

「お前は誰だ?」

(名乗るほどの者ではないわ。それよりそこの女の子を早く放して、おとなしくインビジブル星へ帰りなさい!)

謎のセーラー服風巨大美少女はテレパシーで話しかけてくる。
インビジブル星人は横柄に拒絶した。

「・・・飛んで火にいる夏の虫とはこのことだ。一人やっちまおうとしてたところが二人になってくれたぜ。ブタねーちゃんの身体もなかなか美味しそうだが、こっちのねーちゃんの生意気そうな感じもそそるなあ。ふふふ、これは好都合」

志都美からいったん手を放すと、インビジブル星人はセーラー服風巨大美少女に向かって舌なめずりをして見せた。
これでは全然事態が解決しないではないか!と思われたが、セーラー服風巨大美少女の方は慌てる気配もない。

(・・・これだけ警告したのに、わたしのいうことが聞けないの?)

「けっ、なんで俺様がお前みたいな小娘のいいなりにならなきゃならんのだ!ふざけるんじゃねえ!」

(そう・・・それでは仕方がないわ。これはみんなあなたの責任よ。)

セーラー服風巨大美少女は胸の前で両手を組むと、目を閉じて精神を集中させた。

「?」

インビジブル星人が首を捻っていると、セーラー服風巨大美少女の姿は青白く輝き始め、そして・・・更に巨大化していった。
ぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐ

「・・・う、う、うわああああああああ!」

恐怖と驚きでへたり込んだインビジブル星人の目の前に映ったのは、西新宿に残った最後の砦の東京都庁を片足で踏み潰す身長1600メートルオーバーの大巨人になったセーラー服風巨大美少女だった。

「・・・ひ、卑怯だぞ!」

インビジブル星人は涙目だ。

「戦う相手より巨大化しちゃうって、特撮の世界では反則なんだぞおおお!」

(ふん!)

セーラー服風超巨大美少女は、しゃがみ込んでもはや自分にとってはお人形さん以下のこびとになり下がった巨大インビジブル星人と志都美をそれぞれの手でむんずと掴むと、再びすっくと立ち上がった。
右手で掴まれたインビジブル星人は必死で抗おうとするが、セーラー服風超巨大美少女の手はびくともしない。
大きさの差、力の差は歴然だった。
その手を顔の前に寄せ、インビジブル星人を睨み付ける。

(・・・戦う相手より巨大化しちゃうって、確かに特撮の世界では反則かもしれないけど、GTS話では時々ある展開よ。)

「くそおおお」

そうだったのか
万事休す
インビジブル星人は観念した。

「まいった・・・」

(ん?)

「参りました。降参します。もう悪いことはしません。大人しくインビジブル星に帰ります。」

(・・・)

「だから許してください!お願いします!」

インビジブル星人は握られたセーラー服風超巨大美少女の手の中で深々と頭を下げる。
ほんとうに反省しているように見える。
セーラー服風超巨大美少女はふうっと息を吸うと、きっぱり答えた。

(・・・お断わりします)

ふん!
インビジブル星人握る右手に力を入れる
・・・
ぶち
・・・
・・・
握りしめられたインビジブル星人の身体が脆くも潰れてしまった
血液や脳漿なんかもぶっ飛んでそれなりのスプラッターだったはずだが、何しろ透明なのでグロ感は全くない。
セーラー服風超巨大美少女の爽やかイメージは全く損なわれなかった。
自由になった右手を腰に添えると、セーラー服風超巨大美少女は胸を張って足元の東京都民たちに挨拶を始めた。

「・・・地球のみなさん、危機は去りました。このわたしがいる限り、邪悪な侵略者に地球は指一本触れさせません。お約束します。それではまた、みなさん、ごきげんよう♡」

シュワッ、と言ったかどうかは知らないが、セーラー服風超巨大美少女は左手に志都美を握りしめたまま遠く空に飛び去っていった。
様々な深い謎を残しながら、これにて一件落着となったのである。

*****

「・・・このように正義のヒロイン・ウルトラ美少女仮面の活躍によって、地球は巨大変態怪獣乳女(ちちおんな)の魔の手から救われました。ありがとうウルトラ美少女仮面!ほんとうにありがとう!是非とも是非ともまた地球にお越しくださいっ!!!」

杏奈の家の居間でまったりとお茶しながらテレビの特別番組を見ていた志都美は、この解説を聞いてふてくされた。
・・・
巨大はわかるわよ
侵略者と間違われちゃったのはインビジブル星人が見えなかったからしようがないわね
まああんな痴態を見せちゃったから、変態ってのも甘んじて受け容れざるをえないかもしれない
・・・
・・・
でもどうして「怪獣」なの?
この花も恥じらう16歳の乙女がなぜ「怪獣」なの?
そして何よその「乳女=ちちおんな」って名前は?
勝手に酷い名前つけてるんじゃないわよ!!!

「まあまあ志都美ちゃん、いちいちマスコミに腹を立ててもしょうがないじゃない。」

杏奈がにまにま笑いながら志都美を宥める。もちろんそんなことで志都美の腹の虫が収まるはずもない。

「杏奈ちゃんはいいわよ。無傷で美味しいところをかっ攫っていった上に『ウルトラ美少女仮面』なんていうもろヒロインの名前まで付けてもらって・・・」

「ま、それもベタ過ぎるけどね」

「そもそもどうして『仮面』なのに『美少女』ってことになっちゃうのよ?」

「うーん、雰囲気・・・かしら?」

「ううう、納得できないわ・・・」

そもそも一番大切な東京都庁を勝手に踏み潰しちゃったのは杏奈ちゃんでしょ!

「愚痴らない愚痴らない、それもこれもみんなあのど変態のインビジブル星人が悪いんだから」

「ホントそうですよね。」

ここで急にナボコフ王子が会話に割り込んできた。

「あのインビジブル星人の偏った嗜好には度肝を抜かされましたよ。あんなでかい乳を揉んでみようと考えるなんて、いやあもうなんというか、物好きというか、蓼食う虫というか、ええ、変質者の考えることはわかりません。」

「・・・」

変質者が変質者を変質者呼ばわりして非難する。筋が通っているのかいないのか判断に苦しむ展開なので、杏奈と志都美は無難にスルーすることにした。

「それにしてもちょっと解せない点もあるのよね・・・」

志都美がぽつんと呟いた。

「こんな凄いアイテムがあるなら、シベール星への侵略者にも対抗できるんじゃないかしら?」

「そういえばそうね」

志都美は例の変身アイテムをナボコフ王子の目の前に突き付ける。

「ねえねえ、これでシベール防衛軍兵士を強化しちゃうのは・・・」

「ダメです!そんなことはできません!」

ナボコフ王子が声を荒げた。
志都美と杏奈は揃って首を傾げる。

「どうして?」

「これならあの侵略者だって撃退できちゃうでしょ?」

「だからいけないんです!」

ナボコフ王子は顔を真っ赤にして反論する。

「撃退なんかしたら、もうロリザたん♡が侵略に来てくれなくなっちゃうじゃないですかっ!!!」

・・・
・・・
・・・

「え?」

「え?」

「え?」

姿なき侵略者・終