渚のひみつ・後編
By JUNKAMAN

「あはははは、見ろ。マスコミの反応は上々だ。インパクト十分だったぞ。」
デュースは報告書を片手で振り回して陽気にポルカを踊っている。シェビッキは醒めた表情だ。
「どうせゴリ押しの結果だろ?」
「そればかりでもないぜ。手をまわしておかなかった評論家とかからも絶賛されてる。この娘はいけるよ。」
「でもさあ・・・」
シェビッキはそれでも心配顔だ。
「ドロシーさまが実はブロブディンナグ人だ、って・・・まだ明らかにしてないんだろ?」
「そうだよ。」
デュースは涼しい顔である。
「まずくないか?」
「どうして?」
「だって・・・」
シェビッキは口を尖らせる。
「可愛い女の子だと思ってファンになったら、実は自分たちとは比べものにならないくらい超巨大な巨人だった、ってことがばれたら・・・」
「意外性があって面白いだろ?」
「そうかあ?怒られちゃうんじゃないか?」
「ふん」
デュースは鼻先でせせら笑う。
「いいかいシェビッキ、アイドルとファンは一緒に暮らすわけでも、ましてや個人的につきあうわけでもない。アイドルなんて、所詮ファンの頭の中、バーチャルな空間の中に棲む者なんだよ。」
「そうだけど・・・」
「自分との釣り合いなんて考える必要はないんだ。むしろインパクトはあればあるほどいい。」
「そんなものかなあ」
「それでさ、絶好の機会を準備したんだよ、ふふふふふふ」
デュースの眼がキラリと輝いた。

*****

「握手会?」
「はい」
素っ頓狂な声をあげたドロシーに対して、シェビッキはごくごく事務的に頷いた。
「会場は都の郊外の港町ポートリリパットの海浜公園に建つ開閉式ドーム球場です。」
「ああ、オーシャンドームのことね。」
「そうです。よく御存じで。」
「で、みんながドームに集まったらわたしはどうすればいいの?」
「実はオーシャンドームは老朽化が進んでいて建て直しが決まっているんです。」
「それで?」
「だからみんなが集合したら、ドロシーさまは遠慮なくオーシャンドームを根こそぎ掬い上げて掌に乗せちゃってください。そしたらドームの天井が開きます。」
「ちょっと待ってよ。掬い上げたら送電線も切れちゃうでしょ?どんな動力で開くの?」
「細かいことは言いっこなしです。それだけのお話なのですから。」
シェビッキは身もふたもない説明でスルーする。仕方がないのでここはドロシーも納得することにした。
「で、ドームの天井が開いたら、そこでファンのみなさんははじめてドロシーさまとご対面。軽いインタビューに答えたら、ドロシーさまはドームの内部に小指でも突っ込んでください。それで『握手会』ってことにしますから。」
「んふふふ、面白そう・・・」
ドロシーは上機嫌である。
「・・・で、わたしは例の新曲を歌ったりするの?」
「いえ、それは結構です。」
シェビッキはきっぱりと首を横に振った。
「一応曲は流れますが、ドロシーさまは口パクで結構でございます。」
「わたし、歌ってもいいけど・・・」
「ダメです!絶対にダメです!!」
「ふうん・・・ま、いっか。その方が楽ちんだし。」
ドロシーはお気楽にへらへら笑う。一方のシェビッキは渋い表情だ。
「・・・何よ?他に何か言いたいことでもあるの?」
「ええ、まあ」
シェビッキは口ごもる。
「言いたいことがあるんなら言ってごらんなさいよ。」
「いいんですか?」
「いいわよ」
「じゃ、言っちゃいますけど・・・このシチュエーションって寺田落子さんが描いたさちこさんのイラストもろパクリでしょ?」
ギクリ!
ドロシーの眼が泳いだ。
「も、もろパクリとは何よ人聞きの悪い・・・」
「でもそうなんでしょ?」
「ち、違うわよ・・・ただ・・・」
「ただ?」
「・・・た、たいへん参考にさせていただいただけよ!」
「あーあ、開き直りですか・・・」
シェビッキはやれやれという表情で首を横に振った。
「自分からネタばらしした十六夜さんの立派さに比べて潔さが全然足りないですね。」
「う、うるさいわね!」
ドロシーは逆切れした。
「巨人と小人の絡みのパターンなんてたかが知れてるでしょ? JUNKMANなんか今まで何回他人のネタをパクってきたと思ってるのよ?ただのパクリを『たいへん参考にさせていただいた』って言い張っちゃうギャグですら2回目よ。カミングアウトした十六夜さんが異常に立派だっただけで、普通は黙ってパクリっぱなしで済ませるものなの!!!」
「はああ、人間が小さいですねえ。」
「ブレフスキュ人のあんたから言われたくないわ!!!」

*****

会場のオーシャンドームの前にたどり着いたら、開門前だというのにもう長蛇の列ができていた。
カミオは握りしめたチケットを見つめる。
あのドロシーちゃんに逢いたくて、逢いたくて、バイトして、お金を貯めて、やっとこのチケットをゲットした。
チケット代にすべてつぎ込んだので、ここまで来る電車代がなくなってしまった。
歩いてこようかとも考えていたがけれど、バイト先のマスターが車で送ってくれるというのでその好意に甘えることにした。
もちろん帰りは歩くしかない。
でもそんなことは些細な問題だ。
きょう、ここであのドロシーちゃんに逢える。
逢って、握手をして、そしてきっと直接言葉を交わすことができる。
そうすれば、全ての苦労は吹き飛んでしまう。
きっと家までの25リリパット・キロメートルの道のりも、スキップしながら軽く踏破してしまえることだろう。
それだけではない。
今日自分が手にするであろう素晴らしい体験は、これからの自分の心の支えになって、明日からの僕をずっと鼓舞してくれるに違いない。
そう考えれば安いものさ。
カミオはチケットを見つめて眼を細めた。

*****

握手会の定刻1時間前にオーシャンドームの扉が開いた。
みんな我も我もと中に入っていく。
少しでも良い席が取りたいからだ。
カミオもその流れに乗ってドームの内部へと押し込まれながら、少し怪訝に思っていた。
なぜ、チケットに座席番号が指定されていないのだろう?
なぜ、チケットに握手の順番を示す番号なども記されていないのだろう?
この数万人にも達する大群衆が一人の女の子と握手するというだけでも大変なことだ。順番を決めておかなければ大混乱になるに違いない。
しかし、会場には一切そんな配慮が見られない。
みんな機械的にアリーナの観覧席に誘導されて、隅から順番に座らされていく。
ただ、アリーナからは仮設の階段が何か所も設置されていて、ドーム中央のグラウンドには容易に降り立つことができるように設定されている。
それではそのグラウンドに特設ステージがあるのかといえば、何もない。
野球用のダイヤモンドもサッカー用のピッチも全て取り払われて、何もない剥き出しのグラウンドが殺風景に広がっているだけである。
いったいどんな演出が用意されているのだろう?
アリーナの座席に着いてカミオが首を捻っていると、急に会場の照明が落とされた。
いよいよイベントが開始されるのだ。
ふいにオーロラビジョンが眩く点灯される。そこに映し出されたのは、あの金髪ツインテールの女の子・・・ドロシーちゃんだ!!!
「みなさあああん、こんにちわああああ!」
こんにちわあああああああああ
観衆たちが一斉に大声で応える。そのあまりの迫力にドーム全体がぐらぐらと揺れた、ようにカミオには思われた。
「今日はドロシーの握手会にお出でいただきまして、本当にありがとうございますう。イベントを開始するにあたって、安全のためにいくつかのお約束をお願いしますね。まず第一にい、会場は揺れることがあります。危険ですので、指示があるまでは立ち上がらず、椅子に座って、場合によってはしっかり前の座席の背もたれにしがみついて、体勢を維持していてくださいね・・・」
へえ、本日のメインイベンターが会場の前説までやっちゃうのか。画期的だなあ。
しかしこの会場はそんなに揺れるのか。確かにさっきもぐらぐら揺れてたけどね。このドームは老朽化して、もうすぐ立て直すという噂だもんな。ま、それにしても「前の座席の背もたれにしがみ付いて」ってのはさすがに大げさすぎると思うけど・・・などと思いながらカミオはオーロラビジョンを見つめる。憧れのドロシーちゃんが一所懸命に説明してくれる姿を見るだけでも幸せだった。
「・・・以上で説明は終了でえす。みなさん、わかりましたかあ?」
はあああああああい
「ありがとうございますう。それでは只今から『渚のひみつ』発売記念ドロシー握手会を開催いたしまあす。みなさん、危険ですから着席して、前の座席の背もたれにしがみついてくださいね。」
・・・え?
本当に前の座席の背もたれにしがみ付かせるの?
半信半疑のまま、観衆一同はドロシーの言うとおりに着席し、前屈みになって前方座席の背もたれを抱きかかえるいわゆる「ショックポジション」を取った。
ガツン!!!
すると、いきなりドーム全体が下方から突き上げられた。
何だこりゃ?
どういう演出だ?
良くわからないけれど、これは本当にショックポジションをとらないと危険だ。
みんな真剣に前方座席の背もたれにかじり付く。ドーム内に緊張感が漲った。
ガツン!!!ガツン!!!ガツン!!!
・・・
はじめの一撃と同様の突き上げが3回ほど繰り返された後、突如ドーム全体にGがかかりはじめた。
グググググググググググググググ
強烈だ。
遊園地の絶叫マシーンも真っ青の迫力だ。
グググググググググググググググ
みんな背もたれを必死で抱きかかえる。
ググググググググ・グ・グ・・グ・・グ・・・・・・グ
・・・
やっとのことでGが止み、ドーム内にはほっとした空気が流れた。
背もたれから手を放し、上半身を起こし始める。
それでもまだ席から立ち上がる者はいない。
今の演出はいったいなんだったのだろう?
ガラガラガラガラガラガラ
見上げると、開閉式のドームの天井が開いてきた。
照明を落としたドームの中に、外から眩しい日光が差し込んでくる。
「!!!」
その日光と同時に飛び込んできた光景を見て、オーシャンドームに集結した80000人の大観衆は言葉を失った。

*****

握手会の参加者たちが全員ドーム内に入場し終わったころ、ドロシーはこっそりブロブディンナグ人専用道路を通ってポートリリパットに到着した。
足元のオーションドームを遥かに跨ぎ越し、その先の海に足を踏み入れる。
そこはこの国では最大のリリパット人用港湾だ。
リリパット船籍の巨大タンカーや巨大客船なども頻繁に着岸するため、埠頭のすぐ隣まで25リリパット・メートルもの水深が確保された超一流の設備を誇っている。
とはいえ、25リリパット・メートルの水深など、わずか1ブロブディンナグ・センチメートルである。ドロシーの赤いパンプスのつま先が隠れるか隠れないないか程度の浅さでしかない。ドロシーのようなブロブディンナグ少女にとっては水たまりみたいなものである。
ちょうどそこに、リリパットが世界に誇る全長450リリパット・メートルの超巨大タンカーが石油を満載して入港しようとしていた。

*****

「なんだあれは?」
埠頭への着岸を目前にしていた超巨大タンカーの目前に、上空から急に真赤で巨大な物体が降り立った。
どっぱああああああん!!!
着水と同時に見たこともないようなうねりが発生し、タンカーは船体が傾くかと思うほど激しく揺れた。
「うわあああああああ」
「ど、どういうことだよ!」
なにしろこの国ではナンバーワンの巨大船舶である。全長450リリパット・メートルというサイズはリリパット人の船としてはもちろん圧倒的に巨大であるのだが、日本人の眼から見ても全長9メートルもあるのだからまずまずの大きさだ。実際に日本人を甲板に載せて外洋を航海した実績もあるそうな。だから安定性は抜群だ。外洋ならともかく、リリパット近海では乗組員たちは揺れらしきものすら感じたことがなかった。
だというのにこの揺れは、いったいどうしたことであろう?
「・・・あ、あれは、靴だ。」
「なに?」
「女の子の履く、真っ赤な可愛いパンプスだ。」
「・・・ということは?」
「ポートリリパット港にブロブディンナグ人が、ブロブディンナグ人の女の子が来たらしい。」
「そりゃまずい!急いで進路を変更しろ!」
船長の指示のもと、巨大タンカーは慌てて進路を変更した。
なにしろ全長450リリパット・メートルの超巨大タンカーといっても、ブロブディンナグ人から見たらその長さはたったの18ブロブディンナグ・センチメートルである。
ましてや75リリパット・メートルの船幅は3ブロブディンナグ・センチメートルにしかならない。
この女の子のパンプスは片方だけでも超巨大タンカーを圧倒するサイズだ。衝突したらこっちが大破してしまう。それどころか、下手をすればうっかり踏み潰されてしまう危険だってある。このとてつもなく巨大な女の子は足元を注意しているように見えなかったからだ。
「お、面舵いっぱあああい!!」
「はい!!」
タンカーは全力で右に旋回する。
ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ・ぎ・・ぎ
危機一髪。
直前で巨大パンプスとの衝突は避けられた。
「・・・ふうう、危ないところだった。」
船長は思わずその場にへたり込んだ。
額の冷や汗を拭きながら、無線長に確認してみる。
「おい、今日、港にブロブディンナグ人が来るって連絡は入っていたか?」
「いいえ、聞いちゃいませんよ。」
無線長は首を横に振る。
「ただ・・・」
「ただ?」
「港の近くのオーシャンドームでアイドルタレントの握手会が開かれる、って連絡が届いてましたけど・・・」
「握手会?」
わけがわからず、船長は腕組みをして首を傾げた。

*****

足元でそんな超巨大タンカーの大騒ぎがあったことなどドロシーはまるで気づいていない。
見つめているのは埠頭近くににちょこんと鎮座しているオーシャンドームだ。
こんなに小さいのだから、ドロシーが近くを通過した際にドーム内部はきっと揺れたに違いない。
でも、そこは巧みにアナウンスや観衆の誘導でごまかしておいた。全てデュースの計算通りである。
準備万端全てOK。
ドロシーはしゃがみ込むと、左手を埠頭側からオーシャンドームの下へと滑り込ませた。
「えい!」
ガツン!
リリパット人8万人を収容できる巨大多目的ドームの直径は約250リリパット・メートルだ。
すなわち10ブロブディンナグ・センチメートルである。
ドロシーにしてみればちょうどテニスボールを半分に割ったくらいの大きさだ。
片手の中に収めることくらいわけもない。
ただ、中の観衆たちを怪我させないよう、慎重に操作する必要がある。
ガツン!!!ガツン!!!ガツン!!!
・・・
ようし、完全に掌の中に収まった。
じゃ、立ち上がろう。
ググググググググググググググググググググ・グ・グ・・グ・・グ・・・・・・グ
完全に立ち上がったドロシーは、胸を張って、右手を腰に当て、オーシャンドームを載せた左掌を息のかかるほどの顔の至近距離に近づけた。
これでよし。
・・・
ガラガラガラガラガラガラ
手筈どおり、ドーム球場の天井が開いていく。
じっと、中を覗き込む。
・・・
いたいた。
80000人の大観衆がびっしりひしめきあってる。
みんな、言葉もなくあっけにとられて上空を見上げてる。
・・・
んふふふふふふ
びっくりした?
わたしのこと、ただの可愛い女の子だって思ってたでしょ?
実はこんなに大きいなんて、予想もしてなかったでしょ?
まともに握手したり、一緒に写真撮ったり、言葉を交わしたりできるとでも思ってたんでしょ?
てへ、残念でした。
あなたたちとはね、まるで大きさが違うのよ。
勝手に勘違いしちゃって、恥ずかしいわねえ。
ドロシーは笑いをかみ殺しながら打ち合わせ通りドームの内部に向かって自己紹介した。
「こんにちわ!みんなのアイドル、今日も可愛いドロシーちゃんでえす!」

*****

開かれていくドームの上空から、巨大な碧色の瞳が内部を覗き込んできた。
一瞬の凍りついたような静寂の後、オーシャンドームの内部は騒然とし始めた。
「あわわわわわ」
「あ、あ、あ、あれがドロシーちゃんなのか?」
「とんでもなく巨大じゃないか!」
「でかい!でかすぎる!」
「もしかしたら俺たちって・・・いまドロシーちゃんの掌の上にいるのか?」
「え?じゃドロシーちゃんって、このオーシャンドームを片手に収められるような超巨人、ってことかい?」
「・・・」
そこから得られる結論は一つだった。
「ドロシーちゃんは・・・ブロブディンナグ人だったのか!!!」

*****

「こんにちわ!みんなのアイドル、今日も可愛いドロシーちゃんでえす!」
上空から超巨大な美少女がにっこり笑ってドームの中に挨拶する。
金髪のツインテール、碧の瞳、白い肌、ショッキングピンクの唇・・・
間違いなくあのドロシーちゃんだ。
「イエーイ、みんな、ドロシーちゃんとのご対面、エンジョイしてくれたかーい?」
いつの間にかオーロラビジョンにデュースが映っている。今日のMCを務めるらしい。人件費の節約のためだろうか、チープな選択である。
「それじゃあ、まず早速ドロシーちゃんに歌ってもらおう。曲はもちろん、『渚のひみつ』だああ!!」デュースがテンション高く紹介すると、ドーム内に音楽が鳴り響いた。
チャーンチャチャチャチャチャーンチャチャチャチャー
「♪あー、しろーいーなーみとー、あかーいーぱらそるー、ふたーりーだけーのー、なぎさのー、ひみーつうううう・・・」
お馴染みの曲をドロシーがフリをつけながら歌う。観衆も気を取り直して立てノリしたり、ドロシーコールをはじめたりした。まあ、よくあるアイドルコンサートの情景である。
でも、本当はドロシーは歌ってはいない。実は口パクだ。それもアイドルコンサートでよくあることといえばそれまでではあるが。
「どうもー、ありがとうございましたあ!」
歌い終わっ(たふりをし)て、ドロシーはドーム内に向かってにこやかに笑いながら一礼した。
オーロラビジョンには再びデュースが現れる。
インタビュータイムの始まりだ。
「ドロシーちゃんって、ほんとに可愛いですね。」
「やだあ、恥ずかしいですう(心の声:当たり前でしょ。でもあんたたちみたいなちびから可愛いとか言われても嬉しくもないけど)」
「ドロシーちゃんって、ブロブディンナグから来たんですね?」
「はい、そうなんですう(心の声:だから何?)」
「大きな大きなドロシーちゃんから見たら、僕たちなんかアリンコみたいな小人に見えるんでしょうね?」
「アリンコ?そんなことありませんよお。みなさんをアリンコと同じだなんて、考えたこともありませんよお(心の声:つーか、ぶっちゃけあんたたちアリンコより小っちゃいでしょ?アリンコに踏み潰されるほどのちびでしょ?じゃ、一緒にするわけないじゃん、ププ)」
「ドロシーちゃんの、好きな男の子のタイプって、どうですか?」
「ええ?・・・ドロシーは・・・優しい人なら見た目にはこだわりません(心の声:でもお金と権力は持ってなきゃだめ。もっともあんたたちみたいなおちびははじめから問題外だけど)」
「ということは・・・僕たちリリパット人にも、チャンスありかなあ?」
「もちろんですう(心の声:そんなことありません。全然ありません。ノーチャンスです。無理です。無理無理無理無理かたつむり!)」
「そうですかあ。嬉しいですね。それじゃあ誰がこのドロシーちゃんのハートをゲットするか、お待ちかね、握手タイムでえす!」
MCのデュースの進行に従って小首を傾げてにっこり笑ったドロシーの顔が上空に去っていく。
代わりに開放されたドームの天井から直径24リリパット・メートル、長さ150リリパット・メートルにも及ぶ円筒形の巨大な物体が斜めに挿入されてきた。
ずううううん
その先端がグラウンドの中心に接地する。
これはドロシーの小指の先端だ。
「はい、それではみなさん、どうぞご自由にドロシーちゃんと握手してくださあい!」
おおおおおおおおおおお
仮設階段を通ってアリーナの大観衆がグラウンドになだれ込み、ドロシーの小指に群がった。

*****

カミオもみんなと一緒に巨大なドロシーの小指を両手で触れていた。
その薄いピンク色の肉壁は、圧倒的に巨大だけれども、柔らかくて、温かい。
なによりも女の子らしい甘いいい匂いがほのかに漂ってくる。
「これがドロシーちゃんかあ・・・いいなあ・・・」
さっき、ドロシーちゃんが巨大なブロブディンナグ人だと知った時は、夢が壊れたと思った。
握手したり、一緒に写真を撮ったり、言葉を交わしたりする夢が、ぼろぼろと崩れたと思った。
でも、それは夢ではない、単なるカミオの妄想だったのだ。
現実にドロシーちゃんはいる。
可愛い金髪ツインテールの女の子であるドロシーちゃんはいる。
僕らのために「渚のひみつ」を歌ってくれるドロシーちゃんはいる。
こうして、いま、カミオの目の前にいる。
何が不満だというのか。
ブロブディンナグから来た大巨人、僕から見たら雲を突くどころか突き抜けちゃうほどの超絶大巨人・・・というのもドロシーちゃんの一つの個性じゃないか。
そんな個性も含めて、僕はドロシーちゃんが大好きだ。
それがファンというものじゃないか。
・・・
カミオには新しい夢が広がってきた。
カミオはぽつんと平原に立っている。
その広大な平原の上空から、巨大な金髪ツインテールの女の子が女神のような微笑みをみせて覗き込んできた。
カミオだけに微笑みかけている。
ドロシーちゃんだ。
そうか、この肌色の平原は、ドロシーちゃんの掌なんだな。
カミオは上空に向かって大声で話しかける。
ドロシーちゃんもそれに応える。
いつまでも続くふたりの会話
ふたりだけの、渚のひみつ・・・
・・・
は!
こんな妄想に浸っている場合ではない。
今が絶好のチャンスではないか!
カミオは冷静に考えた。小さなリリパット人やブレフスキュ人が肉声でブロブディンナグ人とかいわできるはずがない。でも、このイベントが順調に進行しているということは、誰かが何らかの通信設備を介してドロシーちゃんとコンタクトを取っているはずだ。きっとこの中にいる。誰かインカムを装着している人が・・・
「・・・いた!」
カミオはグラウンドの人混みから少し距離をおいたところでインカムを装着して誰かとぶつぶつ話しているシェビッキの姿を発見した。
こっそりとその背後に回り込む。
「ちょっと失敬!」
インカムのセットをひったくると、グラウンド中央のドロシーの小指に向かって駆け出した。
「あ!こら!何をするんだあ!」
「ごめんなさい!必ず後でお返ししますから!」
それだけ叫ぶとカミオはインカムを装着し、するすると身軽にドロシーの小指に登って行った。
「こら!待て!」
慌ててシェビッキは叫ぶものの、身軽さでは高校生のカミオには及ばない。カミオは指紋を足掛かりにしてあれよあれよという間にドロシーの指腹から爪の上にまで登り詰めていく。シェビッキはその姿を指をくわえて眺めているしかなかった。
キラキラと輝くアートが施されたネイルの上に到達したカミオは、いよいよインカムのスイッチを入れる。
「・・・おおい、ドロシーちゃん、聞こえますかあ?」

*****

「おおい、ドロシーちゃん、聞こえますかあ?」
あれ?
ドロシーには聴き慣れない声だ。
少なくともシェビッキではない。
声の主を求めてドームの中をざっとサーチする。
しかしそれでなくても小さなリリパット人が80000人も集結しているのだから、その中から個人を同定することなど困難だ。
その時また声がした。
「ここだよ!小指の爪の上だよ!」
「?」
・・・いた!
確かに誰かがいつのまにか爪の上に登っている。
それにしてもどうしてわたしと交信できるインカムを入手したんだろう?
「そんなところに登ると危ないですよ(心の声:うざいなあ、降りてよ)」
「大丈夫、落ちたりはしないから。それよりも、君とお話がしたいんだ!」
声をかけたけど、降りてくれそうにない。
これは困った。
・・・説得してみるしかないかなあ
ドロシーはカミオを爪の上に載せたまま、しぶしぶ小指をオーシャンドームから引き抜いて、目の前の高さまで持ち上げた。

*****

「ふわあ、高い・・・」
キラキラにデコレートされたネイルの上に這いつくばって、カミオはおそるおそる下界を見渡した。
どこまでも見える。
都まで見える。
それどころか、その向こうにあるカミオの住む町まで見えそうだ。
それも当然、ここは標高3700リリパット・メートル。
すなわちリリパットのいかなる山の頂上よりも高い地点なのだ。
だけれども、それは、ドロシーちゃんという女の子の目の高さでしかない。
カミオは這いつくばった姿勢のまま振り返る。
直径10リリパット・メートルもあろうかと思う濃碧の瞳が、2つ並んでカミオの姿を見つめていた。
・・・
最高じゃないか。
・・・
カミオはその場に立ち上がった。
「ドロシーちゃん、はじめまして。僕はカミオといいます。君の大ファンです。」
カミオはその瞳に向かって嬉しそうに話し始めた。

*****

「ドロシーちゃん、はじめまして。僕はカミオといいます。君の大ファンです。」
「こ、こんにちは、カミオさん(心の声:なによ、開き直って自己紹介なんか始めちゃって・・・)」
「今日は僕たちのためにこんな素敵なイベントを開いてくれてどうもありがとう!」
「え?あ、こちらこそ、参加してくれて、どうもありがとうございました(心の声:こっちは世界征服のために嫌々やってるのよ。こんなイベントにわざわざ参加するなんてホントにお人よしね)」
「僕は今日、こうやって、君に逢って、君の声を聴いて、君に握手するために、バイトして、お金を貯めて、やってきたんだ。」
「あらあ、そうだったんですか(心の声:バイト?バイトってことは、貧乏人?ちびのくせにお金もないなんて、もう最低ね。)」
「実は、僕の家は貧乏でね、」
「え?(心の声:あ、ずばり大正解)」
「僕はバイトして、自分で学資を稼いで高校に通っている。生活費も家に入れなきゃならない。だけど勉強は好きだから学校は辞めたくない。だから、毎日結構きついんだ。正直、へこたれそうだった。」
「・・・(心の声:げ!この状況で苦労自慢?ださ・・・そもそもそんなにお金がないんだったら、こんなくだらないイベントに参加するような無駄遣いしちゃダメでしょ!)」
「そんなとき、TVで君を見たんだ。初めて見て、目の前がぱーっと、明るくなった。君がこんなに明るく頑張っているなら、僕ももっと頑張れる、って思ったんだ。」
「え?(心の声:・・・)」
「それが本当かどうか確かめるために、今日、僕はこのイベントに参加したんだ。」
「・・・(心の声:・・・)」
「その思いは確信に変わったよ。僕の夢は叶ったんだ。憧れの君に逢えて、小指に乗せてもらえて、そのうえこうして2人っきりでお話しすることまでできた。これを胸の中の宝物にすれば、僕は明日からどんな苦しいことでも必ず乗り越えられる。」
「・・・(心の声:・・・)」
「ドロシーちゃん、どうもありがとう!君にはどれだけお礼を言っても足りないよ。夢があれば、僕たちは何でもできる。君はそのいちばん大切な夢を僕にプレゼントしてくれたんだ!」
「・・・」
・・・
ちょ・・・ちょっと待ってよ。
何?
何よこの思いっきりマジなモードは?
わたし、そんな大したことなんかしてないわ。
ドラマには出ないし、ダンスはいい加減だし、歌なんか口パクだし・・・
そもそもこれはわたしが世界征服するための腰掛のお仕事で、勘違いしてブロブディンナグ人のわたしに萌えてたリリパット人たちなんて恥ずかしい!、って・・・はずだったのに。
・・・
もしかして・・・みんなは、そうでもなかったのかな?
もっと、大切な思いを抱いて、今日のイベントに来てくれたのかな?
こんないい加減なわたしにも、夢を見てくれたのかな?
・・・
・・・
それって、マズくない?
・・・
・・・
・・・
ドロシーは小指の指先に立つカミオに向かって、おずおずと頭を下げた。
「・・・ごめんなさい」
「え?・・・どうして君が謝るの?」
「だって・・・わたし、こんなに大きくて・・・握手もできないし・・・」
「謝ることなんかないよ!」
小指の爪の上のカミオは精一杯背伸びしながら両手をぐるぐる振り回して反駁した。
「それもドロシーちゃんの個性さ。その個性まで含めて、僕は君が大好きなんだ。」
「ありがとう。」
ドロシーは俯いて少し考え込んだ後、意を決してカミオに告げた。
「・・・わたし、お礼に歌をうたうわ。新曲の『渚のひみつ』」
「え?さっきも歌っていたんじゃないの?」
「違うの。さっきのは口パク。わたしは歌が下手くそなので、誰か別の人が代わりに歌ってくれたの。」
「そうだったのか。」
「でも、それではダメね。せっかくみんなわたしのために、わたしを思って集まってくれたんだから、わたしもそのみんなのためにわたしのできることをしなきゃ・・・」
ドロシーはドームの中のシェビッキに向かって目配せをした。

*****

ドロシーからのアイコンタクトを受けたシェビッキは、黙って頷くと、ドームの放送室に駆け込んだ。
そこではデュースが両手を広げて立ちはだかっている。
「どけ、デュース!」
「いいや、どかない。あの娘に歌わせてはダメだ。売り込みの計画が狂う。」
「ドロシーさまが決心されたんだ。売り込みなんかくそくらえだ。」
シェビッキは力づくでデュースを排除すると、強引にドーム内に『渚のひみつ』のカラオケを流し始めた。
チャーンチャチャチャチャチャーンチャチャチャチャー
「・・・どうなってもしらんぞ!!」
背後でデュースの怒鳴り声が響いた。

*****

「どうだった?」
歌い終わって、ドロシーは心配そうに小指の上のカミオに訊ねた。
「うふふふ、正直に言って・・・上手じゃあ、ないなあ」
「・・・やっぱり、そうか・・・」
ドロシーはしょぼんと肩を落とした。
「・・・でも、さっきの口パクとは比べものにならないほど良かったよ。」
「え?」
「ドロシーちゃんがね、僕たちに『伝えたい』っていう気持ちがわかったんだよ。」
「・・・」
「それは歌の上手さじゃない。まごころさ。」
「まごころ?」
「うん、まごころだ。いまのドロシーちゃんの歌にはあったよ。少なくとも僕はそれをしっかり受け取った。とても嬉しかった。」、
「ありがとう、カミオさん。」
ドロシーはにっこりと微笑んだ。今日いちばんの笑顔だった。
「・・・でも、いいのかい?」
「え?」
「事務所は君がこういう場で歌うことを許していないんだろ?」
「いいのよ。」
ドロシーは軽くウインクした。
「・・・だって、これは『ふたりだけの渚のひみつ』なんだから・・・」

*****

「クビだな。」
デュースの裁定は明快だった。
「事務所の指示を守らずにイベントで勝手な振る舞いをした者は厳罰に処さなければならない。新人なら尚更だよ。一発解雇だ。」
「わかったよ、デュース。俺もそれで仕方ないと思う。」
シェビッキもあっさりこの厳しい裁定を受け容れた。むしろさばさばした気分だった。
「短い間だったが、いろいろ世話になった。感謝している。」
ぺこりと一礼してデュースに背を向けると、シェビッキはリリック・プロモーションのドアノブに手をかけた。
そのとき、背後からデュースが呼び止めた。
「待て、シェビッキ!」
「まだ、何か言うことがあるのかい?」
シェビッキが振り返ると、デュースは懐からタバコを取り出してシュポっと火をつけた。
「・・・お前、あの娘は『アイドルになるために生まれてきたような性格』だって言ったよな。」
「ああ」
「そりゃ、見込み違いだ。」
「え?」
「もっと正確に言えば、俺が求めた『商業主義の中で生きるアイドルタレント』に適した性格ではない。」
「どういうことだい?」
ぷはー、っとタバコの煙を吐き出す。シェビッキからは煙に隠されてデュースの表情が読み取れない。
「・・・あの娘は『商業主義の中で生きるアイドルタレント』なんかじゃない『真のアイドル』の本質に気づいちまった。そんな娘はうちの事務所にはいらないよ。迷惑だ。国民を白痴にできないじゃないか。」
「ふふふ」
シェビッキの口元がほころんだ。
「そういうことかい。ありがとよ、デュース。」
「ああ、シェビッキ、あの娘を大切に育てろよな。」
にやりと笑うデュースと軽くグータッチをすると、シェビッキは胸を張ってリリック・プロモーションを後にした。

*****

「・・・王妃様」
「どしました、ドロシー?」
「わたし、芸能界をクビになってしまいました。」
「おやおや、それはどゆことですか?」
「いえ、いいんです。わたしが甘かったんです。アイドルはたいへんなお仕事でした。」
「ほう。」
「アイドルは、みんなに素敵な夢を見てもらう、とても大切なお仕事でした。みんなの夢を壊さないよう、命がけで取り組まなくてはならない大切なお仕事でした。王宮のお仕事の片手間にこなそうと考えていたわたしは甘かったのです。」
「それを事務所の人に言われたですか?」
「いえ、クビにされたのは別の理由です。ただ、ファンの方とお話しているうちに、自分の考えの至らなさに気が付き、こんなことを続けていてはいけないと思いました。せっかく王妃様のお許しを得て始めた芸能界のお仕事だったのですが、どうかドロシーの我儘をお許しください。」
「うふふふふふ」
ローラ王妃は跪いて謝るドロシーの頭を優しく撫でた。
「・・・ドロシー、いくつになりました?」
「え?」
ドロシーが顔を上げる。その眼を見つめるローラ王妃の眼差しは優しい。
「14歳です。」
「14歳、ですか。」
ローラ王妃は視線を上げ、遠くを見ながらぽつりとつぶやいた。
「・・・ローラもそのころ、日本に行って大失敗したです。」
「え?王妃様が?」
「そうよ。周囲にたいへんな迷惑をかけてしまて、叱られました。」
「王妃様を叱りつけるような人がいたのですか?」
「うふふ、今では良い思い出よ。あのときはわんわん泣いちゃたけどね。」
ローラ王妃はぺろりと舌を出した。
「ドロシーは叱られる前に自分で気づいたのだから、ローラより立派よ。がかりすることはありません。明日から、また元気を出して王宮の仕事にはげみなさい。」
「ありがとうございます。本当にありがとうございます、王妃様。」
ドロシーはローラ王妃に深々とお辞儀すると、立ち去って行った。
部屋にはローラ王妃一人が残された・・・かのように思えたが・・・
「・・・もういいわよ、出てきなさい。」
「・・・はい」
小さく返事をして、物陰からモモさんの姿が現れた。
「王妃様のご厚情に胸が熱くなりました。わたくしからも御礼申し上げます。」
「うふふ、こんなに早く自分の間違いに気づくなんて、ドロシーは賢い娘ね。」
ローラ王妃はご機嫌だ。
「モモやマコバンが溺愛するのも無理ないわかるです。」
「恐縮でございます。」
「このたびのことは『ローラが命令し、ドロシーはそれに従っただけ』とマコバンに伝えなさい。」
「はい。」
「そうそう、ドロシーがちょと大人になったことも忘れず伝えるのですよ。」
「ありがとうございます、王妃様。必ずそのように申し伝えます。」
「うふふ」
にこやかにほほ笑むローラ王妃の前で、モモさんも深々とお辞儀をした。
「ほらモモ、ドロシーよりも早く部屋に戻らないと、怪しまれてしまうですよ。」
「はい。それではわたくしもこれにて失礼させていただきます。」
モモさんは顔を上げ、そそくさと立ち去って行った。

*****

ドロシーはいつものように鏡台の前に座って鏡を見つめている。
いや、いつもとは違う。
鼻の孔を膨らませることも、謎の笑みを浮かべることもなく、物憂い表情で鏡を見つめている。
・・・
「・・・ドロシーさま、これでよかったんですよ。」
鏡台の上にひょっこり現れたシェビッキが、ドロシーを見上げて慰めはじめた。
「アイドルになって、カリスマ性をゲットして、革命を成功させ、そして世界征服する、なんて、虫が良すぎましたよ。それよりもわたしは、ドロシーさまが自分の利得のことばかりじゃなくて、ちゃんとみんなのことを慮る優しさをお見せになったことに感動いたしました。ええ、やっぱりそうでなくては・・・」
ドロシーは黙ってシェビッキの立つ傍らを人差し指で軽くタップした。
どうううううううううん
その衝撃でシェビッキはひっくり返ってしまった。
「あわわわわわ」
「・・・シェビッキ・・・勘違いして好きなこと言ってると、デコピンするわよ。」
長さ10ブロブディンナグ・センチメートル、すなわち250リリパット・メートルの人差し指をシェビッキの頭上にゆらゆらさせる。その下でシェビッキはへなへなと腰が抜けてしまった。
「ド、ドロシーさま・・・デ、デコピンって・・・それじゃデコピンでも首ズバンでもなく、建物ドッカーンですよ・・・」
「だったらもう勝手なことは言わないの。」
ドロシーはシェビッキを睨み付けた。
「アイドルはもうやめ。」
「はい。」
「・・・そのかわり、別の方法で世界征服するから。」
「はあ・・・」
「おまえはつべこべ言わず、わたしが世界征服をするための次の作戦を速やかに企画すること!」
「は、はい!!」
曖昧に頷いてから、シェビッキは改めてドロシーを見上げた。
ドロシーは人差し指を引っ込めると、鏡に向かって頬杖をついた。
物憂そうに見つめている。
「・・・ふたりだけの・・・渚のひみつ・・・かあ・・・」
・・・
あれ?
その表情が、確かに少しだけ大人っぽくなったかな?・・・と、シェビッキは思った。

渚のひみつ・終