このお話は昨年末に投稿した「正義と自由のために」のアフターストーリーです。でも別に前作を読んでいなくても話は通じるようになっています。つーか、そもそも展開はバレバレですね(笑)

君の名は
by JUNKMAN

地球が巨大な異星少女の所有物になってからはや2年
地球人の2500倍の体躯を誇り、科学や文明も圧倒的に進んでいる異星人の前では、抵抗は全く無駄だった。
実際、あの金髪碧眼の巨大な美少女は、武器らしい武器を使うこともなく、地球上のあらゆる軍事勢力をあっという間にたった一人で壊滅させた。
2年たったいま、地球人たちはこの巨大な異星少女の従順な奴隷と化している。
言葉には尽くせないほどの屈辱を浴びせかけられても、這いつくばって、歯を食いしばって、人権のかけらすらない立場に甘んじていた。
もちろん、それでも命は保障されていない。
玩具としてラフな遊びに用いられれば、その最中に命を落とすものは後をたたなかった。
ちょっとした気まぐれで踏み潰されたり、握りつぶされたり、身体から振り落とされたり、体腔に押し込められたり、排泄物の中で溺れたり、ありとあらゆる屈辱的な死が与えられた。
金髪碧眼の巨大な異星少女は、無邪気な笑みを浮かべながらあっけらかんとこれらの残酷な所業をしてのけるのだ。
そして無力な地球人たちは、それでもへらへらとお追従笑いしながら、文句ひとつ言わずにその運命を受け容れていた
・・・
・・・
・・・
表面上は。

*****

慎重に周囲を伺ってから、僕はこっそりと集会所のインターホンを鳴らした。
ピンポーン

「・・・T-19です」

「よし、入れ。」

集会所のドアが開く。
そこには既に十人ほどの先客がいた。
皆、僕と同様にサングラスをかけ、大きなマスクで顔を覆っている。
名前も明らかではない。
みなローマ字と数字の組み合わせのコードネームを名乗っている。
僕もここでは「T-19」だ。
本名は誰にも明かしていない。
危険だからだ。
なぜならば、ここは巨大な異星少女へのレジスタンス運動を行う地下組織だからだ。
もちろん、巨大異星少女自身にその存在が知られたら命はない。
でもそれだけではない。
いまや多くの地球人たちはあの巨大な異星少女の従順な奴隷だ。
点数稼ぎのために僕らレジスタンスは売られてしまう恐れがある。
そんな危険を冒してまでこのレジスタンス運動に身を投じる者には、皆強烈なモチベーションがあった。
僕もそうだ。
僕の両親と妹は、僕の見ている目の前で、僕の家ごとあの巨大異星少女に踏み潰された。
あっという間の出来事だった。
愛する家族が、罪もない家族が、そして思い出のいっぱい詰まった僕の家が、目の前で一瞬にしてスクラップになる。
瓦礫と一体化したそのスクラップからは、家族の遺体を取り出すこともできなかった。
どんな理由をつけられても承服できるものではない。
このレジスタンス運動に身を投じているものは、皆似たような体験を持つ者ばかりだった。
・・・
おそらく、彼女もそうなのであろう。

*****

A-07
それが彼女のコードネームだ。
もちろん本名は知らない。
それどころか、素顔もよくわからない。
彼女もまた、僕らと同様にサングラスとマスクで顔を覆っていたからだ。
でも、きっと綺麗な娘なのだと思う。
なんとなく、そういう確信があった。
スレンダーで華奢な身体つき。
漆黒のストレートヘアが肩甲骨の下くらいまで伸びている。
こんな活動に身を投じているのに、いつも甘くいい匂いがした。
年恰好は、きっと僕より少し若いくらい。
女子高生だと思う。
そうだ。
僕の目の前で虫けらのように踏み潰されてしまった妹と、きっと同じ年頃だ。
・・・
・・・
おそらく僕よりも若いA-07は、この集会所に集うレジスタンスたちの中では最年少だ。
でも、決して甘ったれてはいない。
この集会でもA-07はよく発言し、二回りも年の違う大人たちを前にしても一歩も引かない。
それも我儘を言い立てるのではなく、たいていの場合はA-07の言うことの方が正論だ。
知的で
凛として強く
でもどこか強烈に哀しい
・・・
・・・
おそらく、彼女は僕なんかよりももっとショッキングな体験をしたのだ。
それが彼女を駆り立てているのだ。
具体的にどんな体験なのかはわからない。
訊ねてみようとも思わない。
わざわざトラウマを呼び醒ますようなことをするつもりはない。
・・・
でも
もう彼女に悲しい思いはさせたくない。
いや、僕が彼女にこれ以上悲しい思いをさせない。
守るんだ。
僕が彼女を守るんだ。
守ってあげることができなかった妹の分まで、僕が彼女のことを守るんだ。
いつの間にか、それが僕のレジスタンス運動における最大の目的になっていた。

*****

今日もA-07は僕より先に集会所に到着していた。
僕は何食わぬ顔でA-07の隣の席に腰を掛ける。
軽く会釈をしあうと、まるで僕の到着を待っていたかのように、この集会所のリーダーであるG-41が皆の前に立って演説を始めた。

「・・・今日、中央司令部から連絡が届いた。例の計画を1週間後に実行する」

おおおおおおおお
集会所の中がどよめいた。
遂に地球人があの巨大な異星少女に一矢を報いる日がやってきたのだ。
・・・
・・・
例の計画とは以下のとおりである。
巨大な異星少女には核攻撃も通じなかった。
あの巨大な質量を誇り、しかもそれが地球の5倍のGのもとで鍛え上げられた身体は、核攻撃をも簡単に跳ね返してしまったのだ。
地球の各国軍も彼女に核攻撃が無意味であることはすぐに理解した。
そんなわけで、地球上に備えられていた核兵器の大半は未使用のまま取り残されている。
そこでレジスタンス集団は新たな作戦を思いついた。
巨大な異星少女自身を攻撃対象にするのではなく、その周囲を円を描くように核爆弾で絨毯爆撃するのだ。
狙いは地殻の破壊である。

「・・・地球はマントルの海の上を卵の殻のような地殻が覆った構造をしている。特に海洋部では地殻が薄い。そこで浅い海に彼女を誘い出し、そこで周囲の地殻を徹底的に破壊すれば、あの巨大異星少女は落とし穴に墜ちるように温度1500℃のマントルの海に落ち込んでしまう。もしかしたら1500℃の環境でもあの巨大異星少女は無事かもしれない。しかし這い上がることは不可能だ。彼女はマントルの海の底で溺死することになる。」

「質問があります。」

A-07が挙手して訊ねた。
リーダーのG-41は鷹揚に頷く。

「何だね、A-07?」

「浅い海洋部に地球上のありったけの核を撃ち込めば、確かに地殻は破壊できるかもしれません。」

「そうだ。完全には破壊できなくても、彼女の自重で地殻が崩壊する程度のダメージを与えることはできるだろう。」

「しかしその場合、地殻津波が起きるのではないですか?」

「ん・・・」

G-41は言葉を詰まらせた。
地殻津波とは激甚な衝撃が地殻を襲った際に、その衝撃点を中心として同心円状にめりめりと地殻が剥げていく現象である。
マントルがまるで津波のように地表全体を襲い、人類とて生き残ることはできない。

「たとえあの巨大な異星少女を倒すことができても、その結果地球人類も滅んでしまうならば本末転倒ではありませんか?」

G-41は苦しそうに俯いた。
その可能性を彼自身も想定していたに違いなかった。

「A-07、確かに君の言うとおりだ。あの巨大異星少女を倒すことができても、その見返りとして我々地球人は滅びてしまうかもしれない。」

「・・・」

「それでもいいじゃないか。このまま恥辱にまみれた生を選ぶより、我々は侵略者に一矢報いた上で誇り高き死を選ぶべきじゃないか?」

そうだ!
そうだ!
会場から次々に声が上がった。
声を上げなかったのはA-07と僕の二人だけだった。

「ようし。それでは圧倒的多数でこの計画は承認されたな。」

「G-41!」

「なんだねA-07?まだ不服かね?」

「いえ、計画を実行することに関しては承服いたしました。ただ、このままでは準備不足であると思うのです。」

計画では巨大異星少女の周囲を一斉に核攻撃する必要がある。
少しでもタイミングが乱れて巨大異星少女がターゲットポイントから脱出してしまったら元も子もない。

「・・・このミッションに参加する者すべてで最終打ち合わせのミーティングを持つべきではないかと」

「うーん、それは難しいなあ・・・」

G-41は難色を示した。
当然である。
地下組織であるレジスタンス集団は芋づる式に摘発されることを極度に恐れている。
ましてや組織全体が一同に会すというのはセオリー無視も甚だしい。
しかし、この絶対に失敗が許されないミッションを前に全員そろった打ち合わせがないというのもいかにも不用意である。

「うーむ」

僕は小さく挙手してA-07の肩を持った。

「G-41、僕も全体のミーティングはあった方がいいと思います。」

「しかし危険ではないかね?」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょう。計画が成功しないことにはどうにもならないのです。多少のリスクは冒すべきではないですか?」

結局、A-07と僕の提案通りに、近々レジスタンス集団全体の会議を開くよう上申することになり、この日の会合はお開きになった。

*****

「ねえ、A-07・・・」

「はい、なんでしょう?」

帰り支度をしていたA-07はきょとんとした表情で振り返る。
僕は大きく息を吸い込んでから、思い切って訊ねた。

「このミッションが終了したら、君の名前を教えてくれないか?」

「え?」

「君自身も予感していると思うが、このセッションは必ずしも成功するとは限らない。いや、失敗する可能性が高いだろう。」

「・・・」

「いずれにしてもその時はこのレジスタンス集団も解散だ。もう僕たちは顔を隠す必要もないし、くだらないコードネームを名乗る必要もない。だから、その時は君の名前を教えてほしんだ。」

A-07はにっこりと微笑んだ、ように僕には思えた。

「いいわ。そのときはサングラスもマスクも外すし、本名を教えてあげる。そのかわり、T-19もわたしに本名を教えて。」

「あ、ああ、勿論だともさ。」

僕はその場で踊りだしたくなった。
A-07の名前をきく。
それだけの話なのだが、僕にとっては言葉に尽くせないほど特別なことだった。
・・・
いやいや
まだ油断はできないぞ。
僕がA-07の名前を聞くためには、このミッションが完了するまで、僕もA-07も無事でなければならないということだ。
守る
守るぞ
何があってもA-07を守る
新しいミッションの実行を目前に控えて、僕だけが別の理由で奮い立っていた。

*****

三日後
僕たちは日頃の集会所とは別の場所に集合していた。
港の近くの倉庫街にある集配センター
いつもの集会所に比べればかなり広いと思ったのだが、それ以上に人数が多かった。

「ひゃ、100人はいるかな?」

「とてもそれでは済まないわ。少なく見積もっても1000人はいると思う。」

僕とA-07は呆れていた。
レジスタンス集団が全体でこれほど大きな組織だとは思いもよらなかった。
とりあえず集配センターの5階にある大会議室に集まる予定だったが、とても入りきらない。
A-07の提案で、急遽集会は屋上を使って行われることになった。
それでもなお人がごった返している。
ちょっと油断しているとすぐにお互いを見失ってしまいそうだ。
それではいけない。
見失ったら、僕がA-07を守ることができない。
僕は意を決してA-07の片手をぎゅっと握りしめた。
A-07はちょっと驚いたそぶりを見せたが、黙って僕の手を握り返してきた。
幸せだった。

*****

屋上の中央に用意された演壇に、恰幅の良い中年の男が登った。
彼がレジスタンス運動の指導者なのだろう。
初めて見た。
いよいよ集会が始まるのだ。
・・・
・・・
そのとき

「!」

A-07と繋いでいた手が急に振りほどかれた。
僕は慌ててA-07の姿を探す。
身動きをとることも難しい中、必死になってA-07の姿を追う。
・・・
・・・
・・・
そして
見つけた。
A-07は出口の扉を開けて、人々のごった返す屋上から立ち去ろうとしていた。

「待って!A-07!」

ガチャーン
僕がたどり着いたちょうど時、扉の鍵は内側から締められてしまった。
開かない。
頑丈な屋上の扉は施錠されてしまえばもはや開けることができない。
レジスタンス集団はここ集配センターの屋上に閉じ込められてしまったのだ。
これは大変だ!
・・・
・・・
いや、本当に大変なのはそれから先だった。
突然空が切り裂かれると、虚空から二人の超巨大少女の姿が現れたのだ。

*****

集配センターの屋上はパニックになった。
計画が漏れていた。
どこかに裏切者がいたのだ。
ここでは身を隠すこともできない。
二人の超巨大美少女はにやにや笑いながら足元の集配センターを見下ろす。
絶体絶命だ
・・・
・・・
・・・
そんな中、僕の焦燥は別のところにあった。
A-07
いまこの屋上から階下に下って行ったA-07
A-07を守らなくちゃ!
僕は雨どいを伝って階下に降りると、窓ガラスを蹴破って内部に侵入した。
こつこつこつこつ
階段を下りる音が聞こえる
A-07だ
僕はその足音を追いかけて急ぎ階段ホールに向かった。

*****

一階にたどり着き、玄関から外に飛び出すと、そこに彼女の姿があった。
A-07だ。

「よかった・・・無事だったんだ・・・」

僕はそれだけ言葉を絞り出すと、A-07を背後から抱きしめた
固く抱きしめた
・・・
細くて
柔らかくて
温かくて
いい匂いのする身体が、
僕の腕の中で
しっかり僕と一つになった
愛しさが
こみあげて
こみあげて
僕の心臓を鷲掴みにした
・・・
・・・
A-07
僕はA-07が大好きだ
・・・
・・・
・・・
いま
この意地悪な大巨人娘の足元で
僕たちは命を奪われようとしている
でも
僕は構わない
・・・
だってA-07に出逢うことができた
だってA-07と一緒になることができた
僕はきっとこのために生まれてきたんだ
・・・
だからそれが達成されたいま、もう生に執着なんてない
・・・
そうだ
ミッションが失敗してしまった今、僕たちはもう顔を隠す必要はない
名前を隠す必要もない
A-07
君の名前を教えてよ
・・・
・・・
僕はA-07を抱きしめていた腕を緩めた
それに呼応するように、A-07はゆっくりと振り向いて、自分のサングラスとマスクをとった。
ミステリアスに切れ長の瞳
オリエンタルなのに透き通るほど白い肌
ぎょっとするほど紅く輝く唇
・・・
・・・
・・・
綺麗だ
僕が予想して通り、いやその予想を超えるほどにキレッキレの美少女だ
嬉しい
僕はこんなに綺麗な娘を好きになることができたんだ
・・・
・・・
・・・

「!!!」

そのとき初めて気が付いた
A-07は笑っていた
声もなく、しかしはっきりと大きな笑みを浮かべていた
今までに見たことのないほど、愉快そうに、露骨に勝ち誇って笑みを浮かべていた

「A-07?」

「・・・わたしの名前はアンナ」

A-07は笑みを浮かべながら、自分の名前を告げた。

「T-19、今までどうもありがとう」

眼をかっと開くと、両手で僕の身体をどんと突き放した

「そして・・・さ・よ・う・な・ら」

ピカッ
A-07の全身が眩く輝いて、そしてその身体がぐんぐん大きくなっていった。

*****

僕は地べたにへたりこんで、自分を見下ろす三人の圧倒的な巨人の姿を言葉もなく見上げていた
一人は虚空から現れたこの地球の侵略者、僕の両親と妹を家ごと踏み潰したあの憎い金髪碧眼の巨大美少女だ。
もう一人はその友人と思われるやたら胸の大きなショートカットの巨大美少女。
そしてもう一人は、アンナと名乗ったA-07だ。
僕の目の前でみるみる巨大化し、いつの間にかあの侵略者の巨大美少女と肩を並べる巨人になった。
さっきにも増して、勝ち誇った、得意満面の表情だ

「ま、ざっとこんなものよ♡」

「すっごーい!縮小して原住民たちに溶け込んでスパイ活動するって、ホントにそんなことができるのね!」

「アンナちゃんって、こういう仕事をさせたらピカイチね。」

「結局レジスタンス集団は一網打尽にできたわ。」

「これでユーリャちゃんも一安心ね。」

「せっかく征服した惑星を、原住民の愚かな行為で自爆させるなんてもったいないものね」

三人の超巨大美少女の足元で、僕はその会話を盗み聞きしていた。
・・・
A-07がスパイだったのだ。
僕たちが必死で立てた計画を、ぶち壊したのはA-07だったのだ。
・・・
・・・
でも不思議と怒りは湧いてこなかった。

「・・・A-07の本当の名前は、アンナちゃんだったのか」

何とも言えない満足感が僕を包み込んだ。
A-07は、別れる前にちゃんと僕に本名を告げてくれた。
アンナちゃん
・・・
なんて素敵な名前なのだろう
あのミステリアスな眼差しに
あの凛とした気持ちの強さに
あの抱きしめると折れてしまいそうな華奢な身体に
ぴったりの名前だ
・・・
彼女に僕の名前を伝えることはできなかった。
でもそんなことはどうでもいい。
アンナちゃん
アンナちゃん
その名前を胸の中で抱きしめるだけで、僕は十分だ。
たとえそれが憎い侵略者の巨大異星人であっても、僕は十分だ。
僕が守ることのできるような相手ではないとわかっても、僕は十分だ。
僕はこんなに大きくなってしまったA-07の、いやアンナちゃんの、神々しいほどに巨大な姿を見上げながら、むくむくと勃起した。
いまの彼女の前では、僕は一匹のアリ以下の微生物だ。
さっき背後から抱きしめたあの華奢な身体と、いま見上げている山よりも大きな巨体が、同一人物だとは信じられない。
もう、彼女を抱きしめるなんて夢のまた夢だ。
あの聳え立つローファーのつま先にすら上ることは難しいだろう。
・・・
でも、だからこそ、僕はもう彼女を守らなくてもいいんだ。
彼女は僕の小さな助けなんか必要としないほど大きくて強いんだ。
僕はこうやって彼女の美しい姿を見上げているだけでいいんだ。
アンナちゃん
アンナちゃん
・・・
・・・
大好きだ!
僕はアンナちゃんの巨大な姿を見上げながら、歓喜に溢れ、精根が尽きるまで射精した。
もう何も見えない
何も聞こえない
大好きなアンナちゃんの足元にいる、というだけで幸せだった。

*****

その頃、遥か天上では三人の巨大美少女が、真下を向きながら能天気に会話を続けていた。

「・・・こいつらってばさ、このままじゃいけないよね。」

「反乱軍とかいると面白いんだけどね。でも、この惑星を壊しちゃおうっていう大バカちんはやっぱダメだわ。」

「潰すしかないかな?」

「見逃してやるとまた同じようなことをするよ」

「うーん、でも折角頑張ったんだし、玩具にするだけで勘弁してやろうかと考えたんだけど。」

「うふ、でもユーリャちゃんがエッチな玩具にすると、結局みんな死んじゃうんでしょ?」

「うん。まあね。」

あははははははは

「・・・下等生物を統治するには、きちんと躾しなければダメよ。あの連中はバカだから、具体的なものを見せないと何も理解しないの。」

急に真面目な顔になったのはアンナである。

「だからみんなによーくわかるように、徹底的にお仕置きしてあげるべきだわ。」

アンナは胸を張ると、大きな声で周囲一帯に宣告した。

「小さくて弱くて愚かな地球の原住民のみんな、このわたしたちの足元に集まった大ばか者たちは、畏れ多くもあなたたちの所有者であるユーリャちゃんに逆らって、その身体を傷つけようと目論んだのよ。とんでもない奴らだわ。わたしたち、日頃はとっても優しいけれど、こういう狼藉は許さないからね。そんなことを企んだ輩はこうなるから、よーく目を開けてご覧なさい!」

巨大なアンナは黒光りするローファーを履いた右足を高々と上げる。
ローファーのサイズはざっと600×300メートル
それが上空1kmで少し静止すると、呻りを上げて地表を襲った。
どがああああああああああああああああああああん
・・・
・・・
・・・
形成されたクレーターに呑み込まれたT-19が、恐怖を覚える間もなかった。
・・・
・・・
・・・
その後も三人の巨大美少女は、周辺の倉庫もろとも集配センタービルを踏み潰し続ける。
上機嫌で、交互に踏み潰し続ける。
丁寧に、丁寧に、踏みにじる。
瓦礫と一体化したT-19の姿がまったく判別不可能になるまで、丁寧に踏みにじり続けた。
もちろん、この時点で既にアンナの頭の中にT-19の存在など欠片も残っていなかった。

君の名は・終