リリパット旅行社・その2
by JUNKMAN

今日もリリパット島はいい天気。
バスツアーに懲りた志都美と杏奈は気を取り直してリリパットの街並みを散歩していた。
ここ、リリパットの歴史保存地区と呼ばれる区画に近代的な高層建築はない。点在する広場と、そこから放射状に広がる大通り。そしてその通りに沿って6~7階建てくらいのパリのアパルトメントを思わせる均質な建物がぎっしりと連なっている。高さは30リリパット・メートル弱であろうか。中世ヨーロッパ風の趣を残す風景である。
ただし均質なのは建物の形だけで、その一個一個が赤、青、黄、緑など極彩色に色づけられているところがリリパットの特徴である。おとぎの国のような、おもちゃ箱のような、メルヘンチックな街並みで観光客には大人気である。
本当のことを言えば、これは歴史ある昔からの街並みではない。
昔ながらのリリパットの街並みを参考にしながら、キンツリーの提言によって観光目的に最近建造されたばかりの人工的な街並み、テーマパークなのだ。だからその周囲を取り巻くように観光客専用の特別に広い舗装道路も用意されている。
この歴史保存地区が観光客に大人気なのはもちろんその彩りが可愛いからだけではない。
テーマパークでありながら、リリパット人にとっては実際に機能するお洒落な街なのである。アパルトメント風の建物の低層階には素敵なショップや、カフェ、レストランなどが連なっていて、良く手入れのされた公園や噴水もあり、リリパット人がぶらぶらと過ごすには最高の環境だ。実際に休日ともなればリリパット島中から若者やセレブが続々と押し掛ける。
そして30リリパット・メートル弱のアパルトメントの高さとは、外国人観光客にとっては60センチメートル弱ということ。観光客専用通路に立つ外国人観光客は、腰から上を街並みから突き出した状態で、巨人となってこの街の賑わいを観察できるのである。見渡しは良いし、なによりも気分が良い。実際に、ほうら、志都美もたちまち機嫌を直してしまった。
「これこれ、これよ、この感じ。この自分が巨人になって街を散策するのがいいの。これぞリリパット旅行の醍醐味!」
連なるアパルトメント越しに歴史保存地区の広場を覗き込むと、大勢のリリパット人たちがにこにこ笑いながら志都美に向かって手を振っていた。さすがは観光立国である。市民たちも手慣れたものだ。
「うわああ、可愛い。ほんとにここの小人たちって、可愛いわねえ!」
「・・・志都美ちゃん、パンツ見られてると思うけど・・・」
確かに志都美のミニスカートの裾はアパルトメントの高さよりも高い位置にある。地上のリリパット人にはその中身が丸見えだろう。
そのあたりちょっと羞恥心の残る杏奈は志都美の背後にまわりがちであるが、当の志都美本人はまるで気にしない。
「いいのよ。こんな可愛い小人さんだったら、パンツなんかいくらでも見せてあげるわ!」
「うん・・・まあ実害はなくて安心かもしれないけど。」
「安心といえば、このリリパットの街にはもう一つ重要な点があるわ。」
志都美は真剣な顔で杏奈に向き直った。
「ここには気色悪いサイズフェチどもがやってこない、ということ。」
「・・・そうね、だけど・・・」
杏奈はうんざりした表情で肩越しに志都美の背後を指さした。
「気色悪いサイズフェチかどうかはわからないけど、変なおじさんたちならいるみたいよ・・・」
言われて志都美は振り返る。その視線の先に、赤ら顔をしてえへらえへらと笑う日本人観光客と見られる2人のおっさんがいた。
「あ、あの人たち・・・」
「観光客用通路を出て街の中に入り込んでいるわね・・・」

*****

苦学生のカミオは今日もバイトだ。
歴史保存地区でリリパットの民族衣装を着ながら大通りや広場の清掃を行う仕事である。
時給は決して特に高いわけでもないが、カミオはこの仕事が気に入っていた。
別に民族衣装を着て清掃しながら観光客に愛想を振りまくことが気に入っていたのではない。
ここで仕事をしていると、勤務時間の前後や、うまくすれば休憩時間にすら歴史保存地区のすぐ近くにある王立図書館に行くことができるのだ。
教科書や参考書を自由に購入することができないカミオにとって、図書館に通いやすいというのは何にも勝る魅力であった。
今日も終了後に図書館へ立ち寄ることを楽しみにこの歴史保存地区で働く。それはカミオの全く普通な日常生活だった。
・・・はずなのだが・・・
今日はこの歴史保存地区がいつもと違って騒々しい。
カミオも群衆がけたたましく叫びながら指さす方向を見た。
「!」
騒々しくもなるはずだ。
リリパット/ブレフスキュ人以外立ち入り禁止であるはずのこの歴史保存地区内に、おそらく日本人と思われる巨大な外国人観光客が迷い込んできていた。

*****

「・・・ドロシーさん、このお仕事、あんまり気乗りがしてないでしょ?」

「え?」

キンツリーにいきなり図星を突かれた。
確かに外国人観光客を驚かせるだけの仕事にはあまり興味を持てなくなっていた。
昔のドロシーならば、小さな大人たちを驚かせて、その後に嬲ったり馬鹿にしたりするお仕事は楽しくてたまらなかったであろう。
でも今は違う。
そんなことで心ときめいたりはしない。
そんな様子をキンツリーは鋭く読み取ったのだ。
「パフォーマーに『おもてなしの心』がないと、お客様はいずれ飽きてしまいますね。

「・・・」

「どうしても気持ちが盛り上がらないなら、そのパフォーマンス自体で盛り上げてみましょうか?」

「どういうこと?」

「ま、一言でいって『お色気路線』ですよ。」
キンツリーは大まじめに説明する。
「バスを弄ぶ最中に水着のブラをポロリさせるんです。上手にアクシデント風にやればお客様は喜んでくださいますよ。逆に思いっきりわざとらしくしてもお約束風で面白いかもしれませんが・・・」

ばしーん!

ドロシーはキンツリーの立つテーブルの上に平手を叩きつけた。

「わたし、この仕事やめるから!」

それだけ言い残すと、ドロシーはすたすた出て行ってしまった、
その背中を見送りながら、キンツリーは納得した表情で小さく頷いた。

*****

赤ら顔をした2人のおっさんたちが観光客用の専用道路を抜け出してリリパットの歴史保存地区内をふらふらしている。一人はハゲでデブ。もう一人はチビで眼鏡だ。
しかし本来外国人観光客が立ち入ってはいけない領域である。しかも腰から上がまるまる街並みから飛び出しているほどの巨体なのに、何だか足元がおぼつかない。
これはきわめて危険である。
もちろん、その足元のリリパット人たちは慌てふためいていた。
きゃあ、きゃあ、きゃあ、きゃあ
甲高い悲鳴をあげて逃げ惑う。
でも2人のおっさんは事の重大性に気づいていないのかえへらえへらと笑うばかりだ。
あ!
そのうちハゲデブがアパルトメントを跨ぎ越そうとしてバランスを失った。
どっしいいいいいいいいん!
がらがらがらがら
仰向けに倒れ込むと同時に巻き添えになったアパルトメントが数棟まとめて崩壊してしまった。
きゃあきゃあきゃあきゃあ
リリパット人たちはいよいよパニックである。
阿鼻叫喚の騒ぎだ。
「・・・これは放っておけないわね・・・」
志都美はぼそりと呟いて一歩前に踏み出した。杏奈はそんな志都美をあわてて背後から抱きとめる。
「志都美ちゃん、あのあたりは外国人立ち入り禁止よ!私たちも入ってはいけないのよ!」
「でもこのままじゃケガ人が・・・いや、下手すれば死人だって出かねないわ。」
「警察に任せればいいじゃない。」
志都美は口をへの字にして首を振る。
「警察といってこの島の小人じゃあ何もできないわよ。いまあの人たちを止められるのは私たちしかいないわ。」
「・・・」
「可哀想な小人を見捨るの?」
「・・・」
「見捨てられないでしょ?」
問い詰められて、さすがに杏奈もこっくりと頷いた。
「よおし、じゃ・・・いくわよ!」
大きく深呼吸すると、志都美と杏奈の2人は意を決して外国人立ち入り禁止のリリパット歴史保存地区に足を踏み入れた。
後から思えば、これがそもそもの誤りだった。

*****

バスツアーのお仕事を辞めてしまったドロシーは王宮内の自室に戻っていた。ローラ王妃さまはじめ他の女官たちはみな国策となった観光振興のためバスツアーのお相手だ。ドロシー、マーナちゃん、そしてモモさんの3人だけが王宮のお留守番である。
「これ、どうしちゃったのかしら?」
ドロシーは、自分のインカム装置を弄りまわしながら首を捻っている。
「・・・ドロシーおねえちゃま、どうかなさったのですか?」
マーナちゃんもわざとらしく小首を傾げながら訊ねてきた。
「このごろこのインカムの調子が悪いのよね・・・仕事先では問題ないんだけど、部屋に戻ってくるとうまくシェビッキと交信できないのよ。」
「あらまあ・・・壊れてしまったのですね。」
「そうみたいね。困ったわ。」
「困ることはありませんよ、ドロシーおねえちゃま。」
マーナちゃんはにんまりと笑いながら鏡台の前のブレフスキュ男達を横目で牽制した。
「そんなもの使わなくても、マーナがブレフスキュのおじさんたちのお話を通訳するから問題ありません。そうですよね?」
もちろんブレフスキュ男達は諸手を振り上げて猛抗議である。でもそんな状況はドロシーには窺い知れない。
「ほうらね、おじさんたちもそれで問題ないって、言ってくださいましたよ。」
「そうか。それなら確かに安心ね。」
ドロシーとマーナちゃんが頷きあっている。ブレフスキュ男達はがっくりと膝を落とした。
そこに血相を変えてモモさんが駆け込んできた。
「たいへんです!」
「どうしたの、モモ?」
「リリパット警察から緊急連絡がありました。リリパットの歴史保存地区内に、外国人観光客が乱入して大暴れだそうです。」
「どうして?歴史保存地区内への外国人立ち入りは厳禁だったはずよ。」
「その決まりを破ったモラルの低い観光客がいたんです。」
「ふーむ」
ドロシーは口をへの字に曲げて腕組みする。そんなドロシーを上目づかいに見上げながら、マーナちゃんが提案した。
「ねえねえドロシーおねえちゃま、ここはわたしたちが困っているリリパットの人たちを助けにいかなければならないんじゃないですか?」
「え?」
ドロシーは眉をひそめた。
「ダメダメ、外国人ですら立ち入り禁止のエリアにブロブディンナグ人のわたしたちが踏み込むわけにはいかないわ。」
「でもこのままでは小さなリリパットの人たちはたいへんな目に遭ってしまいますよ。王宮の他のブロブディンナグ人たちがみんなバスツアーのお仕事に出て行ってしまった今、あの人たちを助けに行ける女官はドロシーおねえちゃまとマーナの2人しかいないんですよ。」
マーナちゃんが深刻な表情で訴えかける。
でも、もちろんマーナちゃんのホンネではリリパット人なんかどうなろうと知ったこっちゃない。
ただ、これにかこつけて夢にまで見たリリパット人たちの街へ直接足を踏み入れてみたいだけだ。
ところが、これにドロシーはコロリと騙される。
それが謀略家を自認しながらも所詮はお人よしの良家のお嬢様でしかないドロシーの限界であった。
うーん、マーナちゃんの意見も正論だなあ。
どうしよう?
・・・
ちらっ、とモモの表情を確認してみる。
・・・頷いている。
これはGOサインね。
「・・・じゃ、モモには王宮のお留守居を頼むわ。」
「承知いたしました。」
「マーナちゃん、急いで準備して!出かけるわよ!」

*****

志都美と杏奈は、建物や、それ以上に逃げ惑うリリパット人たちを踏み潰さないよう、慎重に、慎重に、歩みを進め、ようやく赤ら顔のおっさんたちに手を伸ばせば届きそうな至近距離にまで到達した。
この近さになって、はじめてわかった。
「・・・」
「・・・く」
「くっさあああああああい!」
強烈なアルコール+アセトアルデヒド臭だ。
これが加齢臭+汗臭さ+ちょっぴり磯の香とブレンドされて耐えきれない悪臭となっている。
「・・・酔っ払い?」
「最っ低!」
志都美は鼻をつまみながらハゲデブの肩に背後から手をかけた。
「ねえ、やめなさいよ!」
肩に手をかけられたハゲデブのおっさんはぎょっとして振り返る。もう一人のチビ眼鏡のおっさんも足を止めてこちらを向いた。
「ここは外国人観光客の立ち入りが禁止されている領域よ!」
「ほ、ほら、リリパットの皆さんも、め、迷惑していらっしゃいます。」
「さ、私たちと一緒にホテルに帰りましょ!」
猪突猛進の志都美だけでなく、慎重な杏奈までもが勇気を振り絞って酔っ払いのおっさんたちに注意した。
おっさんたちはとろんとした目つきで志都美と杏奈を凝視する。
おとなしく言うことを聞いてくれるのかな?
・・・
甘かった。
「・・・おお、でっかいネエチャンの登場か。」
「でへへ、『一緒にホテルに帰りましょ』って、大胆なお誘いだねえ。』
志都美はさっと顔色を変えた。
「そ、そんな意味で言ったんじゃないわ!」
「そんな意味?・・・どんな意味かなあ?」
酔っ払いのおっさんたち二人はにたにた笑いながらにじり寄ってくる。
まずい。
これはきわめてまずい。
志都美と杏奈はじりじりと後ずさりしながら身をこわばらせた。
「こんな意味かな。」
おっさんたちはアロハシャツの前をはだけたまま、バミューダとパンツを一気に脱ぎ捨てた。
「ホテルに帰らなくたって、できることはできるぜ!」
「きゃああああああああああ!」
酔っ払いの上に変態で、しかも無礼で乱暴なおっさんだった。
「・・・これだったら胡散臭いサイズフェチの方がまだ罪はなかったわね。」
「そんなこと冷静に比較してる場合じゃないと思うわ。逃げるわよ!」
志都美と杏奈はくるりと回れ右をして走り出す。もちろん酔っ払いのおっさん二人は追いかける。もはやどちらも足元に注意している場合ではない。こうしてリリパット歴史保存地区を豪快に破壊しながら巨人の男女4人による壮大な追っかけっこが始まった。
「待てえええええええ!」
「きゃああああああああ」
下半身を露出した巨大な二人のおっさんが巨大な二人の女子高生を追いかける。その過程でリリパット歴史保存地区ご自慢のカラフルなアパルトメントが次々と粉砕されていく。足元のリリパット人たちにとってはこの上ない迷惑だ。もうこの女子高生たちは何をしに出てきたのやら・・・
とはいえおっさん二人は千鳥足である。逃げる女子高生二人の方が俊敏だ。これなら逃げ切るのもわけはない。
「へっへっへ、残念でした。あんたたち酔っ払いの変態になんか捕まったりしないわよーだ!」
調子にのった志都美が振り返る。
「あっかん・・・あ、あ、あ・・・」
あかんべえをしようとしたところで足元がふらついた。
「きゃああああああああ!」
どっしゃあああああああああああん
・・・
「・・・いたたたたた」
新たにアパルトメント数棟を巻き添えにして派手にすっ転んだ志都美のもとに、心配そうに杏奈が駆け寄った。
「志都美ちゃん、大丈夫?」
「うーん、腰打った・・・」
ほうら、相変わらず「元気だけが取り柄のアホ娘」丸出しでしょ?と杏奈が心の中で勝利宣言したとき、背後にただならぬ殺気を覚えた。
「!」
振り返ると例の変態おっさん二人がえへらえへらと笑いながらそこに立っている。丸出しの下半身から陰茎が勃起している。サイズは・・・日本人の視点からすればたいしたことないのであるが、足元のリリパット人たちにはさぞや巨大に見えたことであろう。ちなみにその方面の知識に疎い志都美と杏奈には評価不能である。
「捕まえた。」
二人のおっさんは、それぞれ逃げ出そうとした志都美と杏奈の両肩をがっちりと掴む。
敏捷性では女子高生組の勝ちだが、パワー勝負になればおっさんたちの優位は揺るがない。
「放してよお!」
「触らないで!変態!」
「でへへへへへ」
志都美と杏奈がもがいても、おっさんのグリップは揺るぎもしない。それどころか、ぐいと背中から抱き寄せられてしまった。
「でへへへへへ」
「きゃあああああああ!」
耳元から例のアルコール+アセトアルデヒド+加齢臭その他の強烈な悪臭が吹き込まれる。これはJUNKMANのお馬鹿話には珍しい本格的レイプものの展開か?果たしてハゲデブは抱きついた志都美のTシャツを背中からびりりと引き裂いた。すると現役女子高生としては十分合格な推定88㎝のバストがぽろりとこぼれ落ちるではないか。
「きゃあああああああ!」
ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
小さくどよめいたのは足元で固唾をのんで成り行きを見守っていたリリパット人たちである。ハゲデブは彼らに向かって小さく頷きながら親指を立てた。なんだか妙な一体感である。
「きゃああああああああ!」
「・・・志都美ちゃん、ノーブラだったの?」
「だってリゾート地だし。」
説明が納得いかないうちに、チビ眼鏡が杏奈のワンピースを引き裂いた。
びりり
「きゃああああああああ!」
今度は実測サイズでは志都美に及ばないものの細身の分だけアンダーバストからのギャップにインパクトがある杏奈のバストがぽろりとこぼれた。
「きゃああああああああ!」
「杏奈ちゃんだってノーブラじゃないの!」
「これからビーチに行こうと思ってたのよ!」
これも読者に媚びた言い訳にならない言い訳だ。志都美と杏奈は怯えきって座り込み、背中を寄せ合いながら両手を組んで自分の胸を覆い隠す。そこに両脇からじりじりと二人のおっさんが剥き出しのちんちんおっ勃ててにじりよる。
ああ、絶体絶命乙女のピンチ!!!

ずしいいいいいいいいいいいん

そのとき急に目の前の広場に高さ6m、太さ一抱えくらいの真っ黒な柱が降り立った。
「な・・・なんだこりゃ?」
おっさんたちはおそるおそる後ずさりして、柱とその周囲の状況を見渡す。そこで達した結論は・・・
柱と思われたのは超巨大な女性もののサンダルのヒール部分だった。
当然、ヒールはその上空で巨大な靴底に合流する。
更にサンダルにはもちろん足が差し込まれていて、その上を見上げれば長い長い脚が上空に伸びていき、更にその彼方には・・・真っ赤なハイレグ水着に身を包んだ巨大な金髪少女が怒り心頭ツインテールを逆立てながら足元のおっさんたちを睨み付けていた!

「・・・あんたたち、よその国に来て好き放題に暴れてくれるとはいい度胸じゃない!」

*****

二人のおっさんたちは一気に酔いが醒めた。
酒の勢いで小人の街に繰り出して、ついでにネエチャンたちにちょっかいをかけていたつもりが、いつの間にか雲衝くような大巨人にロックオンされていた。何を言っているのかよくわからねーと思うが、俺も何をされたのかよくわからねえ・・・つーか、恐ろしいものの片鱗どころかまるまるそのものズバリを味わっているぜ!
「逃げろ!」
さっきまでの千鳥足がうそのよう。おっさんたちはしょぼんと萎えてしまったちんちんを揺さぶらせながら俊敏に逃げ出した。

「逃がすものですか!」

*****

カミオたちリリパット人は歴史保存地区に次から次へと降りかかる危機に振り回されていた。
まずは街並から股間がぬうっと突き出るほど巨大な外国人観光客が酒臭い息をぷんぷんさせながら現れた。ただふらふらと歩いているだけだがなにしろ千鳥足で危なっかしい。実際に足がもつれて倒れ込み、一部の建物が損壊してしまった。
とはいえ動きの緩慢な酔っ払いだ。リリパット人たちはその行方を冷静に予測して難なく危機を回避していた。もちろんカミオにも危機がその身に迫る実感はなかった。事態はまだどこか牧歌的だったのである。
ところが、そこに今度は同じくらいに巨大な外国人観光客の女子高生が現れて話が複雑になった。おっさん2人と女子高生2人による巨人4人の追っかけっこが始まってしまったからだ。
損壊する建物の数は飛躍的に増加した。しかも巨人が素早く走り回るので踏み潰されそうで危険なことこの上ない。巻き添えを恐れたリリパット人たちは逃げ惑う。街のパニックはそれまでと比べものにならないほどエスカレートした。さすがのカミオも身の危険を真剣に感じる状況だった。
ところが、やがて巨人4人は歴史保存地区の片隅の広場に集結した。取りあえず走り回ることはなくなったのでひとまず踏み潰されたり瓦礫に押し潰されたりする危機は去ったのである。カミオもやれやれと胸をなでおろし、彼らから十分に離れた広場で4人の巨人たちの様子を伺っていた。
そこで急に歴史地区全体が薄暗くなった・
そして4人の巨人が集結した広場に、そんな巨人たちとは比べ物にならないほど巨大な女性もののサンダルのヒールが踏み下ろされた。
事態を収拾するためにブロブディンナグ人がやってきたのである。
リリパット人にとって、同一平面上から見上げるブロブディンナグ人はとてつもなく巨大である。
もちろん、ブロブディンナグ人を見るのが初めてというわけではないが、しかし日頃一緒に暮らしているわけでもない一般のリリパット人庶民にとって、その巨大さは決して慣れているというほどでもない。
歴史保存地区にまた新たなパニックが沸き起こった。
そんな狼狽する群衆に囲まれながら、カミオは一人、この超巨大なサンダルを履いている人物を冷静に確認していた。
・・・
間違いない。
背が伸びて、ちょっと大人っぽくなったが、でも間違いない。
これはドロシーちゃんだ。

*****

リリパット人の居住区にブロブディンナグ人が訪れる際、言うまでもないことだが、最も気をつけなければならないことはとにかく「踏み潰さないこと」である。人はもちろんだが、建物もだ。
なにしろリリパット人やその建造物はブロブディンナグ人にとって小さすぎるのである。気を抜いているとすぐに踏み潰してしまう。
それでは「踏み潰さない」ためにあらかじめ心がけておくことは何か?
答えは単純だ。
靴の接地面積を小さくすることである。
そうすれば踏み潰す危険はその分だけ減る。すなわち、意外に思うかもしれないが、できるだけヒールの高い靴を履く方が安全なのである。
そんなわけで今日のドロシーはヒールが12ブロブディンナグ・センチメートルもあるストラップサンダルを履いてきたのだ。ついでに言えば服装は裾をひっかけて街を壊したりしないようかなりハイレグにカットされたワンピースの真赤な水着である。全体を通してみると水着モデルさんみたいな恰好である。まあ、水着一丁で出歩くのはバスツアーのお相手でもう慣れてしまったのだが。
ところが、この目の前の歴史保存地区に点在する広場は、それにしても狭すぎた。
直径200リリパット・メートルほどの広場とは、直径わずか8ブロブディンナグ・センチメートルの小さな円である。サンダル全体どころか、爪先部分だけを踏み込むこともためらわれるレベルだ。
そこでドロシーはこの歴史保存地区内部に実際に踏み込むことは諦めて、その傍らに立ち、広場の一つに片足のピンヒールの先だけちょんとつけて威嚇してみたのである。
裏目に出た。
狼藉を働いていた外国人観光客のおっさん二人は、驚いたようではあったが、素直に降参はしてくれず、ちょこまかと歴史保存地区の中心部へと逃げ込んでしまった。
仕方なくドロシーも足を引っ込めて、その場にしゃがみ込み、おっさんたちに向かって手を伸ばした。
ああ・・・届かない。
流石は観光立国リリパットの目玉コンテンツである。
この歴史保存地区は直径が8リリパット・キロメートルにも及ぶ広大なテーマパークだ。外国人観光客の視点でも広さ2000平方メートルは東京ドームの半分くらい。まずまずご満足いただける広さだろう。もちろんブロブディンナグ人であるドロシーにしてみれば直径3ブロブディンナグ・メートルあまりの坪庭みたいなものだが、それにしても中のどこにでも手が届くほどの小ささではない。
困ったなあ・・・
いっそのこと中に踏み込んでみようか?
そう考えてもう一度このリリパットが誇る歴史保存地区を至近距離からしげしげと見なおしてみた。
カラフルなアパルトメントがキラキラとウインドウを輝かせながらレトロな通りに沿ってびっしりと立ち並んでいる。
それに加えてところどころに公園やら、噴水やら、花壇やら、銅像らしきものが散りばめられていてとても可愛らしい。
・・・
こんな街並み、ドロシーだって歩いてみたい。
おしゃれな服を着て、気の向くままにショッピングして、カフェでお茶して、もしかしたら、素敵な男の子と腕を組んだりして・・・
・・・
・・・
って、夢想するだけ無駄よね
そんなの無理だもの・・・
・・・
ドロシーは首を横に振って立ち上がった。
それにしたって、こんなに素敵な街を破壊することはできないわ。
どうしようかな?
腕を組んでじっと考える。

*****

マーナちゃんはドロシーにちょっと遅れて歴史保存地区に到着した。
服装はドロシーに倣って紺色のどんくさいスクール水着。
だってまだ子供だからしようがない。
フットウェアに至っては底がまっ平らな子供用ビーチサンダルで、接地面積の観点からは最悪な選択だ。
でも6歳のマーナちゃんがヒールの高いサンダルなんか持ってるわけもないので、ドロシーもそれを黙認せざるをえなかった。
当のマーナちゃんはそんなことまるで気にしない。
それどころか、そもそも隙あれば街や建物を踏み潰してやる気満々なのである。
そんなマーナちゃんは眼前に広がる光景を見て恍惚としていた。
小さな小さなリリパット人の街。
これが夢にまで見たリリパットの街並みだ!
呆れるほど小さいのに、思っていたよりは広い。
そこに彩りこそ鮮やかだがほぼ均質な形態のアパルトメントが放射状にびっしりと立ち並んでいる。
そのアパルトメントの一個一個は自分の子供用ビーチサンダルの厚みくらいしかない。
ところがそのキャラメルの粒より小さな建物が、このリリパット人たちには6~7階建てなんだって。
ぷ!
笑っちゃうね。
ためしにこのサンダルを踏み下ろしてみたら、楽勝で1ブロック全部平らにできちゃいそう。
この国の大人たちが一所懸命に建設した街が、子供用サンダルで簡単に踏みにじられちゃうなんて・・・
悔しいだろうなあ
・・・
うふ
ねえねえ、あなたたち微生物みたいに小っちゃなリリパット人から見たら、マーナはどんなふうに見えるの?
大巨人?
怖い?
それとも羨ましい?
悔しかったら成長してごらんなさいよ。マーナはこれからもっと大きくなるけどね。
マーナちゃんは両手を組んだまま、狼藉を働いている外国人観光客を捕まえようともせず笑いをかみ殺していた。

*****

手を伸ばしても届かない。でも、建物を壊さずに歴史保存地区に入り込むことは難しい。安全な地点にまで逃げ込んだおっさんたちは、そんなドロシーの葛藤を鋭く見抜いていた。
「ここまでおいで!」
「届かないだろう、やーい!」
「ほうれほれ、あっかんべー!」
おっさんたちは調子に乗って剥き出しのちんちんをぶらぶらと揺らしながらドロシーを挑発する。
残念ながら度が過ぎたようだ。
ドロシーは確かに考えなしに行動するタイプではない。しかし、ちょっと抜けているのである。

「もー怒ったわ!」

激怒したドロシーは左手の指三本を直近の広場につくと身を乗り出して歴史保存地区中心部に手を伸ばした。
悔しい!
残念ながら、それでもまだ少し届かない。
ならばこれはどうだ。
今度は一度引っ込めた左足のサンダルのヒール部分を、更に中心部に近い広場に接地させる。もちろん爪先まで全部接地させるスペースはないのでヒールだけ。だから立つことはできない。さっきの左手とこの左足をついて半身に横たわりながら歴史保存地区に侵入したのだ。
どう?これなら辛うじて建物は壊さずに中心部にまで手が届くわよ。
おっさんたちは狼狽した。
こんな不自然な恰好をしながらも追いかけてくるとはなんたる執念。
でもだからといって捕まるわけにはいかない。
「にげろ!」
ドロシーが必至になって浮かせている体幹の真下を潜って背側に逃げ込む。これでは半身になったドロシーは手が出せないはずだ。

「ひ、卑怯な真似を!」

いよいよ怒り心頭のドロシーは右手も近くの空いている広場について、腕立て伏せのような体勢になった。ただし、サンダルはヒールしか着けないので腹臥位の姿勢がとれない。上半身だけ腹這いで、腰を捻って下半身は仰向け。しかも両手の指3本ずつ、両足のヒールだけを点在する広場にそれぞれついて体幹は浮かせる、という実にアクロバティックな体勢でこの歴史保存地区の上空を埋め尽くすかのように覆いかぶさった。
上半身が基本的に腹這いなので、もうあのおっさん二人組がどこにいても手に取るように見える。もはや逃げも隠れもできない。
おっさんたちも観念してその場にへたり込んでしまった。
んふふふふふふ、じゃ、捕まえちゃうわよ。
・・・
・・・って、両手両足をバラバラな位置において身体を捻りながら体幹を浮かせているこの姿勢では目の間にいるこのおっさんたちですら捕まえることができない。そんなことしようとして片手を挙げた瞬間にバランスが崩れて倒れこんでしまう。
そうしたらこの歴史保存地区の街並みは全滅だ・・・
身動きがとれないだけではない。そもそもこのポーズは取り続けるだけでもなかなか苦しい。嘘だと思ったら読者の皆さんもやってみるがいい。
え?
つーことは、この姿勢のままずっと耐えなきゃならないの?

「・・・ど、どうすればいいの?」

自ら勝手に捲いたタネで、ドロシー、まさかのなんと絶体絶命である。

*****

ドロシーの身体の下で、歴史保存地区に集うリリパット人たちは、新たな、そして最大の危機を迎えていた。
超巨大なブロブディンナグ人少女が、この歴史保存地区に不規則に点在する広場に手指やヒールをついて身体を捻らせながらその上空に覆いかぶさっている。
自分たちの暮らしている街の上空を、不自然でいつ倒れて不思議ないような体勢で超巨大な女の子が埋め尽くしているのだ。
いつ崩れ落ちてくるかわからない。
もはやどこへ逃げていいかもわからない。
絶望しながらとりあえず上空を仰ぐ。
ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
かつてはまいんちゃんも真っ青な幼児体型であったドロシーも、このごろひょろひょろと背が伸びて、しかもナボコフが嘆くように出るところは控えめながらもしっかり出てきた。
スリーサイズはB80・W58・H76(ブロブディンナグ・センチメートル)、というところだろうか、発展途上の16歳ならば不合格とはいえまい。
ましてや真下から望み上げるリリパット人たちにとって、天上にぶら下がる2000リリパット・メートルのバストや1900リリパット・メートルのヒップは大迫力である。これが至近距離で覆いかぶさるのですよ、はい。
しかも裾をひっかけて建物をこわしたりしないよう、という配慮から、今日のコスチュームはわざわざ身体のラインがくっきり見えすぎちゃうハイレグカットの水着。
しかもしかもあろうことか上半身は腹這い、腰を捻って下半身は仰向け、と、下から見上げるリリパット人たちにはバストヒップ両方同時にじっくりご鑑賞いただける「お前それ絶対にわざとだろ?」といわんばかりのグッドサービスだ。
これはけっこう・・・
・・・
・・・などと感心している場合ではない。
ともかく逃げ出さなければ命が危うい。
でもどこに逃げればいい?
あんな不自然な体勢なんだから、いつ倒れるかわからない上、どの方向に倒れるかもわからない。
せっかく逃げ出しても、その方向に倒れ込まれてはあの超巨体にたちまち追いつかれて潰される。
どうすればいいんだ?
歴史保存地区のパニックは最高潮に達した。

*****

パニックに陥ったリリパット人たちの中で、唯一冷静さを保っていた人物がいた。
カミオである。
もちろん、カミオだってこの状況には身の危険を感じていた。
しかし慌てたところで状況が好転するものでもない。
周囲を冷静に見まわして、最も可能性の高そうな打開策を考えよう。
ゆっくりと360°眺め渡す。
・・・

ずしいいいいいいいいいいいいん

そのとき、ドロシーの捻った上体の背後方向に、やはり底の厚みがリリパットの建物よりも高くそびえる超巨大なサンダルが降り立った。
でも、さっきのハイヒールサンダルではない。ヒールはなく、平べったいビーチサンダルのような子供っぽい形態である。
ははあ、ドロシーちゃんの他に、もう一人別のブロブディンナグ人が来たのだな。
・・・
カミオの頭脳は瞬時に一つの解答を導き出した。
「みなさああああああん!」
カミオの甲高い声に周囲の人々は足を止め、一斉に振り返った。
「・・・みなさん、バラバラに逃げるのではなく、みんな、あの広場に集結しましょう!」
カミオはドロシーの胸の真下に位置する、この歴史保存地区でも一番大きな広場を指さした。
人々は騒然とした。
「あんな身体の真下に逃げたら危ないだろ?」
「そもそもすぐ隣にあの危険な外国人観光客がいるじゃないか?」
口々に異論を唱える群衆を両手で制し、カミオは自信たっぷりに言い切った。
「どの方向に逃げても危ない。この状況で最も危険なのはバラバラになることです。あの広場に集結すれば、きっと一人の犠牲者を出すこともなくこの危機を乗り切れます。大丈夫、策はあります。僕を信じてください!」
ここまで言い切るのだから考えがあるのだろう。
信じるしかあるまい。
・・・
群衆は黙って頷くと、一路カミオの指さした広場を目指した。

*****

恍惚としてリリパット歴史保存地区を眺め渡していたマーナちゃんは、更に詳細に観察しようとして建物を踏み潰すことなど一切気にせずずかずかと地区の内部に踏み込んだ。そして不自然なポーズで悪戦苦闘中のドロシーの傍らにしゃがみ込み、可愛らしく両手で頬杖をついた。

「あ!見ーつけた!」

ドロシーの身体の下に、恐怖のあまり腰を抜かしている外国人観光客が4人見えた。
マーナちゃんは両手を伸ばして、まずはおっさん二人組、次いで女子高生二人組をあっという間に捕まえた。

「ほうら、悪い巨人さんたちはみんな捕まえてあげたよ。ま、巨人さんといっても、マーナに比べたらこんなに小さいんだけどね。」

マーナちゃんは足元のリリパット人たちに、今捕まえた日本人4人を得意そうに見せびらかした。
さっきまでこの街並みを蹴散らしながら大暴れしていた巨人たちが、何と4人まとめてこの幼女に摘みあげられている。
リリパット警察も全く歯が立たなかった怪獣のように強大な巨人たちが、この幼女にかかっては小指より小さな小人扱いだ。リリパット人たちとは次元が異なる巨大さである。
その超巨大なマーナちゃんは、4人の日本人たちを十分に見せびらかすと、彼らを自分のスクール水着の胸元に問答無用に押し込んだ。もちろん6歳のマーナちゃんの胸はまるっきりぺったんこで、彼らにしてみれば足掛かりすらない。日本人たちは仕方なく水着の胸カットの部分に必死にしがみついた。これではもう悪さもできまい。
これにて一件落着・・・と思って足元を見下ろしたら、不思議なことに気が付いた。

「・・・あれ?」

わらわら散らばって右往左往していたリリパット人たちが、急に明確な方向性を持って動き始めたのだ。ドロシーの胸の真下くらいの位置にある、この地区でいちばん大きな広場に向かっている。初めは小さな集団がその動きを見せていただけだったが、だんだん周囲もそれにつられて大きな流れになってきた。

「?」

よくわからないままにマーナちゃんはこの奇妙な人の動きを鑑賞する。
そのうちに広場はリリパット人たちで黒山の人だかりになり、それ以外の場所には人っ子一人見当たらなくなった。
これを見ていたマーナちゃんは楽しい遊びを思いついた。

ずがががががががががががががが

マーナちゃんはリリパット人の集結した広場の周辺を両手で大胆に薙ぎ払って、あっという間に完全な更地にしてしまった。
次に両手を揃えて掌を上にしながらその更地に押し付ける。
リリパット人にしてみれば強固な地盤でも、ブロブディンナグ人のマーナちゃんにしてみれば砂場も同然である。ちょっと力を込めたらたちまち両手は地面深くにめり込んで、周囲の地表とマーナちゃんの手掌との段差がほとんどなくなった。
この様子を満足そうに眺めながら、マーナちゃんは広場のリリパット人たちを見下ろして声をかけた。

「はーい、みんな、何人いるのかな?うふ、みんなまとめてマーナちゃんの掌に乗ってごらん。」

*****

事態はほぼカミオの目論見通りに進んでいた。
みんなが一か所に集まれば、必ずもう一人のブロブディンナグ人の目に留まるはずだ。
そうすればきっと救援に乗り出してくれるだろう。
そのブロブディンナグ人がまだ幼女だったのには驚いたけど、でも計画に支障はない。
むしろ子供は行動が読みやすいので好都合だともいえた。
案の定、カミオの筋書き通り、大広場の前を更地にして掌をおろしてきた。
あの掌の上に逃げ込めば、この超巨大幼女が安全なところまで運んでくれるはずだ。
しかも自ら自分の手のひらの方に身を乗り出してくれているので、この位置ならば変な恰好で横になっているドロシーちゃんが急に倒れこんでも身を支えにして守ってくれるだろう。
ならバラバラに逃げて不慮の事故にあうよりよほどいい。
慌てて逃げるリリパット人たちをマーナちゃんの掌の上に誘導しながら、カミオは上空を覆い尽くすドロシーの姿を見上げた。
不自然な姿勢で苦しそうな表情を見せながら、でも自分の身体でリリパット人たちを潰さないよう必死に耐えている。
・・・
可愛いなあ。
ちょっと大人っぽくなって、綺麗になって、胸も膨らんできたりしたけど、その一途なところはまだ子供みたいで可愛いな。
「・・・大丈夫。必ず僕が君を守るから。」
小さく呟くと、カミオも自らマーナちゃんの掌の上に飛び乗った。

*****

マーナちゃんは自分の掌の上に集まってくるリリパット人たちを真上から見下ろしてご満悦だった。
ゴミみたいに小さなおじさん、おばさん、お兄さん、お姉さんたちが、みんな真面目な顔してわたしの掌を目指している。
もう必死ね。
卓越したマーナちゃんの視力なら、彼らのそんな表情まで読み取れる。
大人のくせに、子供のマーナの掌に乗せてもらおうとやってくるなんて・・・
恥ずかしくないのかなあ?
悔しくないのかなあ?
うふふ
まあ、可哀想だから乗せてあげるんだけどね。
全員が両掌の上に乗り込んだことを確認すると、マーナちゃんはそのリリパット人たちに向かって得意そうに声をかけた。

「はあい、みんな用意はいいですかあ?立ち上がりますよお!」

まず蹲ったまま両掌をゆっくりと胸の高さまで持ち上げて、それから後ずさりして立ち上がった。
改めて掌の上のリリパット人たちを覗き込む。
あーあ、急に高いところに持ち上げられたから腰を抜かしてるよ。
みんな弱っちくて情けないなあ。

「もう大丈夫だよ。こんなに大きくて強いマーナが、助けてあげたんだからね。」

恩着せがましく言い放ちながらまた掌の上のリリパット人たちの様子を伺う。
うふふ
ちょっと悔しそう。
でも、悔しくても言いかえせないでしょ?
だってさあ、みんなマーナの掌の上にいるんだよ。
マーナが機嫌を損ねて、ぱん、と両手を叩いたら、みんな潰れちゃうんだよ。
そんなことしなくても、この掌をちょっと傾けてみただけで、みんな真っ逆さまに墜っちゃうんだよ。
この高さだよ。
目がくらむでしょ?
じゃ、何を言われてもそのまま頷いているしかないわよね。
大人のみんなが、子供のマーナの言うとおりにしなきゃいけないわよね。
でもね、そのみんなが目のくらむ高さって、実はマーナの胸の高さでしかないんだよ。
小人って、惨めだね。
うふふ
・・・
それにしても何人いるんだろ?
50000人?
いや、もっとたくさんいそう。
そんな大勢の大人をいちどに掌にのせているんだ。
この人たちだったらマーナの掌の中に街を建てられちゃうかもね。
うふふ
わたしって超大巨人!
人間山!
ちょー優越感!
リリパットって、最高だわ。
・・・
そんなことを考えているうち、ふと目の前で変な恰好をしているドロシーのことが気になった。
「・・・ドロシーおねえちゃま、何やってるのかなあ?」

*****

ドロシーは相変わらず不自然に腰を捻りながら身を浮かせて歴史保存地区の上空に覆いかぶさるというポーズで悪戦苦闘。額には冷や汗を浮かべ、顔面蒼白である。
そこに斜め背面から一回りして歩み寄ってきたマーナちゃんは、きょとんとして首を傾げた。
「ドロシーおねえちゃま、何やってるの?・・・ツイスターゲーム?」
がっくり・・・と脱力したら負けだ。
ドロシーは歯を食いしばってマーナちゃんのボケをスルーする。
返事がないのでマーナちゃんは更にドロシーの顔面近くに歩み寄った。
ぐしゃ
ドロシーの目が点になる。
「マ、マーナちゃん!足元!足元!」
「足元?」
促されるままに下を見る。もちろんマーナちゃんの足元では普通に一歩で街並みが1ブロック消滅していた。
「大丈夫ですよ。だってほら、みんなここにいるから。」
マーナちゃんは得意そうにドロシーに自分の両掌を見せた。その上には難を逃れたリリパット人たちがびっしり乗っている。
「だからね、こんな街、もう踏み潰しちゃっても問題なし!」
マーナちゃんは明るく無邪気に笑いながら、またもう一歩で1ブロックを完全消滅させた。
ドロシーは顔面蒼白だ。
確かに人命救助できたのは何よりだ。だけど、こんなに苦しい体勢になっても必死になって街を守ろうとしてきたのに、マーナちゃんはあっけらかんと破壊し放題。ドロシーの努力などまるで水の泡だ。
頭からさーっと血の気が引いてきた。
「・・・もう・・・ダメ」
ドロシーは観念した。
その身体がゆっくりと傾いて、スローモーション映像を見るように、街の上に崩れ落ちる。
・・・
どっがあああああああああああああああああん!!!
・・・
・・・
舞い上がった土埃が晴れたとき、歴史保存地区は完全に廃墟と化していた。
マーナちゃんが地団駄踏んで怒り出す。
「ああ、ドロシーおねえちゃまったら、マーナがあとでぐしゃぐしゃに踏み潰そうと思ってた街を、一人でぜーんぶ壊しちゃったあ!意地悪う!意地悪う・・・」

*****

ドロシーはプレル首相に呼びつけられて、こっぴどく叱られた。
勝手にブロブディンナグ人立ち入り禁止の地区に入り込んだのだ。
乱暴狼藉を働いていた外国人観光客を確保するため、という理由はまだ理解できないこともない。
でもその外国人観光客はドロシーではなくマーナちゃんが捕まえた。
ドロシーはなんだか勝手に変なポーズをとって、挙句の果てに倒れ込んで街をメチャメチャにしてしまっただけだ。
しかもあろうことかその街は観光立国リリパットのドル箱である歴史保存地区だった。
被害は半端なく甚大である。
叱られても、叱られても、ドロシーには返す言葉がなかった。

*****

「・・・」
しょぼんとうなだれるドロシーをローラ王妃さまが慰める。
「ドロシー、元気を出すです。」
「・・・」
「ほらほら、ちゃんと上を向いて」
「でも・・・」
「困ていたリリパット人たちを助けに行こうとしたドロシーは間違てなかたですよ。」
「・・・」
「結果も、上手くはいかなかったけど、最悪の事態は避けられたです。」
「え?」
そこで初めてドロシーは顔を上げた。
「お言葉ですが王妃さま、リリパットの大事な歴史保存地区をメチャクチャにしてしまったのですから、最悪の結果ですよね?」
「そなことないです。」
ローラ王妃さまは優しく首を横に振った。
「死んだ人はおろか、ケガ人すらいませんでした。壊れた街はまた建て直せばいい。でも、一人でも亡くなった人がいたら、取り返しのつかないことになてましたです。」
「・・・」
「ドロシー、リリパット人のみなさんに感謝しなさい。あの状況でも慌てず、冷静に団体行動することで、一人の犠牲者も出しませんでした。結果的に、それでドロシーを救たのですよ。」
「!」
・・・
そうか。
そんな視点があったのか。
実は、わたしの方がリリパットの人たちから守られていたんだ。
・・・
じんわりと、両眼に涙があふれてきた。
「・・・王妃さま、わたし、わたし・・・」
「ドロシー、泣かないの。」
とは言われても、もう止まらない。
ドロシーは王妃さまに飛びついて、その胸に顔を埋めてわんわん泣いた。
その肩を柔らかく抱きしめながら、ローラ王妃さまは呟いた。
「だからドロシー、もう心配するいらないですよ。あとはあの歴史保存地区を再建するだけ。」
ドロシーは頷いた後、目を真っ赤にしながら顔を上げる。
「・・・でも王妃さま、それってお金がかかるのですよね?リリパットの財政は大丈夫なのですか?」
「・・・う、うん・・・そうねえ」
さすがにローラ王妃さまも即答はできなかった。

*****

「在日リリパット・ブロブディンナグ・ブレフスキュ連邦大使館の・・・コップル書記官でいらっしゃいますか?」
応対に現れた外務省北米二課長は、渡された名刺と渡したやたら胸の大きな女性を見比べて首を捻った。
「コップルはわたしですよ。」
サトミのはち切れそうな胸の谷間から顔を出したコップル書記官は、差し出された掌の上にひらりととび乗って北米二課長に挨拶した。
「いやあ、どう見ても日本人女性だと思っていたらそういうことでしたか。」
外務省北米二課長はサトミの掌の上のコップル書記官に向かいながら頭を掻いた。
「彼女はわたしの秘書兼家内です。」
紹介されてサトミはぺこりと頭を下げる。
「実際に日本で暮らすのはわたしたちブレフスキュ人やリリパット人には大変なのですよ。家内にはずいぶん助けられています。」
「仲のよろしいことですね。羨ましい限りです。」
サトミは照れくさそうに笑って下を向いた。しかしコップル書記官は表情を崩さず、北米二課長に訊ねた。
「・・・で、ご用件とは?」
「ええ、例のうちの観光客がおたくで狼藉を働いてしまった一件です。」
日本人観光客が立ち入り禁止のリリパット歴史保存地区に迷い込み、それがきっかけで最終的にその歴史保存地区全体が壊滅してしまった事件は、既に外交ルートのみならずマスコミを介して世界中に知れ渡っていた。事件の発端となった観光客二人は現地の法律に基づいて処罰される。それは既定路線であった。
だが、今日こうして日本国外務省に呼び出しがかかったということは・・・
「・・・ち、治外法権を認めろ、ということですか?」
「いやいや、滅相もない。迷惑をかけた連中はおたくの国の判断でいくらでも厳罰に処してやってください。」
コップル書記官の疑念を北米二課長は言下に否定した。しかしそれではますますわけがわからない。
「では、この事件についてどのようなご用件で?」
「短刀直入に申しあげましょう。」
生え際に少し白髪の混じった北米二課長は、周囲を伺ってから身を乗り出してきた。
「・・・おたくの歴史保存地区の再建費用ですが、あれ、全額わが国に負担させていただけないでしょうか?」
「はあ?」
コップル書記官はわが耳を疑った。
確かに事件の発端は日本人観光客の失態だった。日本に全く道義的責任がないかといえば、まああるのかもしれない。
しかし、実際のところ歴史保存地区の破壊のほとんどは自国民であるドロシーによってもたらされたものである。ドロシーの豪快な破壊っぷりに比べたら、日本人観光客の破壊なんて誤差の範囲内だ。その損害賠償を日本に求めようとはリリパット・ブロブディンナグ・ブレフスキュ連邦もおこがましくてとても口には出せなかった。
とはいえリリパットにとってドル箱である歴史保存地区の再建は不可避な課題であり、その費用が頭痛のタネであったことは事実である。
日本からの申し出は渡りに舟だった。
「・・・い、いいんですか?」
「いいですとも。うちの観光客がおたくでやらかしたお詫びのしるしです。」
「でも・・・」
「なあに、我々には、なんちゃってODAみたいな、まあ、あんまり大きな声ではいえない財源が結構潤沢にあるんですよ。ええ、族議員をおだてればいくらでも出てくる打出の小槌みたいなものです。連中を騙すのは朝飯前ですし。」
北米二課長は結構エグイ内容をさらりと言ってのける。コップル書記官は狼狽した。
「し、しかし、そんなことがマスコミに知れたら・・・」
「知られないように頑張りますよ。それでバレたら、そのときはわたしが首を差し出すまでのことです。大丈夫、おたくには迷惑をおかけしませんから、あははははは」
いかつい身体の北米二課長は豪快に笑いとばした。コップル書記官とサトミは相変わらず狐につままれたようであるが、しかし有難い申し出であることは間違いない。
「ありがとうございます。本当にありがとうございます。」
コップル書記官はサトミの掌の上で深々と頭を下げて礼を述べた。
「それにしても・・・」
顔を上げたコップル書記官は北米二課長に問いかける。
「どうしてあなたは自らの立場を危うくしてまでわが国を守ろうとしてくださるのですか?」
「どうして?」
北米二課長は照れくさそうに笑った。
「どうして、って・・・ううん、実は、おたくの国の王女・・・じゃなかった、王妃さまには、訳ありで・・・」
「え?」
「いやいや、まだわたしが駆け出しのころの古い話ですよ。」
「はあ」
「そんなことで仕事に手心加えちゃいけないことはわかってるんですけど、でも・・・まあ、あの王妃さまをピンチに追い込むことは・・・できないのですわ、あはははははは」
「・・・」
コップル書記官は大きく頷いた。
個人的には親交のないローラ王妃であるが、周囲の人すべてがその魅力の虜になるという噂は聞いていた。
この日本の北米二課長も、きっと過去に、どこかで、ローラ王妃と忘れられない日々を送ったに違いない。
「・・・おたくの王妃さまの凄いところは『愛される力』です。その力がずば抜けているから、みんなが必死になって守ろうとする。だから国が統治できる。たいしたものです。」
柔和な表情で頷く北米二課長に向かってコップル書記官はもう一度深々とお辞儀した。
そのとおりだ。
この日本の役人の言葉は全くそのとおりだ。
顔をあげると、コップル書記官は意味ありげにニヤリと笑った。
「確かにローラ王妃の『愛される力』は卓越しておられると思います。でも・・・」
「でも?」
「いま、リリパットにはもう一人、飛び抜けて優れた『愛される力』の素質をお持ちの方がいらっしゃるのですよ。」
「ほお」
「王妃さまとは随分タイプが異なりますけどね。一見わがままで、勝手で、自己中心的にも見えるのですが、でもなんだか憎めなくて、どうしてもお守りしたい、お役に立ちたい、っていう気持ちになってしまうのです。なあ、サトミ、そうだろ?」
急に振られたサトミは思わず片手で口元の笑みを隠しながら、しっかりと頷いた。
「ええ、確かに・・・」

*****

「へーくしょん!」

くしゃみの爆風で鏡台の前のブレフスキュ男達は吹き飛ばされた。

「・・・ド、ドロシーさま、気を付けてください。下手すると死人が出るところでしたよ。」
インカムを介してシェビッキの声が聞こえる。どうやら不具合は解消したようだ。

「あ、ごめんごめん、急に鼻がむずむずしたものだから・・・」

ドロシーは別に申しわけなくもなさそうに謝る。きっとろくに反省もしていないのだろう。
まあ、いいや。
シェビッキは体勢を立て直し、コホンと一つ咳払いしてからドロシーにご注進した。
「・・・ええ、通信手段が回復したことですので、どうしてもドロシーさまのお耳に入れておかねばならないことが・・・」

「なあに?」

「実はマーナさまのことなのです。マーナさまは、まだ分別がおつきにならないせいでありましょうか、その、おてんばの度が過ぎておりまして・・・」

「?」

「ドロシーさまやモモさんの目を盗んでは、我々ブレフスキュ解放戦線の勇士たちを使って悪戯なさるのですよ。ええ、それもここで口にするのもはばかられるような、ああ、その、下品といいますか、お子様らしからぬ、卑猥なお遊びと申しましょうか・・・」

「それで?」

「はあ、それで・・・って、え?それで?それでって、マーナさまの悪戯が、気にならないんですか?」

「別に」

「別に、って・・・ドロシーさま!わたしたちは毎日酷い目に遭っているのですよ!年端もいかない女の子に玩具にされて死ぬほど恥ずかしい思いをさせられているのですよ!」
シェビッキは両手をぐるぐる回しながら必死になってアピールする。
ところがそれを見下ろすドロシーはきょとんとして小首を傾げるばかりだ。

「だってそれがお前たちの仕事でしょ?」

「!」

「マーナちゃんのお相手も務められないようじゃ、おまえたちはクビよ。」

「・・・」
平然と言い放つドロシーの前でシェビッキは力なく膝をつき、その傍らでナボコフは人知れずガッツポーズするのであった。

*****

今日もバスは胡散臭い男たちを満載して南国の凸凹道を走る。
車中で男たちは物音ひとつ立てず、ひたすらオーラを貯めこんでいた。
ぎらぎらと燃える眼差し
張りつめる緊張感
漂う殺気
・・・
・・・
キーッ!
快調に走っていたバスが急停車した。
胡散臭い男たちは一斉に身を乗り出して、手に手に携帯やデジカメを握りしめつつ窓の外を凝視する。
・・・
いた!
・・・
窓の外に見えたものは、バスより一回り小さいくらいの足である。可愛らしい子供用のビーチサンダルを履いている。それがバスの両側にそれぞれ一つずつ見える。
ということは・・・このバスは今、この巨大な2つの足の持ち主に跨がれている状態なのだ。

今度はバスの両脇に巨大な手が絡み付くと、そのままバスは空中に浮かび上がった。バスがこの巨人に両手で持ち上げられたのだ。
男たちは慌てず騒がず冷静に写真をバシャバシャ撮りまくる。
そして、空中高く持ち上げられたバスのフロントガラスの前に、ついに巨人の顔が現れた。
現れたのは栗毛のくせっ毛をなびかせたお人形さんのような可愛らしい幼女。
紺色のどんくさいスクール水着に身を包まれている。
年のころは6~7歳くらいだろうか。
ぱっちりした碧眼がバスの中の男たちを見つめて意地悪そうにニヤリと笑う。
車中は男たちがたくフラッシュの嵐。
もはや男たちにさっきまでの殺伐とした雰囲気はない。眼はとろんと惚けて半開きの口からは涎が垂れ、あろうことか自らの股間を握りしめて白目をむいている者までいた。
大の大人が団体でなすすべもなくバスごと一人の巨大な幼女の玩具にされてしまう。
そんな非日常が味わえるのは世界中でこのリリパットだけ!!!
このツアーが当たらないはずがない。
世界中からこのツアーに参加することだけを目的にして観光客が押し掛けた。もう押すな押すなの大人気である。その大半は現実社会の女性興味なし二次元歓迎童貞上等の筋金入りサイズフェチ男たち。一部にはシュリ百合マニアの女性観光客までいてこの世界の奥の深さを見せつけた。
そんなわけでリリパットの観光収入はうなぎのぼり。
日本からの援助で再建された歴史保存地区には新たにブロブディンナグ人用の回廊も設置され、観光客の迷惑行為対策もばっちりだ。
バスツアーのお相手に新たに抜擢されたマーナちゃんもノリノリ。だって小人を虐めるだけで褒めてもらえるんだから、これはマーナちゃんの天職のようなものである。
もちろんドロシーに替わってマーナちゃんを起用したキンツリーも目論見が当たって万々歳。
というわけでwin-winどころかwin-win-win-winの八方丸く収まるハッピーエンドだ。ああ、ほんとうに、良かった。良かった。みんな、良かったねえ。

*****

「ちっとも良くないわよ!」
既に帰国して日常の高校生活に戻った志都美と杏奈は不満たらたらである。
「この展開には全然納得できないわ!」
「確かに…」
前編の出だしでは志都美と杏奈の2人組にスポットライトが当たっていた、ようにも思われた。
おお!ついにわたしたちが主役を務めることに!と、思いきや、中盤以降は出番なし。後編になってついに活躍か?と思えば変態のおじさんたちに責めたてられて公衆の面前でおっぱい曝け出すはめに。挙句の果てにはそこでまたしても尻切れトンボである。
これ、いったいどういうこと?
「わたしたちって、ブロブディンナグ人少女たちを引き立てるための使い捨てキャラだったわけ?」
「悔しいわ。でも、それだったらswとかでもっと出番をくれても良かったのに。」
「そうそう、志都美ちゃんみたいな活発少女がある日突然一匹のswとしてGWのブロブディンナグ少女に飼われることになっちゃって、様々な屈辱を浴びせかけられているうちにだんだんと従順なM女になり、最後には心も身体もその虐待の虜になって自ら望んでめくるめくシュリ百合の倒錯世界に堕ちていく・・・」
「ああ、また『ネタにした』って呆れられちゃうかもしれないけど、その世界ならJUNKMANではなくて牧浦さんに書いていただいた方が良いわ。」
「それじゃいっそのことわたしたちのことは完全に無視して、超巨大なブロブディンナグ人の巨乳娘と極小のリリパット人男子がなぜか普通にコミュニケーションとりながらラブラブな関係に・・・」
「それは唐変木さん。」
「ブロブディンナグ人メイドさんが超巨乳をゆっさゆっさ揺らしながら一切服は脱がずにリリパット人を虐めまくる。」
「それはドエムさん。」
「お話のバリエーションは実に多彩だけど基本50kB以内の短いスペースにきっちり起承転結を組み込んでくる。」
「それは十六夜さん。」
「リリパット人が1クラスまとめて残酷なブロブディンナグ少女の同級生の手に落ち、極限の状態下で虐められながら逆らうと更に縮小させられる。」
「ああAN-Jさん、早く次回作を書いてくださらないかしら・・・って、いつまでこんなことやらせるのよ!」
確かにそんなことしている場合ではない。
ほら、無駄に時間を費やしていたうちに、この「リリパット旅行社」のお話ももう大団円を迎えてしまったではないか。
「くそお、見てらっしゃい、必ず次の出番ではもっと活躍してやるわ!」
「・・・でも、次の出番って、いつ来るのかしら?」
2人は顔を見合わせながら嘆息をつくのであった。

リリパット旅行社・終