小学校へ行こう!(2)
by JUNKMAN

日曜日
もうすっかり仲良しになったクラスメートの女子たちに誘われ、マーナちゃんはサッカーの試合を見に行くことにした。
都の南部の港町、ポートリリパットにあるサッカースタジアムである。
今日は大事な国王杯U12リーグの最終戦。今シーズン一部に昇格したばかりの王立リリパット第一小学校チームはここまで快進撃を見せ、最終戦を前にして首位に勝ち点差1という好位置につけていた。
そして迎えた最終戦の相手こそが首位のポートリリパットFCジュニア。優勝するためにはこの厳しいアウェイの闘いでどうしても勝ち点3を取らなければならない。

*****

「・・・ねえ、マーナちゃん、どうしてサッカーを見に行くのにそんなスタイルなの?」

眼鏡をかけた小柄でロングヘアの女の子が訊ねてくる。学級委員を務めているピピちゃんである。明るくて面倒見がいいので、マーナちゃんにとってはいちばん頼れるお友達になっていた。
そんなピピちゃんが不思議に思うのも無理はない。
今日のマーナちゃんの服装はなんとブルーのスクール水着にビーチサンダル。まるで海水浴にでも出かけるかのようだ。そこに例の黄色いポーラーハットを被っているのだからコーディネートは最悪のどんくささである。
マーナちゃんは首をすくめながら言い訳した。

「この帽子はね、外出するときは必ず被るのが校則だって・・・」

「あはは、いいのよ日曜日くらい。」

「そうなの?・・・でもうちの執事はうるさくて」

「じゃあまあそれは仕方ないとして、どうして水着を?」

「この水着も学校指定だし、色もブルーだからうちのチームカラーに合ってるでしょ?」

確かにチームカラーという意味ではこれでも良いのかもしれないが、それにしてもどうして水着?
・・・
という疑問は会場に到着したら解消した。
巨大なポートリリパットスタジアムは長径約250リリパット・メートルの楕円形。それは長径が約10ブロブディンナグ・センチメートルということだ。もちろん高さはそれよりも更に低い。これではマーナちゃんが精いっぱい蹲っても中を覗き込むのはなかなか苦しい。腹這いになって寝そべりながら覗き込むのが一番楽チンだ。

「・・・だけどポートリリパットの街中にわたしが腹這いになれるようなスペースなんてないでしょ?」

「そうねえ。」

「無理にそんなことしたら寺田落子さんのイラストにありがちな阿鼻叫喚の構図になっちゃうし・・・」

「ああ、わかるわかる、その感じ、よーくわかるわ。」

「でしょでしょ。で、ポートリリパットスタジアムは港のすぐそばにあるから、海になら寝転べるかな?って思って・・・」

巨大タンカーの接岸も可能なポートリリパット港の埠頭の水深は25リリパット・メートル。これは水深1ブロブディンナグ・センチメートルという意味だからマーナちゃんにしてみれば腹這いになっても全く問題ない。

「それで、濡れてもいい服装にしたの。」

「さすが!マーナちゃん頭いい!」

というわけでクラスメートたちはスタジアムには入らず、スタジアム脇の港に腹這いに寝そべって身を乗り出すマーナちゃんの肩の上、すなわちほとんどスタジアムの上空からサッカーの試合を観戦することになった。

「うわあ、ここよく見えるわ!」

「最高!ありがとうマーナちゃん!」

「うふふ、喜んでもらえて嬉しいわ・・・でも」

「でも?」

「どうしてスタジアムが真っ赤なの?」

確かにマーナちゃんたちが上空から覗き込むスタジアムは全体が混じりけ無しの真っ赤っか。しかもなんだかいきり立っていて雰囲気がきわめてよろしくない。
ピピちゃんがさっそく解説してくれた。

「・・・だって、ここはわたしたちにとってアウェイだもの。敵のチームカラーである赤のユニフォームを来たサポーターたちがスタジアムを埋め尽くしているのよ。」

「うわあ、赤いユニを着たサポーターがスタジアムを埋め尽くしてるって、嫌な光景ねえ・・・」

「ホントよね。赤い某国(JUNKMAN注:きっとベルギーのことです)もたいがいだけど、ところ構わず『ウイアー○○○!』と叫びまくる赤いJ1チームのうざさといったらもう・・・」

えー、話も横道に逸れましたし無駄に一部の読者様を敵に回しそうな流れになって来たということで以下この話題は省略させていただきます。
ピー!
そうこうしているうちにいよいよ運命の一戦が始まった。
またしてもピピちゃんの解説である。

「敵のポートリリパットFCジュニアはこのリーグを3連覇している強豪。今年のチームも守備はイマイチだけど、攻撃陣の破壊力はずば抜けているわ。」

「ふうん」

「でも、うちのサッカーチームだって悪くないわよ。」

「ふむふむ」

「チームの大黒柱はGKのケントくん。ほら、うちのチームのユニフォームはブルーだけど、あそこで一人だけ黄色いユニフォームを着てる男の子がいるでしょ。わかる?」

「うん・・・あ!・・・あいつ!!!」

わかるも何も、マーナちゃんには忘れようもないパンツ丸見えを指摘したあのデリカシーのない男子だった。
マーナちゃんがむっとしたのに気づかずピピちゃんは説明を続ける。

「ケントくんは抜群の防御率を誇るわがチーム不動の守護神なんだけど、実は凄いところはそれだけじゃないのよ。」

「・・・なにか秘密兵器でもあるの?(←ちょっとつっけんどん)」

「まあ見ててごらんなさい」

王立リリパット第一小学校チームは鍛えられた守備で相手になかなかつけ入る隙を与えない。相手が強引に仕掛けてきても組織的に苦しいポジションに追い込んで、そしてやむなく放った力ないシュートも易々とGKのケントくんがセーブした。

「・・・ここからよ。」

ピピちゃんの予想を裏付けるように、ケントくんは素早く右サイドの奥深くにフィードすると大音声を張り上げた。

「10番4番上がれええええええええ!!!」

会場がびりびりと震えるほどの大声である。
マーナちゃんはびっくりした。リリパット/ブレフスキュ人でここまで大きな声を出す人は見たことがない。鬼聴力のマーナちゃんには「やかましい」と思われたほどである。
ましてや相手DF陣にとっては驚愕の出来事だったのだろう。何事が起こったかとあっけにとられているうちに、ケントくんの精密なフィードをトラップした右MFが大胆にサイドチェンジしてボールは左サイドを駆け上がっていた4番へ。そしてコーナーフラッグの手前まで独走した4番が振り返りざまにクロスを放つと、食い下がる相手DFを振り切った10番にどんぴしゃり。後は冷静に相手GKの動きを見ながら10番がゴール隅に流し込む。
ピイイイイイイイイイイ
待望の先取点だ。

「やったああああああああああ!」

マーナちゃんの肩の上ではクラスメートたちが大はしゃぎ。
一方、敵サポーターで溢れかえるスタジアムはしゅんとして水を打ったような静けさである。

「やったやった!」

大騒ぎするピピちゃんたち同級生を見ながら、マーナちゃんも今までに味わったことのない不思議な感覚にとらわれていた。
これって
・・・
すっごく楽しいかも
・・・
・・・
興奮冷めやらぬうちにプレーは再開になり、ちょっと落ち着きを取り戻したピピちゃんがケントくんのプレーを解説してくれた。

「ケントくんの誰よりも凄いところはね、コーチングなのよ。」

「コーチング?」

「そう、ケントくんは声が大きい上に読みが優れているから、守備だけじゃなく攻撃の指示も任されているのよ。」

「読み?」

「うん。ケントくんは相手の気持ちがよくわかるのよね。だから危険を察知して守備を構築したり、ウラをかいて攻撃を組み立てたりすることができるの。」

「・・・相手の気持ちが、よく、わかる?」

・・・
マーナちゃんは黙って首を横に振った。
・・・
ありえない。
それだけはないわ
うん、少なくとも、女の子の気持ちを読むことだけは絶対にできないと思う!!
・・・
・・・
マーナちゃんが膨れっ面しながら心の中で異論を唱えていると、いつの間にか相手のポートリリパットFCジュニアチームは戦術を変えてきた。
なんと掟破りの8バックである。8人ががっちりゴール前を固めているので、弱点だった守備陣の脆さが解消された。もう追加点を奪うことは難しいだろう。
でも、こんな布陣ではご自慢の攻撃力が低下しちゃうんじゃないの?それでなくても王立リリパット小学校は守備が固いのに、これで1点のビハインドが返せるの?
・・・
そんな疑念は、攻撃を任されたツートップを見ているうちに消し飛ばされてしまった。こいつらが異常な難物だったのだ。
一人は現在得点ランキング1位独走中の筋肉ムキムキ競り合い無双のフィジカルお化けでパワーにまかせたシュートの破壊力も半端ない俺様系FWのゴリラ。
その相方は小柄だけど俊足かつありえないほど小回りが利いて足元も巧みな上に嗅覚が鋭くクレバーにサッカー脳が冴えわたるという手が付けられないコマネズミ。
このタイプの異なる2人のFWが抜群に息の合ったコンビネーションで攻めてくるのだから脅威である。
ケントくんたち王立リリパット第一小学校チームは、ポゼッションでこそ圧倒しながらも、もはやチャンスらしいチャンスを作ることもできず、それどころかときどきこの2人に切れ味鋭いカウンターを食らってたじたじとする局面が作られはじめていた。

「・・・まずいわね」

ピピちゃんが額に縦皺をよせる。
サッカーのことはよくわからないマーナちゃんもなんだか心配になってきた。
特に守備陣に疲れの見えてきた後半はもう防戦一方。サポーターたちの大声援に背中を押されてゴリラとコマネズミは雨あられとシュートを撃ちまくる。そのシュートをGKのケントくんがもはや神が降臨したかのような抜群の読みと瞬発力でセーブしまくる。そんな胃に孔のあきそうな展開が続いた。

「・・・これはもうケントくんの頑張りに頼るしかないわね」

ピピちゃんたちは両手を組んで祈るようにピッチを見つめる。
マーナちゃんもいつか拳を握りしめていた。
・・・
ケントくん
・・・
頑張って
・・・
・・・
って
・・・
え?
・・・
そ、そんなことないから
あ、あんなやつ
応援したりしないから
・・・
それはさ
確かに見た目はちょっとカッコイイかもしれないけどさ
・・・
でも女の子の気持ちとか考えないやつとか
ぜーーーーーーーったいに応援しないから!!!
・・・
・・・
・・・
マーナちゃんが勝手に自分の心の中で一人ボケ突っ込みを繰り返しているうちにもなんとか時間は過ぎていき、もうロスタイムも残りわずか。
ようやく勝利も見えてきた
・・・
というタイミングで
・・・
あのコマネズミがドリブルで王立リリパット第一小チームの守備を切り裂きまんまとバイタルエリアに侵入すると、DFたちの注意を十分に引きつけておいてから、意表をついてノールックでふわりと浮き球のパスを上げた。
虚を突かれたDFたちは棒立ちのまま振り返る。
そこにはまるで申し合わせていたかのようなタイミングで猛然と飛び込んでくるゴリラの姿が
・・・
ガツン!

「きゃああああああ」

ピピちゃんが悲鳴をあげる
ゴリラのジャガイモ頭から放たれた必殺のヘディングシュートはゴール右隅に向かって一直線。
たまらずケントくんは横っ飛び、これを腕一本で弾き返した。

「ふううううううううう」

安堵のため息
ところが安心するのはまだ早かった。

「きゃあああああああ!」

再びピピちゃんの絶叫だ。
ケントくんが必死に弾き返したボールの前に、今度はなんとあの異常なアジリティでうざったくどこにでも現れるコマネズミの姿が
・・・
横っ飛びに倒れたケントくんはもはや次のシュートをセーブできる体勢にない。
この様子を確認しながらコマネズミは冷静にシュートコースを探る。
ああ、絶体絶命!!!
ピピちゃんたちクラスメートは一斉に頭を抱えて蹲った。
万事休すか?
たまらずその背後から味方のDFがバックチャージした。
!!!
もんどりうって倒れ込むコマネズミ
ピイイイイイイイイイイイ!
・・・
ホイッスルを吹きながら審判が駆け寄ってきた。もちろん問答無用の一発レッドである。

「うおおおおおおおおおお」

スタジアムから一斉に怒号が湧き起こった。
それはそうだ。同点、すなわち逃げ切りのリーグ優勝を決定づけるはずのシュートが、汚い反則で消し飛んでしまったのだ。ホームチームがこんな目に遭わされて黙っていてはサポーターではない。スタジアムは耳をつんざくほどの大ブーイングに包まれた。
ぶうううううううううううううううううううう

「ど、どうなるの、これから?」

マーナちゃんはおそるおそるピピちゃんに訊ねる。
ピピちゃんは蒼ざめた顔で答えた。

「PKよ・・・」

ゴリラがボールを持ってゆっくりとゴール前に歩み寄る。
その姿をケントくんが睨みつけていた。
もうロスタイムも十分に過ぎており、間違いなくこのPKが最後のプレー。
得点が入ればポートリリパットFCジュニアの逃げ切り優勝
阻止すれば王立リリパット第一小の逆転優勝
キッカーはゴリラ
守るのはもちろんケントくん
今年のリーグ戦の最後を飾るに相応しい千両役者同士の対決だ。
・・・
・・・
・・・
じっと見つめ合うキッカーとGK
スタジアムは極度の緊張感に包まれた。
いたたまれなくなってマーナちゃんがまたピピちゃんに訊ねる。

「だ・・・大丈夫かしら?」

「わからない。PKはキッカーが圧倒的に有利だからね。」

「え?」

「でも、ここはケントくんを信じるしかないわ。」

「!」

ケントくんを信じる
それって、ケントくんを応援するってこと?
・・・
・・・
そ、そうよね
仕方ないわよね
チームが勝つためには、ケントくんに頑張ってもらうしかないんだからね
だからケントくんを応援するんだからね
それだけの理由だからね
ほんっとに、それだけの理由なんだからねっ!
・・・

「・・・ケントくん・・・頑張れ」

マーナちゃんは誰にも聞こえないようにぼそっと呟いた
その間に、キッカーのゴリラはボールをセットし、その後方から小走りに助走を始める。
徐々にスピードを上げ、ボール手前で胸を反らし、右脚を大きくバックスイングする。
体勢を低くして身構えるケントくん。
来る!
シュートが来る!
ものすごいシュートが来る!
・・・
お願い!
守って!
止めて!
セーブして!
ケントくん頑張れ!
ケントくん頑張れ!!
ケントくん頑張れ!!!
マーナちゃんは我を忘れて大声を出した。

「ケントくん頑張れえええええええええ!!!」

・・・
・・・・
・・・
しまった
・・・

思ったときは
・・・
もう手遅れだった。
・・・
・・・
・・・

*****

ナボコフにも十分注意されていたように、ブロブディンナグ人の大声はリリパット人たちにとって大量破壊兵器も同然である。
だというのに、マーナちゃんはかぶりつくほどのスタジアム直近で本気の大声を出してしまったのだ。
スタジアムを真っ赤に染め上げた敵チームのサポーターたちは、当然全員ひとたまりもなく吹っ飛ばされた。
いや、サポーターたちはまだいい。
いままさにPKを蹴ろうとしていたゴリラはどうか?
・・・
さすがに彼はフィジカルお化けだ。この核爆弾なみの大声の下でもひっくり返ることなくプレーを続けられたことは賞賛に値する。
ただ、それでもさすがにいつもと全く同じ、というわけにはいかなかった。
思い切って振り切ったはずの右脚は微妙に軌道がそれて、スパイクは無情にもボールの上っ面をこすり上げる。
しまった!という表情のゴリラをあざ笑うかのように、ボールはころころと力なく真正面に転がった。
・・・
ケントくんにとってこんなボールをセーブすることなどわけもない。
しっかりと、両腕で抱え込んだ。
・・・
・・・
ピ、ピピイイイイイイイイイイイイイ
PKの失敗を確認すると同時に、ホイッスルが鳴った。
ゲーム終了。
1-0で王立リリパット小学校チームの逃げ切り勝ち、
同時に今年のリーグ戦は王立リリパット小学校チームの逆転優勝となった。
赤のユニフォームの選手たちはその場に崩れ落ちる。
一方ブルーのユニフォームの選手たちも、今一つ素直に喜べずその場に棒立ちになった。
・・・
・・・
この上なく気まずい空気がスタジアムに満ち満ちた。

*****

「ぶうううううううううううううううううううううう!!!」

マーナちゃんの大声でひっくり返された赤のサポーターたちは、ようやく体勢を立て直すと、この結果を知り、最大限の怒りを込めてブーイングを開始した。

「ぶううううううううううううううううううううう!!!」

「こんなの反則だあああ!!!」

「インチキだああ!!!」

「サッカーをバカにするなあああ!!!」

彼らがいきり立つのも無理はない。それでなくてもPKの原因となったコマネズミへのバックチャージでいらついていたのだ。そしてその挙句この有様である。怒りの矛先は、まあ当然だが、マーナちゃんに向けられた。

「ブロブディンナグ人が大声を出すなんて卑怯だぞ!!!」

「大事なサッカーの試合を台無しにしてくれたなあああ!!!」

「恥ずかしくないのか!!!」

「そうだ!!!恥を知れ!!!」

罵倒はエスカレートする一方である。
マーナちゃんは頭が真っ白になって何もすることができなくなった。

「どーしてくれるんだ!!!」

「謝れ!!!」

「謝罪しろ!!!」

「謝罪しろ!!!」

{謝罪しろ!!!}

「やかましいいいいいいいいいいいいいい!!!」

最後に誰かが言い放って、スタジアムの怒号がぴたりと止んだ。
というより、このスタジアムいっぱいの怒号を止めてしまうほどの大音声だった。
そんな大声を出せるのは、マーナちゃんを除けば一人しかいない。
ケントくんだ。
ケントくんはスタジアム全体を眺め渡すと、大きな声で憎々しげに挑発した。

「・・・お前らこそ、大勢で一人の女子を吊し上げて、恥ずかしくないのかあ!」

「なに?」

「そもそも、お前らポートリリパットFCジュニアが負けたのは、あの女子のせいじゃないぞ!」

「?」

「・・・お前らが負けたのは、俺たちの方が強かったからだ!・・・お前らポートリリパットFCジュニアは、単に弱かったから負けたんだあああああああ!!!」

「なんだとおおおお!!!」

スタジアムは更に騒然とした。
耳をつんざく怒号と共にピッチ内に雨あられとメガホンが投げ込まれる。もはや全く収拾がつかなくなった。

「・・・マーナちゃん、いまよ!」

肩の上のピピちゃんが声をかけてきた。

「!」

フリーズしていたマーナちゃんは我に返った。

「・・・い、いま、って」

「今すぐ逃げるのよ!」

「え?」

改めてスタジアムの中を覗き込む。
ケントくんたち王立リリパット第一小イレブンは、興奮してピッチ内になだれこんだ赤いサポーターたちにもみくちゃにされている。

「こ、この状態を放っておいて、わ、わ、わたしだけ逃げるなんて・・・」

「わからないの?」

ピピちゃんが怖い顔をして詰め寄る。

「ケントくんは、マーナちゃんを逃がそうとしてあんな小芝居うったのよ!」

「え?」

「あのマーナちゃんに向けられたサポーターたちの怒りを逸らすために、自分からわざと憎まれ役を買って出たのよ!」

・・・
そうだったのか
それであんなにわざとらしくサポーターたちを煽ってみせたのか
・・・
・・・

「・・・で、でも、このままじゃ、ケントくんたちが」

「それを承知でケントくんはマーナちゃんを逃がそうとしてくれたの。」

「・・・」

「『あとは任せておけ』っていうことよ。男子ってね、日頃は情けないし、バカだし、デリカシーないけど、でも、ここ一番ってときにはすごく頑張ってくれたりもするんだから。」

「・・・」

「わたしは、そんなケントくんたち男子を信頼するわ。マーナちゃん、マーナちゃんもあの男子たちの頑張りを信じてあげなきゃダメでしょ!!」

「・・・」

・・・
・・・
そうなのか
・・・
マーナちゃんは黙って頷くと、ピピちゃんたちクラスメートを肩に乗せたまま、そーっと、静かに、気配を消して、騒乱状態のポートリリパットスタジアムを後にした。


小学校へ行こう!・続く