小学校へ行こう!(3)
by JUNKMAN

・・・
・・・
・・・
わたしは
・・・
みんなとは
・・・
違う
・・・
・・・
・・・
みんなと一緒にいるなんて
無理
・・・
・・・
うん
みんなと一緒に学校で過ごしたのは楽しかったよ
あんなに居心地の良い思いをしたことは初めて
これからもみんなと一緒にいられたらどれだけ嬉しいことか
これからもみんなと一緒にいられたらどんなに楽しいことか
・・・
だから一緒にいたいけど
・・・
それではみんなに迷惑が掛かってしまう
わたしに悪気なんかなくても
みんなに迷惑がかかってしまう
・・・
・・・
・・・
だから無理
・・・
これ以上みんなと一緒に小学校にいることは
無理
・・・
・・・
・・・
マーナちゃんは王宮内の自室で、明かりもつけず、膝を抱えて、じっと蹲まっていた
我慢しても、我慢しても、涙がぽたぽた落ちてきた
リリパットにやって来てから6年
今まで泣いたことなんかない頑張り屋さんだったのに
・・・
・・・
・・・

*****

幸いにも、あの試合後の大騒ぎによるけが人はいなかったそうだ。
それでも怒りの収まらないポートリリパットFCジュニアチームは、この試合を連盟に提訴した。連盟は双方の関係者に細かい事情聴取を行う予定だとか。裁定が下るのはいつになることやら。まだまだこの騒ぎが収拾される目途は立たなかった。
・・・
・・・
一方
試合翌日の月曜日、マーナちゃんは小学校を欠席した。
その翌日の火曜日も
更にその翌日の水曜日も
マーナちゃんは学校に姿を見せなかった。

*****

「・・・マーナさま、お客様でございます。」

執事のナボコフが取り次いだ。
マーナちゃんは相変わらず自室に引きこもったまま一人でぽつんと蹲っている。

「お客様って・・・誰?」

「小学校のクラスメートの皆様でございます。」

「・・・」

マーナちゃんは俯いたままだ。
ナボコフが改めて訊ね返ず。

「・・・お通ししても、よろしいでしょうか?」

「・・・帰ってもらって」

「はい?」

「わたし・・・もう小学校には行けない・・・クラスメートのみんなに会ったら、いよいよ辛くなるばかりだわ・・・」

「何を言ってるんだ!!!」

ブロブディンナグ人ばりの大声を上げたのはケントくんである。執事のナボコフに取り次がれる前に勝手にずかずかと部屋に入ってきてしまったのだ。

「学校は休んじゃいけないんだぞ!」

「そうよマーナちゃん、みんな心配して待ってるわ。早く学校に戻ってきて。」

ケントくんの後にピピちゃん、そしてその後にぞろぞろとクラスメートたちが続いてきた。執事のナボコフがまともに入室を止めているとは思えなかった。

「マーナちゃん、帰ってきて」

「帰ってこいよ」

「なあ、一緒に学校に戻ろう」

「戻ってきて、お願い!」

クラスメートたちは口々に訴える。それでもマーナちゃんは頑なだ。

「・・・ダメよ。あの大切なサッカーの試合を、わたしは不注意で台無しにしてしまった。わたしが悪かったの。わたしなんか、いなきゃよかったんだわ・・・」

「トゥヌガート、お前はちっとも悪くないぞ。」

ケントくんはきっぱりと言い切る。

「大きな声を出すのはサッカー観戦では当たり前のことだ。」

「・・・」

「お前は当たり前にサッカーの試合を楽しんだだけだ。誰もそれを責めることはできない。」

「でも・・・当たり間のことをしただけでみんなには凄い迷惑がかかっちゃった。それはわたしがみんなと違うから。わたしが普通じゃないから。普通じゃないわたしが、普通のみんなと一緒になろうとしたのが間違いだったのよ!」

マーナちゃんは俯いたまま首を大きく横に振った。
ケントくんが一歩前に出て、ゆっくりと、でも今までより厳しい口調で問い質した。

「・・・トゥヌガート、『普通』って、なんだよ?」

「え?」

「僕らが日頃経験することを日頃経験するようにしか行わないことが『普通』だとすれば、『普通』なことなんてどれだけ繰り返しても意味はないし、面白くもない。」

「・・・」

「そしていつか僕らは『普通』な奴らだけで凝り固まって小さな集団になり、第三者の目で見れば『普通じゃない』集団になってしまうだろう。」

「・・・」

「だから日頃の仲間には、いや日頃の仲間にこそ、『普通じゃない』やつが必要なんだ。」

「・・・」

「トゥヌガート、お前が自分のことを『普通じゃない』って考えるのは自由だ。勝手に自分のことを『普通じゃない』と思っていればいいさ。でも、それは『僕らの仲間になれない』っていう理由にはならないぞ。」

「!」

「ねえマーナちゃん。わたしはメガネをかけているから、他のお友達とは違うわ。」

今度はピピちゃんが一歩前に踏み出した。

「じゃ、わたしは他のみんなと違うからお友達にはなれないの?」

「そ・・・そんなことないわ。ピピちゃんなんて、ただメガネをかけているだけだし。」

「そうでしょ?そうよ、わたしはただメガネをかけているだけなのよ。じゃ、マーナちゃんだって、ただ身体が大きいだけじゃないの!」

「それはちょっと、状況が違うんじゃ・・・」

「違わないわ!!!どっちも些細な問題よ!!!」

ピピちゃんは容赦なく畳み掛ける。

「マーナちゃんはわたしたちにとってかけがえのないお友達よ!マーナちゃんのいないクラスなんてつまらない。お願い、戻ってきて!」

「そうだ、帰ってこい!」

「いないと寂しいよ」

「一緒に、小学校へ行こう!」

口々に復帰を促すクラスメートたちの声。
マーナちゃんもついに顔を上げた。

「・・・ありがとう・・・みんなの気持ちは良くわかったわ・・・とっても嬉しい・・・でも」

「でも?」

「クラスメートのみんなはともかく・・・ポートリリパットFCジュニアのみんなは、きっと許してくれないわ・・・」

マーナちゃんはまた俯いて溜息をつく。
クラスメートもさすがにこれには反論できない。
・・・
・・・
・・・
沈黙を破って、マーナちゃんが言葉を絞り出す。

「・・・だから、やっぱり、わたしはリリパットの小学校に戻るべきではな・・・」

「おい、俺たちをなめるなよ。」

野太い声がマーナちゃんの言葉を遮った。

*****

慌てて声の方向を振り返る。そこにはあの赤いユニフォームに身を包んだポートリリパットFCジュニアのイレブンが立っていた。執事のナボコフはこんな得体のしれない連中の入室まで平気で許可していたらしい。
一歩前に踏み出して、コマネズミが甲高い声で話し始めた。

「・・・僕たちのことを、過ぎた試合についていつまでも女々しく言い立ててる情けない連中だと思っているのなら心外だなあ。」

「ああ。どういうつもりで言ったのかは知らないが、ケントがスタジアムで言ってたことには俺も同意するぜ。」

野太い声で噛みしめるよう口にしたのはあのPKを失敗したゴリラだった。

「サポーターの声なんかで蹴り損なったのは、俺のメンタルが弱かったからだ。それも含め、俺たちは力が足りなかった。だから負けた。ただ、それだけだ。」

コマネズミもさばさばした表情で言葉を続ける。

「試合終了直前に僕が倒されたファウルも当然のプレーだよ。もし僕がDFだったとしてもレッドカード覚悟で削りに行くだろう。それをかわす技術が僕にはなかったんだ。」

「・・・」

「もちろん悔しいよ。だって僕たちも優勝を目指していたんだから。」

「ああ、優勝を逃したのは悔しい。でもこの悔しさをはらす方法は、次の試合でお前たちを倒すことしかない。秋の国王杯トーナメントでは絶対に勝つ。だから今俺たちがやるべきことは猛練習だけだ。」

「そう、僕たちは練習に専念したいんだ。それ以外の騒ぎに巻き込まれるのはまっぴらごめんさ。」

「それでサポーターたちに申し入れてきた。余計な騒ぎはやめてくれ、って。」

「え?」

「彼らも納得してくれたよ。連盟への提訴は取り下げる、って。」

「というわけで、俺たちには恨みも何もない。だからこんな下らない話はもうやめだ。」

ゴリラがケントくんに歩み寄って右手を差し出した。
二人でぎゅっと手を握る。
握手を交わしながら、ゴリラはマーナちゃんを横目で見上げた。

「・・・おい、そこのでけえ女子、そんなわけでこの件は終わったんだ。こんな終わったことで小学校に来なくなるのは、ただのお前のサボりだぜ。」

あはははははははははは
赤いユニフォームに身を包んだポートリリパットFCジュニアのイレブンは、みんな一斉に腹を抱えて笑い転げた。
マーナちゃんは涙目になった。

「・・・ありがとう・・・みんな、本当に、ありがとう・・・」

「ふん、お前から礼を言われる覚えはないよ。」

ふてぶてしいそぶりのゴリラの頭をぺしぺし叩きながら、コマネズミが言葉を継いだ。

「ごめんよ、どーにもこいつは口が悪いんだ。女の子に対して失礼だよね。」

あはははははははは
赤いユニフォームに身を包んだポートリリパットFCジュニアのイレブンは、またみんな一斉に腹を抱えて笑い転げた。

「・・・ありがとう」

マーナちゃんは両手で顔を覆って言葉を詰まらせる。

「そんなことよりケント・・・」

コマネズミに頭を叩かれたゴリラは、真面目な顔をしてケントくんに向き直った。

「・・・この次こそは、お前の守るゴールに、すんごいシュートをぶち込んでやるからな!」

「の、望むところだ。返り討ちにしてやる。」

「ふふふ、楽しみだぜ。秋のトーナメントでは、俺たちにあたるまで絶対に負けるなよ。」

ゴリラはケントくんとグータッチしながら不敵に笑った。その隣からコマネズミが口を挟む。

「あと、そこの大きな君・・・」

「え?わ、わたし・・・?」

またしても急に振られたマーナちゃんは慌てて自分を指差して確認した。

「そう、君のことだ。」

コマネズミはマーナちゃんを見上げながらにっこりと微笑んだ。

「次の試合も是非とも見に来てくれよ。待ってるぜ。もう君の声くらいで慌てたりはしないから。いや、そもそも次の試合では君は声を出せないと思うけど。」

「え?」

「だって、僕らは君のチームをボコボコにして、サポーターを丸ごと黙らせてやる予定だから・・・」

「こいつ!」

ゴリラがすかさずコマネズミの頭を小突き返した。

「お前だって十分失礼なくらいに口が悪いじゃねーか!」

あははははははははははははは
今度はポートリリパットFCジュニアのイレブンだけでなく、6年1組のクラスメートみんなも一緒になって笑い転げた。
もちろん、マーナちゃんも一緒に。

*****

クラスメートたちがポートリリパットFCジュニアのイレブンと仲良く一緒に帰ろうとすると、マーナちゃんは最後尾のケントくんをこっそり呼び止めた。

「・・・ねえ」

「なんだよ?」

ケントくんは立ち止まって振り返る。

「・・・あのポートリリパットFCジュニアのみんなをここに呼んできてくれたのは・・・ケントくんでしょ?」

ケントくんは目を泳がせた。

「し、知らねーよ!あいつらが勝手にここに来たんだよ!」

「やっぱ、そーなんだ・・・」

「し、知らない、って、いってるだろ!」

微笑むマーナちゃんに対して、ケントくんはきまり悪そうにそっぽを向く

「そんなことはどーでもいいけどさ、せっかくあいつらもああ言ってくれたことだし、お前、明日からちゃんと小学校に来いよ!」

「うん」

マーナちゃんはこっくり頷いた。ケントくんは、それでもまだ何か言い足りなそうにマーナちゃんの方に向き直った。

「そ、それだけじゃなくてさ・・・」

「・・・」

「・・・次の試合も、ちゃんと、見に・・・来いよ。」

「え?」

「・・・俺もさ、トゥヌガートが応援してくれたら・・・なんだかちょっと、いつもより・・・やるぞ!っていう気持ちが・・・」

「!」

「ちょ、ちょっとだぞ!ちょっとだけだぞ!ほんのちょっとだけだからな!!!勘違いするなよ!!!」

ケントくんは顔を真っ赤にしながら弁解した。
マーナちゃんはにっこり笑いながら頷く。

「わかった。行くわ。必ず行く!」

「お、おう」

「そのかわり、わたしのお願いもきいて。」

「ん?」

「その『トゥヌガート』って呼び方、やめて。」

「え?」

ケント君は首をひねった。

「トゥヌガートはトゥヌガートだろ?」

マーナちゃんは勢い良く首を横に振る。

「マーナ・・・って、呼んで。」

マーナちゃんは下を向きながらぼそっと呟いた。

「だって、名字じゃ、堅苦しいでしょ?」

「・・・」

「わたしたち」

「・・・」

「クラスメートなんだから・・・」

「そうだな!」

ケントくんは妙に勢い良く頷いた。

「確かに俺たちはクラスメートだからな。わかったよ。じゃ、これからはお前のこと『マーナ』って呼んでやるから。」

「ありがとう、ケントくん」

「じゃ、マーナ、また明日、学校でな!」

「うんケントくん、また明日ね!」

ケントくんは片手をあげると、マーナちゃんに背を向けて、先を行くクラスメートたちの集団を小走りに追いかけた。

*****

みんなが帰った後、一人で部屋に残ったマーナちゃんは、ドロシーの残していった鏡台の前で頬杖を突きながら鏡に映った自分を見つめていた。
・・・
あれ?
このポーズ、確かドロシーおねえちゃまの定番だったわ
・・・
もしかして、これって大人になるために必要なプロセスなのかしら?
・・・
・・・
・・・
ぼんやり考える。
ドロシーおねえちゃまの魔法を使えば、わたしもクラスメートのみんなと同じ大きさになれる。
一緒に校舎の中に入って、一緒に教室でお勉強して、一緒に体育館で遊ぶこともできる。
それ以外のことも
・・・
・・・
でも
できないこともあるらしい。
いちばん大切な男の子とだけは
・・・
チュウしちゃいけないんだって
・・・
・・・
そんなこと絶対ないし、500%ありえないし、想像するだけでも馬鹿馬鹿しいんだけど
でも
もしかして
もしかしてよ
・・・
それがケントくんだったらどうしよ?
・・・
・・・
あらら、わたしってば、なんてありえないこと考えてるのかしら?
全然そんなはずないし、可能性もないし、そもそも思ってもみないけど
・・・
でも
それでもよ
もしかして
もしかして
ケントくんと、どーしてもチュウしなきゃならない
ってことになったとしたら
わたしはブロブディンナグ人サイズのままリリパット人のケントくんにチュウするわけよね
・・・
・・・
ありえない
ありえないんだけど
それって
どんな感じなんだろう?
・・・
・・・
マーナちゃんは目を瞑った。
まさかのときのための練習だ。
鏡台の上にケントくんが立っていると考えれば、うーん、このくらいの位置かな?
目を瞑ったまま、背中を丸め、首をすくめ、ケントくんが立っているはずの位置に、ゆっくりと尖らせた唇を近づける。
吹き飛ばしてしまわないよう、息を潜め、ゆっくり、ゆっくり、慎重に
・・・
あ!
触れた!
ケントくんの身体だ!
わたしの唇に身体を預けている
ぴったりと全身をわたしの唇に寄せ付けている
・・・
・・・
うっとり
・・・
これがマーナのファーストキスなんだ
・・・
・・・

「は!」

マーナちゃんは我に帰った。
こんなところに都合良くケントくんが立っているはずないじゃないの。
でも唇は確かに誰かに触れた。
触れたどころかその誰かはわたしの唇にぴったり身体をしなだり寄せてきた。
誰?
こんな所に立っている可能性のある人は
・・・
・・・

「ナボコフ!!!」

鏡台の上には執事のナボコフが恍惚の表情を浮かべて立っていた。

「・・・マーナ様・・・急にそんなことをなさるなんて・・・照れちゃうじゃないですか。」

「お、お前・・・」

「・・・マーナ様の初めてのお相手に抜擢していただくとは、実に・・・光栄でございます・・・♡」

ナボコフは髭面をぽっと紅潮させながら余韻に浸っている。
・・・
マーナちゃんは目の前が真っ暗になった。
なんということだ!!!
大事な大事なファーストキスを、よりによってこんな気色悪いブレフスキュ人ロリコン髭メガネの中年オヤジに奪われてしまうとは!!!
・・・
・・・

「きゃあああああああああああああああ!!!」

王宮に涙目になったマーナちゃんの悲しい絶叫が響き渡った。

*****

「行ってまいりまーす!」

今朝もマーナちゃんは紅色のランドセルを背負って黄色い帽子をかぶり、元気に小学校へ出かけて行く。その様子を王宮でローラ王妃さまは眩しく見送った。

「マーナ、楽しそね。」

誰よりも朝早くから王宮に出勤していたあの貧相な教育大臣は、こっくりと頷きながら、例によって棒読み口調で答えた。

「・・・学校教育の効果があがって参りました。」

この教育大臣は、リリパットの閣僚には珍しく、政治家でも官僚くずれでもなかった。長年実際に教鞭を揮ってきた現場出身の叩き上げである。学校教育とは何であるか、学校教育とはどうあるべきかについて、誰よりも悩み、苦しみ、考え、実践してきたプロ中のプロだったのだ。

「・・・大人になると、自分の積み上げてきた妙な常識のようなものが邪魔をして、言い訳ばかりが上手くなり、偏見や思い込みの壁を乗り越えることができなくなります。その点、無垢な子供たちは柔軟です。子供たちは、見た目や考え方の違う友達に出会っても、物怖じせず、自然に交流して、お互いの心の絆を深めていくことができます。大人が教えてできるものではありません。学校は、きちんと出会いの場を提供すれば良いのです。そうすれば、子供たちは、わが国の掲げた教育目標を、自分の力で、達成して行くのです。」

相変わらず訥々と棒読みするような教育大臣の言葉に、ローラ王妃さまは、黙って、しかし、今度は大きく頷くのであった。

*****

「・・・リリパット島が浮かぶこの大海原は、太平洋という地球最大の海です。」

屋上で、先生は目の前の大洋を指差す。
クラスメートたちもその果てしのない海を見つめた。

「この広い太平洋に面するいわゆるパシフィック・リムの国々は、我がリリパットも含め、なんと45カ国もあるのですよ。」

「ええ?そんなにあるんですか?」

「先生、全部挙げてみてください!」

「うう・・・それはよしとして」

「あ!ごまかした!」

「先生!はぐらかさないでください!」

あははははははははははは
・・・
陽気な笑い声がこだまする。
今日は太平洋の国々についてお勉強するため、わざわざ学校をこの海のそばまで持ってきたのだ。もちろん校舎をマーナちゃんの掌に載せての移動である。リリパットの新たな名物「手のり小学校」であった。
・・・
先生の授業は続く

「・・・この国々は、離ればなれでいるようで、実は海を挟んだだけのお隣さんです。困ったときはお互いに助け合わなければなりません。」

「はあい」

「パシフィック・リムの国々だけではありませんよ。世界は広い。そこに住む様々な国の人々の、見た目や、考え方が違ってくるのは当然です。」

「・・・」

「しかしその広い世界の国々は、同時に地球という一つの小さな星の中で肩を寄せ合って生きている仲間でもあります。違いはあっても、だからといって怖れたり、蔑んだり、あるいは一方的におもねったりすることがあってはなりません。心を通わせ、力を合わせ、仲良く一緒に生きていかなければならないのです。」

「・・・」

「そういうことができる人たちを『国際人』と呼びます。わかりましたか?」

「はああああああい!」

・・・
マーナちゃんは、校舎を掌の上に載せながら、ぼんやりと海を見ていた。
申し訳ないけど、先生のお話もちょっと上の空
・・・
・・・
・・・
楽しいな
クラスメートと一緒にいるのって♡
・・・
空を仰ぐ
爽やかな潮風が頬を撫でる
眩しい太陽の光が、わたしたちみんなを、暖かく包み込んでいる
・・・
思わず口に出してしまった

「わたし・・・小学校が、だーい好き♡」


小学校へ行こう!・終