わたしのほしかったもの
By JUNKAMAN

最終章 わたしのほしかったもの

バタン!
急に扉が開いたので、ドロシーは慌てて振り返った。
「!」
断りもなくずかずかとドロシーの居室に入ってきたのはダークスーツに身を包んだ口ひげも凛々しい眼鏡の中年男性。鍛え上げられた身体は身長2ブロブディンナグ・メートル、体重120ブロブディンナグ・キログラムを超え、巨人ぞろいのブロブディンナグでもなかなかお目にかかれないプロレスラーのような体格だ。この大男こそがドロシーのパパにして現ブロブディンナグ国石油大臣、かつブロブディンナグ国きっての大財閥マコバンコンツェルンの総帥でもあるブランドン・ダッカー・マコバン氏=通称マコバン・パパである。
「パ、パパ・・・どうしてここに?」
マコバン・パパはドロシーの問いに答えようともせず、ぶっきらぼうに大声を出した。
「ドロシー、帰るぞ!」
いうなりマコバン・パパはドロシーの右腕を掴んで引きずり出す。もちろんドロシーは首を横に振って抵抗した。
「パ、パパ、説明が遅れちゃったけど、わたし、もうブロブディンナグには帰れないの。」
「いいから帰るぞ!」
「パパ、聞いて!わたし、ブレフスキュ国王陛下の養女にしていただいたの。だから今はブレフスキュ王室の一員なのよ!」
「くだらん!帰るぞ!」
マコバン・パパはまるで聞く耳を持たない。仕方がない。計画を正直に打ち明けよう。どうせパパには今後ブロブディンナグ国内での工作のため、お金をたくさん出してもらおうと思っていたところだし・・・
「パパ、聞いて。これには深いわけがあるの。わたしがブレフスキュ国王室の一員になれば、いずれリリパットやブレフスキュの王位に就いて、ゆくゆくはブロブディンナグの王位を手にすることだって夢じゃないのよ!」
「愚か者!」
ドロシーを居間まで引きずりだしたマコバン・パパは、手を放して一喝した。
「お前の動向などお前から聞かなくても逐一耳に入っている。お前がブレフスキュの王族入りするためにいろいろと策謀を巡らせていたことも全て知っている。そしてお前のことだから晴れて王族入りを果たせばいずれは王位を、しかもブレフスキュばかりでなく三国全ての王権を狙ってくることなど、全てまるっとお見通しだ!」
いかつい身体に似ずテレビっ子のマコバン・パパは、聞いたことあるフレーズを並べてドロシーを怒鳴りつける。ドロシーは呆然とした。
「・・・どうして?どうしてパパはわたしの動向を逐一把握していたの?どうしてそんなことができたの?」
ドロシーは傍らで黙って立ちすくむモモさんを睨み付けた。
「モモ・・・お前なの?・・・お前が、スパイだったの?」
モモさんは口をつぐんだまま、うつむき加減に、しかし、しっかりと頷いた。
「モモ!どうして?どうして私を裏切ったの?お前はずっとわたしに忠誠を誓っていたんじゃなかったの?」
「それは違う。」
マコバン・パパは首を横に振った。
「モモはお前の使用人ではない。マコバン家の使用人だ。そもそもリリパット王宮にモモが派遣されたのも、お前がマコバン家に禍を成す言動をしないよう監視する目的でパパがねじ込んだからなのだ。」
「でもパパ」
ドロシーは今度はマコバン・パパの方に向き直る。
「私がブレフスキュの王室の一員になって、そしていずれはリリパット‐ブロブディンナグ‐ブレフスキュ連邦王国の女帝になることは、マコバン家にとって良いことなんじゃないの?」
「だからお前はまだ子供なのだ。」
またしてもマコバン・パパは首を横に振った。表情はきわめて険しい。
「マコバン家はブロブディンナグで1000年以上も続く名家だ。どうしてこれだけ長い期間にわたって権勢を保ってこられたのかわかるか?」
「え?」
「マコバン家が栄え続けている間に王朝は2回も交代している。逆に言えば、王朝が交代してもマコバン家は生き残ってきたのだ。動乱期に風を読み、嵐を乗り切るしたたかさがあったことは確かだろう。しかしそれだけではない。平時にあっても、マコバン家は生き延びるための道から踏み外れることがないよう、自らを律し、努力し続けてきた。だからこそ動乱を凌ぎ1000年を超える長きにわたって繁栄を続けることができたのだ。」
「・・・その、『生き延びるための道』って?」
「決してナンバーワンにならないことだ。」
ドロシーは目を丸くした。ナンバーワンにならない?それって、わざとのし上がらない、ってこと?ありえない。ドロシーの哲学ではありえない。
「王権はいずれ簒奪される。権力を簒奪された王家にはもはや滅亡しか道が残されていない。だからマコバン家は決して王位を望まないのだ。」
「・・・」
「王位だけではない。宰相も好ましくない。目立つ立場になれば追い落とされる危険がある。お前も今回のブレフスキュの政変を見てわかっただろう。主役は危険なのだ。だから、きわめて重要で替えのきかない脇役の位置をキープする。それがマコバン家のスタンスだ。」
「・・・」
「主役に躍り出ることの危うさを悟ったわがマコバン一族は、中世には呪術を司る家となった。ドロシー、お前は我が家の応接間に飾ってあるあの三角帽子の意味がわかるか?」
「?」
「あれは我がマコバン一族がもともとは呪術師であった証だ。呪術師は政治の表舞台には出ない。権力は握らない。しかし呪術を操る我らを誰も敵には回したくない。こうしてマコバン家は表に立たないながらも政権内に確固たる存在基盤を築いた。王朝が変わっても、マコバン一族は呪術師として王宮に仕え続けることができた。この教えを今日にまで伝えるのがあの三角帽子だ。」
「・・・」
「近世になって人々が呪術に懐疑的になると、マコバン家は呪術で培った化学的知識を基に鉱工業に進出した。そしていち早く富を蓄え、そしてその富を政府や社会に有効に還元することで発言権を確保した。その延長として、今日ではブロブディンナグ半島内の石油利権を全て我が一族が牛耳っている。」
「・・・」
「自らが権力を握るのではなく、全ての権力者に我々を味方にしたいと思わせる。そうすれば、たとえ王朝や政権が変わってもマコバン家は滅びることがない。そのために、マコバン家は表に立つことを選ばず、地道に圧倒的な実利・実務の能力を磨いてきたのだ。ドロシーよ、わかったか。これが我らマコバン家1000年繁栄の秘密なのだ。」
・・・知らなかった。わがマコバン家にそんな家訓があったなんて。
「お前のパパは、その栄えあるマコバン家の第71代当主だ。何にも優先して、このマコバン家の
繁栄を守らなければならない。」
ドロシーは涙目になって訊ねた。
「・・・ということは、わたしたちマコバン家の娘たちも、みんなこの家が繁栄するための道具として使われるのね?」
「もちろんだ。」
「じゃ、わたしも、王位を狙うのではなく、お姉様たちみたいに政治の道具としてどこかの貴族のお嫁にやられてしまうの?」
「それは違う。」
マコバン・パパは厳しい表情で頭を振った。
「お前は貴族の嫁にはやらん。平民に嫁がせる。」
「平民!」
ドロシーの脳髄が電撃で撃たれた。平民…平民…平民・・・その汚らわしい言葉がドロシーの頭の中におわんおわんとエコーがかかって響き渡る。
「う・・・嘘でしょ?」
「嘘ではない。」
「嫌よ!嫌よ!パパ!ドロシーは貧乏ったらしい平民になんか成り下がるのは絶対にイヤ!それに、わたしが平民に降嫁したって、マコバン家にはちっとも良いことがないじゃない!」
「お前はマコバン家のために平民に嫁ぐのだ。」
マコバン・パパはあくまでも冷徹に言い放つ。
「お前の嫁ぎ先は石油労組の若手幹部候補生だ。平民だが頭は切れる。野心もある。前途は有望だ。」
「どうして?どうしてそんな平民なんかのところに?」
「ブロブディンナグの社会体制は古い。」
マコバン・パパは吐き捨てた。
「前時代的な階級社会がいまだに健在だ。しかも石油産業が発達してから貧富の差が拡大傾向にある。いつプロレタリア革命が起きても不思議ではない。そしてもしも革命が起きれば、王家だけでなく、財閥も解体されてしまうだろう。」
「それではマコバン財閥も・・・」
「解体される危険が大きい。しかし、そんな中でもわが一族は生き残らねばならないのだ。生き残って繁栄を続けなければならないのだ。そのために、労組の幹部にも太いコネクションが必要だ。」
どうやらマコバン・パパは本気のようだ。このままではドロシーは女帝になるどころではない、平民にされてしまう。平民・・・平民・・・眩暈がしてきた。
「い、嫌よ!嫌!わたしはどうしても嫌!」
「いや、平民に嫁いで平民になれ。」
「嫌!」
「それがお前の務めだ。」
「嫌だったら絶対に嫌!!」
「・・・ふーむ、聞き分けがないな・・・それでは致し方ない。」
マコバン・パパはモモに目配せした。モモさんは黙って頷いた。その様子を見てドロシーの顔面が蒼白になった。
「・・・お仕置きを、する。」
「キャー!」
逃げ出したドロシーの行く手に素早くモモが立ちはだかる。
「モモ、どいて!」
「いいえお嬢様、ここは我慢のしどころでございます。」
モモさんと押し問答しているうちに、追いついたマコバン・パパが片手でドロシーの首を鷲掴みにして、易々とその場に這い蹲らせた。
「キャー!」
マコバン・パパはどっかと胡座をかいて、ドロシーをその膝の上で腹這いにさせた。ドロシーは必死になってじたばたと抵抗するが、プロレスラーのような体格のマコバン・パパには全く効果がない。マコバン・パパは無表情のまま腹這いになったドロシーのスカートをまくり上げると、片手でパンツをぐいっと引きずり下ろした。
「キャー!キャー!キャー!」
「お嬢様、我慢でございます!」
「キャー!キャー!キャー!」
「いくぞー!!」
ばしーん!
マコバン・パパは剥き出しになったドロシーのお尻を平手で叩いた。
「キャー!痛—い!」
「まだまだ!」
「お嬢様、我慢でございます!」
ばしーん!
「キャー!痛—い!」
「まだまだ!」
「お嬢様、我慢でございます!」
マコバン・パパの平手打ちは、その一発一発がブレフスキュ軍を師団レベルで全滅させるド迫力である。そんな超弩級の衝撃が、ドロシーの剥き出しのお尻にこれでもか、これでもか、と炸裂していく。ぷりんとした可愛いお尻は見る見る赤くなっていった。
ばしーん!
「キャー!痛—い!」
「まだまだ!」
「お嬢様、我慢でございます!」
ばしーん!
「キャー!痛—い!」
「まだまだ!」
「お嬢様、我慢でございます!」
サトミとおもちゃタウンのブレフスキュ人たちは、このいつ終わるとも知れない前代未聞の超巨大おしりぺんぺんショーを居間のテーブルの上から呆然と眺めていた。ドロシーが痛さと恥ずかしさで涙目になっていたのは当然だが、そのおしりをぺんぺんと叩くマコバン・パパの表情が心なしか少し嬉しそうにも見えたことは否めない事実であった。

*****

マコバン家はブロブディンナグ国内に隠然たる勢力を持っている。その総帥ともなればたとえブロブディンナグ王家であろうとも表だってその意に反対することは難しい。ましてやブレフスキュ王家など無力なものだ。そんなわけでマコバン・パパからの強硬な申し出によってブレフスキュ国王陛下とドロシーとの養子縁組の話はここにきて急にご破算となってしまったのである。そうなると既に防衛大臣兼国家公安委員長の職を辞していたドロシーがブレフスキュにとどまる理由はない。ただちにブロブディンナグ本国に帰国することになってしまった。もちろん、これもマコバン・パパの主張どおりである。なお、その後のブレフスキュ島の治安はブロブディンナグ本島から交代で派遣されてくる本物の警察官によって維持される見込みとなったとのことである。
タクラム内務大臣にはこの養子縁組騒ぎの責任を問う声が相次ぎ、あっけなく失脚してしまった。軟禁されていたポッチス前内務大臣はただちに前職に復帰し、そしてブレフスキュ政府からタクラム派は一掃されたのである。もちろん、シェビッキ警察庁長官も解任された。
もっとも、たとえ警察庁長官を解任されなかったにしても、ドロシーが去ってしまうブレフスキュにシェビッキやシェビッキ率いる荒くれ男たちが留まるとはとても考えられなかった。彼らはドロシーに直談判し、例のおもちゃタウンごと彼ら全員をブロブディンナグに持ち帰ってもらうことになった。ブレフスキュ人たちにとっては生命の安全をも脅かされかねない危険な選択である。そんな危険も顧みないほど彼らにとってドロシーは絶対の存在となっていたのである。もちろん、ドロシーがブレフスキュを去るとなればモモさんも居残る理由はない。やはりドロシーと一緒に帰国して、マコバン家でのお仕事に復帰することになった。こうしてブレフスキュのサンゴ礁外に停泊していた船内のメンバーの大半は、ドロシーと共にブロブディンナグに渡ることとなったのである。
問題はサトミである。この連邦国家に国籍のないサトミはブロブディンナグに渡航することができない。そもそも身柄を預かるドロシーが国家公安委員長を解任されたいまとなっては、ブロブディンナグどころかこのブレフスキュに居留する権利すら怪しくなってしまった。
ではサトミの国籍はどこか?はっきりとはわからない。ただ、戸籍は残されていないものの両親が日本人であったという証言もあり、日本政府が人道的な見地からこの息もできないような事態からの救済に乗り出すこととなった。

*****

今日もコップルはサトミのドールハウスを訪ねている。テーブルの上から見上げるサトミの表情は硬い。
「日本に・・・行くのですか?」
サトミはこくりと頷いた。もう例のお人形のようなメイド服は着ていない。ありきたりなTシャツとジーンズ。日本に帰ればどこにでもいる、普通の18歳の女の子の姿だ。
「やっと故国に帰れるのですね。おめでとうございます。」
「ありがとうございます。」
サトミはうつむきながら悲しそうに頷いた。
「でも、故国といっても、私にとっては初めての土地なのです。知っている人がいるわけでもないし。」
コップルを見つめる瞳が少し潤む。
「わたし、このドロシー様のお部屋の生活が大好きでした。」
サトミが顔を上げる。
「ドロシー様も、モモさんも、シェビッキさんも、他のブレフスキュの皆さんも、みんなわたしに良くして下さった。皆さんと一緒に過ごせて本当に幸せでした。そして・・・」
「そして?」
サトミがコップルの前に両手を差し出す。コップルがひらりと飛び乗ると、サトミはその掌を自分の眼に触れるほど近くにまで寄せた。
「・・・そして、誰よりも・・・コップルさんに逢えて、嬉しかった。」
そこまで言い切ると、サトミは伏し目がちになった。
「日本に着いたら、わたし、施設に入所するのです。」
「施設ですか?」
「・・・はい。」
天涯孤独のサトミには、日本に帰っても頼るべき家族や親族はいない。しかも未成年である。そんなサトミがすぐに働きに出て自立することは道義的に許されない。いや、本当は道義的でなく、お役所の面子的に許されない。だからサトミはアリバイ作りのために施設に預けられ、そして成人した時点で、たった一人、社会に放り投げられる。
「わたし・・・また独りぼっちになってしまう。独りぼっちになるために日本に行くのです。」
サトミの両眼から涙があふれ出た。いたたまれなくなったコップルはこほんと咳払いした。
「・・・要するに、あなたの身元を預かる人がいないからそういう扱いになってしまうのですね。」
「はい。」
「そうですか・・・」
コップルはそこで一息おくと、サトミに意外な事実を告げた。
「・・・実は、僕も日本に行くことに決めました。」
「え?」
コップルは決して厳密にはタクラム一派だったわけではない。例のポッチス内務大臣の身柄拘束事件も、実はシェビッキに白羽の矢が立ったのはその前にコップルがその実行を拒んだからだ。正義感が強く目の前の小さな利得に左右されないコップルは、そういう意味では扱いにくい人物だった。しかし世間の目は違う。あれだけタクラム前長官と関わりが深かったからには、その息がかかった人物であると見なされることは自然の流れだ。そんなわけで、前長官失脚の後はブレフスキュ警察内でも何かと風当たりが強い。コップルは閉塞感を覚えていた。
そこで思い立って、今日、サトミの居室を訪ねる前にまずブレフスキュ国家警察に辞表を提出してきた。そしてその足で外務省の門を叩いた。リリパット・ブロブディンナグ・ブレフスキュ連邦は日本と親密な外交関係を結んでいる。しかしながら、在日リリパット・ブロブディンナグ・ブレフスキュ連邦大使館は慢性的に職員不足に悩まされていた。当たり前だ。誰が好んで巨人の国で惨めな小人の暮らしをしたいと思うものか。かといってブロブディンナグ人が配属されるのは日本の方からお断り。そんな状況の中、コップルのように身元の確かな青年が自ら在日大使館勤務を希望して申し出たので外務省は二つ返事で採用を決めたのだ。
「日本の大使館で働くことになりました。身分や収入は問題ありません。」
「まあ・・・」
「でも、日本は僕にとっては危険な巨人の国です。日々の暮らしはとても大変だ。日本人の誰かが一緒に住んで、僕の生活をアシストしてくれなければ困るのです。」
「・・・」
「サトミさん、日本で僕と一緒に暮らしてください。僕には君の助けが必要です。そのかわり、僕は成人だから、君と一緒に暮らせば君の身元保証人にはなれます。」
「え!・・・そ、そんなこと・・・」
「法的に問題があるならば、法的にも一緒になればよいでしょう。」
「それって・・・?」
「はい」
コップルは改めてサトミの瞳を見つめながら、ゆっくりと、しっかりと、言葉を続けた。
「サトミさん、僕と、結婚して下さい。」
「・・・」
サトミは生まれて初めて、いや、少なくとも海賊船で暮らし始めてからは初めて、自分の手にはない「ほしいもの」があったことに気が付いた。それがいま確かに手に入ると知ったときに、その「ほしかったもの」に初めて気が付いた。これからは愛とやすらぎに満ちた「家庭」の中で幸せに暮らしていける。
サトミの視界がぐしゃりと歪み、その両眼から、再び大粒の涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。その直撃を受けて、コップルの身体はずぶ濡れになった。

*****

ドロシーは不機嫌である。
当然だ。リリパット・ブロブディンナグ・ブレフスキュ連邦の統治者になるという計画が、ほんの手を伸ばせば届きそうなところからするりとこぼれ落ち、見果てぬ夢となってしまったのだ。
それどころではない。あろうことか平民に降嫁することが決定されてしまった。平民!あの侮蔑しまくっていた惨めな平民!サイテーの存在である哀れな平民!ドロシーには平民と奴隷と動物とサイズフェチの区別なんてつかない。そんな平民に自分の身が堕とされてしまうとは、とほほ・・・
悲しくて、悔しくて、腹立たしくて、居ても立ってもいられない。どこかで憂さ晴らしをしなければ気が済まない。
そうよ、それにつけても癪に障るのはあのおもちゃタウンのちびどもよ。砂粒みたいなブレフスキュの愚民たちにパンツを見せてやるまでならまあへっちゃら。でも、そのパンツをまくりあげられ、そのむき出しのおしりをぺんぺんされるところまで見られてしまったのは屈辱以外の何物でもないわ。あの連中、その一部始終をじーっと見ていたものね。なんつーデリカシーのなさ?思いっきり変態でしょ?もう生かしておけない!今までは手加減しててやったけど、もう容赦しない!みんな残酷にぐりぐりと踏みにじってやる!そーよ、思う存分に血なまぐさい弱いものイジメをしてやるわ!ついでにたわいもないロリギガほのぼのお笑い話だと思って油断していた読者たちにも目にもの見せてくれちゃうんだから!!!(JUNKMAN注:でもその路線変更でかえって興奮しちゃう読者の皆様だっているかもしれないんですけど・・・)
そんなドロシーの気持ちを知ってか知らずか、シェビッキがにこにこしながら挨拶に現れた。
「ドロシーさま、おはようございます。本日もご機嫌うるわ・・・」
「うるわしいわけないでしょ!!!」
ドロシーはぷーっと頬を膨らます。
「シェビッキ、状況を知ってるの?これで明るい顔ができるはずないじゃない!!!」
シェビッキはそれでもひるまない。
「ドロシーさま、どうせ鏡に向かって今後の謀略かなんかを得意になって一人語りしちゃったんでしょ?そんなフラッグ立てるからこういう目に遭っちゃうんです。自業自得ですよ。」
ぎゃふん。いきなりシェビッキからあまりに的確な指摘を受け、ドロシーは返す言葉もなかった。
「でもドロシーさま、落ち込むのはまだ早いですよ。」
「・・・まだ早いって・・・もうわたしはブレフスキュ国王陛下との養子縁組も解消されちゃったのよ。明日にはブロブディンナグに強制送還。そしていつかは平民の身に・・・あああ、全てが手遅れだわ・・・」
「まあまあまあ、お父様のお言葉を思い出して下さい。」
シェビッキはにやりと笑った。
「お父様はブロブディンナグにプロレタリア革命が起こる可能性も見越してドロシー様を組合幹部にお輿入れさせようとしたのですよね。」
「それが?」
「ならば話は簡単。革命を起こせばよいではないですか。」
ドロシーの目が点になった。
「か、革命って・・・」
「革命ですよ。世の中の王族とか貴族とかをみな殺しにしてプロレタリアの世の中にするんです。ま、実際には革命を指導した人物が新たな独裁者、つーか、実質的には新たな王様になるようなものですけどね。」
「新たな王様?」
「そうですよ。だからドロシーさまが革命を指導して成功すれば、ドロシーさまはブロブィンナグ人民民主主義共和国の総書記、あるいは主席、すなわち絶対指導者、すなわち女王様になれるというわけです。」
「どうして人民民主主義共和国なのに女王様なの?」
「それがプロレタリア革命というものです。」
「ふーん」
むくむくむくむく。ドロシーの胸の中で、一度はしぼんでしまった野望が再び膨らんできた。
「で、革命って簡単に言うけど、どうやって起こすつもり?」
「ドロシー様・・・」
シェビッキは自信満々に胸を張った。
「わたしたちはもともと反政府ゲリラですよ。革命についてはいささかのノウハウを持ちあわせております。」
「けど、ブレフスキュでは失敗したじゃない!」
「それはドロシー様のような大巨人が妨害したからですよ。でもブロブディンナグ人が反政府活動を行っても、それを力で握り潰せるほどもっと巨大な人間なんて他にはいないでしょ?」
「ん・・・ま、それはそうね。」
ふーむ、もしかしたら、わたしのほしかったものはまだわたしの手に入らないと決まったわけではないのか・・・うん、諦めてはいけないわ。諦めたらそこで終わり。ほしいものを手に入れるためにはネバーギブアップよ!ドロシーは鼻息荒く頷いた。
「で、具体的に、そのプロレタリア革命ってどうやって起こすの?」
「ふふふ、よくぞお訊ねくださいました。まず手始めにですね・・・」
この後、シェビッキに知恵を付けられたドロシーが本当にブロブディンナグにプロレタリア革命を起こすことができたのか?それはまた別の機会に、ということにいたしまて、とりあえず今回のお話はこれにて終了とさせていただきます。最後までおつきあいいただきましてどうも有り難うございました。

わたしのほしかったもの・終