この話はフィクションです。実在する人物・団体・出来事とは一切関係ありません。


 小さな冒険 その8

            作 モア

     「大トラ」 1999/12/11 Ver1.0

「カンパーイ」
 唱和と共にジョッキの触れ合う音があちこちから響く。すぐさま、霜のついたジョッキの縁に口をつけて冷たい液体を胃に流し込んだ。
…ぷはーっ!冬でもやっぱり生ビールは美味い。
 今日は、職場の同じシマ(係)同士が集まった秘密の忘年会である。宴席には、小うるさい係長もスケベな課長もいないので、若い課員もOLも安心して1年のウサを晴らせるわけなのだ。
…そう…ここに美紀子がいなければもっと良かったのだが。
 かつて隣の課にいた彼女は、理不尽な人事に立てついた挙句、資料室に配属された身の上がある。その美紀子に対して、ウチのOL達は同情して「今日は美紀子さんも来たら」と誘った訳で、今回の出席が実現したのだった。
…いや、別にそれが嫌なのではない。酒席の美紀はとても陽気だ。
 実は美紀子、あまり飲めないくせに、場に飲まれて酒を過ごす癖があるのだ。しかも、家に帰って荒れるから困ったものである。
…まあ先のことはいい、今は酒を楽しもう。
 宴会は予想どおり楽しいものになった。しかも中盤になると、隣の仕切で楽しんでいた大学サークルの宴会と一緒になって騒いだものだから、最後は何だかわからなくなってしまった。
俺も、お開き前は女子大生に囲まれて何やら色紙に文章を書いてしまったが、彼女達は一体何のサークルだったのだろう。 そのあとは予想通りと言うべきか、店先で1次会がお開きとなったあと、2次会に向かおうとする面々に詫びを入れて、美紀子の肩を担ぐと家路を急ぐことになったのだ。
「…けいちゃんも、2じかいに、いけばいいのに。わたしは、ひとりでかえれるから…」
 すっかり出来上がってしまった彼女は、寄りかかった姿勢で耳元に甘い声でささやきかけてくる。
「何言ってるんだ。飲めもしないのに、周りに付き合ってチャンポンしやがって。自分で後始末も出来ない酒なら止めろよ」
「なにいってるの!わたしはかんがえてのんで…ますっ」
…あーあ、これが万事テキパキやる美紀子かね…。ま、このアンバランスが魅力的なんだけど。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

「よっこいしょ」
 とりあえず、美紀子を炬燵の脇に座らせて、すぐさま冷蔵庫を開けると冷水を出してコップに満たした。
「おい、とにかく水でも飲んで酔いをさませ」
「・…」
 美紀子にコップを手渡して飲む姿を眺めていると、ようやくホッとした気分が湧いてくる。
 すると、その時である…
 例のごとく、指輪が熱くなって瞬く間に小さくなってしまったのだった。

 おそるおそる天を仰ぐと、そこには足を崩して座りこんでいる美紀子の大きな体が視界一杯に広がっている。
…まずい時に小さくなったな。相手は前後不覚の美紀子だから、何をしでかすかわからないし…しばらくの間隠れていよう。
 幸いなことに、コップを上げて水を飲んでいる最中だから、足下にいる俺には気がつかないだろう。そう思案しながら、そろりそろりと逃げ始めた時である。

 ずずん

「!…うわぁ!」
いきなり彼女の膝が崩れたかと思うと、目の前の畳に太股が激突したのだった。
びっくりして見まわすと、美紀子は炬燵に背を預けた大開脚の姿勢に変わっている。たちまち逃げ場を失ったので、慌ててもときた道を戻ろうとしたのだが…
「あれぇ」
 その声にはっと立ち止まって目をつぶるも、やがてそーっと目を開けて上目遣いに見てしまう。
 すると、うつむいて俺を見つめる美紀子と視線が合ってしまったのだ。その表情は、寝ぼけたようにトロンとしており、いつもの、いたずらっぽい目をした彼女とは全く違う。
…しまった。見つかった!
「そこにいるのは、だあれ?」
 そう言いながら片手を伸ばした彼女は、俺をむんずと掴むと顔の近くまで持ち上げたのだった。いつもとは異なる乱暴な扱いなので、痛みに耐えかねて声を上げてしまう。すると、彼女も気が付いたらしく、少し握力が弱くなった。
「あなた、こびとさん、ね?」
「…は・はい、そうです」
 こうなりゃ、相手に合わせるしかない。
「そうか、けいちゃんの、ほかにも、こびとさんが、いるのね?あいつは、2じかいに、来てるから、いえに、いないの。こんど、遊んで、あげてね」
…こ・こいつ、記憶まで勘違いしていやがる。
「だから、きょうは、わたしと、遊びましょう!」
「い・いえ、今日は用事がありますので、また今度にしませんか」
 すると、目の前の顔は見る間に険しくなっていく。
「…!急からしいぞ!」
 突如として彼女は怒りだし、酒くさい息を吹きかけてクダを巻き始めたのだ。
「あんたも、けいいちのように、わたしより、じょしだいせいが、いいのかぁ!」
…あちゃぁ!酒席で俺の行動を一部始終見ていたんだ。こうなれば最後まで美紀子に従うしかないだろう
 と観念した俺は、間髪入れずに返事をした。
「そんなことありません!お付き合いさせていただきます」
 すると、目の前に突き出された美紀子の顎が、ぐいっと咽喉に向かって引いていく。
「よおし、それでこそ、こびとさん!わたしといっしょにあそびましょ!」
…でも何して遊ぶと言うのだろう。
 そう考えていると、美紀子はいきなり俺を握ったまま上着を脱ぎはじめたのだ。
「!」
 緊迫した事態に遭遇して、体内のアルコールは一気に蒸発してしまった。
 指で押さえられているとはいえ、一つ間違えると手からすり抜けて落下してしまうことに気付いた俺は、薬指と中指の隙間に腕を突っ込んでしがみつくと、あとは目をつぶり、冷汗をかきかき巨人の行動が終わるのを待つしかなかった。
 しかし、いつもなら優しく掴んでくれる美紀子の指は、まるでロボットのようにぎこちなく俺を締めつけるのだ。ボタンを外すときは、指に力が入るのか、握った手で全身を圧迫したので、一瞬息がつまってしまった。思わず苦悶の声と涙が噴き出てくる。
…このままじゃ、遊びが始まる前に握りつぶされるんじゃないか…
 永遠に続くかと思われた作業も、ようやく終わったようである。でも、手の中で散々振り回されたため、痛みとめまいと吐き気に襲われてふらふらである。しかし彼女は、そんな苦しみなどわからないらしい。
 なぜなら、ほっとする間もなく、いきなり胸元へ突っ込んだのだった。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

 小さくなった俺が見ても、格別大きいとは思わない美紀子の胸だが、それでも、挟み込まれる程度の谷間は存在する。
「じゃ、そこでしっかりつかまっていてね」
 彼女は能天気にそう言うと、両手を胸の脇に添えてゆっくりと中央に寄せはじめた。
…こいつ、どこでこんなこと覚えやがったんだ!?
 朦朧としながらも、一瞬そんなことが頭に浮んだが、たちまちV字谷がせばまって挟まれてしまった。
「…!…!」
 やわらかい肉が体に圧着して息がつまってくる。しかも、圧迫感は止んで一息ついたかと思うと、再び肉に締め付けられてしまうのだ。それがしばらく続いてぐったりしてしまったが、ようやく終わったようだった。
「うーん、こびとさんは、きもちいいと、おもうけど、こっちはつまらんなぁ」
…なにいってやがる。
 すると今度は俺を胸から引きずりだして、大開脚した付根に俺を立たせる。
…おい!まさか!?
「こんどは、こっちをたのしませてね」

 そう言うと、人差し指を俺の背中にあてて、ぐいぐいとパンティに押しつけはじめたのだ。
「!」
 蒸れた様々な匂いが一斉に襲いかかってきたので、俺はたまらなくなって顔をそむける。
 すると、その拍子に右頬がストッキングに当たって擦りむいてしまった。あまりの痛みに苦痛の声を上げるが、彼女は構うことなく俺を押し続ける。しばらくして、布地越しに彼女の花開く感触が伝わってきたが、痛いやら、息苦しいやらで、とても楽しむ余裕など無い。
 どのくらいの時間が経過しただろう。いい加減ぐったりしてくると、彼女はようやく行為をやめて、再び胸元まで持ち上げた。
「どお?きもちよかった?」
「…」
 疲労困憊した俺は、もはや答える元気もない。
「さあて、こんどは、しあげよ、さいごまでがんばってね」
…最後まで?どういうことだろうか。
 その答えはすぐにわかった。彼女はスカートをたくし上げ、左手でパンティストッキングに隙間を作ると、俺を摘んだ右手をその中に入れ始めたのである。
「!!!」
 もはや、お付き合いなどしていられない。疲れた体を奮いおこし、残った力を振り絞って声を限りに訴える。
「おい!美紀子!目を覚ませ!俺だ、圭一だ!無茶は止めろ!たのむからやめろ!」
 そしてバタバタと暴れたが、右手は構うことなく奥地へと侵入していく。やがてパンティの周縁にまで達して、左手がその布に手をかけたとき、俺は目をつぶり、最後とばかりに大声を張り上げたのだ。

「やめろぉ!」

 そして体を強ばらせ息を止めて、最悪の時を耐えるように身構えたのだった。
「・…」
 ところが一向に彼女の手は動かない。
「…?」
 不思議に思った俺は、目を開けてパンスト越しに上空を見上げた。すると美紀子はうつむいて目を瞑り、そのままの姿勢で寝入ってしまったらしい。やがて、凄まじい轟音が耳を襲い始めた。
…ほっ、助かった。
 危機一髪で回避できた喜びで思わず気が緩んだが、同時に美紀子に対して言い様もない怒りがこみ上げてくる。俺は、こじ開けるようにして彼女の右手から脱出すると、一抱えもある大きさの人差し指を睨みつける。
「コノヤロ!」
 2・3度思い切り蹴りつけて怒りをぶつけたが、それでも憤懣が治まらないので指つたいに下へ降りていった。
 苦労して一番下に降りると、ドーム状になったストッキングと、氷壁のようなパンティの布地が目の前に広がっている。
…蹴るだけじゃ気が治まらない。さて、どうしてくれよう。
 そこで思案しながら、無意識にポケットへ手を突っ込むと、何か硬い感触があるのに気づいてそれを取り出した。すると、太字の油性マーカーが出てきたのだ。
…飲み会で色紙に使ったやつじゃないか。
「…!?」
 ぼんやりマ-カを見つめていると、ふと、うまい復讐を思いついて心が高鳴る。
…しめしめ。腹いせにはちょうどいい
 そして、目の前に広がる白い布と手元のマーカーを交互に見つめてにやりと笑うと、駆けめぐる冷たい快感を抑えながら、パンティの縫い目に沿ってよじ登りはじめたのである。

ー・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-・-

その翌日…
「おはよー」
 生あくびをしながら美紀子は食卓へやってきた。
「どうだ、気分は」
「最悪ー」
 そう言いながら、パジャマ姿のまま椅子にどっかと座りこむ。そのままぼんやりと俺の顔を眺めていた彼女だが、やがて雰囲気が違うことに気づいたようである。
「圭ちゃん、どうしたの?そのほっぺ」
 俺は、黙って新聞をたたんだあと、彼女を見つめて静かに答える
「自分の胸に聞いてみたら?」
「?・・どういうこと?」
 彼女の問いには答えず、ゆっくり立ちあがると、お玉と椀をもって鍋から豆腐の味噌汁をよそい、青葱をたっぷり入れて彼女の前に置いた。
「まずは、熱い味噌汁でも飲んで、二日酔いを覚ましておくれ」


「嘘でしょー!私そんなことしていない!」
 案の定、話をすると彼女は顔を赤くして昨日の「行為」を否定した。
…でも美紀子よ、ちゃんと証拠があるんだよ。
「お前の穿いているパンティーをよく見てごらん。そこに証拠があるから」
 ちょっとの間、俺をにらんでいた美紀子だったが、やがて乱暴に立ちあがり風呂場に閉じこもってしまった。
どれほどその中にいたのだろう。しばらくすると、ドアがあいて今にも泣き出しそうな表情をした美紀子が現れた。
 彼女は、黙って俺のそばへ寄ると、手のひらを俺の前にさし出す。
 そこには、シャープペンシル芯ほどの太さの、小さな「太字マーカー」が手の皺に挟まっている。
「…ぅぅぅ」
 小さなうめき声が弾みとなったのだろう。彼女はいきなり俺の体にしがみ付いて、大声をあげて泣きはじめたのだった。
「圭ちゃん、ごめんなさい、ごめんなさい…ごめんなさい…ごめん…なさい…」
…こいつ…(^^)。
 俺は、泣きじゃくる彼女の頭に手をそっと置いた。いくらひどい目に遭ったとはいえ、こんな時はこう言うしかないだろう。
「わかってくれればもういいよ。でも、2度とあんなことはやめてくれ」
 すると彼女は面を上げ、涙でぐちょぐちょになった表情で激しくうなずいたのだった。
…しかし、これは珍しい。美紀子がここまで取り乱して泣くとは
 いつもとは逆転した立場に、俺は満面の笑みを浮かべてしまう。
…たまにはこういう状況もいいもんだ、ね?美紀

後日談
 ちなみに、美紀子は、この時履いていたパンティを今でも大切に保存している。何故なら、そこには俺がマーカーを使って、事件の一部始終を書き込んだからだ。それを読んで懲りた彼女は、これを座右の銘にして、酒で失敗しないよう注意しているという。
 ただ…
 今なお、美紀子が参加する飲み会では、2次会へ行くことができないのである。


                        第8話 おしまい



   -おまけ-

この話はフィクションです。実在する人物・団体・出来事とは一切関係ありません。


 小さな冒険 

            作 モア

     「晩 酌」 1999/12/10 Ver1.0

「圭ちゃん、もう遅いから先に休ませてもらうね」
 美紀子は、そう言いながら居間をひょいとのぞきこんだ。しかし、そこには誰もいない。あるのは、オン・ザ・ロックのウイスキーとアテだけである。
…まさか、あいつ…。
 そう思いながらゆっくり歩みよると、案の定、圭一は小さくなってグラスの脇で眠っている。
…仕事で疲れているのに、晩酌なんかするからよ。
 小さなため息をつきながら、美紀子は圭一を見下ろした。
「しかたないな…。おい圭一、起きなさい。…起・き・ろ」
 そう言って人差し指で体をゆするが、彼はすやすやと寝息をたてているばかり。
…このままだと風邪をひくわ…ホントに圭一ったら、だらしない…。
 彼女は、仕方なくそっとすくい上げ、右手にグラスを持ってそこに座りこむ。そして、琥珀色の蒸留酒をちびちび舐めつつ、目が覚めるのを待つことにした。

 ごろり

 何も知らずに、彼女の掌中で寝返りをうつ圭一をみていると、何やら暖かい気持ちが湧いてくる…
…お酒が入ってるのか、体が火照っているようね。ふふ…可愛い。
 そう思いながら、圭一の寝顔を肴に飲んでいたので、美紀子も酔いがまわったのか、よい気分になってきた。
「もおいいわ。今日は、特別に、添い寝してあげましょう」
 寝ている圭一にそう話しかけたあと、パジャマのボタンを緩めて小人を胸元にそっと差し入れる。そして部屋の後始末をすると布団にもぐりこんだ。
「こんばんは、私のむねが、おふとんよ。いい夢見てね」
そう言って、パチリと照明を切り、瞼を閉じたのだった…

(-_-)Z・
(-o-)ZZ…
(-_-)ZZZ…

 ごとり

「きゃっ」
 
 どたん

「ぐえ!」

 ばたん

 パチリ
 ちかちかと電気スタンドが点灯する。

「はーっ…はーっ…」
 するとそこには、肩で息つく美紀子の上に、元の大きさで横たわる圭一がいる。苦労して、ようやくそれを押しやると、彼女は彼を睨みつけ、夜だと言うのに大声をあげたのだ。
「こら、圭一!いきなり大きくなるな!おかげで下敷きになったじゃないの!」
 
 ごつん
 
 怒りのあまり、ゲンコツで思いきり頭を殴りつけた。すると、うーんと一声して目がさめる圭一。
「あれー、美紀どうしたの?」
 半目を明けながら、のんびり問いかける彼を見て、遂に彼女の忍耐は切れたらしい。
「は・や・く、寝ろ!」
 美紀子はそれだけ言うと、電気を消して布団を引っかぶる。
…なに、怒っているんだろ?
 一体何が起きたのか訳もわからず、暗闇の中できょとんとしたまま美紀子を見つめる圭一だった。

                    おしまい