勇者は悩んでいた。
最近、魔物との戦闘で力負けすることが多い。
同じパーティの格闘家はどんな魔物でも圧倒的な力であっさりと倒してしまうのに、比べて自分は剣を弾き返されてしまうほど、力がなかった。

「勇者様、どうかされましたの?」
「あ、あぁ…。なんでもないよ。」

彼女は同じくパーティの魔法使い、ルナだ。
華奢な体で見た目通りの非力だが、他の魔法使いでは真似ができないような圧倒的な魔力を持っており、その力を見込んでパーティに誘ったのだ。

「なんでもないように見えますよ。勇者様、何か悩み事ですか?」
「うーん。悩んでいるように見えたか?」
「ふふ。何年一緒にパーティをやっていると思ってるんですか?そのお顔、なにか悩んでいるだなってすぐにわかりますよ。」
「はは、そうか。まあ、ルナは昔から察しがいいもんなぁ。」
「それで勇者様、何で悩んでいるんですの?」
「あぁ、実はな、最近…。」

ルナには正直に自分の悩み事を話した。
最近、自分の力が魔物に追いついていないこと。
自分がこのパーティの長であるが故、周りに話しにくかったこと。
昔から、ルナにはそういう小さな悩み事を何度も聞いてもらっては、素晴らしい解決策を導いてもらっていた。今回ルナは、どんな解決策を思いついてくれるのか。

「ふむふむ、そうだったんですね。確かに、最近魔物の力が強まっていますからね。今まで通り、うまく倒すのは難しくなってきた気がしますね。」
「そうなんだ。筋トレはそれなりに毎日しているんだがな…。」
「ルナが格闘家でしたら、組手などにいくらでも付き合いますのに。」
「組手、組手か。あれって、全力を出すのは難しいんだよな。」
「と、いいますと?」
「全力を出しにくいんだよ。全力でやってしまうと、怪我をしてしまうかもしれないからな。ある程度手加減してやっているが、それだと実力アップには繋がりにくい。魔物のような全力でぶつかれる相手と戦うのが1番ってことかな。」
「なるほど。全力で戦える相手が欲しいのですね。」
「ま、そんなところかな。昔は1人で森で魔物と戦ったりしてたけど、最近は魔物が強すぎて危ないし。」
「ルナがお供しましょうか?」
「その気持ちは嬉しいけど、昼間は基本みんなで行動してて、夜しか時間が取れないし。ルナを危険な目に合わせるわけにはいかないからな。」
「ルナでは頼りがないということですか?」
「いやいや、そうじゃないけどさ…。」
「…でしたら勇者様、いい案を思いつきましたの。今日の夜、私の部屋に来てくださいますか?」
「ホントか!?ありがとう、今日の夜な。わかった。」

ルナはどんな案を思いついたのか。あえてそこには触れずに、夜の楽しみということにしておく。
夜にルナの部屋…。いやいや、邪な事は考えてはいけない。周りにバレずに、上手く入ろう。


「おーいルナ、入っていいか?」
「勇者様、待っていましたよ。もちろん、入ってくださいな。」

周りに人がいないことを確認し、音を立てずにゆっくりとルナの部屋の扉を開けた。

「こんばんは。勇者様。」
「おう。」

まだ風呂には入っていないのか。服装は、昼間の時と同じだった。

「それでは勇者様、早速はじめましょうか。」
「ところでルナ、結局何をするんだ?」
「ふふ、今すぐにわかりますよ。こちらにいらして、そのままじっと立っていてくださいな。」

ルナの指示通り、ルナの前でじっとすることにした。
するとルナはこちらを見て少し微笑んだ後、得意の魔法を何やら呪文で唱え始めた。

「うわ、何だ」

目の前のルナがどんどん大きくなっていく。いや、違う。自分の目線がどんどん下に降りている。
つまりは、自分が小さくなっているということか。
ルナよりも高かった身長は、あっという間に抜かされてしまう。
しかしまだ止まらない。
目線はどんどん下に降りていき、ルナの顔と並んだと思えば、気がつけば首、胸と並び、それでもまだ止まらずに腰、脚よりも低くなり、呪文が止まった頃には、目の前にはルナのとても大きなブーツのつま先が鎮座していた。

「勇者様、可愛らしい大きさになりましたね。」

ルナの大きな声が脳に響き渡る。

「お、おいルナ、これってどういう…。」

最後まで言葉を言い切る前に、ルナの巨体がこちらに近づいてきて、呆気に取られてしまった。

「ここまで小さな勇者様でしたら、私でも勝てそうですわね。ふふ。」

ルナはしゃがみこみ、小さな俺を見下して可愛らしい笑顔をこちらに向けてきた。

「い、いや…。すごいなルナ…。こんな魔法も使えたのか…。」
「そうですよ、勇者様。昼間の会話の際に思いついて、先ほど完成させましたの。」

ルナの魔法の腕は、かなりのものだ。
人を小さくする魔法を思いつきで完成させてしまうだなんて、真似できる人はそうそう居ないだろう。

「勇者様。それで、ですね。今のそのお体でしたら、私に全力でぶつかっても大丈夫だと思いますの。」
「いやぁ、ルナ。流石にルナに全力で攻撃するだなんて。」
「でしたら勇者様、力比べをしてみます?」
そういうと、ルナは右手の人差し指をこちらに近づけてきた。
「力比べだな。流石にルナに負けるわけにはいかないな。」

両手の手のひらでも包み込めないほど大きなルナの指先を押すように、全身に力を込める。
おかしい。ルナの人差し指はビクともせず、全く動かすことが出来ない。

「勇者様、もっと力を出していいのですよ?」

いやいや、全力を出しているつもりなのだが…。

「もしかして勇者様、それが限界ですの?なんて可愛らしい…。」

ルナの指先がすっと引いていく。
体をここまで小さくされると、力もこの程度になってしまうのか。

「勇者様。わかりましたでしょう?今のそのお体でしたら、私に全力で戦っても問題がないということですよ。」

納得をするしかない。
確かに、これだったら全力で戦うことができるし、ルナを危険な目に合わせることもない。

「では、まずはそのお体に慣れてもらいましょうか。」

ルナは突然、履いていたブーツを脱ぎ出した。
ブーツの下には何も履いておらず、華奢な体に似合う艶やかで白い素足が現れた。

「ブーツで踏んでしまいますと勇者様が怪我をしてしまいそうですから、素足でお相手します。」

するとルナは、片足をあげて容赦なくこちらに振りかざしてきた。

「勇者様、逃げなくてもよろしくて?踏み潰してしまいますよ。」

あまりの出来事に唖然としていたが、ルナに言われハッとして咄嗟に避け、倒れ込んだ。

「まだまだ続きますよ?ほら、倒れてる場合ではないですよ。起きて。」

もう片方の足がこちらに近づいてくる。
あんな巨体の足が体にのしかかったら、一溜りもないだろう。
立ち上がり、上手く避けることが出来た。

「勇者様、流石ですわね。」

避けることが出来たとはいえ正直、あんな巨体に踏み潰されたら、耐えられないだろう。
ルナの攻撃はまだまだ続いた。

「本気で踏み潰しちゃいますよ?ふふ。」

こちらを信用しているのか、段々とペースがあがってきた。

「ほら、右足。左足。」

ルナの大きな素足がこちらに向けて、何度も落ちてくる。
こちらも慣れてきて、時間が経った頃に動きは止まった。

「勇者様、いい調子です。その感じでしたら、いい特訓になりそうでしょう?」
「あぁ、確かに、これなら良さそうだ。」

とはいえ正直、不安でもある。
本当に潰されてしまったら、この小さな体では耐えられる気がしない。
不安になったところを、ルナが察して気にかけてくれた。

「勇者様、ちょっと待ってくださいね。念には念を入れましょう。」

そういうとルナは呪文を唱え始めた。
この呪文は聞いたことがある。防御力をあげる呪文だ。

「ふぅ…。勇者様、そうしましたら、防御力がどの程度なのかすこし調べさせてください。そこで仰向けになってもらえますか?」

言う通りに仰向けになると、ルナの足の裏が、優しくこちらに向かってきた。
パーティの魔法使いに踏まれる。なんとも惨めな体験だが、ルナは勇者のことを気にかけて、そんな状況は一切気にせず、自分の魔法に問題がないか試し始める。

「どの程度まで踏んでも問題がないのか、少し試させてください。」

ルナはどんどん力を込めていく。
限度がどこまでなのかわからない。
しかし、ルナがさっきかけてくれた魔法のお陰で、自分の体が潰れる気配はなかった。

「耐久テストです。うーん、これ結構力入れてるんですけど、まだまだ耐えられそうですね。」

ルナの足の裏を全身で感じる。
昼間からずっと履いていたブーツの中で蒸れ、温かみを感じ、同時にルナのにおいも感じる。
嫌なにおいとは思わないが、女の子の足のにおいを強制的に嗅がされ、なにか感じるものがあった。

「ふぅ。だいぶ頑丈みたいですね。勇者様の、基礎防御力が高いおかげです。」

耐久テストはどうも終わったらしい。もう少しルナの足の裏を感じていたかったが…本来の目的を見失っては…

「勇者様、もしかして私に踏まれて喜ばれてましたか?」

突然のルナの言葉に、ビクッとしてしまう。

「あ、、、いや、そういうのではなく…」
「勇者様、別に隠さなくてもいいのですよ?ルナは勇者様の全てを受け入れるつもりですから。」

ルナは床に座り込み、はしたなく似合わないあぐらのポーズで両足の裏でこちらを挟むように向けてきた。

「耐久テスト、その2、始めましょっか。」

恐らく予定にないものが始まった。
ルナの両足の裏が、こちらを挟み込む。
ルナの足の裏のプニプニとした肉が全身を包み込み、物凄い圧力で埋もれる。
両足の裏は隙間なく閉じられ、自分の体はルナの足の裏にべったりと張り付き、身動きが全く取れず、呼吸も出来ない。
ルナを怒らせてしまったのか。
限界を感じても、ルナにそれを知らせる余裕すら与えてくれなかった。
意識が遠のきそうな瞬間、両足の裏から解放され、脱力した体が宙を舞い床にグッタリと落ちる。
ようやく終わったかと思いきや、ルナは容赦なく、床でクタクタになっているこの体を、片脚ずつ何度も何度も大きな音を立てて床に踏みつける。
ルナの防御力をあげる魔法のお陰で体は耐えているが、精神が持ちそうにない。
かかとを全力で落としてこちらにぶつけて来たり、足の裏で捻じるように潰してきたり。
ルナの攻撃はなかなかに止まらなかった。

「まだ意識があるんですね。流石勇者様です。というか、これだけ踏まれても平気なんですね。」

確かに平気、ではあるのだが…。言葉を発する気力すら失っている。

「それでは最後の耐久テストです。耐毒テスト、ですかね。」

そういうとルナは小さな体をつまみ上げ、先ほど脱いだブーツを拾い上げる。

「私、蒸れやすくて。最近は、毒の霧で攻撃してくる魔物もいますからね。疑似テストになるといいのですが…。」

ルナは手を離した。
一直線にブーツの中に落ちていく。
ブーツの底に落ちた頃には、この体ではとても届かないほど履き口がとても遠い高さにあった。

「ルナのブーツの蒸れた臭いに耐えられるなら、きっと大抵の魔物のブレス系の攻撃は耐えられますよ。」

床が傾く。
ルナがブーツを傾けてたのだ。

「つま先の方とか、特に蒸れていると思います。」

重力に逆らえず、コロコロとつま先の方に身体が倒れていく。
つま先の方は、確かにルナの言う通り、足の臭いが凝縮され、とてつもないことになっていた。

ルナにかけてもらった魔法は防御力をあげる魔法。
耐毒用の魔法など、かけてもらっていない。
普段でも臭いと感じるようなこのブーツを、小さなこの体では何倍もその臭いを感じ、この体で耐えられるか。
それに気がついた頃にはもう遅かった。
ルナの大きな素足がブーツの中へ入り、奥へ、奥へとこちらに向かってくる。
大声で助けを求めるが、ルナは全く気が付かない。
ルナがブーツを履き終えた頃には、この体はブーツと素足に挟まれ、身動きがまともに取れず、出来ることといえば、ルナの蒸れた足の臭いを嗅ぐことだった。