ルナは悩んでいた。
勇者パーティの中でも最年少であるルナは、その幼さから他のパーティメンバーと比べ経験値が少なく、それ故にレベルが低かった。
もちろん、本人の実力としては全く劣っておらず、むしろ一番強い程なのだが…。

そこでルナは1つ思いついた。
レベルを上げる手っ取り早い方法。
レベルを上げるには、経験値を手に入れるには、魔物を倒せば良い。
つまり、短時間で同時にたくさんの魔物を倒すことで荒稼ぎをすることが出来る。
商店街で新しく購入した桶を用意し、ルナはその桶の中に魔法をかけた。

「これで経験値をいっぱい稼いじゃいます!」

少し待つと、なんとその桶の中には小さな魔物が現れた。

ルナがかけた創作魔法。それは、魔物が多く出現する森に一方通行のワープホールをいくつか設置し、通過した際に桶の中へ1/100の大きさでワープするようにしたものだった。
ワープホールにはたくさんの魔物が通過するよう、吸い込まれるような仕組みもつけて。

「こんな小さな魔物だったら、簡単に倒せちゃいそうですね。耐久値が下がるともったいないので、ブーツと靴下は脱いじゃいます。」

ルナは丁寧にブーツを脱ぎ、靴下は丸めてブーツの中へとしまった。

顕になったルナの白い素足。
周りに見せつけるかのように、足指をクネクネと動かす。
桶の中には、既にワラワラと数十体の魔物がワープしていた。

「わ、悪く思わないでくださいね。これも私の経験値稼ぎのためなので…。それでは失礼します。」

森の中に突然現れたワープホール。
本能のようにそのワープホールへと誘い込まれた魔物たち。
その先には、か弱な魔法少女の白くとても大きな素足の裏が待ち受けていた…。

「えいっ!」

ルナの右足が桶の中へと、勢いよく踏み下ろされる。
その一踏みで、巻き込まれた魔物達は一撃で倒されてしまった。

「す、すごい…。防御力の高い魔物でも、一撃ですね…。それでは、溢れる前にどんどん踏み潰しちゃいます。」

続いて左足も勢いよく踏み下ろされる。
1/100の大きさとなった魔物達は、為す術なく踏み潰され、一撃で倒されてしまう。
もちろんこれで終わりではなく、右足、左足と順番に足が踏み下ろされる。

「ちゃんと経験値も稼げてますね。楽で助かります。」

問題なく経験値が稼げることを確認したルナは、リラックスをして体に力が抜けていくが、それでも桶の中へ踏み下ろされる巨大な素足に魔物は抵抗できず、一撃で倒されてしまう。

「足の裏とか指の間にいっぱいこびり付きますね…。」

魔物の残骸が足指に挟まり、不快感を覚えたルナがぴっぴと指を動かし残骸を払う。
運悪くその飛び散った残骸に衝突した魔物も、倒されてしまうのだった。
足の裏にこびり付いた残骸は、足の裏同士で擦り合わせて取る。
パラパラとその下へ残骸が落ちていき、それもまた小さな魔物へ衝突し倒されてしまう。



森にいた山賊も、例外無くルナのワープホールに吸い込まれてしまっていた。
ワープホールの先で目を覚ますと、その先には巨大な素足が鎮座しており、こちらの状況などお構い無しに何度も何度も地面を踏みつけ、容赦なく魔物を踏み潰している。
状況が理解できないが、その素足の先に目線を向けると、幼い女の子がご機嫌に鼻歌を歌っていた。
女の子とコミュニケーションを取ろうにも、こちらのあまりの小ささと無常に動き続ける巨大な素足のお陰で、全く声が届かない。
目の前で自分と同じ大きさの魔物がどんどん踏み潰され、足裏のシミへと変化していく。
たまに動きが止まったかと思えば、その素足のとても大きな5本指が艶やかに動き出し、辺りに踏み潰した残骸の破片を飛び散らす。
足裏は黒く薄汚れており、指の間や爪の中などに魔物の残骸が入り込んでいる。
そんな光景に圧倒され怖気付いていると、気がつけば頭上に巨大な素足が待ち構えており、次の瞬間には跡形もなく踏み潰され、ルナの足裏のシミへと化していた。

「もしかして今の、人間さん…?まいっか。」



深夜。同じく一方通行のワープホールに迷い込んだ人間がいた。
その先では、これまでに嗅いだことの無いほどのとてつもない異臭が蔓延していた。
その異臭の方へと足を進めると、巨大な白い布が現れる。
その布の正体は、ルナが1日履いていた一組の靴下だった。
深夜の寝ている間、ワープホールと桶を活用しなにか出来ないか考えた結果、自分の靴下を桶の中に入れ、蓋をすることにした。
ルナは自分の足の臭いについて自覚しており、それを活用することにしたのだ。
ただこの靴下だけで魔物を倒せるかは怪しかったため、ルナは桶の中のみを有効範囲とし、嗅覚に関する感度を何十倍もあげる魔法をかけ、桶の中へ迷い込んだ魔物が即死するような仕掛けをしていた。
代謝の良い若い女の子の足がブーツの中で蒸れ、汗や老廃物をたっぷりと染み込んだその靴下は、魔法など無くとも大変立派な臭いを発しており、その臭いを何十倍にもして感じ取ってしまう空間と化しているのだ。魔物であろうと人間であろうと、誰も入りたいはずがない。

そんな事もつゆ知らず、一方通行のワープホールへ入ってしまい小人と化した人間は、自分と同じ人間はずであるか弱い女の子の靴下の異臭に巻き込まれ、即死することも出来ずにもがき苦しんでいた。
魔物であれば即死することが出来たが、人間では効果が微妙に違ったのだ。
そんな時、小人の思考がある事で埋め尽くされる。
用意周到なルナのかけた最後の魔法。
一定時間、死ぬことなくその空間に居続けた者は、その靴下の中のつま先の方まで入り込んでしまうよう、思考を埋め尽くされてしまうのだ。
突然思考がハックされた小人は、わけも分からず靴下の履き口へと進み、分厚い布に足をかけてモゾモゾと入り込んで行ってしまう。
時刻は深夜1時。
暗闇の向こう側からは、微かに女の子の寝息が聞こえる。
ルナが起きる時間は早くて6時頃だろうか。
助けを呼ぶことも出来ず、異臭の正体もよくわからず、苦しみ続ける人間が桶の中にいたのだった。


朝、ルナは起きて真っ先に桶の中の靴下を確認する。
つま先の方を摘み上げ、靴下を逆さにするとなんとその中からは6匹と9匹ずつの小人が出てきたのだった。