◆はじめに◆

今回は主人公目線で書いているので、主人公の説明がありません。
なので左記(横書きなら下)主人公の軽い説明を記載しております。
ご参考までに。

間宮 里奈(十六歳)
端正な顔立ちで、黒真珠のような輝きがある髪は腰まで伸ばしているが、巫女として働いている時は頭にお団子を作っている。
育ちの良い家庭だったのか、お嬢様のような凛とした雰囲気を醸し出している。
しかし世間知らずで天然。テキトーな部分も。

捕食しかありません。
いつもの破壊・蹂躙ではないです。
グロテスク表現注意。
苦手な方は回れ右。

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以下本編です。
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國崎美優の気まぐれ


「ふぅ~、境内の掃除はこんなもんかな。」
額に汗で張り付いた気持ち悪い前髪をかき上げ、額を冬の風で冷やす。
私の名前は間宮里奈。
この國崎神社で巫女として勤めている。
毎日各所の掃除や、他の方々が着る服の手入れ、管理など様々な雑用をこなす。
世間が考えるよりも巫女の仕事は過酷で、思ったよりも肉体労働であるが、私が何故この神社で働き続けられているかというと――

「おぉ里奈、いつも朝早くにご苦労じゃのう~」

この【神様】のお蔭(?)だ。

「きゃ! もう! 後ろから気配も無く声を掛けないでください! 普通に驚きます!」
「ははは、里奈ぐらいじゃな、わらわに軽口叩けるのは♪」
この方は國崎美優様。
この神社で祀られている神様である。
年は中学に上がるか上がらないほどのように見え、真っ赤な瞳と新緑を連想する明るい髪を真っすぐ地面につくほどに伸ばし、
身長も胸もお尻も慎ましくまだまだ発展途上という感じである。
私が勤めている神社の神様が自分よりも見た目が幼い女の子だとは思いもしなかった。
もっとこう……髭を蓄えたふぉっふぉっふぉ言っているお爺ちゃんを想像していたのだが。
美優は不老不死のお蔭で何百年と生き続けており、人とは違う存在で、通常であればこんな一巫女が気楽に話すことができる相手ではない。
だが、美優様は私のことを気に入ってくれているのか、時折こうして声を掛けてくる。
何故気に入られているのかは謎だ……。

「ところで里奈、この後暇はあるか?」
「藪から棒ですね。 正直今日は忙し――」
「じゃあ本殿で待っとるからの~」
「――い……ってえぇ!?」
ぽつんとその場に里奈は取り残されたまま、美優様はピューっとその場から離れてしまった。
そう、この神様は色んな意味でテキトーなのである。
このテキトーさに毎日振り回されているが、意外にもそれが私は嫌いではなく、それがこの仕事を辞められない理由の一つである。
さて、一応は神様なので無視するわけにはいかない。
私は本殿に向かった。

◆◆◆◆◆◆◆

「ほれ、これを見てみろ」
「……? なんですかこれ……人形……?」

本殿に到着してすぐのこと。
いきなり信じられない光景が目に飛び込む。
目の前にある十五センチ四方の木箱の中に、五センチ程度の小さい人形が何十と入っていたのだ。
人形といっても、あまりにもリアルで、精巧で……とても作り物とは思えなかった。

「それ、ひょいっと」
美優様はそれをひょいっと人形を一体、服の首後ろ側を細い爪先で器用に摘まみ上げる。
摘まみ上げられた人形は腕や足をバタバタと激しく動かす。

「……本当、生きているみたいですね」
皮膚の感じやら瞳、腕や足も本当に人間のようである。
声も出せるようだが……何を言っているのか意味不明だ。

「これ、どこの言語ですか? 聞いたことないですよ」
「ふむ、これは……【日本語】っていう言語じゃな」
「【日本語】? 【日ノ本(ひのもと)語】ではなく?」
「わらわにも神様同士の友人がおってな、面白いものがあると他の神から譲り受けたものなのじゃよ」
「へぇ~、そうなのですね」
ふふんと得意げに語る美優様。
なるほど、他の神様の贈り物であるならこの精巧に作られた人形の出来も頷(うなず)ける。
しかし、時折美優様が後ろを向いて肩を震わせているのは何故だろう?

「で、この人形はどうするものなのですか?」
「こうするのだ!」
そういうと、美優様は摘まみ上げていた人形を腕高々に掲げる。
そして目を閉じ、口を大きく開け、小さい桃色の舌をめいっぱいに出し、白く綺麗に並んだ歯と八重歯を見せつつ、つまんでいた指を離す。
当然、摘まんでいた人形はそのまま落下し、人形は声をあげながら口の中に吸い込まれてしまう。
ぱくんっと口が閉じ、小さい口がもぐもぐと動く。
時折、ゴリッゴリッと硬い何かを砕く音がするが、軽快に音を響かせると、ゴクリと白く細い喉を鳴らし、飲み込む。
最後にけぷっと可愛いゲップをすると、口の周りについていた赤い何かを舌で舐めとる。

「ふ~やっぱり美味じゃの♪ ……里奈、お主口が開いとるぞ?」
「……は! そ、それ、食べ物なのですか!?」
私は目の前の光景に絶句していた。
なんと美優様はその人形を食べてしまったのだ。
魚介類の踊り食いと似たようなものなのかもしれないが、形が自分と同じ人間のようにしか見えず、少しドキドキしてしまう。
「うむ、ここにこう書いてあるぞ」
美優様は小人の入った箱の蓋を取り上げると、その内側を見せてくれた。
「……本当ですね」
そこには

『人形型のお菓子です。生ものなのでお早目にお召し上がり下さい』

と書かれていた。

「――にしても、悪趣味ですね、このお菓子」
「神様は大抵皆悪趣味じゃぞ」
「……」
まぁ確かに。

「ほれ、里奈も食べてみろ、見た目はアレだか意外に美味じゃぞ?」
そういいながら新しいお菓子を美優様は摘まみ上げ、私の眼前に出す。
お菓子はまた暴れている。
本当に精巧に作られており、食用とは思えない。

「ほれほれ、口を開けて舌を出せ」
ぐいぐいと美優様はお菓子を頬に押し付ける。
ここまで勧められたら仕方ないと観念し、私は口を開け、舌を出す。
美優様は摘まんだお菓子を、舌の上に落とし、私はそのまま口の中へ。
口の中では激しく暴れ、痛くはないが違和感が凄く、舌で押さえつけようと数十秒格闘した。
しかし、予想以上にお菓子が暴れまわり、口蓋垂を刺激されたのか吐き気を催し、お菓子を勢いよく吐き出してしまう。

「けほっ……けほけほ……」
私は口を押さえながら咳きこんでしまう。
「うーむ、こいつはちと元気が良すぎたか」
美優様は立ち上がり、吐き出されたお菓子の元へ。
唾液まみれのお菓子を美優様は細い指で持ち上げ、自身の目の前まで持ってくる。
「里奈に苦しい思いをさせるとは。 許さぬ。」
美優様は摘まみ上げていた逆の指で、そのお菓子の頭部を人差し指と親指で挟む。
そして、そのまま一気にグチャっと潰してしまう。
紅い何かが辺りに飛び散り、白い指を汚しつつ、美優様はピクリとも動かなくなったお菓子を里奈に差し出す。
「これなら食べやすいぞ」
「は、はい……」

私は差し出されたお菓子の足を摘まみ上げる。
お菓子は全身が脱力し、頭部は潰れ、断面からは赤いものが滴り落ちている。
そして、そのまま私は口の中へ再度放り込む。
最初、噛む事に多少躊躇したが、意を決してお菓子を歯で潰す。
グチャバキっと少し硬い部分があったが、意外にも簡単に歯で千切ることができた。
意外にも意外、味はとても良かった。
噛めば噛むほど旨味が溢れ、クセになる味で、飲み込むのが惜しいほど。
しかし、既に完全に粉々となったお菓子を仕方なく飲み込み、喉を鳴らす。

「ふふ、気に入ったようじゃな♪」
美優様はニヒッと少しニヒルな笑みを浮かべながら、お菓子をひょいひょいと食べ続けていた。
スナック感覚で、箱から三~四体ほど鷲掴みで取り出し、そのまま口へ。
美優様はゴリゴリムシャムシャと豪快な音を立てながらお菓子を食す。

「ほれ、最後の一人……じゃなかった、一個、食べるか?」
差し出された最後の一個。
私は先ほどと同様に指先で器用に摘まみ上げる。
前と同様に暴れに暴れ、非常に動きが激しい。
一回で食べるのも良いかもしれないが、私はゆっくり食べる為に部位ごとに分けることにした。
まずは右腕。
私は摘まみ上げながら逆の指でお菓子の右腕を掴み、そのまま軽く引っ張る。
ギチギチと音がしつつ、結構な抵抗があったが、ある一点を超えるとブチっと右腕が千切れた。
お菓子は絶叫し、涙を流す。
私はそれを横目に千切った腕を口にする。
やはり美味しい。
今までこんなに美味しいものを食べたことがない。
私は咀嚼し、ゴクリと喉を鳴らすとそのままお菓子の右足に齧り付く。
そして、そのまま歯で噛み千切り、右足を食す。
お菓子はもはや痛みによって失神してしまい、何も発しない。
右足も飲み込んでしまうと、私は残った部分をそのまま口に放り込む。
グチャグチャと音を鳴らしながら味わい、最後のお菓子を喉に通す。

「いい食べっぷりじゃったの~♪」
「はっ! 全部見ていたのですか!?」
あまりの美味しさで我を忘れ、はしたない食事場面を美優様に見られてしまった。
恥ずかしさのあまり、顔が真っ赤になってしまう。
「あはっ、今日はこれでしまいじゃ。また明日の、里奈」
ひまわりのような満開の笑顔を見せると、美優様はスゥっとどこかへ消えてしまう。
時刻も終業時間、私もそろそろ帰ることにした。


「……次はいつ食べられるんだろう」


おわり 
2019/01/01 むらさめ