挿絵でなく挿MMD↓
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「こんにちは皆さん、お変わりないですか?」

星全体に優しい声が響き渡り、柔和な笑顔と手のひらの肌色が空を覆う。
住人は慌てることなく手を振って歓声を上げた。
その声を受けて遥か上空の笑顔はより深まる。
「ふふ、良かった。今日もこの星を癒やしますね」

エリザがこの星を訪れるようになってそこそこの月日が流れた。
初めて出会った時はその桁外れの巨体に、住人は困惑しパニック状態だったが、
癒やしの力と絶対に危害を加えない身振りという女神を具現化したような存在に、
混乱はすぐに収まった。
今は星の安定と保護・現状確認の為に年に数度、星にやってきては住人とのふれあいを楽しんでいる。

皆との挨拶もそこそこに、エリザは早速仕事に取り掛かる。
「では少し揺れますので、気をつけてくださいね」
注意を促してから数秒後、目の前の小さな星を人差し指でつついた。
本来ならばそれだけで星は木端微塵だが、保護の力により住人が感じたのは軽い揺れのみ。
転倒や建物の崩壊も皆無だった。
そのまま指を離していくと、地表の大陸は指先にくっつき綺麗に剥ぎ取られる。
残ったのは内部がむき出しになった赤茶けた星。
それも見失わないように右手でつまみあげる。
こうして地表と地殻の分離作業は無事完了した。

分離作業の後は暫く、星内部の安定化のためにこのまま右手に収めておくわけだが、
その間エリザは暇になる。
なのでこの時間を利用して、住人と会話したり困りごとを聞いたりする。
「さあ皆さん、何かリクエストなどはありますか?」
大陸が乗っかった指先を顔に近づけ話しかける。
球体の星にいた先ほどと違い、今は全住人がエリザの青緑の瞳を見上げている。
当然だ、地表の総面積よりエリザの瞳の方が巨大なのだから。
この時ばかりはあまりの迫力に住人も少したじろぐ。
その反応も、エリザのいたずら心を刺激して楽しいものだった。

各々が好きに発言をしているうちに、こんな声が大きくなってきた。
(エリザさんの舌に乗せてほしい!)
暇つぶしのために過去色々してきたエリザへだからこその提案だろう。
しかしこれにはエリザも難色を示した。
「えっと、それは…流石に危なくないですか?」
しかし上記したように、これまで本当に「色々」してきたのだ。
胸に乗せたり、握りしめたり、髪で覆ったり、足の指に挟んだり…。
中にはエリザがすすんで行動したものもある。
更に、危ないと言われてもこれまでの被害はほぼ0なのだ。
たまに転んだりで怪我をする人もいたが、それもたちまち治してしまう。
住人はエリザに全幅の信頼を寄せていた。

その後もお願いは続き、流石に折れてしまったエリザ。
「もう、しょうがないですね…」
困り顔ながらも舌を出し、ゆっくりと地表が乗った指先を近づけていく。
そして軽くひと舐め。
それだけで、全大陸はエリザの舌に移ってしまった。
大陸より数倍分厚く、数倍広い舌。
何十億の住人が騒いでも、びくともしない。
エリザからすればこの星は一口サイズにも満たない。
改めてその巨大さを実感する人々であった。

一方のエリザは、少し困惑していた。
(何だろう、おいしい…)
舌に乗せるだけでも味は分かるものだが、それでも少ししょっぱいだとか
その程度だろうと高をくくっていた。
しかし実際は、明確に大陸をおいしいと感じてしまったのだ。
だからといって飲み込んだり噛み潰したりする気は毛頭ないが、戸惑いは隠せない。
そして想定外のことは続く。
体が大きくなり始めたのだ。
自分の制御が疎かになったのか何らかの力を吸収したのか、巨大化を始めるエリザ。
変化に気づいた時にはもう遅し、指の間には更に小さくなった星。
エリザは倍ほどの大きさになっていた。

エリザが巨大化したことは舌先の住人も察していた。
ピンク色の地面が広くなっていく、かすかに見える白い歯が更に遠くに移動していく…
まるで自分たちが小さくなっているような感覚だった。
何が起こったのかとザワザワしていると、エリザから念話が届く。
(すみません、驚かせてしまいましたね。私が少し大きくなってしまったみたいで…)
心配そうな優しい声音に落ち着きを取り戻す住人たち。
何故大きくなったのか質問してみたが、エリザは答えをはぐらかすばかりだった。

そんなこんなで舌先の皆と念話を楽しむうちに、地殻の安定化は終わっていた。
毎度のことだが、地表を星に戻す時に住人は残念そうな声を上げる。
それがまたエリザには愛おしかった。
お別れを惜しむ人たちをなだめながら、ふと、悪い考えが浮かぶ。
(でしたら、私の口に永住しますか?ふふ)
不可思議な提案に何も反応を返せない住人を尻目に、持っていた星を口の中に入れる。
そして

パクン

口を閉じてしまった。
(これで、悪い宇宙人に襲われることも、隕石が落ちる心配もなくなりますよ)
イタズラっ子のように笑うエリザだがその顔は住人からは見えない。
歯よりも小さな星は口内を頼りなく漂っている。
温かい空気が大陸を包み、山より遥かに高い唾液の津波が都市を綺麗にする。
住人を乗せる舌は不安を落ち着かせるかのようにゆったりと揺れている。
恐怖と絶望しか無いようなシチュエーションのはずなのに、住人は落ち着いていた。

こうして肉体的にも精神的にも星を癒やしたエリザは、舌を持ち上げて大陸を星に戻す。
舌と唾液にもみくちゃにされた星は、元の姿となって口から取り出された。
「ごめんなさい、すこしやりすぎちゃいましたね」
はにかんで謝るエリザに感謝を述べる住人たち。
その態度に安堵し、寂しさを覚えながら別れの言葉を口にする。
「じゃあ、また来ます。いい子にして待っててくださいね?」
こうして、エリザの本日のお仕事は終わった。

P.S.
この件が惑星看護婦に広まり、口で星を癒やすのがプチブームになったとか。