20XX年、人類は驕り高ぶっていた。
科学技術の発展は留まることを知らず、他の生物を完全に支配下においていた。
自然災害に悩まされていた事もあったがそんなのは遠い昔の話だ。
その気になれば一瞬で地表を焼き尽くせる破壊兵器、あらゆる物理攻撃を無効化できる防御服、etc…
もはや我々を脅かす存在などいない。
人間達はこの星のヒエラルキーの最頂点に君臨していると信じて疑わなかった。

ズドオオオォォォォン!!

とある都市で突然、大地震が発生する。
強力な耐震構造により建物に被害はなく、住人も服の防護機能により怪我こそしなかったが、混乱は必至だった。
なぜなら、こんな激しい揺れはこの数百年経験していないからだ。
人類の進歩により大陸プレートは完全なる制御化にあり、
僅かな挙動もシステムの許可なしではできないようになっていた。
つまり大地震はおろか、微震すらも発生しないのが今の常識なのだ。
では何が今の揺れを引き起こしたのか?
正体はすぐに分かった。

1人の女の子が震源地に立っている。
灰色を基調としたガールスカウトを思わせる半袖半ズボン、腕と太腿も灰色のタイツに包まれ肌の露出はない。
何らかの鳥をモチーフとしたような髪型で、お尻からはこれまた鳥の尾のような何かがふさふさと垂れ下がっている。
その部分だけサイズが合っていないのか、胸の部分が窮屈そうに大きく盛り上がっている。
かなり鋭い目つきで仏頂面だが、よく見ればかなりの美人だ。
何より特筆すべきは、彼女の巨大さ。
雲の遥か上に彼女の頭があり、白く霞んだ顔が地表を見下ろしている。
人類の叡智を集めたビル群は、彼女が履くブーツの靴底程度しかない。
先程『建物に被害はない』と書いたが、それは彼女が立っている場所から離れたところでの話。
ブーツの周囲は巨大なクレーターとなっており、頑丈なはずのビルと更に頑丈なはずの地下シェルターをまとめて踏み潰してしまっている。
少女は、地面に降り立っただけで無敵の人間達に強烈なダメージを与えたのだ。

一時的にパニックになった人類だが、敵が何者か分かれば対応は早かった。
すぐさま陸軍と空軍を派遣し撃退に当たる。
地上からブーツへ、空中から顔へ、そして軍本部から体へそれぞれ最大火力の兵器を使って攻めかかる。
空中部隊は目を重点的に狙い、軍本部から飛来するミサイル群は股や胸など、女性の急所で大爆発する。
しかし、人類の過剰とも言える猛攻に対して全くリアクションをとらない超巨大少女。
顔をしかめるどころか指一つ動かさず、直立不動のまま地面を睨んでいる。
まさか効いていない?我々の攻撃が?
一抹の不安を取り払い、別国の援軍も総動員して更に追撃する。
核兵器まで導入され、爆風と煙が彼女を包み込むが顔色一つ変えずに立っている。
暫くして、出撃していた人間達は気付いた。
全く傷がついていないのだ。
ブーツの表面は相変わらず新品のようで、顔にはかすかな赤みも見受けられない。
服は一番薄そうなタイツ部でさえ、穴はおろかほつれすら付いていない。
不安は現実味を帯びて、やがて現実になる。
今までの猛攻撃は、彼女に1ダメージも与えていなかった。
急所へのミサイルも核兵器も、彼女にとってはそよ風程度かそれ以下でしかなかった。

地面が大きく揺れ始める。
先程まで微動だにしていなかった少女が突然動きだしたのだ。
ゆっくりと前かがみになっていく。
いきなりの行動に戦闘機たちは反応できず、顔やお腹、山のような胸にぶつかり大破する。
重心の移動により地面に大きな亀裂が入り始め、戦車やビルが次々に落下していく。
人間側の大惨事に気付かないのか気にしていないのか、更に動き続ける少女。
上体を十分に折り曲げ、地面に膝をついた。

ドゴオオォォォォォ……

足元から離れた2つの箇所に新たな大穴が穿たれる。
左膝にあった高級住宅街は丸ごと押しつぶされ地面と一体化した。
右膝は観光地に直撃し、8割の建物が粉砕されクレーターとなった。
更に彼女は動き続ける。
四つん這いの姿勢を取るために手をついたのだ。

ドゴオオオォォォズドオオオォォォォン…

少しのラグを挟んで、2つの巨大な手形を作り上げる。
右手側は元あった山を分断し、1000mほどあった標高は2000m以下の盆地に変わり果てた。
左手側は指の位置が悪かったために、わずかに残すこともなく山脈全てが手のひらの下敷きになってしまった。

直立の状態から四つん這いになった。
少女の動きはただそれだけ。
ただそれだけで、かなりの面積が焦土もしくはクレーターと化し、大量の建造物が瓦礫となった。
しかし、これで彼女は止まるのか?
腹の下、広大な影に覆われた、まだ無事ないくつもの都市で、最強と自負していた人間達が1人の女の子に必死で祈っていた。
頼む、止まってくれ…
もう動かないでください…!
涙を流して叫ぶ人々の願いは、彼女に届くことはなかった。


ズドドドドドドオオオォォォォォォンンン!!!!


これまでの揺れを遥かに凌駕する超巨大地震。
少女がなんの躊躇いもなく体を地面に叩きつけた。
大地が隆起し全てを上空へ突き飛ばす。
地表は裂け何もかも奈落へ落ちてゆく。
衝撃波が周囲の建物を根本から吹き飛ばす。
星自体にダメージが行きそうなほどの大災害を発生させておきながら、全く表情を変えない少女。
彼女からしてみればただ伏せただけ、なのに周囲が崩壊していく。
あまりにも力の差が開いており、何もしなくても勝手に滅びてしまう。
悪いのは、少女に対して非力すぎる人類のほうだった。

上半身で天変地異を引き起こしている一方、下半身ではまた別の被害が出ていた。
肉付きの良くむっちりとした太腿は数kmにわたってビル群を更地に変え、雲まで届く壁となっている。
間には、倒れかけたり半壊だったりするものの、何とか形を留めている都市が残されていた。
日光は彼女の尾によって遮られて薄暗く、電気インフラはボロボロで明かりもつかない。
もし足が閉じられたら、柔らかそうな太腿が都市を丸ごと挟み込み、
抵抗もなく全部すり潰されて、ただの瓦礫と化すだろう。
そんな絶望に見舞われる生き残った人間達だが、逃げる方法はある。
足先の方へひたすら進めば、彼女の支配下から逃れられるのだ。
最先端技術を駆使した高速列車や自動車は破壊され尽くして使えないので自力での移動。
しかも彼女の足は10km以上はあるだろう。
生き延びれる確率はすこぶる低い。だが0%ではない。
希望の道はあるのに、人間達は動かなかった。いや動けなかった。
都市は彼女の体温で蒸され、暑苦しく息苦しい。
まるでサウナのような環境が体力を奪う。
更に、股の部分からだろうか、ほんのり甘酸っぱい匂いが思考を邪魔する。
フェロモンのような何かが大気中にうずまき、老若男女問わず人々を虜にしていく。
こうして彼女の下半身にいる人間は、地獄のような、ある意味天国のような環境で、
彼女のことしか考えられない状態で生きながらえていた。

股下の惨状などいざ知らず、うつ伏せになった超巨大少女は人類へ新たな攻撃を仕掛けていた。
グローブに包まれた人差し指を、辛うじて無事な街めがけて突き立てたのだ。
ビルの何十倍も太い指が、ずぶずぶと地面にめり込んでいく。
建物は一瞬で潰され、その下を通っていた地下鉄も巻き添えになる。
第一関節ほどまで指が埋まると、今度はそのままスライドさせ始めた。
深すぎる、広すぎる溝を残しながら動いてゆく少女の人差し指。
通り道にあった障害物はことごとく吹き飛ばされ、地下のシェルターも全く意味をなさずに分断、破壊されていく。
ビル数十棟と地下の人工物を犠牲に、巨大な谷を作り上げたところで、指が引き抜かれる。
間髪を入れず、別の箇所に指を突き刺す。そしてスライド。
一連の行動をよどみなく繰り返していく。
動いているのは、怪獣のように都市を壊しながら進む指と、壊される街を見つめる金色の瞳だけ。
人類はすでに心が折れ、彼女への攻撃をやめてなすがままにされていた。

指先だけで蹂躙を続けていた彼女だったが、突然動きが止まり、おもむろに立ち上がる。
その際に先ほどと別の場所に手をついたため、新たに2つの大都市が手形の餌食になったが、お構いなしに体を持ち上げていく。
現れたときと同じく直立の姿勢になり、しばらく地表を睨みつけたあと、スッと姿を消した。
ようやく一方的な破壊活動が終わったのだ。
超巨大少女が降り立ってからたったの10分程度だが、その被害は計り知れない。
後に残ったのは、プライドも尊厳も自分たちの住処もズタボロにされた人間達。
巨大な足跡が2つと手形が4つ。
少女の体の起伏と巨大さを物語る広大な破壊跡。
側には見るも無惨な元大都市に、少女が指で彫った大きな大きな『ダメダヨ』の文字が刻まれていた。


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30XX年、人類は驕り高ぶっていた。
かつてたった1人の少女に手も足も出ず、いくつもの主要都市を破壊され、過去類を見ない被害を出してしまったあの日。
同じ失態は繰り返さんと、技術と科学の発展を繰り返し続けてきた。
結果として、破壊力が飛躍的に向上した兵器、耐衝撃性や耐圧性を数倍に引き上げたスーツの開発にも成功した。
今ならあの少女に傷を負わせることができる。
今ならあの少女からのボディプレスにも耐えられる。
もはや怖いものなしの人類は更に、培った技術力を駆使して宇宙進出まで手を出し始めた。
自分たちの星の周囲には常に、高出力レーザーを搭載した船団と敵勢監視用の人工衛星を展開。
別の星への移住も始まっており、第3第4惑星を手中に収める計画も出ている。
人間達は今、他星の征服に乗り出そうとしていた。


『『『また増えてる……』』』


凛とした声が星を揺さぶる。
何の前触れもなく、突然発せられた超爆音。
その衝撃波により人工衛星は全て粉砕。
船団も約7割が大破し使い物にならなくなった。
人類の星は強力なバリアによりなんとか被害は出なかったものの、周囲の星々は移住計画のあった惑星も含めてみな大爆発を起こして吹き飛んだ。
いきなりの攻撃にしては被害が甚大すぎる、何者がこんな事をしでかしたのだ。
パニックになる宇宙軍の元に、奇跡的に生き延びた宇宙船から映像が送られてくる。
そこに写っていたのは紛れもなく、あの少女だった。

歴史的な大災害を引き起こした日から、少女の姿は全く変わっていない。
灰色メインの服装や髪型、都市を踏み荒らしたブーツや仏頂面だが美しい顔。
全てにおいてあの忌まわしき日と同じだった。
桁外れの巨大さを除いては。

かつて現れた少女は、巨大だったとは言え国の中に収まっていた。
だが、今目の前にいる少女はどうだ。
宇宙空間に浮かぶ彼女のどこをとっても、我が星が大きさで勝てる部分はない。
こちらをじっと見つめる瞳は何倍もの幅があり、目そのものは更に巨大だ。
もしまばたきに巻き込まれたら、一瞬でまぶたに叩き潰され眼球のゴミになるだろう。
髪の毛は一本一本が脅威的で、この星を悠々と叩き割る事ができる長さと太さだ。
それが束となって襲いかかってくれば、あっという間に粉々に寸断される。
たった一言でこちらの戦力を粉微塵にした、何百もの惑星をまとめて食べてしまえそうな口。
息を吐けば暴風が星を削り飛ばす。息を吸えば口内で歯か舌に衝突するか唾液に包まれ溶かされる。
無意識か意識下かは関係なく、彼女の一挙手一投足がいともたやすく星を滅ぼす行為となる。
絶体絶命の絶望的な状況だった。

少女の腕が動き出す。
腰に当てていた手を離し、親指と人差指で輪を作るような形でこちらに持ってくる。
腕の軌道上にあった星々が衝突し爆発を残して消滅したが、一切彼女は気に留めていなかった。
指先の間に、砂粒のようにちっぽけな星が浮いている。
ここまでくれば彼女が何をしようとしているのか一目瞭然だった。
この星を、つまみ潰そうとしている。
人類は狂乱状態だった。
バリアがあるとはいえ先程の声で耐久力はガタ落ちしている。
数を減らした船団は指先めがけて一心不乱にレーザーを発射しているが、明らかに効果はない。
彼女の処刑を免れる方法はなかった。

グシャッ

指と星がぶつかり、抵抗虚しく崩壊していく。
質量の差は歴然で、指先は一切たわむことなく、対象的に星は簡単に形を変える。
何とか球形を維持している部分もヒビだらけでマグマが湧き上がり、見るも無惨な姿になっていた。
当然だが、バリアやシェルターも何の意味もない。
人類は、1人の少女の指先で絶滅したのだ。


『『『悪い子にはおしおき……』』』


言葉を聞き取れるものがいなくなった星に向かってつぶやく少女。
その声が崩れかけの星に追い打ちをかけ更に粉々にする。
壊れゆく様子を少しだけ眺めて、すっと指を離す。
宇宙の藻屑となった土塊が、バラバラに漂っていた。
自分の役目は終わった、もう用は無いとばかりに方向転換して飛び去る少女。
その際にふわりと浮いた髪がぶつかり、元有人星はかけら一つ残らず完全に消滅した。

こうして自称宇宙最強種族だった人類は、本物の宇宙最強種族の手によって滅び去った。