世界にはレベルがある。
普通の人のレベルは20、生まれたての赤ん坊が5、虫が1くらいだ。
まぁ、この例えでわかるだろうが、レベル差は覆らない。
赤ん坊がどれだけ天才でも、虫がどれだけ騒いでも、所詮はそれだ。
しかし、レベルに限界はないと言われている。最終地点はない。
つまり、鍛えれば鍛えるだけ、成長することができる。

もちろん人によって、最大数値はあるだろうが、しかし、それでも、数字の上での限界はないのだ。

そう、そして、私こと、勇者セラは、レベル100万。しかもまだ伸びているのだ。
時々われながら頭の悪い数字だと思うことはないわけではない。
しかし、勇者である、私には、ふさわしい力だろう。
巨大な竜にだって負けたりしない。

そして、私は、近々、行方不明になった姉を探してほしい、と少女から頼みを受けて、町から離れた森の中に歩いて行った。
そうして、おそらく原因がいると思われる館に突入したのだ。

そこで見つけた、ノア、と名乗る女は明らかに、王の風格を身に着けた、敵。
装備は万端だった。だが、だがしかし。

なら、なぜ最強であったはずの私は、床に倒れているのだ
なんだこの女は。いくらなんでも強すぎる・・・・・・。相手の行動を私は認識できなかったのだ!
魔王ですら退けられると言われ!国で最も強い私が!


レベル…一体いくらなんだ。勇者にだけゆるされた、レベル測定の魔法をかける。
全く気にしてないのか、抵抗すらしない。…なんだ、魔法の、ふ、ふぐあいか。

「い、いったい!れ、れべる、何桁なのだ!」

そう、私の脳裏に浮かんだ数字は、長々と続く数字の羅列。
私のレベルが1000000だというのに、そんなものは、物の数にも含まないような、そんな長い数字の羅列が私の脳裏に浮かぶ。

「くっく、僕のレベルが知りたいの?ふふ…そうだね。宇宙の中に漂う、チリの数と同じくらいの数字・・・・・。
君たち程度なら、呼吸だけで倒せちゃうような、そんなレベルだよぉ?」

嘘だ、と思いたい。だが、思うことなど、できない。現実を突き付けられている。
そして、動けと思う意思に反して、体全身から力が抜ける。
まるで、私がよく、罵っていた、命乞いをする悪党のように。
もう、だめだ、脳裏に浮かぶのはその言葉だけだ。

「あー、そっか、なるほどねぇ。うん。レベルがわかるなら君が勇者なんだね」

にっこりと、笑顔で言う女性。
そう見られるだけで体が動かなくなる

もはや、私の命運は、この女に完全に掌握されてしまった。
まだ、一度しか相手が行動をしていないというのに、もはや脳裏に浮かぶのは、
いかにこの化け物にやさしく殺されるかを想像することだけだった。

ゆっくりとノアは近づいてくる。

「暴れまわられると困るんだよねぇ、調度品せっかくいいものを集めたのに。ボクは修復系統の魔法は使えないしさ。
かといって殺しても復活するんだよねこういう子は。勇者って子は」

バレている。私が文字通り、死んでも殺されきれないということを。
あぁ、なんということだ。これでは、自決もさせてもらえないだろう。
あっさりと、完全に詰みにされてしまった。

「ん・・・あぁ、くく。なら、そうだ」

そういうと、ノアと名乗った彼女は、私に近づき、ゆっくりとキスされる。
唇を、奪われる初めてを///
・・・・!思い切り突飛ばそうとして、無意味に、終わる。やわらかい胸を触る以上のことを今の私ではできなかった。
いや、だが、これで終わるのだろうと考えるなら、むしろ良かっただろうか。

しかし、いつまでたっても、死んだりはしない。
では何が起こっているか・・・・・・。
集中すると、体の力が、少しずつ、抜けていく。

「エナジ・・ィ・・・ドレインか・・・」

気力を奪う、吸収の魔術。
確かに恐ろしいが・・・そうか。魂ごと飲み干すつもりなのだろう。
これなら、魂は彼女の腹の中で溶かされ、私という存在は彼女の栄養となり消える。

しかし、違ったのだ。彼女がやっていたことはもっと恐ろしいことだった。

「そんなつまらない技使わないよ。ボクが使ったのはレベルドレイン。君の経験と記憶をそのままに、純粋に、力だけを奪ったのさ」

「けい・・・けん・・・!?」

「そう、ほらぁ、自分のレベルを確認してみたらどうだい?どんどん失っていくよ?」

慌ててレベルを確認する。そう・・・・・・。
そのレベルはどんどん下がっている。

彼女の唇はもうすでに離れているというのに、ぐんぐんと、レベルが下がる。
あの短時間の接触でも、絶大な影響があるのか、いまだに数字(レベル)は減っていく。
もう。古竜のレベルを大きく下回った。
体中の力も衰えて・・・体も・・こころなしか・・・・ちいさく!

「言ったよね?僕は君を殺したりしないよ?だって、それじゃあ一瞬だしね。おもちゃにするには、全然つまらないよ。
それに、君みたいな子には全然効かないだろう?さすが、勇者だね。すごい精神だ。死んでも何度も立ち上がるなんてね」

でも、といい、魔王は笑う。

「果たしていつまで心が持つかなぁ?レベル。まだ下がってるよ?」
レベルはすでに、一万を切った

「どうかな?君が鍛えた、積んできたすべてが、一瞬で、たった一度のキスで消えていくのは」

しかし、まだ、止まる気配はない。
レベル1000ももうすぐに切ってしまう。

それでもまだ止まらない、もはや、凶悪な魔物には一瞬で食われてしまうだろう。
しかし、まだ止まらない!100を切る。もう、一般的な鍛えた兵士に圧倒される!
それで止まるわけがない!彼女は言ったのだ、すべてだと、この程度で止まるわけがないのだ!

レベル19。一般人を下回った。もはや、私の体は、旅をし始める前の幼い体よりも、さらに小さく、スケールが下がっている。
レベル10、そこらそう辺の子供なみだ。いや、子供よりも、大人に近い体つきのせいで、余計に細いだろう。
レベル・・・5赤ん坊と同じ。いや、未満なのだろう。私には、わかる。
そして・・・・レベル1。
私のレベルは、とうとう、ムシケラとならんだ。
そう、それは、当然、肉体も・・・。当然のことだった。

このような姿では、もはや、蘇生されたとしても気が付かないだろう。
万一祭壇に復活したとしても、シスターの足で踏み粒されてしまうのが、関の山だ。

そして、もともとの差以上に、ノアとの、魔王との差が出てしまった。
これでもはや本当に何もできない。
この、魔王に勝つ手段など存在しないのだ。
さぁ、この女は、いったい私をどうしてくれるのだ。

「ふふ、君には、ボクのおもちゃ、もとい、部下になってもらおうかなぁ?魔法使い的に言えば、使い魔、だね。」

「ふざけるな!」

ふざけている。
これだけのことをして仮にも勇者が従うと思うのだろうか

「でも、もう契約は完全に終わっているからねぇ。破棄なんてできないよ。君には」

なん、だと!?

「クク、キスは昔から契約の代名詞じゃないか。そんなことも知らなかったのかい?
まぁ、もっとも、どちらかと言うと粘膜接触が大事なんだけれど」

笑う魔王は。どうみても悪魔だ。魔王だから、当然なのだが。
しかし、そこから読み取れるのは、ただの無邪気さだけ。
悪人ではなく、ただ純粋に楽しむために。そうしている。

ということだけが伝わってくる。
契約によって、彼女とつながってしまったからだろうか・・・。

「さてと、じゃあ、さっそく、実験・・・っと」

そういいながら、足を思いきりこちらに。私の真上に降りおろす。

小さな私は、ノアの行きなりの行動に反応すら許されずすりつぶされる。
グジグジと、素足で踏みにじられる。
まさに、虫けらにふさわしい最後。
…しかし、いつまでたっても、原型がなくなっても意識が消えない。
なのに痛覚だけが頭を刺激してくる。

そして、数分もたたないうちに、激痛とともに、体が、その場で再構成される。

「くく、実験成功だねぇ。ついでに、自殺防止と不老不死になってもらった。これで、この世界に勇者はもう生まれないねぇ」

そう、言われてはっと気がつく。
再生したのは…女神の加護の力ではないこの、圧倒的な力を持つ…魔王の力だ。
そして、勇者は、一人しか生まれない。女神の加護は私の中にとどまったまま。そして、私は今、死ぬことがなくなったのだ。
つまり、二度とこの世界に勇者は生まれない

「よろしくね?使い魔ちゃん」

こうして、勇者セラは世界から消え。
魔王ノアの小さな使い魔セラが誕生したのであった。

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魔王 ノア
外見は、角を持った女性。
胸が大きく、また、背もかなり高い。
そこにさらに相手を縮小したりして差をつけるものだから、その体はまさに巨神。
普段はのんびりとしているためわからないが、相手を小さくした後の振る舞いはまさに魔王。
しかし、その普段のため、初見では危険性のある人物に見られず油断を誘う。
なお、ロリっ子姿にもなれるらしい。