あまり触れたことはなかったが、ラーシル。
彼女は世界樹の種から生まれた。
……いや、それは正確じゃない。
もっといえば、彼女は、そもそも、世界樹の種ではない。
たまたまメイシアが拾ってきた、タンポポの綿毛だ。
だが、それは、あまりにも、……たった一年で別れを告げないといけない植物なんてあまりにも、寂しすぎた。
だから、ちょっといじっただけ。
世界樹。
……そう、正しくは違う、世界を喰らい、世界を実らせる。
最終的に世界の創造主になりうる存在へと成長する植物。
そのくらいになれば、枯れたりはしないだろう。
世界を作ることなんてボクにとっては、呼吸以下のことだったしね?
それに、どうやっても消えないボクよりも年下である時点で、性能差が埋まるはずがない。
そう、そうであるはずだったんだ。
だって、年齢というのは本来覆らないものであるのだから。
『ねー?まおーさま?』
ぐらぐらと、脳を揺さぶるような爆音。
今、ボクは、マキからラーシルに手渡されたばかりだ。
そして、彼女の部屋に連れていかれる、とばかり思っていたのだけれど。
よく考えてみれば、彼女は植物、ゆえに、狭い部屋は好みでないのだろう。
『まーおーさーまー!』
「ご、ごめん!お、おとがおおきくてふらふらしてた」
『あ、そーだよねー、まおーさま、ほんとーちっちゃいもんー』
ぐさり、っと、胸に刺さる。
無邪気な鋭い刃。
そうだ、大きさ。
それが、今のもっともな問題だ。
これほど差が出れば物理的な行動にもさしさわりが出てくる。
どうにか、しないと……。
『ふふー……。ほんとうは、わかってるんでしょうー?どうしようもないと』
ラーシルの言葉に、体が、ビクリ、と、震える。
『ラーシルはせかいじゅ。せかいをくらい、せかいをみのらせ、……せかいにねをはる。
ふふ、ねをはるってね?みえるの、せかいのうちがわが』
世界の、内側?
『うん、せかいって、いっぱいいみがあるんだよー?まおーさま。
たとえば、こころのなか、とか』
っ……。
『うんうん、まおーさまは、あたまいいもんねー。いまのらーしるたちにはぜんぜんおよばないとしても、
……追いつけないって、わかってるもんね?』
そう、追いつけない。
当然だ。なぜなら、メイシアの空間から出たために、時間は正常化した。
ゆえにボクの体も、皆と同じペースで成長する。
これは別に問題ない。
だが、そう、使える時間は同じだ。
ボクにできることは、ほかの子でもできる、と、メイシアが言っていた。
ならば、時間をいじって先回りしようとしても、同じことをされるだけ。
つまり、だ。
『うん、そーだよー?まおーさまは、もう、ラーシルたちにおいつけない』
『でも、あんしんして?ラーシルたちは、まおーさまに、あくいをむけない』
『ラーシルたちが、まおーさまをまもってあげる』
『だから、・・・・・まずは、らーしるに住んでみよ?』
響く声は、何重にも、何重にも重なるようになり、ボクの意識が、ゆっくりと、落ちた。
「っ……ここ、は」
ふいに、意識が覚醒し、あたりを、軽く見回す。
土の匂いと、川のせせらぎ。
辺りは、森?
「どこかの、惑星・・・・・?」
『ちがうよー?そこはー、ラーシルのからだのうえ、だよ?』
「ここ、が?」
この三日間。
メイシアの指紋、リザのおっぱいの上、マキの体表。そう、回ってきたが。これは明らかに違う。
なにせ、生きている。
自分の大きさを考えれば、細胞程度の大きさの場所のはず。
だが、そこに、確かに世界として成り立っている。
『ふふ、ラーシルは、世界樹……。だから、ラーシルのからだのうえ、すべて、せかいなの』
あまりのスケールの違いにめまいがする。
別に、ボクは小さくなっていない。
だから、この草も、木々も、それだけで、一つ……いや、数億の世界と同じほどの大きさがある、そういうことになる。
『ねー?まおーさま?まおーさまは、そこでずーっと、たのしんでいていいんだよー?ぼうけんしてもいいし、ごはんたべてもいいし、そこでだれかとえっちしたりしてもいーんだよ?
ずーっと、ずーっと、ラーシルが守ってあげる。ずーっと、ずーっと、ラーシルの上でくらして?』
依存しろ、弱さを認めて、自分のものになれ、そう、刷り込んでくるラーシル。
『ちがうよー?まおーさまは、みんなのもの。……でも、すむなら、らーしるがてきにん、だって、みんなはからだにこんなせかいみのらせれないから』
『ねぇ?どう?ラーシルのせかい、きれーでしょ?ここなら、まおーさま、いっぱい、いっぱい、たのしく、くらせるよ?』
風の四天王は、ボクを支配する。
外は厳しい、だから、中にいなさいと、優しく、優しく、声をかけてくる。
『今は、明日まで、だけど、……ふふ、えいえいんに、いたく、させちゃうんだから』
台風の目に、閉じ込めるように