さて、ところで諸君安斎の魅力はどこだろう?
色々あるだろう。服装、スタイル、なかには、ツインドリルに引かれるなんてのも、
あぁ!だが、だがしかし、私はあえて宣言しよう!普段は指導者としての立派な姿!だが、其裏にあるのは確かな母性!
では、母性とはなんだろうか、…そう、包容力であろう。だが、だが!私は彼女より背が高い、故に、彼女を巨大化させることにした。
(黒森峰隊長:西住まほ)
『・・・・・・それでかぁ!西住ぃ!』
淡々と説明していた私の目の前には、大きく巨大化した安西がプリプリと怒りながら私を見下ろしていた。
とある筋から手に入れた巨大化薬。
高くはあったが、コツコツとためていたおこづかいを叩いて買ってみたのだが。
「まぁ、落ちつけ、安斎」
『これが落ち着いていられるかぁ!?どーするんだよ!?私、ビルとかよりも大きいぞ!?』
「あぁ、おおよそ、50mというところか?」
ズドン!っと興奮した安斎の脚が、大胆に街の中心を踏み潰す。
『ってあー!?ま、町が!?ど、どうしよう?に、西住』
慌てる安斎の姿。
ふむ、・・・・・・もともとは母性という面を求めていたが、これはこれで、悪くないだろう。
「大丈夫だ」
『そ、そうだよな!何か考えてやってるんだよな?!』
「いざとなったら私がお前を守るさ」
『そうじゃなぁーい!?この状況をどうするんだってことだ!!』
そういいながら、いつもの小さな体でのオーバーリアクションを、今の巨大な体でとるものだから、町中が一瞬でめちゃくちゃになっていく。
安斎の地団駄は、小さな地響に、大きな声で少し飛んでくる唾は、地団駄により飛び出してきた人々を包み込み、襲い掛かる。
・・・・・・すごい被害だ。圧倒的ですら言葉が足りない
あぁ、そうか。蹂躙。
あの時の島田愛里寿やカールの砲撃。
あの時のような蹂躙を思い出す。
・・・・・・背筋がゾクゾクとする。
街並みが破壊されているのに、私は、興奮を。
『お、おーい?西住?』
巨大な安斎の声のおかげで、我に返る。
「あぁ、すまない。それで、なんだ?」
『なんだじゃない!?どうやったら戻るんだ!』
「あぁ、それなら、ちゃんと薬の説明書に書いてあったぞ」
『本当か?!』
「この薬を・・・・・」
『呑むんだな!?』
そういうと、器用に私の手のひらから瓶の薬をとり、ひっくり返し、そして胃の中に収めた。
『ふぅ・・・これで、すぐ戻るんだよな?西住』
「すまない、あの薬は塗り薬だったんだが」
『へ?!そ、そんな!?ど、どーし・・・っ!?』
「安斎?どうした?!」
安斎が急にうずくまる。
頬は紅潮して、苦しそうだが・・・・・。
「薬自体は安全のは・・・ず」
『な、なにか。わかったの・・・か?』
「あぁ、どうやらあの薬は、飲み薬として使った場合、再度巨大化するらしい。それも今の数百倍」
『す、数百倍?!ってことは・・・・・・ご、五千メートルくらいか!?』
「・・・・・・五万メートル以上だな。キロメートルになおせば五十キロメートルほどか?」
『ご、ごじゅっきろぉ!?』
ビリビリと、世界が揺れる。
戦車乙女でなければ、即死レベルだろう。
事実、街は安斎の驚きの咆哮により、ビルが崩落し、電柱は至る所で砕け散り、学園艦も巻き起こされた津波にバランスをとるのに必死になっている。
『どどど、どうしたらいいんだよ!?西住』
「・・・・・といってもだ、解毒薬は安斎が飲んでしまったからな。心配はするな」
『するよ!?しないほうがどうかしてるだろぉ!?』
「大きな声を出すと町がなくなる」
『うぅ・・・・・・』
いや、すでに亡くなっているのだが。
一体どれだけのものが安斎の足の裏で消えて、安斎の声を聴いただけでかき消されただろうか。
彼女の上空を飛んでいたはずの飛行機も、安斎の体にぶつかり、爆散していた。
正直に言えば、私は興奮している。
戦車に乗っているときでさえ、感じなかったほどの興奮が胸の奥を突き動かす。
なぜだ?
人が死んでいるのが見えている。
街がなくなっていくのをみえている。
もはやこの町が安斎の重さに耐えきれずに沈み始めているのが見えている。
だというのに、私の口元に浮かぶのは笑みだけだ。
笑い声を抑えるのも大変なほどに。
『・・・・・・?あれ?蚊?』
おそらく戦闘機か何かだろう。
国防のために、安斎を襲おうと、飛んできていた。
だが、それも、安斎の声に襲われ、まともに飛べなくなり、パチン、と無意識にたたいた掌で粉砕される。
それも、一機ではない。数十。おそらく、一国だけではなかったはずだ。
数十キロの、巨大な少女相手に、ただの少女相手に、人間は戦争以外で初めて手を組み、そして、一瞬にして粉砕された。
それは同時に、今の安斎を止めれるものがいない証明だ。
『なぁ・・・・・・。私、これからどうなるんだ?』
「さぁな。だが、私は責任をもって、お前のそばにいよう」
あぁ、どの口が言うのだろうか。
私が望んでいるのはきっと、彼女が引き起こす虐殺と破壊だ。
きっと彼女以外ではだめで、彼女以外なら、おぞましいと思った。
だが、今の私は、心底ゆがみ切っていたのだ。
巨大な瞳からこぼれた涙が、熊本を洪水の海に沈め、立ち上がるための一歩で山を踏み砕いたのをみて、私はこらえきれず、笑った。