目の前には、私が見上げる程になった、秘書艦の神風が笑顔でこちらを見下ろしている。
「・・・・・・・どうしたんだ?神風」
務めて冷静に、神風に話しかける。
私と彼女が会わなかった時間は、おおよそ、5時間。
連絡は4度。
敵の発見、殲滅。
これを合わせて二度ほど行っただけ。
その間に何があったというのか。
しかし、神風は、特に何もなかったように平然と。
「ふふ、レベルアップしたのよ、司令官♪」
楽し気に私を見下ろしながらそういった。
「レベルアップ?」
「そ、簡単にいえば強くなったのよ」
強く。そういわれて、神風の身体を見る。
・・・・・・。
たしかに、最初の3倍。
小学生低学年と変わらなかった彼女の体つきをそのままにスケールを3倍にしたような姿。
これは、たしかに。
間違いなく強くなっているだろう。
なんせ、三倍だ。
質量でいえば9倍だったか?
艤装のほうも合わせて大きくなっているのだから、当然ごつい。
「ほかの艦娘もそうなるのか?」
「当然じゃない、もっとも、どれくらいになるかは司令官次第だけどね」
とん、と、指先で押されて、椅子ごとひっくり返らされてしまう。
目を開けると、あちゃーっといった顔をした神風が、机から身を乗り出して、私のほうを覗き込んでいた。
腕に力が入っているのか、神風が手をついた執務机はみし・・・ぎし・・・っと悲鳴をあげている。
「だ、大丈夫?」
「あぁ、問題ないよ。ちょっと痛かったけれど」
どうやら、力の加減ができない・・・・・。
というよりもむしろ、此方の耐久性を推し量れなかったようだ。
「ごめんね、まだ、慣れてなくて」
わずか五時間の間にこれほどの変化が起きたのだ。ある意味、当然だろう。
くいっと、のびた制服の袖を引っ張られ立ち上がらされる。
私の体重など指先2本で十分、といったところだろうか。
・・・・・・よく考えれば、あの艤装だけでも私の数倍は重そうだ。
ある意味、当然か。
「んー、でも、このペースは平均的な艦娘の伸びに比べるとかなり速いペースね」
「そういうもの、なのか?」
「えぇ、たしか資料が・・・・・・」
四つ這いになり、私サイズの棚をごそごそと、あさり始める。
たった3倍、というのは、しかし、数値にすれば360センチ。
ふつうの成人男性からしたら、2倍程度か。
寧ろ、この鎮守府内を動き回れるのも、異常なほどだ。
・・・・・・いや、まて、そんなに広かったか。
「あ、あったあった。これよ」
指でつままれたそれは、しかし、私には大きな資料冊子で、受け取ろうとしたときに大きさを実感してしまう。
そこに書いてあったのは、艦娘の巨大化について、食事の量などは少し多くなるものの、常識の外に出ない件。
そして、やはり、鎮守府の特異性。
鎮守府そのものも艦娘のレベルアップに合わせて巨大化することが書かれていた。
「体のわりに燃費もいいのか・・・・・」
「えぇ、たとえ戦艦クラスの大きさになっても使う資材は半分にも満たないわ」
納得。
「・・・・・いや、まて、それでも君の食事があるだろう?」
「大丈夫よ、私も同じで、人間と同じくらいしか食べれないから」
グルルルル・・・・・・と、低い獣のうなり声のような大きな音がする。
おとの発信源は、前。
前には、神風。
頬は、赤い
「・・・・・・・司令官、今あなたは何も聞かなかった!いいわね!」
「んぐ?!」
ぐーっと、体を強くおなかに押し付けられる。
そうすることで、ギュルルルル・・・・・という、大きく、うなる音が逆に聞こえてしまい、こっちが赤くなってしまう。
「あー!?もう!司令官!ごはん!ごはんいきましょ!」
腕をつかまれ、持ち上げられ、引きずられる。
結局、おなかの音は、麦ご飯を、2杯食べ終わって、しばらくするまで聞こえてしまった。
「~~~////」
「す、すまなかった」
顔を赤くして、座り込む神風。
「・・・・・・うぅ、と、とにかく!司令官にはもう一個!仕事をしてもらわないと!」
「もう一つ?」
「そう!建造よ!」
「・・・・・・?艦娘は、深海棲艦の死骸から生まれるわけじゃないのか?」
「・・・・・・ちょっとそれは、語弊があるのよ。まぁ、提督以外はできないからみんな気にしないんだけれど」
ついてきて、と、手を引かれる。
・・・・・・子ども扱いしないでほしいが。
この体格差では。どうしようもないか。
「ここが工廠よ!ここで私たちを建造できるの」
「私たち、ということはやっぱり」
「えぇ、といっても、複数の同じ艦娘は同時に同じ鎮守府には在籍できないんだけど」
ごとり、と、何か・・・・・・。
いや、神風の腕ほどの長さということは、私の身長と同じくらいの大きさか。
「これは、核よ。私たちと深海棲艦。・・・・・・。どちらも同じ核これが、私たちになるか、それとも装備になるかは、運しだいだけれど」
「それって。同じって、ことなのか?艦娘と、深海棲艦」
「違うわ。ただし、同じ源流ではある。まぁ、その辺はおいおい分かるわ。ほら、資材入れて」
といわれるままに投入する部分まで連れられる。
「むかーしは、一定の資材を入れたりしたらってなってたんだけど。今は、姉妹や関連した艦娘がでるようになったのよね。例えば私なら、神風型の姉妹や、羽黒さんとかね」
どうやら技術の進歩、とかではなく、もっと別の理由からのようだ。
神風がいうのが正しいなら、戦艦の類などは、なかなか出ないだろう。
「今回指定の資材は・・・・・。これ、単位いくつなんだ?」
「ん?kgよ」
「・・・・・これで済むなら、確かに、艦を運用したくなくなるな」
すべての資材を合計しても、トン単位にすら満たない。
戦闘力も、船よりも高く人員を裂く必要もない。となれば、戦闘において、深海棲艦がいなくなった後でも艦娘を使わない意味はないだろう。
資材のセットは完了する。
4つ合わせても、120kgという最低クラスの質量。
女の子と考えれば重いが、うち最低でも70,80kgは女の子ではなく艤装に宛がわれるのだろう。
妥当としか言いようがない。
燃料や、ボーキサイトがどこに使われるかは気になるが。
「数字がでたんだけれど、18:00?」
「あ、それなら新しい艦娘が来るわ。今回はバーナーでいきましょっか」
「バーナー?」
「えぇ、これこれ」
神風がひょいっと持ち上げるのは、火炎放射器。
それを、建造している、ドッグに向けて。
「って、待て!?」
「ファイヤー!」
神風が背負うほどの大きさの、火炎放射器によって、建造所はあぶられる。
そして、鎮火するころに、目の前の神風が背負っていたバーナーが、ズドン!っと、音をたてて、床に落ちる。
目の前におちた、それを、見上げる。
その大きさは、私の大きさを軽く超えていた。
小さな女の子であった神風の印象がいまだに抜けないからか、大きさの感覚が狂ったままだ。
もしうっかりと、彼女の近くにいたら、私はこの巨大なバーナーの下敷きになって、大けがをしていただろう。
気を付けなければ。
「さて!司令官!はやく、出してあげましょう?」
扉はいまだに開かないが、ガン、ガン!っと、扉が揺れている。
どうやら、元気のいい娘らしい。
私たちは、期待を胸に扉を開いた。