扉から出てきたのは、私より小さな金髪の少女。

小学生低学年くらいの背丈だろうか?

「ボクは皐月!よろしくな・・・!って!誰?!バーナーでいきなりあぶったの!あれ結構熱いんだよ!」

「・・・・・神風」

「だ、だって始めだし。18時間も待ってたら日が暮れちゃうし」

「もう!もう少し落ち着きなよ!」

小さな金色が、3倍はあるだろう大きな赤にお説教。
しゅんっと落ち込む神風は見た目相応の年齢に見える。

「まぁ、あんまり怒ってもしょうがないか」

ぱんぱんと、中でついたであろう煤を叩き落とし、此方を向き直る。

「あらためて、よろしく!司令官!」

「あぁ、よろしく頼む」

皐月の小さな手を、私は握った。

少し皐月と話し合った後、時計を確認する。

時間は21時。
流石にこの時間からの艦隊運用は、厳しいだろう。
ちらり、と二人に目線を送っても、少し眠そうだ。
ふぁ・・・っと小さなあくびをする皐月につられて、神風のごぅ・・・っという巨大なあくびの音。

迫力は違いすぎるが、それでも、小さな子供である。
はやめに寝てもらうのがいいだろう。

「二人とも、今日の業務は終わりにしよう。また明日」

踵を返して、部屋に戻ろうとする私を、何かが、持ち上げる。

・・・・・・。

いや、何か、などとぼかす意味もない。

「何をするんだ、神風」

「なに、って。私たち部屋同じよ?」

は?

「いや、まて、私は上司で同じにする気は」

「いいじゃない、別に。女同士なんだから」

まぁ、確かに、その通りなのだ。
だが

「・・・・・・寝ぼけて乗られたら死ぬ」

「だ、だったらボクと」

「寝ぼけて蹴られたら死ぬ!」

艦娘の身体能力は人間と比べ物にならない。

寝ぼけた勢い任せのかかと落としだけでも、人間の家屋など倒壊することさえある。

ましてや。
ましてや、私が知っているその艦娘は、私とほぼ同じ大きさであった。

つまり、レベル1の艦娘の力でも十分にその威力を持っているのだ。

神風の体の動きから繰り出される破壊力など想像もつかない。

「・・・・・・あぁ、そういえば、実際、どんなものなんだ?戦闘」

「あー。そうね。じゃあ、明日、私と皐月で、演習をしましょう」

「ん、いいよ。負けないんだから」

「・・・・・・。その、大丈夫なのか?皐月と神風じゃ、その」

「大丈夫だって、ボクを甘く見ないでよ?」

「じゃあ、司令官、また明日、貴方の部下の力しっかりと見せつけてあげるわ!」

そういって二人は、軽い足取りで飛び出していった。

・・・・・・。私はどこで寝ようかと迷った挙句、執務室のソファに横になった。


「しっれいかーん!朝だよ!」

めごぉっと、おなかに響く一撃。
・・・・・・。
皐月が起こしに来てくれたようだ。

・・・・・・この調子でレベルが上がった後にまでされたら、まずいな。

「分かってるって。さすがにそんなに小さくなった指令官にとどめを刺すみたいなことしないよ」

・・・・・・ちゃんと理解してるようだ。
今の皐月に言われると少し心に来るが。

「あ、そだ、今ちょっと神風と相談して、はい、これにサインお願い!」

手に渡されるのは、一枚の書類。

・・・・・・演習届?

「そ、ちょうどほかの鎮守府にも新任さんがいるみたいでね?戦ってってたのまれちゃって」

朝早くから、か。
相手は・・・・・・。たしかに、情報通りなら、私と大差ない。
というか、まさに今日、着任したばかりのようだ。

「態々派遣してきたのか・・・・・・?」

「んー・・・・?」

皐月も分からないのか、と思っていると。
窓を埋めるように指がとんとんと、つついている。
神風は外で待機していたのか、窓をあけて下を見れば案の定そこには神風が。

「わざわざ、ってわけじゃないわよ。深海棲艦も、無限にいるわけじゃないし、毎日どこかしらの鎮守府の艦娘と模擬戦を行う。戦力を上げるためにも必要なことなの。」

・・・・・・たしかに、道理だ。
事実この周辺の深海棲艦も、精々駆逐級の個体が数体、海を彷徨う程度。
日本の鎮守府周辺はどこも似たような状態だ。

ならば、練度を上げるのを、轟沈の可能性のある、海域を彷徨うのでなく、演習を行うとするのも、間違いではないのか。

「・・・・・・そう考えると、無茶をしたのか?私は」

「そんなことないわよ、駆逐艦でも何でも、深海棲艦のコアを奪わないと艦娘は作れない。そういうことを先に知ってたほうが、艦娘への遠慮は減るしね。
それに、戦果もださないと、首になるから演習ばかりってわけにはいかないもの」

・・・・・・気を遣わせてしまったか。

「ほら、書類、提出したらここにのって、二人とも降ろすから」

二人くらいならなんとか座れそうな神風の両手のひらが、窓のふちに差し出された。

「おいで!二人とも」

にひぃっと、満面の笑みを下からのぞかせた。



書類を書いてから、数分後、私たちを待っていたのは、まさに皐月と神風の間の大きさの少女。
2mと・・・・・・10cmほどか?

・・・・・・倍率を考えると、もしかしたら、間というには少し小さいかもしれない。
鎮守府ごとの個体差というのは、そういうものだろうか。

「お前がここの司令官か。私は菊月。そっちの皐月の姉妹艦だ。準備はいいのだろう?やろうか」

「そっちの提督はどうしているんだ?」

周囲を見回しても彼女の提督は見当たらない。

「私の司令官は鎮守府だ。いくら私が2mを超えていても、成人男性を背負って海は渡れない。もっとも、もう10もレベルを上げればできるかもしれないが」

そういうもの、なのだろう。
10にもなれば、ポケットの中にでも閉まってしまえば移動も楽だ。
・・・・・・やるかは別として。

「じゃあ、・・・・見せてくれ。二人の戦いぶりを」

「えぇ!第一駆逐隊、旗艦、神風。抜錨よ!」

「皐月!出るよ!」

ざぁ!っと波をかき分け、二人の姿はぐんぐんと小さくなっていく。

数百メートルさきの水平線上。
私は、双眼鏡でただ二人の戦いを眺める事しかできない。

戦い方は、二人とも、全く違う戦い方をしていた。

皐月は自身の今の体を使い切る、インファイト、相手の細かな技を封じ、幾度も至近からの砲を放ち、機銃で菊月の体力を削っていく。

其処を妨害しようと動く菊月の動きを今度は、神風の大きな体により、力によるごり押しで、封じていく。

「流石に…2:1でかためられると」

菊月の脚を、神風の脚がさらい、海上で一回転する、2mの少女の体。
ばしゃん!っと、尻が海に着いた頃には、もう遅い。

「これで」

「終わりだよ」

頭につけられた、二本の主砲。

・・・・・・・。当然、抜けれるはずもなく。
菊月には戦闘不能判定が出た。