演習後。

二人が戻ってくる。


「・・・・・・。大して、成長していない?」

まだ、皐月は見下ろせる状態であり、神風も、其処まで大きさを感じさせない。

「あぁ、それは私のレベルが極端に低いからだな」

「?どういうことだ、菊月」

「艦娘に入る経験はある程度決まっていてな。私のレベルは2程度。互いのレベル差は関係ないからな。
今回MVPを取った皐月でも、精々、数十。レベルは上がらなかったということだ」

・・・・なるほど。
たしかに、菊月もまだまだ新米。
いうなれば、素人同士の殴り合い。
こと経験を積む、という話になると物足りないというのが実情か。

「さて、私はそろそろ行くとしよう。それと、今の二人ならば、【鎮守府正面海域】を攻略できるだろう」

「・・・・・・?それなら前回突破したはずだが」

「あぁ、ごめん司令官。伝え忘れてたわ。私この前、ボスじゃなくて、別のところにいっちゃったの」

別のところ・・・・・・?

「羅針盤と地図があったのに迷ったのか?」

「神風・・・・・・。説明処理飛ばし過ぎ!」

「ご、ごめん、皐月」

小さな皐月にまた叱られる。
この構図が決まりそうだ。

しっかりしてそうで、案外抜けてるところのある神風と、子供っぽそうな割に、案外なんかしっかりしてる皐月。

「こほん、えっと、深海棲艦は元から、計器を狂わせたりしてるっていうのは知ってるよね、司令官」

「あぁ、おかげで、嘗てあった電波機器のほとんど使えなくなり、殆どの電波機器も使用が難しくなった」

一般人は携帯電話すら使えないレベルだ。
まさか、この時代になって、過去の遺物となっていたものが再度売れ始めるなど、予想もつかなかっただろう。

「うん、で、ボクたちの生まれたころのものくらいまでさかのぼれば特殊処理がなくても使えるけど、海に出るとそれもおかしくなるんだ。
それの顕著なのが、羅針盤。磁石まで狂わしてくるんだから、困ったもんだよ。
海路を無理やりこえると、深海棲艦の数もわかんないから危険だし、結局相手の誘導に乗って移動するのが一番マシ。っていうのが、基本なんだ」

「・・・・・・無理やり超える・・・・・・」

「言っとくけどしないからね?以前には、鎮守府海域の航路を少し外れたら、レ級と遭遇して、近海の鎮守府みんなで殲滅って例もあるんだから」

「肝に銘じておく」

しかし、海上だと、其処まで影響を受けるのか。

電波機器以外は普通に使えていたから感じなかったが・・・・・・実際に聞いてみると随分と違うものだ。

「さて、では私は行こう。またな」

「うん、ありがと、菊月」

「気を付けて帰ってね」

そういうと、すいすいと、菊月は別の鎮守府へと帰還した。


「さて、鎮守府正面海域か」

「私たちはいつでも行けるわよ?」

「任せてよ、司令官!」

・・・・・・ふむ、確かに攻略もできるだろう。
先ほどの演習もあり、二人の士気は上々。

今なら普段よりも、高いパフォーマンスをえることができるだろう。

「・・・・・・ところで、鎮守府正面海域を攻略すると何かあるのか?」

「んー。そうねえーっと」

「南西諸島沖への道が拓けるよ司令官。そのあたりになると、この辺りと違って、艦隊の数もかなり多くなるからね。今の戦力のままだと、少し辛いけど」

たしかに、駆逐艦二人、となると厳しいか。

「まぁ、そのあたりは、ほら!建造でねらえばいいのよ!空母さんとか!ほら今は行くわよ」

「まって、まだ司令官、書類かいてないから!」

「それに・・・・・」

ぐるるるる・・・・・・。

何時か聞いた音が丁度、響き渡る。

「補給、まだだから、おなかすいたでしょ・・・・・」

「・・・・・・食べに行くか」

「・・・・・はい///」




1時間後、食休みを終えて一息ついたところで、二人の出撃を見送る。

帰ってくるのは前回と同じかそれよりかかるだろう。

ならば、その間に出来ることをしておく。

まずは、入渠の手続き。
必要になるかはともかく。待たせるのも二人に悪いだろう。
補給もそうだが、手配をしておくべきだろう。

どちらも資材はいるが、幸い、此方の書類に関してはそこまで時間のかかるものではない。
すべてに目を通しても、数分で終わる。
案外資材に余裕があるのか、その辺をうるさく言われないというのはありがたい。

次に、備蓄のチェック。
今鎮守府にどれほどの資材があるかによって、出撃、および開発なども滞る結果になる。
それはまずい。
倉庫に行き、メーターを確認する。
現在うちで使用できる資材は、全て2800。

単位がkgであるのは違和感があるが、しかし、少女の胃の中に納まると考えると小さくないといけないのだろうか。

ボーキサイト、は、空母たちの航空機を作るために必要らしい。
ならば、しばらく使うことはないだろう。

次に装備・・・・・・と行きたいが、今の私たちの鎮守府は、開発を行っていないため、装備そのものもほとんどない。
今確認しなければいけないのは、模擬弾くらいか。

中に入り、確認する。

「・・・・・・これが、神風用の・・・・・」

だいたい、私の背の半分ほどだろうか、抱きかかえると、ずしり、とする。
皐月用のはもっと小さいのだが・・・・・・。と思っていると、腕の中の神風用の模擬弾はどんどん重みを増していく。

「ま、まさか、れ、レベル、アップか・・・!?」

慌てて持ち上げた模擬弾を篭の中に戻す。
ごとり、と中に転がった弾薬は、私の背を少し超える程になっていた。

後ろを見ると皐月の篭に入っていた模擬弾も、二倍の、先ほどの神風の砲弾と同じくらいの大きさになっていた。

「・・・・・・もう少し遅かったら、砲弾に潰されていたな」

艦娘でないこの体では、彼女たちの扱う装備を運ぶことすらできない。
いや、もしも、これが、あと数レベル上がったら、たとえ重機を用いたとしても、彼女たちの弾薬を運ぶことすらできなくなるのだろう。

今更ながら自分のちっぽけなことを感じさせられる。

「うわぁ?!」

同時に、大きな地鳴りが起き始める。

目をつむり、地面に伏せ、近くにあった、空の籠の中に潜り込む。
嘗て、恐ろしい地震を味わったことはあるが、それに近い地鳴りだ・・・・・。

しかし、それも、わずかな間で終わる。
20秒ほど、だろうか。

目を開けると、世界が一変していた。

「・・・・・倉庫が、広くなっている、のか?」

見渡すと、先ほどの、数倍。
小学校の体育館ほどあったのが、今では、グラウンドほどの広さまで変わっている。

「鎮守府が大きくなる、まさか、物理的とは」

不思議の国のアリスにでもなった気分だ。と自嘲する。
或いは、きこりのジャックか。

ただでさえ、あの子たちとの差が増えていくというのに、これではますます立場がない。

・・・・・・。いや、もとより私に立場などないか。

とにかく、外に出なくては・・・・・・。む?

「・・・・・・開かない?」

おかしい、確かに、開いたのはわた・・・。

「・・・・・・あくわけがないか」

とさりと、扉の前に座り込む。

当然なのだ。
小人の私が、巨人である彼女たちの扉に何かできるわけがない。
私の数倍の大きさはある扉。

押しても引いても、ピクリ、ともしない。

倉庫は真っ暗だ、・・・・・・。心の中に暗く、影が差す。
もし、神風と皐月が気が付かなかったら。
私はどうなるのだろう。

風も吹いていないはずなのに、体ががくがくと、小さく震えていく。

だめだ、しっかりしろと、頭の中で念じても、体の震えは、収まるわけがない。
ふらふらと、先ほど隠れたかごの中にうずくまる。
あぁ。本当に、ネズミにでもなったみたいだ。

私は暗闇が怖くて、目をつむった。


「「司令官!」」

ドォオオオン!!
っと、巨大な音と揺れに、目を覚ます。

耳が、キィン、と揺れる。

「よ、よかった、司令官、どっかに、いっちゃったかと」

「大丈夫?怪我してない?」

4mほどになった神風と、3mを超えた皐月の柔らかな指先が、私の体を宙へと持ち上げる。
二人の指先は、篭の中とは、比べ物にならないほどあったかい。

不思議だ、二人の少女の手の中に納まる。
まさに、ネズミのようになっているのは、変わらないのに。
私の心の中に暖かい何かが注がれる。

「だ、大丈夫?」

「ご、ごめん!?い、いたかった?」

なぜ、慌ててるのだろう、と二人を見上げると、二人の顔がよく見えない。
・・・・・・あぁ、私は、泣いていたのか。

「だいじょうぶ、でも、ちょっと、さむいから」

もう少し抱きしめてくれないか。

私は、少女たちに、頼ることにした。