さて、実のところ。
建造というのは、なかなか難しいものだということを、私はようやく認識し始めた。

「5日間、出撃してもらったが、すまない。装備しかできなかった」

この5日間。
相手の数を考え、戦力補強という意味合いを含めて、鎮守府正面海域に出撃を続けてもらっていた。
日に4回。少し回数が多いかもしれないが、それでも、戦力増強は今の段階の私たちにとって必要不可欠である。
そして、建造のためのコアはいくつも手に入った。

演習もはさみながら、だが、出撃のたびに一つ、多ければ二つか。
合わせて、25ほどのコアを二人は回収してくれた。

だが、それらは資材を投入してもすべて、魚雷か、神風たちようの主砲か。
あるいは、申し訳程度にぬいぐるみらしき何かが出てきただけだ。

・・・・・・仕方ないので近所にある孤児院に送っておいた。
許可は取得したし問題はないだろう。
軍も使わないと言っていたし。

「ま、まぁ仕方ないわよ」

「元々、空母のほうがしっかり出たほうが珍しいんだから」

巨大な声が、執務室に響く。

ついに二人のレベルは並ぶようになった。
今後のことを考え二人ではあるが、旗艦の役割を日ごとに変えるようにした結果、皐月のレベルが神風に追いついた。
艦娘の経験は、指揮をする旗艦であるほど、高くたまるようだ。
事実、最初の二日は神風の伸びは大きかった。あまりに皐月と空くとまずいと、巨大な資料を神風に音読してもらったかいがあった

二人のレベルは、6。
鎮守府のレベルもそれに合わせるかのように巨大化して、10倍を軽く超えている。

二人の大きさも、8mを超えて、私など、跨がれてしまう。
幼児のような姿であった二人からすれば、もはや私は、30cmもない、まさに人形だろう。
・・・・・・いや、もしかしたら人形にすら見えないかもしれない。

鎮守府にしても、二人にあった大きさであるのだ。
今では、私用の部屋が早く完成しないか、と、待つばかりである。
このままだと、私が世界に取り残されてるような感覚でまともに立っていられなくなってしまいそうだ。

「後、10日、か」

「えぇ、資料を見るに、あの時間なら、間違いなく空母級の艦娘が出てくるはずよ」

胸を張る神風を机の上から見上げる。
まったく、この少女は。

「・・・・・・そろそろ、休日か」

「ん、そうね。もう司令官がきて、6日。そろそろ休暇を取っていいんじゃない?」

今の私の立場はしょせん、近海を守護する役割。
実のところ、其処まで重要ではない。
・・・・・・というわけではないのだが、そもそも、ここ数日、核を探すために出撃しすぎたため、近海鎮守府での仕事がなくなってしまった。

だが、かといって今の段階で私たちが次のところに行くのは危険。

と、いうことで、少し間を開けろ。バカ。
とまで、本部から言われてしまった。

「まぁ、ここ以外の海域は、すべて複数人で対応してるからね。今は、鎮守府は20か所くらいあるから、すぐさま戦線崩壊とかはないしね」

「まぁそうなんだが。・・・・・・落ち着かないだろう?」

「・・・・・・ワーカーホリックだねぇ、司令官は」

落ち着きなよ、と、私サイズのホットミルクを入れてくれる。
地味に気配りのできる皐月である。

「それで、司令官、休日、用事ないでしょ」

「・・・・・・まぁ、ないが」

書類仕事など、二人の仕事中にすべて終わらせているのだ。
幸いまだ、二人だからか、処理すべき申請もかなり少ない。

「じゃあ、ちょっと、私たちとでかけない?」

「うん、ボクたちも遊びに行こうと思っててさ」

「・・・・・・遊びに?」

二人が、遊びに・・・・・・。

「街が壊れるだろう。交通の便も悪いだろうし、買い物もできん。食事もまともにとれないのではないのか?」

というか、いくら艦娘に十分な費用が出るとはいえ、町に出歩けばただでは済まないだろう。
かといって、小さくなれるという話も、聞いたこともない。
・・・・・だが、巨大な艦娘など、ここに来るまで見たこともない。

「まさか、小さくなれるのか!?」

「なれたら鎮守府もこんなに大きくしないよぉ・・・・」

「じゃあ、どうするんだ?街に入れないなら遊びに行くも・・・・・」

「あ、そっか、司令官しらなかったんだね」

ちらりと皐月は神風を見た後、申し訳なさそうな顔をする神風。

「気にしていない。というか、さすがに部下がどこで遊びに言っているかまではとやかく口出ししない。気にするな神風」

「あ、ありがとう、えっと、それで・・・・・」

「あぁ。二人がいいなら、連れて行ってくれないか?だが、おいていかないでくれよ?見失われたら踏み潰されかねん」

「「ほんと!やったー!」」

ビリビリと喜ぶ声が耳を襲う。

「なら、支度してくれ。私も用意はしておくよ」

「あ、そだ、お金は使えないから気を付けてね!全部カードだけだよ!」

カードだけ、と一瞬疑問がよぎる。
・・・・・・が、よく考えてみれば、彼女たちの遊び場ということを考えれば、様々なサイズの艦娘が存在することが容易に想像がつく。

つまり、金銭では細かすぎて、やりとりが困難なのだろう。
電子カードを用いた場合なら、読み取り機の大きさに差があれど、必要な部分は読み取れる。ということか。

たしかに鎮守府内も、キャッシュカードの使用を義務付けていたが・・・・・・。
そういう理由となれば合点がいく。
鎮守府の大きさに合わせて、カードの大きさなどかえれるわけもない。
そんなことをしていたら、私がカードのおまけになってしまう。

「・・・・・・?そういえば二人の給与は?なければ遊べないだろう」

「あ、ボクらはこの、ドッグタグがあるんだけど、これに給与が振り込まれるんだ―。だからそれでお買い物ができるよ」

「キャッシュカードの代わりみたいなものですね。IDとパスワードがあれば大丈夫なのよ」

便利、とみるか、それとも、失くしたらと思うか。
・・・・・・いや。よく考えればドッグタグなど、失くしたりしないか。

「じゃあ、明日。出発時間になったら起こしてくれ・・・・・・。私はいつも通り机で寝る」

「べ、別に私たちと寝ても」

「いや、神風この前そういって連れて行って、潰しかけたでしょ、だーめ。それじゃ!司令官!また明日!」

そういって悔し涙を流す神風を引っ張って皐月が退室する。
・・・・・・もう少し構ってやるべきだろうか。

とにかく、寝よう。
私の布団は、今はもう、まともに使えないので、神風が大破した時にでた布の切れ端を利用した布団を使っている。
敷布団は皐月のスカーフだ。

どちらも案外ふわふわで・・・。
それ以上に、その、いい香りがするのだ。

鉄と硝煙の匂いであれば納得がいくが、しかし香るのはどこまでも、どこまでも柔らかそうな女の子の匂いなのだ。
しかも、服に破損をするたびに交換するから、その匂いが維持されてしまう。

あぁ、外に出たらきっと、二人の匂いで私の匂いなど上書きされてしまっているだろうさ。
もはや、どっぷりと、彼女たちの一部のように感じてしまう。

もしこれで、神風たちに運ばれる日々がくるなら、もはや私は・・・・・・。いや、今は考えないでいい。

明日は楽しいおでかけなのだ。
そんなことは、考えなくていい。



目を覚ますと、窓から、暖かい日差しが、私の目を刺激する。
眠たい目をこすり、ふらふらとしていたら、何か柔らかい物に触れる。

「おはよう、司令官。危ないわよ?」

見上げると、柔らかな壁は、神風の胸だった。

「・・・・・・いつから?」

「ずーっと♪司令官、いっつも無表情なのに、寝顔とってもかわいいのね」

「・・・・・・・忘れてくれ。可及的速やかに。恥ずかしいだろう」

「ふふ、やーだ♪ほら、早くかお、洗いにいきましょ?」

それほど、遊びに行くのが楽しみなのか、弾んだ声で手を私の前に差し出してくる神風。
もはや一人では洗面台まで行くこともできないので、慣れた動作で、手のひらの上に乗り込む。
ゆっくりと、お尻を手のひらにおいて、座り込み、彼女に運んでもらう。

たった一週間近くしかたっていないというのに。
随分となれてしまった。
戦争が終わったら元の生活に帰れるのだろうか。

「無理だろうな」

「?司令官、なにかあった?」

「いいや、何でもないよ」

あぁ、そうだ、こんなことは何でもないのだ。
私は、そう言い聞かせながら、顔を洗った。


「それで、どれくらいかかるんだ?」

「そうね、今日の位置だと・・・・・・。30分くらいかしら」

「・・・・・・位置が変わるのか?」

「えぇ、だって動いてるんだもの、ほら、行くわよ!」

動いてる・・・・・?
いったい、どういうこと・・・・・・。



そういわれて、30分。
海上にあるのは、巨大な島。だろうか。

大きさにして、おおよそ、20kmほどの直径はあるだろうか。
なるほど、皐月たちが遊びまわるには、ちょうどいい大きさだ。

だが、うごく、という意味がよく分からない。

「そろそろ、教えてくれないかここは」

「ん、ちょっと待って?すぐわかるから・・・・・・川内さーん!」

川内・・・・・・?
たしか、軽巡洋艦・・・・・・だが、どこにも

『ん・・・夜戦・・・?』

轟音を立て、目の前の巨大な島が動き始める。
なんだ!?

『・・・・・・あ。昨日休暇申請してた神風ちゃんと皐月ちゃんとその提督ね?』

目の前に顔がきて、初めて理解する。
彼女は、艦娘だったのか・・・・・・。

それにしても、巨大だ。
さっきまで、横になっていたとはいえ、数十キロメートル。
元の船など、あっという間に沈めてしまうほどの大きさ。

『さて、まぁ自己紹介。私は、慰安艦の川内よ。主に、レベル的にいえば、30くらいまでの子達の休暇のリゾート地の代わりをしてるの。
いっとくけど、私慰安艦の中でも小さいほうなんだからね?』

こんな大きさで驚いてたら、上位になった時腰抜かしちゃうよ?
と、ケラケラ笑う。
それだけで、神風たちは荒波の海に放り出されそうになってしまう。

私も、声を聴くだけで頭がガンガンしてしまうほどだ。

『まぁ、自己紹介も済んだから私は寝るわね。今日一日、ゆっくり楽しんでいってよ』

そういうと、彼女は、私たちを海から掬い上げ、自らの体の上に落とした。