「翔鶴型航空母艦1番艦、翔鶴です。よろしく・・・おねがい、しま・・・す」

意識が目覚めたとき、ここが新人鎮守府だということは、わかっていた。
つまり、私が初めての大型艦の可能性が高いって!
皆のお姉さんとして頑張らないとって。

でも、私は忘れていたの。

「初めまして!翔鶴さん、私は神風」

「ボクは皐月だよ。よろしくね!」

生まれた時期が違うってことは、その分大きさになる。
私と彼女たちの差は、10倍。


「お姉さんとして見られてないんです!どうしたらいいと思いますか!提督!!」

建造初日。
私は、提督の部屋に招かれた。

提督の部屋は、執務室の机に置かれていた。

「ちょっと今日の出撃に行ってくるから司令官とお茶してて頂戴」

と言われて、提督と一緒に机に置かれて。
机の上で話しているのもあれだから、ということで、案内されました。

「そういわれても、私も姉のように思われたことなどないぞ?」

そういいながらお茶を継いでくれたのは、私よりも、20。下手をすると30cmは小さい提督である。
ミディアムほどに切りそろえられた柔らかそうな黒髪は、しかし動きに邪魔をするほどではない。

少し長めの前髪は、意志の強そうな瞳に少しだけかぶさり、彼女の視線を少し遮る。
或いはそれくらいであるから、彼女の強すぎる視線を直視できるのかもしれない。

「それは提督が、上司で。上司然とした態度で臨んでいるからで・・・・・・」

「だとしたら君も、お姉さんらしく振舞えばいいだろう?」

はぁ、っと、優しいため息をつく。
小さな体なのに、提督はその体に幼さを見せない。
凛とした態度からか、背筋がピンとしているからか。
着ている着物も少し暗い橙色。落ち着いて見える。

「まぁ、難しいだろう。君はここでは、彼女たちの後輩だ。背丈も同格であるならば超えるかもしれないが、今の段階では、文字通り私と同じ程度。
足元にも及ばん。まず、信頼を勝ち取るところから始めたらどうだ?」

提督の言葉はつよい言葉。
しかし、その声色はとても暖かく感じる。

「提督、お姉さんみたいですね」

「よしてくれ。どうせすぐに君の眼にもつかないほど小さくなる」

「立場とかじゃないんですね。断る理由が」

頼れなくなる自分を姉と慕っても困るだけだろう。
そういう意味だろうか。

「そういえば、今日はなぜ待機を?」

「あぁ、最近は南西諸島沖で、二人の実力を高めてもらっていて。ちょうど、レベル的に10になるという感じだったからな。
翔鶴には悪いが、二人をある程度育ててからのほうが・・・・・」

「じゅう!?」

「そうだが・・・・・。都合が悪かったか?」

「えっと、提督、提督の補正って、聞いてないんですか?」



「提督補正?」

たしか、神風が、そんなことを言っていたか。

艦娘の大きさは、提督の補正とレベルによって決まる。
先日あった川内の巨大さも、よく考えれば、提督の補正ということだろう。

「実は、提督補正は、レベル10くらいまでかからないんです。提督になじむのにそれくらいかかるってことで」

ズゴゴゴゴゴゴゴと、外から響く、ものすごい地鳴り。
・・・・・・。司令部のレベルも上がったか。

しかし、前回はこんなに大きな音をしていただろうか。

「少し見てくる」

「あ!だめです!提督!」

何か慌てている。
が、気にすることもないだろう。
執務室はせいぜいエアコンがきいている以外は特に問題はない。

ガチャリ、と開けると部屋の中には強風が吹き荒れていた。

「提督!下がって!」

ぐいっと、肩の関節が外れる程の力で部屋の奥に引っ張られる。

「・・・・・今のは」

一瞬見えた景色は、机の端が彼方にあった。

「提督の補正。どうやら相当大きいみたいです。この分だと帰ってくる二人も」

その次の瞬間で合った。

『ズガァァァァァッァン!』

破裂音。
砲弾を鎮守府に打ち込まれたような音が響く。

『ズガァァァァン!ズガァァァン!ズガァァァン!』

それも、一度や二度じゃない、何十と連続で繰り返される。
だが、リズムがあまりにも均等すぎる。これは・・・・・。

「・・・・・・足音か?」

「そうです!多分、二人が、帰って来たんだと!」

ばたん!っと翔鶴は風を無視して強引に扉を閉める。
すると、爆発音のような足音は、消える。

部屋の機能の、艦娘からの被害を軽減する。が、しっかり機能したらしい。

「・・・・・助かった翔鶴」

「いえ、その、私も危なかったので」

このサイズ差は予想外。
ということらしい。

「ちなみに翔鶴。君の見立てだと、最初はどのくらいになると予測していた?」

「・・・・・・わかりません。正直に言えば、通常並かと」

「つまりこの補正は異常クラスというわけか」

「少なくとも、基礎知識に入っている限りでは、慰安艦の提督以外では最大クラスだと思います・・・・・・」

あの20万倍川内の提督か。
たしかに異常だが。

「なら、最大戦力になるわけか?大きさを加味すれば」

「・・・・・・はい。大きさの補正は、レベルの補正を上回りますから」

足音は聞こえなくなったが揺れはそのまま。
そぉっと、窓の外を覗き込む。

かなり遠くで扉が開く。
元の机から扉の距離は確か、13m。
部屋は15×15×8mのかなり大きな直方体をなしていたはず。

そして、感覚的に扉との距離は、6.5km。
遮蔽物がなければ、間違いなく見通せない直線距離。

おおよそ、500倍、といったところか。
つまり、レベルの上がった二人の大きさもそれに準ずるはず。

「・・・・・・・600mか」

「・・・・・・もしかして、二人の大きさですか?」

こくり、とうなずいてやる。
正直に言えば驚愕している。

『ただいま!司令官!みてみて!こんなに大きく・・・ってあれ?司令官は?』

『もう、神風ってば、焦りすぎ。ボクたちが大きくなったってことは相対的に、二人はちっちゃくなってるんだよ?』

『それもそうね!でもほら!部屋の中にいるはずだから』

そういう声とともにぐらり。と家が傾く。
ぎょろり、と、巨大な瞳が二つ。
紅と金の巨大な瞳。

私たちが、まさにそのまま、瞳の中に入ってしまうほどの大きさ。

『二人とも―でてきて!』

『帰ってきたよ!』

「そ、その前にクーラーを切ってくれ風で飛ばされそうだ」

『はーい』

ピッという音がして、風の音は止む。
恐る恐る、扉を開くと、巨大な箱がひとつ。

「何を買って来たんだ?」

『お祝いだよ?』

『ケーキに決まってるじゃないか!』

ばっと、箱を取り上げると大きな風と共に、あらわれるドーム球場ほどのケーキ。

『『翔鶴さん!着任おめでとう!一緒に食べましょう!』』

・・・・・・
優しい二人の贈り物。
あぁ、だけどしかし。

「「小さなスプーンをお願いします」」

二人の持ってきたスプーンでは、私たちには重すぎた。