● 第10話:巨人達のわがまま
「どう、新しい家の住心地は」
「いいよ。前住んでた部屋よりもいいくらいだ」
「あはは、違いないね」
心との突然の邂逅の後、俺と小鳥さんは新居と服の材料の買い物を終え、無事帰路についた。
輸入雑貨屋で店長から譲り受けた大きな箱が俺の新居だ。
店長には、本格的なドールハウスを作ると言って誤魔化していたが、常連だったのだろう、疑うことなく色々とアドバイスをくれた。
ライトは豆電球、タンスという名の小箱、小鳥さんがノコギリで一生懸命開けてくれた穴には、ラップと布を被せて窓と扉にした。
綿を詰めて作られた枕と布団はかなり本格的だ。これは俺が詰めた。
服は少し先にはなると言っていたから、早くも出来が楽しみだ。
そんなこんなで完成した我が家。元の大きさ換算で10畳の部屋は、今までで一番広く、解放感にあふれていた。
まるで新婚カップルの荷降ろしみたいで心が躍ったのは気のせいではないだろう。
「それじゃ私、学校行ってくるから」
「あ、そっか。というかもしかして始業式?」
「うん。久しぶりの登校だよ。ダルいなぁ」
「それはとてもわかる」
「小人さんは勉強出来た方?」
「…………まぁ、人並みには?」
「なんで疑問形なの。いいけど」
勉強は親父に言われて死にものぐるいでやったが、結局身にならなかったというか、仕事で使う事は無かったからあまりいい思い出が無い。
小鳥さんは納得したみたいだから良かったけど、少し不信感を持たれてしまったか。
「ねぇ、私の制服姿、見たくない?」
「見たいです!!!」
「前のめりすぎてドン引き。ウケるね」
これは僥倖。美少女の制服姿を合法的に見られる環境ならば、甘んじて享受する以外無い。
閉じられたクローゼットからは、衣擦れの音が微かに聞こえてきた。
やがてその音が収まると、ガラガラと大きな音を立てて扉が開き、制服に身を包んだ小鳥さんが姿を現す。
ズン、ズン、と近づくにつれ、全体像がつかめなくなるお決まりの展開。
巨大な白いソックスを目の前に振り下ろされたが、グッと堪えて尻もちは回避した。
勿論、床とにらめっこだ。下着を覗くなどという不誠実な行動は慎まなければいけない。蹴られる。
「私の足踏みを耐えるなんてやるじゃん、合格。それじゃ見せてあげる」
不合格なら見られなかったのかと思いつつ、遠ざかっていく小鳥さんに目線を向けた。
被写体となったキッズモデルのように、髪をなびかせながらクルクルと回転する小鳥さんはとても可愛らしく映った。
だがそれよりも、俺は小鳥さんの纏う制服に反応せざるを得なかった。
「こ、これは……あの伝説のお嬢様学園……!?」
知る人ぞ知る超お嬢様学園。
幼稚園から高校までの不可侵エスカレーター式。
資産家や政財界の重鎮など、選ばれた家系のみが通うとされている掛け値なしの本物。
シンプルな紺色のセーラー服が特徴的な冬服。
間違いなく、この子は本物のお嬢様だ。
「何も言ってないのにいきなり言い当てられて、かなりの恐怖を感じているんだけど。え、なに? 小人さん、制服マニアなの? あの部屋の押入れに、買った制服が入ってたりするの? うーわ、これは事案だよ。どうしよう、不快害虫は踏み潰して駆除しなくちゃ……」
小鳥さんの足が頭上にセットされる。
小汚い小虫を見るような蔑みの表情を作ってはいるものの、ニヤリと上がった口角からただの戯れである事は伺えた。
「違う違う! そうじゃなくてこれはその……仕事の関係で」
「仕事? そういえば小人さんって元々どういう仕事してたの」
「絵を描く仕事だよ。パソコンで」
「へ~、凄いじゃん。それで、制服に詳しい事との関係は?」
「学園モノの作品だと制服描くから、色々な物見て参考にしてるんだよ。その資料で見た」
「ふーん」
小鳥さんは膝を折りたたんでこちらに屈み込んでくると、まるで何かを見定めるかのように俺を凝視し始めた。
目が近い。なんだか一つ目の大魔王に覗き込まれているような感じだ。
話を変えよう。
「そ、それよりも小鳥さん本当にお嬢様だったんだな」
「そうだね。あんまり良いものじゃないよ。疲れる」
「あぁ、友達との通話が制限されてるとかね……」
「そうれもそうだし、求められる立ち居振る舞いとか人間関係とかも、私の苦手な世界だよ」
普段から気だるそうに閉じ目がちな小鳥さんだが、それが一際目立った瞬間だった。
何か色々抱えているようではあったけど、家庭環境の事もあって根は相当に深そうだ。
「それじゃ今度こそ行ってくるよ」
「行ってらっしゃい」
スクールバッグを持ち、心なしか重い足取りで扉へ向かう小鳥さんの巨大な背中に、エールの意味も込めて手を振る。
人形として連れて行ってもらう的な創作物でありがちな妄想はしたが、実行には移さない事にした。
すると、小鳥さんは何かに気付いたようにピクッとこちらに向き直り、右手の人差し指を立てた。
「連れてはいけないからね」
「存じ上げております」
本当にエスパーではなかろうか。
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「お嬢様か」
どんな雰囲気なのだろうか。
やはり挨拶は『ごきげんよう』で、スカートの裾を持ち上げたりするのだろうか。
でもちょっと時代錯誤感はあるし、案外普通だったりするかもしれない。小鳥さん自身がそういう事をしている姿が想像出来ないし。
ただ、もっとやんごとない良家の生まれとか、それこそお国の象徴的な家系だとか、そのくらいのクラスが居てもおかしくはない。
そういう人達はやっぱり凄いのだろう。なんというか、纏うオーラが違うと思う。
ちょっとお会いしてみたかったと思う俺なのであった。
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「ねぇ小人さん」
「ん?」
明くる日の夕方。
すっかり住み慣れた我が家で寝転がっていると、屋根が外されて小鳥さんの顔が飛び込んできた。屋根が取り外し式だというのは初めて知った。
「気持ちよさそうなベッドだね。私もお邪魔していいかな」
「ちょっ!?」
そう言うやいなや、小鳥さんは立ち上がり、足をこちらへ向けて振り下ろしてきた。
間一髪の所で俺自身は下敷きになるのを免れたが、俺のベッドは完全に小鳥さんの足によって踏み潰されていた。
足があげられた跡には、ベッドが煎餅のようにぺったんこになっていて少し焦ったが、綿の弾力ですぐに元通りになったので胸をなでおろした。
「この綿、足りなくなったら言ってね。この大きさだったら補充ならいくらでも出来るから」
「あ、あぁ、わかった。ありがとう」
「……」
「……」
それだけ言うと小鳥さんは、所在なさげに俺の家の前で正座し、ただただ黙りこくっていた。
何をしたかったのだろうか。
「あのさ」
「はい」
「はい、って、なんか他人行儀」
「…………どうしたの?」
「……ドーン」
「いたっ」
小突かれた。何もしていないのに、指で腹部に一撃。
もちろん、自分の顔ほどの太さを持つ、丸太のような指に小突かれたら、吹っ飛ばされて尻もちをつく。
いつもの理不尽イジメではあるが、どこか様子がおかしい。
いつもならケラケラと笑っている所なのに、今日の表情はどこか沈んでいるように見える。
「学校で何かあったの?」
「んーん。そういうのじゃない」
「それならいいけど……なんかいつもよりイジメ方がマイルドだなって」
「ハードにイジメてもらいたいの?」
「そういうのじゃなくて……いや、ちょっと興味あるけど、今はむしろ心配をしているというか」
「ご主人様の心配をするなんて生意気な小人さん。おいで、イジメてあげるから」
まるで膝枕でもしてあげるとでも言うように、ペチペチと太ももを叩いていた。
無地のグレーの半袖Tシャツに、これまたグレーの短パンというラフな部屋着姿。
いわゆる童貞を◯す服みたいな露骨な物よりも、こういうシンプルな格好の方が案外グッと来たりする。
短パンは、素肌を隠すという服本来の役割を放棄したかのように、小鳥さんの脚部を顕にしていた。
「そう言われて自分からは行かないと思うけど……」
「元に戻すためだよ。おとなしくイジメられなさい。というか本当はそうして欲しい癖に」
家の中に逃げたが、結局天井から降りてきた手に捕まってしまった。
眼前でぶら下げられ、身動きの取れない状況。不敵に笑う小鳥さんの顔が視界いっぱいに広がっている。
「本当に小さい。今でも信じられない」
「俺も今自分の目の前に、こんなデカイ女の子が居るって事が信じられない」
「私が大きいことが? それとも、こんなに可愛い女の子と一緒に居られることが?」
「……両方です」
「よくわかってるじゃない」
満足したのか、俺を床に降ろすと再び正座して沈黙状態に戻ってしまった。
「……」
「……」
「私の友達」
「ん?」
「クラスの中でも数少ない私の友達、前に勉強一緒にしてた子」
「あぁ、あの子も同級生だったんだ」
「…………ここに呼んで良い?」
なるほど、そういう事ね。
あんまり人に知られたくないという話をお互いした手前、言い出しづらい話だ。
「人に言いふらすような子じゃないから。絶対に秘密にするから」
そう懇願する小鳥さんの表情は、どこか年相応に見えた。
短い期間ではあるが、こういう表情を見せるのは珍しい。
大体は大人びていたり、ドSモードだったりしているから、余計にギャップを感じられた。
秘密を一人で抱え込めるほど、この子もまだ大人にはなれていないという事だ。
俺はそれで良いと思ったし、むしろそうあるべきとすら思った。
俺としても、お嬢様学校に通うようなお方をひと目見てみたいと言う下心が無い訳じゃない。いや、大いにある。
「烏丸さんはいいって?」
「まだ聞いてない。まずはあなたに聞こうと思って」
「俺は良いよ。小鳥さんが言うなら大丈夫なんだろうと思うし、秘密を誰にも共有出来ないのって辛いからね」
「そっか、ありがとう」
笑み。演技や嗜虐心からではない本当の笑顔。
自分でも慣れていないのか、少しはにかみながら顔を紅潮させていた。
「それじゃ次は烏丸さんだな。俺も一緒に話をするよ」
「うん」
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「おチビさんさえよろしいのであれば、問題ないのではないでしょうか」
あっさり取れた許可に拍子抜けし、烏丸さんの作ってくれた夕飯を吹き出しかけた。
「九条様なら信頼の置ける方だと思いますし、お嬢様ご自身もそう思っているのでしょう?」
「うん。大丈夫だと思う」
「お迎えの車を出しますので、日程が決まりましたらお申し付け下さい」
「ありがとう。湊さん」
小鳥さんは烏丸さんの事名前で呼ぶのか。
というか、タメ口なのか。お手伝いさんというか、まんまメイドとお嬢様の関係だ。
「おチビさん、九条様はやんごとなき生まれですので、くれぐれも失礼の無いように。もちろん、お嬢様も」
「う、うん」
「わかりました」
やんごとないなんて言葉を初めて人から聞いた。お嬢様だ。これはもう本物のお嬢様が来るぞ。
「それとお嬢様。おチビさんに床で食事をさせるのは止めませんか? なんだか申し訳ない気持ちが」
「高い所だと落ち着かないんだって」
「落ち着かないんです」
「でもだからといって自分の座っている椅子の下で食べさせるのは失礼ですよ」
そう、俺が今居る場所は、ただの床じゃない。
小鳥さんの座っている椅子の真下に広がっている薄暗い空間だ。
初めて囲む鈴河家の食卓で、俺は『えた ひにん』のような扱いを受けていた。
「失礼なのはわかってるよ。でも、こうやってこまめに点数を稼いでいけば、早く元に戻れるかなって」
「本当にわかってます……? 申し訳無さというより、おチビさんを支配する優越感が溢れてますけど」
「それは否定しない。私は今、非常に気分が良いよ」
スマホのテレビ通話機能を使って、俺の声と姿はテーブルの上の巨人達にも届いているし、こちらにも二人の顔が見えている。
声は二重に聞こえるので、なんだか変な気分だ。
というのも、元々はテーブルの上での食事を提案されていたのだが、いざ登ってみて端の方まで来た時に、少し足がすくむ程度には高さを感じたので、結局床で頂くことにした。
そこで小鳥さんが開口一番こうのたまった。
『じゃあ私の椅子の下にすれば?』
という突然の都落ちにより、今に至る。
曰く、別の場所だと間違えて蹴り飛ばしてしまうかもしれないので、椅子の下が安心という事だったが、敢えて惨めな思いをしてもらう事でイジメポイントを貯める目的もあるらしい。
それを提案している時の小鳥さんは、それはもう大層ご満悦だった。
「安全の為という事であれば、突然蹴ったりしてはいけませんからね」
「うん。これからは同意をもらってからやるよ。いいね、小人さん?」
目の前でパタパタと動く素足に気を散らされながら食事をするのは、中々スリリングだった。
やっぱり今度からは自分の家でのんびり食べたいな、と思った。
「返事がないから同意したとみなしまーす」
「わーちょっとまった!」
小鳥さんの足が忍び寄り、俺の料理をひっくり返そうとしてきたので、慌てて抱きかかえて止めに入る。
だがそれで止まる筈もなく、少しづつ押し戻されてしまう。
間一髪というところで、その足は俺を器用に摘んだままグイッと持ち上がり、椅子のところまで持ってこられてしまった。
「お食事中にお行儀が悪いですよ」
「小人さんが私の椅子に座りたいって言うから」
「それでは私の椅子に座ってもらいます。おチビさんは没収です」
「えー」
「えーじゃありません」
烏丸さんはニコニコしながら嘆息すると、おもむろに立ち上がった。
七分丈の黒パンツと、くるぶし丈の黒ソックスから覗く素肌が扇情的だ。ある意味ここも絶対領域と言える。
威圧感からか、足が地面につく度に地響きが起きているような錯覚さえ覚える。
本当は若干の地響きと重低音だが、それも近づくにつれて錯覚とは言い切れないレベルの物になっていった。
やがて、目の前に巨大な足が踏み出されると、椅子の隙間から手が伸びてきた。
「あ、まだ食べ終わって……」
声が小さかったのか、烏丸さんは問答無用で俺を連れ去ってしまう。
自分の席の近くに持っていくのかと思ったら、烏丸さんはそのままドアの方へと向かっていった。
「おチビさんと秘密のお話があります」
「ふーん」
一体何を話すつもりなのか、そんな不安を尻目に、烏丸さんは自分の胸元近くに俺を持ちながら、ズシンズシンとその巨体を動かしていた。
控えめなレースのついたパフスリーブの白いブラウスは、その暴力的なまでに大きい乳房によって本来の形を見失っていた。
一歩踏み出す度に揺れ動くソレを間近で見て、サイズが大きいと本当に揺れるんだと驚愕した。感涙すらした。
見上げると、ちょうどこちらを向いていた烏丸さんと目が合った。吸い込まれそうな碧眼。
柔らかい表情を返されたので、シリアスな話では無さそうだ。
招かれたのは前に烏丸さんと戯れに興じたあの部屋だった。使用人用の部屋なのかもしれない。
まるで割れ物を扱うように丁寧に床に置かれる。烏丸さんは綺麗に足を折りたたんでその場で正座した。
「良いのですか? あまり多くの人に知られるのは避けたいとおっしゃっておりましたが……お嬢様に脅迫とかされてませんか?」
「その事なら脅迫はされていません。むしろとても素直にお願いされましたよ」
本当はひと悶着あったけど、ここは隠しておこう。
「お願い?」
「あの子なら大丈夫だからと、自分も絶対に秘密にするから、とお願いされました」
「まぁ……」
とても意外と言った様子で手のひらを口元に当てて驚きを表現する烏丸さん。
「お嬢様と仲良くして頂いているのですね。ありがとうございます」
「そ、それはどうも」
仲良く出来ているかはわからないが、少し小鳥さんの事がわかってきた感はある。
烏丸さんにそう思ってもらえて少し嬉しく思った。
「私、お嬢様が中学生になった時から担当させて頂いているのですが、お恥ずかしい事にお嬢様の事をまだあまり理解出来ていなくて。だからおチビさんの様な方が来てくれて、本当に良かったと思っているのです。こうなったのもこちらの落ち度なので、大変申し訳なく思ってはいるのですが」
「もうそれは大丈夫ですので……家族とも連絡取れましたし」
「ありがとうございます。ですので、せめておチビさんにはここに居る間は不自由のない生活を送ってもらおうと思ってます。私に出来る事があれば何なりとおっしゃって下さい」
何なりと……そんな言葉から真っ先に連想されたのは……
「もちろん、大人の遊びも大歓迎ですよ。私も小さい人と遊ぶの好きです。あ、でも元に戻す為には少し意地悪にならなくちゃでしたね」
「あ、あはは……」
なんでこの家の人は皆俺の心を読んでくるのだろうか。そんなに顔に出ているのか。
「ねぇおチビさん? 私の下着の中に入ってみませんか?」
「ん???」
ちょっと何を言っているかわからなかったので、疑問符が大量に溢れ出た。
「興味ありませんか?」
興味が無いと言えば嘘になる。
事実、その申し出を受けてから、俺の目線はずっと烏丸さんの股間部に釘付けにされているのだ。
パンティー、それは男子のロマン。チラリと見えるソレに思いを馳せ、世の男子達は鼻の下を伸ばしてきた。
その下着の『中に入る』というのだ。想像もつかない。
いや、正確には小鳥さんのアソコというもっと凄まじい場所へご招待された事もあるので、逆に下着の中くらいなら平和なのかもしれない。感覚は確実に麻痺してきていた。
「ちなみに何故?」
「おチビさんへの感謝の気持ちと、ちょっとイジメて差し上げようかな、と思いまして。もちろん、元に戻す為に」
「あぁそういう」
なんだか『元に戻す為』が、俺をイジメる免罪符みたいになっているような気がするが、もういい。
俺は気付いたんだ。俺は結局、こういう事をされるのが好きなんだ、きっと。
「でも本音を言うと、私のわがままです。おチビさんを使って遊びたいです!」
「今までの建前を一瞬にして消し飛ばす圧倒的本音来ましたね……」
「おチビさんもわかってくれるとは思いますが、大人になると色々ありますね? つまりそういう事です」
たまってる……ってやつなのかな?
「では早速、失礼しますね」
むんずと手で全身を掴まれると、そのまま烏丸さんは立ち上がり、俺を股間の近くへと移動させた。
ブラウスを持ち上げ、落ちてこないように胸に乗せられている。黒いブラジャーは素直にセクシーだった。
胸ばかり見上げていると、視界がクルンと回転し、下の方向に向けられた。
眼下では、黒パンツとパンティーがまるで食虫植物かのように大きな口を開けて、獲物が落ちてくるのを待っていた。
「毛は処理していますし、清潔にはしているのでご安心下さい」
「はぁ……わ、わかりました。ところで、どういう向きで入った方が良いですか?」
なんだか変なことを聞くようで、我ながら『お前は何を言っているんだ?』と思った。
「そうですね……確かに今の大きさですと、入り方によっては目立ちますね。横ではなく縦に入ってもらいましょうか」
「目立つというのは……」
「はいはい、余計な事を聞くものではありませんよ」
俺の疑問などどこ吹く風で、そのままパンティーの中へと押し込まれてしまう。
生地の触り心地が全身を駆け巡る。これはシルク、いいヤツだ、多分。
仰向けに入れられたので、もちろん目の前には烏丸さんのとても大きな秘部がヒクヒクしていた。
彼女の言う通り、とても綺麗にケアされているようだ。
「履きますよ。息が苦しくなったりしたら、叩いて知らせて下さい。強く叩かないと気付きませんからね。あ、でも私へのご奉仕としていくらでも自由に叩いていいですよ。多分痛くありませんから」
「わかりました!」
いざ閉じられるとなると緊張してきた。まるで宇宙船の乗組員になったみたいだ。
パンティーのラインに沿うように身体を奥へと滑り込ませていくと、ちょうどハンモックに乗っているような角度になったので、そこで身体を固定させた。
「大丈夫です!」
「はい、ではお楽しみ下さい。好きにしてていいですからね」
開かれていたパンティーがゆっくりと閉じられ、辺りを暗黒が覆った。
パンツが黒で、光が全く入ってこないから尚更だ。
しかもスキニーパンツだったので、履く時にグイッと頭が持ち上げられた。
そのまま顔面は烏丸さんの秘部に衝突し、期せずしてそこにキスをしてしまった。
既にそこはじわりと塗れていた。少しだけ目に入ったのですぐに顔を背けたが、時既に遅し。顔面はすっかり愛液まみれだ。
「おぐぇっ!?」
顔に太ももが食い込んできた。脚の方では逆方向から太ももによる圧力がかかり、身体が思い切り捻れる。
微かに聞こえるのは地鳴り。聞き覚えのある音だ。
食事中、烏丸さんがこちらへ歩いてきた時に鳴っていた音。まさか烏丸さんは歩いているのか? どこに?
そんな事を考えている間に、俺の身体は揉みくちゃにされていた。
一定のリスムで右に左に全身が太ももによって捻られ、その度に横に向けた顔が太ももに食い込み、息が出来なくなる。
そして足踏みをする度に微振動する太ももが、全身マッサージのように俺の身体を心地よく揺さぶる。
さらに、少しづつ漏れ出る愛液がローションの役割を果たし、全身マッサージの快感はさらに加速する。
この生暖かさは、さながらサウナ、ミストヨガの類だ。デトックスまで促進される気すらした。
こんな凄い状況が、人間一人が『ただ単に歩いているというだけ』で再現されているという事実が、さらに興奮を増した。
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「はぁ……はぁっ……」
コリコリとおチビさんの身体が当たって気持ち良いです。
お人形さんではなく、生身の人間が入っているというのはやはり格別ですね。
今頃、彼は私の下着の中で大きな脚に挟まれて、身動き一つ取れずにもがいているのでしょうか。
叩かれては……いませんね。まだ大丈夫という事です。
何かあってはいけませんので、股間部の神経を集中させなければ。
「お嬢様、すみません。お話は終わりましたので、食器お片付け致しましたら今日はもう帰りますね」
「いいよ、もう洗ったから」
お嬢様は基本、私に仕事をさせない。なんでも自分でやる。やってしまう。
誰にも頼らないという意思を持っている……というよりも壁を作っている。
そんなお嬢様がワガママを言える相手は、大人には居ない。信じられないからだ。
同年代のご友人は、そういうワガママを言うような甘えてもいい対象には出来ない。
だから、年齢的には大人でも、身体の小さいおチビさんなら、と思いましたが、予感は的中しましたね。
おチビさん、この家に来てくれて本当にありがとうございます。
感謝の言葉を心のなかで唱えながら、私はお嬢様に隠れて股間に居る彼をそっと撫でます。
あ、そうです。この中に彼を入れたまま、自慰行為をするというのも面白いかもしれませんね。いつか心を鬼にして、問答無用でやってあげましょう。
「あれ、湊さん。小人さんはどこ?」
「……」
どうしましょ。おチビさんを下着の中に入れながら、お嬢様の前で平然としているという状況を作る事に夢中になるあまり、細かい言い訳を失念していました。
性癖は人を狂わせます。段取り女と謳われた(揶揄された)私とした事が、何たる失態。
「と……」
「と?」
「トイレに流しちゃいました」
「そんな訳ないでしょ。それしたら湊さんもっと青ざめてるから。で、どこ?」
「……ここです」
「!」
私が股間を指差すと、お嬢様は突然この世の終わりみたいな顔をされました。
はっ、まさか、私が彼をアソコに挿れていると勘違いしているのでは?
さらに言えば、自分も挿れた事があるというのがバレたと思い、動揺しているのでは?
ともかくこれは好機です。
「どうしたのですか、お嬢様? そんなに顔を赤らめて。まさか、おチビさんをこちらへお迎えを?」
「そんな事してないし」
「本当ですか? 私の目を見てもそう言い切れますか?」
「本当だし」
まだお嬢様への理解は浅いですが、『~だし』という喋り方になっている時は、大体照れ隠しや誤魔化しをしている時だというのはわかっています。
あまりイジメたら可哀想なので、ここでお暇しましょうか。
「疑ってすみません。では、私はこれで。早く寝るんですよ」
「うん……」
「おやすみなさい」
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「はぁ、危なかった。もう出してあげましょう……あっ」
愛液まみれになったおチビさんが、グッタリとした表情で私のアソコにキスしていました。
……死んでませんよね?
「湊さん、小人さん部屋にも居ないけど本当にどこに……え?」
「えっ」
「ふ、ふ……」
「ふ……?」
「ふしだら~!!!」
あなたには言われたくないです、お嬢様~!
● 第4話の舞台裏
『……ぅん…………』
『あっ、んぅ……はぁ……はぁっ』
□もっと早く擦って
『こ、こうです……か……? はぁ、はぁ……んんん……!』
□かわいいよ
『はぁ……はぁっっ……お汁ちょっと……出て……』
『ティッシュティッシュ………………えっ』
『ちょ……っ!』
「あれ? トラブルですかね?」
「もうこの状態そのものがトラブルだけどね」
私、烏丸湊。本名マリーナ・カラス。25歳独身。
今は部下の子と女子中学生のエロ生配信を見てるの。
どうしてこうなった。
「せっかくいいところだったのに」
「コラ、楽しむんじゃないの。人としてダメ」
「はーい」
何が悲しくてこんな空しい事をしなくちゃいけないのか。
見てられないこんなの。まだ年端も行かない女の子がこんな事しているなんて、絶対におかしい。
私の上司はビジネスマンとしては超一流かもしれないけど、父としては最低だ。
「取り敢えず適当にコメント打っときますね。ぐへへ」
「よだれを拭きなさい」
□ことりちゃん匂わせ?
□せめてお父さんであって欲しい。いやむしろ俺がお父さんになりたい
□それ、俺
『ごめんなさい、ちょっと間違って消しちゃいました。ち、違います。匂わせとかじゃないです。彼氏とか居ませんってば、ふふっ』
□それじゃ謝罪会見をM字開脚で
『えっ、M字開脚? それはちょっと疲れちゃいそうですよぉ』
『でもいいや。今日はスカッとしたいし、やっちゃいます』
□オナニーも追加で!
『ど、どうですか。見えますか。えっ、このままでオナニーですか?』
□パーカーのジッパー途中まで下ろして、左手で乳首いじって、右手でオナニーです!
『パーカーのジッパー途中まで下ろして、左手で乳首いじって、右手でオナニー? 変態さんなんだから』
『どうしよっかなー。でも全部応えちゃうと甘やかしすぎですし、今回はオナニーだけで我慢我慢。ジッパー下ろしません、乳首いじりません』
『もっと私の事……見て……ください! いっぱい……可愛いって……言って……!』
「いやぁ今日も結構キテますね、湊さん」
「闇が深すぎて……正直私の手に余る。なんとかしてあげたいのだけど」
『どんなもんじゃ~!!!』
『何して……っ!』
「あれ!? また画面真っ暗ですよ!」
「えっ」
「しかもなんか男の声が……蚊の鳴くような声でしたけど」
「…………」
何かが起ころうとしている。私には確信に近い何かがあった。
早速確かめなければ!