● 16話: 兄から玩具へ (後編)
先ほどの大人しい様子とは打って変わって、熱情でのぼせ上がった心がそこに居た。
「遊ぶって……何して」
「好きな事。おにぃがして欲しい事」
すぐ近くで動く心の口から、透明感のある高い声が全身に浴びせかけられる。
下がれば下がるだけ、追いかけてくる心の顔はあの時とほぼ同じ、幼い少女そのものだ。
おにぃと言う呼び方も変わらない。変わったのは俺だけ。
顔にすら劣る小ささに縮んでしまった今、何をされても抵抗出来ない。
それは小鳥さんと戯れている中で既にわかっている事だ。
だがその対象が『守るべき妹』だという事に、俺はより強い無力感と……被支配欲が底から沸き上がってくるのを感じた。
「女の子と二人で暮らしてて何も無いはずないよね。小鳥ちゃんに何してもらってたの? それよりも気持ち良い事してあげるから、教えて、おにぃ?」
「…………」
「おにぃが望むならここにずっと居たっていいから」
心は上半身を持ち上げると、そのまま腰を前に動かしてワンピースの裾の中に俺を閉じ込めた。
心の発する濃厚な香りと、押し付けられる下着のレースの触感により、あっという間に理性が消し飛んだ。
「ちょっとおにぃ使うね。すぐ終わるから」
背中に圧。
指で押さえつけられ、そのまま下着に擦り付けられているようだ。
いくら全身の筋肉を強張らせても、全く抵抗出来ない。
あんなに小さかったのに、今も変わらず小さいのに、細い腕、細い指なのに、びくともしない。
ただただ心の未発達なプニプニの身体に食い込んでいく。
「んぅ……はぁっ、はぁっ……」
服ごしに聞こえる心の喘ぎ声をBGMに俺の興奮はさらに加速し、心の秘部も少しづつ湿り気を孕んできた。
両手両足をX字に開いて心の秘部にしがみつくと、俺は無意識に前へ押し出すように身体を動かしていた。
「……懐かしいね……お布団の中でぬくぬくごっこ」
振り返れば、俺達きょうだいの関係性は少し歪んだものだった。
母親を失った悲しみから、お互いを支え合う内に、次第にお互いを『求め合う』ようになった。
一線こそ超えなかったが、それに至るまでの行為は何度もした。
居間で寝ていた父親に見つからないように、息を殺して布団の中で脚や手を絡め合いながらキスをしたり、お互いの性器を触らせあったりした。
10年も年の離れたきょうだい同士の歪んだ遊びは、結局俺が上京するまで続けられた。
「今なら私、おにぃのお母さんになってあげられるよ。帰ってきて……おにぃ」
心の身体が持ち上がり、ワンピースの牢獄から解放される。
全身ずぶ濡れのまま床で仰向けになっている俺を真上から覗き込み、心は涙を降らせながら懇願してきた。
「やめてくれ。もうお前に重荷を背負わせたくないんだ。もう母さんの代わりをしなくてもいいんだよ」
「じゃあお母さんじゃなくてもいい。彼女でもお嫁さんでもなんでもいいから、私と一緒に暮らそうよ……」
「俺のせいなんだ。俺が心に身を委ねて、心を傷つけたから……」
「傷つけられてない。救われたんだよ、おにぃが優しくしてくれたから」
「…………」
「恩返ししてあげるから、じっとしとーと。私、おにぃがして欲しい事、なーんでも知ってるけん」
涙をぐっと右手で拭うと、くしゃくしゃになっていた心の顔には笑みが戻っていた。
だがその笑みは、微かに妖しさを湛えている。きょうだいに対して向ける類いの物ではない。
「あんな狭い部屋でエロい情報隠せるわけなかよ、ドMおにぃ。だから小鳥ちゃんの事、好きっちゃんね?」
「………………」
「そげんちっこくなって、大の大人が女の子に何もできんで恥ずかしくなか?」
「…………やめ」
「やめん。だっておにぃ喜んどるもん。見んね、お股のところ大きくしとう。言葉責めいっちゃん好いとーの知っとるけん、やめんよ」
「なんばしよったんかなー、小鳥ちゃんは。足で踏むとか、手で叩くとか? あの子、胸はちょっと成長中やけん、胸で挟むんは出来んねー」
「お前も……出来んめえ」
「せからしか、おにぃに言われんでもわかっとるけん。私でも出来る面白い事したげるから、おとなしく動かんといて」
「どうするとや?」
「おにぃ、さっき見とらんかった? 私がゴキブリ踏み潰すん見とったよね。あぁなりとうなかったら私が歩いている時に足の下でウロウロ動かんといて」
もう綺麗に拭き取られた心の足裏を頭上にかざされ、頭にツンツンとぶつけられる。
心はわざと俺にアレを見せたのかもしれない。俺に恐怖を……いや、性欲を植え付けるために。
「ほら、ちっこい私の足にも隠れるばりちっこいおにぃ。それとも小人さんって呼んで欲しいと?」
言葉責めが続く。
正当なお叱りは何度も受けたが、こんな理不尽な口撃をされたことは今まで無かった。
「これじゃ見えんけん、つまらんね。ねぇおにぃ、私にそのちっこいちんちん見せんね? 服脱いで」
「それは……」
「しょんない、私が脱がせてあげるけん、動かんといてね」
小さな未発達の手。
触ればプニッと音がしそうな程の心の両手が、今やクレーンのようだ。
「つんつん、怖かろ、私の付け爪」
右手の小指から人差し指まで順番に閉じられ、包まれるように握りこまれる。
左手の人差し指から伸びる真紅の付け爪は、まるで人を何人も貫いてきたような禍々しさをまとっていた。
「ばんざいせんね。ほら、ばんざい。もー、こうやろ」
「わ、わかった! 脱ぐ、脱ぐから……」
右手の握りが弱まったかと思ったら、両腕をつままれ、そのまま持ち上げられてしまった。
肩が外れそうな感覚と、落下の恐怖が頭の中でぐちゃぐちゃに混ざり合う。
俺の必死の懇願にも心は応じず、宙吊りになった俺を見つめていた。
そのまま顔が近づき、キスもされた。何回も、全身が赤く塗りたくられるまで。
「ちゅ、ちゅ……んん……ちゅうぅぅ……」
柔らかい感触が寄せては引いてを繰り返す。
ギュッと押し付けられた唇に全身がめり込んでいる。
唾液が口の中で転がる音が耳に直接響き、舌なめずりされているかのようだ。
「一緒に暮らしとった時もいっぱいキスしたね」
ようやく降ろしてもらえた時には、肩の筋肉はだいぶ限界が来ていた。
「私が脱がせてあげるけん、ばんざいだけして。もう持ち上げんから」
「か、肩が痛うて肩上がらん」
「もーーーしょんないねぇ、んしょ……っと」
心のつま先が俺のシャツの裾を捉えると、そのまま思い切り上へ持ち上げられ、簡単に引っ剥がされた。
もう俺を守るものはズボンとパンツしか無い。
「こっちは……こうしちゃる。はむっ……」
「お、おいっ」
心の蕩けた顔が近づいてきたかと思ったら、俺のズボンを唇でついばむように口にくわえた。
生暖かい吐息が服の中へと入り込み、俺の陰茎はその温もりに包まれる。
心の両目は、俺の眼前で爛々と輝いていた。
昔、父に見つからないように声を殺して俺とまぐわっていた時の目にそっくりだった。
「は、恥ずかしか……そげな脱がし方」
「ひうかにふんね(静かにすんね)」
「へないほほのひっほいひんひんはみふぶしひゃるへん(でないとそのちっこいちんちん噛み潰しちゃるけん)」
何を言っているかわからないが、物騒な事を言っているのはわかった。
それよりも、声を出すことで吐き出される吐息がズボン越しに股間の温度をじわりと上げ、陰茎を怒張させていった。
「はむ……はむ……」
「おぉぉぉっ……」
心は服を脱がす事そっちのけで、俺の股間を執拗に上下の唇でプレスしている。
もう既に我慢汁は漏れ、射精も時間の問題の状態。
下半身に精一杯の力を込めて我慢しても、それを上回る心地良さが俺を襲う。
「……! はぁっ、はぁっ……」
「出たと?」
「…………で、出た」
「見せて見せてー」
口でズボンを奪い取られ、プッと横に放り投げられる。心はもう俺の射精に興味津々らしい。
舌で舐め取り一言、少なすぎて味せんね、という感想だった。
ちなみにその技術の高さから、俺は『まさか』と思い真相を問うてみたが、どうやら特に異性との交流はしていないという事だった。
安心したのやら、今後が不安なのやら……兄としては複雑な気持ちになる。
「すっぽんぽんにしたところで、おにぃにはこれからいっぱい私と遊んでもらうけん」
「すっぽんぽんにする意味が無かとね」
「うんにゃ、ある。その方が恥ずかしか。恥ずかしさはドMおにぃの大好物ね?」
目を細め、蔑むような口調で俺の性癖を言い当てていく。
「おちんちん触んね」
俺の陰茎よりもずっと太い人差し指が股間に迫る。
まるでテイスティングをするように付け爪の裏側でクイクイと小刻みに持ち上げらると、続いて指を跨ぐように座らせられ、再び電マのような微振動を加えられた。
射精で落ち着いた勃起は瞬く間に復活し、骨の髄までとばかりに搾り取られる。
その間、ずっと舐めるような視線を送ってくる心の優しい顔もまた、そんな子にこんな事をさせているという背徳感を刻みつけてきた。
「気持ち良かろ? おにぃ、幸せそうな顔しよる。にぎにぎ……」
親指と人差し指が恐る恐る俺の陰茎に触れ、双方から圧がかけられる。
少しでも間違えればあっという間に握り潰されるというスリルが脳内物質を過剰に分泌させ、蒸気でも出そうなくらい頭が沸騰し始めた。
握るだけではなく、コロコロと横に転がしたり、指紋の凹凸で傘裏を擦られたり、ありとあらゆる方法で弄られた。
「これ、ここ握ったら精子出んくなるんかなー」
「いっつ……!」
小鳥さんにもやられた射精管理……心はよりバイオレンスだった。
指で強引に先端を締め付けられ、出そうと思っても出せない。
ジンジンという鈍痛が股間から腹部にまで伝わってきた。
陰茎に精子が充満していくのがはっきりとわかる。
それと同時に、心の締め付けもさらに強くなっていく。
「や、破れるっ」
「ええよ、ピュッピュして」
緊縛が解かれた瞬間、雪崩のように精子が発射され、心の手を少なからず汚した。
それを心は躊躇なく舐め取ると、満足そうに俺に微笑みかけた。
「出すと大人しくなって、また可愛くなりよるねー」
右手をゆりかごのようにして、俺をゆっくりと揺する。
だが安心したのも束の間、身体を預けていた指という名の地面が消え、俺は地面に叩きつけられた。
そう高くない場所で、カーペットも柔らかい素材だったので、身体そのものに痛みはそこまで無かったが、突然の出来事に頭の理解が追いつかなかった。
「そいじゃ、おにぃ。今度はここに入ってもらいます」
心が手に持っているのは、先程まで履かれていた心の白いパンティストッキングだった。
両手でピンと広げられた入り口が俺を待つ事なく迫りくる。
そのまま中へと飲み込まれると、濃厚な女性の香りが鼻腔内を満たした。
「次にこれを私が履きます」
心の宣言通り、両足が勢いよくストッキングの中へ潜り込んできた。
腹部に大きな爪先が押し付けられ、そのまま先端の方へと追いやられる。
ピンと張ったストッキングの牢獄の中、土踏まずの隙間に転がり込み、薄い生地のお陰で入ってくる微かな空気を吸い込んで何とか事なきを得た。
「ずーーーっと履いてたけん、よか匂いするやろ?」
平衡感覚が狂う。ほとんど何も見えないが、どうやら、心が立ち上がったようだ。
「今度はぐりぐり踏んづけます」
かかとを持ち上げ、土踏まずに隠れた俺を爪先へと滑らせると、そのまま足の指で捕縛した。
手で押し返すと、ほんの少しだけ凹む心の大きな指。
しかしそんな力を物ともせず、圧倒的な重量で踏み潰されたまま、床に擦り付けるように右回転、左回転と踏み躙られた。
「本当に踏み潰さないように歩きまーす」
ふわっと自分の身体が浮かび上がると同時に、ストッキングの足裏部分にハンモックのように落下する。
無意識な安全行動なのか、俺は離れていく心の足に両腕両脚でしがみついた。
「夢みたいやんね、大好きな足にしがみついて。そこでシコシコしてもよかよー、踏み踏み大好きの変態ドMおにぃ」
浮かび上がっては床に背中を打ち付けられを繰り返す。
強烈な湿度と熱気、心の足の香りも相まって、三度射精の機運が高まってきた。
今この瞬間において、たった一人の大切な妹は、ただのドSゴスロリ少女となった。
俺は妹を、情欲の対象としてしか見れなくなっている。
「もう出てよかよ、おにぃ」
その掛け声と共に再び90度回転させられる。
横たえられた心の脚を這うように進んでいくと、急にストッキングの締め付けが弱まった。
「パッチーン」
まるで鉄砲水でも浴びたかのような衝撃が全身に響く。
心は俺の居る場所を目掛けてストッキングを摘み上げ、そのまま指を離して弾き飛ばしていた。
たかがストッキングのゴムですらここまでダメージを喰らう事に若干の驚きを隠せない。
その後も幾度となくストッキング攻撃は続いたが、ようやく出口までたどり着く事が出来た。
即ち、心の股間部だ。
「おかえりなさい、おにぃ。どげな感じやった? 気持ち良か? 痛かった?」
いつの間にかゴスロリワンピースを脱いでいたようだ。
上半身を晒した状態で、下着姿の心が涅槃仏のように堂々と寝転がっていた。
まっ平らな大地の向こうで、心が頬杖をしてこちらを見つめている。
「弱かねぇ、おにぃ。こんな弱い男の人は、私みたいなおっきい女の子に守ってもらわんといけんねぇ」
心底蔑むような目線で屈辱的な言葉をかけられ、ビクンと股間が反応する。
それを見た心はますます口角をあげ、身体を捻らせて股間に乗っかる俺を床に落とすと、そのままうつ伏せでのしかかって来た。
「どしーん。これじゃあ逃げられんね? ぶっても蹴ってもよかよー。あ、顔は出さないかんね、息出来ん」
一糸まとわぬ心の腹部の下敷きにされ、身動きが取れない。
顔だけを出そうと心が身を捩る度に、つられて全身が捻れる。
じわりと汗をかいた皮膚同士、つるつると動く。
ようやく顔だけを出し、一気に息を吸い込むと、地面を蹴ってロケットのように自らの身体を射出させようとした。
「ぐへぇぇ!」
「だめー、逃さんよ」
叩きつけられた蛙のような声が漏れる。
「私、40kgも無いのに、おにぃが持ち上げられん筈なか。不思議っちゃねー」
「バカ言わんね……今のお前は4000kgの超おデブくさ」
「あーーーごめんね、おにぃはお仕置きが欲しいんやったね。そんな反抗する悪いおにぃは、えずいお仕置きばしちゃる」
俺の脳内は『もっと酷い事を……もっとイジメて欲しい……』という邪な欲望に支配されていた。
もうここまで来たら何でもやる。挑発でも何でもして、嗜虐心を全て曝け出してもらう。
相手は気心の知れた妹だ。自分のやって欲しい事を全てわかってくれる。
この後、激しい自己嫌悪に苛まれるだろうが、もうそんな事を考える余地は無かった。
妹と共に、どこまでも落ちていこう。
「俺を……俺をめちゃくちゃにするばい!」
「大きく出よるねぇー! よかよか、そげんイジメて欲しいんやったら、言う通りにせんね!」
心は上半身を起こして俺を解放するや否や、乱暴に鷲掴みにし後ろへ振りかぶった。
「上手に受け身とらんと痛いよ?」
そして俺を勢いよく前へ放り投げた。
放物線を描くことなくまっすぐ射出された俺の身体はすぐに床に叩きつけられる。
頭を打たないように持ち上げ、右腕で床を弾いて勢いを殺しながら、ゴロゴロと転がり立ち上がる。
火事場の馬鹿力、やれば出来るじゃないか。だが、そう悠長に余韻に浸っている暇は無いようだ。
「ボサッとしとったら、大怪獣ココロンが踏み潰すけんね! がおー、がおー!!!」
俺にとっては校庭ほどの長さで投げ飛ばされた感覚の距離を、心はたった数歩で追いつき俺の真上に足を掲げていた。
考えるより先に床を蹴り、その場を後にする。一寸遅れて心の足が着地し、轟音を立てた。
犠牲になったGはもう脳の片隅にも残っていなかった。恐怖は既に去っていた。
「はよ来んね! どでか妹!」
「そげん口叩けるのも今のうちとや! ちびおにぃ!」
逃げる俺の背中にひときわ衝撃が走ったと思ったら、くの字に曲がって宙を舞い、危うく顔を床に打ち付けそうになった。
素早く仰向けになり、上半身を起こすと、前にそびえ立つ心の両手はOKサインをしていた。
いわゆる『デコピン』の構えだ。
「ただのデコピンで吹っ飛びよる、しゃばいしゃばい、弱っちいちびおにぃ♪」
膝立ちになって見えるようになった心の顔は、無邪気に爛々と輝いていた。
童心に帰るとはこういう事を言うのだろう。多分俺もそんな顔をしているのかもしれない。
「悔しかったら私の手に反撃してもよかよー」
「大人の男舐めんね!」
無駄だとわかっていても虚勢を張り、煽る。
精一杯の力を込め、助走をつけて放った渾身のパンチは、心の手のひらの硬さで容易に跳ね返され、逆に俺の身体がのけぞった。
そんな屈辱的な事実が俺の交感神経をさらに活性化させる。
「いっちょん痛くなかよ、おにぃ。それ本気? もっとやってみんね。ほら、手動かさんけん」
心の安い挑発に全力で乗り、烈○王さながらのグルグルパンチを繰り出すも、ペチペチという頼りない音が鳴るのみ。
反り立つクリーム色の壁には傷一つ付いていない。
手相を見るシワの方がまだくっきり痕が残っているくらいだ。
「なんばしようとやー? 弱い弱いー、もーつまらんよー、おにぃ。不意打ち膝カックン!」
膝の裏に心の指がクリーンヒットし、前のめりに崩れ落ちる。
心からしたら指先で突いたくらいの繊細な動きが、俺にとってはラガーマンが全力でタックルしてきたかのような衝撃を生む。
「蟻さんが大怪獣に勝てるわけ無いっちゃね。そんな頼りないおにぃはそうやって床ペロペロ舐めてればよかよ」
「うげぇっ!」
床に突っ伏する俺の背中に凄まじい重圧がかかる。
前にある姿見に目を移すと、腰に手を当てて悠然と俺を踏みつける心が見えた。
お腹の下で押しつぶされていた時とは訳が違う。
いくら腕に力を入れても、身体を引きずり出す事が出来ない。
「そこで情けなーーーく床オナせんね、ちびおにぃ。妹の足に踏まれたままちっこいおちんちん頑張って大きくして、いーーーっぱいピュッピュせんね、ざーこざーこ」
俺が何もせずとも、前後に踏みしだかれる内に勝手に股間が床で擦れる。
妹の未成熟な肢体の下敷きになりながら、為すすべ無く強制的なオナニーをさせられた兄など、今まで居ただろうか。
「うぅぅっ!」
「えっ、もう出したと? もーしょんないねぇ、おにぃ」
もう何度目の射精だかわからない。頭がクラクラする。
肩で息をしていると、心が再び寝そべり俺に向けて胸部を近づけてきた。
まな板にアポロチョコをくっつけたような胸部を。煽れ。煽れ。
「まな板は……いくら大きくなってもまな板ばい」
「……ちっ」
今……心が舌打ちを……?
興奮はあっという間に去り、冷や汗が全身から吹き出る。
「あのさぁ……言って良いことと悪いことがあるよ。そうやって小鳥ちゃんも怒らせた事あるでしょ。はぁ……なんか興が醒めたな」
深い溜息。
興奮で自然に出ていた方言が引っ込むくらいには嫌だったらしい。
「身体の事は言っちゃダメ!!!」
バン!!!
床を叩くけたたましい音と振動で、耳の中でキーンという音が鳴った。
少しでもズレていれば、今頃はあの手の下で複雑骨折していたかもしれない。
何より、心を素で怒らせてしまった。
心の冷たい視線に晒され、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまう。
「……ふふふっ」
「えっ……」
「ふふっ……ふふふふっ……そんなに顔真っ青にして……可愛いねぇ、おにぃ」
「お、怒ってないのか」
「怒ったよ。気にしてるし。でもそんなのどうでもいい。それよりも、おにぃのその姿見たら……ごめんね、嬉しくなっちゃった。小さく震えるおにぃを守ってあげたくて、でもちょっと意地悪もしたくて……おにぃが目覚めさせたんだよ、こういう私を」
「心……」
「悪い気はしなかったでしょ? こういう事されて」
「…………良かったよ」
「小鳥ちゃんと私とどっちが良かった?」
「そ、それは……」
「正直に言って欲しいな。じゃないと、もうしてあげない……って言っても、小鳥ちゃんにしてもらえるからいいのか」
「…………」
「黙らないでよー」
「…………こ」
「もー、敵わないなぁ。やっぱり天才ちゃんだったかー」
心は残念そうに『あーあ』と呟きながら、そのままゴロンと仰向けに寝転んでしまった。
「俺はまだ『こ』としか言ってないぞ」
「いやいや、あの時小鳥ちゃんを選んだ時点で私負けたのわかってるからいいよ。というか、兄に依存し過ぎて一緒に暮らしたいなんていうのはもう卒業したから」
「……そっか。もう心も大学生だもんな」
「そーだよ。大人の女性だよ……ほらそこ、胸を見ない。その小さい身体でも私の胸には凹凸が無いと言いたいのか、コラ。もっと良く見てみなさい」
差し出された手のひらに乗り、寝そべる妹のお腹の上に降ろしてもらう。
「這って確かめて」
「そんなん見ればわかr」
「はよ」
「はい」
仕方ないので、一糸まとわぬ心の身体を這い回る事にした。
柔らかい産毛を掻き分けながら、プニプニのお腹(太っているわけではない)から胸の方へと匍匐前進。
やがて、ゴツゴツとした箇所に到達した。
「ここはデコボコだぞ」
「うんうん、そこは自信あるんだー、ってそれ肋骨!」
「痩せてるって事だろ。いいじゃんか」
「問題はその先だよ、おにぃ。ほら、見えてきたでしょ、小高い丘が」
「うーん……」
キレイなピンク色の乳首の周りには、言われてみればわかるぐらいのサイズの丘があった。
「もっと触って確かめて」
「もういいだr」
「もー、可愛い妹が胸触っていいって言ってるんだから、ウダウダ言ってないでありがたく触りなよ! こんなの普通にやったら犯罪だよ? ○童ポ○ノで捕まるよ? ロリコンロリコン! ドMだけじゃなくてロリコンまで発症してるドMロリコンちびおにぃ!」
こうなるともう何を言っても退かないので、胸で寝転んでみた。
するとどうだろう、わずかではあるが身体が沈む。
耳が沈むと音が聞こえづらくなり、代わりに心音が響いてきた。
マシュマロのように心の柔らかい肌に包まれていると、次第に眠気が襲いかかってきた。
口を大きく開いて思い切り欠伸をすると、全身の強張りが消え失せ、余計に心の身体に沈み込んでいく。
「あ~……」
思わず湯船に浸かっているかのようなリラックスした声が漏れる。
気付いた時には目も閉じていた。
これは人をダメにするクッションだ。一生ここに居られ……る……。
「……んっ? …………おーい?」
「…………」
「もしもーし?」
「…………」
「寝おったこの兄」
「…………」
「もー、風邪ひいちゃうよ……」
遊び疲れたのか、俺は妹の胸クッションの中で深い眠りについた。
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「うーん……あれ、夜……?」
寝ていた事に気付いた時には、周りはもう真っ暗だった。
今日は心の家に泊まる予定だったので、どこかに寝かせておいてくれたのかもしれない。
「うおっ」
起き上がろうと床に手をついたら、ぐにょっという感触がした。
そうだ……心の身体の上で寝ていたんだった。もしやそのまま!?
申し訳無さでいっぱいになりながら、なるべく起こさないようにゆっくりと立ち上がるも、どうやら何らかの物体に覆われているようだった。
「起きたー?」
心の声だ。
寝ぼけている様子も無い。俺を起こさないように、ずっとこの姿勢を続けていたのかもしれない。
「起きたよ。ごめん、ずっとこのままでいさせちゃったか?」
「もー、いくら私の身体の上が気持ちよかったからって寝ちゃうとは思わなかったー。服どかしたら電気で目びっくりするから気を付けてね」
心の言う通り目をしっかり閉じたまま待つと、まぶたに光を感じた。
ゆっくりと目を開け、吊るしてある電灯から発する光に目を慣らしていく。
俺を覆っていたのは、心が着ていた黒いゴスロリ服だったようだ。
「心はこういうの着て大学行ってるのか?」
「んーん。さすがにドン引きされるよね。これは部屋着……レア部屋着」
「レア?」
よくわからない概念への疑問を投げかけると、服を着終わった所で心がイタズラそうな顔で口を開く。
「小鳥ちゃんをちょっと驚かせてあげようかなーって、買ってみたの。悪い子悪い子♪」
「いやぁ……小鳥さんをイジるとかいい性格してるよ……」
「九州の女は舐められたら終わりやけん。で、どう? 似合ってるでしょ?」
「あー似合ってる似合ってる」
「今度は靴に入れてあげようか、ちびおにぃ」
その後、俺が帰る時まで、心は『自分とずっと一緒に居よう』とは言わなかった。
ただ『良かったらまた遊びにおいで』とだけ言われた。
それが本当に決別出来たからなのか、単に我慢しているだけなのか、俺にはわからなかった。
「小人さん、何もされなかった?」
「別に何もされてないよ。心配はされてて、怒られたけど」
「……そうだよね。家族が失踪したらそうなる……よね」
そう呟きながら車窓の外を遠い目で見つめる小鳥さんの寂しそうな姿は、なんだか心に似ている気がした。