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 26
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私は学校という場所が嫌いだ。

6月21日(木)晴れ
入井さんにおなかを蹴られた。
入井さんに足を蹴られた。
女のほうの杉本さんにシャーペンをとられた。

6月22日(金)晴れ
入井さんに髪の毛を引っ張られた。
入井さんにおなかを蹴られた。

6月23日(土)曇り
一日、本を読んですごした。
すごしやすい一日だった。

6月24日(日)晴れ/雨
シャーペンを買った。淡い緑色できれいだ。
夕方、雨が降った。が、特に問題はなかった。
明日は学校。

6月25日(月)曇り
入井さんに顔を叩かれた。
女のほうの杉本さんにシャーペンをとられた。


私は学校という場所が嫌いだ。


6月26日(火)曇り

今日も見事にいじめ抜かれた。
でも仕方がない。きっとクラスに一人は必要なんだろう。私みたいな苛められっ子が。
腑に落ちないが仕方がない。それに、もう慣れてしまった。
早く家に帰ろう。そしてシャーペンを買いにいこう。

学校から歩いて15分、家につく。
郵便受けに私宛に手紙が入っていた。
家の扉を開け、二階の自分の部屋に上る。

手紙を貰う覚えは特に思いつかなかった。
懸賞等に応募した覚えもないし、手紙をやり取りするような友達もいない。そもそも友達がいない。
中には手紙と、小さな宝石のついた指輪が赤色と黒色の二つ入っていた。
指輪を貰う覚えは更に思いつかなかった。

とりあえず手紙を読むことにした。
手紙には”26”とだけ書かれていた。手紙といえるのか微妙だ。意味も分からない。
……あ、今日の日付かな。いや、だとしても、やはり意味分からない。
私はただただ、対処に困った。
おそらく、なにかの間違いでココに届いたのだろう。
まさか捨てるわけにも行かず、私はとりあえず机の引き出しにしまった。

そしてシャーペンを買いにいく。
私は、筆箱には最低3本はシャーペンが入ってないと落ち着かないのだ。
文具屋までの道、入井さん達に出会わなければいいな。などと考えながら。


6月27日(水)晴れ

昼休み。
私はいつものように入井さん達に裏庭へ呼び出された。
いつも私をいじめてくる、隣のクラスの入井さん。それと金魚の糞の杉本さんと宮城さん。
私は全生徒の中でも彼女らが嫌いだった。
特に息のくさい杉本さんが嫌いだった。

「呼び出してごめんねぇ〜まさみちゃん?」
入井さんは私を苛めるとき、妙に甘い声で喋る。猫なで声、というやつだろうか。
雅美、というのは私の名前だ。親にそう名づけられた。

「いつみても綺麗な肌……まるっこくて可愛い目……ちっこくてとっても可愛らしい」
そう言いながら入井さんは私の頬を思いっきりつねる。
痛い。

「あはは……目が赤くなってきちゃったよ?痛いのかな?ねぇ?」
更に強くつねりながら入井さんが尋ねてくる。
痛い。

「痛いです」

私が答えると、入井さんはにんまりと笑って
「そうだよね」
とだけ答えて、あいていた方の手で、ペチンと、私の顔を軽く叩く。
それを見た金魚の糞共が下品に笑う。
入井さんは依然として笑顔で。

「今日はねー、すっごいんだよ」

入井さんが、たぶん、更に笑顔になった。この人の笑みはとってもわかりにくい。
入井さんがスカートのポケットの中から何かを取り出す。

「じゃぁん。みてみて綺麗でしょ?」

そう言って、入井さんが見せてきたのは指輪だった。
私が、昨日対処に困ったモノと全く同じの、赤い指輪だった。

「指……輪……?」
「うん♪」

ニコっと笑顔になり、その指輪についた宝石をこちらに向けてくる。
少し、寒気がした。なにか、いやな予感がした。

「ま、さ、み、ちゃん」

更に甘い声になり、とろけそうな目をした入井さんが唱えるように喋りかけてくる。

「ちぃさくなぁれ……」

瞬間、身体が焼けるように熱かったが。
不思議と、一切声は出なかった。



「んく……」

身体の温度が治まると、全く知らない場所にたっていた。
だが、ここがどこなのかを私が考える間もなく。

「あは……気分はどぉ?まさみちゃん……」

上空から、押し付けられるように音が轟いた。

「え…………、ぃり……いさん?」
「うわぁ、うわぁ。声もちっこくて可愛いー!」

上を見上げると、ビルのように大きな入井さんがたっていた。

「んーでもぉ、なに言ってるか、よくわかんないや。もっと大きい声で喋ってよ。まさみちゃん」
「ぃ……いりいさん!?こ、れは……!?」

入井さんは私の声をきくと、にこりと笑う。

「うんうん。やっぱりこれくらいなら会話もできるね。えっとねー、まさみちゃんはね。ちっこくなっちゃったの」
「ちっこく……なっちゃった?ど、どうして……!?」
「あたしがちっこくしたからだよー、今は、だいたい10cmより少し大きいくらいかな?」

入井さんに、覗き込まれる。
自分より圧倒的な巨大な、入井さんと向き合う。
恐い。
きっと、入井さんが軽く踏みつけるだけで、私は死んでしまう。
そんな巨大な相手と、なんの対策も持てず、会話させられる。
私には、一切の安全の保証がされていない。
すごく、恐い。

「や……も、戻して!ください……!」
「やだよぉだ。だって可愛いだもん」

入井さんと会話する。
会話してるだけなのに、死と隣りあわせの緊張感がある。
早く、助けて、元に戻してほしい。
例えるなら、眠っているライオンと同じ檻に閉じ込められたような。そんな緊張感。
心臓の動きが早くなり、精神がはちきれそうになる。

「そんなことより、まさみちゃんにお昼ご飯をあげるよ」
「い、いいです……だからはやくもとに……!」

私の声など、無視して。
入井さんは、小さなお弁当用のかばんの中からパンを取り出す。

「……はいっ。どーぞぉ」

パンの袋を開け、パンと一ちぎりして、私にむけて落とす。
私がいる、裏庭の地面に。

私の目の前に、サッカーボールほどのパンが落ちてくる。

「……どーぞぉ?」

薄い笑みで、入井さんが見下してくる。
とても、食べる気にはなれなかった。

「お、おおきすぎて食べれない……です。食べますから元の大きさに———」

私が、言い終わる前に。
ズン、と。重い音が響いた。

目の前に、真っ黒な、入井さんの靴があった。
心臓がとまるほどに、恐怖した。

止まるかと思った心臓は、むしろ今までにないくらいに活発に動き出した
息が、しづらい。
声が、でない。

入井さんの靴が、ゆっくり上空に帰ってゆく。


「…………ほら、どーぞ?」

目の前にはペチャンコにつぶされた砂粒だらけのパンがあった
上空には、笑みが消えている入井さんがたっていた。


「……い、ただきます」

目の前の砂粒まみれのパンをちぎって、食べる。
ジャリジャリした砂の味と、潰されて硬くなったパンの食感。
そしてなにより、逃げ出したくなるような恐怖。

「…………………………ん」

上から私の様子を見ていた、入井さんが近くから椅子を持ってきて。
椅子にゆっくりと座り、足を組んで、お弁当箱をとりだした。
足組みした入井さんの足元で、踏み潰されたパンを食べている惨めな自分。
だが、恐怖があまりにも強くて、何も考えれなかった。

「……まさみちゃん」

上空から、呼びかけられる。
心臓が、ドクンと跳ね上がる。

「……おいしい?」

にんまりした笑顔で、聞いてくる、圧倒的に巨大な入井さん。
震えて声がでなかったので、慌てて首を上下に何度も振った。

「あは、そーなんだぁ。そんなに汚いのに?」

汚い、と言われて改めて自分が今食べているパンを見直す。
入井さんが、踏み潰してペシャンコになった、そのパンを。
砂粒にまみれた、その汚い、パンを。

「…………どーしたの?まさみちゃん」

私の動きが止まってることを、咎めるように。
入井さんが笑みを消して、見下してくる。
私は、急いで首を振る。

「…………ちゃんと喋ってほしいなぁ?」

入井さんは、まだ許してくれていない。私は、まだ許して貰えていない。
必死に声を出そうとするが、うまく言葉を発せない。
時間がたつごとに、入井さんが怒らせているようで、ますます震えがとまらなくなる。

「無視してるの?」

少し、不機嫌そうな、入井さんの声。
熱かった身体が、ツッと冷たくなる。
息が、止まる。

「………………」

返事をしないと、いけないのに。
返事をしないと、ますます怒らせることを理解しながらも。
返事が、できない。
何もせずに、何もおきないように祈るだけ。
まるで、起きたライオンが自然にもう一度眠るのを待つように。

「………………ふぅん」

一言、それだけ漏らすと。
入井さんは、再びお弁当を食べ始めた。
そして、会話はなくなった。
自然に終えられた会話ではなく、私のせいで、強制的に途切れた、会話。
その責任に、そのプレッシャーに、その沈黙に、耐えられなくなり泣き出しそうになる。

それでも、結局、私はなにもできなかった。

………………
…………
……

「ごちそうさま」

入井さんの声が降りてくる。
と、同時に入井さんの、巨大な手が私に向かって私を掴み取る。

「え、やっ……ひぁ!!」

突然の出来事に反応できなくなる、息を噴出すように声が漏れる。
その声が聞こえてるであろう、入井さんからは、反応はない。

そのまま無理やり、入井さんのお弁当箱に放り込まれ、蓋をされる。
さっきまで入っていたであろう、お弁当の臭いが鼻につく。

「う……、うえぇっ……」

緊張と、その濃密な臭いで、嘔吐しそうになる。
今、嘔吐して、それを見た入井さんに、殺される私。
その光景が、驚くほど簡単にイメージできた。

「っ…………こ、……」

殺され、る……?
な、………んで……?

「それじゃ放課後まで大人しくしておいてね?」
「!!」

放課後まで、このまま……い、いや、そんなことより。

「は、はい……っ!!」
「……、ん♪」

そんなことより、喋ってもらえた。
入井さんと、会話ができた。意思疎通が図れた。
そのことが、ただただ嬉しかった。

まるで、まるで全てが許されたような。
声を出すことができなかった、自分の弱さを
自ら動かず、解決を他人に任せた、自分の弱さを
全て許されるような、そんな有り難味があった。

………………
…………
……

お弁当箱に閉じ込められ大体、二時間弱。
六間目開始のチャイムが鳴ってから、今で24分。
私の学校の授業は一つのコマ、50分授業。
あと26分後に六時間目は終了する。

六時間目が終了したら、どうなるんだろう。
このまま入井さんの家に連れて帰って行かれちゃうのだろうか。
午後の授業も無断欠席しちゃったし……もう元には戻してもらえないのかな。
そもそも、元に戻せるのかな…………
まさか、このまま、殺され、たり…………?

………………。
いや、いくらなんでも……まさか人を殺すなんて、どうかしている……。
……と、いうか、どうかしているのは、この、私の思考。
殺される、だなんて、そんなことがあるはずはない、あり得るはずがない。
なぜそんなあり得ないことを、考える必要があるんだろう。
なぜそんなあり得ないことに、脅える必要があるんだろう。

…………、いや。
あり得る。かも…………。
昼休みに、私は死を感じた。
日常ではあり得ないほど、すぐそばに死を感じた。
その”死ぬかもしれない”と思わせるほどの恐怖、
その経験が、無意識に私の中の、私の価値を、私の命の価値を、著しく低下させていた。
…………、逃げだしたい。

六時間目はたしか、体育の授業。
女子は全員、体育館にいっているはず。
今、教室には、誰もいない。
今、逃げ出したい。

でも、逃げ出して、どうする?
この小さい体で一生を過ごす?
それとも、まさか、この身体で、入井さんに立ち向かう?

もちろん無理だ、もちろん無駄だ。
この身体で、入井さんに立ち向かえるはずもない。
でも、あの指輪。
おそらく、私を小さくしたであろう、あの指輪さえあれば。
元に戻れるとしたら、あの指輪しかない。

だから、立ち向かわなくてもいい。入井さんの持つ、あの指輪を盗るだけでいい。
更に言えば、実は、私は入井さんからあの指輪を取る必要すらない。
私宛に送られた、入井さんが持っていたものとソックリの指輪。
今、私の家の私の部屋の私の机の引き出しに入れてある、あの指輪。
あの指輪も、おそらく同じようなことができるはず、できるならば……!

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「入井さーん」
「んー、なぁに?愛原さん」

「実はね、あたしのクラスの藤上野さんが、欠席してるの」
「んー、そうみたいだね」

「でもね、四時間目まではいたの。入井さん、藤上野さんと一緒にお昼食べてたから知ってるでしょ?」
「うん、いたねー」

「でも、五時間目からいなくなっちゃって。だから、藤上野さんからなにか聞いてないかなって思って」
「ん、うん。え、ん?」

「なんか、具合が悪そうだったとか、お昼休みの時に、なにか聞いてない?」
「えー……う、ううーん?」

「いやぁ?別に、聞いてない、かな?」

「…………、そっかー」
「んー、うん」

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どうがんばってもお弁当箱の蓋が開くことはなかった。
私自身が立ち上がることすら敵わなかった。
ここから、出ようと、色々試してみたけど、なにもできなかった。
そうこうしているうちに、外が騒がしくなる。
授業から帰ってきたのだろうか。

ひとしきり、騒がしくなったところでチャイムが響く。
私は結局、なにもできず、六時間目も終えてしまった。
入井さんのクラスはHR(ホームルーム)をすませて、


そして、学校は、放課後を迎えた。


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不在着信:16件

14:51 藤上野 雅美
14:51 藤上野 雅美
14:51 藤上野 雅美
14:52 藤上野 雅美
14:52 藤上野 雅美
14:52 藤上野 雅美
14:54 藤上野 雅美
14:54 藤上野 雅美
14:54 藤上野 雅美
14:57 藤上野 雅美
14:58 藤上野 雅美
14:58 藤上野 雅美
15:02 藤上野 雅美
15:02 藤上野 雅美
15:03 藤上野 雅美
15:03 藤上野 雅美

「…………」

「んもー今日のHR長すぎだよぉ。さっさと誰か立候補すればいいのにね!」
「…………」
「ね、えーみぃ」
「ん。あ、うん」
「んー、どうしたの?じーっと携帯みて。誰かからメール?」
「ううん、そんなんじゃないんだけど」
「あ、じゃあ誰かにメール送るとか?」
「んー、そういうナツキは?誰かからメールとか、来てない?」
「えー私?んー……っと、別にきてないよ?」
「……、そっかー」
「む、なに。その哀れむような反応、なんで私ちょっと負けた気分になるの?」
「あはは、そんな反応してないよー」
「してました!変わりにメール見せてもらっちゃうんだよ!とぉっ」
「あはは、んもー、ちょっとー」
「あははは!」
「それよりナツキ、ごめんなんだけどさ」
「ん?なになに?」


「今日は先帰っててよ。あたし、用事があってまだもうちょっと学校に残ってるから」


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「まさみちゃーん」
「……」

光が差し込む。
お弁当箱の蓋が開かれる、私がどんだけ頑張って開けなかった蓋が、いとも簡単に。

「ほらぁ、お返事してよぉー」

グッと、入井さんの指で、頬を押し込まれる。

「は、はぃぃ」
「あはは、かわいいー、ほっぺぷにぷにー」

グッと、入井さんの指で、頬を押し込まれる。
忘れかけていた、死の恐怖が、よみがえってくるように感じる。

「はい、じゃあ外だすよー」

入井さんの手で捕まれる。
顔と足の先以外が手に触れる。
入井さんは私を10数cmといった。
それはつまり、道端で売っている、缶ジュースと同じくらいの身長。
飲まれて、片手で簡単に潰されて、捨てられる。
そんな缶ジュースのような、身長。

入井さんの手の中で、簡単に潰されてしまう、自分の姿が頭をよぎる。
簡単に潰されるサイズという現実。
また、呼吸が苦しくなる、心臓が痛くなる。

「あは、震えてるね、まさみちゃん」

入井さんに喋りかけられる。
恐い、けど、なにか言葉を返さないといけない気がして、返そうとする。
返そうとする、が、言葉が出ない。
震えが邪魔して、細かく息を吐くことしか、出来ない。

「お返事できないの?まさみちゃん……?」

また、入井さんが少し不機嫌になる。
私は震えたまま、声を絞り出す。
裏返った声で、滑稽に返事をする。

「は、はぃ……!」
「ん、それにしてもまさみちゃん、やわらかいねー」

ぐにゅぐにゅ、と私の全身が揉みしごかれる。
入井さんの巨大な手によって、全身が揉みしごかれる。

「ほんと、やわらかーい、握りつぶしちゃいそうなくらいだよー」

グッと、今度こと嘔吐するかと思うほどにお腹に重い衝撃が、捻り込むように伝わる。

「ぶぐぃっっ!!」
「あははは!もっとぎゅってしてあげよっか!ほら!ほらぁ!」

肩に腰に足に、重い衝撃が伝わる。
入井さんの巨大な手によって蹂躙される。
あっという間に、私の身体と精神がボロボロになる。
入井さんが片手に軽く、力を込めるだけで。
私はボロボロになった。

「ありゃー、泣いちゃった?あははは、ごめんねぇ?」
「…………」

これは、死ぬ。
逃げ出さないと、本当に殺される。
でも、逃げ出すなんてこと、できない。
できるわけがない……。

「ほいっ」
「うぐっ……!」

床に投げ出される。
入井さんに握られたところに痛みがよみがえる。


「う、うぐ……」
痛い。立ち上がることが、出来ない。

ズ、ズズズズズズ。
地面が震える。
前を見ると、入井さんが椅子を引っ張ってきていた。

辺りを見る、どこかの、教室。
授業を受けるような普通教室より、すこし狭い。
たぶん、どこかの準備教室。

ギギギィ。

入井さんが、椅子に座る。
椅子に座って、私を見下す。
にんまりと笑いながら、私を見下す。

「あ、あぁぁぁ……」
「あははは、ちっこいねぇー、まさみちゃん」

ブワッと、入井さんの靴が迫る。
私の腹部に、めりこむ。

「…………ッ!!!!」

そのまま5mくらい吹っ飛ばされる。
痛い、痛い、痛い。

「あは!吹き飛んじゃったね!あははは!」

入井さんの、笑い声が脳に響く。
激痛で、立てない。涙が出る。

「ん、そうだ!まさみちゃん、こっちにきて」

入井さんによばれる。
痛くて、立ちあがれない。
しかし、関係ない、行かなければならない。
入井さんが、呼んでいるのだから。
腕を使って、全身で入井さんのところまで戻る。

「あはは、いもむしみたぁーい!」

入井さんに、嘲笑われる。
馬鹿にされながら、入井さんの場所まで戻る。

「あは、お帰り、いもむしちゃん」

そういうと、入井さんは、自分の靴下と靴を脱ぎ散らかして。
その巨大な足をこちらに向けて、踏みおろしてきた。

ぬっと、入井さんの素足が迫る。
近づいてくるその異臭に、私は不快感を抱く。
入井さんの足裏は、私にギリギリ触れたところで止まった。
足の臭いを無理やり嗅がさせられる。臭い。苦しい。

「さ、あたしの足にキスして。いもむしちゃん」

予想通りの、信じられないその屈辱的な命令に。
私は言葉を失っていた。
入井さんの足元で、呆然と、倒れ伏していた。

「ほらぁ、はやくしてよ。言うこと聞けないの?」

入井さんの顔が少し不機嫌になる。

私は急いで、入井さんの足に口を近づけて。
そして、その巨大な足を舐めた。

「あはは、おいしい?綺麗にしてねぇー?」

ひどい、臭いだった。
立ち込める蒸気だけで、咳き込んでしまうほど。

あぁそうか。
私たちのクラスは六時間目体育だった。

入井さんに、体育の後の蒸れた足を舐めさせたれる。
でも、逆らうことなんて、できない。
私はひたすらにキツい酸味のする入井さんの足を舐め続ける。
足指、爪、足裏、指の間まで。全部全部。入井さんが、満足するまで舐めた。
すこしでも逆らったら、すぐにこの巨大な足で踏み潰されそうで。

「あははー頑張ったねぇー。えらいえらい」

入井さんの足を舐め終える。
入井さんに褒めてもらえた。
それだけで、嬉しくて、安心する。

「んじゃー、次はこっちねぇ?」

そういって、もう片方の靴と靴下を脱ぎ始める入井さん。
私の驚きも無視するかのように。

「はい、舐めて?あははは!」

そういって、また酷い臭いのする足を、突き出される。
もちろん逆らえず、私はまた。
入井さんの足を舐めだす。
入井さんに、舐めさせられる。


………………
…………
……

入井さんの足を、だいたい舐め終える。
でも、入井さんの許しがないので、私は足を舐めるのを続けるしかない。
そうやって、延々と入井さんの足に奉仕していたら。

ブブブ、ブブブ

「!!」
「あれ、どうしたの?」
「いや、あの……け、携帯が」
「んー?電話?誰から?」
「いえ、えっ……と」


着信:愛原 江美


「お、……お母さんから、です」

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藤上野さんは、おそらく私にだけ16件もの不在着信を残してた。
それも、六時間目の授業中に。

今日の六時間目は体育。
欠席してようが、そんなことはすぐわかったはず。

それでもなお、16件も不在着信を私に残した。
この16件は、おそらく、何かから助けを求めるSOS信号。

こういう場合、警察に連絡してから、色々対処すべきなのかも知れない。
でも、私は、そのまま電話を藤上野さんにかけなおした。

『……もしもし?』
『えっと、あの、お、お母さん?、どうしたの……』

…………。

『今、何処にいるの?』
『え、まだ学校だよ。うん。』
『……何してるの?』
『えっと、友達と、ちょっと、勉強してる。』
『友達?どんな友達?』
『え、……っと、となりのクラスの、名前言ってもきっとお母さん知らないよ』
『そう、……何時くらいに帰ってこれる?』
『えっと、ちょっとわからない、もしかしたら、遅くなるかも。』
『…………そう、それより。トイレは大丈夫?漏らしたりしてない?雅美はよくお漏らししてたからねー』
『え……だ、大丈夫だよ!私もう高校生だよ!』
『本当に、大丈夫?本当に、今、漏れてない?』
『……。うん。』
『……。』
『もー、だいじょうぶだってばー。心配しないで。』
『……。今、本当に学校?』
『うん、うん、そう、大丈夫だってば。』
『わかった。切るね。』
『え、うん。わかった、それじゃ。』

通話相手:藤上野 雅美
通話時間:3分26秒

私は、携帯電話を閉じて、校内を探した。
震えた声で、私をお母さんと呼んだ、藤上野さんを見つけだすために。

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「お母さんなんていってたの?」
「え、っと今どこにいるんだ、って。あの、私いつもすぐ帰宅するから。その、心配してたみたいで」
「ふぅーん。そっかー」

かかってきた相手は、愛原さんだった。
お弁当箱を開けようとした六時間目。
自分ではどうすることもできなかった私は愛原さんに電話をかけ続けた。
友達がいない私と、苛められていた私と
唯一アドレス交換をしてくれていた、愛原さんに。

当然、愛原さんは電話にはでなかった。だけどそれでよかった。
この異常事態を誰かに知らせることできれば、それでよかった。
結果、愛原さんに、異常事態が知らせることができた。
この結果で、よかった。

「あ、足はもういいよ」

そういって。ゆっくりと、椅子に座っていた入井さんが立ち上がる。
脱ぎ捨てた靴下をポケットにしまい。素足のまま靴を履く。

「電話がかかってきっちゃうなんてねぇー?」

そういって、私の目の前に、入井さんが座り込む。
座り込んでも、家よりもずっと大きい、入井さん。
その迫力に、そのまま潰されてしまいそうに感じてしまう。

「仕方ないよねぇー?」

そういって、入井さんはポケットから。
指輪をとりだして。

私に向けた。

「やっ、……!!いやぁ!」


瞬間。身体が熱くなる。
血が沸騰しそうなくらい、身体が熱くなる。


身体の平熱に戻ったとき。
私の視力が回復したとき。


私は入井さんを見下ろしていた。


「え……?」
「お母さんに心配させちゃダメだもんねー」

え……?

「よいしょ、っと」

入井さんが立ち上がる、また再び入井さんを見上げる。
見上げる、が。

「も、とに…………」
「ほら、気をつけて帰るんだよ?さらわれたりしちゃダメだからね」

元に、もどっている、舌はヒリヒリするし、身体も痛いけど。
元の身長に。戻っている。

入井さんが、私を、元に、戻してくれている……!

「まさみちゃん」
「!」

ボーっとつったってる私をよそに、教室の入り口まで移動してる入井さん。

「また、明日ね」
「……」

私は、ゆっくりと、返事を返す。



「うん、また、……明日」

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私は教室を探し回った、1年生から3年生まで、すべての教室を。
全部の教室を探し終えたが、見つからずにいた。
やはり、教室みたいな目立つ場所ではなかった。
だとしたら、特別教室や、準備室。

「いったいどこに……」

私が何気なく、窓を見ると。
そこには、校門にむかう、入井さんの姿があった。

「…………」

そして、その数分後。
同じように校門に向かう姿が、もう一つあった。

「藤上野……さん」

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6月28日(木)晴れ

朝、6時10分。
いつもより一時間ほど早くに目覚ましがなり、目が覚める。
そして、自分の部屋を確認する。

タンスは2cmほど。
机は15cmほど。
鞄は5cmほど。
筆箱は1cmほど
筆箱から出しておいた赤いボールペンは5cmほど。
目覚まし時計はもともとの20cmほどの。
そして、クマのぬいぐるみは相変わらずシロクマのぬいぐるみだった。

すべて、昨日の夜のままだった。
私が寝て、意識がなくなって一晩おいても。
全く変わらず、昨日のまま。

昨日の夜、私は指輪のテストをおこなった。
赤い指輪は思ったとおり、物体を小さくする力と元に戻す力。
黒い指輪は、よくわからないが、物体の色を変える力と元に戻す力があった。

私は二つの指輪を使い
『どれだけの時間縮小しつづけれるのか。』
『同時にどれだけの数を縮小できるのか。』
『どれだけの大きさの物を縮小できるか。』
『私が意識を失ってもその効果は続くか。』
『同じ瞬間で一気に複数個縮小できるか。』
等を知るために、自分の部屋の家具を小さくしていた。

しかし、見てのとおり、私が7時間近く寝ていても。
家具は縮小されたまんまだった。
とりあえず、制限時間はなさそうだし。最低2mくらいまでなら縮小できる。
つまり、当然入井さんも、縮小できるというわけだ。

だけど、一番気がかりなのは。
『入井さんの指輪で、縮小された場合。この指輪で元に戻れるか。』
『この指輪で縮小した場合。入井さんの指輪で元に戻られるのか。』
という、疑問。

私はとりあえず、赤い指輪を指にはめる。
そして、家族に見つからないうちに家具を元の大きさに戻す。
タンスも、机も、鞄も、筆箱も赤ペンも。
全て、何一つ不具合なくもとの大きさに戻る。
黒い指輪をぬいぐるみに向ける。
白色にかわったクマのぬいぐるみも、もとの茶色に戻る。


…………私がもし。
私がもし、入井さんなら、当然、藤上野雅美は殺さない。
殺す理由がない。殺人なんて簡単にできることじゃない。

でも、私がもし、入井さんで。
更に、藤上野雅美が同じ指輪を手にしてると知ったら。
おそらく……殺してしまう。
だって、殺さないと、殺されるかもしれないから。
もちろん殺人はいけないことだ。
人の命は重いものだ。

だけど。
自分の命より重くは、ない。
少なくとも、私にとって、私の命より入井さんの命の方が重い。なんてことは、ない。
入井さんにとっても、当然、同じ。
同じように、考えるはず。

「…………こ」

だとすれば、どうする。
どうするべきなのか。

「…………殺すの?私……人を、殺す。の…………?」


==================================================

教室につく。
藤上野さんが、机に座っている。
私より早くに学校についてるなんて、珍しい。

「おはよっ。藤野上さん」
「あ、愛原さん。……あ、の」
「おはよっ」
「あ、えっと。おはよう……」
「うんっ♪」
「あの、えっ……っと。あの、愛原……さん」
「ん?どうかした?」
「その、ごめんなさい。昨日は」
「…………」
「えっと、なんというか、ちょっと……説明しずらぁぃひ?」

喋ってる藤上野さんの、頬を伸ばす。
やわらかい。見た目どおり、よく伸びる。

「あ、あいひゃらはん?」
「あはは、いいよ。許した」

そういって、手を離して、自分の席に戻る。
藤上野、雅美。
苛められていても、誰にも助けを求めず、それどころか、それを受け入れる。
なんて純粋な娘なんだろうか。
他にはいない、純粋な娘。

私は、個人的に、彼女を気に入っていた。

==================================================

午前の授業が終わり、お昼休みになる。
私は、いつものように、入井さんに呼び出された。

「んむー、今日もかわいいねー。まさみちゃーん」

昨日と同じ、裏庭。
私の頬に頬擦りしてくる、入井さん。
午前の授業中、ずっと考えていた。
私はどうすればいいのか。

「ふにふにで、やわらかぁい、ふにふにー」

一気に、全員小さくして、踏み潰して。
殺して、……しまうべきなのか。
それとも、様子を見るべきなのか。
なにか、方法はないのか。

「てぃってぃっ」

ペチン
ペチン

入井さんが、私の頬を叩く。

「い、痛い、です」
「あはは、てぇいっ」

ベチン

さっきより、少し強く叩く。
じんわりと、頬の色がかわってくる。

「入井さん」
「……ん?なぁに?」

私は、ポケットからだした赤い指輪を、強く握り締めて。

「殴ったり、蹴ったりするのは、……別に構いません」
「ふんふん……」

「ですが、もう、昨日みたいに、私を小さくすることは、やめて下さい」
「…………」
「昨日は本当に、本当に。死ぬところ、……でした」
「…………」

入井さんは、喋らない。
表情をなくして、私の言葉を聞いている。
相変わらずの、わかりにくい表情で。

「まさみちゃんは、さ」
「は、……はい」

「命令してるの?わたしに」
「……——ッ!!」

恐怖を感じとっさに目を瞑り握り締めた指輪に力を込める。


ゆっくりと、瞼を開ける。
いつもどおりの裏庭の景色。
辺りを見渡す、いつもどおりの、裏庭の景色。

ゆっくりと、下に顔を、向ける。
そこには、当然、あり得ない光景が広がっていた。

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身体が一瞬熱くなったと、思うと、ぐわんと景色がおかしくなった。
景色が安定すると。
あたしは知らない場所にたってた。

「これ、は」

すぐに理解できた。
小さくなったのだ。
あたしは、一昨日から何度も自分の身体を小さくして遊んでる。
景色が大きくなっている。それだけで、ここは中庭だ。

「う、うわぁあ!!」
「ひぃやああぁ!!」

後ろから声が上がる。
杉本さんと、宮城さんの声。
なにかに驚いた、そんなまぬけな声。
まさかと思い、前方を見る。

そこには、小さくなっていない。まさみちゃんがいた。
すこし、困ったような、安心しているような顔。

「あ、あの…………」

「うわぁああ!」
「ひいやああ!」

まさみちゃんが、声を出す。
それだけで、より間抜けな声を上げる二人。

確かに大きい。大音量だ。
だけど、驚くほどでもない。

「えっと……」

もごもご、と言葉を選ぶような、まさみちゃん。

「ど、……どうしたん、ですか?」

まさみちゃんに、説明を求められる。
……説明は、できない。あたしにもわからない。
なんだろう、指輪が暴走でもしたのかな。
別に指輪を使うつもりは、なかったんだけどな。
それでも、一応もってきておいてよかった。
とりあえず、元に戻ろう。

ポケットの指輪を握り締め、元に戻るように力を込める。

が、元には戻らなかった。

「……んれー?」

もう一度、力を込めてみる。
が、やっぱり元には戻らなかった。

「なんかもどんなーい!!」
「え……」

そのまま、まさみちゃんに伝える。
まさみちゃんはまた、すこし困ったような、安心しているような顔になった。

「え、ぇぅぇええ!?」
「ちょ、それって!?」

後ろの二人が騒ぐ。
うるさい。

「な、なんで!?どどど、どうして!?」
「どうするの!?こ、これから一体!?」

二人が騒ぐ。
うるさい。
そして杉本さんの息が臭い。

「あたしにもわかんないよー。こんなことはじめてだし」

その応えに、二人が更に喚き散らす。
うるさかった。

しかし、どうしようか。
なんとかして、元に戻りたいんだけど……
でも原因もわからないし。
いっそ逆に、地球ごと指輪で小さくすればいいのかな。
できる、のかな……?そんなこと。

「あ、あのっ…………!」

あたしがそんなことを考えてると、上からまさみちゃんが話しかけてきた。

「その、と、とりあえず。ほ、ほかの場所で考えましょう……!」

あわあわ、した。表情で、まさみちゃんが言う。
あたしは特に深く考えずに、それに従うことにした。

「そだねー、そうしよっか」
「…………」
「…………」

あたしが応える。
後ろの二人は黙って、様子を伺っていた。

「じゃあ、その。移動しますんで。わ、私の手にのってもらえますか……?」

ぐわんと、まさみちゃんの手が降りて来る。
布団くらいの大きさのまさみちゃんの手。

「んー、靴はいたままでいいよね?」
「え、……えと。はい」

まさみちゃんの手の上に乗る。
立っていると少し不安定なので、そこに座り込む。じんわりと暖かい。

「…………」
「…………」

あたしに続いて、二人も手に乗る。
恐れるように、まさみちゃんの手のひらに乗る。

手が上昇する。上から叩きつけられるように風を感じる。

「う、うあぁぁぁ……!」
「ひぃ、ぃぃぃぃ……!」

二人仲良く声を上げる。
あたしも、さすがにちょっと、怖い。

「あ、あ、の……」
「……あ、ん?」

遠慮がちに、まさみちゃんが声をだす。

「なぁに?まさみちゃん」
「あの、その、ちょっとだけ…、入井さんの指輪。見せてもらっていいですか?その、なにか原因があるかも」
「いいよー?ほい」

あたしは深く考えず、スカートのポケットから指輪をだして、まさみちゃんに見せる。
まさみちゃんが私の手に顔を近づけて、指輪を見つめる。
まさみちゃんに原因がわかるのかな?あたしにもわかんないのになぁ

「あ、ありがとうございます」
「んー」

やっぱりわかんなかったみたい。そりゃそうだよね。別に指輪鑑定士じゃないもんね。
あたしは、まさみちゃんに見せた指輪をそのままスカートのポケットになおした。


その瞬間、あたしは巨大なまさみちゃんの指にスカートを剥ぎ取られた。



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スカートを引きちぎり、手の中に収める。
手の中のスカートから布越しに小さい石ころのようなものの感触を確かめる。
入井さん達を乗っけたほうの手に視線を戻す。
杉本さんと、宮城さんが、驚愕した様子で私を見上げていた。

「静かにしてくださいね」

私はそう言い放ち。入井さん達をスカートのポケットに入れた。
指輪の入っていないほうの、スカートのポケットに。


そして、安心した。
私が、何より恐れたことは。
入井さんが、私に向けて指輪を使うこと。
両者とも小さくなってしまえば、私が絶対的不利。
数でもそうだし、そもそも小柄の私では170cm近い入井さんには敵わない。

だから、私が小さくならずに、それでいて、入井さんの指輪を奪えたことに。
私は安心した。

そしてなにより。
入井さんを殺さずにすんだことに。
私は安心していた。

==================================================

お昼休みが終わって、五時間目の授業が始まろうとしていた。
私は席について、五時間目の授業の準備をする。

五時間目の授業が始まる。
藤上野さんがいない。

今日も、昨日と同じように。
藤上野さんが、いない。

誘拐などされていないだろうか。
殺されたりされてないだろうか。

私は、ただそれだけを心配していた。

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体育館女子トイレ。

私は昼休みからずっと、このトイレの一番奥の個室にいる。
数分前から、五時間目がはじまっている。
そしてどうやら、五時間目に体育館を使用するクラスはいないようだった。

私は蓋を閉めた便座に座り、スカートのポケットにいれた入井さん達を取り出す。
三人を鷲づかみにして、顔の前までもってくる。

入井さんは、うな垂れている。
杉本さんと宮城さんは、なにやら喚いていた。
このサイズなのに、私に向かって命令してるようだった。

「静かにしてください」

ゆっくりと、加減して手に力を込める。
それだけで、うるさかった二人が静かになる。

恐ろしい。
すこし力加減を間違えれば握りつぶしてしまえそうな身体。
今ここに、ゴキブリが現れたなら。
私は、ビックリして彼女らを握りつぶしてしまうのではないか。
そう思えるほど、弱弱しく、
まるでガラスでできた骨董品のように扱いづらいこの身体が。
恐ろしかった。

しかしそれと同じくらいに。
なぜか胸がスッと晴れるような気持ちよさがあった。
なぜか胸が高鳴るような心地よさがあった。

「ど、うして……?」

入井さんが、顔を上げ、声を出す。
少し弱弱しい顔。

その顔をみてると、ドキドキした。
更に胸が、高鳴るようだった。

「ねぇ……まさみ、ちゃん」

手の中の入井さんを見下して。
もう片方の手で、デコピンを、入井さんに食らわせた。

首から上が派手に反る。
反ったままの姿勢でぴくぴくと動く。
一応手加減はしている。死んではいないはずだ。

「ど、……うし、……て。?」

さっきより更に弱弱しい、入井さんの声が聞こえる。
驚くほど気分がいい。胸がスッとする。

一拍おいて、杉本さんと宮城さんが喚きだす。
ちょっと、泣いてるのかもしれない。
いつも入井さんの後ろでニヤニヤしてたのに、情けない姿。

「…………クス」

私は入井さんだけ、スカートのポケットに戻して。
杉本さんと、宮城さんをトイレの床に置く。

泣き叫ぶ彼女らを、見下ろす。
笑顔で。そう、きっと、たぶん。
いつも入井さんがやってるような、あんなニヤけ顔で。
何をしようか、何をさせようか、そう考えるだけで。
何故か、ますますニヤニヤしてしまう。

二人はペタンと座り込み、私を見上げている。
その汚いトイレの床に、座り込んでいる。

その目から感じる私への恐怖が、心地いい。
何故か、もっともっと、ほしくなってしまう。

私が、杉本さんと宮城さんを。
苛めたくなってしまう。

「土下座」

ゆっくりと、二人に声を放つ。
少し顔をあげて、目だけを彼女達にむける。
二人とも、少しキョトンとした表情をみせる。

「土下座してください。このトイレの床の上で」

見下し、命令する。
残酷で、屈辱的な命令を。
命令するだけで、気分がいい。
二人は顔を見合わせながら、チラチラと私を伺う。

私は、なんの予告も合図もなしに、杉本さんを蹴る。
杉本さんが、飛ぶ。

私からみて30cmほど、杉本さんからみたら、たぶん5m近く。
飛ばされた杉本さんが、ヨロヨロと立ち上がろうとする。
苦しいのを我慢して、必死に立ち上がろうとしている。
ゆっくり、ゆっくりと立ち上がる。
私は杉本さんが立ち上がるまで、じっと待った。

私にもわかる、蹴られた痛み。あれは激痛だった。
私はとても立ち上がれなかった。
杉本さんは、よく立ち上がれると思う。

そして、杉本さんが、ようやく立ち上がる。

「土下座してください。って言ったんですけど」

そういって杉本さんを蹴る。
さっきより、強く。
杉本さんが、吹き飛ぶ。

ちらりと、宮城さんを見る。
青い顔をして、杉本さんの様子を見ていたが、私を目があうとすぐ土下座した。

杉本さんも、ボロボロの身体で、なんとか土下座する。

二人が、私に向かって、土下座していた。

「クス、クスクス」

すばらしく、いい気分だった。

もっと、もっとほしくなる。
彼女達の、絶望が。



「もういいですよ。顔を上げてください」

二人が顔を上げる。
脅えきった、彼女らに相応しい表情だった。

私はスカートから、小さな布っきれを取り出す。
さっき、剥ぎ取った入井さんのスカート。
それを取り出す。

そのスカートのポケットから、入井さんの指輪を取り出す。
その指輪を足元の二人に見せ付ける。

「小さくなった原因は、やっぱりコレなんでしょうね」

二人に聞く。
宮城さんは、大げさに頷き、杉本さんはボロボロの身体でなんとか首を縦に振る。

「クスクス、そうですよね。コレしか考えられませんもんねー」

指輪を二人に近づける。
二人が、少し脅える。
小動物のようで、ちょっと、可愛らしい。

私は指輪をもった手に力を込めて。
二人の目の前で。

入井さんの指輪を砕く。

二人が、信じられないような表情で、砕かれた指輪を見つめる。
私がそのままゆっくりと指輪ごと手を上にもっていく。
二人も、指輪を追うように、視線を上げていく。

私は、二人がみているなかで。

「あーん」

砕けた指輪を、口に入れた。

「……ンクッ」

わざと、二人に音が聞こえるように唾をいっぱい含めて飲み込んでやる。
二人にとっては唯一の、元に戻れる可能性を。
二人の見てる前で、飲み込んでやる。
下を見ると、期待通り、二人が真っ青な顔をしていた。

「クスクス、どーします?もう元には戻れないかもしれませんね?」

たっぷりと笑みを浮かべて、聞いてやる。
私の声が聞こえてるのか、いないのか。私を見つめて動かない。
まるで放心状態だ。

「お返事をしてください。でないと踏み潰しますよ」

わざと不機嫌な顔をつくり、できるだけ冷たく言い放つ。
それを聞いた二人が、顔をあげて必死に口をパクパクしだした。
恐怖か混乱で、声が出なくなっているのだろう。
私も昨日嫌というほど経験した。
とりあえず、この場合は”声が出ない”ということを理解してあげれば、まずは安心する。

「お返事できないんですね?じゃあ踏み潰して、殺しますね」

そして、”声が出ない”ということを理解されなければ、焦り、恐怖する。
私の一言で、二人は十分に恐怖してくれた。

私は、ゆっくりと、足を持ち上げて。二人の間を強く力をこめて踏みつける。
このサイズの二人など、まとめて簡単に潰してしまえるほどに強く。
ズン、と。
私が足を踏みしめる。
これで、きっと、二人とも感じ取ってくれた。
とっても、とっても、怖い。死の恐怖を。

二人を見ると、涙を流しながら震えていた。
かわいそうなくらい、精神がボロボロなのが目で見てわかる。
どう考えても、もう許してあげるべきだった。

「クスクス、わかりましたか?貴方たち私に簡単に殺されちゃうんです」

だけども、私は、嘲笑ってやった。
情けないほど、ボロボロになった二人を。
二人は、やはり涙を流して震えていた。


ゆっくりと足を上げる。
震える二人を、できるだけ、冷たく見下す。

「そういえば、昨日、入井さんに足を舐めさせられました」

二人にわかるように、片方の靴と靴下を脱ぎ散らかす。
二人は不安そうに、その様子を見上げている。

「別にその時、お二人はいませんでしたけど」

二人の前に足を突き出す。
トイレの床が、ひんやりと冷たい。

「はい、舐めてください。私の足」

二人は、特に抵抗も見せずに、私の足に近づく。
ゆっくりと足に近づいて、私の足を舐める。
いい気味だ。

いい気味だけども、それほど気持ちよくもない。
それどころか、足が冷えて不快なるくらいだ。
二人は、舐め続けている。
だが、やはり別に気持ちよくはない。
いい気分ではある。跪かせて足を舐めさせる行為は、気分はいい。
私に、平伏している。この光景。
小さい二人が、必死になって私の足指を舐める光景は、気分はいいのだけども。
なんというか、それほどでもない。
今までに比べると、それほどでもなかった。

当然、になってしまったからだろうか。
この二人は、私の前に跪いて当然だから。
だから今更、足を舐めさせた程度では気持ちよくはならない……?
だとしたら順番を間違えたのかもしれない。
すこし不愉快になる。

「もういいです」

言ってすぐに、足をあげる。
足を舐めていた二人の顔面に思いっきり命中する。
二人が、軽く後ろ向きに倒れる。

「役に立ちませんね」

冷たく、言い放つ。
今までと違い、本心からそう思った。
二人がかりで、これだなんて。
がっかりするくらいだった。

私は、口の中に唾液をため。
二人に向かって、吐き飛ばす。

「ペッ」

ペチャ。

私の唾が、二人の間に落ちる。
トイレの床に、私の唾が落ちる。

「それ、舐めとってください」

当然のように二人に命令する。
二人はうな垂れたまま、ゆっくりと私の唾に向かって行く。

そして、少し泡立っている私の唾に向かって、顔を近づける。
まるで、犬が水をすすり飲むように。
ズズッ、と。私の唾液が少なくなって行くのが、見えた。

ゾクリと、背筋が冷えた。
見ているこっちが、吐き気を催すほどのその光景に、その行為に。
私の心は満たされていくようだった。
今度は、満足できた。

「ペッ」

ビチャ。

私の足元で、私の唾を舐めている二人めがけて、更に唾を吐き捨てる。
ビチャリ、と。唾を舐めている二人の顔面に私の唾が直撃する。
二人が少し止まり、軽く顔をこすると、再びゆっくりと私の唾を舐め取り始めた。

「クスクスクス……」

声が漏れる。
だけども、別に構わない。
むしろ、足元の二人にわざと聞かせてやりたいくらい。
私が二人を嘲笑った、この声を。
嘲笑われるほど滑稽なんだよ、と。
認識させてあげたい。
貴方たちは、私の命令されるがまま、足元に跪いて私の唾液を舐め取ってるんだよ、と。
自分が人間であることを忘れるくらい。
もっともっと、精神をすり減らしてあげたい。
もっともっと、屈辱にまみれさせてやりたい。


二人が私の唾を舐め終える。
顔中私の唾でベチャベチャだった。
汚い。まるで便所虫のようだ。
だけど、その汚らしい姿も、私にとっては愉快だった。

「お、終わりました……」

宮城さんが立ち上がり、おどおどとした調子で私に声をかける。
杉本さんは、立てないのかその場に跪いたままだ。
そうだよね、二発も私に蹴られたもんね。そりゃ立てないよね。

「杉本さんは?」

なるべく、苛ついたような声色で。
杉本さんに聞いてやる。
杉本さんが、ビクリと震える。

「あ、あの、す、杉本さんも終わってます……!」

杉本さんの変わりに、宮城さんが応える
到底、立ち上げれないような。到底、喋れないような状態の杉本さんに変わって。

「杉本さんに聞いてるんですけど」

軽く宮城さんを睨み付ける。
それだけで、何も言い返せず、宮城さんは縮こまってしまう。
杉本さんをみると、ゆっくりと、立ち上がろうとしている。
ゆっくり、ゆっくり立ち上げる。
宮城さんが、駆け付けて、肩を貸す。
宮城さんの肩をかりて、杉本さんが、ゆっくりと、立ち上がる。

立ち上がる、もう、すぐ、立ち上がる。
ゾクゾクしてきた。
立ち上がった瞬間に思いっきり蹴り飛ばしたい。
宮城さんも一緒に。
頑張って、必死になって、ようやく立ち上がった瞬間に、圧倒的な力で蹴り飛ばしたい。
だけど、流石に死んじゃう。
だからそれは駄目。それだけは、駄目。

杉本さんが、立ち上がる。
私は蹴りとばしたい衝動を抑えて、杉本さんの言葉を待つ。

「お、……わりま、した…………」

杉本さんが答える。
私の耳にもなんとか聞こえる。
ボロボロに弱りきった杉本さんの声。
だけどまだ許してあげない。

「そう。おいしかったですか?私の唾液。クスクス」

自分でも馬鹿げてると思う質問を投げかける。
はい。と答しかえられない質問。
はい。と答えさせるための質問。

私が、貴方たちは逆らえないんだよ。と言うんじゃなく。
二人に、私には逆らえません。と言わせる。
ただそれだけの質問。

「はい……」
「……は、い…………」

二人が答える。
用意していた通りの答え。
だから、私も。
用意していた通りの返しをする。

「クス、そーですか。じゃあもっと差し上げますね」

二人の絶望の色が濃くなる。
いい、すごくいい。
でも。

まだ。まだまだ。
もっともっと、ボロボロにしてやる。

「でも、たくさんあげるのは、私もしんどいですから」

二人が私の様子を伺う。
脅えつつも、僅かに、何かを期待している表情。
私が、もうこの行為を止めにするのを、期待した表情。
そのすがる様な顔をみるだけで、ドキドキする。
はやく、その僅かな希望さえも、打砕いてやりたくなる。

「だから逆に、貴方たちを小さくしてあげます」

ニヤっと、笑いながら二人を見下して言う。
二人の顔から、その僅かな希望が消える。
すこし、困惑したような、絶望が浮かぶ。

「まだきっと、私のお腹の中にあるはずですから」

まだしっかり理解できてない二人に、わざわざ説明してあげる。
さっき砕いて飲み込んだ、指輪のことを言ってるんだよ、と。

「もしかしたら、私がつかえるかもしれないじゃないですか」

そう言いながら私は自分のスカートのポケットに手を入れ、指輪を握りしめる。
足元の二人は、じっと私を見上げるだけ。

「じゃ、ためしてみましょう。クスクス」

そういって、手に力を込める。
小さくなった彼女を、更に小さくするために。
絶望にまみれた彼女達に、更に絶望を塗りつけるために。


気持ち悪いほど滑らかに。
それでいて、まるで早送りの映像のように。

杉本さんが縮む。


杉本さんだけが1cmほどに縮む。
宮城さんが、喚く。
杉本さんは、膝をついて座り込んでいる。
もう喚く元気もないのかな。
それとも喚いてるけど聞こえないだけかな。

「クス、成功したみたいですね」

二人の絶望なんて、お構いなしに。
私は薄く笑う。
私の声に反応して、宮城さんが顔をあげる。
私と、目が、合う。

「っぃやあああぁぁっっ!!」

絶叫して、走り出す。
私から、逃げ出す。

あぁ、そっか。
杉本さんが縮められたから。
次は自分の番だとでも思ったのかな。

走り出した宮城さんの背中を、素足で蹴り飛ばす。
吹き飛んで、壁に勢いよくぶつかる。
そのまま、ベタンと仰向けに倒れる。

「……何してるんですか?」

私はゆっくりと足を、仰向けに倒れてる宮城さんの上に移動させる。
今、宮城さんを蹴り飛ばした。その足を。

「ご、ごめんなさいっ、ごめんなさいごめんなさいっ……!!」

宮城さんは、起き上がらず、そのまま土下座して謝ってきた。
顔から血がでてた。鼻血かな。それとも歯を折っちゃったのかな。
別にどっちでもいいけど。

「何を、してるんですか?って聞いたんですけど」

質問に答えれていない宮城さんを咎めるように。
不機嫌を隠さず、宮城さんに言い放つ。
同時に、宮城さんの上にかざしていた足を、少し降ろす。

「ぃ、ゃぁあ!ごめ、んなさいごめんなあいごぇあぁぃ……!!」

喚き声が大きくなる。
まるで子供の泣き声のような声。ぐちゃぐちゃの、声。
そして相変わらず、私の質問には答えれていない。
少しだけ、不愉快になる。

「…………質問に、答えてください」

さらに、少し足を降ろす。
宮城さんに落ちる影が深くなる。
宮城さんは土下座のまま、顔をあげようとしない。
もしかしたら、少しずつ足を下げてることにも気付いてないのかもしれない。

「ぅ、ぅぅ……ごめん、なさぁい……ごめ、んなさぁい…………」

小さな声で延々と謝り続ける。
ヒッ、ヒッと、子供のような嗚咽をはさんで。
相変わらず私の質問の答えにはなりえないままで。
自分勝手な謝罪を続ける。

会話ができていないことにイライラする。
こんな小さな宮城さんに、イライラさせられてる。
そのことが私をさらに不愉快な気分にさせる。
そして、少し、ほんの少し。ほんの少しだけ。

本当にこのまま踏み潰したくなる。

だけど、もちろんそんなことはできない。
そんなことをしたら、間違いなく死んでしまう。
せっかく誰一人殺さず入井さんの指輪も処分できたのに。
そんなことをしたら全て台無しだ。

私は、泣きながら土下座してる宮城さんを無造作に蹴り飛ばす。
吹き飛び、すぐに壁にぶつかり、床に倒れこむ。
ビクビクと、体を震わせ、涙やら涎やらで、顔をぐちゃぐちゃにして。
汚い顔だった。
汚い、不愉快な顔だった。

杉本さんの方を見る。
1cmの杉本さんは本当に小さな虫のようだった。
気をつけていないと踏み潰してしまいそうだ。
杉本さんは一人では立ち上がれないのか。
相変わらず、膝を突いたままだった。

「ペッ」

ベチャ。

唾を吐き捨てる。
1cmの杉本さんに向かって。
私の唾は、膝を突いた杉本さんを覆うように直撃する。
杉本さんが、全身、私の唾まみれになる。
杉本さんからみれば、お風呂の浴槽いっぱいくらいの、私の唾液。
私の唾液にまみれた杉本さんが、そのまま倒れこむ。

「はやく綺麗にしてくださいね」

杉本さんの身体に収まる量ではなかったが、そんなことは関係ない。
できる、できないではなく。
私の命令に、従うか、従わないか。
私の思い通りに、動くか、動かないか。
私にとっては、ただそれだけの問題。

杉本さんは、私の思い通りに従っていた。
宮城さんは、私の思い通りにはならなかった。

私の質問に答えなかった宮城さんは、仰向けに倒れたままで。
ぐちゃぐちゃの顔面を拭こうともせず、全身で息をしている。
杉本さんを手伝う様子もなく、一人倒れたまま。
宮城さんが手伝ってあげれば、すぐに終わるのに。
どこまでも自分勝手な気がした。
見てると、また少しイライラしてくる。


私は宮城さんを一瞥し、靴と靴下を拾う。
靴と靴下を履きなおそうと思った。
いつまでも裸足でいる必要はない。
足を舐めさせる行為は、それほど気持ちのいいものでもなかったんだし。

私が靴下を拾おうと前に屈むと、宮城さんがビクっと反応する。
ヒッ、と情けないと声をもらし、起き上がり、縮こまるような姿勢なる。

杉本さんからは何も聞こえない。
黙々と、圧倒的な量の唾を飲み込んでいる。
もしかしたら、小さすぎて聞こえなかっただけかも知れないけど。

私は少し動作を止めて、何も言わず宮城さんを睨む。

「あ、ぁぁぁ…………」

私に睨まれた宮城さんは、何も言えず。
僅かに声を漏らして、さらに縮こまる。
宮城さんから目を離し、私は無言のまま、靴下を拾う。

宮城さんが私の動作にいちいちビクビク反応する。
さっきまでなら、愉快に感じれていたかもしれないその反応に。
何故か、私は強い不快感を抱く。
今までにないくらい。イライラする。
宮城さんを、とても鬱陶しく感じる。

靴下を履いて、靴を履き終えたころには。
私のイライラは、我慢できないところまで達していた。


足に思いっきり力を込めて、宮城さんのすぐ横を通るように蹴りあげる。
当たろうものならば、10cmの宮城さんなんて、間違いなく即死するほどの強さで。

私の足が宮城さんの横をかすめて個室の扉にぶつかる。
バゴオォン!!と、大きな衝撃音が私の耳にまで響く。
宮城さんが、止まる。
だけども、そんな宮城さんには一切構わずに。
私は宮城さんのすぐ真横に思いっきり力を込めて足を落とす。
ガンッ!!と、強い足音が個室いっぱいに響く。

止まっていた宮城さんがゆっくりと、それでいて加速するように再び震えだす。
今までで、一番恐怖した、本当に真っ青な顔で私を見えげる。
私は腰を曲げて、肘を膝に乗っけて、身を乗り出すような形で宮城さんを見下す。

「イライラするんですけど」

履き捨てるように言い放つ。
真っ青な宮城さんがボロボロと涙を垂れ流す。
何も言わず、ただ震えながら、私を見つめて、涙を流す。

「殺して、ほしいんですか?」

殺すつもりは、ない。
いくらイライラしようが、宮城さんを殺すつもりはない。
単純に、宮城さんに尋ねただけ。
杉本さんと同じように、答えの決まってる質問を、投げかけただけ。

だけども、宮城さんは。


「ご、めんなさぁ、いぃ……」


だけども、宮城さんは。
さっきと、まったく同じように。
ただ土下座して、謝罪するだけ。
私の質問の答えになり得ない、自分勝手な謝罪をするだけだった。

グッ、と。瞬間的に怒りに支配される。
宮城さんを踏み潰したくなる蹴り飛ばしたくなる。
大声を上げて宮城さんを潰してしまいたくなる。

だけどもすぐに、その怒りは治まる。
馬鹿げた考えだと、心の中で薄く苦笑する。
瞬間的な怒りが鎮まり、強い苛立ちだけが残る。
もう、この馬鹿とは会話できない。

土下座している宮城さんを手でつかみ、持ち上げる。
小さく声をあげて、何か言ってるみたいだけども、無視して。
ギュっと、軽く握り締める。
宮城さんが、更に声をあげる。
宮城さんが、苦痛にもだえる。

全然気持ちよくならない。
全然満足できない。
全然、苛立ちは治まらない

手の中でもがき続けてる宮城さんを見下す。
私は少し、処分に困る。
どうやってこの苛立ちを治めようかと。
どうやってこの宮城さんをボロボロにしてやろうかと。

こんな小さな宮城さんに対して、頭を悩ましてることに。
私はまた少しイライラする。
更に少し、手に力をこめる
宮城さんが、更に声を上げる。
つまらない光景だった。


ブルッと、身体が震える。
それにあわせて、思い出したかのように全身が冷えていく。
もうすぐ七月にもなるというのに。
体育館のトイレは、ほかのトイレよりも冷える気がする。
人の出入りが少ないからだろうか。そもそも体育館がほかより冷えている気がする。
やっぱり足なんて舐めさすんじゃなかった。
全然いいことなかったな、アレ。

軽く尿意まで催してきた。
……、私は、もう一度、握り締めた宮城さんを見る。
顔はぐしゃぐしゃだけども、目に見えるほどの傷は少ない。
少なくとも杉本さんよりかは、大分無事な状態。

「…………、クス」

ちょうどいい。
これなら、死にはしないだろう。
これだけしてやれば、気も晴れるだろう。
というか、もうすでに、想像しただけで気分がよくなったきた。

私は一度立ち上がる。
手の中の宮城さんが、声をあげる。
この高さに脅えてるのかな。
もっと脅かしてあげてもいいんだけど、もうめんどくさい。
それよりも。それよりも、はやくやっちゃいたい。

「宮城さんとは、お話ができないみたいなので、もう喋るのはやめにします」

私は宮城さんの方を向きもせず言う。
宮城さんから小さな声が聞こえた。
恐怖と困惑が混じったような。そんな声。
私が便座の蓋を開ける。当然、宮城さんにも見えただろう。
宮城さんが、また小さく声を漏らしたような気がした。
私は自然と、口元が緩んでくる。

便器にむかって、宮城さんを握り締めた手を近づける。
私から見れば、このまま投げ入れても大丈夫そうに見えるけど。
万が一ということもある。
便器の中に手を入れて、ゆっくりと宮城さんを水面に近づける。
それだけで、宮城さんが大声で喚く。
すごく気分がいい。ドキドキしてくる。


バチャ

私が手をはなすと、軽い音を立てて宮城さんが水の中に落ちる。
便器中の、水の中に落ちる。
バチャバチャと、必死に水面で立ち泳ぎしている。
もしかしたら溺れてるのかもしれない。
宮城さんにとっては、小さな部屋ひとつ分くらいの、深い水溜り。
私にとっては、ただの便器の水。

「……クス、クスクス」

自然に笑いがこぼれる。
宮城さんと目が合う。
必死にたち泳ぎしている宮城さんと。

「た、すけて……!おおれ、おぼれ、ちゃう……!」

宮城さんが、私を見上げて、叫ぶ。
助けて。と
私に向かって助けを求めている。

笑いがこみ上げる。
私にむかって、助けて。だなんて。
今から私が何しようとしてるのか、わかってるのかな?
宮城さんが私を見上げ必死に懇願する。
助けてください。と
そんな宮城さんをみてると。
私が今から、便器の中にいる宮城さんに向かって何をするのか、教えてあげたくなった。


「クス……じゃあ私、おしっこしちゃうんで、頑張ってくださいね。クスクス」

たっぷりと馬鹿にしたような笑みを浮かべて言ってやった。
私の期待通り、宮城さんは泣き喚く。
気持ちいい。
今までで、一番気持ちよかった。

便器の中にいる宮城さんに背を向け。
下着をふくらはぎ辺りまでおろす。
そのまま、スカートを手で浮かせて、ゆっくりと便座に座る。
喚いてた宮城さんの声が殆ど聞こえなくなる。

少し股を開いて、便器の中を覗き込む。
私の影で薄暗くなった便器の中で、さっきより少し激しく宮城さんが暴れてる。
私は薄く笑い、ゆっくりと股を閉じる。
宮城さんにとって唯一の、私との意思疎通を図る僅かな隙間を、閉じてやる。
すでに会話する気なんて、更々なかった。
そのまま軽く、膀胱に力を入れる。
宮城さんのいる便器の中に向かって尿を出す。

シャッー、と音を立てて私の尿が便器に流れ込む。
宮城さんはどんな気分なんだろうか。
小さくされて、便器に閉じ込められて、放尿される気分は。
そんな宮城さんの気分を考えつつも、放尿し続ける。
放尿の快感も合わさって、とても気分がいい。
スッと胸の中が晴れるようだ。

「…………ふぅ」

出し終える。
また股を開いて、宮城さんを覗き込む。
私の尿で薄黄色くなった水面でバチャバチャともがいている。
さっきよりも動きが遅く、弱々しくなっていた。
ちょっとだけ自分の尿の臭いが鼻につく。
宮城さんは、変わらずこっちを見上げて、口をパクパクさせていた。
どうせ助けでも求めてるんだろう。
宮城さんとの会話は、つまらない。


私は軽くあざ笑い、もう一度股を閉じる。
便器からみたら唯一の、外との穴となる私の股の間を閉じる。
尿の臭いが充満してる汚い便器のなかに、閉じ込めてやる。
便器の中で、必死に息をしようと尿の中でもがく宮城さん。
私の尿の臭いを、必死に吸い込み、飲み込んでるであろう宮城さん。
泣き叫ぶことしかできない馬鹿を、便器の中に、閉じ込めてやる。
自分がどれだけ惨めな存在か、宮城さんに教えてあげる。


トイレットペーパーを使い、尿をふき取る。
私の尿を吸い込んだ紙が、僅かに縮んで重くなる。
ふと、見ると杉本さんが呆然と動きを止めてこちらを見ていた。
私の唾液も殆ど飲み干せず、ただ私の方を見つめている。
そりゃそうか。友達がこんな酷い目にあったんだもんね。

ベチャ

特に深く考えずに。
私は尿を吸い込んだ紙を杉本さんにぶつける。
ベチャっと、音を立てて杉本さんのいた床に直撃する。
杉本さんの小さな体が、トイレットペーパーに隠れて見えなくなる。
でもまぁ、死ぬことはないだろう。

下着をはきなおして、立ち上がる。
少し遠くでチャイムの音が聞こえる。
携帯をみると、2時10分。
いつのまにか五時間目終了の時間だった。

キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン

数秒遅れて、体育館にも同じくチャイムの音が響く。
六時間目は体育館を使うクラスがあるかもしれない。
この休み時間の間にどこかほかに移動しておこうかな。



二人を5cmほどにして、トイレの水道で乱暴に洗う。
ボロボロの体に思いっきり水をかける。二人は、何も言わない。
もうすでに、言葉を発せられるほどの力も残ってないのだろうか。
まぁそちらの方が都合がいい。
小さくした彼女らが見つかることが、私にとっても一番都合が悪い。

「うるさくするようでしたら、1cmにでも1mmにでも縮めますので、そのおつもりで」

全身ずぶ濡れの二人をハンカチで拭きながら、一応釘を刺しておく。
私の声に反応して、二人がゆっくりと顔を動かす。
どうやら聞こえてるようだった。
返事はできないほどにボロボロのようだけど。
伝わったならそれでいい。


「……は、い……」
「…………ぃ……」

が、二人はボロボロの体で返事を返した。
思いもしなかった二人の返事に、私は少し愉快な気分になる。

「……クス」

どうしようもない馬鹿も、少しお利巧になった。
ようやく理解できたようだ。
自分たちが、どんな存在なのかを。



ブブ、ブブブ
トイレから外に出ようとしたところで、私の携帯がなる。珍しい。
そういえば、彼女らの携帯も取り上げとかないと。
入井さんは、もう指輪を持ってないとはいえども。
外に連絡されると、後々面倒なことになるだろう。

そんなことを考えながら、自分の携帯を取り出す。
見慣れた画面に、登録した着信相手の名前が表示される。


「……あ、いはら……さん」


==================================================

五時間目が終わる。
なんとなく予想はつくものの、一応確認のために電話を入れてみる。
今日もまた、五時間目からいなくなった、藤上野さんに。

数コールの後、電話がつながる。

「もしもし?」
「あ、は、い。もしもし?」

藤上野さんがでる。
昨日とは違い、震えた感じの声ではない。

「今、大丈夫かな?」
「え、と……あの……は、い。だいじょうぶ、です……」

普段にまして、よそよそしく。
普段にまして、おどおどしている。
そんな気がする。

「そっかそっか、今どこ?学校かな?」
「え、えっとその……ちょっと」
「んー?答えにくい場所だったり?」
「い、いえ。が、っこう……なんですけど」
「なんだ、やっぱり学校にいるんだね。五時間目はどうしたの?」
「いえ、っと……その」
「昨日も休んじゃって、どうかしたの?本当に大丈夫?」
「あ、えと……昨日はその、……ごめんなさいなんですけど」
「違うよー怒ってるんじゃないよー。心配してるんだから。ね?」
「え、あ、……ありがとうございます。あのでも、本当に大丈夫ですんで……」
「そう?六時間目は来れそう?」
「え……いえ、そ、の…………」
「どっか調子わるい?」
「……えと、そのお腹が痛くて」
「あ、あわわ。そ、そうだったの?」
「はい、ちょっと…………まだトイレに」
「あ、そうなんだ!ご、ごめんね?変なおせっかい焼いて!」
「あ、いえ!その、……お気持ちは、うれしい、です。有難う御座います」
「あ、あははは!じゃあ先生には伝えとくよ!お大事にね!」
「は、はい。ありがとうございます」

通話相手:藤上野 雅美
通話時間:5分38秒

………………。
何はともあれ、彼女は無事だったみたい。
彼女が無事なら、それでいい。


電話を終え、机の上を整理すると、休み時間は残り一分くらいになった。
六時間目の授業担当の先生が教室に入ってきて、授業の準備を始めてる。
藤上野さんのことを、先生に伝えないとかないと。

「先生、ちょっといいですか?」
「うん、どうしたんだ?愛原」

準備していた手をとめ、こちらに振り向く先生。

「実は藤上野さんが、かなりひどい腹痛で、授業を欠席するみたいなんです」
「ん、そうんなのか。確かに居ないな」

私が話すと、それなら仕方ないな。と言った様子で頷く先生。
これでとりあえず、授業に関しては大丈夫。
後は、藤上野さんの方の問題を解決するだけ。
藤上野さんには来ないでと言われていたけど、そういうわけにもいかない。


「先生。私、心配なんで少し様子を見に行っても構いませんか?」



==================================================

びっくりした。
愛原さんから電話がかかってくるなんて。

昨日のこともあって、心配してくれている様子だった。
あんまりしたことのない経験にすこし胸がドキドキした。
こんな、私のことまで、心配してくれるなんて。

興奮を抑え、携帯を閉じる。
気がつくと休み時間ももう一分ほどしかない。
外が賑やかになっていた。
どうやら六時間目は体育館をつかうクラスがあるらしい。
私は、急いで体育館から出た。

どこか、使ってない教室は……
放課後ならともかく、授業中にそれを探すのはすこし、難しいかもしれない……
どこが開いてるかなんて私にはわからない。
かといって、あんまりウロウロもできないし……

う、うぅん…………


………………
…………
……

私は、結局、裏庭に戻ってきていた。
授業中なら、まず人が入ってこない。
でも、これならトイレの方がよかったかもしれない。
こんなとこ見つかったら、何の言い訳もできない。

まぁ……いいや、きっと大丈夫だろう。

近くのすこし汚い古い椅子に座る。
ポケットからハンカチに包まれた杉本さんと宮城さんを取り出す。
ハンカチでかるく拭いて、包んでいたものの、二人は全身ずぶ濡れだった。
もしかしたら、とっくに携帯も壊れてるのかもしれない。
とはいえ、使われると非常に厄介なので、二人から取り上げておかないと。
私の座っている横の椅子にハンカチごと二人をおく。

「一応、携帯電話を渡しておいてください」

簡単に命令して、私は入井さんのスカートを調べる。
入井さんのスカートには、携帯は入っていなかった。

鞄にでも入れたままなのか、もしかしたらまだ持ってるのかもしれない。
入井さんも、スカートから取り出す。

「ま、まさみ、ちゃん……」

なんというか、ふわふわして、視線が定まっていない。
デコピンが、顎に当たったのは相当聞いたのかな。
そんなことを思いながら、杉本さんと宮城さんと同じ椅子に置く。
入井さんは10cmのままだったので、二人の二倍の身長があった。
あとスカートを剥ぎ取ったせいで、当然パンツが丸見えだった。

「スカート、返します。あと携帯電話を渡してください」

入井さんい向かってポイと、スカートを投げ捨てる。
入井さんが、スカートにむかって歩き出す。

「あ、ありがと……で、も。私、携帯、電話は、もってないよ。ごめん……ね」

………………。
もって、ない。とは。
確かに、私は入井さんの携帯を持ってる姿を、見たことはないけど。
……まさか、嘘をついてるのかな。
だとしたら、ものすごい度胸なのか。もしくは阿保なのか。
入井さんは、どちらかというと阿保なような気がする。

「…………、身体チェックしますよ?いいですよね?」

軽く脅しもこめて。入井さんにむかって言ってみる。
もし嘘をついてるなら許さないよ。という意味を込めて。

「うん、……いいよ。服、脱げば、いいのかな?」

………………。
そういって、入井さんはシャツを脱ぎだす。

「……いえ。その大きさなら上から触るだけで大丈夫です」


………………。
結果、入井さんからは携帯は見つからなかった。
ある意味予想に違わず、本当に持っていなかった。


「とりあえず、杉本さんと宮城さんは携帯を渡してください」

そういって、彼女たちのいる椅子に手を置く。
杉本さんが、近づいてくる。
すこし遅れて、のろのろと宮城さんも近づいてくる。

杉本さんが、私の手の上に小さい小さい携帯を置く。
まるで石粒のようだ。見えない。

私はもう片方の手をポケットにいれて、指輪を握り締めて力を込める。
杉本さんの、携帯だけ、が5cmほどになる。
石粒のサイズだとうっかり潰してしまいそうなので少し大きくする。
私が確実に携帯を管理するためにも、これくらいのサイズは必要だ。

5cmになった杉本さんの携帯を上着のポケットにしまう。
宮城さんを見ると、私の手に近づかずに、入井さんの方にいっていた。
何をしてるのか。この馬鹿はまた私をイライラさせてくれるか。
私が露骨に不機嫌な顔をしながら宮城さんを睨み付けていると。
入井さんがこちらを見上げてきた。

「まさみちゃーん!」

そのまま、私に向かって。話しかけてくる。
そういえば、入井さんに対してはデコピンしかしてないのか。
入井さんの私に対しての恐怖が目に見えて少ない。

「……なんでしょう」

そんな入井さんの態度にもすこし不愉快になりながら。
入井さんを睨み付けて会話を続ける。

「なんか、宮城さんが携帯を下に落としちゃったんだってー!」


なにをしているんだろう、この馬鹿は。
見ると、宮城さんは入井さんの足元で縮こまって震えていた。

「……じゃあ早く拾ってきてください」

そう言い放って、宮城さんと杉本さんをつまみ、乱暴に足元に下ろす。
裏庭の地面の上に、ふたりが転がる。

「はやくして下さい、あんまりイライラさせないで下さいね?」

地面に転がる二人に言う。
言って軽く、足をあげて踏みしめる。
それだけで、二人は慌てて起き上がりだす。

「私から見えなくなったら適当な大きさにさせてもらうので、そのつもりで」

逃げ出すとは思わなかったものの、一応言っておく。
あんなサイズ逃げ出したところで、どこかで適当に死んでしまうかもしれないだろう。
私には、それが困る。勝手に死なれては、私としては困る。

必死に探してる様子の二人を見下す。
すると、椅子の上の入井さんが近づいてくる。

「あたしも、探すの手伝おうか?」

…………。
誰よりもあたしを一番いじめていた。入井さん。
いつもいつも暴力を振るってきた入井さん。
この状況で、よく脅えもせず、ぬけぬけと私に話しかけてこれたものだ。
今のうちに、適当に痛めつけておこうか。
下の二人くらいまでになるように。

私がそう思って、ポケットに手をいれ、指輪を握りしめる。
椅子の上でも苛められるくらいに、小さくしてやろう。
私の指先にさえ到底適わないくらいにしてやる。


そう考えていたとき

「あーいたいた。もうお腹は大丈夫なのかな?」


不意に、聞き覚えのある声が響いた。


「あ、いはらさっ……!」



==================================================

学校の中の女子トイレを適当に探し回る。

一階。二階。三階。四階。

本館の方にはいないのかな。
さらに行動範囲を広めてみる。

運動場用。体育館用。

もしやとおもって、職員用トイレもみてみたけど、藤上野さんの姿は見当たらなかった。
まさか、男子トイレ。なんてこともないだろうし。

じゃあもうトイレからでたのかな。
それとも、もともとトイレなんかにはいなかったりしてね。

私は適当に人が隠れれそうなところを探し回る。

今度はすぐに見つかった。
体育館の横の裏庭。

藤上野さんが椅子に座っていた。
よくやくみつけた。


よくやく、みつけた。


==================================================

バッと顔を上げると愛原さんが立っていた。
な、なんでどうして?
い、いやそれよりも!!

私の横の椅子には10cmの入井さんが……!!
愛原さんからみれば私が邪魔で死角の位置に居るとはいえ……
は、早く隠さないと!!

急いで握り締めた指輪に力を込める。
入井さんが、消えるよう念じて力を込める。


横の椅子をみると、私から見ても入井さんは消えてしまっていた。


……!!や、やりすぎた!!
ついうっかり、縮んだ後の大きさも考えずに念じてしまった!
私から見えないとなれば、1mmも無いのかもしれない。
というか、これは限界でどれくらいまで小さくできるのか。
もしかしたら消えて、なくなったわけじゃ……!?

「どうかしたの?」

パニックになっている私に愛原さんが話しかけてくる。
指輪を握り締めながら、返事をする。

「いゃ!ななな、なんにも!!そ、それより愛原さんは!?」

はやく、はやく。入井さんを元に戻さないと!
下手したら、死……死んでしまう!!

「私は心配で探しにきたんだよー。それよりどおしたの?その手?怪我してるの?」

愛原さんが、私の腕を指差しながら尋ねてくる。
指輪を握り締めて、ポケットにつっこんでいる腕に対して。
私の腕が、全身が、ビクリと跳ね上がるように感じた。

「大丈夫!!大丈夫だから!ほら!」

急いで手を出して、愛原さんに見せる。
そして、再びポケットの中に乱暴に突っ込む
かなり不自然な様子だけど、今の私にはそんなことを気にする余裕など無い。

「う、うん。それならいいんだけど……」

心配してきてくれた愛原さんには申し訳ないけど、今、私にはは会話してる時間は無い。
バッと指輪をつかみ、力を込める。
元にもどれ。と。



もっ———


元に戻しちゃ…………駄目だ!!!!
元にまで、戻しちゃったら……愛原さんに気付かれる!!
しまったと思ったときには、もう遅い。
もう、念じてしまっていた。



が、入井さんは。
どこにも見当たらない。



心臓が、跳ね上がる。
自分でもわかるほど、血の気が引いてくる。
入井さんが、入井さんが。
消え……。しん、……だ?

わ、わたし、が……、殺……?


コツンと、指輪を握り締めた腕に、何かが当たる。
硬い、金属の感触。

数秒置いて、頭が働く。


———指輪だ。


私は、指輪を二つ。もってきていた。
人を縮めることのできる、赤の指輪と
何の役にも立たない、黒の指輪。

黒のほうは正直、私の役にたつ能力ではなかったのだが。
もし追い込まれたときは、脅しの道具として利用できるかも。と思い持ってきていた。

つまり、さっきまでは二つとも握り締めて、力を込めていたが。
今は、黒いほうしか、握っていない、ということ。
だから、もう一度赤い方を握りなおして、元に戻るように念じれば!!
泣きそうになっていた私に、希望がよみがえる。
ポケットの中でしっかり二つ指輪を握り締めて、適当な大きさにするように念じる。


「ありゃ?なんか電話かかってきた」


が、私が念じるより先に。

愛原さんから言葉が飛び出す。
私の集中力を引くのに十分な、言葉が。


「んー、杉本さんだ。珍しいかも、なんだろー」


バッと、派手に立ち上がり椅子の下を見る。

二人が、いない。


「………っ!!??」


思わず声が出そうになるほどに。
また、パニックに陥る。
どこかに、隠れられた!?
ど、どこに!?


「はーい、もしもし?授業中にいったいなーに?」


愛原さんが電話にでる。
こんな時間に電話をかけてきた相手に対して、笑うように、冗談めいた声で。

声に引かれて、呆然と愛原さんの様子を見つめる。
が、ハッ気付く、愛原さんを見ている場合じゃない。下を見る。見渡す。
二人は、どこにも見当たらない。
中庭のどこかに隠れたのだろうか。
まさか、愛原さんの目の前で二人を探し出す……!?
いや、そんなことより愛原さんを止めた方が……!?


「……?えー、なにいってるのー?あは、は…………?」


や、やばい!!
あ、愛原さんに、気付かれる・・・…!!
どうすれば!!
でも、い、入井さんも……!!

「…………へー、じゃあ、いま、ここに、いるってこと……?」

———!!

も、もう愛原さん達はいい!!
まずは入井さんを!!
死、死んじゃうのだけは、本当に取り返しがつかない!!
いざとなれば、最悪、……愛原さんを縮めても……!!
申し訳ないけど、入井さんが死んじゃうより、す、ずっとマシだ!!

「あ、あはははは!!」

指輪に力を込めようと思ってた私が、震え上がる。
いったい何が起きたのか分からなかった。
単純に、声のしたほうを向くと。
愛原さんが、愉快そうに声をあげて笑っていた。

「あ、……いはら、……さん?」

びっくりして、思わず声をかける。
愛原さんが、愉快そうにこちらを振り返る

「あ、あぁ。ごめんごめん。杉本さんがねー。小さくなってここにいるんだってさー、あはは!」

………………。
これは。
つまり、そういうこと……?

「わざわざ授業中に電話かけてきたかと思ったら、あはは。信じられる?藤上野さん」

そういって、愛原さんは無造作に電話を切る。

そりゃそうだよね。
そんなこと、人に言っても信じてもらえるわけないじゃない。

「え、えと。あはは……いや信じられないですけど…」

愛原さんの問いかけに、一応答える。
はたから聞くと、呆れるほど馬鹿馬鹿しい質問に。
しかし、驚かせてくれる。どうなるかと思った。

あの二人には、後でお仕置きしてやろう。
もう二度と、こんなことしようとは思わないくらい徹底的に。



「私は信じるけどね?藤上野さん?」



え、と。

私が、振り返ると。

愛原さんが、座り込んでいた。

座り込んでいたんだけど。


立っているはずの私は、その座り込んでいる愛原さんを見上げていた。


「あい、はら……さん?」


笑いながら、愛原さんが見下してくる。

その手には。その愛原さんの手の先には。

私と同じ、信じられないことに、予想通り、赤い指輪が。


「うふ、うふふふふふふふふふ」

「い、いやあああぁぁぁぁぁ!!!」


感情に身を任せ指輪を取り出して愛原さんに向ける。
とっさに小さくなるように力を込める。


が、愛原さんの大きさは、変わらない。



「はい、残念でしたー」



愛原さんが、笑う。

今まで見たことも無いような、愛原さんの表情。
気持ち悪いくらいニヤけた。悪魔のような、表情。


「なぁに?私をちっこくしようしたのー?」


愛原さんが立ち上がる。
目の前には、愛原さんの膝が来る。
もう一度、指輪を握り締めて、力を込める。

「んもぅー。いけない藤上野さん。あはは、お仕置きしちゃおっかなぁ」

が、やはり愛原さんの大きさは、変わらない。
何故かはわからない。なにかトリックがあるのか。
そもそも、私にはどういう原理で小さくなってるかもわからない。

グン、と。愛原さんが近づく。
それに合わせて、私は一歩後退する。

恐い。

「あははは、恐い?恐いよねぇー、ほぉら、逃げ出してみる?藤上野さん?」

笑いながら、愛原さんが迫る。
入井さんの時の、死の恐怖が、よみがえる。
まだ、愛原さんには、何もされてないのに。
愛原さんは、ただ歩いてきてるだけなのに。

「あ、あぁ……」

それだけで、声が漏れる。
恐怖で、涙がでる。

「あれぇー?もう泣いちゃったの?まだ何もしてないよぉ?あははは!!」


も、もう……やだ……
なんで、……なんで私ばっかり……
息が、うまくできない。
気を、失いそうになる。
もう、色々ありすぎて、頭の中が、グチャグチャになっている。
思考力が失われる。
もう、ただ、脅えることしか、できない。



「ぁあいはらああぁぁァァァッッッ!!!!!!!!!!」



けたたましい雄たけびが私の耳に飛びこんだと思った瞬間。


愛原さんの体が後方に、思いっきり吹き飛んでいった。



==================================================

「あたしも、探すの手伝おうか?」

まさみちゃんに聞いてみる。

でも、あたしが聞いても、まさみちゃんはちょっと、不機嫌な顔をするだけ。
なんでだろう。
不機嫌な様子で見下ろしてくるまさみちゃんは、ちょっと、こわい。
黙ったままのまさみちゃんが、こわい。
何か、言ってほしい、かな……


「あーいたいた。もうお腹は大丈夫なのかな?」


聞き覚えのあるこえが響く。
まさみちゃんがすごい勢いで、振り向く。

「あ、いはらさっ……!」

あ、あぁそっか。
愛原さんか。確かに愛原さんのような声だ。
それにしても、愛原さんが来てから、まさみちゃんがなんだか慌しい。


瞬間。いままでなんども経験した、身体がとけるような感覚があたしを襲った。
あ、あれ。また、大きさ。変わっちゃうのかな……?


目を開ける。……どこか大きさ、変わったのかな。
あんまり変わってないような。というか目線はまったく変わってなかった。
元にも戻ってないし、更に小さくなったわけでもない。
別に身体に異常は…………。

あたしが、なにげなく右手を確認しようとすると。
そこにはなにもなかった。

……ん?あれ?えええ!?
左も確認する。右足も左足も。
あ、あああたし。
消えちゃった……?


ええええ、なにこれ。もしかして死んじゃったの?
幽霊になっちゃったの?
座りこんで、手で椅子を殴ってみる。

ゴン

……いたたた。
痛い。

ってことは、なんだろう。透明人間って感じなのかな……?

でもなんでだろ、また指輪の暴走なのかな。

そんなことを考えてたら、
また、もう一度。


瞬間的に身体が熱くなる。

……んもう。
暴走もそろそろ、いい加減にしてほしい。
ゆっくり目を開ける。

……アレ?

なんか、椅子に、普通に座ってる感覚。
あたしはゆっくり立ち上がってみる。
まさみちゃんも、向こうに見える、愛原さんも。
私の目線より、下にいた。

身長が元に、戻ってた。

……なんでだろ。なんか効果が一周したとか?んもう、わけわかんない指輪だなあ。



「私は信じるけどね?藤上野さん?」



愛原さんが、やけに通る声で言う。
ん、そういえば二人はなんの話してるんだろう。
てゆうか、愛原さんはいったいココまでなにしにきたんだろう。

ふと、まさみちゃんを、みると。
少し震えている。

ん、あれ。
というか、今度はまさみちゃんが小さくなっている。
子供みたいに小さくなって。しゃがみこんだ愛原さんよりも。小さい。

「い、いやあああぁぁぁぁぁ!!!」

まさみちゃんが叫ぶ。
ポケットから、あたしの赤色の指輪をとりだす。

あ、あれ?食べたんじゃなかったっけ?
嘘だったのかな?

「はい、残念でしたー」

愛原さんが笑いながら言う。
なんというか、少し。馬鹿にしたような。

癇に障る言い方で。

「なぁに?私をちっこくしようしたのー?」

え。あ、そ、そうか。
まさみちゃん指輪持ってるもんね。
ん、あれ?でもじゃあなんで愛原さんは、小さくなってないんだろ?
失敗、なのかな?
暴走したり失敗したり、案外あてにならない指輪だなあ。

愛原さんが、立ち上がった。
立ち上がってもあたしよりは身長が低いんだけども。

今のまさみちゃんに比べると、とても高くみえる。

「んもぅー。いけない藤上野さん。あはは、お仕置きしちゃおっかなぁ」

そういいながら、まさみちゃんにむかって一歩前進する愛原さん。
まさみちゃんが、一歩後退してる。
まさみちゃんが、震えてる。
震えてる、まさみちゃんは、とってもかわいい。
かわいい。んだけども。

「あははは、恐い?恐いよねぇー、ほぉら、逃げ出してみる?藤上野さん?」

それをみた愛原さんが笑う。
またあの、馬鹿にしたような。
癇に障る笑い。

「あ、あぁ……」

まさみちゃんが、小さく声を漏らす。
よくみると、泣いてる。
顔を真っ赤にして泣いている。
……泣いているまさみちゃんも、とってもかわいい。
とってもかわいい。とっても、かわいいんだけども。

それをしてる愛原さんには、ものすごくムカムカする。
まさみちゃんを馬鹿にしながら笑う、愛原江美という人間に、ものすごい苛立ちを感じる。
抑えきれないほどに、ものすごく強く苛立ちを。……感じる。

「あれぇー?もう泣いちゃったの?まだ何もしてないよぉ?あははは!!」

更に愛原江美が笑う。嘲笑う。
泣いている、可愛い可愛い、まさみちゃんを。嘲笑う。

すごく、苛苛する。我慢できない。

もう、我慢できない。



「ぁあいはらああぁぁァァァッッッ!!!!!!!!!!」



あたしは駆け出した。
愛原江美の頬に向かって思いっきり右ストレートを放つ。

==================================================

倒れたままポケットに手をつっこんで、適当に力を込める。

痛い……。
舌で口内を舐める。
血の味がした。
口の中切っちゃったみたい。

見事にやられちゃった。なるほどね。
私には指輪は効かないけど、打撃はしっかり痛いもんね。
まさかこんなことされるなんて、思いもしなかったよ。

えっと、これは色彩操作の指輪の力だよね。
じゃあ、藤上野さんの方か。
ほかの人に取られたりしてなければ、藤上野さんがもってるはずだ。
誰を透明にしたんだろう、結構強かったな。
まぁ入井さんだろうな、女の人の声だったしね。

まぁいいや、それより藤上野さんに解かせよう。
誰だかしらないけど、早くしないと死んじゃうかもしれないしね。

ま、別にどうでもいいけど。

「藤上野さん?早く透明の効果といてくれる?」

子供みたいな藤上野さんを見下して言う。
近づくだけで脅えちゃって、かわいらしい。
その脅えた目で困惑しながら私を見上げてる。

「な、なにが……ですか?と、……透明?」

……ん、あれ。違ったのかな?
なんか、嘘ついてる感じもないし。盗られたのかな?
だとすると、面倒臭いなぁ。

「んー、アレ?持ってない?黒い宝石のついた指輪。藤上野さんに送ったと思うんだけど」

確か送ってるはず。
藤上野さんには、朱色と黒色の二つの指輪を。
入井さんには、朱色だけを、送りつけたはず。

「え、……あ。も、もってます。け、けど、送ったって……あ、あの」

そういって、黒い指輪をポケットから取り出す。
なんだもってるんじゃん。よかったよかった。
藤上野さんが、何か聞きたそうに、おどおどしている。
んふふ。そうだよね。どういうことか気になるよね。

「あーそれそれ。じゃあ、それもって、元に戻して?」

でも、藤上野さんの言葉を遮るようにして、私は藤上野さんに、命令する。
私のその言葉ひとつでビクビクしちゃう藤上野さんが面白い。

「え、あの。はい。で、でも……」
「早くしてくれる?」

ピシャリと言い放つ。
それだけ藤上野さんは黙り込み。急いで私の命令どおりに指輪に力をこめてる。
ふふふ、気持ちいい。

スゥ、と入井さんの形をした石像が現れる。
あぁ、やっぱり入井さんか。まぁそれが自然だよね。

「え、きゃ、ああぁぁぁぁっっ!!??」

石像になっている入井さんをみて、藤上野さんが、叫ぶ。
あはははは、うるさいなぁ。
授業中なんだから静かにしてほしいなぁ。

「うるさいよぉ?」

藤上野さんに適当に言い放つ。
藤上野さんが、黙る。

私はそのままスカートの右ポケットに手を入れて。
中に入ってる20個近い指輪を適当ににぎる。
そのまま、力を込める。

入井さんの石化がとけて、更に30cmくらいに縮む。

「っだぁ!はぁっー!はぁーっ!はぁーっ!」

そのまま倒れこんで、全身で呼吸する。
あと一分くらい遅かったら死んじゃってたかな?
生きれてよかったねぇ。入井さん?

「はぁーっ……!はぁーっ……!」

30cmに縮んだ、入井さんが私を睨む。
ありゃりゃ。恐くないのかな?
30cmくらいじゃまだ恐がってくれないのかぁ?
……あははは。

ムカツクなぁ

私は助走をつけて思いっきり入井さんを蹴飛ばす。
ボスっと、サンドバッグを相手したような感触。
ボールみたいな大きさの入井さんがぶっ飛ぶ。
藤上野さんがヒッと声を上げる。

あははは、いい気持ち。
飛ばされた入井さんにむかって歩く。
飛ばされたまま、立ち上がれないみたい。
口から、というか顔から。ダラダラを血を流してる。

うふふ。思いっきりお腹に食らってもんね。
骨とか折れちゃってるよね。
もしかしたら内臓もイっちゃったかな?

入井さんの元にたどり着く。
薄く目をあけて、私を見ている。
私をみて、恐怖している。
うふ、うふふふふ。

私は足を振り上げて。
そのまま思いっきり入井さんに落とす。

ボスッ!

「ア゛ァ゛ア゛ァ゛ァ゛ァァァッッ!!!!」

入井さんが叫ぶ。
あはははは、いい気味。

「い、やああああぁぁぁっっっ!!」

血を吐き出して、叫ぶ入井さんを見て。
藤上野さんが青い顔をして叫ぶ。
あははは、うるさいってば。
後でお仕置きしてあげようかなぁ。

「うぐ、うぐぐうううう……」

私の靴の下で。
入井さんがうめき声を出す。
私は更に足に力を込めて、グリグリと。
踏みしめる。
入井さんが、更に苦痛に顔をゆがめる。
あははははは。

「よくもやってくれたね?入井さん?ねぇ?」

入井さんの顔面を、踏みにじる。
力をこめて、何度も、踏みにじる。
グリッ。
グリッ。
グリッ。

「いたかった、なぁ!すっごくいたかった、よぉ!血まででちゃったんだ、よぉ!?」

足を上げて、入井さんの顔をお腹を踏み潰す。
ダンッ!
ダンッ!
ダンッ!

「入井さん、如きが!あはは、はははっ!私に逆らうなんてっ、ねぇ!?」

腕に、腹に、足に。
思いっきり、踏み潰す。
ダンッ!!
ダンッ!!
ダンッ!!!!


「…………ァ………ッ……ゥ…………」

入井さんが全身ボロボロになる。
もう動けないんだろう。
ふふん、いい気味だ。
私を蹴り飛ばすからだ。馬鹿女。

「ィ…………ィヤアア………………アアアッァ」

振り返ると、藤上野さんが今度は顔を真っ赤にして泣いていた。
相変わらず、優しいなぁ。

「死、んじゃう……ぃ、いりぃさんが、ぁ……しんじゃい、ます……」

ボロボロ涙を流して、私に訴えかけてくる。
ああ、やっぱり優しいね。
私を見て、脅えて泣いてたのに、入井さんのために私にむかって喋りかけてくる。
今でも私のことは恐いだろうにね。

でも、そんな顔されちゃうと……
うふふ、うふふふふ。

「そうだね。じゃあほら」

スッと足を持ち上げて、スカートに手を入れる。
そのまま、入井さんを小さくする。大体1cmくらいかな。
持ち上げた私の足の影に全身収まる
入井さんは、もちろん動ける状態じゃない。

「ほぉら?助けてごらん?」

にんまりと笑って藤上野さんに言う。
藤上野さんが、目に見えて動揺する。
うふふ、その顔も可愛いね。

「ほぉら、早くしないと入井さん、踏み潰しちゃうよぉ?うふふふ」

足先をブラブラさせながら、藤上野さんを見下す。
藤上野さんは、じっと入井さんを見つめてるものの。
動こうとは、しない。
うふふ、そりゃそうだよね。
今から踏み潰すぞ。っていってる私の足の下なんかにこれないよね。

「お、おねがいします……やめて……ください……」

ありゃりゃ、土下座しちゃった。
藤上野さんはぶるぶると震えて、土下座している。
あーあ、仕方ないなぁ。

足を下げて、足元の入井さんを拾う。
たしか杉本さんと宮城さんもここにいるんだっけかな?
あぁもう、……めんどくさいなぁ。


………………
…………
……


ガラッ

「遅れて申しわけありません」
「おー、愛原。おつかれさん」

「(……んれー?えみ、どこいってたの?)」
「(あ、えっと。ちょっとね……)」
「(えぇー!なになに、おしえてよぉー!)」
「七月さん。私語するなら、授業の妨げにならない程度でお願いしますね」
「え、えへ。ごめんなさぁーい」

「(んもー、おこられちゃった。)」
「(あはは、ナツキがうるさいからだよぉ)」
「(あはははー。)」


………………
…………
……


キーンコーンカーンコーン
キーンコーンカーンコーン

「はい、今日の授業はココまでです」
「おわったー!えみ!おわったよ」
「あはは、わかってるって」
「では引き続きHRを始めます。今日はプリントが……」


…………、うふ。
うふ、うふふふふ。
足がくすぐったいなぁ。
藤上野さんと入井さん。
砂粒サイズの二人が私の靴下の中で必死にもがく。
でも、残念でした。
どんだけもがいても、あなた達は出られやしないの。

藤上野さんを探しまわしたせいで、すこし汗もかいてる。
うふふ、私の足の臭い、たっぷり嗅がせてあげる。
すこし、足の親指を動かす。
砂粒のような二人が私の足指に蹂躙されるのを、僅かに感じる。
くすぐったい程度に感じる、二人の感触。
あはははは、私の靴下の中で、どんな思いしてるんだろう。
六時間目の間、靴下の中で過ごさせた。
ずーっと、私の足の臭いを、無理やり嗅がせ続けた。

でも、まだまだ、もっともっと。
この二人を弄んでやる。


「では、HR連絡は以上です。気をつけて帰るように。解散」
「おわったよー!えみーかえろー!」
「ナツキー、ごめんね、今日もちょっと用事があるんだよー」
「うへぇ!六時間目は半分サボるわ、浮気はするわで、やりたい放題ですなぁ」
「あははは、ごめんね。かたじけないよぅ」
「まったくもぅ!しかたないのう!あは、それじゃあ、また明日ねっ!」
「ふふ。うん、また明日」


………………
…………
……


「ほらぁ、はやくお掃除してよぉ?私の足の爪の垢。あははは!」

うふ、うふふふ。
靴下の中の二人に命令する。
藤上野さんと入井さんの動きが、止まる。
だけども、砂粒サイズの二人は従うしかない。
それが、どんな屈辱的な命令であろうとも。



あの後、六時間目が終わったあと。
靴下に入れていた藤上野さんを元のサイズにもどして。
裏庭に戻って、杉本さんと宮城さんの大きさを戻して、記憶を適当にいじって開放した。

私は、杉本さんと宮城さんの二人には全然興味が無かったので適当にすまそうとしたけど。
元の大きさに戻っているにも関わらず、私に泣きながら土下座する藤上野さんをみて。
殺さないで。と必死に何度も何度も。泣きながら頭を下げる藤上野さんを見て。

その反応が楽しくて、ついつい遊んでしまっていた。
杉本さんと宮城さんを、何度も何度も殺しかけて。
そのたびに泣き喚く、藤上野さんの精神をいたぶって。

私が満足して、杉本さんも宮城さんを開放したころには。
藤上野さんは、クタクタになっちゃってた。
私はそのクタクタになってる藤上野さんを、もう一度砂粒サイズにまで縮めて。
靴下の中に投げ入れて、靴を履く。
割と、藤上野さんの身の安全を考慮せずに。



「それじゃ、私家に帰るからね?うふふ、踏み潰されないようにねぇ?」

靴下の中の藤上野さんと入井さんに一方的に話しかける。
もちろん返事なんて聞こえない。
足の親指の先っぽがちょっとくすぐったくなるくらい。
私が歩くだけで、二人が振り飛ばされる。
あはは、気持ちいい。

「ほぉら、家につくまでに綺麗に掃除しておいてよぉー?あははは!」

二人に、命令する。
到底できるわけない命令を。
そもそも今も、私の足に踏み潰されないように必死になってるはず。
うふふ、踏み潰してあげてもいいけど小さすぎてわかんないや。
それに入井さんは別にいいけど、藤上野さんが死んじゃったらつまんないしね。

==================================================

「ほらぁ、はやくお掃除してよぉ?私の足の爪の垢。あははは!」

途方もなく大きな、愛原さんに命令される。
大きい。大きすぎる。
顔が見えないどころじゃない
そもそも、足の爪にすらどうがんばっても、とどかない。
今、私と入井さんは、愛原さんの靴下の中に閉じ込められていた。
ひどい臭いが漂う、醜悪な環境の中で。
まるでそれひとつが巨大生物のように動く愛原さんの足指から逃げまわっていた。
恐ろしく大きい。というか。
私たちの大きさが、余りにも小さすぎる……
もう、1cmもないようだった。ほんとに1mmくらいに、されちゃっていた。
なんども愛原さんの足の指に潰されそうになりながら、必死で逃げ回る
こんな、靴下の中で、息を荒げて、走り回る。
吸い込む息が気持ち悪い。
うぅ、酷い。

酷いよ……なんで、なんでなの?
愛原さん……。

友達のいない私に話しかけてくれた愛原さん。
入井さんにちっこくされたときも助けようとしてくれた愛原さん。
やっぱり、私を、心配してくれたんじゃ……なかったの?
辛い。
愛原さんに、裏切られたみたいで、辛い。


でも、でもでも。
まだ、誰も死んでない。

そりゃそうだよね、愛原さん、すごく恐かったけど。
それでも、やっぱり人の命なんて、簡単に奪えるようなものじゃない……。
そんな恐いこと、簡単にはできない。

大丈夫。まだ、大丈夫。
入井さんも血はすごいけど、なんとか立ち上がって歩くことができてるし
杉本さんと、宮城さんも、なんとか生きて、返せた。

あとは私たちが生きて帰るだけ、愛原さんが変な気さえ起こさなければ……!
愛原さんと、なんとかお話ができれば……!


==================================================

学校から歩いて20分。
家につく。

ガチャ。

「ただいまー」

誰も居ない。
玄関の扉にも鍵がかかっていた。

靴を脱ぎ、家の中に入る。
私はそのまま、三階の自分の部屋に向かう。

鞄を机に置いて、二人を入れたほうの靴下を脱いで、かるく払う。
そして、ポケットの指輪に力を込める。

瞬間。
私の部屋の隅っこで藤上野さんが。
私の足元で入井さんが。

それぞれ、30cmと1cmにまで、大きくなる。

「わっと、足のほうにへばりついてたの?あはは」

足元でグッタリしてる入井さんに言う。
相変わらず虫みたいだ。
こっちを見る元気もないのかな、うな垂れたままだ。

「入井さんには、別に用事ないから。ほら、掃除の続きしといて?」

そういって足を動かし、入井さんにぶつける。
入井さんが、なんの抵抗もできずに倒れる。

「倒れてないで、ちゃんと舐めてね?サボってると踏み潰しちゃうよぉ?」

入井さんに適当に言い放ち、床の隅にまでぶっ飛ばされてた藤上野さんをみる。
私の声が響いたのか、頭を抑えながら、ゆっくりと起き上がっていた。
私に気付くと、脅えた様子で、こちらを伺ってきた。

「あ、あいはら……さん」

まだビクビクしてる藤上野さん。
さっきよりも300倍も大きくしてあげたのにね。

「うん。おいで?藤上野さん」

ちょっとだけ、甘い声使いで。
藤上野さんを呼んでみる。
ビクビクしながらゆっくりこっちに向かってくる。
かわいいなあ。
ちょっと、遅いけど。

「き、ました……」

私に報告する藤上野さん。
あはは、みれば分かるよ。
いつみても、小動物チックでかわいい。
うふふ、座り込んで頭をなでてあげる。

「あ、…………あの、あ、いはらさん……?」

藤上野さんが、こちらを見上げて呼びかけてくる。
あははは、恐いのに無理してるね。
必死な形相。笑っちゃう。

「ふふ、なぁに?どうしたの?」

にんまりと、笑いながら見下す。
それだけでビクっと身体を小さく震わせて、ちょっとたじろぐ。
うふふ、頑張って私に話しかける決意したのにね?
そんな可愛い事されるとその心を折っちゃいたくなるよ。

「わ、……あの……っ……」

藤上野さんが焦る。
言葉を、選んでるのかな。
私が恐く感じちゃって、言おうとした言葉がでなくなっちゃってたりして。

「なぁに?何にも用事が無いのに呼んだのかなぁ?」

撫でてた手を止めて、藤上野さんの頭をつかむ。
薄く笑みをつくって、藤上野さんの言葉を待つ。
藤上野さんの言葉を邪魔しながら。
藤上野さんの言葉を待つ。

「わ、たし……たちを……その、殺さないで、くら、さい……!」


…………。
私がちょっと、驚くほどに力強く。
言い切る。
それには少し不愉快にはなるけど。

でも同時に、私は、そんな、強く言い切れる藤上野さんが好きだった。

いかにも、藤上野さんらしい、言葉。
私。じゃなくて、私たち。
助けてください。じゃなくて、殺さないで下さい。
私が好きな、藤上野さんらしい、言葉だった。

「なんで?」

だから、私はもっと聞きたくなった。
その藤上野さんの言葉を。
でも、心には、すこし苛めてあげたい、というのもあったみたいで。
すこし意地の悪い返し。

「なん、で……て」

当たり前じゃないですか。
とでも、言いたいんだろうけど。
この状況で言えやしない。
それはつまり、殺されても仕方ないってことを認めちゃうことなんだけどね。

「あい、はらさんだって……犯罪者に、なります」

………………。
本当に。
良い子だね。
こっちがおかしくなるくらい。
いや、そりゃ当然、こっちがおかしいんだけどね。
まいっちゃうね。

「そっかー、そうだよね。私も犯罪者はちょっとキツいなぁー」

そりゃまぁ。
犯罪者、というか殺人犯になんかなっちゃったら。
外歩いて生きていけないよね。
うふふ。
常識の塊のような藤上野さん。
やっぱり素敵だね。

「え。あ、はい……!」

みるみる元気になる藤上野さん。
笑顔も可愛らしい。
私はニコッと笑って、頭を撫でてあげる。よしよし、ってね。

元には戻せといわず、何より人の命を重んじる藤上野さん。
こんな特殊な状況下でも、意味の分からない、非常識に包まれても。
自分の常識を貫き通そうとする、藤上野さん。
あははは、私なんかじゃ、到底かなわない綺麗な人間だね。

足元にいる入井さんをつまむ。
ボロボロになりながら、息を荒くしてる。
私がボロボロにしたんだもんね。
加減は適当だったけど、なんとか生きてたみたい。
今から病院にでも運べば、たぶんなんとかなりそう。
やっぱり、丈夫な身体だね。

あっ、と声をもらす。
藤上野さん。
ちょっと心配そうにこっちをみてる。
なにか言いたそうだけど、何もいえないような。そんな顔
あははは。何が言いたいかなんて、さすがに分かるよ。

藤上野さんのほうを見ながら軽く笑う。
そのまま、藤上野さんの方を見つめながら。
手で摘んだ1cmの入井さんを私の口の中に入れる。

「へっ……」

藤上野さんが間抜けな声をだす。
私は構わず、入井さんをそのまま飲み込む

ゴクン。

「あ、あい、はっ…………い、やぁ」

く、
くふ。
ふふふふふ。

「あははははははははははははははは!!!!」

「いやあああああああああぁぁっっっ!!??」


やかましく叫びだす藤上野さんを思いっきり蹴飛ばす。
ずっしりとした子供を蹴飛ばす感触が足に広がる。
ドンッと私の部屋の壁にぶつかる。

「ぃあぁぁぁぁっ!!??」

藤上野さんが起き上がる前にズンズンと近づいていく。
起き上がろうとしている藤上野さんを素足で思いっきり踏みつける。

「あ゛っ!!あ゛ぁ゛っ!!」

何度も何度も踏みつける踏みにじる踏み潰す。
藤上野さんの歯が折れて顔中血まみれになる。
お腹も腕も足も全部全部何度も何度も踏み潰す。

「あ゛ぁ゛っ……あ゛ぁ゛ぁ゛……」

段々藤上野さんの声がでなくなる。
私は立ち上がったまま思いっきり勢いをつけて藤上野さんの顔にめがけて座り込む。
顔以外の藤上野さんの身体が跳ね上がる。
そのまま体重をかけてグリグリと顔の上でお尻を動かす。
藤上野さんが必死に息をしようともがく。



うふ。愉快愉快。
やっぱり、だれよりも命を重んじる藤上野さんの前での殺人行為は愉快だ。
さっきからちょくちょくお腹に刺激を感じる。
入井さんが暴れてるのかもしれない。
あははは。ざまぁみろ。
入井さん如きが。なにしたって私にはかないっこないよ。
でもそうだと分かってても諦めれないよねぇ?
諦めたら死んじゃうもんねぇ?
うふふ、じわじわと死の恐怖を味わいながら溶かされて死んじゃうといいよ。
もう入井さんなんて、とっくに用無しなんだから。
あとは藤上野さんと遊ぶだけ。
どうしてあげよう。どうやって遊んであげようかな。
うふふふふ。



藤上野さんが動かなくなってくる。
ここで死なれても楽しくない。
私はすこしだけお尻を上げる。
藤上野さんが息ができるように。
それにあわせて私は軽く放屁する。

「っはぁ……!!っぅぇっ!!……っはぁ!!」

うふふ。
藤上野さんが必死に吸い込む。
私のおならを。
苦しかったんだもんね。
ほら、いっぱい吸っていいよ。
私のおならでよければね。あはははは。
お尻の下で必死に呼吸を続けている藤上野さんに向かって。
私は踏ん張ってもう一度放屁をする。
まるで馬鹿にするように、大きな音が出た。
うふ、うふふふふ。どこまでも惨めで可愛そうな藤上野さん。

「ぜはぁっ……!!はぁっは……!!」

全身で呼吸して、なんとか動きだしそうになる藤上野さん。
私はその胸倉をつかんで、立ち上がって、向こうの壁にむかって放り投げる。

ドンッと壁にぶつかる藤上野さん。
もう一度、ズンズンと近づいていく。
近づきながら、ポケットに手を入れて、念じる。
藤上野さんが10cm程度になる。
逃げようと、必死に動こうとする藤上野さん。
その右腕を思いっきり踏む。

「ひぎあぁぁぃぃぃっっ!!??」

鳥のような高い声をあげる藤上野さん。
うふふふ。気持ちの良い声。
そのまま右脚、左脚、左腕の全てを踏み潰す。

「ひぃっ———ぎぃっっ——!!??」

藤上野さんが人間が出すような声じゃない音を発する。
とても綺麗とは言えないね。
でも、気持ち良い声。
動こうとしていた藤上野さんが、どう頑張っても動けなくなる。
動けない藤上野さんにペッと唾を吐く。
顔に当たって、呼吸ができなくなってる。
うふふ。でも。
腕が無い藤上野さんは拭うことができない。
このまま窒息しちゃうかも。

あは、
あはははは。

うん。
もうだめだね。

もう遊べないや。

私はゆっくりと藤上野さんの上に素足を掲げる。
藤上野さんと目が合う。
もう藤上野さんの目には表情はない。

「楽しかったよぉ?藤上野さぁん」

馬鹿にしたような甘い声を出して、
そういって、藤上野さんをゆっくり踏み潰す。

ぐちゃぁり。と

肉詰めの卵を踏み潰したような感触が足裏に広がる。
あまりの気持ちよさに。藤上野さんを潰した快感に。
しばらくその場に立ち尽くす。
あぁ……すごく、呆気ない。
あぁ……すごく、気持ちいい。

ぐちょ。
ぐちょり。

そのまま、踏むにじる。
とっくに死んじゃってる藤上野さんだった肉塊を。
何度も何度も何度も何度も。
藤上野さんを踏みにじる。
藤上野さんの命を、踏みにじる。

あ、あは。
「あはは、あははははは!!!!」


この日私は。
快楽に身を任せ。
入井さんと、藤上野さんを。
殺した。




………………
…………
……




6月25日(月)曇り

「ど・れ・に・し・よ・う・か・なっ。とね?」

指輪ケースから、指輪を選ぶ。
200を超える指輪の中から、選別する。
色彩変化の指輪は失敗だったしなぁー。
まさか他の人を透明にしちゃうなんて。
んもう、思い出すだけでムカついてくるよ。

物質縮小の指輪は二人に送るとして……
藤上野さんの身を守れそうな、うーん。
時間制御の指輪、とかでいいかな。
あれだと藤上野さんがどこで使っても、私にはわかるしね。

あーそうだ、今回は探知機でも内蔵させようかな。
前のは無駄に走り回ったしね。
やっぱ宝石とか高価なものだと強盗とか恐いしね。
楽しめずに終わっちゃうのが一番面白くない。

んで、あとは手紙だね。
ちゃんと手紙を入れとかないとね。

えっと、前回が、26回目だっけかな。
うん、そうそう。そうだったよね。
んと、それじゃ……。


そして、私は。
小さな紙に「27」とだけ書いて。

これで、完成。


藤上野雅美宛ての手紙。
入井美喜宛ての手紙。
中に魔法の指輪と、小さな手紙をいれて。

「よぉーし、できたできたっ」

あとは彼女たちの家に届けるだけ。
さぁて藤上野さん、今回はどれくらい一緒にすごせるかな?
ふふ、うふふふふ。


さて、それじゃ学校に行かなきゃね。
優秀な私は30分前には登校しなくっちゃ。

簡単に支度して、学校に向かう。
藤上野さんと、一緒にいれる、学校に。

「いってきまーすっ!」


今日は、相変わらず、曇りだった。




「おっしまい♪」