これは男が女の10分の1の話です。
「た、ただいま~。」
僕はゆっくりと玄関の男性用のドアを開ける。
カチャとドアを閉めて家の廊下のほうに振り向くと、そこには腕を組み僕を見下ろしている妹がいた。
『お兄ちゃん?今、何時だと思っているの?』
僕は腕時計を確認し、
「は、8時です・・・。」
『門限は7時よね?1時間も過ぎているじゃない。今の世界は、男は非常に危険なのに。
女に捕まったら逃げられないのよお兄ちゃん!』
妹の瞳は潤ってくる。
『お兄ちゃんがいなくなったら・・・私・・・私・・・。だから門限も作ったのに!!』
ズンズンズン・・・と走り、妹はリビングに入って行った。
いつもなら玄関に来た僕を迎えに来てくれて運んでくれるのだが。
僕は梯子を使って玄関の段差を上がった。
そして、妹が5歩くらいで行ったリビングまでの道を僕は数十歩で行くことに・・・。
リビングに入ると妹は椅子に座り晩ご飯を食べていた。
僕は床に付いた妹の足に向かって走る。
「お、おい。ヒトミ~。」
妹の足を叩く。
『何?踏みつけるよお兄ちゃん?』
妹は足を動かし、僕を蹴っ飛ばした。僕にとって3mは飛んだ。
妹に謝ろうとしたが今の状態では無理だと判断した。
そして、10mくらいの高さの机の梯子を登った。
机の上には妹用の晩ご飯と僕の小さな晩ご飯が用意されていた。
「ありがとう・・・。頂きます・・・。」
僕が口を付けた瞬間、妹は『ご馳走様!』と言い、食器を重ね台所に置き、自分の部屋のある2階に行ってしまった。
口にした食べ物は味噌汁でさえも冷たくなっていた。
食べ終わり、僕は食器を重ねておいて、梯子を降りた。
そして2階へと行こうとする。
階段1段1段には、2m程度の梯子がある。いつもは妹が2階へと運んでくれるのだが・・・。
今日は、1段1段登って行く。
2階に着くまでに数分かかってしまった。
そして、僕は自分の部屋に入る。
頭の中は妹の事ばかりだ。妹の作った門限を破ってしまった事・・・。
僕は決意し、妹の部屋に入る。自分の部屋から妹の部屋に入れるように妹が作ってくれた小さな扉があるのだ。
「ヒトミ?」
入ると妹はベットに横たわり壁を向いていた。
僕は高さ4mあるベットをシーツを使って登る。
妹の大きな背中が見えた。
「ヒトミ!!ヒトミってば!!」
妹は反応しなかった。寝ているのかなと思い近づいた瞬間、妹の手が伸びてきた。
僕の体を軽々と動かし、妹の正面に僕は置かれた。
『お兄ちゃん?門限はしっかりと守らなきゃ駄目よ。』
「はい・・・。」
『それに夕飯、お兄ちゃんが好きな肉じゃがだったでしょ?私、お兄ちゃんが帰る7時くらいにちょうど作り終わるようにしていたの。
でも1時間経っても帰ってこなくて・・・心配したのよ・・・。』
妹は泣きながら言っている。
『でもゴメンね・・・。私が馬鹿だったわ。今度から友達と遊ぶとき、私の部屋で遊ぶといいわ。
私の部屋なら男の子用の公園よりは広いだろうし、時間になってきたら私が友達を送ればいいのよね。』
「いや、僕が悪かったよ。今度からは門限を・・・。」
ぎゅっ!
妹は僕の体を自分の胸に優しく押し付けた。
『門限なんていらないよ。今度から私のお部屋ね。』
「あ、ありがとう・・・。」
『そうだお兄ちゃん!ちょっと渡したいものが・・・。』
妹はベットから起き上がると自分の机の上に置いてあった小さな袋を僕に渡した。
『チョコレート!1日遅れだけどね。』
妹はケラケラと笑った。可愛い・・・。
「ありがとう・・・。」
『フフフ・・・。どういたしまして。そうね、お風呂に入りましょうね。さっきは踏みつけるとか言ってごめんね。』
「いや、だから僕が悪いんだからしょうがないよ。」
おわり