仕事もひとまず区切りが付き、軽く食事を取った後の休憩室。

決して上質とは言えないが
いつも自分が座っているパイプ椅子に座ると否応無く力が抜ける。

ググーっと前屈み気味に伸びをしたらなんだか血行が良くなり
肩に残った凝りもほぐれ…だらっ…とテーブルに身体を這わす。

あぁ…メダル集め疲れたなぁ…でも終わって良かったなぁ…とうだうだしていると…
ぱたぺたと、スリッパ…サンダル…に足を通さず、乗る様に歩く行儀の悪い足音が聞こえて来た。



この適当さは…。
時折聞こえるフーン♪の鳴き声は…。

「おぉープロデューサー…お疲れちゃん?」

宮本フレデリカにエンカウントしてしまった!

休憩室に走るタイフーン・フレデリカ。
あぁ…"休憩"という名の大地がボロボロ音を立てて崩れて行くようだ。
もはやそれは人類の手には負えない天災のようなものである。

「おー、お疲れ。
見ての通りプロデューサーさんは疲れたので休ませていただきます」
諦めてぐでっとこれまで以上に肩を降ろし
ダラダラとテレビを見させていただくことにする。

「おぉよかろう。私は許そう…我は寛容じゃ」
と言うなりテーブル向かいパイプ椅子に座る女帝フレデリカ。

おぉ…あなた様よ。何故向かいに腰を下ろす。
そのギラギラと獲物を見定める目はなんでございますか。

何か…をするであろう、
有象無象のよく分からない相手は予備動作さえも読めないものだ。

気付けばフレデリカのターン。
右手を伸ばしたか…と思うとこちらの左手を覆う様に…。

「パクッ」
と、声を出し袖口で左手を呑み込んだ。

ドヤ顔で見据えるフレデリカ、怪訝な顔で見つめる自分。

「E・T」
いやなんだこれ。

なんだこの遊びは…
だが…どうにも仮にも
声出さずあらば容姿が整ったハーフ美人フレデリカと
こんな事をしていると思うと小恥ずかしい。

袖から手を抜いてしまおうか…。と抜こうとするも…
ねちっこく…スラッとした指がくるくると絡んで来るからどうも抜けない。

そうだよなぁ…フレデリカはこういう事が上手いんだったな…
押されては引く…引かれては押し…と
のらりくらりと自分のペースに持って行くその掴み所と抜け目の無さ。

けれどもそれが弱点か、何もしないと何もしないのだ。
袖の中、むにゅむにゅと指を絡められども反応せず。
指圧をされども反応せず…と貫くと…。

パタ…。とフレデリカの指が止まって落ち…少し心配そうなフレデリカの顔が。
あぁいや、そんなに心配させるつもりはなかったと釈明しようにもどうにも信用して貰えない。

するとどうだろう…
フレデリカの服がぬもも…と、うねり、のたうち、
右の袖口からぬるり…とスタードリンクがまろび出た。

なんて所から、なんて物を…と思ったがフレデリカの顔は真剣そのもの。

「プロデューサー…お疲れ?これあげる」

どうやらくれるようだ。

取り出す所が取り出す所だっただけに、少し恥ずかしいが…。
アイドルを心配させてしまった手前、断る事は出来ない。
観念してスタードリンクを握ると…妙に生温い。

「いただきます」
スタードリンクに口をつけるとやはりというか生温かく、
さっきまでフレデリカの服の中にあったんだよなぁ…と思うと甘酸っぱい。

けれども生温い炭酸飲料の宿命か、
美味といえるかといえばそうではない。

口早に一気に飲んでしまおうか、飲み干すと。
喉が炭酸とカフェインで摩擦され火が出る様に熱が湧く。
するとその熱は喉越しに心臓に送られ五臓六腑にまで行き渡り…。

手足がぽかぽかと温まって視界もグラつき…。

まるでほろ酔い気分。

机にもたれるように顔を突っ伏し、
顔…胸…両肩…とだんだんとそのもたれる面積も広くなる。

足もぶーら…ぶーら…と揺らしていると
ポロッと抜ける様に靴が脱げてしまうがそれもどうでもよい。

服も熱いから脱ごうとしたら脱げない…が、
フレデリカが手伝ってくれるようだ。

…あれ?フレデリカ…お前…なんだか…大きくなってないか?

グラッとした頭で目をこすりまた見てみると…やはり大きい。
酔いのせいか…?と思ったが…。
いやまて、そもそもスタードリンクで酔うわけがない。
もしかして…一杯盛られたのだろうか?
ありうる、宮本フレデリカなら。

深呼吸交じりの生唾を呑むと少し…思考力が戻って来た。
そうだ…アイドル達が防犯目的という体(てい)で持たされている
人間を小さくするという縮小薬。

気付けば運動場のように広がった机の上。
腰を使って持たなければ到底持てなさそうなスタードリンク。
眼前に広がるいつも通りながらの小悪魔系笑みを絶やさぬ宮本フレデリカ。
そして…今にも左腕を吞みほさんとする宮本フレデリカの右の袖。

…完全に術中にハマってしまったというやつだ。

フレデリカは…。
おそらくこちらの反応を窺っているのだろう…。
こちらがやっと状況を理解して焦燥感に駆られてる顔をしても
「これから何をするのだろう?」と好奇心爛々にこちらを見つめるばかり。

試しに袖に呑まれかけている腕をグイッと引いてみる。
するとやはりか、ヌッと引き戻すフレデリカの右袖。
逆に押し返すとふわっと猫の手でこちらを受け止めころんと転がす。

「プロデューサー、元気になったー?」

…完全に遊ばれている。
押しては引き、引かれては押し弄ぶ…の繰り返し。

けれどもそれが弱点か。
袖の中に引き戻そうとする指に体重を預け…
動かず、興味が無くなるまで様子を見る…さっきと同じ手法。
なんだか…クマと出会ってしまった時の対処法みたいだ。

しかし…あぁ悲しいかなそれが成立するのは力が拮抗している上でのことで、
指で一押ししたら倒せる小人はただ慈悲を求めるしかなかったのだ。


ぬもぬも…。

ぬもぬも…。とフレデリカの袖が芋虫の様に這って来る。

まるで焦らす様に…。
取り込む様に…。

左腕は引っ張られ、ついにはフレデリカの袖に入ってしまう。
じっとりと…皮膚上の汗が煮えられた袖の中、
手を揺らすとまるで溶かす様に湿気がまとわり…伸び付き…
だらんと腕の力が抜け…フレデリカの肌の温もりに身を任せるようになる。

"人間の居て良い場所ではない"
そう、直感した。

けれどもその、
肌にひり付く手の平の感触が伝わったのか、フレデリカはたいへん満足げ。

「おおっ!気持ち良くなっちゃった?
そ・れ・じゃ・あ…フレデリカのVIPルームへご招待~」

突如ガバッ!と開きイモガイのように喰らい付く袖口。
今までゆるやかにジワジワと呑み込もうとしていた袖口だっただけに
一瞬何をされたのか分からなかった。

「パクッ」

けれども…その事態を把握した時、既に遅し…。
周りはフレデリカの袖に覆われ…。
身体をさする様に…撫でる様に…絡み付く巨大な指。
空気はフレデリカの体汗と共に…ネイルの柑橘系の匂いと…。
時折その洞窟の奥から流れてくる制汗剤の匂いで満たされていた。

吐く息、吸う息、呼吸のたびにフレデリカの味に染まって行くようだ。
ひどく…ぬるく…脳をとろかしにやってくる。
服もぬるりと湿って来るとベドベドとして少々気持ちが悪い。

それを察したのだろうか…絡み付く指はシャツズボンパンツと撫で脱がし…。
抵抗する時間も無く器用に服が脱がされて行く。
パンツに指が這い…ピン!と爪ではじく様に脱がされるともう全裸。

その脱いだ服…は袖口から排出される運命になった。

ポイポイッとまるで排泄物の様に外界の空気へと放出される脱いだ服。
…けれども、そのまま小さくなった服を外に出しとくのはマズイと思ったか…。
パクッとまた袖口が服を呑み込み…。ググッと急にその口が持ち上がる。
すると突然身体を掴まれ…また、ググッと…。
フレデリカが重力に逆らうよう…上へ腕を持ち上げる…。と

コロッと転がる脱いだ服、シャツ、ズボン、パンツ。
その服がコロコロと…コロコロと…
フレデリカの服の大地をのたうち…回りながら…ついにはストン、と。
洞窟の奥…ひじ裏の窪みを通り越し…腋の奥へと…落ちて行った。

それはまるで嚥下の如く、呑み乾した服は影も形も見当たらない。

ゾゾッとした…いや、ゾゾッと"して"しまった。
その身震いは見事にフレデリカに伝わり…。

「ごっくん…んーうまいうまい。余はまんぞくじゃ」
まるで袖口を操り人形、パペットのようにパクパク動かすフレデリカ。

パク…パク…と広がる袖口からは外界の空気、外界の光、が差し…

パクッと閉じると絶望感がひたりと肌にすり付いた。


「プロデューサーも…呑まれたい?
今ねー…服がねー…なんと胸の谷間に入っているのです!」

「フレちゃんの胸だからねー…柔らかいよ?ふわふわ。
だからねー…取りにいこ?ね♪」

急にポロッと体を放された。
するともうそこは急傾斜、ゴロリ…と体がよろけて…コロコロと身体が…。
慌てて壁を…フレデリカの服の坂を掴むとぶらりと垂れ下がる。
助かったか…?と思ったが既に運命は決している。

フレデリカの指が襲って来たのだ。

あくまで引き剥がさず…舐め落とす様に…。

背中を、背筋をなぞる様にめくり…めくり…

両腕を優しく引き上げては片腕を離させ、掴ませ、また離させ。

胴体をねじるようにくにゅくにゅ…と。

いつのまにか股間は甘勃起し
フレデリカからの責めに夢中になっている自分に気付く。
けれども…気を許しては袖の奥に真っ逆さま。快楽に負けてはならない。


するとどうだろう、観念したかフレデリカの指が離れ…
ぐいーっと袖口から出て行く。
終わったのだろうか…?今後の行く末に一抹の不安を憶えると…。

決め技を仕掛けるような『チュッ』としたキスの音。
それからだんだんと…そーっと指が下降してきて…。

再度謁見したその指は、唾液が絡み付いていた。

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休憩室が何やら騒がしい。
プロデューサー…は、そこに居るのかな?と顔を覗かせると…。

「おや?ありすちゃん?ぼんじゅーる?しるぶぷれ?」
橘です。
騒がしい人が居た…。

「おーありすちゃん」
と、塩見周子さん。クールな人…だが、スイッチが入ると手が付けられなくなる。
今はスイッチが入っている状態なのだろう。

宮本フレデリカさんと服の袖口を合わせあって何らかの儀式をしている。
時折『がんばれー!がんばれー!』や、あと『3週ー!』と叫んでいる。
なんなんだろう…アレは…。新しい気合いの入れ方なのかな…。
たまにあの二人で変な遊びをする事がよくあるけど謎だ…。

いやそれよりもプロデューサーだ。
千尋さんから防犯の為と手に入れたこの縮小薬、
少々罪悪感があるけど…これをプロデューサーさんに使う。
使った後は…持ち帰って…持ち帰って…。
そう、癒されてもらう。
明日から週末休みだ、プロデューサーさんも休みだと調べ上げた。
小さくして…持ち帰って…休みの間ずっと癒されてもらおう。

「ねぇ…フレちゃん…ちょっと左胸…掻いてもらえないかな。かゆくてさ」
「おぉ!シューコちゃん、ワルですなぁ…新たな試練を与えるとは…」
「いやホントかゆいの。ほら、掴まってて、掻くからね」


…なんだろうアレは、袖を最初に離したら負けとかそういう遊びなのかな。
しかし…プロデューサーどこに居るんだろう。いつもはこの場所に居るはずなのに。


薬を盛ったスタードリンクは既に結露し若干温くなり始めた。
これ…飲んでくれるのだろうか…水滴で濡れた袖を少し拭い。
暇潰しにと謎の儀式をする二人をただ眺めていた。