「あの…ちょっと現物支給が過ぎませんか?」

ダンジョン1階、その最奥。
ギルドの依頼である階層の主を撃破し報告したところ…
受付嬢に貰った報酬はほどほどの金貨とカバンに詰め込まれたアイテム群だった。

ポーション、薬草という回復アイテムに…。
最低一つは整っている状態異常への対策アイテム。
解毒ミント、渋みチョコ、サキュバスの涙に、暗黒ニンジンと目覚めのポーション等々。

店で買ったとしたら…と、考えると。
間違いなくお得にはなると思う。

けれども…。

もうちょっと…
アイテムではなく、硬貨的な物を貰えれば、
剣なり防具なり買って戦闘を早く確実にこなせるようになったなぁ…。と、ちょっと思った。

せっかく…駆け出しの冒険者としてはかなりの活躍を見せ、
新しい階層に踏み込み、敵の1段階上がった強さに装備の強化をしようと思ってたのに…。

少し、出鼻をくじかれた気分だ。

でも受付嬢さんはこれで当然!と
自信満々に…初心者に向けるようなほほえましそうな顔をするばかり。

「冒険者さんはまだ1階を通り抜けただけですよね?
 階層全て踏破していない冒険者さんならこのくらいは用意しておかないといけませんよ~?」

と、笑顔の対応をするだけで物欲しそうな少年心を察しては貰えない。

「でも…2階では強いモンスター娘ばかりで…強い装備が必要なんですよ」

「いえいえ、ダンジョン探索はまずは第一に基礎!第二に基礎!
 第三にアイテムがあってようやく装備に取り掛かれるんですよ」

「えぇ~…そんな地道な…。
 だってカバンなんて自分も持ってますよ…」

「いえいえ、そのカバンはですね。
 耐火、耐水、その他諸々の状態異常耐性が込められていてですね…。
 ここのダンジョンを踏破するならみんな持ってるカバンなんですよ!」

…確かにそうだ。
酒場へ行けばどんな屈強な冒険者であっても、
このギルド印のカバンを持っているイメージがある。

いわば冒険者として一人前の証なのだろう。
それは喜ばしく思うのだが…。

まぁ、使わなさそうな回復系アイテムはいいよね!
と、道具屋さんへ行くのだった。

「で、このアイテムを売りに来たと」

アイテムを売るといっても、
市街地の道具屋に売ったら流石にバレる。
となれば、事情を少しは汲んでくれそうな治安の地。
そこはなかなかガラの悪そうな魔物娘の店主が居て…。
一応は、中立の立場として街の路地裏で店を構えていた。

「あー…あー…あー…。
 これなんかギルドに売ったやつじゃんか」

店主も思う事があるのだろう、
うさぎ耳をへにゃっと曲げながら…鑑定をしている。

「いいんですよ、こういうのは。
 強い武器と防具で依頼をこなして、
 すぐにアイテムを買い直せばいいんですから」


うーん…それはそうだけど…と、
迷いながら難しい顔でし分けて行くうさ耳店主。

けれどようやく鑑定も済んだようだ。

「まぁ…こっちも商売だから別にいいか。
 ほら、元はギルドに売ったアイテムだしイロ付けといたよ。
 そんなに言うなら稼いでくるのを待とうじゃないか」

「ありがとうございます!」

「その代わり稼いだら買いに来ておくれよ」

「はい!」

やった…!
これはなかなかの成果だぞ…!
剣や盾、装備だけじゃない。アクセサリーもあと1品くらい…!


「あぁ、あとそのカバンは大切にすんだよ。
 ギルド印の特注品で、ベテランまで使う冒険者もいるくらいだ。
 ある意味、使えば使うほど冒険者としての格が際立ち…個性も出る。
 行方不明者の身元確認にも使われるくらいだから…大切にすんだよ!」

分かってる分かってる!と、浮かれる姿に、
あいつどうなっかなー…と、心配する姿。

一人の駆け出し冒険者のダンジョン攻略が…今、始まろうとしていた…!

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はぁ…!はぁ…!
あいつ、あのメスネコ、どこ行った…!

余裕で踏破できると思われたダンジョン2階層。
階層違えば敵の種類、種族も多様化していて…自分は少し、苦しめられていた。

戦闘能力的な強さによる苦労ではない。
そもそもの戦闘外でのあれこれ、
隙を見て道具を盗もうとするモンスターは居るし、見つかっても戦闘しない者も居る。

自分が今、追っているのはその両方。
食い意地の張ったワーキャットに昼食を盗られてしまったのだ。

あっ…見付けた…!
モンスター娘らしく、人とは違ったケモノ耳が曲がり角からちらりと見える!
大きい四肢に、大きい胸、服は薄着で煽情的で…人を誘惑するその姿があった…!

「おい…!逃げていないで正々堂々戦えよ…!」

「やーだー!そんなガッチガチの装備に戦えっていうのー!?
 絶対私が負けちゃうじゃん!やーニャー!」

「やってみないと分からないだろ!」

「勝つ人間はみんなそーいうー!
 そうやって弱い者いじめしてると絶対あとで報いを受けるからニャ!?」

恵まれた体格の跳躍力でヒョウッと飛ぶワーキャット。
あぁ、またこれだ。あいつはまたこうやって逃げる。

気付けば、通路一方を走り抜け、また逆戻り。
流石にらちがあかないと思っても、惰性で走り続けるしかない。

一旦…引き返すしかないのだろうか?
装備がなんだかぎこちない。筋力も技量も足りてないのかもしれない。
でも、こんな事で戻ったら…新米冒険者と見られたままかも。
そんな意固地になった頭ではもう冷静になる事は出来ず…。

不自然に盛り出たタイルに気付かず、踏んでしまった。

プシュッと顔面目掛けてそれは出た。
甘ったるく、花の芳香混じりのその噴出物。

吹きかけられた水滴がつつっ…と、繋がり口に溶ける。
罠にかかった者へ『逃がさない』と意思を感じるものだ。
気化しやすく、吸いやすく、身体が一瞬それが罠だと感じない。

だから、吸い過ぎてしまった。
それは未熟な冒険者には知らない味。

ベテランなら一瞬にして息を止め、
カバンから目当てのアイテムを取り出し必死で飲み干す必殺の罠。

それを、吸い過ぎてしまった。
そんな代物なのに、新米冒険者は危機感も無く様子を見る。


「な、なんだ…?」

まず、モンスター娘なら…!
魅了だと考え、渋みチョコを食べて頭をハッキリさせる!

どうだろう?魅了は回復できただろうか?
よく分からないが…精神的な異常はかかっていない気はするが…。
だけども、この内から出る胸騒ぎが消えやしない!

いや、それどころか…!
頭をハッキリさせた分、自分の身に何が起きているか…分かって来た!

身体がズン、と重くなる。
体調が悪くなったというものではない、カバンが…衣服や装備がズシリと重くなったのだ。

縮んで行く身体と、それに合わせ脱げて行く衣服を対比して分かる大きさの差。
まずは肩が空けて開き、首周りに感じていた触感が片側へとよれて行く。
走った熱が籠もった装備品がぷちぷちと身体に水滴を付け始めた。
いつもなら首筋の服を伸ばして蒸気を逃がしていたものが、今度は身体全体に。

これはやばいと急いで脱ごうにも、縮こまるのが早く…。
脱ぐより抜け出した方が早いと気付いた時には…。
若く新陳代謝が活発な水気が多いその汗を全身に浴びる事になってしまった。

今まで着ていた服の袖から顔を出す。
ダンジョン内を走り回った服の袖だ、当然汗でぐちゃっとしている。
纏わりつく衣服に手をかけ、触ると何とも言えない粘っこさ。
快とも不快ともいえる、絹のひっつく手触りに解放感を求め、出口を目指す。
縮小の影響か、頭を出すころには気付けばもう服のシワさえ障害物のように待ち構えていた。

それを踏みつけて進んで行く、
ちょうど干しているシーツに顔を埋めるような触感に、
雨でぐしゃぐしゃになった洗濯物を取り込む時のようなそんな中間。
歩めば歩むほど、外の空気がスーッと流れ、身体が冷えるが、
むっしむしに湿った服の中の不快度と比べれば全然マシ。
そうして…服の中から脱出した。

外の世界は…
身体に対して広い空間のせいか距離が取り辛く、
世界を観れば見るほど霞んで行く。
カバンと景色にピントを合わせていると…それが分かって来た。

ダンジョンが…見れば見るほどだんだんと大きくなる。
整備された1階とは違った少し荒んだ2階層。
無頓着なモンスター娘に壊されたのだろう。
少し崩れた壁面によって積まれた瓦礫が、今ではもう…ひとつの山のよう。

走り出そうにも、
一片のタイルからでさえ逃げられる事は出来ない。

その踏んでいたタイルもより鮮明に見えてくる。
走っていれば気付かなかったその荒れ模様。
例のワーキャットのように飛び跳ね、走るその階層だ。
当然の如く、モンスター娘の爪で裂け、5本分の渓谷を作っていた。
そして、その渓谷の一つとして自分はもう越えられない。

妖精を物差しとした、
センチ単位であればよかったものの、吸い過ぎたのだ。
もはや身体はタイルの破片すら大岩として越えなければならないほどのミリ単位。
この状態でモンスター娘に遭遇しては…と思うだけで恐ろしい。


やっばいなー…。
話には聞いていたが…これが縮小化という状態か。
サキュバス族特有の反則魔法。または妖精特有の秘匿の技。
使いようによれば…ダンジョンの狭い通路を通り抜ける事が出来ると聞くが…。
まずこの状況では不要の状態異常。早く回復するのが先決だろう。

一瞬もしかしたら…。
あのアイテム屋に売ってしまったかも…と、冷や汗が出たが…。
確か異常回復アイテムは全部一つは残してあったので一安心。

けれども…。
カバンはもはや大洞窟のよう。
大きく口を開いた薄暗いカバン内は、
ある種のダンジョンめいた乱雑さで…乗り込もうにも骨が折れそうだ。

しかし入り込まねばならない。
カバンの隙間から入り込んで、目当ての回復薬まで潜り込む。
小さくなると分かるが…回復薬というのは少々匂いのクセが強い。
例えるなら、病院。アイテム店。
それらの混合のようなカバンの中は…
清潔感はあるが、息を吸うたび鼻がつーんっと澄み渡る。

ミントの爽やかさを乗り越え、予備の手袋を潜り抜け、
ニンジンの甘さに酔いながら手探りで進むと、抜かれたマンドラゴラの亡骸が。

そして、ようやく目当てのアイテムが見付かった。
サキュバスの涙…縮小状態を回復するアイテムだ。

さぁ使おうと蓋を開くと………。

あ、開かない…!

それもそうだ、
ミリ状態になった小人に水筒の蓋が開けられるはずもない…!
力いっぱい入れてもネジ型の蓋はビクとも動かず、
破壊しようにも、武器も何もありはしない!

パーティーなら仲間に開けて貰ってすぐに済む、
ベテランならすぐに察して縮みきる前に封を開ける。

だが、この新米冒険者は1階を乗り越えたという功績に奢って
経験も事前知識も無しに2階に乗り込んだ。
その、未熟さ故の増長が…今、自業自得となって襲い掛かる!

ズゥン…と、カバンの外から音がした。
知った音だ、さっきまで追っていた知った音。
ケモノの爪が歩きに合わせパツ…パツ…とタイルを引っかき、その音が聞こえてくる。

「おぉ?これはあいつの装備か?
 はっはーん…さては他の娘に襲われて身ぐるみはがされたニャ?」

うっ…やっぱりさっきのワーキャットだ。
どうやら勘違いしてくれているようだが…ピンチな事には変わりない。

もし…気付かれてしまったら…。
今まで追い回していた分、やり返されてしまうかも。
さっきまであれほど弱々しく背も低かったモンスター娘が…。
今ではもう、家を越し、城を越し、一山ほどの巨大な姿に…。

足指を見て絶句した。
自分はもう、あの指に敷き倒されるほどの身体なのだと改めて痛感する。
そのあまりの巨大さに…もう、恐怖しか出て来ない。
ぶるぶると身体が震え、転がるようにカバンの奥底へと潜って行く。

バレないように…ほこり混じりのカバンの中を進んで、
砂塵が溜まっている奥底に途中で拾った小ぶりのミントを隠れ蓑に入り込んだ。

「しっかし…あいつもしつこかったニャー…。
 武器が強いってだけのボンボンのクセに…。
 この俊足のワーキャット様に楯突こうニャんて」

よっこいしょ…っと、装備を物色し始めるワーキャット。

「まぁ…襲えニャかったのは残念だけど…。
 これだけ装備があればしばらく遊んで暮らせるニャ~!」

どうやらワーキャットは散らばったアイテムを売る算段をしているようだ。
なんてことだ、それはアイテムを売って買った装備なんだぞ…!

少し怒りを感じ思わず身を乗り出しそうになったが、
やはりそこはそこ、今が今のこの状況では歯痒く見る事しか出来ず…。
事の成り行きをただ待つしかなかった。

「あと、カバンの中に金目の物はないかニャ~」

うっ…やっぱり確認するか。
薄暗いカバンの中に日が射した、
慌ててミントで身体を隠し様子を窺うと、
カバンの口いっぱい開いた外の世界から、
金色とも似た目がキラリと光って瞳孔が開いて、黒目が伸びる。

改めて見ると、このワーキャット…なかなか憎たらしい顔をしている。
無邪気でイタズラ好きなそうな…人を舐めた…にやり顔。

ワーキャットという猫系統の種族だからだろう、
八重歯が伸びて、両手足が猫のケモノ体。
全てのモンスター娘に言えることだが、
その身体は肉付き良く、男を魅了するその双房がたぷんたぷんと揺れている。

胸が…はち切れんばかりに揺れている…。
盗賊系のモンスター娘だからか、装備は軽装備…というよりただの布。
衣服には無頓着なのだろう、布は使い古されて汗の跡がまじまじと出ている。

一枚の布当てと短いホットパンツ。
そのどちらもが…自分には目の毒だ。

カバンの中から見るそれは、
明らかにモンスター娘の事を、一人の女性だと認識するくらいには煽情的であり…。
触りたいと申告したら『これだけあるんだし、少しは触らせてあげる』と妄想できるほど。

そんな巨体、巨乳、巨椀の手がカバンを漁る。
カバンがぐらぐらと揺れて、ケモノ臭さと女の子の匂いがカバンに満ちる。

「あんまり良い物なさそうだニャ…。回復アイテムばっかり…。
 やっぱり冒険者って貧乏ニャんだなぁ…はぁ~…喉が渇いた…」

…。
なかなか…冒険者を舐めているようだ。
が、なかなかどうして否定はできない…。

「おっ!これは飲み水かニャ?」

ワーキャットは目当ての物を見付けたのだろう。
目星をつけた物を、カバンから取り出して…。

…!
いや、あれは…!サキュバスの涙だ!
この縮小化を解除するただひとつの道筋!
そのアイテムが今、飲み水と勘違いされて飲まれようとしている!

しかし、これはチャンスかも…!
水筒の蓋を弛めて貰えば、元に戻れるチャンスなんていくらでもある!

カバンから抜かれ行く水筒目掛け、身体をバネの様に曲げてジャンプした。
自分も冒険者の端くれ、
身体能力は結構あり…そのまま手を伸ばして…水筒に届く!

が、そんなことはワーキャットには意味も無い。
水筒に引っ付いた、虫のような人間を無意識に振り捨て…。

蓋を外して…ぐいっと、一飲み。
そのまま喉を鳴らすようにごくごくと飲み続け…。

きゅぽんっと唇から飲み口が外された。

「ん~、水としてはほんの少し甘口で…。微妙だったニャ」

ワーキャットはさも残念そうに水筒を投げ捨て、
無惨にもその中身は一滴として中身が残っていない。

………。

…飲まれてしまった。

ワーキャットにはただの不味い水でも、
こちらにとっては生命線ともいえる回復の水。

その水を、飲まれてしまった。

幸いか、振り落とされた先はカバンの中。
五体満足だし、怪我もしていないし、痛んでもいない。


だから…。
脱出できると思っていた。

何のことなく、元に戻って…。
今回はたまたまのミスで、次のダンジョン攻略にこの経験を活かす。
そんな、新米冒険者にとっての挫折と次へのステップくらいの認識でいた。

だけどもう…。
脱出の手段に使えた回復薬が…。
あの、なんの考えなしに
マヌケ面して、今もあぐらをかいているアイツに
水と間違われて飲まれてしまった事実が、怖い…!

何の気なしの日常動作がもう、自分に襲ってくるのだ…!
『毒』なら…力の限り逃げて解毒の一つや二つを試せるであろう、
『魅了』なら…一人なら大丈夫、もし見つかっても搾精か…正気に戻れば大丈夫。
『暗黒』なら…土地勘を頼りに手探りでダンジョンを脱出する事も出来るはずだ。

だけど
『縮小』は…モンスター娘に見付かったら…その時点で終わり。
見付からなくても…今現在の、こうした日常動作だけで命の危機に瀕するほど。

つまりは、詰みなのだ。
アイテムを、ダンジョンを甘く見た代償。
その審判が天から、ケモノの毛交じりのもふもふの指によって繰り出された。

「おおっこれは人間の食糧かニャ?
 あんまり美味しくなさそうだけど…食べてみようかニャ?」

新米冒険者の命が…。
小腹が空いた程度の理由で、消費されようとしている。
もちろん逃げようとしたけど、
あっちにとってはただ入っていた携帯食料を取り出したくらいのノリなのだ。

一気に、世界が暗くなって…
ぎゅーっと穀物交じりの匂いがする携帯食料へと、顔が付く。
ケモノ臭さと、女の子の匂いと、麦の匂い。その全てが混じり覆い…。

肉球と…携帯食料に挟まれて…息が苦しい。
鈍感なのか、肉球に触れているのに、全然こちらの姿に気付きやしない。
そのまま…ふわーっと重力が身体を伝う感覚がした。
持ち上げられているのであろう、トクトクと心臓が高鳴り上がって…。

スンッとよくある猫のような鼻息を鳴らされた後…。
ニチャァ…とだ液まみれの八重歯が姿を見せる。

その光景に、もはや自分の筋肉は硬直し…。
これから起きる事態を想像するだけで恐ろしい。

だけどワーキャットにとってはただのエサ。
手の平の中に一人の冒険者が居るとも知らずサクッとかじり始める。

けれども、ここで転機が訪れた。
ワーキャットは食べ方が汚かったのだ。

携帯食の端を齧ってボリボリと、
巨乳の胸に砕けて落ちる破片(クランチ)を気にせず、思うままに貪り食う。

ボロボロ…。ボロボロと。
そんな喰い方だったものだから、携帯食料の大地が崩された。

ミリほどの身体はそれに巻き込まれ、数多の破片と共に胸に落ちる。

無重力…に、なってからの
スライムプールに飛び込んだような跳ね具合。
カバンの口いっぱいに詰め込められそうな大ぶりのおっぱいだ。

健康的な日焼け色の厚みに、白く色素が抜けない桃色。
カバンの中に見た頃とは比較にならない大きさと迫力、
モンスター娘の胸、ワーキャットの胸だ。
洗っていないケモノの匂いもはするが…。
部位が部位だけに女の子のフェロモンが強く香る。

加えて自分が追って走った後だ、肌はじっとりと汗で濡れて、
それがねとねと…と、小人を肌に貼り付かせる。

携帯食料もそれに倣いかぺっとりと巨乳に貼り付いていて…。



それをワーキャットが舐め取った。

ペロリと、ひと舐め。

ただの一瞬。

「ん~、なんか塩辛いニャ」

胸の上に居た小人なんて気付きもせず、
ワーキャットはそう言い放つ…!

危なかった………!!!
目の前に舌が降り、ベロ底に押し付けられた時は理解できなかった。

胸に飛び散った食料クズを舐め取るなんて…!
跳び散らかすだけならまだしも、なんて行儀の悪いやつだ…!

舌に押し付けられてか、
もう…身体はだ液でどろどろに。

そうした張本人は知りもせず、
腹いっぱいになってポンポンと腹をさする。

「はぁ~まぁまぁだったニャ。もうお腹いっぱい」

ここまでアホ面をされてはもう、
怒る気力も怖がる気力も湧いて来ず…。
こんなのに負けてしまったのかと自分の力不足に呆れて来る。

胸の上…肌と肌をくっつけ、
ほんのり熱が伝わる安心できる場所だからか…気が大きくなってきたようだ。

少し…だ液を舐めてみる。
もしかしたら…サキュバスの涙の回復効果が残っているかも。
ペロリとはむと、なんだかぬるい黒糖のような甘い味。

と、舐めてみても、もちろん
回復効果がだ液に混じって残っているわけも無し。
いや、それどころか…
失念していたが、これはモンスター娘の体液だ!

怠慢さから垂れたヨダレの秘められた媚薬成分が一気にクる!
心臓が高鳴り、汗が止めどなく噴出するように発汗し、
同時に…下半身の先へと脈動と共に登り立つ何かが来る!

ワーキャットのたわわに実る巨乳の中に居るのだ。
この欲を解消する手段などいくらでもある!
けれども、気付かずに打ち付ける事なんてできるものか!


だけど、そんなことは杞憂であった。
ワーキャットが胸を寄せ、自慰をし始めたのだから。

「は~あいつ…今度会った時は覚えてろよ…。
 もし、見つけたらぶっ犯してやるからニャ…」

ぐっちゅぐっちゅと…秘部をかき鳴らし…。
しゅる…と、外した巨乳をたっぷたっぷと持ち上げくくる。

そんな冒険者が胸の中に居るとも知らず。
ウサ晴らし…気を晴らすために…自慰をして、
逃した魚は大きいと後悔混じりに激しくいじる。

そんな自慰に巻き込まれてしまった。

よだれでまみれた身体は、激しいパイズリで
冒険者が乳上から跳ね飛ばされても、粘液の糸で乳に貼り付ける。

ぺとっ…と、
一本の有機の糸が引いて、それが何度も何度も、
たぷんたぷんとワーキャットが乳をまさぐり、いじるたびに、
おっぱい間の汗とよだれが糸を引き、身体に纏い、拘束する。

「はぁ…こいつの服…良い匂いがするニャア…。
 次に会った時までに覚えとかニャいと…。」

いつの間にか…装備にあった服はワーキャットの腕の中。
スンスン、と。今ではもう、大きくなり過ぎたシャツに頭をうずめている。

もう、胸の小人の事なんて見えはしない。
ワーキャットの顔はもう見えず、
天に見えるのは自分の今まで着ていたシャツのみで…。
ここまで小さくなったんだという事実を突きつけられているかのよう。

そうして…。
自然に目の前にあった肉の壁に目が惹き付けられた。
全身パイズリというものか、跳ねた乳が規則的に叩いて合わさり、
ぐしゅっと全身に質量が降りかかる。それはもう、連続して何回も。

ぺたん…ぺたん…と、陰茎に押し付けられて…
ぎゅーっと、一番大きいパイズリ貼り付けが身体を覆い…パッと離された時、
身体が巨乳に跳ね飛ばされて、
おっぱいに墜落して、
乳上という大地のぬるい脱力感と共に射精した。

ぴゅーっと垂れ流し、気が付いたら射精していたというその有様。

新米冒険者はダンジョンを舐め、
ワーキャットというモンスター娘の胸に沈んで行く。

だけど、
ワーキャットという娘にとってはそんなの何の足しにもならない。
荒ぶるおっぱいは未だ絶えず跳ねて、いじって…。
そのたびに、小人は何度も射精し続け…。

ようやく満足の行く、取っ掛かりに来たのだろう。
済ますようにプシュッと絶頂して…。

小人は………。

ポトッ…と、愛液と共にカバンの中に垂れ落ちた。

-------------------------------------------------------------
あれから自分は…
カバンの底で丸まった紙のように生き続けた。

ワーキャットはというと、無頓着なのだろう。
カバンを使いはしても、中身には興味無し。
だから…気付かれる事なく過ごす事が出来た。

虫のように生きる事になったとしても。
もう、いっそのことバラしてしまおうとも思ったこともあったのだが…。

ある作戦があった。

ワーキャットの盗みの売り先。
カバンと共に紛れて…逃げるとすれば…チャンスがある!

その忍耐がついに実を結んだ。


むしむしした空気とは違う、
湿度の無い外界にカバンと共に連れ出されてようやく気付く。

ダンジョンを出たのだと、
あの青い空が…前以上に遠いが…帰って来た!

何処へ行くのだろう、
もしかしたら人間の街かもしれない。
だとしたら…脱出を助けてくれるだろう!

そしてワーキャットはとある店を訪れたようだ。
ようやく助かる…と期待に胸をドキドキさせていると…。
いや、これは…。
あの時のうさ耳店主のアイテム屋…?

「あー…あー…あー…。
 なんだいこの男装備…それにギルドのカバン…あんた…ヤッたね?」

なんと、盗品の卸し先はあの店だったようだ。
確かにそういう治安の中にある店だったが…少し衝撃。

「ちーがーうーニャー!
 それは落ちてた物!狙ってたのは確かにそうだけど…」

「ほら、ヤッた」

「もーおー!
 デキてたら連れ歩いてるでしょ?だから居ない!」

「まぁ…それはそうだわな…」
するとうさ耳店主は新品のカバンをちらりと見る、心当たりがあるのだろう。

「あ~それで、そのカバンも売るかい?」
やった…!
もしかしたら店主さんこっちに気付いてくれているのかも…!

このままカバンを売ってくれたら…!
事情を話して助けて貰えるかもしれない…!

「ん~ニャ!売らない!
 このカバン…ものが良いし、ギルドのものだし、
 これがあると冒険者さんも仲間だと思って仲良くしてくれるんだー!
 私もこれ使って、冒険者になっちゃおうかニャー!」

「ふ~ん…ま、それなら持ち主も本望だろうよ」

本人の前に…話が進む。
あまりにも無慈悲な選択。冒険者の誇りさえ奪われるか。
カバンの中の小人など知らず、両者の間でどんどん話が進んで行く。

これには期待に胸を膨らませていた自分も、
しおしおと希望が潰えて行く感覚が身に降りかかる。

「それで?何か買っていかないのかい?」

そ、そうだ…!
もしこのモンスター娘が縮小解除アイテムを買ってくれたら…!

「知ってるでしょ~?
 私達モンスターはそんなのにかからニャイって?」

「ははっそうだった。この仕事をしてると…
 なんでもアイテムは揃えたくなってねぇ…。そのカバンの持ち主も…」

「あー!やっぱり知ってるんだー!どんな人だったの?」
「あー…ヤブヘビ。まぁ話してもいいか…あいつはね…」

話題の中にようやく自分が出て来た!

最後の希望も潰えて、
まるでいないような、
自分の事じゃないような…

天に命運を賭けるような気分でいたが、
そうだ…もうなりふり構ってはいられない!

カバンの奥で諦観するのはもうやめて、
ワーキャットに所有権を言い渡されようが、
うさ耳店主に大金を払うことになるともしても、

姿を見せて、抵抗だけはしないと…自分の道は自分で切り開かないと!

カバンの出口に向かって、あの外の世界に走り出して…!

「えー!生意気ー!
 そんな新米、次見付けたら犯し尽くしてやるからニャ!」

ダンッ!と身を乗り出す姿勢に合わせ、
カバンの口が、空間がおっぱいによって潰された。

その質量は小人にとってあまりに無力。
柔らかな質感でも、押せば押し返されるほどにあまりにデカい。
おーい!と叫んでも、そのたわわな胸に吸収されるだけ。

そして、カバンは売られる事なくワーキャットにより持ち帰られた。
ギルドオススメのアイテムを売った者としては、当然の末路かもしれない。


「いっぱい売れたし、
 何か買い込んで帰ろうかニャ~」

もう…考えられるのは、
好物が買われるといいなと思うくらい。
この生活がいつまで続くか、やっぱり犯され覚悟でバラすべきか。
カバン上でたぷんたぷんと揺れる巨乳を想いながら、底で丸まるだけだった。