土曜日。

今日は7歳になる娘と妻を連れて山登りへ行く予定だ。
弁当を準備する妻とそれを手伝う娘を横目に荷造りを進める。

「ほら、こうやって切ったのりをのせると、クマさんになるのよー」
「わー、くまさんだー!かわいー」

テレビから流れる天気予報によれば、目的地は快晴。日頃の疲れを癒やす理想的な休日だ。

だが、そんな幸せ一杯の休日のはじまりを、不吉な知らせがさえぎった。

「緊急警報、緊急警報。巨人の出現を確認。繰り返します、巨人の出現を確認しました。出現地区、○○市??地区。該当地区の方々は至急避難してください。」

テレビからは巨人の出現を知らせるテロップが、スマホからは警報音声が流れた。


全身に緊張が走る。顔が引きつるのがわかる。今日は避難訓練の予定日でもない。
つまりは、本当に現れたのだ、巨人が…

地震や台風といった災害と並ぶ、巨人の出現による侵災。巨人の見た目は人間そのものだが、サイズは約100倍。出現自体は国内だけでも年数十回確認されている。
しかしほとんどの場合は、人類を傷つけることなく消えていく。
巨人の出現と行動パータンは限られている。大きな広場に出現しては、街中に入らず、遠くから街を見下ろすことがほとんど。移動するにしても、我々を踏みつけないよう細心の注意を払って、ゆっくりと歩行する。

出現した巨人が、害がないとわかれば、巨人に近づいたり、コミュニケーションをとろうとする野次馬も多い。
死亡件数はせいぜい数年に一回で、事故のようなケースがほとんどだ。

だがそれでも、危険な巨人はとにかく危険。
過去の侵災では、一度に2万人に及ぶ死者を出したこともあるのだ。

俺は迅速に避難すべく、押入れにある避難用バッグをとりに行く。
「ピクニックは中止だ、急いで避難するぞ」
それを聞き、妻も弁当をつくるのを止め、避難準備を開始する。

「えーっ!なんでおべんとうやめるのー!?山にあそびにいくのーー!」
娘が叫んだ。
「だめよ、巨人は危ないって、学校でも習ったでしょ。」
妻が娘に上着を着せる。
「でも巨人さん、いつもやさしいんでしょ?こわいのは、昔の話でしょ」
「いいから!ほら、早く家でるわよ!」
妻の声から焦りが伝わってくる。
娘が生まれてから、巨人による侵災は発生していない。
だからこそ、娘には巨人が危険という認識がないのだろう。

だが、俺も、妻も、楽観などしない。
巨人の恐ろしさを、身を持って知っているからだ。



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妻である由佳とは、幼少期からの知り合いだった。
家も近く、家族ぐるみの付き合いがあり、年齢も近い。いわゆる幼馴染だ。

同じ中学、高校、そして同じ大学に通った。
付き合うことはなく、友達以上恋人未満の関係をずっと続けていた。

そんな関係に転機が訪れたのは、大学一年の春だった。



一緒に受けていた講義が終わり、大学のキャンパスを出たあたりで、由佳がテンション高めに話題を振ってきた。
「そう聞いて聞いて!先週ね、タマちゃん見にいったの!」
「タマちゃんって、今ニュースになってる、巨大娘のタマちゃん?」

10日間前に出現した巨大娘、通称タマちゃんは、出現以来、玉川の河川敷にずっと座っているらしい。
ニュースでその映像を見たことがある。
ショートカットの女の子で、見た目がとても可愛らしい。
彼女に向かって大声はりあげると、巨大な手を振りながら、柔和な笑みを返してくれることから、一躍話題の存在になっている。

「しかもね、その時はタマちゃんが手のひらを河川敷に置いててね、みんな近づけるようになってたんだ!だからね……なんと、タマちゃんの手のひら……乗っちゃったっ!」
昔から好奇心旺盛な由佳だが、そこまでやるとは、正直びっくりした。
「しかも、何十人も乗るような大きい手なのに、すっごい綺麗な手肌だったんだよ、羨ましいくらい!すごくない!?」
「確かにスゴイけど…いくらタマちゃんがやさしそうだからって、危なくない?手のひらグーにされちゃ、潰されちゃうよ?」
「サイズが違うから、危険なのはわかってるけど……でもねタマちゃんの笑顔、とってもかわいくて、天使みたいだったよ!?」
「う……確かにあの笑顔は生で見てみたかったかも…」
「でしょ?昨日でタマちゃん消えちゃたから、もう見れないのは残念だけど、もしまたタマちゃんが現れたら、一緒に見に行こう」
そういって由佳が太陽みたいな笑顔を見せた、その直後、街頭スピーカーから、巨人の出現を知らせる警報が鳴り響いた。
出現地は、大学から数駅離れた場所だった。


「ちょっと…??駅って、近くない?」
由佳の表情が変わる。
「そうだな…タマちゃんみたいな無害な巨人とは限らないし、急いで避難したほうがよさそうだね…」
「ここらへんの避難地って、どこだろう…」
「大学で避難訓練したことなぞないから、わからないよな……ケータイで調べてみるか…」

ズドーーーン!!!

ケータイをパカッと開いた瞬間、地震のような揺れと衝撃音とともに、ビルの影から、巨人が現れた。

30階建てのビルより高い巨大娘。
ロングヘアーでセーラー服を着たその巨大娘は、不敵な笑みを浮かべ、
「??区のこびとさん。今から??区のこびとさんは、全滅でぇーす!」
高らかに殺戮宣言し、破壊活動を開始したのだった。
「あ、そーそー、区外に逃げれのは禁止だよ。小人ホイホイで、区を囲っといたから♪」


この巨人は、ヤバイ。直感が告げた。
反射的に、由佳の手を引き、巨大娘に背を向け走り出した。
避難先となる地下シェルターを求め走り回るも、中々見つからない。
普段から防災意識をもっておけば良かったという後悔が湧き上がる。


15分走って、ようやく地下シェルターを見つけた。
だが、地下シェルター行きのエレベーターは、動作を停止していた。
由佳がつぶやいた。
「ハァ…ハァ…そんな、なんで……」
「地下シェルターに避難した人は、…ハァ…ハァ…巨人の追撃を防ぐために、シェルターへの入り口とエレベーターを…地下から…ハァ…ハァ…シャットダウンすることができると……聞いたが、ある…」
「…!じゃあ私達は、見捨てられてってこと!?」
「そうなるな……なんせあのデカぶつは??区を全滅にすると言ってる……それで地下の連中が焦って地下の連中がシャットダウンしたんだろう…」

由佳が、その場でへたりこんだ。
いずれにせよ、このままじゃまずい
「近くに地下鉄の駅がある!地下に逃げよう!ホームまで潜れば、…きっと大丈夫だから!」
由佳を連れて、また走り出す。

15分後、なんとか地下鉄のホームにたどり着いた。
そこには、我々と同様、地下シェルターからシャットアウトされた人々が身を寄せていた。



地下鉄のホームに避難して、3時間が経った。
あの巨大娘は??区を全滅させるまで帰らないと宣言した。自衛隊では巨大娘を駆逐できない。
巨大娘が現在進行形で暴れている地域に救援部隊が来るはずもない。
逃げようと外を走り回っても、巨大娘に見つかったら一貫の終わり。
つまりは、巨大娘がいなくなるのを、神に祈るしかなかった。

ズドン  ズドーン  ズドーン

断続的な衝撃音が強くなってく。
まさか、巨大娘が近づいているのか…
ホー厶の人々が、ざわめきはじめる。
由佳が、俺の腕にしがみつきながら震えていた。


断続的な衝撃音が止むと同時に、女性の声が大音量で地下に鳴り響いた。
「地下鉄に隠れてるこびとさん!私ね、??区の建物、全部こわしちゃった!でもね、まだまだ、ぜんぜぇーーん、遊びたりないの。だからね、地下から、でてきてほしーなー」

ついに居場所がバレてしまった……だがどの道、ここにいる限りはそうそう手は出せないだろう…

また巨大娘の声が響く。
「まあ、出てきて、って言っても、嫌だよねー。だからさ……」
「さっきね、東京湾から水を汲んできたんだけど、これ、今から入り口に流すね。溺れたくなかったら、でてきてちょーだい♪」
先ほどの楽観的な考えは、一瞬で覆された。


階段の上から、水が流れてきた。
地下ホームは大パニックだ。
このままでは、数分後には水で一杯になってしまう
みな我先にと地上へ逃げ出した。


当然とも言うべきか、地上では巨大娘がしゃがみながら、出口から出てくる我々を待ち構えていた。
「なぁんだ、やっぱり隠れたんだ、無駄なのに。。。」
巨大娘がつぶやいた。

他の人たちと共にに、巨大娘とは反対方向に逃げる。
だが、100倍の体躯をもつ巨大娘から、そう簡単に離れることなどできず、
目の前を走ってた男性が、上空から接近してきた巨大な指につままれ、凄まじいスピードで上空へと連れ去られた。

「うわぁぁあ助けてぇぇ……」

だが赤の他人に構ってなどいられない。
由佳がそばにいることを確認しながら、とにかく逃げる。

「きゃあああ、誰か助けて!」
やや後ろから、別の女性の叫び声が聞こえる。

ひとり、またひとりと巨大娘に捕まってゆく…
このままではいずれ全員捕まってしまう…

ふと横目に、小さな路地を見つけた俺は、由佳の手を引き、進路を変えた。
幸いにもこの路地は、瓦礫の死角になっている…逃げ切れるぞ!

しばらく路地を進み、後ろを見て、巨大娘がこっちを追ってきてないことを確認し、歩幅を緩めた。
「由佳…大丈夫か…?」
「うっ…えぐっ……もう嫌…」
由佳は泣いていた。

抱きしめ、慰めてあげようと思ったが、
今は安全な場所を探すのが先だと、自分に言い聞かせ、由佳と歩き続けた。


しばらく歩いていると、崩れた建物の瓦礫の間に、小さな空洞を見つけた。
空洞から瓦礫の中に入り、少し進むと、地下空間に辿り着いた。
デパ地下らしきこの場所には、誰もいなかった。
瓦礫に埋もれたこのデパ地下なら、上から見ても人が隠れているとはバレないはず…
ようやく安全な場所を見つけたと安堵し、床に腰をおろした。


俺は由佳と二人、元デパ地下で、ただ時が過ぎるのを待つことにした。


時々巨大娘が、この通りを過ぎ去っていく音が聞こたが、デパートの前で止まることはなかった。
気づかれてはいないようだ。破壊した建物のことなのだ、興味もないのだろう。


巨大娘が通り過ぎる音を聞き、怖がる由佳をを軽く抱きしめた。
その華奢な身体に触れて、思った。
あの圧倒的サイズを誇る巨大娘と比べ、この娘はなんて小さく、儚い存在なのだろう。
同時に、その存在を守ることができない自分の無力さを痛感した。

そんな悩みを払拭しようと、由佳を誘い、身体を重ねてみた。
自らの存在の矮小さに、嫌気がさした。

だが、たとえどんなにちっぽけな自分でも、
この娘が幸せになればそれでいいと思った。それを守ることができれば、俺はそれだけでいいと。



次の日の朝、巨大娘は消えた。
ほどなくして、レスキュー隊が現れた。助かったのだ。
涙を流しながら、由佳と抱き合った。

後に歴史的大災害として名を刻むことになる、この大侵災。
巨人の恐怖を、俺と由佳が忘れることはない。


時が経ち、
由佳と結婚し、子供も出来た。
侵災を経験した二人だからこそ、住居を選ぶ時も慎重だった。

まず、過去に巨人の出現のない市町村を探した。
かつ、近隣自治区においても、巨人出現率が低い場所。
そして仮に巨人が現れても逃げれるよう、巨大娘の出現感知から10分以内に安全な地下シェルターへ避難できる物件。

最終的に、『巨人が現れても絶対安心』が売り文句の、住宅地区に決めた。
だがまさか本当に、シェルターへ避難する日が来ようとは。



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最低限の荷物を持ち、部屋を出て、エレベーターのボタンを押す。

「!?、反応しない!」

だが部屋は5階、エレベーターでなくとも、階段で充分はやく下りれる。
1階に下り、玄関をぬけ、マンションのすぐ隣にある地下シェルターを目指す。

『第三地区地下シェルター』と看板のある体育館のような施設の中に、地下シェルターへ直結する高速エレベーターがあるのだ。

建屋の中に入り、地下シェルター直結エレベーターへ向かう。
「出現からまだ6分か…充分間に合うな。」
地下行きのエレベーターまず出現から10分後に地下へ向かう。
仮に10分を過ぎても、地上に人が取り残されないよう、エレベーターは4基ある。
うち2基は地下からシャットダウンできないようになっている。



だが、エレベーターの前にいくと、信じられない光景が広がっていた。

エレベーターがすべて、動いていない。
すでに数十人が集まっていることや、施設の管理人がいることから、まだ誰にも地下へ行ってないはずだ…

「管理人!これはどういうことですか!」
大声を上げて聞いてみる。
「いや…それが何故か、エレベーターがまったく反応しないんだ…点検も先月したばっかりだし、故障にしても、四基がすべて止まるとは考えにくい…予備電源もあるのに…」

肝心な時にそんな…
建屋内の人々が激しく動揺している最中、突如大きな女の子の声が聞こえてきた。

「この『第三地区地下シェルター』って書いてある箱の中に入ってるみなさーん。出てきてくだささーい」
シェルターは名指しされたことで、建屋内の人々は驚きを隠せなかった。
「でてこないと……ほんとは、こんなことしたくないんですけど、ここ潰しちゃいますよ…?!」

ドンッ という衝撃音。巨大娘がこの建屋を踏んだのだろうか…

ギシギシ…

建物が軋む音が聞こえてくる。建屋内はパニックになってきた。
このままでは建屋もろとも潰される!皆急いで出口を目指して殺到していた。

外にはもう巨人が迫っている、しかしこのままここにいると潰されてしまう…
仕方なく妻と娘を連れ、我が家も出口を目指した。

外に出ると、目の前の公園に、150mはゆうにある巨大娘が立っていた。

顔を見上げると、そこにはかつて見たことがあのる巨大娘がいた。

「タマちゃん…」

妻も気づいたるだろう。あの柔和な笑顔、そしてあのやさしい手の振り方…。
12年前、映像で見た記憶そのままだった。

「みなさん…こんな脅すようなマネしてごめんなさい私はただ、できるだけみなさんと触れ合いたいだけなの…」
タマちゃんが語りかけてくる。
「やっぱり、やさしいきょじんだったんだー」
娘か反応する。
昔と変わらず、無害な巨人であってほしいと、俺も信じたい。

俺たちをを見下ろすタマちゃんが、ふと、可愛らしく微笑んだ。
生で見るとより一層可愛い。天使みたい、とはよく言ったもんだ。素直にそう思った。


「みなさん、こちらの方へ集まっていただけませんか?」
やさしい声とともに、タマちゃんが足元のあたりを愛らしい仕草で指差す。
みんな気をタマちゃんに許しているのか、自然とその指示に従った。

みんなが足元の広場に集まったのを確認したタマちゃんは、指を鳴らした。


ズザザザ!!!

足元に集まった人たちの周りに、高さ30mほどの透明な壁が突然現れた。
なにが起きたといわんばかりに右往左往する人々。
再びタマちゃんを見上げる。


「くくくっ…うっふふ」
タマちゃんは、笑っていた。
「みなさん、騙されましたね、たった今、皆さんは、私の虫かごに捕まっちゃたのです。触れ合いたいだの、そんなの嘘。みんさんには今日から、私のおもちゃになってもらいまーす!」

その言葉の意味を確かめるように、周りを見回してみる。
四方を透明な壁に囲まれている。…とてもじゃないが、自力で脱出などできそうにない。

タマちゃんに捕獲された…その受け入れ難い現実とともに、素直にタマちゃんの誘導に従った自分への怒りが湧いてきた。
いや、そもそも地下シェルターへのエレベーターが動かなかったことが元凶なのでは?
地下シェルターへ避難さえできれば、こんなことには……!

「そーそー、みんな、地下へのエレベータが動かないの、ビックリしたでしょ!」
心を読まれていたかのように、タマちゃんがエレベーターについて言及する。
「あたしに捕まらないように、地下へ逃げようって思ったんでしょ。でも残念、君たちの考えることなどお見通しだよ!」
「ここら一帯のエレベータが動かないよう、細工しちゃいました☆」
頭を打たれた気分だ。巨人にかかれば、地下シェルターすら無意味なのか…


「さーて、これから皆さんのこと、私が好き勝手にしちゃうわけだけど…でもね、アタシやさしいから、女性と、子どもたちは、助けてあげる」
タマちゃんはそう言うと、上空から巨大な手のひらが降ろしてきた。
「女性と子供は、この手のひらに乗って。カゴの外に出したげるから、逃げていいよ。男は乗らないでね、すぐにわかるから。アタシ、目はいいの。一分だけ待ったげる」

妻と娘は助かる…それだけでも、俺にとっては大きな救いだった。
地下シェルターは無力だったが、2人が助かるのならば、それで充分だ。
妻の背中に触れた。すると、妻が振り返り、抱きついてきた。

「あなたを置いていくことなんて…そんなのできないっ…!」
今まで経験したことのない力強さで、抱きしめられる。
「だめだ…12年前のあの時から、由佳には幸せになってほしいと…そう思ったから…。それに、俺は自力で逃げてみせる、大丈夫だ、時間もない……だから、いってくれ!」
妻と娘の身体を、力づくで反対方向へ振り返えらせ、タマちゃんの手のひらへ向けて、背中を力強く押した。
正直、ここから逃げる方法など思いつかない。
この先、妻と娘と過ごすことできたであろう幸せな日々に想い馳せながら、妻と娘の背を見送った。


妻と娘をのせた手のひらがゆっくりと上空へ上がっていく。
持ち上げた手のひらにタマちゃんが顔を近づけ、凝視したあと、ニコッと笑い、言った。
「うんうん、みんな正直でよろしい♪男はいないみたいだね。さてさて、それじゃあ重大な発表です」
重大な発表?これ以上何を言うつもりだ…?
「実はね…助からないのは、この手のひらにいる君たちのほうでーす☆、あははははは、君たちって、ほーんとうにっ、お馬鹿さんなんだね!また騙されちゃうんだもん!」

なにを言ってるのか、わけがわからなかった。
理解が追いつかない中、タマちゃんが続けて言う。

「あたしのペットの小鳥ね、こびとさん食べるの好きなんだぁ。しかもね、こびとさんの女性と子供が、特に大好きみたい♪」
タマちゃんが嬉そうに続ける。
「それでね、どこのこびとさんたちを餌にしよっかなって、いろいろ地球のこと調べてたんだ。そしたらさ、目にとまったの、ココの住宅地。『巨人が現れても絶対に安心』だっけ?」
不動産会社の広告を思い出す。
「馬鹿だねぇー、なんかこう、そこまで身構えられちゃうとさ……逆にさ……はぁ……いじめたくなっちゃうじゃん。」
タマちゃんがしゃがみ、透明なカゴに囲まれた俺たちを見下ろしながら、話しかける。
「この家さぁ、私達巨人から女子供守るために、一生懸命働いて、高いお金払って、地下室のある家を買ったんでしょ?」
そして、手のひらにいる最愛の家族の運命、タマちゃんは言い放った。
「でも残念だったね。そうまでして守ろうとしたこびとは……今から私の手で、私のペットの、『餌』になっちゃうんだもん」
あまりの仕打ちに、声もでない。
タマちゃんは再び立ち上がり、手のひらの上の人達に向かって話しかける。
「あっはははっ!君たちは、ペットの餌になるべく生まれてきたんだよ!どんな気分かな?私は嫌だなぁ、そんな人生っ!」
満面の笑みを、タマちゃんは浮かべていた。
客観的に見れば、それは天真爛漫な笑顔とも言えるだろう。だが、今の俺には、悪魔にしか見えなかった。


突如、巨大な鳥獣が現れ、彼女の右肩にとまった。鳥獣といっても、スケール無視すれば、見た目は愛らしい小鳥そのものだ。
タマちゃんの右手が、女子供をのせた手のひらに迫り、数人をつまんだ。
そしてつまんだ数人を……そのまま、空高く放り投げたのだ。
いくつもの放物線に別れた人々…
タマちゃんが人々を放り投げたと同時に、鳥獣が肩から羽ばたき、放り投げたられた人々めがけて飛んでゆき……

パクッ

鳥獣の嘴の中に消えた。
鳥獣に食べられなかった数人は、そのまます100m下の地面へと落ちていった。
地面に落ちた人々を冷めた目で見ながら。タマちゃんは言い放った。

「はぁーあ、ペットの餌にもなれないなんて…なんて人生。」
だが地面に落ちた人々のことなど、もはや俺にはどうでもよかった。

妻と娘は無事か……?
家族の安否を確認すべく、目を凝らして、巨大な手を見つめるも、下からだと誰が残っているのか見えない。

タマちゃんの右手がまたもや、右手に迫る。
巨大な人差し指と親指の間に挟まれた人影に意識を集中させる……

「!!!」

巨大な手につままれているのは、間違いなく、妻と娘だった。

「そーれ!」

二人は、空高く空中に放りなげられた。
二人の軌跡を目で追う。
放りなげられた瞬間から、二人は別々の放物線を描いていた。

タマちゃんの掛け声とともに飛び立ってた鳥獣は、娘のほうへ飛んでゆき…

パクッ

娘は、鳥と餌として………空から消えた


妻は……そのまま、地面へと落ちていき
100m下の地面の、赤いシミとなった。

12年前、あの日、守りたいと強く願った存在は、巨大な小娘に放りなげられて、
そして地面に叩きつけられ、死んだ。最愛の人と一緒に育ててきた娘は、畜生の餌となった…


「あー、お父さんに頼んで、殺し放題コースにしてよかったぁ。残った君たちは、私のペットになってもらいまーす。ささ、母星に帰るよ」

こうして、俺の人生は、タマちゃんのペットとして、地球から連れ去られたのだった。