若干の性描写を含みます。
未成年の方は読まないでください。


VS悪魔


俺は何とも忌々しい黄色い空を睨み付けた。
青空を見上げて気分転換することもできない。
そのうえ、日が砂に隠れているというのに、なんて暑さだ。
だいたい外回りの仕事なんて、いいことが一つもない。
あぁ、くそっ、全て俺の思い通りになればいいのに。
「宇宙征服でもできたらなぁ」
俺は自分で言ったことの馬鹿さ加減に、顔を赤くして周囲を見回した。
幸い近くには誰もいなかった。
魔が差したにしても、恥ずかしすぎる独り言だった。
「面白いです。あなたのような人にこそ、私も力の使い甲斐があるというものです」
耳元で女の子の声。
きゃぴきゃぴという表現が当てはまりそうな、可愛らしい声。
しかし、聞こえるはずのないところからの、突然の声。
背筋の振るえをグッと堪えて振り返ると、白いワンピースを着た女の子が立っていた。
身長は俺の胸ぐらい。長く伸びた黒髪は肩を通過し、豊かな胸に乗っかっていた。
幼さを感じさせる顔で笑っているが、大人びた印象を受ける。
何ていうか胸とか身体とか・・・。いや、雰囲気が!そんな感じなのだ。
「はじめまして。アリサと言います。あなたの願いを叶えちゃいます」
彼女が頭を下げる。
その動作に釣られて視線を足元に移すと、彼女の足は白さが眩しかった。
汚れ一つないのは、その裸足が文字通り地に着いていないからだろう。
彼女の台詞もそうだが、足元のその状況に強烈な違和感を覚える。
それゆえに、顔を上げた彼女と目があったが、俺は何も見なかったことにして、振り返って歩き出した。
今夜は早く寝よう。
「あー、ちょっとちょっと、何でですか。願いが叶っちゃうんですよ。お得ですよ」
ふわりと、上から彼女が俺の前に回り込む。
俺はますます関わり合いになりたくないと思い、歩くスピードを上げる。
無言で彼女の横を通り過ぎ、社への道を急ぐ。
「何かご不満でも?心配とか?何でも質問して頂ければ、お答えしますよ」
またも俺の前に回り込む彼女に、俺は最初で最後のつもりで口を開いた。
「おまえは何者だ?」


夜、俺は冷蔵庫からビールを取り出し、缶から直接口に流し込む。
「で、願いを叶えてくれるって言うのは?」

昼間の俺の質問に対する彼女の返答は、衝撃的なものだった。
彼女が空に向かって手をかざすと、彼女の周りだけ砂が消え、青い空が広がった。
俺はアホみたいに、口を開けて空を見上げていた。
「一応、悪魔なんです。何でも願い事を一つ叶えて差し上げます」

外で話す内容でもないということで、俺の仕事が終わるのを待って、一緒に帰宅した。
人間の力ではどうにもならないことと言うのは、科学の発達した現代でも、無数にある。
彼女はその不可能なことを、目の前で披露した。
神だろうと悪魔だろうとどうでもいい。彼女は不可能を可能にする。
「はい、どんなことでも一つだけどうぞ」
実に平和そうな笑顔は、とても悪魔には見えないが。
何でも叶うと言うのであれば、自分では達成できないことを願ってみるのもいいか。
しかし、金や権力ではありきたりだ。
ありきたりで思い出した。悪魔が願いを叶えるのには、代償が必要というのがお約束だ。
「何が狙いだ?魂とかそういうのか?」
今、俺はすごく悪い目をしているだろう。
どっちが悪魔だと言うぐらい、凄んでいるつもりだ。
「魂抜かれたいですか?あっ、あなた自殺願望とかそういう人ですか?」
キョトンとした彼女の顔に、あっという間に毒気を抜かれてしまった。
慣れないことはするもんじゃないな。
「まだ死ぬ気はない。じゃあ何が目的だ」
ビールは最初の一口しか、口にしていない。ほぼ素面でこんな話をしている。
「特に目的とかないんですけど、強いて言えば精でしょうか。私たちの力の源ですので」
ほらな、無欲を装って精をよこせと来た。
悪魔に精を搾り取られたら、結局は死ぬじゃないか。
本とかテレビの知識でしかないが、そんな危険な真似できるか。
「あぁ、大丈夫ですよ。普通に射精するのと何も変わりません。少量でも私たちの身体がちゃんとエネルギーに変換しますから」
うぅ、可愛い顔して何の躊躇いもなく、射精とか口にするなよ。
しかも、少量でもとか・・・。
疑いが晴れないのは変わりない。やっぱり怪しすぎる。
「じゃあこうしましょう。ちょっとしたゲームをして、あなたが勝ったら無条件で願いを叶えましょう」
渋い顔を崩さない俺に、おばちゃんの値切りに屈した店員のように、最大限譲歩したと言う顔で彼女が言う。
ゲームの内容にもよるが、悪い条件ではないように思えた。
「5分間。たった5分射精せずに私の責めに耐えられたら、あなたの勝ちです」
内容を質問した俺に、返ってきたのは、とびっきりの笑顔とその言葉だった。
結局精なのかよ。でも5分なら何とかなりそうだ。
俺はそのゲームの誘いに乗ることにした。



「それじゃ、服を脱がして差し上げます」
そういう店でもあるまいし、服ぐらい自分で脱ぐと言うのに、彼女がそこは譲らなかった。
しかし彼女は一向に俺の服に触れようとしない。
パチンと彼女が指を鳴らした次の瞬間、俺は突然全裸で暗闇の中にいた。
むわっとした空気に漂うのは、自分自身の匂い。
自分では自分の匂いに気づきにくいものだが、ここまで強烈だと無視することはできない。
ドンドンと地面が揺れ、そうかと思うと天が割れた。
布の感触と、自分の匂い。何となくそうかもしれないと思っていた。
天を覆う彼女の笑顔が、そんな予感を現実として突き刺してくる。
逃げる間もなく、肌色の柱に捕らわれてしまう。
「ちょっと待て、これは卑怯だろー」
必死でもがきながら、抗議の言葉を叫ぶ。
「そこはその、悪魔ですから」
ニヤリと凄んだ笑顔は、これぞ悪魔というような邪悪なものだった。
やっぱり俺は騙されたのだった。

「それじゃ始めますね」
うわーとか、止めろーとか叫んでいる俺を無視して、彼女はゲームの開始を告げた。
俺を捕らえた彼女の手は、とても自然な動作で口元へ向かい、俺は仰向けに唇に固定された。
口内に捕らえられた下半身は熱く、上半身にかかる鼻息は強風と呼べる程で、肌寒くさえ感じる。
そのギャップと、通常ありえない状況に興奮したのか、俺の愚息はあっさり屹立した。
突然、俺の尻をヌメヌメしたものが襲った。彼女の舌に間違いないだろう。
それは尻の穴から前の方へザラザラした感触とともに、俺の脚を難なく広げて進入してくる。
その感触が棒に到達する前に一度、果てそうになるが何とか堪えると、棒にはちょっと触れただけで通過した。
俺が胸を撫で下ろしていると、今度は舌の裏が返ってくる。
先程よりツルツルした感触が、天に向かっていた俺の息子を押し下げる。
全く予想外のことに、俺はあっけなく射精してしまった。
彼女の舌が上下にたった1往復する前のことだった。


あまりの快感と、自分の無力さに、俺は力が抜けてしまってグッタリしていたが、彼女の責めは終わらなかった。
俺が吐き出したほんのわずかの精は、彼女が唾液を飲む時に一緒に胃へと送られたはずだが、彼女は気づいていないのだろうか。
今度は俺を捕らえる唇の力が、強くなったり弱くなったりして、弱くなった時に俺は舌でひっくり返される。
グルグルと回され、普通なら気分が悪くなるところだが、不思議と心地よくさえ思う。
時々堅い歯に当たるのもアクセントになっていた。
舌は右から左、左から右と俺の下半身を翻弄する。
横からの刺激というのも、普段なかなかなく、俺はなすすべもなく再び精を爆発させていた。
すさまじい快感だった。
しかし、こんな短時間に2度も絶頂に導かれるなんて。
身体の方はグッタリとはしているが、彼女の言った通り、特別衰弱しているとか、そういうことはないようだった。
少し安心するとともに、それならもっとこの快感を味わいたいとさえ思ってしまう。


真面目に考え事ができたのはそこまでだった。
今度はうつ伏せの状態で舌と平行に寝かされる。
少し前に突き出されたかと思うと、背中までヌメヌメした熱さに包まれた。
俺を包むように、舌を丸めたのだろう。
彼女の呼吸の力で、俺の急所は強制的に彼女の舌に擦りつけられる。
強く吸われた時には、上半身も彼女の舌に埋もれ、快感と彼女の匂いに溺れる。
全身が犯されているような快感は、堪えようとする気持ちさえ起こさせない。
ほとんど出すもののない、空イキのような状態の俺は、無意識に声を漏らしていた。


その直後、彼女の舌の動きが止まり、俺は手の上に吐き出されていた。
先程のものとは違う、ニコリとした笑顔が見下ろしている。
「うーん、思ったよりしぶといですね。仕方ないです。願い事をどうぞ」
指一本動かすのも困難なくらい、疲労と快感に震えている俺に、意外な言葉が掛けられた。
確かに、俺の精など、3回分合わせても彼女の唾液1滴にも劣る量だろう。
しかし、全く気づかれていなかったとは。
「どうしたんですか。何でもいいんですよ」
俺は言うべきか迷っていた。
自分の敗北をではない。自分でも信じられない、この願いを言うべきかをだ。
「もっと今みたいに気持ち良くして下さい」
いい大人が情けない。
これは願いではなく懇願だ。
そんなことはどうでもいい。
プライドなんてものは、さっき快感の波に流れていった。
「あはは、気持ち良かったですか?射精してないのに」
俺は首を縦に振る。と同時に実は射精していたことを告げた。
「あらら、射精しちゃってたんですか。全然気づきませんでした」
彼女の目が、責めるような色を見せたあと、憐れむような表情に変わった。
「まぁ正直に言ってくれたことだし、願い事も可愛いから、1回の射精ぐらい大目に見ましょう」
口で言っていることと、目で言っていることが違う気がする。
彼女はきっと俺が何度絶頂を迎えたか知っている。
わざとこういうことを言って反応を見ているのだろう。
『正直』、彼女が口にしたキーワード。俺はそれに従うことにした。
「え?3回?3回も射精しちゃってたんですか。うふふ、しょうがない人ですねぇ」
全てを見透かされているような笑顔が眩しい。
ここまで来てしまうと、俺はもう彼女なしの生活を考えられなくなっていた。
「まぁ、いいです。ところで一つだけ確認させて下さい」
彼女の真面目な目が、俺を捕らえている。
「精を搾取するのは私たちにとっては食事と同じことです」
俺に理解を求めているのか、そこで一度区切る。
俺はそれはそうだと頷く。
「私に搾り取られるのを望むってことは、私の餌になりたいって言ってるのと同じことですが、いいのですか?」
『餌』、一般にはあまりいい意味では使われない言葉だろう。
しかし今の俺にとっては、あまりにも魅力的な響きの言葉だった。
「ぜひあなたの餌にしてください」
彼女は今までで一番大きな笑い声を上げた。
肩を震わせるだけだった今までとは違い、俺のいる手の上も大きく揺れた。
「それでいいのね?」
俺が首肯することで、最終確認も終わっていた。
「いいわ、死ぬまでたっぷり搾り取ってあげる。せいぜい長生きしてね」



俺は願いを叶えてもらい、彼女は目的を果たした。
俺たちは幸せだ。