橋本さんの朝


私は約束を守れない人間が大嫌いだ。
時間厳守は社会人の基本。
時間も守れない人は、働くべからず。
そして働かざる者、食うべからずだ。
ましてや、相手が分単位で国に日程を提出しなきゃいけない、ある意味重要人物ならなおさらだ。
彼女の行動が予定より5分遅れれば、それだけで何百人、下手したら何千人に影響する。
彼女にはその辺の自覚が全くない。
今日も少し、説教してやらなきゃいけないかぁ。


大きな大きな家の、大きな大きな扉の片隅に、来客用の小さなドアがある。
小さなドアと言っても、これが普通のサイズだ。
その通常サイズのドアの横にある、これまた通常サイズのボタンを押す。
すると、その小さなボタン一つを押すだけという動作からは、想像もつかない大音量でチャイムが響く。
もちろん、この家の主に聞こえるように、これほどの音量なのだ。
でも、これ位じゃ何の意味もないことを知ってる。
彼女の寝起きの悪さは、相当のものだ。
小学生のいたずらの様に、チャイムのボタンを連打した後、合鍵で中に入る。
玄関から広すぎる廊下を通り、彼女の寝室に入る。
これだけで5分程のロスだ。
人の苦労も知らないで、彼女の寝息だけが部屋に響いている。
前もって彼女のベッドに作って置いた足場を伝い、ベッドの上に登る。
さて今日はどうやって起こそうか。
彼女の顔を前に、作戦を練る。
この時間が私の楽しみ。
しかし、ちょっと集中しすぎて、周りへの注意が疎かになっていたみたい。

突然彼女の手が、ものすごい勢いで私に向かってくる。
避ける暇はない。
「ふっふっふっ、捕まえた〜」
視界を巨大で邪悪な笑顔が占める。不愉快だ。
「さぁて、どうしてくれよう。毎朝毎朝、永眠してもおかしくない起こし方をしてくれたお礼をしなくちゃね」
それは心外だ。ちゃんと彼女の体の耐久力は頭に入れている。
ナイフを突き刺したり、銃で撃った位で彼女が死ぬことなどないと、重々理解している。
せいぜい蜂に刺されたとか、その程度の痛みしか感じないはずだ。
銃で撃ったらもう少し痛いだろうが。
それに傷がついても目立たない場所を狙っている。
第一起きない方が悪いのだ。

彼女と上手に付き合う方法は、実に簡単だ。
「私に何度も同じ警告をさせるつもりか?私に冗談は通じないぞ」
サイズの差など関係ない。毅然とした態度で接する。
ほら、私を捕えている手の力が緩んだ。
「今すぐ解放しないと、今日は食事なしだが、それでいいか?」
これは質問ではない。脅迫と取られてもかまわない。

絶妙のタイミングで彼女の腹の虫が鳴る。
巨大化の代償。その音は隠しようもない。
慌てて片手をお腹に当てる。
「今日のところは、これで許してあげようかな」
もう片方の手に私を握ったまま、彼女はベッドを下り、テーブルの上に私を置く。
もちろん、これで解決とはいかない。
「今何時だと思ってるんだ?」
これまた質問ではない。
「8時15分ぐらい」
立ったままテーブルを見下ろしているはずの、彼女の目線は、私のさらに下を向いている。
「起床時間は8時のはずだが?」
俯いていた彼女が、ガバッと顔を上げる。
怒られてる時に、何か良い言い訳を思いついた子供のような顔をしている。
「起きてたもん」
口を尖らせてそう言う姿は、本当に子供みたいだ。
「小学生か。ただ起きてるだけじゃ、意味ないだろ」
彼女は完全に下を向いて唸っている。
ふぅ、仕方ない。時間もないし、この辺にしておくか。
「朝食は8時40分から50分までに変更。それまでに身支度を終わらせて」
朝食開始を10分遅らせただけ。このぐらいは日常茶飯事だ。
彼女は返事もせず洗面所へ向かった。やれやれ。

その間に私はキッチンまで走り、勝手口を開ける。
外にはトラックと30名ほどのスタッフが待機していた。
勝手口が開くのを合図に、彼らは食糧を担いでテーブルへと走る。何往復もこれを繰り返す。
20分後にはテーブルの上に、どっさり食糧が積み上げられる。
そこにちょうど、時間通りに彼女が姿を現す。

10分後、いつものことながら、私は呆れて口を開けていた。
大の男衆が苦労して運んだ大量の食糧を、たった10分でその体に収めるのだから、呆れるなというのは無理だ。
「世界一体重の重い人間って、ギネスブックに申請しようか?」
溜息を吐きながら嫌味を言う権利位はあるだろう。
「太ってるわけじゃないし!!」

後は歯を磨かせて漸く私の朝が終わる。
しかしこれは忙しい1日の始まりでしかない。
さて、今日も怒鳴り続けなければいけないのか。
しかし、彼女の担当になってからの私の生活は、刺激に満ち溢れている。
こういうのは嫌いじゃない。


彼女の妹がある日言った言葉が印象的だ。
「お姉ちゃんは先生の前では年相応の女の子になるけど、橋本さんの前だと私より幼い、本当の子供みたい」
彼女は早くに両親を亡くし、妹の姉であり母であるという生活が長かった。
常に緊張の糸を張り詰めていたことだろう。
そんな彼女が、私の前では気を抜けるというのであれば、それは嬉しく思う。


私の目下の悩みは、私だってまだ20代。彼女と7歳しか違わないのに、老ける速度が加速するのではないかということだ。





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はい、すいません。やってしまいました。
全然違う話を書いてたんですが、煮詰まってしまって、軽い気持ちで書いたものです。
全く頭を使わないで書いたので、おかしいところも沢山あると思います。
なにより、全然エロくないし、全く面白くない。

本当はドSな巨大娘が好きなのに、なぜかそういう話になりません。
うーん、精進せねば・・・。
今精進って変換しようとしたら、小人ってでました。
そんな奴ですが、宜しければこれからも宜しくお願いします。
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