※サイズフェチ成分薄めです。すいません。




自分の方に背を向けている回転椅子を見つめながら、ルビィは固く拳を握っていた。
この部屋に呼ばれたのは、生徒として卒業を控えていた五年前、就職の当てがなかった時以来だ。
その時は指導員として学校に残らないかと誘ってもらったので、この部屋は嫌いではない。
しかし今回は違った。空気が重過ぎる。
回転椅子の主は言葉を発さないばかりか、背を向けたままで四半刻が経とうとしていた。
さらにもう四半刻もこのままだったら、自分は潰れてしまう。
そう思っていると、何の前触れもなく、滑る様に椅子が回る。
豊かな白髭と禿頭の校長の目が、彼女を貫くかの様に見ている。
いつもなら頭と顎が反対ならいいのにと笑うところだが、今はそんな余裕もない。
「いい知らせと悪い知らせがある」
唐突に放たれる低い声に、ルビィの身体がビクッと震える。
「何でしょう?」
この重い空気から、悪いことだけを予想していた。
いい知らせもあるというなら、少しは気が楽になる。
「新入生の担当をやってもらう」
ルビィは全く思いがけない言葉に、今度は喜びで震えた。
指導員になって5年。ようやく一人前と認められたという意味だからだ。
「ただし、彼と一緒にだがね」
担当指導員は二人一組が鉄則だ。
そして、校長にこんな苦い顔をさせる『彼』と言えば、一人しかいない。
カーライル・フォーンベルク。
ルビィよりも2年先輩の指導員だ。
彼もこの学校の卒業生だが、生徒時代には彼の噂を聞く程度で面識はなかった。
魔道師としての腕は確かなのだが、性格に少し難がある。
校長の立場からすれば、やっかい者かもしれない。
しかしルビィにしてみれば、それほど気にする相手でもない。
悪い知らせというのが、その程度と知って、ルビィの顔が緩む。
「彼が優秀な魔道師というのはもちろん認めている。だが彼とペアで何かをすると言うのは大変だ」
校長はゆっくり首を振り、心底困ったという様子だ。
ルビィには彼の何がそこまで悪いのかわからないが、気をつけようと思った。
と言っても、具体的にどうすればいいのかはわからない。
「君が主導権を握れれば少しはマシだろう。最初が肝心だな。ガツンとかましてやれ」
ルビィの緊張が解けたことに感化されたのだろうか。
さっきまでの重い空気はどこへやら、校長もいたずらっ子の様な目をしている。
ルビィは校長が時々見せるこの表情が好きだった。
校長がやれと言っているのだ。
彼女はどうやってガツンとかますかを、一生懸命考え始めた。
相手に与えるショックを大きくするには、ギャラリーが必要だ。
ただのギャラリーではダメだ。
その場限りの失態ではなく、ダメージが長引けば、それだけ主導権を握り続けられるだろう。
そうなれば自ずと舞台は決まってくる。
教え子たちの前で恥を掻いてもらおう。
入学式後のオリエンテーションの時がいい。
それまでにはまだ少し時間がある。
ルビィはこれ以上ないぐらい楽しそうな顔で部屋を後にした。
別に彼女が、性格の悪い女性だということではないだろう。
子どもたちに「怒らないから、好きなだけいたずらしていい」と言ったら、今の彼女と同じ様な顔をするだろう。
彼女は見た目ほど大人ではないだけだ。
校長はと言えば、彼女が挨拶もなく退室したことを咎めるタイミングを完全に逸してしまっていた。
それでも校長の顔もまた、自然と緩んでしまうのだった。


トーリ魔道学校第74期生の入学式は、ただ一つの問題すらなく終了した。
講堂には余韻とともに40人程の、若い男女が残っている。
髪や目の色はバラバラ、服装もまちまち。
年齢も一桁から、大人の一歩手前まで。
共通するのは十七歳未満だということと、全体的に身体の線が細く、陰気な印象を受けることぐらいだろうか。
他に共通点を見つける方が難しい集団だ。

ドアが開き、静かな講堂に二人分の足音が響く。
集団の前を一直線に歩き、真ん中でピタリと止まる。
長髪の男性と、ボブカットの女性だ。
二人とも二十歳を過ぎて数年というところだろうか。
男の方は「おじさん」などと呼ばれても、笑って受け流しそうだが、
女の方は「おばさん」などと呼ばれれば、顔を真っ赤にして怒り出すだろう。
しかし、そのような表情も見てみたいと思わせる程の、美貌の持ち主だ。
男の方も整った顔立ちをしている。
彼からは自分の容姿に自信を持っている雰囲気が滲み出ている。

「諸君、入学おめでとう。私が君たちの担当教官のカーライルだ。カイル先生と呼ぶがいい」
口を開いたのは男の方だった。
集まった視線に酔いしれる様に、少し間を取る。
「今日、今この瞬間から、授業は始まっている。まず、魔道師にとって一番大事なことを教えてやろう」
ボブカットの女性、ルビィは曇った表情を浮かべたまま生徒の方を見ていた。
本来なら、授業の進め方や寮生活のルールなどを説明しなければならない。
しかしまぁ、こうなることは想定の範囲内だ。
彼女を全く無視したまま話が進められていくのも、予想していた。
生徒達の方もカイルの名演に気を取られ、彼女には注意を向けない。
彼女の目は冷静に成り行きを見守りながら、タイミングを図っている。
「魔法とは何か?精霊の力を借りて火を起こすことか?」
そう言う彼の指先には小さな炎が揺れている。
「風を起こすことか?水か?土か?雷か?」
彼の言葉に合わせて次々と、小さいながらも自然現象が巻き起こる。
呪文の類を唱えることもなくだ。常人の成せる技ではない。
「そんなものではない。才能のある者が努力すれば、魔法に不可能はない。
 諸君にはそのことを肝に銘じて、努力を怠らないで欲しい」
立派な演説だ。
生徒達は、真剣な眼差しで彼を見つめる。
それがまた彼の気分を良くする。
「せっかくだし、不可能を可能にする魔法を見せてやろう」
カイルはゆっくりと生徒達の前を歩き始める。
生徒達の顔を見ながら、右へ左へと何回か往復する。
「何がいい?どんなことだったら絶対できないと思う?」
突然、一人の生徒を指差して尋ねる。
指された生徒は目を白黒させている。
「瞬間移動か?空を飛ぶか?そうだ、ドラゴンに変身なんてどうだ?」
カイルは一人だけどんどん興奮していく。
しかし、彼が口にしたものは、伝説と言われる魔道師たちによって、すでに可能なことが証明されている。
もちろん、それらを使える者は片手で数えられる程しかいない。
しかし伝説の魔道師達に憧れてこの場にいる生徒達だ。知らないはずがない。
「ふむ、そうか、そうだな。オリジナルがいいか。それならこの講堂よりも俺が大きくなったらどうだ?」
講堂がざわめく。聞いたこともない。
おそらく、ドラゴンに変身する方が魔法のレベルとしては上だろう。
それでも未知の魔法を目にできるのは、興奮を抑えきれないものだ。
「よし、じゃあ決まりだ。見せてやろう。・・・大きくなれ!」
誰も知らない魔法を編み出すだけでもすごいことだが、呪文の詠唱もなしに発動させるには異常な魔力が必要だろう。
何が起きるのか。誰もがそれを想像し、上を見上げた。ただ一人を除いて。


彼女以外の者は、カイルは消えたと認識しただろう。
彼の言葉を鵜呑みにして、上に目線を移したのでは仕方ない。
しかし彼女だけは、何が起きるか知っていた。だから下に目を向けていた。
上に何もないことに軽い落胆を覚え、目線を戻した生徒達が、彼の身に起こったことを認識するまでは一瞬のことだった。
そのほんの数十秒さえ待ちきれないほど、彼女は笑いを堪えるのに必死だった。
子どものような背丈のカイルが、目をパチクリさせていた。
生徒達のざわめきが収まるまでの間、彼は一言も発せずに呆然としていた。
生徒達は一頻りざわついたものの、すぐに静まった。
あれだけ立派な演説の後なので、これは何かの伏線だろうと、彼の言葉を待った。
もちろん、彼の表情を見れば、伏線などあろうはずもないことは、一目瞭然なのだが。

「えーい、どうしたというのだ。大きくなれと言うのに」
カイルは混乱の中でもう一度魔法を発動させた。
きっと何かの間違いなのだと信じながら。
しかし、結果は同じだった。
最初に発動した時よりも、効果が薄かったのは、不安から無意識に込める魔力を少なくしていたからだろう。
それでも、赤ん坊ほどの大きさになってしまっていた。
いよいよ講堂のざわめきが大きくなる。中には笑っている者もいた。
それがまたカイルのパニックを加速させた。
カイルは呪文の詠唱を始めた。
誰も聞いたことのない、複雑で理解不能なそれを、一瞬足りとて止まることなく言葉を紡ぎ続けた。
呪文の詠唱を省いたことが、何かミスを生じさせたと考えたからだった。
長く複雑な詠唱が終わった後、やはり同じ変化が三度彼を襲っていた。
彼はいよいよ人形程の大きさになっていた。
講堂の中では、彼より小さいものを探す方が困難になっていた。
無数の無遠慮な瞳に見下ろされる。
ついに彼は屈辱と混乱で、何もできなくなってしまった。
視線すら恐怖に感じ、俯いたまま指の一本も動かすことができない。

生徒達はざわついてはいるが、誰一人彼に言葉を掛けることはしなかった。
異様な空気の中で、カイルの頭はただ一つの言葉を繰り返していた。
「なんとかしなきゃなんとかしなきゃなんとかしなきゃ・・・」
その狼狽ぶりからは、彼が一流の魔道師だとは毛ほども感じられない。
ふと、一つの可能性に気がついた。
それは普段の彼なら絶対に実行しない、危険な賭けだった。
しかし今はそんなこと言っていられない。わずかでも可能性があるのなら、試してみるべきだ。
彼はまた詠唱を省き、絶叫した。
「小さくなれ!!」


「ぷっ、くっ、あっははははははは」
もういいだろうと、ルビィは爆笑した。
石ころ程の大きさになったカイルは、両手で耳を塞いで蹲った。
「自分から小さくなるなんて、あはははは、もうだめ」
もちろん、カイルはわざと自分から小さくなったわけではない。
大きくなる魔法と小さくなる魔法の、呪文を反対に覚えていたのではないかと思ったのだった。
彼がそういう風に思ったことなど、ルビィは知っていた。
少し上手く行き過ぎたところはあるが、彼女の仕掛けが招いたことだからだ。
そして、この爆笑でカイルも、自分が屈辱に塗れているのは彼女のせいだと知った。
「貴様、何をした!!」
叫びながらありったけの魔力をぶつけた。城の様に聳える彼女の革靴に。
彼の叫びは彼女には届かない。何かキーキー言っているなという程度だ。
彼の魔法が革靴の中の彼女の足に、届くこともなかった。
ルビィは痛みや痒みどころか、何かが足に当たっている感覚すら、全く感じていなかった。
そうとは知らずに一心不乱に攻撃しているカイルを、見下ろして微笑んでいた。
そして何の前触れもなく、片足を上げ、彼の上に踏み下ろした。

成り行きを見守っていた生徒達から悲鳴が上がる。
ルビィは悲鳴が収まるまで、グリグリと床を踏みにじっていた。
沈黙が場を支配したのを確認すると、彼女は口を開いた。
「大丈夫。一流の魔道師なんだから。あらかじめ蘇生魔法を掛けているわ。2、3日もすれば元通りでしょう」
毛ほどの興奮も感じられない、至って普通の声からは、彼女が一人の人間を踏み潰した後だなどとは思えない。
彼女の足元に滲む赤黒い染みが、紛れも無い真実の証。
しかし、水溜りにも満たない量の血液では、彼女の言葉を流し去ることはできない。
目の前で全てを目撃した生徒達でさえ、彼女がそう言うなら大丈夫なんだ。そう思い始めた程だった。
「さて、彼は言葉通りすでに授業を始め、魔道師に一番大事なことを、身を以って教えてくれました」
まだ完全には落ち着きを取り戻していない頭で、少しばかり考えても、彼女の言っていることは理解できない。
顔を見合わせる生徒達を見て、彼女は微笑んでいた。
「何だかわかりますか?」
少し強めに発せられた言葉が、生徒たちに考えることを強要する。
話し合い、答えに近づこうとする生徒たちもいた。
ルビィはそれを咎めるどころか、促す様に頷いて聞いていた。
一通り意見が出揃って、それでも誰も確信を持てなくて静まった頃、一人の生徒が手を挙げた。
「自分の力を正確に把握しておくことでしょうか。魔法には不明な部分も多いので、無理をしては何が起こるかわからないから」
ルビィが発言を促すと、眼鏡を掛けた比較的年長の青年は、立ち上がってそう答えた。
「それも大事ね。でも一番じゃない」
ルビィはやわらかい笑顔で答え、それが生徒たちの緊張を解した。
彼らは間違えたらどんな罰を受けるか、戦々恐々としていたのだ。
それを引き金に生徒たちは積極的に発言する。
ルビィが求めていたのはそういう姿勢だったので、彼女の表情も明るくなる。
しかし、正解は出ない。
「じゃあヒントをあげましょう。私が魔法で彼を小さくしたわけではないの。私はそんな高度な魔法使えないわ」
あまり親切なヒントではなかったようだ。
生徒たちは小さな声で、二言三言交わすだけで、首を捻ってしまった。
「じゃあ大ヒント。彼は大きくなる魔法と対の魔法、小さくなる魔法も覚えていた」
生徒たちはそれも何となく知っていた。
カイル自身が「小さくなれ」と口にしたのを聞いたからだ。
「私が使ったのは、彼が大きくなる魔法を発動しようとすると、小さくなる魔法が発動するようになる魔法」
もう顔を上げている生徒の方が少ない。
ルビィの言っている様な効果の魔法なんて、彼らは誰一人聞いたこともなかった。
「そろそろわかって欲しいんだけどなぁ」
そう言うと、ルビィはゆっくりと講堂内を歩く。
そしてある生徒の前で足を止める。
彼の手を取り、立ち上がらせる。
「あなたの答えを聞かせてくれる?」
彼は最初に俯いた生徒だった。
ルビィは笑っている。笑っているが、内心少し苛立ってもいた。
わからないのは仕方ない。でも、考えないのは許さない。
もちろん、たった今入学したばかりの彼らが、彼女のそんなポリシーを知らないのも仕方ないとは思っている。
少しずつ教えていくつもりだ。だからまだ笑っている。

急に指名された方は大変だ。
自身を指差し、「え?俺?」などとうろたえるばかりだ。
「大丈夫。間違えてもいい。あなたの意見を聞きたいの」
彼はルビィの笑顔の意味を知らなかった。
しかし、その笑顔、その言葉が、彼の背中を押したのは間違いない。
「あ、その、知識。いや情報でしょうか。敵がどんな魔法を使えるか知っていれば、先生のようにトラップを仕掛けることもできますし」
ボソボソと聞き取りにくい声。しかも指名されるまで何も考えていなかったことを証明する様に、意見は纏まっていない。
それでもルビィの笑顔は輝きを増した。嘘偽りない、彼自身の言葉を聞けたからだ。
その眩しさが、彼の口を滑らかにする。
「それに先生の言う様な魔法があることを初めて聞きました。そういう魔法もあると知らなければ対策も立てられないですし」
それ以上は言葉が続かないのか、彼が黙ったのを見てルビィは大きく2回両手の平を打ち鳴らした。
「素晴らしいわ。彼の言ったことはとても大事よ」
そしてありがとうと彼に囁いて座る様に促した。
「残念ながら私の質問に対する答えとしては不正解だけど、みんな常に知識・情報を貪欲に求める姿勢を忘れないこと」
「はい」という揃った返事は、彼らの心が初めて一つになったことを表しているかのようだった。
「もっともっと初歩的なことよ。魔法だけじゃない。あらゆることに共通すること」
生徒たちの返事を聞いて、ルビィは少し欲が出てしまった。
今の段階では、彼らが一つになったところで、満足すべきだった。
しかし、とても良い返事だったので、もしかしたら答えが出るかもしれないと期待して、もう一度問いかけてしまった。
相変わらず続く沈黙に、ついつい溜め息が漏れそうになるのを、慌てて押さえ込んだ。
「そうね、今日は皆さんが入学した記念すべき日。この問題の答えを私からの入学祝いにしましょう」
ルビィが何を思ってそう言ったかを、知ってか知らずか、生徒たちの顔は明るくなった。


「答えは簡単。平常心よ」
一斉に生徒たちの口がポカーンと開く。
ルビィは笑っていいんだか、怒っていいんだか、苦笑いを浮かべて話を続ける。
「彼が大きくなる魔法を使おうとすると、小さくなる魔法が発動する。それは私がそうなるように魔法を掛けたから。
 でも私が彼に掛けた魔法はそれだけ。彼が小さくなる魔法を使おうとすれば、ちゃんと小さくなる魔法が発動するわ。
 他の魔法も同じ。ちゃんと火や風が起きていたでしょ」
そこで間を取って、生徒たちが付いて来れているか確認する。
真剣な眼差しが先を促しているようなので、ルビィは話を続けた。
「大きくなる魔法を三回も使おうとしたのも、自分が二つの魔法を反対に覚えたんじゃないかと、自分自身を信じられなくて、
 小さくなる魔法を使おうとしたのも大きなミスだけど、普段の彼なら考えられないもっと致命的なミスをしているの」
また間を取る。これは先程のものとは違う。
ルビィが勿体つけて取った間だ。
生徒たちが唾を飲み込む音が聞こえるのを待って、ニヤける口元から答えを発した。
「身体が小さくなるなんて、彼自身の魔法の効果によるとしか考えられないでしょ。そんな魔法、少なくともこの場では、
 彼にしか使えないんだから。魔法はね、掛けた本人なら当然解除もできる。だから、彼は小さくなった身体を大きくしようなんてせず、
 ただ元に戻れと念じればよかったのよ」

答えを聞けばあまりにも単純。
しかし、彼はそんなことに気付かず痛い目に会ったし、生徒たちの中にもそのことに気付いた者はいなかった。
最初の授業として、これ以上に相応しいものはなかったのではないか。
生徒たちは皆、平常心の大切さを胸に刻んだ。


ルビィの言葉通り、カイルは3日後に復活した。
しかし、生徒たちは彼が一流の魔道師ということは認めながらも、教えを乞おうとはしなかった。
初日の出来事の影響はもちろん大きかった。
しかしそれ以上に彼がいない間の、ルビィの丁寧な指導の影響が大きかった。
生徒たちはルビィを頼り、彼女の指導に従う。
彼女の計画は成功した様に見える。


校庭で指導している彼女を、校舎の窓から校長が眺めている。
笑顔を浮かべ、何度も頷く。
指導力という点ではカイルより素質のある彼女が、主導権を握れたことは大きい。
彼女にとっても良い経験になっただろう。
生徒たちも良き指導者の下、良き魔道師に成長していくだろう。
歳を取った自分にとっては、若い者の成長が何よりの楽しみ。
生徒も指導員も成長していく。こんな楽しみはそうそうない。
これでまたしばらくは楽しめそうだった。

全ては校長の手のひらの中。