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ほんの小ネタです。
例によってエロくも面白くもありません。
それでも宜しければ、お読みください。
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全くついてない。

こんな死に方するなんて・・・。

だから飛行機は嫌いだって言ったんだ。



まずついてないのは、中国で行われる学会に出席しなければいけないことだった。

それまで国外での学会への出席は、何が何でも断ってきた。

しかし私が考えた新しい手術の方法について、どうしても私自身に説明して欲しいと言うのだ。

何度も断ったが、政府高官にまで訪ねて来られて、さすがに断るわけにもいくまい。



次についていなかったのが、多忙すぎることだった。

1週間ほど掛けて、電車と船で行くというのは不可能だった。

最悪、福岡までは新幹線で行こうと思っていたが、それも叶わなかった。



そして最悪だったのが、あの飛行機に乗ったことだった。

飛行機が空へと舞い上がり、3時間ほど経った頃だろうか。

突然、機体が大きく揺れた。

眠っていた乗客達が目を覚まし、窓の外を見ようとした時、大きな声が機内に響いた。

「ど、どなたかこの中に・・・」

やれやれ、またか。

こういうシーンはドラマの中だけと思っている諸君、それは甘い。

どういうわけか、私は人が倒れる現場によく居合わせる。

電車の中、バスの車内でも、デパートや遊園地でも。極めつけは友人の家を訪ねれば、その友人や家族が倒れるのだ。

はじめは薄気味悪くも思ったが、名探偵が殺人現場に居合わせるのと同じことだ。

すなわち、私は名医なのだと言い聞かせるようになった。

まぁ、それはともかく、右手の中指で眼鏡を上げながら立ち上がろうとした私に、CAのセリフの続きが聞こえてきた。

「この中に、巨大化ヒロインはいらっしゃいませんか?」

・・・は?・・・ヒロイン限定?

違う違う、そこじゃない。

機内をどよめきが支配する。

全くわけがわからない。

そんな事態を収めたのは、一人の少女だった。

弱々しい、しかし何故か通る声とともに、彼女は立ちあがった。

「あ、あの、私・・・」

一斉に彼女に向けられる視線の針千本。

目立つことに慣れていないのか、モジモジしながら、言葉を続ける。

「私、その、一応、あの、巨大化ヒロインです」

うーむ、自分でヒロインとか言っちゃうのか。そりゃ、恥ずかしいな。

だいたい、君が巨大化ヒロインだと言うなら、私は超合金巨大ロボだな、うん。

他の乗客も似たようなことを考えたらしく、笑いが機内を包む。

が、彼女の次の一言で、また緊張が走ることになる。

「大丈夫です。怪獣の気配はもう感じていますから」

彼女が向かって右の窓を指さしながらそう言うもんだから、今度は全員窓の外に視線を飛ばす。

そして響き渡る絶叫。

私の席からでは、何か巨大な鋭いものがチラッと見えただけだった。

今思えば、あれは怪獣の爪か何かだったのだな。

一転、縋るような目つきで自分を見る乗客達に、彼女は優しく微笑んだ。

「任せてください。今、変身してやっつけます」



そして、こんな馬鹿げた話が真実だと、思い知らされる瞬間は来たのだ。

突然、彼女を包んだ光がどんどん大きくなって、安心しきった私達の、締まりのない顔を照らした。

次の瞬間、彼女の身体が爆発的に大きくなっていった。

いや、あれは爆発だった。大きくなったのがわかったのは、最初の一瞬だった。

気づけば私は生身で空に投げ出されていた。

飛行機は飛ぶものだが、そういう意味ではなく、吹っ飛ばされていた。

私は自由落下しながら、やはり少し弱々しい、しかし巨大な声を聞いた。

「あっ」

彼女が重大な過失を犯したことを知るには、それだけで十分だった。

何やらヒラヒラした巨大な布のようなものを横目に、落下は続いた。

布のようなものを通り過ぎると、肌色の柱が現れた。

状況から考えるに、これは彼女の脚なのだろう。

ふむ、なかなか綺麗だ。



一体何千メートル降下したのだろうか、息苦しさと恐怖が合わさって、気を失いそうになる。

その時またあの声が響く。

「飛行機を壊して多くの人の命を奪うなんて、絶対に許さない」

おまえが言うな!!とツッコミたいところだが、残念ながら意識が遠のいていく。

あー、今決めゼリフっぽく言ったから、ポーズとかとってるんだろうなぁ。

見れないのが残念。

どうせ死ぬなら、もっと別な形で巨大化ヒロインと絡みたかった。



というわけで、それが心残りで私は今も成仏できずにいるのだ。