巨獣①
多くの人々は、この現実と思えない現状に驚愕した。
そして、人々はまた、真の恐怖にも直面する。

突如、街に現れた巨大な女性。
身長120メートルはあろうか。
長い黒髪を風になびかし、全裸でその巨体を大勢の人々の前に
さらけ出してしまった彼女。
重たそうな乳房は彼女が地響きを上げて歩くたびにゆさゆさと大きく揺れ、
丸く真っ白なお尻がぶるん、ぶるんと振るわされた。
巨大女性は、正気を保つのに必死だった。
だが、この巨大女性が、「人間」でいられたのは最初の一日目だけであった。

巨獣②
彼女が出現してから二日目。
ただ、そこに存在するだけで街を破壊し、人間を踏み潰してしまう巨人。
巨大な女性自身、巨人となって、裸で群衆の目にさらされていることに、
正気を失う寸前だった。
無神経なマスコミのカメラを叩き潰し、なめるような目で見上げる
男達をなぎ払ってしまう。
強靭な彼女の肉体。物理法則をすべて無視する彼女の存在。
彼女を保護しようとした人間の努力はすべて無駄であった。
そして、軍隊による最終的な解決。
彼女の射殺を試みた人間は、最悪の状況を作り出してしまった。

巨人となった、彼女の人間らしい理性。
その最後の一枚を小さな人間の小さな武器が剥ぎ取ってしまったのだ。
巨大な女性は、巨獣に変わる。

巨獣③
彼女を包囲していた、警察、自衛隊は、小一時間ほどで、壊滅してしまった。
「巨獣」となった美しい巨人の破壊力。
その巨大な美しい曲線を誇る脚は、
数百人の小さな人間を、もはや人間と判らぬくらいにぺしゃんこに踏み潰してしまう。
あらゆる火器を跳ね返し、自分を抹殺しようとした小人達に報復を果たす女性。

彼女の原始的な本能は、凄まじい破壊と殺戮を巻き起こした。

巨獣④
数時間後、最悪の「本能」が、彼女を突き動かし始める。
「食欲」
小さな人間達は、考えたこともない恐怖に晒され、またその行為を
目前に見た多くは彼らの命を簡単に奪われたのだ。

巨人の歩幅は、小さな人間の80倍はあった。
建築物を蹴り壊し、巨大女性は逃げ惑う小さな人々に簡単に追いつく。
地響きを上げ、道路上の自動車を踏み潰し、街道上を逃げる小さな人間を
見下ろす巨大な女性。
「おなか・・・。すいちゃった・・・。」
まるで小さな子供のような表情でつぶやく巨大女性。
ゆっくりと両膝を曲げ、街道脇の建物を壊しながら膝たちをする巨大女性

巨獣⑤
巨大な手を、小さな人間達に向かって伸ばす。
パニック状態の小さな人間達。
次々と彼らは巨大な指につまみ上げられ、掌に載せられる。
掌の上に載せられた数十人の男女は、恐怖のあまり凍りついたように
動けなかった。
焦点の定まらぬ、どこか狂人のような巨大な女性の瞳。
彼らは、ただ黙ってその巨大な瞳を見上げ続ける。

巨獣⑥
一人の若い男性が巨大な女性の指につまみあげられた。
グレーのスーツを着込んだ、会社員風の男性は両手と両足をばたばたと
させながら、巨大女性の顔まで持ち上げられてゆく。
艶かしく光るピンクの巨大な唇。
その唇がぱっくりと開いた、次の瞬間、その若い男性は巨大な女性の
口の中に放り込まれてしまったのだ。
ゆっくりと口を動かす巨大な女性。
「血の味がするわ・・・。」
掌の上に残された小さな人間達を見下ろし、彼女はつぶやいた。
残された人々は皆絶叫した。
生きたまま、人間を食べてしまったのだ!
この美しい、巨大な女性は!
地上数十メートルの高さに持ち上げられ、逃げることもできない彼ら。
掌が巨大な女性の顔にゆっくりと近づけられていった。
凄まじい重力を感じる小さな人間達。

巨獣⑦
絶叫。
一瞬後に、彼らもまた大きく開かれた女性の口の中に
まとめて放り込まれてしまったのだ。
今度は、噛み砕かれることなくそのまま飲み込まれてゆく。
熱い巨大女性の消化器官の中で、窒息し、胃液に溺れ、溶かされてゆく人々。

凄まじい破壊から辛くも生き延びた人々は、この巨大女性の人間喰らいを
呆然とみつめていた。
巨獣となった、美しい女性が、「食べ物」として、彼らを追い回し始めるまで