ある流れ星の夜、僕は国を代表して勇者になった。


「ここが、魔王城か・・・」
僕の目の前には魔王の入る城のの目の前に入る。っと、言っても今は木々に姿を隠して外から様子を見ている。
ここから見る限り城の警備は厳重、魔物も今までの旅と遭遇した数より遥かに多い。
無事、勝てるのだろうか?今すぐにでも逃げ出したい。
「大丈夫ですよ、勇者様。私がついてるじゃないですか」
後ろを振り向くと今まで一緒に旅をしてきた、たった一人の仲間である“しろい魔導師”の事、あかりちゃんがいる。
どうしてあかりちゃんなのか。本人がそう呼んでもらいたいからそうなった。
僕自身、まさか二人だけで魔王城までこれるとは思ってはいなかった。普通なら、戦士やら魔法使い、僧侶も一緒に
いるのが常識らしいけど・・・でも、僕の仲間であるあかりちゃんが僕のパーティーにいたからこそ今までどんな事が
あっても乗り越えてきた。今頃引き返す訳にはいかない。
「本当に二人だけで魔王を倒せるのかな」
でも、怖い。人間二人が魔族の王を倒せるかなんて未知数。今までの勇者達も魔王に殺られている。
「何を今更になって弱音を吐いているんですか、あとちょっとです。がんばりましょう!」
「でも・・・」
「勇者様!忘れたんですか?自身で言ったことを。世界平和を誰よりも望んえいる貴方だからここまでこれたのです
 今更尻尾を巻いて逃げるなんてありえません。がんばりましょう!」
「う、うん・・・よーし、がんばろう」
「その意気ですわ、勇者様。では、今から作戦会議をしましょう。正面突破は恐らく不可能です。あれは・・・?」
あかりちゃんが城の方を向いて何かを見ている。何か見えたのかあかりちゃんは城の方を指さしている。
「あれを見て下さい勇者様!」
「うっ・・・ん・・・」
「・・・すみません。どうやら私のキノセイだったようです。では、これから作戦会議に入ります」
「・・・・」



ここで一旦、話は戻りある国であった話をしよう。

ある日のことだ。ある国の勇者が亡くなった。それも旅の途中でだ。
あまりにも早すぎる死に国民も戸惑いを隠せない。一刻も早く新たな勇者を誕生させ、魔王討伐に向かわせ一刻も
早く世界を魔王からの脅威から解放されたい。
そこで、ある者が選ばれた。名は、ゴトー。決して強くはない。両親も魔物に殺され、一人で今まで生きてきた。
魔物に対する恨みはないと言えばウソになるが、両親を魔物に殺されたことよりだれよりも世界の
平和を待ち望んでいた。
そんなある日、ゴトーは王様に呼ばれ、こう頼まれた。
「お前が新たな勇者となり、世界を救って欲しい」
突然のお願い。しかし、彼の性格から頼まれたら断ることが出来ない性格。王様がわざわざ一般市民であるゴトーを
勇者とし、魔王討伐を任命した。非常に栄誉あることだがその夜、ゴトーは泣いていた。


泣きながら明日から魔王討伐に向けて旅立つ支度をしているゴトーはふと窓から外の景色を眺めて見ると辺りは
流星群の如く星が流れていく。そういえば今日は、流れ星の夜という事を忘れていた。
流れ星の夜というのは一年に一回流れ星が多く見ることができる夜のことであり、こんなに多くの流れ星が
見られるのは初めてかも知れない。ゴトーにとっては最後の流れ星の夜になるかもしれない。ゴトーは外に出て
丘の上から最後の流れ星を見ようと丘に上った。

そして、彼女と出会った。

丘の上から眺める流れ星は家でみるモノとも違い、美しく見える。自分がさっきまで涙をポロポロ流しながら
旅立つ準備をしていたなんて事を忘れる程だ。例え無理でも、選ばれたからには魔王討伐をがんばろう。
そう、思った時だ。もの凄い勢いの流れ星をゴトーはみた。まるで、こちらに向かってくるかのようにゴォォォ
という轟音を立てながら、こちらに向かっていたのであった。
光の粒子はゴトーの目の前に墜落、辺り一面真っ白世界となりしばらくの間は何も見えなくなった。

ようやく目が慣れてきたのか、白く染まっていた視界が夜の世界へと戻ってきた。
しかし、一つだけ変わったことがある。それは、目の前には白いローブを来たピンク髪の少女が立っているのだ。
そして少女はニコっと微笑み話しかけてきた。
「初めまして勇者様、私はしろい魔導師のあかりちゃんと申します。勇者様の旅と身近なお世話を勝手ながら
 させてもらいます」
「・・・え?」
状況がいまひとつ飲み込めない。突然現れた少女がいきなり仲間になりたがっているのだ。
「大丈夫ですよ、勇者様。迷惑はかけませんから」
「いや、そういうわけにもいかないよ。君は一体誰?どうして僕の事を知っているの?」
「もぅ、勇者様ったら話をまるで聞いていなかったんですね」
そう、彼女は不機嫌そうに僕の顎を人差し指で突っついている。
「では、改めて自己紹介をします。私、しろい魔導師のあかりちゃんと申します」
「あかり・・・ちゃん?」
「はぁーい。それが私の名前でーす」
「え、えと・・・“しろい魔導師”と“白魔道士”とはどう違うんですか?」
「細かい事気にしていては持てませんよ?勇者様」
「ご、ごめんなさい」
「とりあえず、明日から私も勇者様と一緒に魔王討伐の旅のパーティーに加わりますね。勇者様も人では何かと
 心細いでしょ?」
「それは・・・そうだけど、君は本当にそれでいいの?」
「君じゃなくて、あかりちゃんです!」
「ごめんなさい・・・」
「私の事、心配してくださるんですね。嬉しい。勇者様の事、今以上に好きになってしまいそう」
急に赤面し、もじもじするあかりちゃん。そんなに心配してくれることが嬉しかったのか?でも、心配するのは
当たり前だ。今会ったばかりの知らない人を今から魔王討伐に行く危険な旅に巻き込む訳にもいかない。
「でも、自分で決めたことなのでいいんです。私は勇者様がいるだけで、それだけでいいんです」
「あ、ありがとう・・・」
あかりちゃんとは初対面なのになんだか、こっちまで恥ずかしくなってくる。
「あ、でもあかりちゃん。僕の事は勇者様じゃなくてゴトーと呼んでくれないかな?」
「わかりましたわ。勇者様」
「・・・・」
「どうかしましたか?」
「いえ、別に・・・」
「では、早くお家に帰って明日に備えましょう」
そう言うとあかりちゃんは僕の手を握りぐいぐいと引っ張り丘を降りていく。これから、僕はあかりちゃんと一緒に
魔王討伐という旅にでるんだ。決して楽な旅ではないとは思う。今もこうしてあかりちゃんが僕の腕を引っ張って先に
進んでいるけど、僕の家はそっちの方角ではないということも。
でも、あかりちゃんと一緒の旅ならなんとかなるような気がする。



―魔王城、王座―

ゴゴゴゴゴっという重々しい音を立てながら扉は開かれた。
「魔王!覚悟しなさい。今やっつけてやるです」
「待っていたぞ、勇者とその仲間よ。たった二人ながらよくぞここまで辿りついたと褒めてやろう・・・んぅ?」
ここで魔王、重要な事に気づいた。二人いるはずの勇者のパーティーのハズが一人しかいないのだ。
「お前は・・・勇者はどうした?」
「勇者様は今牢屋にぶち込んでいますわ」
「なんだと!?」
おかしい。勇者たる者、何故魔王城の牢屋にぶち込まれているのか。勇者が囮になった?バカな。あり得ん話だ。
しかし、たった二人のパーティー、今までここまで辿りついた勇者御一行とは違う色のメンバー。二人しかいない
パーティーだからこその信頼関係から片方が囮になり、周りの魔物の警戒を勇者に集めさせ、魔王討伐に最短で
来たのか?なるほど、人間にしては実に面白い。少しは骨あるのがやってきたか。
「勇者様は申し訳ないですけど、私が牢屋にぶち込みました」
「なにぃ!?」
「戦いの邪魔です。ハッキリ言って」
「ハァ!?」
なんなんだコイツは?邪魔?勇者が邪魔だと!?何しに来たのだ勇者は!?いや、待て。コレは勇者達の作戦だ。
ハッタリに過ぎん。この白魔道士が注意を引き、勇者がトドメを刺す。ふん。なるほど、汚いがこれも立派な戦術。
しかし、相手が悪かったな。人間の考えることなどすぐにわかる。いいだろう。ならば、目にも止まらぬ速さで
この小娘を倒し、勇者をおびき出してやろう。
「しかし、小娘。よくぞたった一人でここまでこれたな。勇者を囮に牢屋に閉じ込めその隙に我の元に来るとはな。
 どうだ?小娘。俺の仲間にならないか?仲間になれば世界の3分の1をやろう」
「小娘じゃなくて、あかりちゃんです!それに、貴方の仲間になったら世界の3分の1しかもらえないのですか?
 だったら、勇者様と一緒に世界征服をして世界全部をもらいますわ」
なんとも強欲な女だ。だが、面白い。気に入ったぞ。白魔道士にも関わらず心の底にはドス黒いものが眠っている。
もしかしたら、そのドス黒いのがあるからこそ勇者を牢屋にぶち込むという信じがたい行動も取れたのかもしれん。
「あの~、魔王様?」
「なんだ小娘?今頃になって命乞いか?」
「いえ、そんな魔王ごときに命乞いなんて死んでもしたくないです。私は、勇者様起きたらきっとパニックになると
 思うのでさっさと戦闘してやっつけたいんですけど、初めてもいいかしら?」
「ふん。生意気な小娘だ。いいだろう。我もそろそろ飽きてきた所だ。人間の力とやらをみせてもらおうか?」
「・・・ふふ。えぇ、じゃあはじめましょう」

ドオォォン!!!

「なにぃ!?」
「あら?魔王たるものこれしきのことで驚いちゃうのかしら?意外と可愛いのね」
「貴様“白魔道士”ではなかったのか!?」
どす黒いオーラを身に纏わせながらこちらに向かってくる人間の小娘。一体何が起きているというのだ!?
「残念ながら、私は一度も“白魔道士”と名乗ったことはないわよ?」
くっ!白いローブを着ている者だからてっきり白魔道士かと思えば黒魔道士だったとは・・・。しかし、ありえん話だ。
白魔道士が黒魔道士の魔法が使えないのと同様に身にまとうものも体が拒否反応を起こし、無理して反する事をすれば
精神は壊れ廃人となるはずだが、この小娘は違う。白魔と黒魔のハーフ。いや、そんなのも聞いたことがない。
では、一体なぜ人間の小娘風情がこの様な芸当が使えるのか?
「さーてと。この辺でいいかな」
・・・?突然、小娘が歩くのを止めた。そして、魔法の詠唱を唱え始めるが、あっという間に言い終えた。
この小娘、結構な実力者なのだろう。城にいる魔物達は決して弱くはない。その魔物共を一人で相手にし無傷で
ここまで辿り付けるのもうなずける。なるほど、殺すには勿体無い。
是非、我が野望の為の駒になってもらいたいものだ。

ゴゴゴゴ・・・

地震?小娘め大地震でも起こして城ごとこの我を瓦礫の下敷きにする気か?バカめ。その程度の地震でこの魔王城は
崩壊おろか、我を倒すことすらできぬわ!
「なっ・・・んだと」
「あら、魔王様しっかりしてください。まだ上の口ですわ」
「この地震、貴様の仕業とは思っていたが、まさか自身に巨大化の魔法をかけていたとはな」
「やーだ魔王様ったら、こんな状況でギャグを言えるほど余裕があるんですね。流石ですわ~」
「黙れぇ!!たかが人間風情がどんなに大きくなろうが魔物の王であるこの我を超える事などできぬぅ!!」
「あー。そういうこと言う。いいの?もっと本気出しちゃうよ?」

ズズズズ・・・

「クッ!」
流石に驚いたぞ。人間ごときがこんなこと出来るとは。初めは大きくなっているなど気づきもしなかったが、目線が
同じになったと思えば頭が一つ超えられ、今では我の二倍以上の大きさになっている。
「どうしたの?さっきからしゃべってばかりでそっちから攻めて来ないの?それとも、私が怖い」
「人間風情にビビるわけなかろうが!!」
「そうよね~。そうやって今まで人間をゴミクズの様に見下してきたのに今では貴方がゴミクズの様にあかりちゃん
 からみくだされているんだもんね~・・・って、イダァ」
ゴチィンという鈍い音と共に小娘は天井に頭をぶつけた。しかし、ここまででかくなるとは予想外だ。
「ここまでデカくなるとは小娘とはいいずらくなるなぁ、人間よ?」
「いった~い。ちょっと、ここ天井低くないの?」
「フン。貴様がでかくなり過ぎただけだ。これなら巨人兵として人間共を一気に根絶やしにできるな。最後の警告だ
 我の仲間に慣れ」
ズゥンズゥンと両膝を床に付ける人間、非常に窮屈そうだ。そうしているうち我の頭上には巨大な肉壁が急降下して
きた。

ズガァン!ズガァン!

「おっと、その答えはNOという事だな。実に残念だ」
「あぅ~、背中が天井にくっついちゃうよぉ・・・」
「フン。身体強化で巨大化ができてもそれを制御できんようではやはり使いようながないな」
「あ!そんなこという?制御なんて簡単にでーきーまーすーよーだ!」
「飛んだ言い訳だな。それだけ大きければ我が炎から逃げ切るものか。くらうがいい」

ボオォン

フン、実に呆気ない。我が炎をくらっては顔は間違いなく消し飛んだであろう。
爆煙が消えれば首は消滅しているであろう。
「残念、あかりちゃんでした」
「なにぃ!?」
「魔王の魔法も大したこと無いのね」
「バカな!?ならば、雷をくらうがいい!」

バリィイ

「残念、あかりちゃんでした」
手の平で顔を隠し、まるでいないないばぁを我にしてくる屈辱。
「人間ごときが我の魔法が通用しない・・・だと!?」

ズガァン! ズガァン!!

「あぁん、お尻で柱をなぎ倒しちゃったよぉ~」
「くっ、我の部屋が!!」
「今足で多分壁貫いたよね・・・。あぁ~私と勇者様の愛の巣に傷が・・・でもこれで―」
「ッハ!?しまった!!」
気づいた頃には両手が左右から我に物凄い速さで迫り、両手に捕まえられてしまった。不覚、動揺の隙を完全に
狙われてしまった。
「このぐらい大きさになれば部屋はあかりちゃんで一杯、魔王も逃げようがないよね」
「クッ・・・!魔王たるもの決して逃げたりはしない!!」
「あら~そうなの?偉いね。でも、貴方の部下は私がこのお城より大きくなって二、三回足踏みしたら
 皆逃げ出したんだよ~」
「なんだと?」
「魔王である貴方は気づくはずが無いわよ。だって、外からでも貴方のいる部屋からは結界が張られていて外からは
 絶対に破壊できないし、貴方がそこに入るってのもわかった。後は、外に逃げだした魔物たちをお構いなしに
 踏み潰して一層してあげたわ」
「おのれぇ・・・」
「そして、お城の魔物が全部いなくなっては困るから数人は生かしておいたわ。勇者様の安心してお眠りできますよう
 牢屋にでも入れておけば外の魔物からでも勇者様の身の安全は確保されますわ。もっと、そんな魔物がいたら死より
 恐ろしいものをあたえていたけどね」
「それほどの力を待ちながらも、どうして勇者に隠す必要がある?」
「知られたくないこともあるのよ。勇者様、きっとこんなことしたら悲しむもの」
「ぐぅ・・・」
 心なしか我を締め付ける力がが増したような気がする。
「おのれ・・・我をどうするつもりだ?」
「うーんと、このまま握り潰すのもいいけど、それでは私の手が魔物の血で汚れてしまう。それでは、勇者様を怖がら
 せてしまうわ。だからこうするの」
「ぐぉぉぉぉおぉ」
バキバキバキと体全身を握り締められる。体は、動かぬ。
「食べちゃいます。噛む後味悪そうだし、こうしてにぎにぎして小さくして一口でのみこんであるげるね、魔王様」
「ゆ・・・るさん」
「遅いわ。魔王ちゃん」

あーん、ごくりっと


さーてと、元に戻って次の行動にうつらないと。ふふ、魔王め、私の胃の中で第二形態とかいうのになって抵抗
しているみたいだけど、貴方に私の魔法は効かないわよ?後は私の胃の中で戦い、消化されて私の力になってね。
魔王のあらゆる攻撃は私には聞かない自身がある。だって、私はこの世界の人間でなければ作り方も違う。
一人の星降りの使いの者として、一人の願いを叶えてあげただけ。
あと、勇者様の幸せのためならあかりちゃんはなんだってやりますよ。



―魔王城、牢屋―

「勇者様?起きましたか?勇者様~?」
「・・・・」
「よかった。まだ、お眠り中なんですね。あかりちゃんはちょっと用事があるので大人しく待っていてくださいね」
「・・・・」
さてと、王国に報告しなければいけませんね。すぐ戻ります。今ひとときお待ちを。











―魔王城、牢屋―

「んっ・・・ここは?」
とても長い眠りについていたような気がする。見知らぬ天井、ジメジメとした空気。ここは、地下室かな?
「あっ、勇者様お目覚めになったのですね」
「う、うん・・・。ごめん。記憶がないんだ。これから魔王を倒さないと行けないのに・・・」
「勇者様は長旅で疲れていたのですよ」
「ごめん。いつも助けられて」
「いいんですよ。それに、魔王も私ひとりでやっつけることできましたし。意外と弱っちかったです。
 勇者様の出番いりませんでしたよ?」
「えっ?うそ。」
「確認してみます?」
僕は無言で頷いた。そんなありえない。あの魔王は今まで何人もの勇者を葬ったというあの魔王がたった一人の
あかりちゃんにたおされるなんて・・・。僕はあかりちゃんの案内に王座に向かった。

―魔王城、王座―

王座について僕は驚いた。魔王の姿はなかった。それも綺麗に。でも、周りの柱は折られ、壁には大きな穴が二つ
空いている。きっと壮絶な戦いがあったのだろう。
「ね?魔王なんてどこにもいないでしょ?」
「そうだね・・・ごめん。力に慣れなくて・・・こんなにあっちこっち壊されてそうとう怖かったよね?
 ごめんね。あかりちゃん・・・」
僕はそのままあかりちゃんに抱きつき、何度も何度もごめんと謝った。
「そんな、勇者様。大丈夫ですよ。あかりちゃんはこのとおり元気です。終わり良ければ全て良しです」
「うん・・・ありがとう。じゃあ、さっそく王様にご報告をしないと」
「それはできません」
「どうして?魔王はいない、世界は救われたんだよ?」
「申し訳ありません。勇者様、実は私が勝手に王様に“勇者は魔王を倒した。だが、勇者は魔王堕ちた”と
 報告しました」
「な・・・どうして!?」
「もし、馬鹿正直に“勇者が魔王を倒した”となれば今度は魔物が魔王を殺された復讐に人間を襲うようになっては
 争いはいつまでたってもなくなりません」
「それは、そうだけど・・・」
「ですから、勇者様が新たな魔王になって“不動の魔王”になってもらえばいいのです」
「不動の魔王?」
「えぇ、要するにこの城にじっと居座り何もせず静かに暮らすってことです。そうすれば、魔物は魔王の命令なしに
 勝手なことはできない。人間が魔物に襲われることもなくなるのです」
「じゃあ、あかりちゃんはどうなの?」
「私は、“魔王に堕ちた勇者を倒す罪滅ぼし”を表にだしておけば他のものは滅多にこの城におとずれることはなく
 なります」
「そんなにうまくいくのかなぁ?」
「いきますよ~。だって声低くして“私の獲物を取るんじゃねぇ”って釘を刺しておきましたから」
「うー・・・ん、ちょっと納得できないけど、それで世界が平和になるなら、僕は魔王になるよあかねちゃん」
「その意気ですわ、勇者様」
「いや、僕は今日から魔王じゃ・・・」
「んなこったーどうだっていいのですよー。勇者様は勇者様なのです」
「じゃー・・・あかりちゃんがそう言うならそれでいいよ」



それからというもの僕が魔王になってからは世界はものすごく平和になったような気がする。

外の情報が全く入ってこないせいかもしれないけど、そんなことも月日が経てばどうだってよくなってきた。
僕の隣にはいつでもあかりちゃんがついていてくれるから寂しくはない。