さてっと、今日は楽しい日になるといいわね。
今日はお店で買ったアレを使うのだ。
アレっていうのは、ある星を1つ買っただけ。
『T-9』という番号の星。別にこの店のものってわけでもないのに勝手に売り物にしているみたい。
まぁ、この宇宙には色々な星があるからね。
そして、今日はいよいよ『T-9』の星にワープしてあーんなことやこーんなことをして遊ぶ。
私のものだから好き勝手にしてもいいのがいいのよね。
さてと。こんなこと思っていたら移動準備も終わったことだし、行ってみますかね。

いつもと変わらぬ日常を今から私色に染めてあげる。



ズゥゥウン

移動は一瞬で終わった。
私はキョロキョロと当たりを見渡すと、周りには私と同じぐらい大きいビルから脛ぐらいの高さの建物で
埋め尽くしている。
まぁ、こんな感じのモノは私の住んでいる星にもあるわけで、今回は“私の方が大きい”だけで何一つ大きな
違いはない。
そして、私が今立っているここは大きめの公園のようで、私にいきなり潰されたというのはないみたい。
まぁ、いきなりこんな大きな女の子に潰されるっていうのも悲しい話しよね。
あ。でも、公園に来てた人踏んじゃったかな?ま、いっか。
いや、でも気になる。公園の周りを見渡し、足元に小人を踏んでしまったかの確認をとるけど、
誰もいなかったみたい。
そんなこんなしていたら足元がやけに騒がしい。どうやら私の存在に驚いているみたい。
「ふふん。小人のみんな驚いた?私はね、奈々っていうの。これから遊んであげるから覚悟しなさい」
と、意味深な事をいってみる。
反応があまりにも薄かったからちょっと強めに足踏みをしてみると、
私の視野に浮かぶ小人達は私から遠ざかっていった。
そう、この反応を待っていたのだ。
とりあえず、公園以外の場所にいってみようかしら。
「ふふん。これから楽しみね」


ズシーン、ズシーン

私の一歩一歩が凄く重量感のある音をだす。
体重はそんなに重いハズではないと思うのだけど、
住んでいる星が違うだけでここまで音が違うものなのだろうか?
これでは、まるで私が怪獣みたいだ。
いや、でも・・・この星では怪獣みたいに“大きい存在”ではあるが、私自身が怪獣というわけではない。
ワザと私より遥かに小さい星をチョイスして買ったたのだからこれは当然の事。
これより小さいのもあったけれど、小さく過ぎては面白みがないような気がしたからこの星を選んだのだ。
でも、この重量感のある音が当たりに響き渡るのはちょっとショック。
誰もいない廊下を歩いている時のような音の響き方。
そ、そうよ。きっとそれに似ているようなもの。
だから、私は重くない。うん。

グシャァア

何かを踏んだ。
丁度、公園から足が一歩出た所で何かを踏んだ。
恐る恐る踏んだ足を上げてみると、そこには赤いスポーツカーのようなものが平べったくなっていた。
となりには頭を抱える青年と思われる男の子。
「あら?小さすぎて気づかなかったわ。ごめんなさい」
と、ゴミを見下すかのような不敵な笑みと共に男の小人に声をかけてみる。
失礼だったかな?いや、これでいい。
この星は私の使用物なわけで、好き勝手にしていいのだ。
さぁ、私に恐怖して無様に逃げなさい。その後を私もついって行って脅かして脅かしてあげるから。
踏まれたくない。死にたくないと必死でお逃げなさい。
さぁ!さぁ!さぁ!
・・・・。
しかし、男の小人はその場で立ち膝をついて膠着状態。
命よりも大切なものだったのかしら?
ほんのちょっとだけ気になったから、膝をまげ姿勢を落とし、両手は膝の上に起いて小人を見下した。
「貴方もこんな風になりたくなかったら逃げたらどうなの?」
逃げてくれないと鬼ごっこもできないのだから催促する。
・・・・。
逃げない。目を細めて小人よく見ると何かブツブツ言っているみたいだけど、
何を言っているのか聞き取れない。
両膝をつけ、両手を道路にあてて耳を小人の真上に当て声を聞きとろうとする。
別に相手にしなくてもいいし、車と同じように踏んでも良かったけど。
ちょっと、気になっただけ。別にこの小人がイケメンってわけでもないんだよ。


ふむ。ふむふむ、なるほど。
どうやら、この小人は残念な子だったみたいです。
親に金借りて、今日カッコイイ車買って彼女と一緒にドライブに行って夜景の綺麗な場所でプロポーズを
する予定だったところを私に一瞬で廃車にされたのがショックで立ち直れなかったみたい。
生きていればきっといいことあるわよ。
とか、私が小人を慰めていたりしておかしな雰囲気に。
このままではキリがないし、ほっといていてもいいのだけれども。
そんなに大事なプランを一瞬にして台無しにしてしまったのだから少なからず責任はある。
「あーもう!めんどくさいわね。いいからさっさと口座番号教えないさい!弁償するわよ!」
そこで私がとった行動は、弁償することにした。
別にイケメンだから特別扱いしているわけでじゃない。好みってわけでもない。
ほんとだよ?でも、このままモヤモヤした気分が嫌だから弁償することにしたんだから。
「私の住んでいる星の方がね、この星よりお金はあるの。だから心配しなくていいのよ!」
こうして、危機は去った。
帰ったらちゃんと振り込めばそれでいい。金額も聞いたけど、聞いて呆れた。
「ま、後でちゃんと弁償するから元気をだしなさい。あと・・・その大事なプランを台無しにしてごめんなさい
 次はもっといい車を買えるようになるから安心しなさい」
こうして男の小人はその場からトボトボと去っていった。
悪いことをしたわね。流石に後を追いかけて脅かす気にもなれない。


ハァ・・・。
思わず漏れるため息。何しに来たんだろ?私。
足元には潰れた車。公園には私の足跡だけ。このまま帰ろうかな。忘れちゃいけないし。
目の前のガラス張りのビルに映る私。どことなくつかれきった感じもある。
あーもう。
違うのよ。私はがっかりしにこの星に来たわけじゃないのよ。
そうよ。まずは身支度から整えなおしましょう。
ブレザーの襟を正して、リボンも直して。
セミロングの金の髪に付けた赤色の紐リボンも結び直して。
小人の声聞こうとして四つん這いになったから、膝と紺のオーバーニーソックスの埃を払い、
その場でくるっと一回転すればチェック色のスカートはひらっとなびく。
よし。準備OK。
私は今から、破壊の鬼となる。
はじめの犠牲者は運がなくて残念だったけど、これからやることは私は一切責任を持たない。
道路に捨てられた車も踏み潰したとしても車を捨てて逃げた人が悪い。
このビルも壊しても私は責任はとらないわよ。絶対にね。
そう、私は破壊の鬼となるのだ。
あ、でも神の方がいいか。破壊神!
破壊の女神になる。それでいこう。
鬼より響きいいし、かっこいい。
「ふふん。今からなんでも壊してあげるわよ。この赤眼の奈々ちゃんがね」
ちょっとだけ、楽しくなってきた。


ズシーン、ズシーン

道路に捨てられた車を手当たり次第踏みつぶしながら歩く私。
電線も容赦なくブチブチに引きちぎっているわけで停電しているみたいで信号機が昨日していないのがわかる。
我先に逃げ出すあまり、渋滞が発生して強行で車で突き進んで逃げようとする者もいる。
恐ろしいものだ。
渋滞で車で逃げるのが無理と判断した小人は私から遠ざかるように走って行き、
建物と建物の間に隠れやり過ごそうとしていているもの見かけた。
当然、運転手無き車ばかり並べば永遠に渋滞が続くわけだ。
「ふふん。ほんのちょっとだけ待ってあげるから、車を捨てて走って逃げれば?」
と、腕を組んで胸を持ち上げるかのようなポーズをとりながら警告すれば、
小人達は一斉に車から出てきて逃げ出していった。素直で実にいい。
あ。ちなみに、胸は並よりは大きい方だと思う。

小人の数が減ってきた所で足元に捨てられた車をローファーでズシンと踏み潰しスクラップにしていく。
足で払ったり、蹴ったりとやりたい放題。
ローファーに吹っ飛ばされた車はビルに豪快に入っていってまるで映画でも見ているかのようだ。
一番ゴミゴミと車が並んでいる所にジャンプして一気に踏み潰してみれば、
周りの建物も窓ガラスも豪快にパリーンと割れた。
「あっはっはっは。手加減しているのに、こんなに小人達の星は脆くて弱いわけ?」
着地地点にはちょっとした円形のクレーターができていてその中に車も巻き込まれていた。
その場で強く足踏みをズシン、ズシンとすれば地面は更に沈んでいき、
どこからか小人の悲鳴も聞こえてくる。
そうそう、私はこういうのを待っていたのよ。
「ふふん。次はどうしちゃおっかなー?」


渋滞していた車を一つ残らずスクラップにして、
ビルとビルの間に隠れている小人を見つけるなり私は四つん這いの姿勢を取り、覗き込んだ。
小人達にはどう見えたかな?なんて思いながらビルとビルの間にふぅーっと息を吹きかけてやれば
小人はゴミと一緒に吹き飛ばされていった。
そして、追い打ちをかけるかのように手を突っ込んで小人を掴みとろうとする。
ビルとビルの間の幅は私の手のひらより小さかったので壁を突き破りながら向かってくるわけだから
凄い迫力じゃないかと思う。
この小人達も運がいいわね。映画並の迫力を楽しめるのだから。
「あら~?どこへいったのかしら?瓦礫に潰されちゃったのかしら。ま、いっか」
と、適当な言葉を吐いて手を引っ込めて立ち上がり、埃を払う。
最後に、砂煙の中からみえる小人の方を見ると目が合った。気がする。
でも、追い打ちはかけずそのまま去っていく。無言の圧力。
ぷふぅ。これで小人達は『た、助かった』『危うく死ぬところだったぜ』とか思っているのかしら?
そこに最後に私と目があった時は全てが終わったかのような顔をしたんじゃないかしら。
あ~ん、これ映画かされないのかな?
小人目線で今の見てみたいな。


そんなこんなして次の獲物を見つけながら進んでいくと前方から見えた黒煙。
何か会ったのかしら?と興味本意で目の前に立ちふさがるビル共を押し退けて容赦無く壁をぶち破り、
瓦礫を踏み潰しながらショートカットをしていく。
すると、どうだろう。
私の目の前は火事現場と化している。
足元には消防車が必死に消化活動をしている。
後ろには巨人がいるのにも関わらず必死に火を消し人命救助に全力を尽くしている。
屋上には助けを待っている小人達。
はしご車は頑張って伸ばしてはいるものの私の膝より低く胴仕様もない状態。
屋上の高さは大体股と同じぐらいの高さでイケナイコトするには丁度いい感じの高さ。
あ、いや。別にそんなことはしていないよ?
う、うん。切り替え切り替え。
「あら?随分と楽しそうなことやってるじゃない」
と、声をかけてやれば少なからず悲鳴が返ってくる。
そうよ、そう。それでいい。ちょっと試してみようかしら?
「さて、貴方達は仕事と命どっちが大切かしら?」
ローファーのつま先で地面をトントンと叩き脅かしをかけてみる。
しかし、小人達は消化活動を続けて私をガン無視。
すると、年配のおじさんが私の目の前に現れた。
「ワシらはお前さんのことなんぞ怖くもなんとも無い。毎回こうして死界と直面しているからな。
 仕事の邪魔じゃ。帰りなされ」
拡声機を使わず私の所まで声がとどくのには正直驚いた。
でも、最後のはちょっとイラッときた。
小人の必死だとは思うけど、全然進んでいるようには見えない。

ガラガラガラ

瓦礫が崩れる音も聞こえる。
あーもう、仕方が無いわね。
私は膝立ちになり火事現場に近づくと小人共は私から潰されないように避けた。
屋上には私が近づいて逃げ出す小人達。
「こら!屋上にいるのはこれで全員なのかしら?」
と屋上の小人達に言い聞かせる。
すると、責任者だと思うものが私に向かって来た。
「はい。全員屋上に避難しました。どうかお助けください」
その場で土下座までしてくれた。すると、その人の部下と思われる人も後ろに続いて「お願いします」と
土下座してくれた。べ、別に土下座するほどじゃないと思うんだけど・・・。
「よ、よろしい。素直で実によろしい。」
腕を組んでうんうんと頷く私。
「さ、死にたくなかったら私の手のひらに飛び移りなさい」
両手を屋上よりちょっと下に突き刺すと、責任者の指示通りに次々と私の手の平に飛び降りる小人達。
徐々に手の平がちょろちょろしてくすぐったい。これが、小人かぁ。
っと、感動に浸っている間に全員私の手の平に飛び移ったみたい。
「これで全員ね?じゃあ、降ろすわよ」
私は小人が落ちないようにゆっくり慎重に地面に下ろしてあげた。


小人達を救助した私は小人達から拍手をもらっていた。
中にも『ありがとう』『助けてくれてありがとうございます』と私には感謝の言葉。
こういう気持ちも悪くないわね。
目の前で燃え続けているのも私が踏み潰して鎮火しようかとさっきの小人に聞いてみたら、
そこまでしてもらったら面目がないということで仕事のプロに任せることにした。

しかし、ここで新たに問題が発生した。
しゃがんでいる状態で小人達を見ていたらちょっと用を模様してきた。
火事のせいだろうか、姿勢のせいだろうか。急に模様してきた。
もうちょっと小人から声援を浴びていたのだけど・・・。
「ちょっと、悪いんだけど。この辺にトイレってあるかしら?」
視線は小人から外しながら言った。普段なら絶対に言わないけど、
小人相手なら別にいいかという気持ちのもと聞いてみた。
そしたら一気に声援は冷め、ざわざわと声が聞こえてきた。
「え?マジ」
「いや、無理だろ」
と言った感じの声がちらほらと聞こえてきた。
えぇ、わかってたわよ。この星に私が出すモノを収められるモノなんて無いことぐらい。
仮にやったとしても間違いなく詰まらせる自信がある。
だって、小人が作ったものが私に耐えきれるわけがない。
やれやれ、残念だけど帰ろうかしらね。漏らすわけにもいかないし。
立ち上がり軽く埃を払い、コホンと咳払いをひとつ。
「ふ、ふん。最後のは冗談よ?色々と迷惑かけたわね。帰るわ」
そういうと私は指パッチンで光に包まれるとその場から姿を消し、
元の住んでいる星に帰ったのであった。