「はぁ・・・困ったエル」
 まさかこんなことになるとは思っていなかった。私は今、普段不見慣れていない地面にぺたんと尻をついて
座っている。私の名前はシエル。天界に住む、天使であるが、地上界に来たことは一度たりともない。じゃあ、
何故私がはるばる地上界にいるのか?
 別に好き好んで地上界に降りてきたわけではない。天使の住む天界にも格差はあり、私は上司の部屋の掃除を
お願いされて部屋を掃除していた時に、机の上にある鳥籠の中にある青色のスフィアに目が行ったのだ。青色の光を
放つスフィアに見とれていると、辺りは強い光に包まれ、気がつけば私は地上界に来てしまったようだ。確証は
ないが、以前本で読んだ時の特徴に非常に似ている。大地があり、山があり、川があり、海がある。そして、所々に
人間が住んでいる都も大なり小なりとある。
「はぁ・・・」
 はたしてこれからどうしようか。さっきからため息しか吐くことができない。この世界は創りモノの偽りの世界なの
か、それともどこかの星に飛ばされて誰かの監視下の元管理されている世界なのか。正か偽か。似て異なる世界。
どっち道、じっと待つしか出来ない身分。下手に動けばこの大きさならたった一歩で大災害。たった一つの足跡から
広がる地獄絵図。鉄槌とでも言うべきか。
 どれほどの被害がでるか、それぐらい少しはわかっているつもり。座っている私でも薄く平日ったい雲やもくもくと
小さく出来上がった積乱雲が私の胸に直撃しては二手にわかれて分散していく。でも、これでも小さい層だけどね。
上にも雲はあるけど、立ち上がったら届きそう。追い抜くのもあれば、同じ高さまで。
 それぐらい私はこの世界で巨大な存在なのである。だから無意味に動くことはできない。仮に創りモノの世界だった
としても、この世界を作った方に後で怒られてしまう。だから我慢する。我慢しなければいけない。例え何をされ
ようとも我慢していかなければならない。
 でも、この我慢もいつまで持つかはわからない。現に今、私は地上界の小さな兵隊さんから攻撃を受けている。
空をビュンビュン駆け抜けている戦闘機と思うものはボコボコとミサイルをプレゼント。地上界では前後左右、囲まれて
いる状態からの戦車と思うものから砲撃を受けている。でも、その気になれば空を飛ぶ戦闘機はひとつまみ、戦車は
人差し指で潰す事もできそう。やってみたいという衝動はあるけど、やっぱりこの世界の事を考えると何も出来ない。
私が大きすぎるばかりに。

 それから、私は無抵抗に兵隊さんから攻撃を受け続ける。頭、顔、胸、肩、腕、背中と翼に、お尻、足と次々と攻撃は
雨あられの如く降り注ぐ。別に痛い訳ではないからなんとも思わない。人間風情が天使相手の私によくこれだけのことが
出来るなと関心する。でも、やっぱり鬱陶しい。痛くないなら別にいいでしょ? って思うじゃない。
 でも、そういう訳ではない。言い例えるならなんだろう。耳元でふーっと息をされる感じ? いや、そんなんじゃない。
どことなくくすぐったいかもしれない。顔付近で起きる爆発で発生する煙は、ほんのちょっとスパイスが鼻に入っては
くしゃみしそうなのと戦わなければならない。むしろこっちとの戦いの方が辛いかもしれない。
 いい加減諦めてくれないかな。って、思っても止める訳ないよね。こうしていきなり天界から巨大な天使が突き落ちて
来て、たくさん被害をだしたよね。足元を見れば小さな都だったのかな。お尻から落ちてきて、背中と翼でぷちぷちぷち
っと建物を潰した一瞬の感覚と受け身を取るために強く地面にたたきつけちゃったと思う、腕と手。目を瞑ってよく
わからなかったけど、パラパラと人間の建物が落ちてきたのは見えたと思う。埃ではなく、家やビルの残骸。それの他に
足というのもあり、もちろん猛威を振るったと思う。まず、左足は綺麗に小高い小山に踵落としを決めて、山の半分を
土砂崩れさせた。右足も黙ってはいません。右足はどこぞの川に直撃。高々と水しぶきを打ち上げた。
 そして、私は大の字で倒れている暇もなく急いで上半身を起き上がらせて、伸びきっていた足をお尻の元へ戻そうと
した時、もうちょっと考えていればよかったと後悔。次々と被害のなかった所に私の踵、太もも、脹脛が次々と人間の
街をなぎ倒しては、磨り潰して、残ったのは綺麗な平地だけ。あっという間にここら近辺のものを破壊して無に変えて
しまったのだ。天使なら天使らしく空でも飛べばいいじゃんって、思うけど、翼は動けど体は浮上しなかった訳で
恐らくこの世界では飛べないのかもしれない。なんで、天使が飛べなくて人間の作る戦闘機というのは飛べるのか。
そればっかりは解せぬ話である。おかげで、隕石のように突き落ちてきたと思う。
 そんじゃそこらの隕石なんかより全然達が悪い自信がある。
 威張ってどうする。
 隕石、私。
 なんか嫌。 
「はぁ~・・・」
 思い返せばどんどん嫌になっていく。
 私天使なんだよ?
 どうして飛べないの?
 なんで翼も生えていない君達は機械に乗って空を飛ぶことができるの?
 これじゃ、私が天使じゃないみたい。
 まるで堕天使。
 空から落ちてきた天使だから堕天使なのかもね。
 空を飛べない堕天使。
 堕天使だって空ぐらい飛べるのに。
 どうして私は飛べなくなってしまったんだろう。
 当たり前に出来たことが、当たり前に出来なくなったんだよ。
「ねぇ、どうして君達は空をとぶことができるエル?」
 ふと、目の前を飛ぶ戦闘機に声をかける。解答はもちろんない。私は戦闘機の進行方向に左手をかざすと、
突然出現した左手に戦闘機は旋回できずにそのまま手の平に衝突し、爆発した。
「あっ・・・」
 手を出してしまった。今までさんざん無抵抗だっただけに相手は油断してしまったのか?
 やってしまったものは仕方がない。ちょっと、気分が悪い。こう言うのは失礼極まりないことだが、天使より遥かに
下等種族が突然飛べなくなった私の前にチラチラ飛び回っては、攻撃してきては苛立ちが徐々に募ってゆく。
「下等種族風情が空を飛ぶなエル・・・」
 などと、ついに言葉を漏らしてしまう。私は色々考えた。人間から攻撃を受けながら、今起きたことを振り返ってみて
この世界は『創られた世界』なのか『誰かの監視下にある世界』なのか、と。
 でも、この二つどちられもでもない可能性というはゼロという訳ではない。いうならば、私はどこか知らない世界に
飛ばされた。普通に飛ぶことができた天使が飛べなくなる事。日頃の行いはいい方だと事故評価するから、突然罰が
下るなんてことは絶対にあるハズがない。ならば、私が出す答えはこれだ。

 この世界は、天使が存在しない世界、と。

 どこにでも天使はいると思う。しかし、この世界は天使である私が空を飛ぶことが出来ず、こんなにも巨大であり、
人間なんかじゃ到底相手に出来ない存在。実際、天使と人間の個体差なんてものは知らない。人間の方が大きいかも
知れないし、今の私みたいに小さいかもしれない。この場合、私の方があまりにも大きすぎるけどね。
 天使が存在しない世界では、天使という生き物が認識されない。それが今の私が飛べない理由とすれば、私は納得する。
天使が存在しない世界を上司が発見し、ひとまず鳥籠の中に保管したのだろう。そこに私が掃除しにやってきた。ならば、
これは上司のミスである。こんな危険な世界へとつながるスフィアはもっと厳重に保管するべきである。

 ならば、私がこれからこの世界をズタズタの地獄へ変えたとしても、空を飛べなくなった私のプライドがズタズタに
引き下がれて暴れてしまった。ごめんなさい。で済む話になる。

・・・でも、これはこれで八つ当たりみたいで天使という品を下げてしまいそうで嫌だ。
 私は堕天使ではない。立派な天使だ。天使が破滅を望んでどうする?ちょっと、言ってはイケナイ言葉を漏らして
しまったけど、それは、多分、聞こえていない。小声で行ったと思うし。
 プライドだけは捨ててはならない。空が飛べなくなっても私は天使だ。天使であるべき行動を取るべきだ。

 でも、このままでは何も進展しない。のであれば、被害は最小限に押さえられるように最善の注意を払いこの世界を
調べる必要がある。もしかしたら、私が飛べなくなった理由があるかもしれない。
 よし、前向きに考えよう。

 私はゆっくりとその場を立ち上がり、徐々に目線は上昇してゆく。途中、雲を突き抜けながら立ち上がれば改めて
私の巨大さを知る。とても小さく繊細な世界。一歩間違えれば大惨事を引きをこすこの世界に私は挨拶を交わす。
「こんにちはエル。私は、シエルっていう天使エル。ちょっと、調べたいことがあるから協力してほしいエル」
 一言挨拶をかわすとワンピースのお尻の部分に着いたゴミをポンポンとはたき落とすと、私はようやくこの世界に
一歩前進することができたのであった。