考えてみればアホな話だったよ。近くの山で謎の大型生物の目撃情報があって興味本意で行ったのが悪かった
んだな。大型生物のいる山にジャージ姿でやったこともない登山感覚で山に登っていたわけだ。そしたら、この
地に建物でも建てるかのようにでっかいテントが会ったものだから、自然に近づいてみたんだわ。俺と同じ感じ
で謎の大型生物を発見しに来たのかと思ったんだ。どこぞの業者だか知らないけどな?
「すみませーん」
 声をかける。勝手に入るわけにも行かないわけだし一声かける。
「ハーイ」
 するとどうだろう、テントの中から返事が聞こえた。てっきり探索にでもいっているのかと思っていたが、中
からは女性の声が聞こえた。
「どうぞ入ってください~」
 続けて女性が中に入ってもいいとのこと。手が離せないのだろうか?大した用事があるわけでもなく呼びかけ
てしまった以上それにこたえなければならない。
「失礼します~」
 一言声をかけて建物でも建てる時にでも張られていそうなでっかいテントの中に入った。
 やっぱり、こんなところにこんなムダにでっかいテントを張るなんておかしいんじゃないか?俺はそんなこと
を思いながら重みのあるテントの中に入った。

 中に入るなり俺は目の前の光景が信じられなかった。
「いらっしゃい。どうかしたの?」
 テントの外から聞いた女性の声が優しく俺に言った。それはいい。
「どうしたの?」
 彼女は俺の様子がおかしいと思ったのだろう。
「具合、悪い?」
 具合なんて特に悪くはない。が、俺は何もできない。
「ねぇ?」
「は、はい」
 あまりの無言に立ち尽くしている姿に彼女は段々苛立ちがあったのだろう。ちょっと声が荒々しい。
「ちょっとまってね」
 ブチッ。
「ブチ?」
 謎の音がしたものだから思わず声に出してしまった。すると、俺は伸び出してきた手に掴まれるとものすごい
スピードで彼女の元に吸い込まれていった。
「ひょっとして、驚いてるの?」
 両手で俺の体を掴む彼女は俺にそう問いかけながら俺の体を観察するかのように頭を動かした。さっきから何
を言っているかわからないかもしれない。突然、彼女の手に掴まれ吸い込まれていくなんて意味わからないと思
うが事実だ。例えるなら、こたつの上にあるミカンを掴んで自分の元に置くのと同じだ。
 何を言いたいのかというと、彼女はでかい。更にいうと、山で見つかった謎の大型生物の可能性が非常に高い
ということだ。

 女の子座りをしていてもテントの天井に頭が突くぐらい大きい彼女。謎の巨大生命体の犯人であろう彼女。
金髪のショートヘアーで、胸元と腰にはボロ布のようなものを着ており非常にラフであり、耳が尖っていてエルフ
みたいなのが特徴的である。
 そして、彼女に捕獲されている俺。
「ん~どこかケガしてるって訳じゃなのね」
 一通り観察が終わったようで俺に話しかけてきた。が、若干キツく掴まれているものだからこのままでは内蔵を
やられてしまいそうだ。
「ちょっと、キツい・・・離して」
「あ。ごめん」
 彼女はパッとその場で手を離した。俺の足は地面にあるわけでもなく重力に従い自由落下していく。最初に胸に
落ち、胸の弾力でそのまま下に弾きだされ、太ももがいい感じにクッションになったみたいでそのままべシャアと
地面に落ちた。
「イタタタ・・・」
「大丈夫?」
「大丈夫なわけないわ!!」
 思わず叫んだ。彼女の顔を見上げながら叫んだ。
 が、同時に現実に突き戻された。目の前に巨人がいるのだと。目の前は肌色の壁、見あげれば胸でちょっと隠れ
ているように見える彼女の顔がムッとしているのがわかる。
「離せっていったのはそっちでしょ!」
 どうやら気にくわなかったようだ。
「ごめん・・・」
 とりあえず謝った。力が抜けて立ち上がれない状態で声も若干震え頭が真っ白になる。何もされていない、いや
されたか?これから、どうなるのかもわからない。このテントの中で巨大な彼女に会ってこれからどうなるんだ?
そんなことを考えていた。
 悪意はない。敵意はない。しかし、彼女を信用できるのか?眼の前にはテレビの世界で現れそうな巨大な怪獣と
遭遇しているこの状況。さっきみたいに掴まれて、最悪の場合彼女に喰われるたりするのか?
 
 ブワァッ!

 突如聞こえた音に考えていた思考を一瞬に打ち止められた。今度は何だ?俺は音がした方を振り向けば誰か来た
ようだった。



「誰だお前は!!」
 突然現れたヒゲを蓄えた中年太りのおっさんは俺に声をかけてきた。
「いや、僕はたまたま通りかかった者でして・・・」
 そうだ。ありのままのことを答えよう。俺はこんな山の中に無駄にデカイテントなんてあるから気になって近づ
いただけだ!そしたら、中に入れてこうなって・・・よくわからんことになったんだ。
「お前は俺様の獲物を横取りしようとしたんだろ!」
「え、獲物!?」
 どういうことなの?獲物って?再び頭の中の整理がつかなくなってきた。が、これだけはハッキリしていることは
このおっさんは怒っているということだ
「あん?テメェはアレの事を知らねぇのか?」
 そういうと、ライフルのような銃を突きつける。その先は俺の隣にいる彼女に向かっている。
「やっほー」
 彼女はそう言うと俺に笑顔で手を振ってくれた。え、何これ?
「おめぇは最近のニュースを見ていないようだな?」
「ニュース?」
 はぁ。とため息を吐くおっさん。首を横に振り頭をポリポリとかきながらこちらに近づいてくる。
「これだから、最近の若者はダメなんだよ・・・。いいか?この山に巨大生物が現れたんだよ?」
 巨大生物が現れたのは知っている。俺も知っているから興味本位で来てしまったのだから知らない訳はない。が、
今は黙っていたほうがよさそうだ。
「おめぇの隣にいるのものはなんだと思う?」
「・・・・」
「俺様が思うに、コイツがその巨大生物だと思うって訳だ。ま、巨大生物の捕獲も俺様にかかれば朝飯前だがなっ!」
 おっさんの言い文も一理あると思うが、本当に彼女が巨大生物なんだろうか?
「で、お前は一体誰で何をしているんだ?」
 銃口を俺に突きつける。俺は殺されるのだろうか?
「あんたこそここで何をしていたんだ!」
「密猟ダッ!」
 思わず反論してみたが、当たり前の答えが返ってきた。しかもいい顔でだ。確かにそうだよな。このおっさんが
彼女を捕まえていなければここに入るわけがない。ここにいるということは、彼女は捕獲されたのだろ。こんな大き
い彼女を一体どうやって捕まえたのだろうか?
「で、お前は―――」
「彼は私を助けに来たのです!」
 おっさんが、再び俺に問いかけようとした時、彼女は会話に割り込んできた。
「てんめぇ!やっぱり俺様の手柄を横取りにしようとしてるんじゃねぇか!」
「違います!確かに僕も巨大生物を見たいという理由があってこの山には来ましたが、横取りなんて・・・」
「助けに来たってエレンちゃんが言ってるじゃねぇか!」
「エルフィーナです」
 このおっさん今、適当に名前つけたのか!そしてそこを指摘するんだ!いや、名前間違ったら違うよって言いたく
なるか。いや、そんなことより今するべきことはこんな事じゃないはずだぞ俺。
「僕は貴方様からエルフィーナを取ろうとなんて思っていませんよ!それに、巨大生物に会えたらラッキーっていう
感じにきたんですから!お持ち帰りしようだなんて考えてもいませんでしたよ!」
 こうなりゃヤケだと思って言葉をぶつける。すると、エルフィーナは悲しい顔をした。
「え?だって、貴方が私の縄を切ってくれたから・・・」
「何ィ!あっ!本当だ!切れてやがる!!」
 なんだこれ!え?縄はエルフィーナが自分でぶち破ったし、おっさんはおっさんで今頃になってエルフィーナの縄
が切れていることに気付くし、これではまるで俺が本当に助けにきたみたいな状態じゃん。 
「違います!誤解で――ブヘッ!!」
「ゴチャゴチャうるせぇ!」
 俺は言葉を言い切る前に銃のストックの部分で殴られた。

 それからあの後俺は結構殴られた。両手両足を縛られ自由の利かない状態になった。エルフィーナも再び両手だけ
縛られた。どうやら残りのロープがなくなったようだ。
「ねぇ?結構殴られたけど大丈夫なの?」
 エルフィーナが心配したのか横に蹲っている俺を覗き込んできた。心配しているっていう感じの顔ではなかった。
「あぁ、なんとか。とりあえず自由が利かない以外は大丈夫なんじゃないかな?」
「解いてあげよっか?」
 ふふんと自慢気なエルフィーナの顔が何故か気に入らなかった。嫌な顔をして無言で顔を横に振り、体を転がし
エルフィーナに背を向けた。
「素直じゃないんだね」
 ブチっというロープが切れる音は背を向けていてもわかった。そして巨大な指が俺を捕獲し、体がまた浮き上が
りエルフィーナの目の前にいる。
「解いてあげるから話相手になってよ。捕まってるのも結構らくじゃないんだからさ!」
 と、エルフィーナは言うと右手の人差し指の爪で器用に足と手首を縛られているロープを切ると俺を右手の平に
乗せる。
「あ、ありがとう・・・」
「そうそう、素直にそう言えばいいんだよ」
 満足そうな顔をするエルフィーナ。そういえば、エルフィーナはさっきも自力で縄を切っていたし、密猟をして
いると言っていたあのおっさんからも逃げる気になればいつでも逃げられる。というか、どうやって捕まえたんだ?
「ねぇねぇ!貴方の名前ってなんていうの?」
 考えていると、エルフィーナから声をかけてきた。そういえば、俺はさっきのあだこだで聞いてしまったがまだ
言ってはいなかった。
「村川修治。ただの男子高校生だ」
「しゅうじっていうんだね。男子高校生っていうのは、人間とは違うの?」 
「いや、同じだ。ただ・・・なんて言ったらいいんだ?身分?いや・・・ただの人間だ。男子高校生は」
「へぇ~そうなんだ」
「俺からも聞いていいか?」
「いいよー」
「エルフィーナさんは、その・・・何者なんだ?」
「あっ。エルでいいよ。んーっとね」
 そういうと、エルフィーナ左人差し指を頬に当て頭を少し傾け目線を上にずらして考え込んだ。ひょっとして、
聞いてはいけなかったことだったのだろうか?巨大生物という仮説を置かれているから少々話し難いところもある
のかもしれない。
「エルフ・・・。いや、元エルフなのかな?」
「え?なんで自信ないの」
「だって、私の身体見てわからない?こんなに大きくなっちゃったんだよ?エルフから巨人って言ったほうがいいの
かもしれないじゃん」
 少々困った顔をしたエルだった。確かにエルは外見エルフって言えばエルフなんじゃないかと思う。耳とかとんが
ってるし。身体面を見れば確かに巨人と呼んでもいいぐらい大きい体をしている。座っている状態でも五階建ての
マンションぐらいはあるんじゃないかと思うぐらい大きいし、立ち上がったらこれの倍以上は大きいということにな
る。
「あっ!でも踊りとかは大好きだよ」
 そんな大きい体で踊ってくれたら足元は大変なことになるだろう。車が踏まれれば全壊までは行かないだろうが
廃車にはなるだろうな。それより周りに踊っている人がいたら踏み潰されないようにしないといけない。多分死ぬ。
いや、今はそういうことを考えている場合じゃないだろ。
「“大きくなっちゃった”ってなんかあったの?」
 それを聞くかっと言わんばかりにエルは眉間にシワを寄せて悩んでいる。
「例えばだよ?道端に珍しいキノコが生えていたんだよ。そのキノコがあまりにも珍しいものだから食べてみたんだよ」
「ワイルドだな」
「うん。で、キノコおいしい!と思っていたら体がどんどん大きくなって大変大変ってなった」
「それがエルだと」
「うん。いや、違うよ?例え話例え話。私じゃないよ!」
 うん。という度に顔を縦に振り、急に顔を真赤にして必死に否認する姿を見れば例え話はエル本人じゃないかと思う。
道端に生えていた珍しいキノコを考えなしに食べる行為事態が考えにくいが、エルフ社会では常識なのかもしれない。
「エルなら、そのうち空でも飛べそうだな」
 キノコを食べて大きくなるなんてどこぞのゲームの配管工みたいな話に思わずそんな事を言ってしまった。
「そう?」
「で、エルはどうしてそんなに大きくなったの?」
「それは、キノコ食べてって今言ったじゃん!―――あ」
 しまったという表情におもわずにっこりする。この子はわかりやすい。

 エルは体が元から大きいというわけではなく、キノコを食べて大きくなったらしい。
「次、聞いてもいいかな?」
「いいよー」
 エルもずっと右手で俺を持っているのも疲れたようで今は左手に乗せている。
「ここから逃げようとかはしないの?」
「なんで?」
 質問の意味すらわからないかのような顔で即答した。なんの焦りもなく、別に密猟者に脅かされているわけでも
ない。一体何故エルはここにいる理由があるんだ?
「ごめん。じゃあ、エルはどうしてここに残るの?」
「それはだね~。しゅーじは、奴隷って知ってる?」
「奴隷?」
「私、奴隷ってのに憧れてたんだよねー。絶対服従って一体何されるのかな~ってね」
「奴隷って、自分という存在を他者に奪われるみたいなもんだぞ!?」
「怒ってるの?」
「・・・ごめん。ただ、俺はもっと自分を大切にしてもらいたくてだな・・・」
 思わずカッとなってしまった。密猟者の奴隷になりたいって間違っているし、自力で逃げ出せる力があるのにも
関わらず逃げだすということはなく、ただ奴隷になってみたいということでここに残っているというのが俺には理解
できなかった。
「自分を大切にしたいから、奴隷になりたいんだよ」
 寂しそうな顔でエルは言った。
「しゅーじは、奴隷になりたいとか思わないの?」
「絶対ヤダ。何されるか分からないし。殺されるかもしれない」
「そっか」
 エルはうつむき俺から視線をずらして地面に降ろした。
「ほら、今のうちに逃げなよ。怖いんでしょ?早くしないとアイツら来ちゃうよ?」
「エルは逃げないのか?」
「私はいいの」
 目を閉じて顔を横に振った。どうやら逃げる気はさらさらないようだ。
「ありがとうな・・・その、元気でな。じゃ」
「ばいばい」
 そう言うと俺はテントの入り口目指して走っていた。俺だけ逃げだすというのも釈然としないが、エルを説得しよ
うがないと思う。本音を言えば一緒に逃げたいがエルはそれを望もうとはしない。せっかくエルが逃げたいのなら
逃げていいよってしてくれたんだ。そのチャンスを手放す訳にはいかない。
 ありがとう、エル。



 テントの入り口を少し開けて周りを見渡し、誰もいないことを確認してから外に逃げた。以外にもこのでっかい
テント以外何もないみたいだから簡単に逃げ出せそうだ。
 テントの外に出て、物音をなるべく立てないように慎重に暗闇の中へと進むと、懐中電灯の明かりがちらほらと
見える。テント付近に仲間が配置されているのだろうか?世間では巨大生物というニュースが流れてその生物を捕獲
した所をマスコミやどこぞの研究機関にでも売ればいい金にでもなるのかもしれない。そのための警備なのだろう。
 と、考えているとうちに二人組の男がこちらに近づいて来ているのがわかった。俺は慎重に草陰に身を隠した。
「しかし、あの巨大生物が簡単に捕まえられるとは思わなかったな」
「あぁ。まさか落とし穴の穴に足をとられて転んでんだもんな」
「いやいや、うまくいってよかったぜ。アレも大人しくて扱いやすいしな」
「後はどうやって運ぶかだよな?3mぐらいとかの規模じゃねぇからな」
「最悪バラしでも運ぶのか?」
「馬鹿野郎!それでは価値が下がるだろが」
 男たちはそう喋りながら去っていった。エルは落とし穴に躓いて転んだ所をアイツらに捕まったというのはわか
った。だが、俺はこのまま逃げれば俺の身は安全であろうがエルがアイツらに何をされるかわからない。エルを
運ぶというのは確かにどうするのかは気になる。3mぐらいならなんとかトラックにでも詰め込めそうだが、座って
いても二階建ての家よりも大きい。運ぶとなると飛行機を運ぶようなのでもない限り無理だろう。エルは抵抗とか
まるでしないから最悪オープンに歩かせたりもしそうだ。
 それに、さっきのなによりバラすという言葉も気になる。エルが殺されるかもしれない。生命の危機を感じれば
抵抗もするだろうが、殺されるという言葉にエルは何も考えていなそうだった。奴隷気分になりきっているのかも
しれない。そもそも“自分を大切にしたいから奴隷になりたい”というのも気にかかる。
 どうする?こんな心残りの状態で俺だけ逃げていいのか?さっきの男達にバレないように近づいて盗み聞きをし
て情報を得るか、このまま逃げるか。盗み聞きをすれば気づかれて捕まる可能性だってある。それに逃げるチャンス
もこれが最後かもしれない。捕まって殺されるならこのまま逃げきった方が俺は安全。たかが一日。半日より数時間
の関係だと割り切ればそれでいいじゃないか。
 だが、エルはどうだ?彼女の未来はどうなるかわからない。殺されるか、研究機関の実験台にされるか、もしくは
動物園の様に見世物にされるか。後者であればいい方か・・・。

 気づけば俺は、男達の後をつけていた。見つからないように一定の距離を保ちながら慎重に足音を立てぬように
行動していた。自分でもよくわからなかったが、アイツらが何をするかを見届けてヤバイと思ったら逃げる。エル
がヤバイと思ったらエルを説得させて逃げればいい。それに、こんな暗闇の中で方角もわからずどこへ逃げろって
いうんだ。やらないで後悔するならやってから後悔したほうがいい。って考えたら体が勝手に動いていた。
 だが、アイツらをつけ初めて30分ぐらいたっただろうか、あの会話以来真面目に警備についているようだ。
クソッ!急に真面目に警備しやがって。もっとラフにいけよ。いや、もしかして距離がありすぎて話が聞こえない
のかもしれない。どうする?これでは、備考の意味が無いぞ俺。危険ではあるが近づいてみるか。

 パキン
 
 よくある光景だと思う。痺れを切らした俺は不覚にも足元の木の枝を踏んでしまったようだ。アイツらにも聞こえ
たらしく懐中電灯の光が当たりを照らし出す。
「誰だ!そこに入るのはわかっているぞ」
 物音を出した焦りから急いで物陰に隠れる際にガサガサと更に音を立ててしまった。次第にアイツらが近づいてく
るのもわかる。
 抵抗しても無理だろう。じっと身を潜めてやり過ごそうとしたが、残念。懐中電灯の光に照らされ俺は再びアイツ
らの元に捕まったのだった。



 男二人に両手を抑えられた状態でテントまで運ばれ、俺はあのおっさんの前に再び対峙した。おっさんの後ろには
エルの姿が見える。
 悪いな、エル。お前の行為無駄にしちまったよ。
「何かと思ったら、まーたお前か?」
 自慢のヒゲに手を当てめんどくさそうに俺を見る。
「いっちょ前にエルフィーナちゃんの縄まで切っておいて捕まって、まーた戻ってくるとはな。元気だな?お前は」
 おっさんはひょいっと顔でエルの方向に合図を出し男達に運ばれ、エルの目の前に突き飛ばされる。
「なにしやがる!って、おっと」
 と、反抗するとスコップが俺の方に投げられた。何をさせる気だ?
「そんな元気の有り余っているお前に仕事をやる」
「仕事?」
「エルフィーナちゃんは俺らが想像していた巨大生物とは思いっきり的外れのヒト型だったわけだ。ヒトってのは
食ったり出したりするわけだ。それはお前もよくわかっているよな?」
 ここまで言われると何となく予想はついたが、次の言葉は思った通りであった。
「お前は今から、ここで穴をひたすら掘ってもらう。その有り余っている体力でエルフィーナちゃんの便所づくりだ」
「えっ・・・」
 思わずエルからも声が漏れた。エルは右手で口を抑えたが、おっさんはその姿をみてニヤリと笑った。
「オラ!さっさと掘れ。エルフィーナちゃんは我慢できねぇってよ」
 おっさんは、俺に一発蹴りをお見舞いする。両手でスコップを持って睨みつけるが取り巻きの男達の狩猟用と思わ
れるライフルを俺につき向ける。ヘタに抵抗すればここで殺される。
「くそっ!」
「また逃げるなんて考えるなよ?今回は見張りをつける。オイ、こいつ逃げようとしたら射殺してもいいぞ」
「了解しました」
「まっ!エルフィーナちゃんの為に穴を掘ってくれよ?」
 おっさんはそういうとテントの外に出ていき、見張りの男は入り口に立てかけられていたパイプイスを引っ張り出
して座りこちらに目を光らせている。今は黙って従うしかなさそうだ。

「ねぇ、貴方は逃げなかったの?」
 穴を掘り始めて数分、エルの方から俺に心配そうに声をかけてくれた。しかし、作業は中断できない。一応見張り
にも見られているわけだから作業をしながらの会話になる。
「逃げたよ。でも、ダメだった」
「そぅ・・・」
 再び穴を掘るザクッザクッという音だけがテント内に響き渡る。さっきの話を聞くからにエルに危険が迫っている
のは時間の問題。見張りがいるとはいえ、多少の危険を犯してでもここから逃げ出すことが最優先。
「なぁ、エルはどうしても逃げる気にはならないのか?」
「それは・・・ないわ」
 ダメもとで聞いてみたが解答は先程と同じだった。
「エルが奴隷として捕まったら仲間や家族が心配してるんじゃないかと思うんだが?」
「・・・・」
 無言。返事がないから手を止めエルを見上げるとエルは悔しそうに下唇を噛み締めていた。マズイ事でも聞いて
閉まっただろうか?それとも――
「・・・私ね、一人なの。仲間もいなければ家族もいない」
「ずっと一人だったのか?」
 エルは無言で頷いき、瞳には大粒の涙が今にでもこぼれ落ちそうだった。
「一人は寂しいかった。でも、大好きな踊りがあった。鳥や動物達とお話したり遊んだりして気は紛れさせることは
できたの・・・でも、あの日から私の日常は変わってしまった」
 鼻をすする音。涙を一旦拭い、呼吸を整えてエルは続けた。
「体が急に大きくなって、鳥や動物達は私に怯え近寄らなくなった。大好きな踊りも、踊ることもできなくなった」
「エル・・・」
「みんなを安心させようと、こんなに大きな私でもいつもの私のように笑顔で接したよ。でも、みんな私から逃げ出
すの。そうだよね。こんなに大きかったら踏み潰されそうだもんね・・・。でも、アイツらは違った」
 今まで一緒だったエルの仲間がキノコを食べたことにより恐れられ、一人ぼっちになったところをアイツらの罠に
足をかけられたんだろう。あくまで俺の予想だが、倒れた振動でアイツらに見つかり同じ目線で話しかけられ、上手
く口説かれたのだろう。
「アイツらは一人ぼっちだった私を仲間だと受け入れてくれたわ。でも、新入りはちょっと奴隷のように使われるが
そこらへんは慣れればどうってことと思った。だから、私が逃げるということはアイツらを裏切ることになる」
「それが、もし殺されるかもしれないとしれない奴等を仲間だと言い切れるのか!?」
「一人ぼっちになるぐらいだったら、いっそ死んだ方がましだよぉ!!・・・うぅ」
 奴隷という形でアイツらの仲間になったというエルの考えが間違っていると思い、おもわずちょっと強く言葉を
エルに言ってしまった。外でアイツらの考えていたのはエルをモノとしか考えていなかったことに、腹がたった。
エルは騙されていること。そして、俺がエルに強い言葉をぶつけてしまったためエルも負けじと叫ぶような形で
俺に返してきた。
「そこ、うるさいぞ!」
 おかげで、見張りからも大声で注意をされる。
「ひっ。ご、ごめんなさい・・・ひっく」
 エルは泣きながらアイツらに誤った。穴を掘る作業を止め、エルを改めて見直すと体は震えている。俺が動いてい
るから体は熱いが、エルは寒さで震えているわけではない。寒さ以外でヒトの体が震えるのはどんな時だ?緊張、
不安、恐怖。
 そして、エルは俺に“自分を大切にしたいから奴隷になる”とエルは言った。俺は、ついさっきまで一人が嫌だ
から奴隷になってでもアイツらに従い、仲間として受け入れられたかったのだろう。
 だがどうだ?密猟者達を仲間だと言うなら“アイツら”なんて呼び方はいつまでもしないだろう。俺は、ここから
逃げ出すことで一杯で“殺される”という言葉を使いすぎてエルを怖がらせてしまったかもしれないが、エルは俺と
密猟者と初めて会った時にこんな事を言っていたのを思い出す。
 “彼は私を助けに来た”と。
「エルは、もしかしてアイツらが怖いのか?」
 俺は優しくエルを見上げて言った。その言葉に震えていたエルの体はぴたりと止まり、顔を両手で隠していた手と
手の間からエルの瞳が見える。
「うん・・・」
「そうか・・・」
 今、完全にわかった。エルは一人ぼっちになるぐらいなら死んだ方がいいと言った。アイツらの奴隷にはなったが、
完全に信用できないところもあり不安でしょうがなかったんだろう。その不安を断ち切る為に奴隷は何をされるのか
と恐怖しながらも笑顔で誤魔化し楽観的に考えていたのだろう。
 初めて会った時のエルのあの陽気な姿は今はまるで感じられない。ずっと緊張しっぱなしだったんだろう。なら、
俺ができることは何だ?エルを楽にしてあげることだろ。
「なぁエル。これが最後だ。よく聞いてくれ」
「っひく。うん・・・」
 両手で涙を拭い、膝下に手を添えて俺の方を黙ってみてくれた。
「俺と一緒にここから逃げよう」



 思い切ってエルに言った。返事はなかったが、俺はスコップ片手に見張りの入る入り口へ向かう。
「おい!お前何をしている戻れ!撃つぞ!」
 見張りの男がライフルを手に取り、こっちに銃口を向けようとした瞬間に俺はスコップで男の画面を叩きつけてた。
男はそのまま倒れ気絶したようだ。後悔はしていない。やらねば殺られていた。
 ゴォンという鈍い音に近くを歩いていた仲間が気づいたのか「なんだ?なんだ」と辺りは少々騒がしくなってきた。
「ちょっと何してるの!」 
 エルは突然の出来事に思わず叫んでいた。
「何って決まってるだろ?一緒に逃げるんだよ。ここからな」
「でも・・・」
 口ごもるエル。だが、時間はない。騒ぎに駆けつけにきたアイツらの足音が近づいてくるのがわかる。
「何事だ!」
 ガバッと勢い良くリーダーであろうあのおっさんが飛び込んできた。それに続いて仲間もテント内に入ってきた。
倒れている仲間を見つけ、俺の方を睨みつけてきた。
「てめぇがやったのか?!」
「あぁ、そうだが?お前らはバカだよな~俺にこんな武器を預けちまうんだからな」
 トントンっとスコップで手を叩く。ここまできたらやるしかないんだ。
「エルフィーナ!」
「はっ、はい」
「こいつを潰せ!」
「え・・・?」
「奴隷は主に従う者だ。奴隷にさせてやったんだ。はやくこいつを始末しろ!!」
 怒鳴るようにおっさんはエルに命令した。エルは震える手を胸元まで上げて固まってしまった。
「私には・・・できない・・・」
「なんだと!?」
「無駄だ。エルはお前には従えない」
「てめぇ・・・何をした?」
「エルが俺になんて言ったか覚えているか?」
 その言葉に辺りは静まりかえり、ここにいる奴の視線が俺に集まる。
「俺は、エルを助けにきた」
 俺の発言にここにいる全員の顔つきが変わった。その中でもおっさんだけは笑いを堪えている。
「はっはっはっはっ!な~にが助けに来ただタコ!状況を理解して言ってんのか~?こっちには武器もある。それに
対してエルフィーナは『え?私助けられるの~?』て顔してるじゃねぇかバカがよぉ~。っまたく、付き合いきれ
ねーぜーまったくよぉ~」
 呆れながらもおっさんが手で何か合図を出したと途端に銃口が俺に一気に集まる。
「いいか?仲間ってのは信頼関係が大事なんだ。その場しのぎのハッタリなんざなんの意味もねぇんだよ?ま、バカ
は死なねぇと治らねぇともいうから、俺様が身を持って教えてやろう。お前の最後は仲間もいなく、一人寂しくここ
でくたばるんだよ」
 そしておっさんは「あばよ」と言い切ると同時に指パッチンをした。

 ダダダダッドォオオオン!!

 凄まじい轟音がテント内を響き渡り、辺りは砂煙でいっぱいだ。一斉射撃の的になったとはいえどこも痛みもない。
死んでしまったから感覚がなかったのか?いや、それだったらこの砂煙はないハズだ。それに、銃声とほぼ同時に
地面が強く揺れてバランスを崩して倒れたんだ。周りには見覚えのある壁が俺を守ってくれたようだ。
 そして、壁を見上げてみればテントの天井があり、そこからエルが顔を覗かせた。
「大丈夫?」
「あぁ。ありがとう、助かったよ」
「よかった・・・」
 この壁はエルの手だった。手が解かれると当たりの状況が解った。撃たれるちょっと前にエルが上半身をこっちに
倒してエルが俺を守ってくれたんだ。エルが倒れてくるもんだからあっちも狙いがずれたり下敷きにならないように
逃げていた。
「左手、大丈夫なのか?」
「うん。思ったより痛くないから大丈夫そう」
 右手で左手の甲を撫でているものだから心配したがなんともないようで安心した――のは、本人が一番びっくりし
ているように見える。
「エルフィーナ!てめぇ、俺達を裏切るのか!?また一人ぼっちに戻りてぇのか!?」
「わ、私には、しゅーじがいる。だから私は、しゅーじと一緒に逃げます!」
 胸元の手を当てエルはおっさんに言い切った。ようやく、エルも逃げる気になってくれたようだ。だが、おっさん
は激怒しているのがわかるほど顔が真っ赤だ。
「おのれ・・・こうなりゃ皆殺しだ!エルフィーナを生け捕りにしたかったが、残念だ」
 おっさんの合図をだすと部下達は慌ててエルに銃口を向ける。
「まずは、裏切り者から処分だ」
 そういうと、おっさんの合図と共にエルに一斉射撃が始まった。
「きゃっ!」
 バンバンバンと響く銃声。両目を瞑り後ろに体を引くエルだが驚いたのは最初だけのようだ。次第に慣れてきたの
か顔を狙って射撃されないように右手を左右に振り払っている。
「やっ、ちょ、ちょっと!くすぐったいからやめてくださいっ!」
 あの銃撃はエルにとっては痛いではなくくすぐったいとのことにアイツらも戸惑いが隠せないようだ。雨あられの
様に撃っていた銃声もぴたりとやんだ。反撃のチャンスだ。
「ふぅ。今度はこっちの番だね」
 そういうと、辺りからはゴゴゴゴという音が聞こえた。ずーっと座っていたエルが立ち上がろうとしていた。膝に
重心が移り、地面から尻が浮き上がった所でエルはテントの頂上にカンという音を立てた。
 ドスン!ドスン!と両手をつけて四つん這いの様な形から、徐々に膝を上に上にと上げていくと頭、背中と天井を
覆い尽くした。
「全員外に逃げろ!」
 ここにいる全員がエルの立ち上がる瞬間にただ呆然と見ている中、おっさんの一声に気を取り戻したのか皆急いで
外に流れるように飛び出していった。
 
 ガシャガシャガシャガラララ

 という音と共にエルの体はテントから突き出た。照明は消えパイプやらテントのパーツが下にガシャンガシャンと
落ちてくる。一応頭を守るようにしゃがみ込んだが運良く何もぶつからずにすんだ。
 外は雲ひとつ無い満月だ。暗闇の中、月明かりに照らされエルの全身が神々しく見えた。座っている時でも十分
でかかったエルだが、さらに倍大きくなったかのようだ。
 立ち上がればもちろん高くはなるが、これがエルの全身。こうして比べてみるとエルの踝ぐらいがだいたい俺と
同じぐらいの身長だ。長い間座っていたようでエルも呑気に背伸びをしている。
「ふぅ。あ~つかれた」

 ズシィン

 浮いていた踵が地面に落ち、背伸びが済んだようだ。エルが背伸びをしただけで地面を揺るがす力がある。あの足
に踏まれたら間違いなく即死だろう。
「あっ!しゅーじ!しゅーじいるー!?」
 エルは膝をちょっと曲げて周りを見ている。一旦目が合ったような気がしたが、見えていなかったようだ。丁度、
エルの影とも重なっているから見えていないのかもしれない。周りを見渡すと懐中電灯が1つ転がっていた。
「おーい!ここだー」
「あっ!しゅーじみーつっけ!無事だったんだね!」
 懐中電灯のスイッチを入れ気づいてもらえるように上にかざすとエルは気づいてくれたようだ。
「よかった~。踏んじゃったんじゃないかと心配したじゃない」
 エルは立ち膝になり視点を落とした。
「せめて何か言ってから立ち上がってくれよな~」
「むっ。そんなこと言うなら一回踏んだほうがいいのかもしれないね」
 えぇ~。と内心思ったが口にはださない。まぁいいか程度で済ませておこう。
「でも、無事でよかった」
「あぁ、おかげ様でな」
「う~ん。しゅーじがそこにいると色々危ない・・・よね」
「え?」
 と、言う前にエルの巨大な右手が俺に迫りそのままギュッと捕まり、もの凄いスピードで上昇していく。これが、
巨人と人間の感覚の違いなのだろう。エルは普通に持ち上げているつもりでも俺からすれば絶叫マシーンに乗せられ
一気に上に上昇した後に一気に下に落ちるあのアトラクションに似た様な感覚だ。
「よっと。ここに乗っててね」
「ちょっ。エルさん・・・ごめん。マジ気持ち悪い。待って」
「なんで気持ち悪いの?」
 俺はエルの左肩に乗せられたが胃液が逆流しそうな感じに喉が痛い。あの酸っぱい液体が急上昇してきて少々不快
な気分だ。だが、エルはそんな俺の事を信用していないかのように疑っているかのように俺を見た。
「エルはわからないと思うけど、今度はもうちょっとゆっくり上げてくれ」
「どうして?」
「酔った」
「私に?」
「やかましいわ」
「うふふふ。しゅーじかわいい~」
 なーにが「うふふふ」だ。この野郎め。って、右手で突付くな落ちる!落ちる!エルにはわからないかも知れない
が俺からすれば大木で殴られているみたいなものだからな!それに、さっきよりも高い位置にいるんだ。4階建ての
校舎の屋上なんかより遥かに高いんだからここから落ちたら一溜まりもないわ!とりあえず、何かに捕まらないと
落ちる。
「あんっ」
 俺がエルの耳たぶを掴んだと同時に左肩もあがり、落とされそうになったがなんとか持ち堪えた。
「ちょっと、いきなりなにするの!」
「つつかれて落ちると危ないから捕まっただけだ」
「んもぅ・・・。強く引っ張らないでよね」
 とは言うもの結構辛いものもある。首筋や肩にしがみ付くのもいいが抓っているよう感覚がするんじゃないかと
思うとできない。髪の毛は引っ張られると思うし、耳たぶはこうしてばんざいしている状態。どれも安全な場所は
ない。今から変えるわけにもいかないだろう。
 それよりも、今はアイツらを探さなければいけない。このまま見逃してもいいが、今野放しにしておくと後で何
かされるのは厄介だ。叩けるものは叩けるうちに叩いた方がいい。
 下は木が邪魔でよくわからない。その上この暗闇の中からアイツらを探すのは困難だ。下を見てアイツらを探そ
うとするが、こうして見ればテントを突き破ったエルがいかに大きかったかがわかる。あのでっかかったテントも
エルと比べれば太ももと膝の間ぐらいにしかないのだ。
「ねぇ、しゅーじ。ちゃんと探してる?」
「あ、あぁ。まだ遠くには行っていないとは思うんだけどな」
 辺りをキョロキョロしていたエルが聞いてくる。ここで見とれてたなんて言えないし、流石に暗闇の中でこの
高さからあいつらを見つけ出すのは無理だ。
「なぁ、エル。四つん這いになった方が見つけやすいんじゃないか?」

 ブォン!

 俺がエルに提案した時だった。近くでエンジン音が聞こえた。あいつらはまだ近くにいる。エンジン音が聞こえ
たのは後ろからだ。俺は後ろの方を見てみるとエルの足より後ろの方から赤いランプが付いている。恐らく車の
ブレーキランプが点灯しているのだろう。
「エル!後ろだ!後ろにいるぞ!」
「え?」
 エルが振り返ると赤いランプは消え、ジャジャジャと砂利を走る車の音が聞こえる。ライトを付けないでそのまま
暗闇に紛れて逃げる気だ。
「ど、どうしよう?」
「追いかけるしかないだろ!」
「う、うん」
 エルは膝を曲げ、前屈みになった反動でガクンと体が揺れる。車の音を頼りズシンズシンと木々を掻き分けて進む。
俺はその反動に振り払われないように必死にエルの耳にしがみ付くので必死だった。
 やがて、乱立している木々を突破すると何も無い道につくとライトも付けずに飛ばしているジープを見つけた。
「しゅーじ!アレかな?」
「・・・多分な」
「始末する?」
「いや、まず捕まえよう」
「わかった」
 こんな真夜中にオフロードをライトも付けずに走る車なんてアイツら以外考えられないが人違いの可能性もある
わけだから思い切った行動は取れない。それにしても、エルから始末するなんて言葉がでるとは思わなかった。
エル自身、この状況を楽しんでいるようにも見える。
 車もこちらの存在に気づいたのか逃げるようにスピードを上げていく。エルもやや小走り程度で追いかけるとあっ
という間に追いつき、車の目の前に足を下ろすと車は急ブレーキをして止まった所を俺に気を使ったのかゆっくり
しゃがみ込んで車を掴もうとすると今度は左右から人が車から人が降りていった。
「あっ!まって!」
 車を潰さないよう両膝を地面につけ逃げ出した男達を両手でテンポよく捕まえた。
「うわぁ!つかまった~」
「やめてくれ」
「殺さないでくれ~」
 どうやらアイツらで間違いはなさそうだ。
「ふっふっふ。覚悟はいいかな~?」
 エルは楽しそうに人形の様に捕まっているアイツらに言ったのだった。



 あの後の出来事は、アイツらが二度と悪さをできない様にエルが軽く脅かしてみせた。おっさんは最後に何を
思ったか自分の武勇伝を語り始めたからものだからそのまま手を離して地面に落としたら腰を強打し痛みで失神し
たのかもしれない。リーダーであるおっさんが最初にやられた訳で部下達もびくびく怯えだした所をエルが食べよ
うとしたり、「貴方は見逃してあげる」と言った矢先踏み潰そうとしたりやりたい放題だった。俺の方は気絶した
者順番づつ車から見つかった良い感じのロープで俺が縛る程度のことをした。
 後はエルに車を蹴らせて炎上させ、その周りに縛り上げた密猟者を置いた。最後に携帯電話で「山で車が燃えて
いる」と通報して警察に任せることにした。おっさんが結構悪いことしたというなら警察も黙って見逃さないであ
ろう。これにて一件落着ってところだ。

 そして、俺とエルは場所を変えて大きな湖の所にいる。湖の周りは木で囲まれている。ここは、エルが大きくな
る前からお気に入りの場所だった所らしい。
「綺麗なとこだな」
「うん。しゅーじにも見せてあげたくてさ」
 湖に映る満月もまた幻想的だ。湖に映るエルの顔はどこか寂しい表情だ。
「よくここで皆と遊んでいたのか?」
「うん。意外と人も来ないから絶好のポイントだったからね・・・」
「いい場所だったんだな」
 大きくなるまでは、ここで楽しく過ごしていたエルの姿を浮かべるとどこか切なさも覚える。
「これからどうしようかなー」
 エルは草をむしりながら言う。警察がここにきてあのおっさんたちを捕まえたら周りを捜査されそうだ。エルが
このまま隠れ続けるのも厳しいのかもしれない。
「ねぇ?しゅーじは・・・その・・・帰っちゃうの?」
「ん~そうだなー」
 このままエルを家にお持ち帰りする訳にもいかない。お持ち帰りしたらそれこそ事件だ。最善の方法を見つける
まではエルを一人にはできない。
「まっ、俺を信じてろって。何とかしてやるよ」
「ホント!?」
「あぁ、エルを一人ぼっちには絶対にさせないようになんとかしてやるよ」
「絶対だからねっ!嘘ついたら食べちゃうんだからね!」
「ちょっ。怖いこと言うなよ~」
「しゅーじを食べればはしゅーじは私の体内でずーっと生き続けることになるから一人ぼっちにはならないよ」
「なにそれこわい」
「ふふーん」
 エルは嬉しそうに俺を見た。俺はこの笑顔を守りたいと思う。二度とあんな寂しい思いをさせないでずっとずっと
エルを幸せにさせてやりたい。

 さーて、これからどうするかなー。食べられたくないしな!まぁ、今はこの幸せな時間がずーっと続くことを祈る
ことにしよう。